この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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89話

 

 

 

 ※

 

 

「『裂空』!」

 

 

 叫びながら斬撃を放つ。縦、横、斜め、縦横無尽、十重二十重。

 並のモンスターなら一つでも受ければその部位の分だけ体重が軽くなるだろう斬撃だがーー

 

 

「………うん、はい」

 

 

 結果は全て同じ。ドポン、と濁った音を鳴らして、目を離した隙にスライムお化けと相成ったハンスから僅かに紫色の飛沫を上げるにとどまった。

 

 それに反応したハンスが身体の一部を触手のように伸ばして俺を目がけて叩きつけるように振るってくるが、二、三度横にステップを踏めばもう当たらない。

 一部といえども大きさが大きさだ。動きが鈍いから余裕を持って躱せるが、これで素早かったりしたら普通に死ねるだろう。

 逆に言うとそうでない限りは直撃する心配のない生易しい攻撃でしかない。

 触手が命中した地面から跳ねる飛沫と鼻に付く焦げ臭い匂いに顔を顰め、視界を振り切りながらハンスの反対側へ回り込む。

 

 どうもこいつはこうなってから理性が無くなったというか、頭が悪くなった印象を受けるな。一度俺の姿を見失うとしばらく動きを止めて探す素ぶりを見せてしまうのだ。冷静に考えれば後ろにいる事くらいは理解できるだろうに。

 まあそのおかげでこうして一息つく暇があるのはまことにありがたい事なのでもっとやれ。

 

 

「しかしこれもダメか。もう俺の攻撃方法全滅だな、どうすんのこいつ」

 

『その前にいいか?『裂空』てなんぞ。見たとこ今までも使ってたかまいたちと変わらない件について』

 

「かっこいいだろ、空を裂くと書いて『裂空』。いつまでもかまいたちとかじゃダセェなと思って密かに考えてたんよ」

 

『自分で名前を考えてる時点で痛々しいと思うんですけど(名推理)』

 

 

 それは言わないお約束なのよ。

 

 しかし参ったな。負ける要素は思い付かないが、勝てる要素も同様だ。手持ちのマジックスクロールが一つしかない以上、駄目元でブッパするわけにもいくまい。

 

 

『紅茶キメてマーマイト舐めれば良い案が浮かぶかもよ』

 

「パンジャンパンジャンパンジャン」

 

『この世界でもパンジャン万能説は有効なのか(困惑)』

 

 

 ………イヤイヤ、ついノっちゃったけどふざけてる場合ちゃうぞ。

 ついでに言うとこの世界には紅茶はあってもマーマイトは無いし、パンジャンドラムに至っては日本でも知ってる人間限られるからな?

 

 

『へへ、悪い。自分のネタが拾ってもらえるってのがこんなに嬉しいとは思わなかったからよ。

 マジレスすると、爆発ポーション連打じゃダメなのか?アレは結構いい感じだった気がするが』

 

「結局パンジャンを転がせと?随分な信者もいたもんだな」

 

『それはもういい』

 

 

 確かにウィズ印の爆発ポーションに俺が改良を加えた、超強化炸裂ポーションの効果には目を見張るものがあった。あの巨体を怯ませ、身体のかなりの部分を文字通り吹き飛ばして見せたのだ。

 その分破片を避けるのが大変だったが、あれを主軸にできれば活路は見出せるだろう。あくまでたらればの話だが。

 

 

「はいここで問題!俺はこの街に何しに来たでしょーうか!」

 

『………………あっ』

 

 

 気付いて頂けたかな。

 

 俺は今回旅行のつもりというか、実際に旅行として来たのだ。必然、荷物などもそれに準ずる形でしか持ってきてはいない。一応、念の為という形式で炸裂ポーションを数個ほど懐に入れてあるだけだ。

 ここに来て痛恨の準備不足とか傭兵の名が泣いてるぜチクショウ。責められるものなら責めてみなさい(ヶ原ボイス)

 

 

『あと何個あんの?』

 

「………さっき一個使ったから残り四個」

 

『きっつ。要所要所で使ってたらすぐ枯渇しちまうじゃねえか』

 

 

 もう一度、ハンスに向かって何度か斬撃を飛ばす。そして同じように効果が無いことを確認し、ハンスからの反撃を誘発させながら溜め息を漏らした。

 

 

「せめてジャティスから貰っておいたスクロールも幾つか持ってきてたら仕留めることも出来たかもしれねえのになあ。

 嵩張るし、絶対使わないと思ってたからしょうがねえってのはあるが、どうしようもないか……」

 

逃げれば(・・・・)?』

 

「……………」

 

 

 思わず、動きを止めてしまう。

 

 こいつの声からさっきまでとは違う、挑発的な響きを感じたからだ。

 

 

『今朝カズマ君にも言ってたろ。『どうしようもないなら逃げればいい』ってな。どうしようもないんだろ?今がその時じゃねえの?』

 

「………ふむ」

 

 

 試すような口振りで話すこいつの顔を見てみる。

 目も鼻も無く、口しか付いていない顔では何を考えているかはわからない。なんかマーブル模様が蠢いてるからか、気のせいか吐き気もしてきた。

 先ほどからの言葉の端々を察するに、こいつは俺の目に見えていない時でも俺の近くにいるらしいな。サーヴァントで言う霊体化みたいな物だろうか。

 今のこいつが実体化している状態なのかは疑惑の判定だが。

 

 それはそうと状況を鑑みてみよう。

 攻撃はほぼ意味を成さず、相手からの攻撃は恐らく一度でも直撃すれば絶命。今のところそんな気配は無いが、もしかしたらこいつにまだ隠し球がある恐れだってある。

 なるほど、現実的な選択肢として逃げ回るってのはアリだな。

 

 

『言い方が悪かったか、勝てないと思ったら逃げろ。お前の考え方は間違っちゃいねえ。

 こいつが幹部である以上いつかは倒さなきゃいけないが、それは今じゃなくても良いだろ』

 

「……………」

 

 

 思い出すのは目の前で救えなかった女の子。あの時の怒りを忘れた訳ではない。

 だが怒りで目を曇らせ、勝てない戦に挑むのは最悪。かつてそれで滅んだ国だってあることを俺は知っている。

 それを踏まえ、状況と俺の状態を内観して、決める。

 

 

「よし、逃げるか(・・・・)

 

『………そうか』

 

 

 その声から伝わってくるのは僅かな失望と安堵。

 

 失望させるのは申し訳ないが、だって俺一人じゃ勝てないんだからしょうがないじゃん。安堵の方は意味わからん。

 

 

『いや、良いんだ。今お前に死なれたら困るのは確かだしな。

 お前は気にせず街から離れる方向に逃げりゃいいよ。オレだってあいつを相手にするのが厳しい事ぐれえわかってら』

 

「は?街から離れてどうすんだ……よ!」

 

 

 ハンスが何故か街の方向へ動き出そうとするのを食い止めるように『裂空』を乱打する。なんか嫌な予感がするな。今こいつ、俺を無視しかけたぞ。

 後方から斬り続けるとようやく、といった感じで方向転換して俺を狙い始めた。

 こんな猛毒の塊みたいな奴が街に突っ込んだらシャレにならんからな、ここで何とか動きを封じておかんと。

 

 

『どうって、逃げるんだろ?』

 

「おう、逃げ回るよ」

 

『…………?』

 

 

 あれ?こいつもしかして頭悪い?街から離れたらハンスをどうやって倒すんだよ。

 

 

『こいつを倒すのは諦めたんじゃないの?』

 

「……あ?あーあー、そういうことか」

 

 

 どうやら情報の伝達に齟齬が発生していたようだ。

 

 こいつは俺が自分の命惜しさにこの場から逃げ出すとか思っていたのだろう。ちょいと俺を見縊り過ぎだな、おじさん哀しいわ。

 つっても確かに今の俺の発言はあいつを倒すのを諦めたともとれそうだな。

 

 ある意味でそれは正しい。俺は確かに「俺一人で」倒すことは諦めたからな。

 本当なら誰も巻き込まずに一人で何とかしたい。でも相性の問題でそれが出来ない。だったら他人の手を借りるくらい別に良いだろう。

 あの街には人が多数いる。もしかしたらクリスや他のメンバーだってまだカズマと合流出来ずに、この事態に気付いていない可能性だってある。

 こんな時に何もかも投げ捨てて逃げるようなら最初っから冒険者になんざなってねえ。馬鹿にすんのも大概にしとけよ。

 

 

『でもお前、デストロイヤーん時に逃げようとしたじゃん。街の人見捨てて』

 

「街の人は見捨ててねえよ。それにデストロイヤー相手は仕方なくない?あの時は絶対勝てないと思ってたから今とは状況が全然………ってこんのっ……⁉︎」

 

 

 まただ。ハンスが俺を見失ってすぐに街へ、何かに引き寄せられるように進行しようとする。

 

 こいつ何だよ。何が目的で目の前にいる俺を無視すんだ。いや視界を振り切ってんのは俺なんだけど。

 

 今度は『裂空』だけでは止まりそうになかったので先回りして視界を誘導するように移動し、虎の子のポーションをハンスを街から遠ざけるように地面に叩きつけた。

 爆風に煽られ俺に煽られ、再び意識を俺に戻したハンスの、少し激しくなった触手の動きを見切りながら会話を続ける。

 

 

「あの時は絶対勝てないと思ってたからそこは容赦っ!してくれよっとぉ!危ねええっ!

 ふぅ、けどこいつにはめぐみんかアクアのどっちかが来ればまず勝てる。俺の役割はそれまでこいつを引きつけて、合流したらトドメをぶっ放すことだ」

 

『なんか策でもあんのか』

 

「応ともさ。『エクスプロージョン』、またはそれ級の最上位魔法をぶち込んでやらあ。

 ……ひぃ、急に動いたからちょっと疲れたな……」

 

 

 俺の考えが正しいなら、こいつを今の大きさの半分程度にできりゃあ俺が持つマジックスクロール単体でも倒せる。

 いくら最強最大の威力を誇る爆裂魔法でもこんだけデカい相手だと全て消し飛ばすのは簡単ではなかろうが、そのくらいならできるだろう。

 めぐみんで身体の半分ぶっ飛ばしても良いし、アクアが来れば削らなくてもこいつを一撃で止める魔法も創れる……はずだ。

 独学で王都で学んだ、最上級魔法になるはずだった(・・・・・)魔法の簡易版の御披露目だな。ヒュウ!なんかテンション上がってきたぜ!

 

 

『………へへへ、そうかい。そいつは悪かったな。まあ逃げないってんなら是非もねえ、オレも最後まで付き合うぜ。

 ………つーかお前なんで息切れなんかしてんだよ』

 

「なんでってなんだよ(哲学)。お前こそ俺をなんだと思ってんだ。

 俺だって人間、動けば腹も減るし疲れもするさ」

 

 

 少し動き回ったせいで切れた息をゆっくりと元に戻しながらそう言うと。

 

 

『………ちょっと待て、その理屈はおかしいだろ。三日三晩休憩ナシの飲まず食わずでオークの大群にゲリラ戦挑めるお前がこの程度でか?

 大体、デストロイヤー戦以降お前がまともに息切らしたとこなんか見たことねえぞ。王都とアクセル一日に五往復した時だって、走りながら歌う余裕すらあっただろうが』

 

「………………………」

 

 

 ……言われてみるとそうだな。なんで今日に限ってこんなに呼吸が乱れるんだ?

 心なしか息苦しい気もーー

 

 そう思った瞬間。

 

 

「ごっ⁉︎ぶっゔぇ………ぇえ……!」

 

『おいっ⁉︎』

 

 

 唐突に。凄まじい吐き気と眩暈から膝をついて嘔吐してしまう。

 

 なんっだこりゃ………⁉︎まずい、立っていられない、まだハンスは俺を認識してるってのに……!

 

 

『後ろに跳べ!猶予は五秒ある、焦るな!気合い入れろ!』

 

 

 俯いているせいで見えないが、相当に切羽詰まった声でよく分からない指示を飛ばしてくる。なんだ五秒って。

 いやそれよりちょっと待ってくれよ、これマジでキツイぞ。気合いで何とかなるってレベルじゃ………、

 

 

『そうやって『足踏みしてるだけじゃ進まねえ』‼︎』

 

「ぉ男ならぁぁぁあああああああ‼︎」

 

 

 弱音で萎みそうになる心に炎が灯り、叫びながら足元を蹴り飛ばす。

 余裕が無かったせいで加減が効かず、蹴った地面から爆発したように土が捲き上るが、それが却って目くらましになってくれるだろう。

 俺はというと反動で付近に生えていた大木の、葉が生い茂る枝々に上から突き刺さる形で突っ込んで難を逃れていた。

 

 勢いで叫んじゃったけどこれ大丈夫?JASRACとか光の国とか。そうでなくても存在を消されたりしない?

 

 

『何、オレはただセリフ言っただけでリズムなんざ取ってないし、それ言い始めたら大抵の作品のセリフが何かしらの曲の歌詞とかぶるだろうし、これで咎めるのは無理だぜ。

 それに光の国は金さえ取らなきゃ著作権とかにはわりと寛容だってばっちゃが言ってた。夢の国も本来はそのはずなんだけどな………っつーかお前どうしたの。病気か?らしくねえじゃん』

 

「オロロロロロロ………」

 

『………内臓が傷んでるな。主に胃腸……肝臓もか。外部からの衝撃が原因じゃなさそうだ。なんか変なモンでも食ったか?あいつの身体に触れてはいないし、それとは無関係だとは思うが………』

 

「み、見ただけで、分かるもんなのかそれ………?」

 

『昔取った杵柄ってヤツだな、人体にはそれなりに詳しいんだよ』

 

 

 と、自慢気に話す言葉を半分くらい聞き流しながら何か思い当たることが無いかを考える。

 こいつの言う変なモンには当然心当たりなどない。そも、俺は旅をしていた頃なんかはマトモな食事をする機会もあまりなかったのだ。その頃に比べれば、例え口にする物が腐っていようと大した問題ではないと思うのだが。

 

 

「………ハンスに触れてないから無関係、ってのが間違いなんじゃね……?」

 

『ほう、その心は?』

 

「いや、謎かけとかじゃなくて」

 

 

 ハンスが猛毒の塊であることはもはや疑いの余地もない。そしてハンスから飛び散った破片も例に漏れないだろう。

 ならば、その毒によって溶かされた物。そこから燻っている煙などはどうだろうか。

 

 

『………ガスか!いや、だとしたら何で肺には異常ねえんだ?』

 

「知らん。あくまで可能性の一つとしてだからな。っあー、ちょっと楽になってきた………」

 

 

 その煙も毒性を帯びているのは充分に考えられる。実際、最初期から異臭として漂ってるしな。

 

 しかし提示したはいいが毒ガスが原因説は正直勘弁願いたい。俺としては拾い食いして腹でも壊れてた方がまだマシだ。

 

 何故って、まだハンスと開戦してから半刻も経っていないのである。

 それでこのザマなのに、今からハンスをいつ来るかも知れない援軍が来るまで引きつけなければならないと来たもんだ。

 今日は風があまり吹いていないため、毒ガスの類が発生しているとすれば必然的にこの周辺に充満してくるだろう。イコールで俺氏、絶対絶命の大ピンチ。ちなみに誤字じゃないぞ、マジもん。

 

 

『ヤバくね?千空大先生にガスマスク作ってもらわねえと』

 

「千空大先生は今御前試合で忙しいから来られないってよ」

 

『はぁ〜、つっかえ!ほんまつっかえ!……っと。おい、ハンスがまた街の方に………』

 

「……………わかってるよ」

 

 

 ハンスが俺を見失い、再び街の方角へ進み始めた。いつまでも休憩してる訳にもいかない。

 

 仮に毒ガスがあの嘔吐の原因なのだとして、楽になった理由が戻して毒物が体外に排出されたからか、それともこの木の側までは汚染されてないお蔭なのか。それはわからないが、とりあえずハンスを相手にしていれば間違いなくぶり返すだろう。

 それでも、初志貫徹ってのは大事なことだ。

 

 

『………なあ、不謹慎なのは承知でさ、今の現状を表す上でわりと的確な例えが浮かんだから言っていい?』

 

「言うだけならな」

 

『フィールドからベースキャンプまでが全域毒沼と化した砦でG級ラオシャンロンを制限時間内に討伐せよ。ちな裸に回復薬の持ち込み禁止で』

 

 「……それクリア出来る奴いんの?」

 

 

 

 

 いきなり心が折れそうになったのは内緒。

 

 

 

 

 

 


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