この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。






8話

 

 

 ※

 

 

 シルビアは焦っていた。毎日、毎週のように攻めては追い返される。その度に今日こそは!と奮起するも数時間後には完全に鎮火している。

 熱しやすく、冷めやすいとはなんと厄介な性格か。

 

 

 

「シルビア様!里に向かう道に誰か立っています!」

 

 

 

 また紅魔族か⁉︎

 と思ったがどうやら違う。

 紅魔族は髪は黒。そして眼は赤色なのに対し、()の配色は逆だった。

 

 燃えるような赤い髪。その中にあって静かにこちらを見据える黒い眼。目つき自体は悪いが、その中心には優しげな光。

 

 

(あら、中々…)

 

 

 シルビアの好みだった。

 その彼が口を開く。

 

 

 

「どうも、今晩は。ゼロと申します。えぇ、この中にシルビアって人がいると思うんですけど、出て来てもらえますかね〜?」

 

 

 

 どうも自分をご指名らしい。初めての経験に不覚にも少し緊張しながら名乗り出る。礼儀正しいところもプラスだ。

 

 

 

「あたしがシルビアよ。そのゼロさんがどんな用事?」

 

 

 

「ああ、あなたが魔王軍幹部のシルビアさんでしたか。お美しい女性………男性の方ですね。はじめまして。」

 

 

 

 なんと、初対面で正体を見破られるとは思わなかった。あの人の悪感情を食べる悪魔以来ではないだろうか。

 しかもそれを知って態度が少しも変わらない。もしかしたら、この少年なら自分を受け入れてくれるのかも…

 淡い期待を抱きながら続く言葉を待つ。

 

 

 

「あ、それではシルビアさん以外の方はお帰り頂いて結構です。お疲れ様でした。」

 

 

 

 と、その言葉にシルビアの部下が剣呑な雰囲気を醸し出す。

 

 

「ニイちゃんよぉ、こっちは一応仕事で来てるもんでね、帰れと言われてハイそうですかとはいかねぇんだなぁこれが」

 

 

 部下の中で一番立場が上の悪魔がゼロに詰め寄る。

 

 

 

「いえ、帰れとは言ってませんよ。そうしても良いですよ、というだけで別に居て頂いて結構です。」

 

 

 

 何を言いたいのかわからない。そういえば、普段ならもうとっくに紅魔の連中が魔法を雨霰と撃ってきている頃だ。だが、ここにはゼロしかいない。

 

 

(なぜ…連中は1人も出てこない?)

 

 

 

 まさか逃げたわけではないだろう。現に灯りはついている。

 そして、家の陰からこちらを見ている無数の目に気付く。

 なにかヤバい。なぜ迎撃してこない?

 その疑問に答える声は無く。代わりにあっさりと聞こえてきたのは。

 

 

 

「それでは誰も帰らないようなのでみなさんを敵対者と見做します。…………首を出せ。」

 

 

 

 死刑宣告だった。

 

 

 

 ズパァン‼︎と何かが破裂したような音がした。

 

 

 

 何が⁉︎と身構えるシルビアの目の前に、ドチャリ、と落ちてきたものは。

 ゼロに近づいていた、一番信頼できるはずの。

 

 

 部下の、頭だった。

 

 

 

 ※

 

 

 せっかく人が忠告してやったのに聞かないんだもん。しょうがねぇなぁ。

 

 身近にいた奴の首を切りとばす。

 それを皮切りに次々と魔王軍が飛び掛かってくる。

 全部で200は居ないな。冷静に戦力を分析しながら頭の中で『スイッチ』を切り替える。

 まるで流れる水のように腕を掻い潜り、剣を避け、身を躱す。

 

 手が出せない。

 

 

(なんだこりゃ。これが魔王軍?)

 

 

 余りに隙だらけで。

 

 

 

 連携もクソも無い。ただそれぞれが動くだけ。これならオークのほうが数十倍手強かった。

 奴らは俺の貞操を狙ってそれはもうえげつないコンボを決めてきたものである。しかも個の強さでも劣るのでは無いだろうか。ぬるい。ぬるすぎる。

 こんなものか?人類の敵対者、魔王軍というのは。しかも幹部が率いてこれ?おいおい、あまり失望させるなよ。

 

 デュランダルを一息で抜き、なぞるように周りの雑魚を斬った。

 それだけで他の奴らはたじろいで動きを止める。

 

 ここら辺も豚共との差だな。奴らは決して止まらない。他人が傷つこうが関係無い。自分が傷ついても関係無い。ただ一つの目的(レイプ)に向かって命を投げ捨てていた。

 

 …うっ…吐き気が…嫌なことを思い出させやがって。

 動きを止めずに剣を振るう。いつの間にか半数がてるてる坊主に成っていた。

 

 

「なんだ…なんなんだてめえ‼︎」

 

 

 シルビアが野太い声で叫びながら腕を蛸のように変化させ、こちらへ伸ばしてくる。

 おっと、それが本性かい。心が女に寄ってるなら良心の呵責も感じたかもしれんが…そっちなら話が早い。

 

 横へ一歩ズレてその腕を斬る。

 

 

「グア⁉︎」

 

 

 痛覚はあるのか。そいつは御愁傷様。

 そのまま怯むシルビアを叩き斬ろうと歩み寄る。

 その道中に雑魚共が殺到する。

 

 

「シルビア様!逃げてください!」

 

 

「この化け物は俺たちが!早く!」

 

 

 その言葉にシルビアは一瞬迷ったようだが、脚を変形させてかなりのスピードで逃亡する。

 なんだあれ、どうなってんだ。さっきは蛸で、今度は…走り鷹鳶(・・・・)…か…?

 

 それにしても化け物とは随分な言い草である。

 外見だけならお前らの方がよっぽどだ。

 

 

「そんなに命を奪って…なんとも思わないのかてめえ‼︎」

 

 

 いや、お前らが言うの?

 それ他ならぬお前らが言っちゃダメでしょ。

 

 

「別に。何も。」

 

 

 俺だって同族を殺そうとは思わないさ。

 だが、俺がこっち(・・・)側に産まれたからには滅ぼそうとする奴に容赦するわけにもいくまいよ。

 

 

「化け物が…。だが残念だったな。ここで足止めさせてもらうぜ。シルビア様は追わせない!」

 

 

 

 中々熱い台詞ごちそうさま。でもやっぱりバカだなお前ら。

 

 

「たった一枚の紙の壁で剣を防げるわけ無いだろう。」

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 

 シルビアは平原をひたすら逃げる。

 自分を逃がしてくれた奴らに報いるために。

 新しく現れた脅威を魔王様に知らせるために。

 

 シルビアはキメラだ。なんでも取り込み、その力をそのまま自分の物にできる。今発動しているのは取り込んだものの中で一番早い走り鷹鳶の脚だ。人間では追いつけない速度を以って全力で逃げていた。

 

 

(明日の朝には魔王城に着く。そうしたら部隊を再編成して…っ⁉︎)

 

 

 

 唐突に、転ぶ。

 勢いのままにしばらく転がり、止まった。全身が痛むが問題無い。

 

 

(何も無いところで転ぶなんてあたしもヤキが回ったもんだね…)

 

 

 脚が縺れたのか。苦笑しながら確認しようとして、気付く。

 

 

 脚が、無い。

 

 

 遅れてやってきた凄まじい痛みに絶叫する。

 なぜ、どうして、そんな疑問も押し流される。

 

 

 そしてーーー

 

 

「ああ、やっと追いついた。」

 

 

 赤い死神が、来た。

 

 

 

 ※

 

 

 中々速かったな。

 割と時間かかっちまった。

 

 目の前で足の付け根を押さえて苦しげにするシルビアが、

 

 

「あ、あいつらは…?」

 

 

 

 そんな分かりきったことを聞く。

 俺がここにいるんだから、それが答えだろ。

 

 シルビアの脚がまた変形を始める。この後に及んでまだ逃げるのか。今度はまた違う種類だ。

 

 

(同じ物には連続して変形できないのか?それともストックがあってそれが尽きたのか?)

 

 

 

 思考する間に脚が形成を終える。

 それが大地を蹴ろうと力を入れたところでまた斬撃を飛ばす。

 

 

 再び響く絶叫。

 

 

 うるさいうるさい。もうちょい静かにできないのかね。

 無様に叫びながらオークから逃げ回っていた男が自分を棚上げして言う。俺である。

 

 やっと覚悟が決まったのか、こちらを睨み付けるシルビア。その上半身が爆発的に膨れ上がったかと思えば、凄まじい勢いでこちらに飛んでくるありとあらゆる生物の腕、脚、爪、牙。

 おおよそ、生物が攻撃に使う全てが俺に向けられる。

 

 

 

(うえ…)

 

 

 

 俺は悪夢の3日間を思い出して心底萎えていた。

 大きくバックステップして、距離をとる。

 

 そして目の前で立ち上がる巨大な冒涜的な何か。

 再びSANチェックの時間の到来である。

 俺が出逢ったフレイムドラゴンよりも大きいかもしれない。

 

 

 

 触手のように伸びたモノが連続して俺を貫こうとする。その数はおよそ数百は下らない。

 その数を一体で統率するのだから先ほどの有象無象とは比べるべくも無い。ギリギリで避ける。躱しきれずに幾筋か頰や腕に赤い線が引かれる。

 

 ああ、これなら退屈せずに済みそうだ。

 

 自分の口が獰猛に歪んだことを自覚しながら、伸びた触手を片っ端から切り落とす。

 

オークの群れにも匹敵する凄まじい密度の猛攻をいなし、防ぎ、時に甘んじて受ける。

 

 

 

 その死闘が終わったのはそれから数時間後だった。

 

 

 ※

 

 

「いやあ、あんた凄いな!」

 

 

「そいつはどうも」

 

 

 シルビアの討伐を終えて紅魔の里に帰って来た俺は早速むんむんにマントを作ってもらっていた。

 とはいえ、物が物なので1週間はかかるらしい。その間俺はむんむんの家に泊めてもらう事になった。

 

 

 

「まさか本当に剣一本で奴らを皆殺しにしちまうなんてなぁ!あ、よければ冒険者カードとか見せてもらってもいいかい?」

 

 

「…………」

 

 

 さっきからずっとこの調子だ。

 悪い人ではないのだが、しゃべりっぱなしというのはどうにもウマが合わない。

 日中は外に出ていた方がいいか…

 

 

「すみません、少し散歩してきます。」

 

 

 

「おう!行ってらっしゃい!」

 

 

 

 行ってらっしゃい、か…

 少しだけアルマの村に残してきたお袋を思い出す。

 元気にやっているだろうか。

 屋外に設置されていたベンチに座って日光浴をしていると、

 

 

 

「あなたがむんむんの家に居候している余所者ですか。」

 

 

 

 うん?

 意識を向けると、12歳くらいの少女と、5歳くらいの幼女がそこにいた。

 

 

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の天才にして、爆裂魔法を愛する者!」

 

 

 

「我が名はこめっこ!家の留守を預かる者にして、紅魔族随一の魔性の妹!」

 

 

 

 ……マジでそれ外の人皆に言ってんの?キッツくね?

 

 

 

 


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