この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

9 / 105


再投稿。






9話

 

 

 ※

 

 

「というわけで何か食べる物を下さい。」

 

「いきなり出てきて何がというわけだ。なんも聞いてねえぞ。」

 

「はらへった!」

 

 

 初対面で図々しいにも程があるだろこいつら…

 

 

「うちは貧乏なんですよ。なので両親が働きに出ていまして、食べる物に困ってるんです。」

 

 

 ほう。

 それは同情の余地はあるかもしれない。

 しかし、こんな小さい子供を置いてその両親は食費とかの対策をしていないのだろうか。

 

 

「話を聞いてなかったのですか?…うちは貧乏なんですよ。」

 

「……………」

 

 

 いや、もちろん聞いていたよ。だが、貧乏にも程度がある。

 いきなり見も知らぬ他人に食い物を要求せざるを得ない程なのか?

 

 

「最近は土の中にいるミミズが見つかるかどうかが死活問題と言えば分かってもらえますか?」

 

「ちょっと待ってろ。」

 

 

 即断した。

 これは俺の負けだわ。もし仮に嘘だったとしてもその発想がすっと出てくるのはかなりまずい。

 そういえば紅魔族は知力が高いんだったか。それも計算の内かもしれんが。

 しかし困ったな。今は居候の身だ。勝手に食糧を工面するわけにもいかん。

 

(そういえばこの辺りは一撃熊の生息域だったか。)

 

 まだ遭遇したことはないが、ドラゴンより強いということはあるまい。

 …よし。

 

 

「ここら辺に森があるだろ?すまんが案内してくれ。」

 

「は?いや、それは構いませんが、まさか今から何か捕まえるんですか?もっとこう、今すぐお腹が膨れる物とか持ってないんですか?冒険者なのでしょう?」

 

 

 こいつグイグイ来るな。

 ご生憎だが、まだ冒険者ではない。アクセルに行く前に立ち寄ったのだから。

 

 

「え。昨夜は魔王軍を撃退したと聞きましたが…まさか職業補正無しで…?」

 

 

 何を今更。

 そもそも職業補正とは自転車の補助輪の様なものだろう。ある程度戦えるなら必要無いものだと思っていたのだが。

 

 

「間違ってます!その認識はすごく間違ってます!」

 

「姉ちゃんはらへった!」

 

 

 何かごちゃごちゃ言うめぐみんとどこまでもマイペースなこめっこ。

 

 どうでもいいけど行くの?行かないの?

 

 

「はぁ、しょうがないですね。では行きましょうか、こめっこ。」

 

「うん!」

 

「ちょっと待って。まさかそいつも連れて行くのか?」

 

 

 いくらなんでも危険だろう。それとも自衛の手段があるのだろうか。

 

 

「そう言われても…森ならこめっこの方が詳しいですし。」

 

「森はわたしのにわ!」

 

 

 聞けばめぐみんが学校に行っている間は森に通って食糧を探しているのだとか。

 逞しいなおい。

 

 

「ああ、それと私もこめっこも戦闘とかできないのでよろしくお願いします。」

 

「なんで熊がいる森に戦闘手段無しで入ろうと思えるのか不思議でしょうがねえよ!」

 

 

 

 ※

 

 

「ゼロはこの後、王都に行くのですか。」

 

 

 簡単な身の上話をしながら森の中へ踏み入って行く。

 ちなみに先頭はこめっこだ。木の枝を振り回して茂みに搔き行っていく。

 熊がいつ出るかわからんのにいい胆力をしている。将来大物になるだろう。

 

 

「まあ今となってはその過程すっ飛ばしてアクセルに行っても良いけどな。」

 

 

 元々、王都へは魔王軍の様子を見るために行くつもりだったのだ。紅魔に来て魔王軍の実態を知った以上、特に行く必要は無い。

 

(正直幹部クラス以下は恐るるに足らんな。)

 

 シルビアは最後は凄まじい猛攻で驚かせてくれたが、雑魚の練度があまりにお粗末過ぎる。

 

 だが途中で予定を変えるのも性に合わんし、王都の観光と思えば行く価値ぐらいはある。

 

 

「私も学校を卒業したらアクセルに行こうと思っているのでもしかすれば向こうで会うかもしれませんね。」

 

 

 ほう、冒険者になるのか。向こうに行ったら前衛俺、後衛めぐみんでパーティーを組むのも良いかもしれない。

 

 

「ふふん、私はいつか魔王を討伐するのです。ゼロなど釣り合いませんよ。」

 

 

 自慢気に言うめぐみん。中々のビッグマウスである。

 それはそれとして…

 

 

「いや、それは許さん。魔王を倒すのは俺だ。」

 

 

 エリスとの約束がある。

 もし他の奴に魔王を倒されたとしたら俺が第二の魔王になるまである。

 もしくは赤の他人を魔王に仕立て上げて一方的に虐殺するとか。

 

 

「女との約束にそこまでするのですか⁉︎」

 

 

 当然である。エリスと結婚するためなら割となんでもやると思う。神だって殺すかもしれない。

 

 

「す、すごい覚悟ですね…。というかそこまでしないと結婚できないというその女は一体何者ですか…。」

 

 

 何者かと聞かれたら女神だ。それ以上ではあっても以下ではない。

 

 と、前方のこめっこが大声をあげる。

 

 

「姉ちゃん!兄ちゃん!ごはんでたよ!」

 

 

 どうやら何か出たらしい。そちらを向いた俺の目に飛び込んで来たのはーー

 

 一撃熊(ごはん)にごはんにされそうなこめっこの姿だった。

 

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

 

 …何やってんの⁉︎

 

 

「こ、こめっこぉーーーー⁉︎」

 

 

「うおおおお⁉︎」

 

 

 

 居合の構えから斬撃を飛ばす。

 ズパァンという聞き慣れた音とともに熊の首と胴体が泣き別れする。

 

 

 崩れ落ちる一撃熊の向こうには一撃熊の群れ。

 完全にこめっこを狙っている。

 

 

 ウッソだろおまえ。

 

 

 

「ヒャッハァァァ⁉︎最っ高にハイ!ってやつだぜえええぇぇ⁉︎」

 

 

 叫びながら群れに猛進する。

 焦って変なテンションになっている俺を誰が責められよう。

 

 途中でこめっこをひっ掴み、後ろ手にめぐみんへ放り投げた。めぐみんが抱きとめたのを確認して、背後から迫る殴打を屈んでやり過ごす。

 

 そのまま斬撃の暴風雨で群れを細切れにしていく。今日のメシは熊のハンバーグじゃあ!

 

 …誰かを守るのは、とても大変だと思いました。まる。

 

 

 ※

 

 

「こめっこ!無事ですか⁉︎無事ですね⁉︎」

 

「姉ちゃん、くるしい。」

 

「言ったじゃん!だから言ったじゃんさあ!」

 

 

 バカじゃないの?…マジでさ。バカじゃないの⁉︎

 

 知力高い癖に何故こんなこともわからないのか。

 

 

「その、ありがとうございました。本当に強かったんですね…。」

 

 

 逆に俺が対応できなかったらどうするつもりだったのか。怖くて聞けない。

 

 

「お前も早く上級魔法覚えろよ。妹くらいは守れるようにな。」

 

「私は上級魔法は覚えませんよ?」

 

 

 うん?

 ああ、段階を踏むってことか。いきなり上級魔法を扱うのは怖いもんな。

 

 

「いえ。私が覚えるのは爆裂魔法だけです。」

 

 

 …その爆裂魔法がどんなかは知らないが、そんなに汎用性がある魔法なのだろうか。

 

 

「すべての魔法の頂点に位置する凄まじい威力‼︎遠距離から広範囲を吹き飛ばす殲滅力‼︎どれをとっても爆裂魔法より凄い魔法などありませんよ!」

 

 

 ほう、それは凄い。それを連発すれば魔王軍など物の数にもならないだろう。何故誰も実行しないのか。

 

 

「あ、連発は出来ませんよ。基本的に一発撃ったら魔力切れで倒れてしまいますのでその後の戦闘では完全にお荷物です。」

 

 

 

「産廃じゃねーか。」

 

 

 

 今言った利点をすべて消し飛ばすデメリットだ。戦場でなんの役に立つというのか。

 

 

 

「なにおう⁉︎もしゼロがパーティーに入れてほしいと言って来ても入れてあげませんよ⁉︎」

 

 

 

 結構です。

 お前が爆裂魔法とやらしか使わない限り俺たちが組むことは無いだろう。俺が敵と戦闘しているところへ撃ち込まれたら間違いなくエリスのところへ直行である。

 

 …あれ?案外悪くないな。

 

 

 

 ※

 

 

 それから1週間、めぐみん、こめっこの姉妹に付きまとわれたのは言うまでもない。最初に餌付けしちゃうと中々自然に還ってくれないのである。

 野生動物か!

 

 

 

「色々お世話になりました。」

 

 

 頭を下げながらむんむんに礼をいう。

 

 

 

「おう!気いつけてな!っつっても兄ちゃんにゃ要らん心配か!」

 

 

 別れを告げながら1週間過ごした家を去る。

 そういえばむんむんの息子とはついぞ会わなかったな。聞くところによると俺を撃ち抜いたことが気まずくて未だに出られないらしい。気にせんでもいいんだがな。

 

 

 歩きながら作ってもらったマントを着る。表は黒、裏地は赤色の中二力の高いマントだ。

 黒い方は防御力を高め、赤い方は火炎に強い。

 

 高性能ではあるのだが、そもそも俺はスピード命でまず攻撃を喰らうことが無いので役に立つかと言うと微妙にも程がある。

 

 

 

 そうこうしてるうちにもう村の出入り口だ。王都へはテレポートで送ってもらう手もあったのだが歩くのも旅の醍醐味だしね。

 

 

 

「もう行くんですか。」

 

 

「めぐみんか。こめっこはどうした?」

 

 

「最近捕まえた黒猫と遊んでます。」

 

 

 

 相変わらずゴーイングマイウェイガールだな。

 

 この2人の両親とやらは俺が滞在した1週間、一度も帰ってこなかったようだが…俺が居なかったら食事はどうするのだろうか。

 

 

 

「ご心配には及びません。隣のニートはこめっこが強請ればいくらでもごはんをくれるのでそれにあやかりますから。」

 

 

 

「妹に養ってもらうとか恥ずかしくないの?」

 

 

 流石は魔性の妹こめっこ。

 もう姉の威厳とかカケラも残ってねえな。

 

 

「それとあんまり男にせびったらダメだぞ、お前ら顔はいいんだから。そういう趣味の連中だっているんだ。」

 

 

 

「なんですか、もしかして粉かけてるんですか。すみませんが戦闘能力お化けをそういう目では見られませんよ。」

 

 

 

 バカかこいつは。エリス一筋の俺に向かってなんたる暴言。貴様には諸々足りないものがあるが俺が求める『母性』が足りない。それを身に付けて出直してくるがいい。

 

 

「なにおう⁉︎母性⁉︎胸か!男はそんなに胸が良いのか!」

 

 

 

 ハッ!青いな。

 おっぱい=母性とはにわかもいいところだ。

 エリスを見るがいい。母性は溢れんばかりなのに対して胸の寂しさよ。それをパッドで誤魔化そうとしているのがいじらしいのではないか。

 つまり、俺の選考基準に脂肪の固まりは含まれない。

 お。エリスから電波を受信したぞ。『後で屋上』だそうだ。告白かな?(白目)

 

 

 

「この男最低ですね…。」

 

 

 

 おっと、ゴミを見る目ですね。我々の世界ではご褒美かもしれんが生憎俺の世界ではムカつくだけだな。

 

 

 

「先にアクセルに行っててやるよ。爆裂魔法、覚えたら見せてくれ。」

 

 

 

「ふん。その時に泣いて謝っても知りませんよ!」

 

 

 苦笑し、立ち去る。

 めぐみんは爆裂の素晴らしさを俺に伝えようとしていたのだが、いかんせん俺は実物を見ていない。見てからでないと判断できないからいつか見せてくれと言ったら何故か「こんなに言ってもわからないのですか!」と怒られてしまったのだ。

 

 

 こんなに小さな村でもそれなりに良い出会いがあった。王都ではどんな出会いがあるのだろう。

 

 

 少し、楽しみだ。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。