旭日は夢と散る   作:ククルス

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200文字追記、修正。(18.1.22)


幕間 三笠…出会い(改訂)

1926年-3月 横須賀港 三笠

 

私が一夜と出会ったのは偶然であり、または必然であった。

第一次世界大戦、日露戦争で華々しい戦果を獲得し幾年かの時を経て軍籍から除かれた私は記念艦として横須賀に繋留された。

 

私自身、諸外国の軍艦と比べ、未だに一線を張れると自認していたが海軍省を含め軍部の認識は違ったらしい。

武装はそのままに、燃料弾薬を除装され遂には軍艦旗までが下げられた時の失意は忘れようもない。

 

艦娘対応型ではない旧型駆逐艦らが未だに現役であるところを見るに戦闘能力の如何はともかく私や、私たち艦娘に対する不安。

そういったものが影響していることは疑いのないようのない事実だった。

 

むしろ、戦績のおかげで解体を免れているということを思えば、幸運であろう。

 

そう、自らに言い聞かせながら日々をただただ無為に過ごしていた。

そんなある日のことだ、あの赤子。一夜に出会ったのは。

 

私に与えられた仕事は単純で観光客に対する案内などではなく、ただ自らの管理のみ。他者との接触もなくなれば人間らしさも欠如していくのが自覚出来るものだ。私は人間ではないが、完全な機械でもない。学び忘れ、感情を抱く。独り言が増えた期間もあった。

 

結果、望まなければ不要ですらある人間らしい生活、即ち食事や睡眠といった行動すら排除し最近では昼夜問わず休眠することが増えていた。時間は段々と伸びていく、目覚める頻度も少なく…。

 

——このまま、私は死ぬのかも知れない。

 

諦観に包まれ、また目蓋を閉じる。そんな時だ。

深夜の艦橋にいるはずのない気配を感じ、疑問から目が覚めた。

 

——うん、不躾な客がいたものだ、開園には些か早過ぎるが。

 

職務ではないが時間外の不審者を放置するわけにもいかず執務室に備え付けられた寝台から体を起こし、艦橋へと向かう。

 

さて、気配はこの辺から…。

 

春とは言え、吹きさらしの艦橋は肌寒さを感じて私は僅かに身体を震わせる。気配を探って周囲を見渡すとすぐにそれは見つかった。

 

「…驚いた。」

 

思わず思っていたことを言葉にしてしまう。

生後1ヶ月くらいだろうか、毛布に包まれた赤子が穏やかな表情で寝息あげ、そこにいた。

 

技術の面で他国を圧倒し、戦争に勝利したとはいえ、確かに日本帝国が得た果実は少なく景気が好調とは言い難いものではあったが…。

 

とはいえ、斯様な幼子無情にも捨てる親がいたのか。

 

私は幼子を抱き上げ、その頭を撫でている内に胸に暖かなものを感じた。自ら育てあげようと思い至るほどに。

 

 

これから先、時間だけは大いにある。

加えて、私は一定の要望を叶えられる権利を持っていた。

当然、問題も多くあるが。

 

「さて、どうしたものか……うん、まずは名前だな。」

 

お腹を痛めたわけではないが、我が子に対する愛情として良い名を付けようと意気込む。

 

「何がよいか、春の夜に生を受けた子…春夜にかすやでは安直に過ぎるし響きも悪いか…。」

 

戦い以外に経験のない私はどういった名前が良いのか悩んでしまう。

どうせ名付けるなら意味を持たせたい。

そうして脳裏に浮かんだの一つの花。

 

 

「うーん、(かす)…。いや、(かず)一夜(かずや)

 

深い紫色の花を咲かせるすみれという野草、私の好きなそれは別名を一夜草(ひとよぐさ)という。

 

「良し。坊、お前の名は一夜だ!」

 

春に花を咲かせ一夜過ぎても、人々に愛される。

我ながら会心の出来栄えに思わず微笑んでしまう。

気がつくと腕の赤子がその瞳をうっすらと開け私の瞳をじっと見つめていた。

 

「む、起こしてしまったかな。」

 

ややあって大きな声で泣く赤子。

 

「おおっと!?どうした、お腹が空いたか?いや…それともおむつか?」

 

彼が何を求めているのかわからず困惑しつつ、私はこれから来る道に対し、期待に胸を膨らませた。

 

 

一夜に、我が子に幸多からんことを。

 

 

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