この素晴らしい嫁に祝福を!   作:王の話をしよう

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92話

 

 

 

 ※

 

 

 ハンスがその巨体から触手を数本、数十本伸ばして俺を狙い、周囲に酸性雨なんか目ではない毒性の雨が降る中、それらを斬り落とし、切り離し、躱し、いなし、掠らせもせずにステップを刻み続ける。

 

 

「ヒャッハァ!どうしたオラ!何だよ、全然当たんねえじゃねえかァ!」

 

『何やってんだよ団長‼︎』

 

「ランナーズハーーーーイ‼︎」

 

 

 心は何のしがらみも忘れ、『もう何も怖くない!』と叫びたくなる程に軽い反面身体は非常に重く、スピードなんかはいつもの半分あればめっけもんといった最悪のコンディションではあるが、想像していたよりも体力の消耗が遅い。

 もしかしたら俺の身体がハンスの毒に対抗して免疫でも付けてくれたのでは、と内心で舞い上がっていたのも束の間。

 

 

「ぅぎゅっ!ッハァ、ハァ、何じゃあ⁉︎」

 

 

 いきなり、プツン。と何かが切れたように両脚が微動だにしなくなってしまった。

 

 勢い余って毒塗れの地面とキスしちまいそうになったぞどうしてくれんだ。

 

 

『脚?脚がどうしたって………うげっ、お前両脚が腐りかけてんぞおい‼︎』

 

「そマ⁉︎」

 

 

 マジでか。毒がばら撒かれた地面を踏み砕いたりしてたらいつかは脚にも毒が浸み込んでそうなるかもなーそういや最初ジクジク傷んでたのに今は感覚ねえなーとは思ってたが………。

 

 

「ここでかよ」

 

『いやお前それは早く言えよ‼︎』

 

 

 言ったところでやる事には変わんねえんだから言ったって仕方ねえだろ。それよりもうハンスさんが完全に俺にトドメ刺そうとしてるんですけどどうすんのこれ。

 

 ハンスが触手をゆっくりと一際大きく束ねていく。俺はもう動けないんだからわざわざあんなことしなくても。オーバーキルは無駄が過ぎるってキリトさんも言ってますよ。

 

 

『……チィ、五秒!ここまでだ腹ぁ括れ!』

 

 

 五秒、ってのはあの触手が俺に振り下ろされるまでの時間か?充分過ぎるね。

 

 当初の予定、というか目標はハンスの体長を半分以下にすることだったが、それには遠く及ばない。物理が通らないなりに触手を切り離し、ポーションも全て使った。それでも精々が五分の一削ったか削らないかくらいか。この状態ではマジックスクロールを発動させても難なく抜け出されてしまうだろう。

 しかし今まで支えてきてくれた俺の脚が先に音を上げちまっちゃあどうしようもない。だって動けないんだもん。

 何もしないよりはマシだからと開き直って逝くとしますか。

 

 既に自分の命に見切りを付けていた俺が最終兵器を取り出そうとした、まさにその時。

 

 

「ゼローーー!!!!」

 

「うぇっ⁉︎」

 

 

 残り五秒、声が響く。反射的に『スイッチ』を切り替え、加速する思考の中でその声の元、こちらに走ってくる面々に目を向けた。

 

 めぐみん、カズマ、ダクネス、アクア。あいつら来てくれたのか。

 その中にクリスの姿がないのは流石と言うべきか、あいつは俺の事をよく分かってくれているらしい。嬉しいーーー嬉しい?

 

 ………いや、いやいや。一瞬喜びかけた俺をぶん殴りたい。よりにもよって今、このタイミングで来ることないだろ⁉︎来んならもっと早く来るか遅く来るかしろよ!

 

 最悪のタイミングと言っていい。これで選択肢が出来ちまった。

 

 ①気にせずスクロールを使う。

 ②めぐみんに手助けを請う。

 ③アクアに手助けを請う。

 この三つだ。どうする………⁉︎

 

 残り四秒、考える。

 この場で一番選びやすいのは①だ。こいつらが来なければこれしか出来なかったのだから是も非もない。ただし確実性に欠ける。仕留め切れないのなら他の選択肢がある今、無理に選ぶ必要がない。

 ②は出しといてなんだが正直論外だ。ここで爆裂魔法なんか使ったら動けない俺も一緒に吹っ飛んじまう。ハンスに対して最後の行動を起こせなくなっちまう。

 

 残り三秒、考える。

 そうなると確実にハンスを倒せるのは③だ。しかしこれを選ぶと被害範囲が爆裂魔法の比ではなくなる。最悪アルカンレティアやカズマ達にまで被害が及ぶかもしれないという難点もあるし、それ以前にアクアに呼び掛けても俺の言うことを聞いてくれるとも限らない。俺だって誰かに助けを求められて当意即妙出来るかと聞かれれば怪しいしな。

 

 残り二秒、焦る。

 というかどれ選ぶにしても時間が足らな過ぎる!今からあいつらに声かけても魔法の詠唱が終わる頃には俺は胃袋ん中だぞ⁉︎

 唯一、①だけは俺だけで完結できるから間に合うかもああああこんな事考えてる暇だって無い!時間よこせ時間!

 

 どうする、どうするどうするどうする‼︎

 

 焦り、焦る、その中で。思考加速が為された俺の頭は今までの経験から答えを弾き出してくれる。

 ………なるほど、改めて考えるまでもなくこれしかないな。クッソ冷静かつ冷酷な判断、誇らしくないの?

 

 残り一秒、もうハンスが限界まで触手を振りかぶっている。が、問題は無い。一秒あれば行動に移せる。

 

 時間が足りない?なら作れば良いだろ。簡単な理屈だ。

 

 

「今まで………ご苦労さんっとぉ‼︎」

 

 

 動かない身体を捻り、腰と腕でデュランダルを脚元に振るう。そうして出来た二本の『餌』を剣の腹を使ってハンスにシュート。

 ボチュン、と沼にデカい石コロを投げ込んだような音と共にハンスの動きがピタリと止まった。これで数十秒くらいは保つだろう。

 

 

『馬鹿野郎何してやがる‼︎おまっ、脚を………っ‼︎』

 

「ど、どうせ動かせねえんなら、最後まで俺の役に立ってもらうさ………!」

 

 

 憶えときな。命を投げ捨てる覚悟ってのはこういう事を言うんだ。少し違うかもだが。

 神経まで腐ってたのか、痛みはあまり感じなかったが喪失感がヤバい。脂汗を垂らしながら俺そっちのけで咀嚼するように全身を蠢かせるハンスを見やる。

 

 最後の晩餐は美味いか?手間ぁかけさせやがってクソが。

 

 時間は出来た。あとは選択肢の件だが、もう一つに絞れてるようなもんだな。

 

 

「アクアァァ‼︎水出せ水‼︎このデカブツにぶっかけてやれ、今度ぁ加減は要らねえっっ‼︎」

 

『アクアさんのぉ!ちょっと良いトコ見ってみったいぃぃぃっ‼︎』

 

 

 存在しない太腿から先の慣れたくない感覚に上げそうになる叫びを声に変換して発し、俺の意図を察したらしいこいつもそれに追随する。選んだのは③だ。

 それに対してカズマ達は迷うように足を止めたが、カズマが二言三言アクアに何か言うと。

 

 

「『セイクリッド・クリエイトウォーター』‼︎」

 

 

 アクアが俺が待ち望んでいた魔法を使った。

 上空に突如出現したハンスの全長をも遥かに超える巨大水球がハンスと、近くにいた俺を直撃するコースで降りてくる……と言っても体長の差で先にずぶ濡れになるのはハンスの方である。

 アクアの『セイクリッド・クリエイトウォーター』は王城で一度見ているが、頭上の物はそれよりもかなり大きい。あの時は本当に本気じゃなかったようだな。

 

 最高だ。最悪のタイミングで登場して最高のパフォーマンスとは、流石にエンターテイナーを自称するだけはある。名乗っていた事があったかどうかはうろ覚えですけどね。

 水球が落下して俺に触れる前にデュランダルを地面に突き刺し、スクロールを開く。片腕のみの扱いも段々慣れてきてんのは皮肉というか何というか。

 

 あとは発動して終わりなのだが、一瞬だけカズマ達を心配する。正直ここまで大量の水を用意されるとわりと接近してしまってるあいつらは確実に巻き込んでしまうのだが。……まあそこはダクネスがどうにかするだろ。タンクとしての性能は折り紙付きだ、信用してるぜ。

 今さら気にしても仕方なし、もし被害に遭っても魔王軍幹部の命と引き換えという事で手打ちにしてもらおう。

 

 

『よお、確認する必要ねえだろうが一応訊く。……本当に良いんだな?』

 

「当然。死ぬのが怖くて生きられるかよ」

 

『お前のそういうトコが嫌いだってんだ。………ま、話せたのは短い間だったが楽しかったぜ』

 

 

 それきり静観の姿勢を取る赤と黒の影。多くを聞かれないのは非常に助かる。

 もう水がすぐ目の前だ。ハンスの全身はほぼ余す事なく水球に包まれている。そろそろ頃合いだな。

 

 開き直り、スクロールを発動させる。

 

 さあーーー技を借りるぞ、見も知らぬ日本人。カズマ、ミツルギ。そして隣に立つ、こいつと同郷の男よ。

 

 

 

 

最上級複合魔法(・・・・・・・)ーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 ※

 

 

 俺は故郷のアルマ村にいた頃、必死になって魔法を勉強していた時期があった。

 親父が凄腕の『エレメンタルマスター』だと言うのだから、もしかしたら俺にも魔法の才能があるのではないかという淡い期待を抱いていたのだ。

 ……結果としてはその希望は完全に見当違いだった訳で。というか保有する魔力の量が一般人と比べても最低クラスってどうなのさ。

 まあそんな訳なのだが、勉強はしておくに越したことはない。幸いにも元冒険者のお袋がいたために標準的な知識については事欠かなかった。

 しかし、お袋の知識は所詮冒険者として活動していた頃に体験した事の集合体。お袋が直に体験していない物事は当然ながら俺も知る機会がなかった。

 そんな俺は旅に出てすぐ、紅魔の里にて早速未知の魔法に出会う。誰あろうめぐみんの十八番、爆裂魔法だ。ちなみにこの時には名前しか知らない。

 

 話は変わるようで全然変わらないのだが、ここでカズマの話に移らせてもらうとしよう。カズマは初級魔法と初級魔法を組み合わせ、より大きな効果を得るという発想をよくする。『クリエイトウォーター』と『フリーズ』を同時に使って中級魔法レベルの氷を作り出す、などなど。

 この世界ではこの考え方は非常に珍しい。何故って、初級魔法を使って中級魔法を作るのなら中級魔法を覚えた方が圧倒的に効率が良いからだ。そんな創意工夫に時間を使うのならもっとレベル上げてさっさと上位の魔法を覚えろというのが通例。

 

 けれど過去、先人達がそういった発想を全くしなかったのかというとそうでもない。ちゃんとそういった概念は『複合魔法』という形で記録されており、その最たる物が爆発系統の魔法である。

 爆発系の魔法は火属性や風属性の様々な属性魔法を組み合わせて破壊力を高める事に成功したのだ。

 初級同士で爆発魔法。中級同士で炸裂魔法。そして上級魔法同士を組み合わせた、爆裂魔法。

 

 所変わって王都。紅魔の里で爆裂魔法なる複合魔法の存在を知った俺は暇を見つけては王城の、俺が閲覧しても問題ない書庫でより詳しく調べるようになった。

 そうして複合魔法について調べるうち、爆裂魔法と対を成すかもしれなかった魔法が存在し、どうやら日本人の男性がそれを開発したらしい、と記された文献を見つけたのだ。

 日本人だと断言する理由は、まあ開発者の名前が完全に日本の物だったからなのだが。

 どうもその日本人は今から二十年以上前の、俺がよく知る国王様の前任者の時代に活躍した『エレメンタルマスター』で、その魔法を開発して名前まで付けたは良いが、いざ国に認可してもらおうという段階で国王が現国王に代わり、それに伴って認可する魔法の基準が変わってしまった為にご破算になったらしく、そのまま御蔵入りとなったようだ。不憫な話であるのは間違いない。

 

 さて、時は現在に戻り、今俺が所持しているマジックスクロール。この中には上級氷結魔法『カースド・クリスタルプリズン』が入っている。かつて『氷の魔女』と呼ばれたウィズが最も得意としたとされる魔法だ。

 この魔法は、周囲が乾き切った大地であろうと一瞬で巨大な氷柱を創り出すほどに強力な効果を持っている。まさに『水の無いところでこれほどの水遁を⁉︎』と言った感じだ。最高峰の実力を誇るウィズの魔法であればその威力も一塩だろう。

 

 その男は水が無い場所でそんな効果を発揮出来るなら、じゃあ水を大量に用意すればどうなのだ、という狂気に片足を突っ込んだ発想からこの魔法を考え付いたとされている。

 なるほど、上級魔法同士を組み合わせるならば同じように上級魔法を使った爆裂魔法と対を成すと言われるのも納得がいく。そもそも認可されていないのでは話にならないというのはこの際目を瞑ろう。

 

 そう、この状況、このタイミングなら。国から認められなかったその魔法を再現できるという事実は変わらないのだから。

 最高の実力を持つアクアの魔法と、これまた最高の実力者であるウィズの魔法を同時に使う。贅沢にも限度があるな。

 

 

「最上級複合魔法ーーーーー」

 

 

 この魔法名はよく憶えている。どこか親近感を感じる名前だったし、ゲームや特撮で度々見る名前だからな。多分開発した男もその辺をイメージしたんだろ。

 

 大量の水が俺を押し流す。所々が欠損し、体重が軽くなっていた俺はその流れに逆らわずに吹き飛ばされながら、スクロールを構えてはっきりとその名を口にする。

 

 

 

 

 

 

「『アブソリュート・ゼロ(絶対零度)』………‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 






『アブソリュート・ゼロ』

二十年以上前、とある『エレメンタルマスター』が開発した、国からは認可されていない魔法。
その『エレメンタルマスター』は後に生まれ来る自身の子供にこの魔法から名前を取って付けたと言われているが、事実確認が出来ていない以上余談の域は出ない。



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