旭日は夢と散る   作:ククルス

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正直、文才に自信がなく短文でゆっくりやるつもりだったのですがまさかのお気に入りに嬉しさから連続投稿。

100文字追記、修正。(18.1.22)


①エジコ
木枠で編み込まれた赤子用のベッド。
昭和時代の邦画やドラマにも度々、登場する。


二話 その日の出来事(改訂)

円型の舷窓(げんそう)からかろうじて見える青空は雲が少なく、記憶に残る現代と比して澄んでいるように見える。

 

外の気温など知る由もなく室内は私のことを慮ってか、やや暖かい。

今日何度目かとも知れない出航を報せる汽笛が聴こえた。

 

 

1927年-11月 ???

 

 

唐突ではあるが、私の置かれた環境を語りたい。

というのも、話し相手もなく、精神年齢的には成熟どころか熟成してしまった己が一年間も沈黙を保ったのは我ながら我慢した方だと思う。

 

結局あれから三ヶ月、迷いに迷って、私は単語単語を口にすることにした。

結婚したものの、妻は子をなすことなく鬼籍に入り何人かの養子を迎え入れたはいいが赤子の世話など経験もない私が選んだ単語は「母」だった。

読み書きすらできない赤子が最初に覚える言葉、それはよく耳にするものであるはずだと思い至ったからだ。

 

いまだ名を知らぬ娘、便宜上『母上』と呼ぶがだんまりを決め込む私に、どうしても喋らせたいのか頻りに「ほら、一夜!母が来たぞー!」や、「母は一夜が笑うと嬉しいな!」と自身を強調したのも理由なのだが。

 

当然、発音には大変難儀した。

それらしく喋るのは想像以上に難しく上手く振る舞えたかは甚だ疑問ではあったがそれを聞いた母上は一瞬、真顔になったかと思うと花が咲いた、というような表現が正しいほどに心底嬉しそうに微笑んでくれたから良しとする。

 

我が母ながら美しい。

 

そうして母上の話す言葉から自ら単語をひとつひとつ選び取り、少しずつ話せる言葉を増やしていく。

そうして積み重ねた三ヶ月、その度に嬉しそうに表情を変える母上を見ると、これも悪くないものだと感じた。

 

私の成長を垣間見たからか、母上は産育道具であるエジコから出して、室内を散歩させてくれた。

執務室に簡易の寝台を無理やり置いたような部屋にはカレンダーや壁掛けの時計、刀剣といった調度品くらいなものでこれといって目に付くものは少ない。

出入口は二つ、出入口ともう一つ。

その扉も私に開けることは出来ないがおんぶされながら多少景色を見回したため応接室があることは知っている。

 

母上は時折、一時間程度の外出以外は日がな私に付きっきりで守ってくれるものだから嬉しさ半分、息苦しさ半分といったところ。

文句をいうのは筋違いだが、最近は子供らしく振る舞うことに抵抗がなくなっているのが不安だ。

 

普段通りであれば食事に睡眠、少々の運動の繰り返し。

今も母上に見守られながら室内を這いずり回る。

ようするにハイハイを疲れるまで。

 

「一夜、今日も元気だな。よし、偉大な母の所までおいで!」

 

何が楽しいのか手拍子のオマケ付きで、母上は私を迎える。

しかし、目算で三十丈もあるかないかという距離でしかないのだが。

 

——いやに遠く感じる…。

 

ようやく到達しながら、「母~、母~」と阿呆のように倒れ込む。

そんな私を彼女はやはり嬉しそうに抱きしめると褒めてくれた。

 

「良々、一夜はきっと頑張り屋だな。母は嬉しいぞー!」

 

そして母上はキス魔だ…。

 

いつも通りの日々、だがその日は少しだけ違った。

 

執務室の扉がノックの音を二回鳴らす。

来訪者を知らせる合図に私は内心驚き、母上に視線を向けると視線に気付いた母上は私に片目を閉じて笑むと私を抱き上げエジコに戻した。

 

記憶が確かなら、少なくとも私が起床している時間はこの場所…この執務室に誰かが訪れたことはない筈。

 

「一夜、大切なお客様だから大人しくしてるんだぞ?」

 

私の瞳を見ながらそう口にすると扉へと向かい、ゆっくりとノブを回し来訪者を迎え入れた。

 

 

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