この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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82話

 

 

 

 ※

 

 

 皆が寝静まって久しい。時刻は既に丑三つを数えているだろう。

 

 ………ガサリ。ガサリ。ガサガサ、カサリ。

 

 バッ!と飛び起きる。

 

 何かが動く音がした。音から察するに大きさも重さも人間からそう遠くはないが、商隊の人間ではないだろう。

 わざわざ離れている俺に接近する必要などないし、そもそも数も多すぎる。二十、三十、それ以上。

 商隊の人と冒険者併せればそれくらいの数はいるかもだがこんな夜中にそんなに一斉に移動するというのはまずもって考え難い。

 つまり、何らかのモンスターの可能性が高い。

 

 俺が心配していたのはまさしくこれだ。俺が熟睡できなくなった要因。すなわち夜行性のモンスター。

 護衛の冒険者か誰かが寝ずの番をしているだろうと見回すも、見張りはいるにはいるが襲撃には気付いていないようである。

 何たる危機感の無さ。これだから王城の衛兵からも「冒険者には碌な人間がいない」と馬鹿にされると言うのだ。

 とは言え、気付いていないのは単に敵感知スキルなどの範囲外にいるからだろう。

 音だけでいち早く気付けたのは俺が馬車を並べて作ったバリケードの外にいたからでしかない。

 

 団体から外れた所で寝ていたのは、こうして何者かが接近する音を聞き逃さないようにだ。

 周りに人がいると身じろぎしただけで音が出る。そんな中では正確な音など把握出来ないしな。

 早めに処理しようとデュランダルを抜き放ち、片手に爆発ポーションを忍ばせる。どっからでもかかって来やがれい。

 

 ………しかし、肝心の敵の姿がはっきりしない。夜闇に紛れているせいもあるが、どうにも輪郭が不確かだ。動きがやけに遅いのも気になる。

 もう少し近くなれば正体も分かるだろうと気配がする方向へ歩み寄り………ほんの僅かな異臭に立ち止まる。

 

 そして次の瞬間。

 

 

「敵襲!敵襲!プリーストが居たら早く起きろ!特にアクアとかいうアークプリーストは大至急だ‼︎」

 

 

 手に負えない相手と判断して自分だけで対応する事を諦め、大声で未だ寝ている馬鹿どもを叩き起こす。

 これはアカン。マジで俺じゃどうしようもない。

 

 俺の焦った声でようやく事態に気が付いたのか、見張りの男を筆頭に次々と松明に火が灯る。

 

 そこに照らし出されたのは。

 腐った肉体、所々が欠損した、人型ではあるが断じて人間ではない………まあ、なんだ。有り体に言うとゾンビの大群がそこにいた。

 

 

「オォオオオオォォオオォォ………」

 

「「「うおわああああああああ⁉︎」」」

 

 

 事前に正体を察していた俺ですらそのおぞましい姿に内心で恐怖を覚えてしまったのだから、他の奴らが驚いて悲鳴を上げるのも無理はない。

 

 

「どっこいしょお‼︎」

 

 

 突然のゾンビ襲来に浮き足立つ一行に、手近なゾンビパイセンの頭を容赦なく鞘で叩き潰しながら駆け寄る。

 うえっ。なんか色々飛び散ったぞ、えんがちょ。

 

 しかし当のゾンビは首から上を完全に失くしたにもかかわらず、フラフラと馬車同士の隙間からバリケードに進入していってしまう。

 あっそう。やっぱりダメですかい。あれかな、スコップとかいるのかな。

 

 

「おおい、カズマ!アクアどこ行ったアクア!こいつらは物理じゃどうにもならんぞ!

 見ろ、俺が頭丸ごとぶっ潰してもまだ動いてやがる……ってかゾンビって頭潰したら死ななかったっけ⁉︎」

 

「ぜぜ、ゼロか!いやお前ゾンビが死ぬって何だよ!俺もあいつ探してるけど、姿が見えないんだって!

 ったく、あんのバカどこに………おいダクネス!アクア探してくれ!この状況、あいつなら楽勝だろ!」

 

「わかった、任せておけ!」

 

「太郎丸多過ぎィ‼︎」

 

 

 どうせ当たらない大剣を無駄に姿勢良く構えるダクネスも周囲を見回す。

 

 アクアもそうだが、クリスとめぐみんも見当たらない。この数のアンデッドを見たクリスが暴走しないかが心配なのだが………。

 

 というかただのゾンビのくせに厄介過ぎるだろ。ベルディアが召喚したアンデッドナイトだって俺の攻撃で行動不能になってたってのに、身体がグズグズに崩れて柔らかいせいかこいつらにはまるで手応えが無い。糠に釘とはよく言ったもんだ。

 

 

「わああああああああーっ!何で私ゾンビにたかられてるの⁉︎カズマーっ!カズマさーんっ!」

 

「‼︎いたぞ、あそこだ!」

 

 

 アクアの声がした場所を指差しながらダクネスがカズマに伝える。

 そこにだけ大量のゾンビが群がって山のように積み重なっていた。よく見るとゾンビは全てそこを目指して進んでいるようにも見える。

 次から次へと重なっていくゾンビ達。しかし。

 

 

「このクソアンデッド!いい度胸じゃない、寝起きの私になら勝てるとでも思ったのかしらね!もう数百年ほど修行して出直してきなさいな‼︎

『ターンアンデッド』‼︎『ターンアンデッド』!『セイクリッド・ターンアンデッド』ーーーッ‼︎」

 

 

 アクアの詠唱とともに発された光が周囲を埋め尽くさんばかりのゾンビの群れを一瞬で消し飛ばす。

 その様子はさながら白い紙に書かれた落書きにバケツに入った修正液をぶっかけるが如しだ。

 

 

「うお、すげえ………‼︎」

 

「こ、この数のアンデッドを一瞬で浄化するなんて聞いたことないぞ⁉︎」

 

「なんて清浄な力なんだ!おまけに美しい……、まるで女神様みたいじゃないか!」

 

 

 俺も思わず感嘆の声を洩らしてしまったが、冒険者や商隊の人も口々に賞賛の言葉を述べる。

 分かっちゃいたがあいつのアンデッド特攻は桁が違うな。昼間の俺VS走り鷹鳶も大概だったが、この無双っぷりは想像以上だ。

 

 

「あはははははは‼︎見たかしら、見たかしらカズマ!これが本来の女神たる私の実力よ!これで少しは扱いを見直す気になったかしら‼︎『ターンアンデッド』!『ターンアンデッド』‼︎」

 

「………………」

 

 

 褒められたのが嬉しいのか、調子に乗り始めたアクアから話を振られたカズマはしかし、黙って立っているだけだ。

 アクアもすぐにゾンビ殲滅に戻ったからあまり気にしてはいないようだが。

 

 

「どうした?あいつの言う通り、この働きは結構デカいんじゃねえかね。

 向こうに着いたらあいつの好きなモンでも買ってやったら」

 

「このゾンビはさ、何でいきなり湧いてきたんだと思う?」

 

 

 不思議に思った俺が珍しくアクアの肩を持つような事を言うと、カズマがポツリと呟く。

 

 

「…………うん?」

 

 

 そんな事言われましても。ゾンビの思考なんか分かるわけねえだろ。ただ俺達のタイミングが悪かっただけじゃないの?次点で考えられるとすりゃ、俺の不運の影響かな。

 しかしカズマの考えは違うようで。

 

 

「前もクエスト中に似たような事があったんだよ。その時に、アクアが近くにいるとアンデッドとかは浄化されたくて起き上がって来るんだって、あいつが自分で言ってたんだ」

 

「…………………」

 

 

 ここにきてようやく俺にもカズマの言いたい事が理解出来た。

 つまりこのゾンビの大群を呼び寄せたのはーーー。

 

 

「ああ、いたいた!あの凄腕のプリースト様はお客さん方のお連れですよね!

 いやあ、本当に助かりましたよ!ありがとうございます!走り鷹鳶の件のお礼は断られてしまいましたが、こっちにも意地がある!今度こそお礼を受け取ってもらいますからね!」

 

 

 感謝感激とばかりに商隊のリーダーと思しき男性が俺の手を握って来る。

 今度は色々言い訳を付けて謝礼を断ることは出来なさそうだ。

 

 ……………………。

 

 

「いえ、俺はたまたま偶然彼女と知り合っただけの旅の冒険者です。

 あのシンセイデウツクシイプリーストサマのパーティーの方はこっちの人ですよ。いやー、痺れるなー、憧れちゃうなー!」

 

「あっ⁉︎てんめっ……!」

 

「おお、そうでしたか、これは失礼致しました!ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

 

 俺の手からカズマの手に乗り移る商隊の人を見て密かにほくそ笑む。

 ペットの不始末は飼い主の不始末。全く関係ないとは言わんが今回俺は責任逃れをさせていただこう。

 

 いつもの事ながら嘘はついていない。アクアは俺とパーティーを組んでいる訳でも無し、こいつらと知り合ったのも偶然、旅をしていたのも本当だ。ただし『今』ではないが。

 憶えておくといい、人を欺く時のコツは嘘の割合は多くても半分程度にする事だ。残りは真実を混ぜなければすぐにバレてしまう。

 もっと言うと極力嘘は言わないのが理想だな。他人との解釈の違いを利用すれば本当の事を言いつつ自身が望む方向へ誘導するなど造作も無い。

 後からバレても真実しか述べていないのならば言い逃れるのも簡単だろう。

 実際にこういった手法を用いるやつはオレオレ詐欺に多い(俺調べ)そうだ。皆も気をつけましょう!

 

 ゾンビもほぼ全滅状態になり、ひとまず落ち着きそうだ。「覚えとけよてめえ」と言うようなカズマの視線から逃れるように、俺と同じく役立たずだったクセに何処と無く満足気なダクネスに歩み寄る。

 

 

「ダクネス、めぐみんとクリスの姿が見えねえけど一緒じゃなかったのか?」

 

「ん?ああ、商隊の者が気を利かせてくれてな。私達は馬車の中を貸してもらっていたのだ。

 私は枕が違うとあまり眠れな……ごほん!………こんな事もあろうかと警戒していたのが幸いして異変を察知する事ができたのだが、おそらく二人はまだ寝ているのだろう。ほら、その馬車だ」

 

 

 ダクネスが指で示した馬車をそっと覗いて見ると、座席に横になれば良いのに座って肩を寄せ合って寝ている二人は確かにそこに居た。

 髪の色が違うから姉妹とかには見えないが、随分と仲がよろしいようで。

 ほんの少しの間とはいえ、外の阿鼻叫喚の中でこうもぐっすりと眠れるのは一種の才能なのではなかろうか。

 ダクネスの神経質と全部足して三人で分割するくらいでちょうど良い気がする。

 

 

「せ、せっかくボカしたのに人を神経質だなんだと言うのは止めて欲しいのだが………」

 

 

 少し顔を赤くしたダクネスが松明を持ちながら批難するように口を尖らせる。

 ダクネスのクセに一丁前に羞恥の悪感情出すんじゃねえよ、あの仮面悪魔のいい餌だぞ。

 

 

「お前の基準はホントよく分からんな。ドMだの雌豚だの言われるのは悦ぶだろうになんでここで恥ずかしがるんだ?そら、笑えよベジータ」

 

「………お前もカズマもよくデリカシーが無いと言われるだろう?なあ、そうだろう?

 私とて一応女なのだからもう少しふさわしい扱いという物があると思うのだが」

 

 

 今日のこいつジョークのセンスがキレッキレだな。慣れない旅行でテンションが上がっているのかもしれない。

 

 

「黙れメス。魔改造スライムけしかけてヌルヌルにするぞ」

 

「メス⁉︎ま、魔改造スライム………⁉︎くっ!や、やれるものならやって見るがいい!私はその程度では決して屈しは………」

 

「デリカシーが必要な相手なら俺も色々考えたりはするんだけどね」

 

「……………………」

 

 

 俺に釣られた事に気がついたダクネスの顔がさらに赤くなり。

 

 

「貴様、よくも騙したな!ぶっ殺してやる!ぶっ殺してやるぞ‼︎」

 

 

 唐突にブチ切れて俺の頭を握り潰そうとアイアンクローをかまして来た。俺の顔とこいつの手の接触面からギリギリと、通常では絶対に出ないような音が聞こえている。

 

 とんでもねえ怪力だな、常人だったら頭蓋が割れてもおかしくないぞコレ。幸運にも俺は常人ではないワケだが。

 

 

「おやすみなさい」

 

「意に介さずだと⁉︎くっ、このっ……!」

 

 

 俺にとってはむしろマッサージに良い塩梅だったので、そのまま眠る事にした。

 流石に自慢の力が通用しないとなれば多少はショックを受けるのかと思いきや。

 

 

「な、なんという事だ……!あんなにも鍛えて来た私の力が何の意味も無いなど!

 ああ、しかし何故か、何故か興奮してきたぞ……!牙を剥くお前に抵抗むなしく押し倒されてしまう私………。………胸が熱くなるな!」

 

「………………………」

 

 

 もう寝よう(提案)

 

 

 

 

 


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