東郷 一夜です。
【挿絵表示】
【挿絵表示】
イケメンか女顔で迷ったのですが、童顔で女顔、目つきはややきつめ。
髪型は三笠譲りとしました。軍人として長髪はあり得ないとは思いますが女性軍人が当たり前な上に髪色が普通じゃない艦娘いるから平気ですよね!!!
(18.1.30)
一夜たちが馬鹿なことをしているとき、神通は何をしていたかです。
初めは三人称、いきなり神通の主観になるので紛らわしいと思いますが…。
①艦娘に準ずる存在
艦娘と同様の技術で一部を置き換えた簡易版艦娘。
適合する者は艦娘同様に少なく男性になると更に数を減らすので貴重ですが、
原則艦を離れる際には護衛として付き添います。
段々と分かってきたかと思いますが、艦娘も彼らも元人間です。
②米内中将
米内 光政、現段階では中将で横須賀鎮守府の司令長官。
面倒くさがりと傑物という評価が両立する通りのちに海軍大臣、内閣総理を務める。
神通が軍上層部、高級将校や政治家に不信を抱いているだけで米内自身は艦娘排斥派ではない。
③てことは第一船台か
旧第一から第三船台は明治39年に廃止されて正史には存在していない。
この世界では秘匿用として上空撮影から判断されないように新設された。
全長280m、最大幅は26m。屋根部分までの高さは約50m。
④両耳に装備する型の高声電話機を
資料は九二式高声電話機、性能想定は九四式。
片手で維持するのは当然ながら難儀すると思ったのでヘッドホンを意識。
長門以降はともかく神通などの軽巡洋艦は伝声管だった筈。
1936年-7月 神奈川 横須賀 横須賀海軍港
鶴見川の対角線に位置する関東圏の一大拠点、横須賀。
鎮守府だけでなく五つの船渠に三つの船台、製鉄所を源流とした巨大な工廠。貯蔵施設群に開発局、果ては各科を押さえた海軍学校。
およそ必要なものは凡てあるといってもいい場所に神通を含めた四人の姿はあった。
鎮守府庁舎や官庁群が並ぶ場所から少し離れた埠頭。そこに人の姿はない。
彼ら、彼女らは海軍幼年学校で教官を務める存在だが本質は大きく違う。
艦娘と艦娘に準ずる存在、いわば兵器であった。
神通に付き従う三人はいずれも若く神通や三笠といった艦娘に比べてしまえば容姿は平均的、日々数多く接する数多の軍人らには印象にも残らない。
その中で一人だけいる、きっと一度見たら忘れられないであろう容姿の男。
男の名前は
顔の右半分、鼻先を境にちょうど下顎を覆う形で刻まれた傷は男の相貌を凶悪に見せていた。
国鉄が運営する横須賀駅に着いてからというもの、埠頭から動かず海を眺める神通に痺れを切らしたのか鏑木は口を開く。
「大佐殿、そろそろ行かれませんと米内中将閣下にお叱りを受けるのは俺なんですがねぇ。」
「鏑木少佐、護衛の任ご苦労様でした。閣下は私の姿など見たくもないでしょうから神通にそのまま向かいます。」
そんな言葉に神通は表情を変えず首だけを鏑木に向けて言い放った。
「…はい、そうですかって訳にもいかないんですがね。」
「では、貴方から閣下に到着挨拶をしてください。」
「俺たちは護衛です、離れる訳には…。」
鏑木が語気を強めて命令を了承しないのも任務であればこそだ。
呼ばれた以上、到着報告するのは義務ともいえる。言葉使いはともかく間違ったことは口にしていない。
言葉を遮って神通は続けた。
「ですから結構です。聯合艦隊の命令で護衛する貴方たちにとって、軍令部の膝下でなにかあれば好都合でしょう。」
「その聯合艦隊に所属するお方の言葉ですかねぇ…分かりました。鏑木少佐、到着挨拶を行います。」
鏑木が片手を挙げ庁舎へと歩き始めると他三人も軽く神通に頭を下げ追随していく。
その背を眉尻を上げ神通は見送った。
神通にとって彼らは護衛でも同じ戦友でもなく、陸地で立場上部下というだけの監視役に過ぎないのだ。
艦娘の自己評価はともかくとして、未だ艦娘の立場は厳しいと言わざるを得ない。
◇
四人の部下が離れていくとまた私は海を見つめた。同じ技術の下、生み出されたといっても彼らが抱くことのない艦娘固有の感情。
嗅ぎなれた潮の香り。青々と留まることなく波打つ海原は、見飽きたとすら思っていた光景。とても懐かしい気持ちになる。
たった二月半、離れただけで目が離せない。
「……ふっ、ふふ。」
こんなことで自身が艦娘であると、私の居場所は
私は海が嫌いだ。自分が嫌いで、艦娘という存在はもっと嫌い。
なまじ意志ある分、逆らえない現実は私の精神を押し潰すかのようだ。
嫌いなものばかりの私でも仲間たちのことは嫌いではなかった。
川内姉さんや那珂ちゃんに対しては造られた姉妹だとしても親愛を感じている。
だが…。
——いつからでしょうね。私がこうなったのは……。
この手で仲間を沈めてしまった時か。あるいは信じていた人たちが命令に従って、あの娘を差し出した瞬間かもしれない。皆への感情すら作りものだとしたら。
第二水雷戦隊司令部を素通りし、海軍幼年学校の教官を海軍省から任じられた時、私は頭が真っ白になった。
次世代の教育と云えば聴こえはいいが、艦娘なくして艦は十全出来ない運用をできない。
米内中将が近々、海軍大臣に任じられるかもしれないという話は耳に入っている。
彼だけではない。私にとって政治的な立場におかれる上層部全体への悪感情は募る一方だ。
稼働率を下げていた私は、もはや国にとっていてもいなくても変わらないのではないか。
「あれ…神通、どうしたの。こんなところで。」
海を眺めていた私は背から掛けられた聞きなれた声に振り向く。
想像通りの姿がそこにはあった。
「川内、姉さん。」
「何か月ぶりだっけ…元気そうで良かった。今は海幼の教官だよね?」
「海軍省の、というより工廠からの呼び出しです。躯体更新の同期をしたいと。」
何げないように会話する姉さんだが、日中に陸の上にいるのは珍しい。
活動できないわけではないにしても生まれ持った障害から、夜間以外では船の自室にいる筈だ。
見れば目の下には隅が浮かび足元もやや安定していないように見える。
自分を顧みず私を気遣う姿に、思わず姉さん手へ手を伸ばす。
姉さんはその手を握ると大丈夫、と声には出さず唇を動かして苦笑した。
「たまには外に出ろって言われちゃってね、同期…ってことは第一船台か。じゃあ歩きながら話そっか。」
頷いて姉さんの冷えた手を握り返し、繋ぎながら歩く。
周囲の視線を感じ気恥ずかしさもあったが、倒れられるくらいなら我慢できる。
ただ色々話したいことはあるのに言葉が出なかった。喉まで出掛かるのに、何から話せばいいのか。
しばらく沈黙しながら二人で歩いていく。
「那珂ちゃんは、どうしてますか?」
ようやく出た言葉は那珂ちゃん、川内型三番艦…私の妹のことだ。
姉さんと別れたのは教官に着任する二か月前、那珂ちゃんと別れたのは半年以上前になる。
一年以上前になる演習での事故から那珂ちゃんも私と同じく稼働率が低下する一方だった。
最後に会った時もそう、心配掛けまいと笑顔を見せようとする妹を心配していた。
私たちは軍艦で、一たび任務に就けば数か月会えないことも珍しくはない。
第四水雷戦隊の旗艦を務める那珂ちゃんと、陸地に降りてしまった私では余計に。
「ん~、那珂はあのあとも暫く塞ぎ込んでたけどいまは元気にあちこち飛び回ってるよ。」
「そうですか…頑張っているのね。」
「あはは、私の自慢の妹二人はどっちも頑張り屋だ。」
「もう、姉さん。那珂ちゃんはともかく私は…。」
頑張ってなどいない。そう続けることはできなかった。
傷付けるようなことを姉さんには言えない。不信も疑念も、人に感じ始めている悪感情は私が抱えている私の問題だ。
沈黙と、周囲からの奇異な視線を肌に受けながら目的地に到着する。
川内型軽巡洋艦二番艦、
船台に艦首と艦尾を固定され、全景を晒しているが上部は屋根に覆い隠されて室内のように錯覚する。
「海幼の私たちの後輩、違うか。将来の提督はどう?面白い子はいた?」
最初に浮かんだのは彼だった、政治的な思惑に巻き込まれた東郷元帥の孫と称される少年。
男らしくはない線の細さとは裏腹に、その目からは余力を見て取れる。
本気で出した殺気に対して反応を返したのは彼だけだった。
成績は優秀で他者を気遣う協調性もある。なにより、艦娘に育てられた…らしい。
「そうですね、小粒ですが。」
「ふーん、その反応は男の子か。それも気になってると。」
「……姉さん。私、何も言ってませんよね。」
姉さんは悪戯っぽい笑顔をしたかと思うと、空いた方の手で繋いだ手を挟み込み真剣な表情を見せた。
「神通はさ、考えすぎなんだと思う。神通を、私たちを理解してくれる人はいるよ。きっとね。」
「そう、ですね。」
今更だ。そんな期待はもうしていない、が姉さんの自信満々な表情を脳裏に焼き付けながら別れる。
次にいつ会えるかも分からないのだから。
「姉さん、私はもう行きます。同期が終わったらその足で戻りますので、積もる話はまた…。」
「うん、分かった。また今度。」
◇
姉さんと別れて艦に近づくと、数人の作業員が私に気付いて敬礼をする。
返礼を返すと責任者だろうか、研究員といった風貌の中年男性が近づいてきた。
「ようこそ、神通大佐殿。お忙しいでしょうにいやぁ申し訳ない。私は嶌田いいます。」
「嶌田さん、よろしくお願いします。」
教官に任じられる数か月前に艦は練習艦として扱われ、その後は実験装備の改修を行っていたと聞いている。
ここに呼ばれたのもその変更を同期することによって認識させるため、だが私はその詳細を聞いてはいなかった。
近づいて一望したが特に変更が加えられた様子もない。
「さて、まぁ来て早々なんですが同期作業の準備はできとります。」
「質問しても?」
嶌田がどうぞ、というように手を動かすのを見て続けた。
「改修の詳細を私は聞き及んでいません。船台ということは艤装程度の話ではないのでしょうか。」
船台というのは名の通り切り開かれた地に台を敷き、その上で艦の船体を建造する為のドック。艤装や艦橋といった艦上設備の類は進水させてから接舷状態で載せていくのが一般的だった筈。
「ご推察どおり、艤装というよりは機関部。もとい躯体に手を加えとります。一応、水上機カタパルト廻りも載せ替えてありますが。」
「機関部…ですか?」
「はい。技術的な部分は避けますが神通の稼働率低下による運用改善を第一に、躯体と機関部の同調をあえて切り離しとります。」
「一応、最新型の高圧式の
艦娘の利点であり、弱点である躯体制御は艦娘さえ乗れば一部自動化の困難な設備を除き単体での運用を可能にするところにある。逆に、乗らなければ運用は手動になるが元が自動を前提に組まれた制御なので機関部なら温度や圧力と維持が、砲塔なら手動では動かなくなる自動装填装置などは邪魔でしかない。
嶌田の言葉の意味は、機関部だけを私から切り離すということだろう。
「分かりました。では、同期区画に入ります。」
「はい、あ…久方ぶりの同期に加えて制御を切り離しとりますんで違和感といいますか痛覚があるかもしれません。」
「ええ、十二分に承知しています。」
様橋から艦に乗り込むと、懐かしい感覚。安心感と誰もいない艦内は強い孤独感を抱かされた。
艦橋の内部から梯子で同期区画に入る。この後ろ艦尾に向かって機関部、艦上部に煙突が屹立している。
同期区画は全面が装甲で囲まれ各部へ配管が伸びている他は航空機のコクピットのような座席があるだけだ。
ここを使うのは進水時、大規模な修理や改修後の同期時だけなので私も久々だ。
制服の上を脱ぎ素肌を晒す。七月でありながらひんやりとした肌寒さは主機が入っていないからか。
座席に座って、席の右手が届く位置に接合されている両耳に装備する型の高声電話機を手に取り付ける。
通常なら艦内の機関部と艦橋にだけ取り付けられている直通の電話だが今は艦外まで延ばされているため問題はない。
「神通、同期作業に入ります。」
「……了解です。十秒後に躯体同調開始します。秒読み開始、十、九……。」
女性作業員の声を聴きながら、手の位置を戻し目蓋を閉じた。
「三、二、一、同調開始!」
「ぁ……づ!!」
割れるような頭痛。身体の各部が痛みを訴えかけてくる。
閉じたはずの目蓋の裏に流れるように情報が、かつて見た記憶が雪崩れ込む。
走馬燈とはこんな感じなのかもしれない。
「同調完了、躯体との接続を開始します。」
川内姉さん、那珂ちゃん、戦隊の仲間たちに水城大佐の顔。
私にとっては縁深い者たちの顔だ。最後に浮かんだのは……。
——でも、東郷三号生の顔が浮かぶのは何故でしょう。
残念なことに苦痛には慣れている。
耐えながら私は最後に見た彼のことばかりを考えていた。
◇
午後三時過ぎには確認作業まで終わり、私は米内中将には挨拶しないまま電車に乗った。
鏑木少佐らも挨拶後に船台で待機していて共に乗っている。
夕方には海幼に到着し、解散する。
居残った教官らに話を聞くが特に問題もなく訓育を終了したとのことで今は入浴しているのだろう。
教官専用の風呂などないので、普段は時間をずらすが今日は一緒に入ることしよう。
彼女らの怯えた表情が脳裏に浮かぶ。
——同伴する女子生徒らには申し訳ないですが。
更衣室に入ると数人の一号生らが私の姿に気付き背筋を正して礼をした。
所作などを一瞥してから返礼を返す。
「今日は私もお邪魔します。迷惑でしょうがすぐに出ますから。」
「い、いえ!邪魔などと…わたくしどもなど気にせず。」
服に手を掛け脱いでいく。畳んで脱衣箱に服を入れて大浴室へ向かう。
「わ、きれい」と漏らしてくれた三号生の言葉に軽く笑みを返しながら。
私の背には見苦しい傷痕が残されているが嫌味ではないのだろう。
艦娘の容姿は基本的に生前の流用だとは聞く。
ただ造形部的な美しさなのか、比較的美しいというのが総評だった。
掛け湯で体を流し、身体を洗ってから半身入浴する。
視線を感じる。周囲をからの流し見ではない、凝視されるような視線を辿る。
壁に開いた小さな隙間を覗き込むと誰かの眼と眼が交差する。
間違いなく男子生徒、それも複数人の気配にやや驚いた。
——覗きを実行する勇気があったとは。
「今から、そちらに向かいます。決して逃げようなどと思わぬように。」
目線の主にだけ聞こえるように、可能な限り圧力を込めて呟く。
「神通教官?どうしたんですか。」
「いえ、先に上がります。お邪魔しました。」
女子生徒の言葉に返事を返し手ぬぐいで軽く身体を拭いてそのまま男子更衣室へ向かう。
壁の裏側に位置しているのだろう場所には四人の男子生徒の姿。
それも全員、私の担当する花組の。東郷三号生の姿もあったが彼は巻き込まれたのだろう。
愚かな生徒たちに怒りよりも呆れから、内心でため息を漏らす。
口々に漏らす「大きい」だのなんだとという言葉もまた。
自分が悩み続けているのが何やら間抜けなことに思えてしまう。
——神通はさ、考えすぎなんだと思う。
彼らの視線は艦娘に対する畏れなどには見えなかった。
悪いことを見られた子のそれだ。
彼の視線もまた、畏れなどではない。
育てられたというのは嘘ではないのだろう。
皆が視線を逸らしつつも私を見る中、彼だけは興味深そうに私の背を凝視していた。
「・・・っ。貴方まで、こんなくだらない事に関わっているとは思いませんでした。東郷三号生?」
私より遥かに年下の子供だと思っていたのに恥ずかしさから表情が崩れる。
「はい。申し訳ありません。」
正直に謝罪したのは本心ではあるまい。
処世術、やはり年齢相応には見えない余裕さを彼から感じ少しだけ魔が差した。
生意気だ。そも今日だけで何度、私の脳裏に浮かんできたのか。
見逃そうと思いましたけど、彼にも少し付き合ってもらいましょう。
半ば八つ当たりだと理解しながら四人ともに校庭を走らせた。
確実な犯人は重く、彼にはやや軽く。それでも三十周は相当な疲労になるだろう。
そう判断したが彼は平然と走り切った。
やはり、彼は生意気だ。
——神通を、私たちを理解してくれる人はいるよ。
主犯の三人を走らせながら、校庭から彼の寮室に視線を移す。
理解者……そんな人間いる筈がない、私たちを慮る将官は数いれど誰もが命令の前には逆らえない。恐怖を感じて当然なのだから当たり前の反応と思ってすらいる。
「きっと、か。」
私の言葉は誰にも捉えられぬまま空に消えた。