この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







76話

 

 

 

 ※

 

 

 アクアにカズマのいるという部屋に案内され、そこで目に付いた物に感動で震えてしまった。

 

 

「おいこれ、まさかこたつか⁉︎」

 

「ふふん、凄いでしょ、カズマが魔力で熱を出す石を中に入れて作ったのよ。温度調節も外に出たままで出来るから便利なのよね。

 あ、待ってて、今みかん持ってくるから」

 

「確かにこれに関してはカズマに感謝しなくてはいけませんね。お蔭で寒い冬も苦もなく過ごせました。

 ………ですが、それはそれとして外に出ましょうよカズマ‼︎もう皆働いてますよ、何かクエスト受けに行きましょう?」

 

「嫌だね。人がなぜ働くのか知ってるか?金を稼ぐ為だ。

 そして俺は既にゴロゴロしながらでも金を稼ぐ術を持っている。つまり俺が働かなければならないのはおかしい」

 

「おかしいのはカズマですよ!冒険者の本分を忘れたのですか!

 ほら、皆でクエストに行っている時が一番楽しかったでしょう?また皆で一緒に………」

 

 

 部屋の真ん中に鎮座しているこたつ。その中には日本の冬に大量発生するモンスターであるこたつむりと化したカズマが寝転びながらこちらをジト目で睨む姿があった。

 確かにこたつには感動したが、暖かくなるんだからいいかげん仕舞えよ。日本で言うもう三月だぞ。

 

 

「ああ?………なんだゼロかよ、角度で見えなかった。なんか用か?」

 

「聞いたぞ、バニルと商売始めるんだってな?まだ商品については詳しく聞いてねえけど」

 

「おう。このこたつも商品の一つなんだよ。

 もうシーズンは過ぎたけど、来年からはバカ売れするんじゃねえかな」

 

「へえ?それ良いな。今のうちにチェックしておこう。

 今年は結構寒波キツかったからなぁ、来年が楽しみ……あれ?魔力で動くってことは俺って使えるのか、それ」

 

「何を呑気に世間話しているのですか!私の依頼はこの男を外に連れ出すことですよ、早くしたらどうですか!」

 

 

 俺がいつまで経っても動こうとしないので痺れを切らしたのか、めぐみんがグイグイとカズマの方向へ俺の背中を押してきた。

 しかし俺は任せとけ、とは言ったが具体的に依頼を受けるとは言っていないのだ、強制される謂れが無い。

 それに結構な事じゃないか。赤貧生活してた時期のあるカズマからしてみたら今が絶頂ってとこだろ、しばらく大目に見といてやれよ。お前だって富む事自体が悪いとは思ってないだろうに。

 

 

「大体、俺にどうしろってんだ。人の心ってのは他人がこうと決めてもそっちには簡単には行かないように出来てんだぞ。

 引き摺り出すってのは物理的な話で良いのか?デッドオアアライブ?」

 

「デッドオアアライブ⁉︎お、おい、俺たち友達だよな?

 え、何、めぐみんとそんな話になってんの?」

 

「どうしてそう極端なのですかあなたは!もっと平和的に解決したり出来ないのですか、この脳筋!

 ち、違いますよカズマ、私はあくまでカズマに元に戻って欲しくて………」

 

「勝手なことばっか言いやがるなおい、条件言わねえお前も悪いんだろが。

 …………良いよ、脳筋じゃねえってとこ見せてやる。めぐみん、先に報酬よこせ」

 

 

 めぐみんの挑発に乗った形にはなるが、ちょうど良い。ここらで俺がキレる男だってのを思い知らせてやろう。

 

 俺が動くと分かっためぐみんがゴソゴソと取り出して俺の手に乗せてきたのは大きめのマナタイト。

 俺には全く無用の長物……というわけでも無いのだが、今の所は売るくらいしか無いなぁ。

 まあこれだけ大きければそれなりの値段にはなるから報酬としては充分ではある……ん?

 

 

「………めぐみん、お前これ誰から貰った?ゆんゆんがお前の誕生日にって用意してたヤツじゃね?」

 

「は?何を言ってるのですか、それは私があの子との真剣勝負で正々堂々と勝ち取った物です。

 誕生日だの何だのは全く関係ありません」

 

 

 そういやそんな事言ってたな、照れ隠しがどうたらこうたらと。つまりめぐみんの中ではこれは戦利品でしかないって事か。

 それならこの転売みたいな流れも仕方がないが、何となく遣る瀬ない気持ちになるのは余計なお世話なのだろうか。

 

 

「それでカズマ」

 

「なっ、何だよ。やるのか?いいい、言っとくが俺には『ドレインタッチ』があるし、お前には見せてない奥の手だってあるぞ!

 どうしてもやるってんならアレだ、そのマナタイト売った値段の倍払うから見逃してもらおうか!」

 

「この男最低です!久しぶりに良いところを見せてくれると思ったらこれですよ!

 ゼロ、惑わされないでください!少しなら暴力に頼っても」

 

「俺が脳筋じゃ無いとこ見せるっつってんだろが!

 お前らが普段俺をどういう目で見てんのかよっく分かったよ、ガッカリだ本当!」

 

「「えっ、暴力じゃないの?」」

 

 

 俺こいつらにそんなに短絡的なとこ見せたっけか。基本感情のままに動く俺でもそう簡単に手は出してないつもりなんだが。

 俺が人間相手にこの右腕の真っ赤な炎を振るう時には何か理由があるのだと覚えておくが良い。

 

 一つ、相手が先に手を出して来て、尚且つそれが俺にとって痛手になった時。

 二つ、相手が常識の範疇を超えるクソ野郎だった時。

 三つ、クリスに対して何らかの危害、または嫌がる行為をした時。

 

 これともう一つの条件に当てはまりさえしなければ問答無用で暴力を振るったりはしないから安心しろ。

 

 …………そういえばカズマ君。キミ、人と話す時に寝転びながらってのはどうなんだろうと俺は思うんだけどね。それは常識から外れてるよね?主にクソ野郎方面に。

 

 

「あ、なんか唐突に右腕が疼き始めた。これは誰かを殴らないと治らないかもしれん。……チラリ」

 

「こいつ遠回しに脅して来やがるぞ⁉︎わかったよ、起きれば良いんだろうが!」

 

 

 カズマがガバッと起き上がり姿勢を正す。

 

 それで良いのだ。これでやっと本題に入れるな。

 

 

「カズマ、賭けをしないか?前にもやったじゃないか、あの時みたいに何か条件付きでさ」

 

「やだね。お前すーぐ不正するから受けたら俺負けるもん…………と、言いたいところだが良いぞ。

 ずっと家の中にいてもここにはゲームとか無いし、結構暇してたんだ。

 その代わり!俺が今度は何で勝負するか決めるからな!お前に任せると碌な事にならねえし」

 

 

 おお、正直渋られるだろうからと説得の言葉を考えてたんだが意外や意外、結構ノリノリで受けてくれた。イイゾイイゾ!

 

 こいつがどんな種目で仕掛けてくるかは分からないが、めぐみんの依頼を達成するだけならゲームの結果いかんに関わらず、最悪力ずくでもいいしな。

 こいつらには言っていない四つめの条件、相手への対処が依頼に含まれている場合は他三つの限りではない。

 今回はこれを適用させていただきますとも。

 あくまで勝負は平和的に解決する手段ではあるが、傭兵たるもの手段を選ばず、一度受けた依頼は最後まで、だ。報酬も先に貰ってるしね。

 

 用意すると言ったカズマは何を思ったのかこたつの中に潜り込んでゴソゴソとやり始めた。

 まさか勝負するってのは嘘でそこで籠城するってんじゃねえだろうな。そうなると俺にも考えがあるのだが。

 

 

「違っげえよ!俺の故郷で大人気だった戦術ゲーがあってな、前々からアクアに作らせといたのをいつか誰かとやろうとここに保管しておいたんだよ。

 さっき言った通り、この世界って娯楽が少ないだろ?流行れば良いなーってな。

 ほら、めぐみんが得意なあのボードゲームがあるだろ?あの、アークウィザードとかクルセイダーとかの駒がある、あれと似たようなもんだ」

 

「ああ、あの負けそうになった奴が『エクスプロージョン』で盤面ひっくり返すまでがセットのクソゲーか。王都にいた時にアイリスとやったわ」

 

「そうそう、あの『エクスプロージョン』のクソゲーな」

 

「『エクスプロージョン』はクソ」

 

「おい、まるで『エクスプロージョン』が悪いみたいな言い方をするのは止めてもらおうか!

 何だったら今ここでこの屋敷をひっくり返しても良いんですよ!」

 

「「街中での中級以上の魔法を使用するのはご遠慮くださーい」」

 

 

 俺達がそんなやりとりをしているうちにカズマが取り出したのは、黒い線で縦に九マス、横に九マス、合計八十一マスの区切りが設けられた盤と、木箱の中に入れられた、双方二十個ずつある五角形の駒。表面には何かの文字が彫られている。

 これだけ聞くとまるで将棋だな。実際俺の目には将棋にしか見えないけど。

 

 

「さあ、これが俺の故郷の戦術ゲーム、ジャパニーズチェスこと『将棋』だ!

 今回はお前らの知らないであろうこいつで勝負するって言うなら受けてやるぜ!」

 

 

 まるで将棋って言うかまさに将棋だった。

 

 つーかこの将棋盤、よく見なくても芸が細かいな。

 駒の漢字も盤の造りも、その道何十年のプロが設えたかのようだ。流石アクアさんやでぇ。

 

 

 

 

 

 


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