この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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78話

 

 

 

 ※

 

 

「一体これは何の騒ぎだ?」

 

「ああダクネス、お帰りなさい。チケットは買えましたか?」

 

「ただいま。ああ、ちゃんと六人分確保できたぞ。

 期限は明日だから、今日は旅支度で潰れそうだな」

 

 

 俺が悔しさのあまりカズマに再戦を挑んでいると、帰宅したダクネスとめぐみんがそのような会話をする。

 どういう事かカズマに聞くも、カズマも心当たりが無いようだ。

 分からないなら本人達に聞くべし。

 

 

「なんでえお前ら、どっか旅行でも行くのか?」

 

「ん?なんだゼロ、めぐみんから聞いていないのか?カズマも」

 

 

 聞いてるも何も。何?俺達に関係ある話なの?

 

 無言で俺とカズマがめぐみんに視線を移すと何かのチケットを押し付けられた。これは一体なんじゃらほい。

 

 

「水と温泉の街、アルカンレティア行きの馬車のチケットです。ほら、カズマの分です」

 

「…………水と温泉の街?温泉か」

 

「カズマ、温泉に行きましょう。冬の間閉じこもってばかりいたから身体の調子が出ないんですよ。

 温泉に入ってゆっくりすればきっと冒険者としての心構えを取り戻せるはずです」

 

「いやそれは万が一にもあり得んけど。……でも温泉旅行はいいかもな」

 

 

 なんと、俺があれだけお膳立てしても駄目だったのに一発でカズマを外に出る気にさせてしまった。

 じゃあ俺要らんかったやないかい。今日の俺のした事って不要なマナタイト押し付けられて友達の家にゲームしに来ただけだぞ。

 まぁそれだけなら休日と考えれば無問題だが、意味不明な点が一つ。

 

 

「ちょっと待て、カズマはまだしも何で俺にまで渡すんだよ。俺はお前らのパーティーじゃねえぞ」

 

「せっかくですし、クリスも誘ってみんなで一緒に行きましょうよ。

 ゼロは他の冒険者が活動していない冬もずっとクエストをこなしていたでしょう?たまには身体を休めないと、いつか倒れてしまいますよ」

 

 

 ダクネスがチケット六人分と言っていたが、そのうちの二枚は俺とクリスの分だったらしい。

 倒れるだのといった心配は正直俺には的外れだが、こいつはこいつなりに俺を見ていてくれたようだ。

 

 ふん?そうだな、そろそろ冒険者だって本格的に動き始める。

 なるべくエリスの仕事が増えないように、危険なクエストだけギルドには止めておいてもらえば一週間くらいは空けても大丈夫かもな。

 それに、せっかく妹が俺を心配して用意してくれた物だし。無駄になんかしたら罰が当たりそうだ。

 

 というか、だ。

 

 

「めぐみん、お前まさかこの為に俺をここに呼んだんじゃねえだろうな」

 

「何のことですか?私はただカズマを外に連れ出したかっただけですよ。

 あなたがここまで不甲斐ないとは思いませんでしたが」

 

 

 こんな物が用意してあるなら俺など来なくてもカズマならイチコロだっただろう。温泉とかいう男のロマンにカズマが食いつかないはずも無い。

 それなのにわざわざギルドまで俺を呼びに来るってのはどうにも不自然に過ぎる。もしかしたら俺をここに来させたのは単にチケットを渡す為であって、俺が勝とうが負けようがこいつには関係なかったのかもしれない。

 

 

「いやはや、紅魔族ってのは恐っそろしいなオイ。将来どんな悪女になる事やら分かったもんじゃねえや」

 

「ひ、人聞きの悪い事を言わないで下さい!」

 

 

 こいつと結婚する奴は相当苦労しそうだ。気付かない内に術中に嵌められてやきもきさせられるとか俺ならご勘弁願いたい。

 その点クリスは思ってる事がすぐ表情筋に反映されるし、むしろこっちがからかう側に回れる。やっぱりクリスは最高なんやなって。

 

 

 

 ※

 

 

「という訳でお前がダクネスの所へ逃げようとも結果は同じだから諦めるよろし。

 大人しく俺達と温泉行こうや、なあ、ええやろ?」

 

「親父臭いよキミ⁉︎っと、あー………、ごめんあたしそれパス」

 

「ファッ⁉︎」

 

 

 マジかよ。別にそんなに忙しそうにしてなかったってのにフラれてしまった。

 そんなに俺、もしくはあいつらと一緒にいるのが嫌らしい。そうかそうか、つまり君はそういう奴だったんだな。ダクネスにもそう言っときますね。

 

 

「いやいやいやちょっと待ちなよ、そうは言ってないじゃん。あたしだって本当なら行きたいんだってば」

 

「………?行きたいんなら行こうぜ。何をそんなに渋ってんのさ」

 

「いやほら、春になって他の冒険者も動き始めるじゃん?

 そうなるとあたしの本業も忙しくなるし、さすがにそろそろ戻らなきゃダメかなって」

 

「お前の本業は俺の嫁じゃん。何言ってんの?ここがお前の職場だよ、ずっとここにいなさい」

 

「何言ってんのはキミの方だよ!仮にその通りだとしてもあたしずっとここにいるとか嫌だかんね!」

 

 

 見ろよこのデレっぷり。否定もせずに仮にその通りだとしてもとか言ったぜ。これは挙式までのカウントダウンはもう始まってると見ても良さげじゃね?

 どこで挙げる?どんなプランが良い?AコースBコースCコースの三種類からお選び頂けますが。

 

 

「…………キミほんとに前向きっていうか、ポジティブだよね。良い意味でも悪い意味でも」

 

「お褒めの言葉あざーっす」

 

「別に褒めては………いや、いるのか……?

 と、とにかく!あたしにも女神として死者を導くという大事な使命があるワケよ!

 だから残念だけど今回の話は無かったことに………」

 

「まあ待ちたまえよお嬢さん、確かに仕事ってのは大事さ。だが大事な事ってのはそれ一つではないのだよ。

 仕事熱心な君にお兄さんが真理を教えてあげよう」

 

「お兄さん⁉︎キ、キミね、あたしは女神だってーーー」

 

 

 おや、こいつは確か自分の年齢は十五歳と言っていたはずだがそれはサバを読んでいたのだろうか。だとしたら本当の歳を教えてもらいたいものだ。

 十五歳であったなら十七歳である俺の方がお兄さんということになる。

 しかしそれが間違いなら失礼なのもその通り。さて、クリスの本当の年齢はいかほどか。

 

 

「汚ったねえ‼︎キミその言い方は汚いよ‼︎

 分かったよ、もうキミがお兄さんで良いからさっさと言いたい事言えば⁉︎」

 

 

 チッ、この流れなら聞けると思ったんだがな。

 それにしても最近こいつの言葉遣いが乱暴になってきた気がするのは俺の気のせいかな。もしかして俺の影響とか多少あったりするのだろうか………いやいや、それよりも今はこいつの説得が先だな。

 

 

「クリス、お前は死者を導くのが楽しかったりするか?」

 

「………急に何?」

 

 

 訝しむというよりも剣呑な視線を向けてくるクリス。

 あれ、俺地雷踏んだ?

 

 

「………はぁ。楽しいわけがないでしょう。人が亡くなった時の取り乱しようを見るのがどれだけ辛いか分かりますか?

 何かしてあげたくとも私にできるのは精々が来世で幸せになれるように祈ることくらいです。それしか出来ません。

 アクア先輩は気にするだけ無駄、と割り切っていましたが私にはとても………。

 もし叶うならこの仕事は誰か他の女神に代わってもらいたいくらいですよ」

 

 

 俺が少し焦っていると肩の力を抜くようにため息をついて、意識してか無意識か、口調をエリスの時の物に変えて呟く。

 後半は俺に向けてというよりも独りごちるような声だった。

 

 ………やっべ、どうしようか。軽いノリで誘おうとしてたら中々にヘビィなのが来てしまったぞ。

 シリアスとコミカルの温度差どうにかなんない?引いたことない風邪引きそうなんだけど。

 

 正直な所、俺は大多数の人間がおそらくそうであるように、見も知らぬ他人の生き死ににはあまり興味がない。

 もちろん人の役に立ちたいと言ったのは本当だし、手が届く所にいる人間の命くらいは助けたいとも思う。

 だが他の国、他の街、このアクセルでも俺の目の届かない場所でモンスターに襲われた人間などは俺がいくら努力しようとどうしようもないのだ。助けられない。

 そんなものに一々落ち込んでいたらそれこそそこから動けなくなってしまう。

 だからそれに関してはアクアの言うことが最も正しい………はずなのだが、心優しいこいつはどうもそういう考え方が出来ないらしい。

 本来女神ってのはその辺りを超越した所から人間を見下ろしている存在じゃないのだろうか。

 言い方は悪いがエリスは女神に向いていないのかもしれないな。ま、俺にとってはむしろプラスポイントなんだけどね。

 

 

「エリス、お前のそんな優しいとこも好きだけどな、だからこそ休める時には休むべきだ」

 

「…………だからこそ?」

 

「そうだとも。この世には死者ってのはごまんといる。その一人一人にそんなに心を痛ませてたらお前自身が磨り減って、いつか消えちまうかもしんねえぞ?俺はそんなのは嫌だね」

 

「それと温泉が関係あるんですか?」

 

「あるよ。人間も同じさ、いっつも張り詰めてたらその内糸が切れちまわあ。

 だからそうならないように息抜き、ガス抜きをするんだ。屋敷に引きこもってゲームしたり、ダラけたり、気分転換に遊びで身体を動かしたり………、仲の良い奴らと温泉に行ったりな。

 女神だってそんな時間作っても良いんじゃねえの?

 幸いにもまだ冒険者は活動し始めたばっかだ。無茶する奴もそんなにはいないだろうし、それに俺だってアクセル周りならお前の仕事を減らすのを手伝ったりもしてやれる。

 だからこの一回、少しの間ぐらいは有給取って、仕事の事なんか忘れて俺達と温泉行こうぜ。

 楽しくないことをする前に楽しいことをすればちったあ気も紛れるだろ」

 

「…………それ、結局何の解決にもなってませんよね?」

 

 

 口を尖らせて拗ねたような表情になるクリス。少し雰囲気が柔らかくなったな。

 

 そして当たり前だろそんなの。人間は必ず死ぬから人間なんだ。

 俺だって死ぬときゃ死ぬ。それとも人間全員死なないようにするか?そうしたらお前の悩み自体は解決するだろうよ。そこに残ったのが本当に人間かどうかは置いといてな。

 

 

「おおう……想像してちょっと怖くなっちまったじゃねえか。全人類アンデッド化とかまじバイオハザード」

 

「………ふふ、何ですかそれ。……そうですね。アンデッド化なんてゴミみたいな発想はともかくとして、うん、分かった。あたしも行くよ。

 まああたし最近は女神の仕事もしてなかったし、そういう意味じゃ休みっぱなしとも言えるけどね」

 

 

 キッツ。ゴミみたいな発想とか言われたんだけど。

 前々から思ってたけどなんでこいつってば悪魔やらアンデッドにこんなに厳しいの?バニルやベルディアみたいに話が通じる奴だっているんだけどなあ。

 

 

「と、とにかく説得成功だな。

 大体さ、お前そんなに人の死に傷つくんなら俺が死にかけた時にそれをネタにすんの止めろや。俺は大丈夫だけど見る人が見たら不謹慎に映るからな?」

 

「じゃあ大丈夫じゃない。あんな事キミにしか言えないよ。

 そもそもあそこから地上に戻れる人なんて数えるほどもいないしね」

 

 

 お、最初のセリフは特別感あってグッと来たな。良いぞもっと言ってくれ。

 

 

「あんな事キミ以外には言わないよ」

 

「ヒャッハァ‼︎もう許せるぞオイ‼︎」

 

「ほーら、バカやってないで。出発は明日なんでしょ?早く準備しないと」

 

「かしこまりぃ!」

 

 

 ……でも準備って言ったってなぁ。

 

 とりあえずデュランダルは護身用に持って行くとしても、爆発関係のポーションはまずいらないだろう………いや、やっぱりいくつか持って行くか。

 ジャティスからの報酬で貰ったスクロールなんかは絶対いらないから置いていって………。

 

 元々私物が少ない俺が手早く荷物の取捨選択をしていると、クリスの方から聞かせるつもりが無いような小さな声が聞こえてきた。

 

 

「………………ゼロ君、ありがとね」

 

「どういたしまして。まだ気持ちが斜め下向いてるなら抱き締めてあげようか?」

 

「今の聞こえたのかよぉ⁉︎そ、それは本当に凹んだ時に取っておくから今は良い‼︎」

 

 

 顔を真っ赤にして荷物漁りに戻ってしまった。

 

 しかし今の聞いた?もうこれ完全陥落間近だろ。毎日毎日諦めずにアタックし続けるもんだね。

 これが太古から伝わる、『別に好きじゃない相手でも好き好き言われ続けるといつの間にか気になってくる法則』だ。

 いやまあこの手法ってまずセクハラで訴えられない事が前提の博打に近い物なんだけどな。皆はしない方が良いと思うよ。

 

 何はともあれ、これでクリスと温泉旅行確定だ。いやあ楽しみだなあ。

 いつもと違う土地、違う場所の下、距離が縮まり気分が盛り上がった二人は遂には一線を………。

 

 

「それは、ない」

 

 

 

 あ、そう…………(落胆)

 

 

 

 

 


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