再投稿。
※
翌日。
俺とクリスが着替え等の手荷物を持ってカズマ達と合流すべく宿を出ると、何故かバニルがそこに立っていた。
「あれ?バニルさんどうしたの……あ、そういえば言うの忘れてた。
あたし達これから旅行に行っちゃうからしばらくお店に遊びには行けないよ。お土産はちゃんと買ってくるからウィズさんにも伝えておいてくれる?」
「フハハハハ!お気遣いなく!そなた達が旅行に行くのは分かっておる。我輩が用があるのは小僧、貴様だ」
「ええ?今からカズマ達と合流しなきゃなんだが。大事な話なのか?帰ってきてからじゃ………」
「まあ我輩にとってはどうでもいい事ではあるな。貴様にとってはどうか知らんが」
うわっ、こいつ判断に困る事言いやがるな。
けどこいつがわざわざ俺のとこまで来て言うことがどうでもいいってことは無い……いや結構そういう所あるなこいつ。
まあ時間に余裕もあるし、聞いて損のある話って訳でも無さそうだし良いか。
「クリス悪い、先に行っててくれ。何なら置いていっても大丈夫だ。馬車程度なら走って後から追い付ける」
「それが冗談でも何でも無いってのがキミの怖いトコだよね。でも分かった、なるべく早くしてね?」
「すまんな、お嬢さん。暫し此奴を借りるぞ」
バニルと俺に手を振るクリスの姿が見えなくなると早速バニルが本題に入る。
「貴様にテストしてもらうと言った商品であるがな、まだ試作品が完成せんのだ。
そこでアクセル一律儀と有名であるこの我輩が待たせてしまう詫びとバイト代を兼ねた、此度の貴様の小旅行に役立つこと間違いなしの素敵なプレゼントを持参した。
泣いて喜んで我輩を崇め奉るが良いぞ小僧!フハハハハ………」
「ピギャアアアアァアアアアアアア‼︎バニル様素っ敵ぃいいいいいいい‼︎抱いてええええええええっ‼︎
……これでよろしいか?」
「……自分で言っておいてなんだとは思うが、今度我輩の前でそれをしたら友人の縁を切らせてもらおう」
本当に自分で言っといてなんだな。
しかし、昨日の俺との会話内容と随分差異があるように思うのだが。
俺は確か今度店に行く時に用意しておけ、的な事を言ったはずだ。だと言うのに店に行くどころか向こうから来て勝手に詫びをくれると言う。
くれる物なら貰おうじゃないか。詫び石は良い文化。破壊しない。
「で?何をくれるってんだよ」
「うむ、これを進呈しよう」
バニルが取り出したのは一本の巻物のような物体、というかどう見てもマジックスクロールだ。
マジックスクロールはかなり高額なはずだが、それほどにバイト代を弾んでくれるのだろうか。
「何、このスクロールに元手はほとんどかかっておらん。
何せ空のスクロールを用意し、嫌がるへっぽこ店主に無理矢理魔法を詰め込ませた自家製故な。
しかし自家製と侮るなかれ、それはかの『氷の魔女』の最も得意とする上級魔法が詰められた、市場に出せば目玉が飛び出る額が付くであろう至高のスクロールなのだ。
……ふむ?その手があったか。よし小僧、貴様への詫びは後日改めてくれてやるからそれは我輩に返却して………」
「すまんな、こやつはもう貴様の所へは帰りたくないと勝手に我輩の懐へ逃げ込んでしまった!
これが普段の行いの差というやつよ、フハハハハハ‼︎」
「『バニル式殺人光線』‼︎」
「危っぶな⁉︎」
バニルの目からビームをすんでの所で躱す。そのうち口からバズーカとか言い出したらどうしよう、とかちょっと期待したり。
しかしこいつの真似をして返品を拒んだらとんでもねえモン撃って来やがったな。
お前人間に危害は加えねえとかいう主義どこに捨てて来たんだよ。今の当たったら絶対ヤバいやつだろ、殺人とか言ってるし。
「イテテテ、しゃがんだ拍子に膝を擦りむいちゃったよ、これは慰謝料と治療費をさらに上乗せしてもらわなきゃならないなあ。……なあ?」
「チンピラか貴様は!傷などどこにも無いであろうが!そもそも当たった所で貴様であれば死にはせんわ‼︎」
「……つーか何でお前俺らが旅行行くって知ってたんだよ。例の見通す力ってのでも俺の未来までは見通せないんだろ?しかもこのスクロールが役立つってドユコトデスカー?」
『氷の魔女』の異名は俺とて知っている、凄腕アークウィザードとして有名だからな。ウィズがそれって知ったのはつい最近だが。
そして『氷の魔女』が最も得意とした上級魔法といえばアレしか無いだろう。
だがアレは戦闘以外で使う事がまずない、強力な魔法だ。これから行くアルカンレティアで何らかの戦闘行為………しかも俺がこのスクロールを使わざるを得ない状況になるなど考えられないし、考えたくもないのだが。
「確かに貴様の未来などは忌々しくも靄がかかっておって見えんが、あの小僧二号なら特に苦もなく見通せる。
先日二号の屋敷を訪問した際についでに、と視たところ貴様が四苦八苦しておる姿が見えてな。
我輩、不覚にも胸がすく思いであったわ!フハーッハハハハハ!」
「……………えーと?つまりカズマの未来を視た時に一緒に何かに苦戦してる俺が映ったってことか」
「そう言っているであろう。飲み込みの悪いヤツめ」
お前胸がすくとか言ってるけど、このスクロールってそれを回避させる為にわざわざウィズに作らせたんだろ?ツンデレかよ。
俺こいつほど友達甲斐のある奴と会ったことねえわ。ありがとさん、今度何か奢ってやろうか。
「む。……ふん、まあ我輩は一度友人と認めた者にはそれなりには親切にすることにしている。
それに貴様は魔道具店のお得意様、ひいては我輩の野望を叶える為の大切な養分である。こんなところで早々と死なれてしまっては困る故な」
「え、ごめん聞き間違いだろうけど確認するね。
………俺死ぬの?死にかけるとかじゃなくて?」
「少なくとも我輩が最後に視たあの状態で生きているとは考え難いな。
そう、例えるならば貴様ら人間が出す排泄物か、または吐瀉物のような状態。それとも貴様、そんな状態で生きていられる自信でもあるのか?
もしそうであれば貴様は人類という枠組みに納まるべきではないな、別の存在を名乗った方がよかろう」
「そんな酷い事になんの⁉︎」
それもうドロッドロじゃね?俺は旅行先で一体何と戦う事になるんだよ。
あ、でもそれってこのマジックスクロールがあれば何とかなる類の物なんだろ?ならあんまり心配してもしょうがないのかね。
「言っておくが我輩が視たのはあくまで二号の未来。貴様の未来についてとやかく聞かれても知らんとしか答えられんぞ。
そしてもう一つ、仮に貴様がそのマジックスクロールを有効利用したとしても貴様が死ぬ未来が変わるとは限らんとだけ言っておこう」
「はあ。要は予定は未定とかそんな感じって事だろ?いいよ別に。
普段から未来が見えてる訳じゃねえんだ、今回は多少でも危険があるってのが分かってるだけめっけもんだろ。
スクロールはありがたく頂戴するよ。じゃあな、行ってきますっと」
「うむ、せいぜい良き旅路を、とは全く思っておらんがとりあえず行ってくるがいい」
最後までツンデレ感溢れる台詞ご馳走さまです。
馬車の出発時間が迫って来た為にバニルとの会話を切り上げて宿を後にする。いっくら追い付けるっつっても置いてきぼりは寂しいもんだしね。
それにしてもあいつも良いとこあんなぁ。これ別に旅行先で使わなかった場合にも返さなくて良いんだろ?
今回その危機とやらをスクロール無しで乗り切ったなら、俺は強力な切り札を手に入れた事になる。
もちろん使わなきゃどうしようもないなら使うが、極力使わずに後々の為に取っておくことも出来るわけだ。最高だな、おい。
※
「冗談じゃねーぞ、なんでせっかくの旅路を男と過ごさなきゃならねえんだよ!」
待ち合わせ場所である馬車乗り場でカズマと女性陣が何やら揉めている様子。
少し遅れてしまったのでてっきり出発しているかと思っていたんだが………あ、御者台に座っているおっさんが困った顔でこちらを見てきた。
おっさんは早く出発したいのにカズマ達がいつまでも乗ってくれないので辟易している感がひしひしと伝わって来る。
ごめんなさいね、うちの者達が。今すぐ乗らせますので。
「おいお前ら何してんだよ。クリスには俺を待たなくても良いって言っておいただろうが。
そこの親父さんも困ってんだからさっさと出発しようぜ」
「ゼロか!ちょっと聞いてくれよ、こいつら馬車が四人までしか乗れないから二台に分かれるって聞いた途端に男女別にするとか言い始めたんだぜ⁉︎
何が悲しくて男と二人で狭い馬車の中、むさ苦しい空気に包まれなきゃいけないんだっての!
お前も何とか言ってやれよ、クリスと一緒が良いとか!アクアと一緒が良いとか!」
そんなに不思議かね。人数と選択肢が増えたら自然に選ばれるだろ、男女別。
そしてナチュラルにアクアをハブにしようとすんな。
まあ正直カズマの言いたい事も分からんでもない。せっかくの旅行、せっかくの旅路だ。見た目は美少女な連中がいないと華が足りないってのはまさにその通り。
しかし俺とクリス、カズマとこいつらだって普段は同じ家に暮らしているのだから、馬車の中でまで一緒にいる必要はどこにも無いだろう。女同士でしか出来ない話もあるかもしれないし、俺は今回で言えば女子側の味方をしようかな。
「お前もそんな事言うのかよ⁉︎女子に嫌われたくないだけの偽善者が、男のロマンまで忘れやがって!」
「偽善者っておまっ、……じゃあクリスはどうよ、お前が俺と一緒が良いって言うんならパーティー別で分けるに一票入れるが」
「そもそもゼロが一票入れようがカズマと併せても二票にしかなりませんので多数決にはなりませんがね」
「カズマ、今回は良いじゃないか。ゼロの言う通り、私達は普段一緒に暮らしているのだ、こういうのだって悪くはないと思うぞ?」
「あー、うん。あたしもたまにはダクネスやめぐみん、アクアさんと色んな話をしてみたい………かな……」
「じゃあ決まりね!カズマとゼロだって二人きりで積もる話でもしたら良いじゃない!
間違ってソッチ方面に行っても私達は知らんぷりしてあげるから!」
この複数人集まった女子の強さよ。人数的にも感情的にも男には為す術がねえや。
ここで無理を通そうとすればこっちの株価が暴落しかねない。ここはこいつらの言う事にウンウン頷くのが大正義。
数の少ない男子は虐げられて生きるしか無いのよ。カズマ、諦めなさい。
「嫌だね!俺は一人でも戦い続けるぞ!
………そうだ、ジャンケンで決めよう‼︎」
どうしよう、なんかカズマが末期の桐原君みたいなことを言い始めたんだが。
気が付かない内に『
こういうのは大抵やられちゃうフラグなんだけどなあ。
「まあいいか。それでジャンケンとな?つまりお前一人対俺達全員でジャンケンって事か」
「それで良いぞ。俺、ジャンケンで負けたことねーし。
つってもさすがに一人ずつ勝負させてもらうが」
ジャンケンで負けた事ないってウッソだろお前。そんな人間いる訳ねえだろ。
しかしめぐみんやダクネスが言うには、
「いえ、カズマは本当に強いですよ。無駄に幸運のステータスが高いだけはあります」
「ああ、我々も何度かパーティー内でジャンケンで意見を決めた事があるが、最初に勝つのは間違いなくカズマだ。
………ちなみにアクアが最後まで残る」
との事だ。なるほど、伊達に自信満々じゃねえってことか。
だが残念、ラック値で言うならばカズマを凌駕する逸材がここにいる。何を隠そうクリスその人だ。
元が幸運の女神だからか、クリスの幸運のステータスたるや恐らくこの世界で一番高いのではないかと言うほどの値を誇っている。
カズマも確かに高いのだろうが、以前見せてもらった時に比べたところ、それでもなおクリスの方が高かった。
つまり普通に勝負したとしてもカズマはまず負ける。不憫だとは思うが、先に仕掛けて来たのはカズマなので仕方あるまいて。
「よっしゃ、かかってこいオラァ!」
そうとは知らず、自分の強さに微塵も疑いを持っていないカズマが挑発的に手招きをする。
ここまで来ると憐れみに似た感情すら湧いて来るから不思議である。
皆の意見に異を唱え、一人で叛逆するその戦いが敗北で終わる事が分かっているとか目を逸らしたくなりますね。
……ん。よし、仕方がない。ここはたった二人の男性陣のよしみで俺が直接引導を渡してやろう。
「うっし、やるか。先鋒は俺が務めよう」
「まずは幸運最低値のゼロが相手か、妥当だな」
「フッ、ゼロは四天王の中でも最弱………」
「め、めぐみん?こちらは五人いるのだが……」
「大丈夫大丈夫、アニメとかじゃよくある話よ、四天王が五人。
それで大抵五人目が最強の能力とか持ってるのよね」
「まあゼロ君じゃ負けるよねえ」
おっと、俺の仲間内での信用の無さに自然と涙がでてきますよぉ………。
いや、ある意味信用はされてるのか。どいつもこいつも俺が負ける事を信じてるって意味でなら。
確かに俺の運は低い。アクアも俺と同じ最低値で同率のはずだが、そこは置いておいてこの世で一番低いのは間違いない。
ジャンケンが純粋な運勝負なら俺に勝てる道理はどこにも無いことになる。
ーーーそう、本当に運勝負ならな。
「さて、お前が自分の意見を押し通そうってえんなら、当然ジャンケンでお前が一回でも負けたらその時点で終了で良いんだよな?」
「………お前が条件確認とかすると途端に胡散臭くなるな。何だ、またなんか俺を騙そうとしてるのか?」
昨日の件が糸を引いているのか、警戒も露わに問うてくるカズマ。
騙すったってジャンケンだろ?どう騙そうってんだよ、むしろ教えてくれ。
ま、チート臭いってのは否定しないがね。今回は話術サイドの技能を使う訳じゃないから安心なさいな。
「………?まあいいか。じゃあ行くぞ、さーいしょーは」
「グー」
ボ。
※この効果音には何の意味もございません、もうこれで終わって良いとかそんな事一切思っておりません。
「「じゃーんけーん」」
カズマや他の奴らは俺が負ける事に微塵の疑いも持っていないようだが、俺はジャンケンならばこいつらに百パーセント勝つことが出来るだろう。
そもそもジャンケンが運ゲーとか誰が決めたんだよ。このゲームには必勝法がある!(ライアーゲーム並感)
………まあ言うてゴリ押しなんだけどな。
「「ポン‼︎」」
お馴染みのかけ声と共に双方の手の形が変化する。その様子を、俺はスローモーションビデオを見ているような感覚で眺めていた。
※
「お客さん方、運が良かったですねえ。近頃は湯治客も多くなってアルカンレティア行きの馬車のチケットなんかはすぐ売り切れちゃうもんだけど」
馬車の仕切りの向こう側から日焼けした快活な笑顔で話しかけてくる御者のおっちゃん。
どうでもいいけどこういう仕切り構造って初めて見たな。警察の護送車がこんな感じの造りをしてるらしいけど定かではないし。
「ははは、いやあ、連れの中にコネ持ちがいましてね。今回使ったかは分かりませんが、多分それでどうにかしたんじゃないですかね」
「はっはっは、そりゃいい。コネってのは作るのも実力の内だ、お客さんもそういう伝手は作っておいて損はないですよ!」
「「はっはっは!」」
「………………………」
「………おいカズマよ、いつまで不貞腐れてんだ。過ぎた事はあんま気にすんなよ。
男同士ってのも良いもんじゃねえか、いつもみたいに気軽に下ネタとか言ってくれても俺は構わんよ?」
「俺はそんなに普段から下ネタ言ってねーよ!」
やーっと反応しやがった。何時間も前の事を根に持ちやがって、ガキかっつの。
アルカンレティア行きの馬車の中。ここには俺とカズマ、あとは御者のおっさんの三人しかいない。ちなみに他四名は前方の馬車で楽しそうに騒いでいる。
後続の俺達にまで聞こえてるってことは相当大音量のはず。向こうのおっさんは大変そうだな。
この結果はもちろん俺がこいつとのジャンケンで勝利したからに他ならない。
ではどうやって勝利したのか。何のことはない、言ってしまえば後出しのようなもんだ。
無論ただの後出しではない。俺がしたのは手を出す瞬間に『スイッチ』を切り替えてスローで相手の手を読み、高速で自分の手を差し替える。これだけだ。
地上最強の弟子ケンイチで師匠達が同じ事をしていたが、この戦法は相手が同じことを出来ない限りほぼ確実に勝てる。
フェアではないのはそうだが、一応は実力なので見逃してもらおう。まあそもそも見切れる奴があの場にいなかったんだが。
ここで知られざる真実、ジャンケンとは動体視力と反射神経をフルに活かす高度なスポーツだったのだ………!
「屁理屈だな」
「それを言っちゃおしまいだが……ってかお前マジで機嫌直せって。
馬車が出発してから教えたのは悪かったとは思うが、ああしないとお前いちゃもん付けただろうが。
こうなっちまったらどうしようも無いんだから、せめて状況は楽しまないと勿体無いぜ?
俺に聞きたい事とか無いのか?普段ははぐらかすような事でも今なら雰囲気に流されてポロッと話しちまうかもだし、それがダメなら外の景色だって晴れてて良い感じだし楽しめるだろ?
………あ、あれってハクビシン?」
「タヌキなのん」
「アライグマでしょ」
「「「イ タ チ で す よ」」」
「………え?マジでイタチ?」
「はい、ありゃ平原イタチですね。体の色が周囲の草や地面と似てるので初めて見る人は遠目だと見つけられない事が多いんですが、お客さん目が良いんだね」
「はあ、まあ俺は『千里眼』持ちですからね。ゼロ……こいつはどうか知りませんけど」
御者のおっさんが言うには本当にイタチだったらしい。ここの流れは完璧過ぎて周りと同じ大草原。
この会話でカズマもようやく気分を持ち直したようだ。良かった良かった。
するとカズマが少し思案する素振りを見せて、何故かおっさんと俺達の間にあった仕切りを閉じて俺に向き直る。
やだ、人目を避けて私に何するつもりよ変態!どうせ酷いことするんでしょ、エロ同人みたいに!エロ同人みたいに!
「ゼロ、聞きたい事はないかと言ったな。俺はお前にちょっと前から聞きたかった事があるんだ。話してくれるな?」
「星の内海、物見の台、楽園の端から君に聞かせよう」
「誰が王の話しろっつったよ」
「バカ、よく聴いてみろよ。王の話じゃなくて
「今はそんなボケ望んでんじゃなくて!つーかそう、それもだよ!」
我儘な奴だな、我が王の話の何が不満なのだ。それもってどれの事だろう。
「先に言っとくけどお前が知られて困るようなら答えなくても良い。俺も確信がある訳じゃないんだ。ただ、できる事なら教えて欲しい」
そのまま俺が黙っていると、何か重大な事を話すかのように神妙な空気を醸してそう切り出す元FGOユーザーのカズマ君。
俺に知られて困る事なんてあったかな。………うん、(そんなもの)ないです。
「これはずっと前から思ってたんだが、お前は日本の文化に詳し過ぎる。
さっきみたいなサブカルチャーにしても、その他諸々にしてもそうだ。いくらお前の親父が日本人と言っても限度があるぞ。
そもそも年代的に知らないはずの事まで知り過ぎてるしな。のんのんびよりとか何年前から存在してるんだって話だ」
「………………………」
「そして異常なのはその強さだ。真っ当な転生者のミツルギですら特典のグラムの能力を合わせても素手のお前に勝てないって流石におかし過ぎるだろ。
お前、他に何か能力を持ってるんじゃないか?」
「……分からんな、一体話の終着点をどこに持って行きたいんだ。
頭の悪い俺にも分かりやすく、単刀直入に言ってくれ」
「……………っ」
別に威圧したつもりは無かったのだが、カズマは何故か気圧されたように怯んでしまった。
大丈夫だよー、コワクナイヨー。
「………わかった、じゃあズバリ聞くぞ。お前………」
恐れる気持ちよりも知りたいという感情の方が勝ったのか、質問を続けることにしたようだ。
好奇心は猫を殺すって言葉を知らないのかなこの子は。と言っても俺は特に何もしないけどな。それは他の場合であり、少なくともこの現状には当て嵌まらない。
しかし、なるほど。聞きたい事は何となく分かったぞ。展開的にこいつは俺にこう聞きたいのか。すなわち俺が………。
俺がメタ読みに勤しんでいる最中、核心に触れるようにカズマが訊く。
それは俺が想像した言葉と一言一句違わぬ物だった。
「お前、俺と同じ転生者なんじゃないか?」