この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

90 / 105


再投稿。







88話

 

 

 

 ※

 

 

「クッハハハハハ!ぶっ殺してやる?やってみろ人間風情がよ!

 いいぜ、どうせてめえのせいで目立っちまったしな、てめえを始末したらあの街もクソ教団もぶっ潰してやるよ!」

 

「………………………」

 

 

 俺に話しかけているらしいハンスを無視して考える。さて、どのような順番がいいか。

 

 

「………ん?なんだ、威勢良いこと言ってたわりにゃ腕組んでるだけかぁ?

 ビビってんならそう言えって、俺も怯えてる下等な人間にマジになったりするほど鬼じゃねえから」

 

「………………………」

 

 

 頸はいつでも取れるか。ならーー。

 

 未だ何かを喋っているハンスに近づき、とりあえず左腕を斬り落とす。

 

 

「………は?」

 

 

 何が起きたのか理解出来ない、というように地面に落ちた肩から先を見て呆けるハンス。そのまま力任せに留守になっていた右腕も斬り飛ばした。

 

 さぞこいつも驚いただろう。下等生物と煽りながらも油断なく俺の一挙手一投足に注目していたのにも関わらず、気が付けば両腕を失っていたのだから。

 隙があろうとなかろうと、反応されるよりも先に動ける俺には何の関係もない。

 事実、こいつの目には離れていた俺が近くに瞬間移動でもしたかのように見えたはずだ。

 

 冒険者としては一撃目で頸を落として早々にケリをつけた方が良いのだろうが、それでは俺の気が済まない。

 

 腕、次は脚。まずは四肢を奪って芋虫のように地を這いずることしか出来なくしてやる。

 そこから先は少しずつ、少しずつデュランダルで傷口を抉るように削っていってやろう。斬り落とした四肢の断面から肉を抉り出す時にこいつがどんな声を上げて泣き叫ぶのかが見ものだな。

 自身が下等生物と見下した人間()にもし命乞いでもしてみろ、その程度の地獄じゃ許さねえ。

 せいぜいあの女の子の数倍の苦痛を覚えながら死ね。

 

 さすがに魔王軍の幹部を張るだけの事はあるのか、俺が再び剣を翳しているのを見たハンスは腕を斬り落とされた動揺など微塵も感じさせない動きでそれに備える。が、悲しいかな、それを防ぐべき両腕は既に存在しない。

 腕が付いてりゃ盾くらいにはできただろう、まあそれをさせないように先に腕を落としたんだが。

 

 無茶苦茶に振り回したせいで腕の断面からかなりの量の血が飛び散っている。或いは目潰しのつもりであるのかもしれない。

 それが僅かに視界の妨げにはなるものの、目にかかるものさえ注意しておけばどうという事はーー

 

 

『バカか!避けろナッパァッ‼︎』

 

「ッ⁉︎」

 

 

 唐突に、俺とハンス以外の声が響き渡る。聞き覚えは無かったのでハンス側の仲間が居たのかと、攻撃を中断して横に跳ぶ。

 怒りで我を忘れて状況把握を怠るのはいただけない。両腕を潰しただけ充分な成果だろうし、一旦引くか。

 実際ちょっと危ない思考に走りかけた。冒険者はあんな事思わないし言わない。ここはクールダウンと行こう。

 

 ………それにしても妙な声だな。ヘリウムガス吸った後みてえな変な声だ。正直聴いていて気持ちの良い声とは言い難い。

 

 

「………む?」

 

 

 頭を冷やそうと深呼吸すると、僅かな異臭。見ると、今しがた血が飛び散った地面に生えていた雑草の類が根こそぎ枯れて、というか溶け落ちて微かに煙を発生させていた。

 

 

「何だこりゃ、ただの血じゃねえのか?」

 

 

 こんな一瞬で草木を枯らすとは、農家の人達がこぞって欲しがりそうな除草剤だな。その後に何かを植えても何も育たなそうでもある。

 というかこいつ、どんな血液してんだ。こんなモンが全身を巡ってて問題がない訳がないのだが。

 

 俺が人体の神秘に舌を巻いていると、腕を失くしたというのに平然としているハンスが感心したように。

 

 

「へえ、初見の奴あいてに今のをスカしたのは初めてだぜ。

 参考までにどうやって察知したか教えてくれやしませんかねえ」

 

「……斬った感触に違和感があったからな。取り敢えず警戒してたんだが、それが功を奏しただけだ」

 

「感触かぁ。確かにそいつは盲点だったな。自分の切り心地なんか試した事ねえし、いい教訓になった」

 

 

 勿論ハッタリだ。

 

 頭に血が上ってそのまま斬りかかろうとしていた俺は本来今のは避けられなかった。見るからに猛毒といったこんな物をあのまま浴びていたら死にはしないまでも怯み、かなりの隙を晒していたに違いない。

 それができたのは偏に突然聞こえてきたあの声のお蔭だ。一体誰が………。

 

 

『おっほ、オレの声が聞こえたワケでもあるまいによお躱したなマジで。見直したぞ』

 

 

 また聞こえた。今度はすぐ隣から。

 

 横目で確認すると、そこにいたのはいつもの『アイツ』だった。

 魔王軍や悪魔との戦闘時、いつの間にかそこにいて、いつの間にか消えている不思議な存在。

 姿をわかりやすく説明すると鋼錬のお父様を赤と黒のマーブル模様にしたような、はっきり言うと気色悪い色合いをした人影。

 ………というか。

 

 

「お前喋れたのかよぉ⁉︎」

 

『えっ』

 

「は?急に何だお前。普通に喋ってたろうが」

 

 

 ハンスが馬鹿を見る目で俺を見てくるが、今はどうでもいい。

 こいつ話せたんなら何で今まで俺が話しかけても無視してきたんだよ。そして何で今急に話し出したんだよ。

 しかも思ってた性格と全然違う。もっと寡黙な仕事人気質だと思ってたのに、聞く限りだと俺と大差無いぞ。がっかりだよ。

 

 そんな俺の様子をハンスは呆れたような、こいつからは何故か死ぬほど驚いている気配が感じられる。

 ハンスはわかるが何でお前が驚いてんだよ。

 

 

『いや……お、まえ、もしかしてオレの声が聞こえんのか……?』

 

 

 何言ってんだこいつ。聞こえなかったらこんな事言わねえだろ、馬鹿なの?

 

 当然の事なのでそう答えると。

 

 

『マ、マジで⁉︎やった!え、でも何で急に⁉︎』

 

 

 心底から喜んでいるのが伝わってくる声でガッツポーズをし始める。

 嬉しそうなところ申し訳ないのだが、こいつに対する俺のイメージが今まさに崩壊しつつある。勝手にイメージして勝手に失望するなどあってはならないと分かってはいるつもりなんだけれども。

 

 そもそもこいつはてっきり俺のことを嫌っているもんだと思っていたのだが、如何に。

 

 

『……お前のことは一部分除いたら嫌っちゃいねえよ。そいつはお前の気のせいだ』

 

「一部分嫌ってるなら同じじゃねえか。俺のどこがそんなに………」

 

「何一人で喋ってんだ?『死神』殿に妄想癖があったとは知らなかったね、これはいい土産話ができた。

 ……なあ、茶番はもう良いだろ?俺もそろそろ本気でお前を殺す事にしよう。お前を食ってしばらく成りすますのも良いなぁ……」

 

「どうぞご自由に。今はそれどころじゃねえんだよそっちで勝手にやってろ」

 

「……………」

 

 

 ハンスも何やらくっちゃべっているようだが、聖徳太子でもない俺は二人の言葉を同時に聞き取る事などできない。

 どうせ両腕は抑えてあるんだ、大した事も出来ないだろうし、こちらに攻撃してきた場合のみ対応させてもらおう。それよりも今はこいつの件だ。

 

 

「そんで?さっきのは助かったけど何で急に俺に声掛ける気になったんだよ。今まで俺の事なんざシカトぶっこいてたクセにさ」

 

『はあん⁉︎オレがシカト⁉︎ンな勿体無いことするか!お前に十八年近く誰とも会話できない寂しさが………いやいや違う、こうじゃないな。俺の声が届くなら言いたい事は山ほどあるが、とりあえず。

 お前怒るのは良いけどちったあもちつけよ』

 

「ぺったんぺったん」

 

『………ごめん間違えた、落ち着けよ』

 

 

 あ、今のネタ振りじゃなかったのね。

 

 どうやらこいつは俺が怒りで周りが見えなくなっているので肩の力を抜け、という事を注意したかったようだが、さっきまでの緊迫感はクールダウンした事とこいつが話し出した衝撃で抜けてしまったので、言うのが少し遅かったと言わざるを得ない。

 そのクールダウンの機会はこいつの声がなかったら来なかったかもしれないので、そこはありがとうございます。

 

 

『あ、そう。ならそこは省いて聞くけどよ、お前どうやってアイツ、あのハンスとかいう奴を殺すつもりだ?

 気づいてんだろ。アイツにゃお前の剣、効いてねえぞ』

 

「………まあそりゃな」

 

 

 腕からの出血を攻撃として利用するくらいだ。その後も平然としている時点で俺の予感は当たっていたのだろう。

 

 ハンスには物理攻撃は全く効果が無い。

 

 

 つまり、攻撃手段が物理オンリーの俺にはどうこうする手段が存在しない。いわゆる詰みって奴だ。まるで将棋だな(二回目)

 腕が斬れたのに効いてないも何もなさそうなもんだが、この落ち着きようを見るに何か奥の手を持っているのだろう。無論俺にそれをどうにかすることは出来ない。

 

 ただし、それは本来であればという注釈が付く。

 

 

「ちゃんと方法はあるっての。多分このスクロールはこの時に使う為にあるんだろ」

 

『スクロール………ああ、あの悪魔がくれたヤツか』

 

 

 正直使いたくはない。いつかのために取っておきたい気持ちはあるが、ここで使わなかったら機会が訪れるとも限らない。

 使う機会があったとしてもエリクサー病で宝の持ち腐れになる可能性もあるわけだし、だったらここで素直に使うさ。

 

 

『なあ、なあ。オレはそのマジックスクロールに何の魔法が入ってんのか知らないけどよ』

 

「うん?」

 

 

 一発で決めてしまうのはやはり勿体無い。気が晴れないというのもあるし、効かないにしてもハンスにはもう少し俺のサンドバッグになってもらいたい、とスクロールを弄り、邪な事を考えながら生返事する。

 そういえばハンスはどうしたのだろうか。今から本気出す、みたいな事を言っていたのに一向に手を出してくる様子が無いのだが。

 

 

『その魔法ってのはこんなのも一撃で何とかできる代物なのか?』

 

「………うん?」

 

 

 さっきからこっち、話している最中もハンスから目を離さないでいたらしいこいつが相も変わらず変な声を若干震えさせながらそう言う。

 不思議に思った俺はその目線……目がどこにあるのかは分からないが、それを追っていきーー絶句する。

 

 そこにあった(・・・)のはとても生物とは思えない異形。

 全体的に紫色をした、毒々しいを通り越して最早禍々しくすらある、何とも目にお優しくない色彩。

 輪郭はプルプルと震えており、それだけ見ればまだ可愛げがあると言えるかもしれないが、そんな事は問題ではない。何より目を引くのはまずその大きさだ。

 

 デカい。デカ過ぎる。今まで遭遇した相手の中で最も巨大だったのは何かと訊かれれば、俺は胸を張って起動要塞デストロイヤーだと答えるだろう。アレに並ぶ物はちょっと思い付かない。

 では遭遇した中で一番大きい生物は何かと訊かれた時、今までは旅に出て最初に出逢ったフレイムドラゴンと答えたはずだが、どうやらそれは更新されたようだ。

 

 元の体長からは数十倍、体積に換算すると数百倍は優に超えるのではないだろうか。

 今や軟体でどうやってこれだけの自重を支えているのかに疑問を抱くレベルにまで巨大化し、すっかり容姿を変貌させた魔王軍幹部ハンスさんがそこに泰然と、山のように聳え立っていた。

 

 実物を目にした事はないが、王都で聞いたことがある。こいつは確かーー

 

 

「『デッドリーポイズンスライム』か……⁉︎」

 

 

 大まかな特徴は合致する。だが、ここまで大きいとは噂にすらなっていなかったぞ。こんなものが自然界に存在すればそれだけでパワーバランスが崩れてしまうだろう。ということは、突然変異した個体と考えるのが妥当か。

 

 

『おい、大丈夫なんだよな?そのスクロールで倒せるんだよな?』

 

 

 色合い的にはハンスとどっこいの気味の悪い色をしているのに、目の前の威風堂々とした軟体にビビっているのか、不安がるように何度も確認してくる。

 

 俺はこのスクロールに入っている魔法を王都で直接見た事がある。

 使用者はかなりレベルの高い『エレメンタルマスター』だったが、ウィズの魔法を閉じ込めたこのスクロールよりは数段劣るだろう。

 しかしその上級魔法は村を出たばかりの俺にとっては初めて見た本物の大魔法であり、その強力な威力は今でもはっきりと憶えている。

 

 魔法の威力、ウィズの実力、目の前の超巨大軟体生物の特性、それらを加味した上でその質問に答えると。

 

 

 

 

「……………………………無理」

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。