旭日は夢と散る   作:ククルス

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時系列はそのまま続きです。
またお気に入りに連続投稿。

500文字追記、修正。(18.1.22)


幕間 三笠…契約の対価(改訂)

来訪者というのは突然だ。

そして、良い報告であることは殆どない。

それはあくまでも私の経験則で、と付け加えるけれど。

扉の前に立つ人物は私のよく知る方で、扉越しでも…いや彼が私に足を踏み入れた段階で私は感じ取っていた。

向こうもそれは分かっていて、礼儀作法として扉を叩いたに過ぎない。

 

何処かで、何度目かの汽笛が鳴った。

 

 

 

1927年-11月 三笠艦内 執務室

 

 

 

一夜をエジコに寝かせて、私は来訪者を確認することなく迎え入れた。

その気配はひどく懐かしく、そして最も心を許せた存在だった人。

いや、あるいは今でも。

 

「十数年ぶりになりますね、閣下。もう私の事などお忘れになったかと思っていました。」

 

やや、礼を失するとは思ったが私の口から飛び出た言葉は存外強めの皮肉。その言葉を聞いて、彼は東郷 平八郎は気まずそうに眉を八の字に顰めて答えた。

 

「閣下はよせ、三笠。わしとて思うところはある、この様な理由も無ければ私は三笠(ここ)に訪れることもなかっただろう。」

 

相変わらずの歯に着せぬ物言いに私はむっと表情を強くする。

言い訳でも嘘でもいい、せめて気遣う言葉さえ。

 

「そうですね、私もこの子に出会わなければ死んでいたでしょう。」

 

嘘ではない。人間らしく振舞おうと心掛けている訳でも演じているでもなく、一夜と出会い暖かさを取り戻したように私は負の感情も取り戻していたようだ。

考えれば考えるほどに、悲しいと。胸が締め付けられていく。

気付けば涙が零れていた。

 

気付かれないようにと、どうしても下を向いてしまう。

 

あわせるように普段泣いたことのない一夜が泣く。

強い言葉や、大きな声をあげた訳ではないけれど感情を感じ取ったのだろうか。涙を拭い軽く頭を平八郎さんに下げ、一夜をあやす。

 

「……すまん。」

 

赤子の泣き声に、一言彼は謝罪した。

 

「いいえ、私こそ失礼しました。…平八郎さん。」

 

唯一と信じ従ってきたこの人が、軍籍を排除された私に会いに来れない理由は、むしろ私自身にあるのに。

気まずさから頭を下げ客人を立たせたままという失礼に気づいた私は一夜を抱えながら応接室へと案内しようと振り返った。

 

「いや、ここでいい。」

 

彼は片手で私を制すると近付いて抱き抱えた一夜を覗き込んだ。

ぎょっと驚いた表情をみせた一夜を観察するようにまじまじとその顔ばせを見つめ、一夜もまるで睨むように目を離さない。

 

「この赤ん坊がお前の子か…。」

 

「はい、一の夜と書いて一夜と名付けました。」

 

「なるほど、良い目をしておる。お前似のふてぶてしい目だ。」

 

チラリと私に視線を向けると、また一夜を見つめ口の端を歪めながら、そう口にする。

 

「抱えてもよいか?」

 

「どうぞ、重いですよ。落とさないで下さいね。」

 

互いに苦笑しながら、一夜を彼の腕に差し出すと慎重に抱え胸元に寄せ暫く沈黙した。

 

「三笠、お上の令に従い今日まで顔を見せなんだわしが…今更ながらに来た理由はわかるな。」

 

「…はい。」

 

私たち艦娘は人に近い権利を有し、軍務において支障のない限りはあらゆる要望を叶えられる。それは国家への契約。

その点において、軍務から解放された私は望めば生の続く限りある程度の無理を通せる。

 

ただし、それは機密に抵触しない限りにおいて。

この場合の機密はもちろん、艦娘である私。

一年近く私たちが見逃されたのは、一夜がまだ幼く軍部も政治的な緊張から余裕がなかったからに他ならない。

 

「三笠、今の生活を続けたくばこの坊主を将来海軍に入れよ。」

 

「平八郎…さん、それは……。」

 

「…海軍に入らば、わしの権限で守ってやれる。」

 

その言葉はある意味最後通帳。

おそらくその言葉は彼の独断に違いない。

 

いわゆる艦隊派と呼ばれる海軍軍人らは私達に対して一定の理解と尊敬の念を抱いてくれてはいたが陸軍を含めて、海軍省の大方の人間は私に、艦娘たちに恐怖している。

 

現代の艦娘は建造と共に記憶を失う。

私は記憶を失わず、活躍した為に残されたが知らなくても良いことを知っている。いわば彼らの泣き所。

そんな艦娘に育てられた子供という危惧は理解していた。

 

戦争のない世など今の情勢ではあり得ない、そう理解していたからこそ、一夜を軍人にすることは避けたかったが今となっては一夜と離れて暮らすことなど考えようもなかった。

 

それが、あと数年という限られた時間だとしても。

 

「一夜を、お願い致します。」

 

私の言葉が予想外だったのか、平八郎さんはやや驚いたように目を見開くと鷹揚に頷いた。

 

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