この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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再投稿。







86話

 

 

 

 ※

 

 

「さって、今日はどこに行く?昨日は一緒に見て回れなかったし、ゼロ達も来るだろ?」

 

 

 露天風呂で妙な男女二人組とすれ違った翌日。

 宿を出たところでカズマが昨日俺達を置いていってしまった事を慮ってか、そのような事を言う。だったら最初から待っててくれりゃよかったのにね。

 

 

「いんや、悪いけど俺は調べたい事があるから別行動にしよう。クリスは連れて行ってくれて構わん」

 

「え。ちょっと、キミ来ないの?」

 

 

 うむ。昨日のナイスバディの女性の言っていた事も気になるしな。今日は色々話を聞いて回りたい。

 旅行中とは言っても毒物関連はこいつらや俺にだって無関係な話じゃねえんだ、何とか出来るならしたいのが本音である。

 

 もう知ってるのかもしれないが一応、女性陣には聞かせないようにカズマに耳打ちをする。

 

 

「カズマならもうどっかで聞いてんじゃないか?この街の温泉がどうたらってヤツ」

 

「あ?……あー、なんか温泉の質が悪くなってるって話か?」

 

「そうそれ、やっぱり知ってたか。俺達にも全くの無関係じゃないだろ?何か分かるかもしれないから俺の方でも調査してみようかなって……」

 

「ダメだ、お前も来い」

 

 

 ………こいつは人の話を聞かないからな。

 

 いや、今のは俺の声が聞き取りにくかったのが悪かったのかもしれない。

 耳が遠いカズマ君に聞こえるようにもう一度、ゆっくりと言ってやる事にする。

 

 

「………俺達、にも、全くの無関係、じゃ、ないだろ?何か、分かるかも、しれないから」

 

「聞いてたわボケ!そんな事言ってこいつら(面倒事)を俺に押し付けようったってそうはいかねえからな、お前も道連れにしてやる!」

 

「お、お前な………」

 

 

 この街が危ないかもしれねえってのによくもまあこんだけ自分の都合で話を進められるもんだなこいつは。

 こういう奴に限っていざ自分が毒温泉に当たった時に何で何とかしなかったんだって文句言ってくるんだろ?クズかよ。

 

 

「……あ、やべ。想像だけで腹立ってきた。お前の頭握り潰していい?」

 

「それでいいって言うと思ってんならお前の知力の低さは伊達じゃねえな」

 

 

 事実だから怒りはしないが酷え言われようだな。良いって言ってもするつもりは無かったんだが。

 

 そして昨日どんな目に遭ったのかはわからないが、察するに狂信者の洗礼を受けたらしきカズマはこんな事を言い始める。

 

 

「いいか?こんな街がどうなろうと俺の知ったこっちゃ無いね、むしろ俺達が帰ってからなら滅べとさえ思ってるわ!

 つまり、そんな事件を解決する為にわざわざ休暇の時間を割いてやる必要なんてないと俺はお前に言っておこう」

 

 

 なんて奴だ、人間とはここまで利己的になれるもんなのか。

 年がら年中休暇中の引きこもりみたいな生活してる野郎が言っていい言葉じゃねえぞ。日々働いたり学習してる連中に謝れや。主に俺とか。

 大体、アクシズ教は仕方ないとしてもここには一般の人間だって結構いるんだぞ。冒険者としてその人達に気の毒とは思わないのだろうか。

 

 

「全然」

 

「クズだカスだとは思ってたがそこまで性根が腐ってたかお前⁉︎

 おい、お前らのリーダーちょっとやべえぞ、なんか言ってやれって!」

 

 

 俺がパーティーメンバーとして何か言うべき事があるだろうとめぐみん、ダクネス、アクアのいる方向に向かって言うと。

 

 

「お前たちが何の話で揉めているのかは知らないが、今日は私たちはアクアに付き合うつもりだ。

 カズマと、できればゼロにも手を貸して欲しいのだが良いだろうか」

 

「アクアに?」

 

「おい、おいやめろよお前ら、この時点で嫌な予感しかしないぞ」

 

 

 ダクネスの言葉に、アクアに普段振り回されているカズマが戦々恐々とする。

 俺は嫌な予感も何もピンとすら来ないのだが。

 はて、アクアはこの来たばかりの街で一体何をすると言うのか。

 

 

「それがですね、昨日ゼロとクリスと別れてからはいくつかの温泉に足を運んだのですが、アクアが妙なことを言い出したのですよ」

 

「この街はテロに遭っているわ!」

 

「…………このように」

 

「ほう?」

 

 

 テロと来たか、そいつは実にタイムリーな話題だな。

 アクアに顎をしゃくって続きを促す。

 

 コホンと咳払いを一つした後、アクアが昨日気付いたという事について説明し始めた。

 

 

「この聡明なる私は気付いたわ、気付いてしまったの。

 昨日行った温泉の内、いくつかの温泉がかなり汚染されていたという事にね!」

 

「はっ、駄洒落言ってる場合じゃねえぞおい、『温泉が汚染』ってか?」

 

「黙りなさいおたんちん!」

 

 

 アクアの雰囲気と内容自体はとてもシリアスな物だったのだが、我慢出来ずに茶を濁してしまった。

 それにしてもおたんちんとか今日日聞かねえな。意味もよく分からん。

 

 

「いいかしら?お馬鹿なゼロでもわかるように説明してあげるからよく聞きなさい。

 まず、最初の温泉を見た瞬間に毒か何かで汚染されていると一発でわかった私はもちろん浄化したのね。

 まだ早い時間帯だったから良かったものの、普通の人間が入ったら病気じゃ済まない濃度だったんだもの」

 

 

 その辺は聞いている。酷い時には入っただけで意識不明とか、そんな温泉があるらしいというのは。

 だが、聞いた限りだとそこまでの数汚染されている感じでは無かったんだが、こいつの言う「いくつか」というのはどれぐらいの数のことを言っているのかな。

 

 

「私が昨日回った温泉の半分くらいはそんな感じだったわ。だいたい五軒くらい」

 

「………五軒」

 

 

 こいつは一日に十軒も温泉に入るのかとか、そんな事を言うより先に言葉が詰まってしまった。

 

 ーー多過ぎる。

 

 冒険者リーダーの話ではせいぜい街に一、二軒あればという印象を受けたのだが、全然違うじゃねえか。

 そんな割合で街中の温泉が駄目になってるとしたら身体が弱い人間なら死人が出てもおかしくねえぞ。

 

 この街には湯治に来ている人間が多い。そして湯治に来るというからにはどこかしらが悪いのだろう。

 もしそんな奴が汚染された温泉に当たったとしたら。

 

 ………考えただけで地獄絵図だな。

 

 

「まあ五軒っていうのは、私が汚染されてる気配のある温泉を優先して回ったからなんだけどね。それでもこの数はただ事じゃないわ。

 これは悪意のある誰か……具体的には私の可愛い信者たちに恨みを持つ人間が起こしたテロだと推察したの。

 だから私たちでそいつを見つけて捕まえてやろうって訳よ。お分かりかしら?」

 

 

 アクシズ教徒に恨み辛みを持つ人間という括りは探すには些か範囲が広過ぎると思うんですがね。

 ……だが、アクアも動くというなら好都合でもある。

 

 

「良いぜ、実は俺もお前とは別口で温泉について聞いてたから、どのみち調べるつもりだったんだ。

 人手は多いに越したことはねえし、手分けして情報収集でもしてみようか」

 

「私はさっき言ったようにアクアに付き合うつもりだ。

 実力は確かなアクアがこう言うのだ、この街に異変が起きているのは間違いない。

 騎士として見過ごす訳にはいかないからな」

 

「私はアクアとダクネスだけで行かせると少し心配ですから、付き添いのような形で」

 

「あ、じゃああたしも行くよ。何より、そんな悪人がいるかもしれないなら放っておけないしね」

 

 

 アクアに引き摺られるようにしてではあるが、この日の予定がトントン拍子に決まっていく。

 

 ………おんやぁ?この中で一人だけ仲間外れがいるなぁ……?

 

 必然的にまだこの後どうするかの意思表示をしていないカズマに視線が集まる。

 まさか全員が全員調査に乗り出すとは思っていなかったのか、しばらくキョドッていたカズマだが。

 

 

「………しょうがねえなあ」

 

「お前もなんだかんだ甘えよなあ。よっしゃ、じゃあカズマは俺と来い。サボらねえか見張っちゃる」

 

 

 よしよし、良い子だ。

 

 今、こいつには俺たちと別れて一人で観光するという手段もあった。

 それなのに行動を共にするという選択をしたということは、こいつもこの街の異変についてそれなりに思うところがあったのかもしれない。

 本音は本人に聞かないと正確にはわからんが、ともかくこいつが本気でアルカンレティアが滅んでも構わないとか思ってなくて良かった。

 

 

「それじゃあ二手に分かれて、それぞれ温泉を調査。日が暮れる前にこの宿に集合しましょうか。……解散!」

 

 

 何故かやけに積極的なアクアが音頭を取り、俺たちはいるかどうかもわからない犯人とやらを探す為に散るのであった。

 

 

 

 ※

 

 

 アクア達と別れてからしばらく。

 一軒目の温泉施設を調べ終えてから、カズマがこんな事を言い出した。

 

 

「お前もアクアもよくやるよな。わざわざ自分から面倒事に首を突っ込むなんて俺には真似出来ん」

 

 

 普段から面倒事を持ってくる奴がパーティーにいるくせによく言えた物である。

 むしろカズマ以外全員その傾向にあると言っても言い過ぎではないのが恐ろしいな。

 

 

「なんだ、今さら面倒臭くなったか?釣られたにしろ何にしろ、やるって言ったんだから今日一日くらいはしっかり頼むぜ」

 

 

 あれから三十分も経ってないのにもう後悔してるのか、と俺が言うと、どうもそういう事が言いたい訳ではなさそうだ。

 

 

「そうじゃなくて、首突っ込んだ先にあるのが自分じゃどうしようもない事だったらどうするんだよ。

 今回だったら、例えばお前でも勝てないような相手が犯人だったらさ」

 

「どうもこうも。そんなもんアレだ、シュレディンガーの猫ってヤツだろ。

 箱を開けるまでは確認なんざ出来ねえんだから、取り敢えず開けて見るべし」

 

「出たよシュレディンガーの猫」

 

 

 出たよとか言うなよ、わかりやすい例えだろうが。

 

 と言ってもこれではカズマの質問に完全に答えたとは言えないか。

 

 

「そんで、もしお前の言う通り開けた先に自分でどうしようもない物があったらーー」

 

「あったら?」

 

「逃げる」

 

「おい」

 

 

 断言する俺をジト目で睨むカズマ。

 

 いや確かにこいつに偉そうに説教垂れといてどうかとは思うけども、どうしようもないんなら仕方ないじゃない?

 

 

「本当にどうにも出来ないときゃ逃げりゃいいんだよ。

 ただ、他に誰もそれをやる奴がいなくて、『そうかもしれない』んだったらとりまやってみるんだよ、俺はな。

 個人的にやれるかもしれないのに逃げるのと、わからないからやってみて駄目だった時に逃げるのじゃ大分違うと思うんだがね。

 まあやる前に『これは出来ません』ってわかってるなら最初っから逃げても良いんだけどな」

 

 

 それでもし誰かになんか言われたら「ほならね、やってみろって話ですよ。僕はそう言いたい」って返しゃいいしな。

 他にやる奴がいなかったから手を出して結果駄目だった、その時に責められる筋合いなんかねえさ。

 

 

「何つーか、面倒くせえ性格してんなお前。

 この世界でそんな生き方しててよく今まで無事でいられたな」

 

「無事で済んでねえからしょっちゅう死にかけてんじゃねえか。

 お前らのせいで憂き目にあった事も俺は忘れてねえからな」

 

 

 最近はそれもご無沙汰ではあるが、冬将軍の時とか、こいつらがパーティー結成する前だったらめぐみんの爆裂魔法直撃ってのもあったか。

 自分の選択でそうなるならあんま気にしないんだが、他人の行動によってとなると俺だって根に持つことくらいあらあ。

 何にしても結果オーライでまだ五体満足だから言える事だ。

 

 ………いや、そりゃそうか。死人が喋れる筈も無し、馬鹿なこと言ったな。

 

 

 

 

 


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