カラサワの運び手   作:早起き三文

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第1話「ファースト・キャリバー」

 

 閑散とした無人の倉庫、昼の太陽の光が倉庫の窓を通してその倉庫内部にうず高く積もれた貨物を浮かび上がらせているその空間には、陽光を反射した埃が霧のように舞う。

 

「無人機、複数確認」

 

 人型のロボット兵器のコクピットの中で男が呟く。火の付いていないタバコが男の唇に挟まれながら微かに揺らぐ。

 

「レーダー隠密探査開始……」

 

 弱出力のレーダー波が機体から放たれる。そのレーダーのコンソールに次々と未確認機を表す赤い光点が浮かび上がってきた。

 

「迎撃型、避けて通るのは無理だな」

 

 男が乗るロボット兵器の右腕が静かに上がる。その人の手を模したマニピュレーターに握られている長大なライフル銃が鈍く光る。

 

「戦闘システム、起動」

 

 男は静かに自分の機体の脚を倉庫の床へ打ち付ける。低く床、そして倉庫内の空気が揺らぐ。

 

 キュイ……

 

 明るい日差しが倉庫内に射し込んでいる。煙るような埃が侵入した機体を避けるように動く中、その広い空間の四方からモーター音と機械音、そしてコンクリート製の床に何か連続で固い物を打ち鳴らしているかのような規則正しい振動音が機体の音響センサーを通して男の耳へ伝わる。

 

「敵機確認、作業用MTビショップ、火力判定陽性」

 

 戦闘オペレーターAIの合成音声と共にコクピットの頭上のサブモニターへ敵機のデータが映し出される。同時にモニターの仮想敵機映像と同じ姿の機体が男の目前に表れる。

 

「敵機十二体」

 

 合成音声と敵機の情報を無視して、男はライフルを武装を施されているその敵機へと撃ち放つ。瞬く間に一番近い場所に現れたその敵機の前面装甲板をライフルの銃弾が複数の風穴を穿ち破壊する。他の同型の機体達から機銃が男の乗る機体へ斉射された。

 

 ヒュオ……

 

 男の機体の自動防御システムであるエアスクリーンがその機体の胴部から噴き出される。弾道を変化させられ、貫通力が低下した機銃の弾丸は機体の装甲を撃ち抜けない。

 

「損傷軽微」

「警備に置くMTの質、そいつの必要以上の予算節約のツケだな……」

 

 MT(マッスル・トレーサー)、この世界で日常的に使用されている作業用のマシンである。設備建設や危険地帯の調査などに使用される事が多いが、施設などの警備用に設計されている戦闘用の物もある。

 

「残り九」

「重武装型MTの存在を確認してくれ」

「了解」

 

 だが、その戦闘用MTを越える性能のマシンもこの世界には存在する。男が乗っている人型の機械であるAC(アーマード・コア)がそれである。

 

「残り七、重武装型MTの反応無し、敵機全種同型機」

「オーケー」

 

 ACの性能は戦闘用MTの約五倍から十倍。この位の数のMTならば、男の機体が勝利する確率は五分五分であろう。

 

「残り四」

 

 無論、パイロットの実力を考慮しなければの話ではある。MTの撃破数が加速度的に上昇していく事から、男のAC操縦の腕がかなりの物であることが見てとれる。

 

「残り二」

「後二機」

 

 AIと男の声が同調する。MTの機銃を避け、あるいは防御機能で受けながしながらひたすら男は機体の右手のライフルをMTへ向け続けた。

 

「残存敵機0」

「インヴィジブルのステータスチェックを頼む」

「了解」

 

 インヴィジブルと言う名前らしいそのACの腕が静かに下ろされる。下ろされた右腕に持たされているライフルの銃口から微かに煙が揺らめいている。

 

「一応、想定内の敵戦力ではある」

 

 男は一つ息を吐いてから、サブモニターに依頼の内容を表示させる。

 

「まあ……」

 

 男の顔に微かな笑みが浮かんだ。

 

「全てを疑うのがレイヴンの仕事でもあるがね……」

 

 主にACを駆り、仲介者を通して戦闘行動が含まれると思わしき依頼を請け負う「荒事専用の何でも屋」それがレイヴンである。

 

「ステータスチェック、オールグリーン」

「ミッション情報、全表示を頼む」

「了解」

 

 そう言うと、男は頭部に内蔵されている総合情報管制システムと肩部の外装レーダーの出力を上げる。任務前にインプットされている施設全体のエリアマップ、そして依頼の目標地点がコンソールの片隅に表示された。

 

「貨物の中身は加工金属製品か……」

 

 データが次々にモニターへ表示をされる。煙と火花を上げて続けているMTの残骸が散らばっている倉庫の中の貨物を男はぐるりと見渡す。

 

「少しばかりくすめてもバチは当たるまいな……」

 

 少し自嘲げにそう呟きながらも、男は映し出されるデータを取捨選択しながら自分の頭の中へ整理をさせておく。

 

「作戦エリア、情報収拾終了」

「事前の情報との差異はあるか?」

「約九十パーセントが一致しています」

「ハメの依頼ではないようだな」

 

 そう言いながら男はコクピットに貼り付けてあるメモに自分の指を這わせる。

 

「良い数字でもないが」

「自機のレーダー波が施設奥の探査機に察知されました」

「そいつが誤差の原因かな……」

 

 男は火無しの咥えタバコを口の先で揺らしながら、インヴィジブルを倉庫の奥へと向かわせた。

 

 

――――――

 

 

 

「燃料タンク貯蔵庫、到達」

「火器系全武装、封印を頼む」

「了解」

 

 男はAIに指示を出すと、目前のモニター、コンソールの上に貼り付けている紙製のメモ、そして任務内容が表示されたサブモニターへ目を向ける。

 

「面妖な所に隠すものだな……」

 

 男は顔をしかめながら、コンソール上のメモ用紙をその手に取った。

 

「カラサワ・レーザーライフル」

 

 メモに記入されているAC用の武器の名前、そしてメモの下に描かれている、お世辞にも上手いとは言えない銃のイラストをその目に入れながら男はその口の端にに軽く笑みを浮かべる。

 

「どこぞの新製品だろうな……」

 

 依頼の目標物であるそのAC用武器パーツの名を呟きながら、男は燃料タンク保管ルームをぐるりと見渡した。

 

「あえて、地上の誰も立ち寄らないような辺鄙な場所へ隠す事から、俺にも理解が出来るさ……」

 

「接近戦用MTを確認」

「オーケーだよ……」

 

 AIの声に男は少し顔をしかめながら、ライフルを床へ置く。

 

「ブレードをシャープフォームへ、格納の突っつきを出してくれ」

「了解」

「全動作を手動へ移行」

「了解」

 

 矢継ぎ早にAIへ言葉をかけながら、男はコンソールプレートを微かに上げる。様々なスイッチが取り付けられている緊急制御用のジョイスティックを男はコクピット下部から引き上げた。

 

「敵のデータはあるか?」

「詳細不明、無人型の格闘戦用MTではあると思われます」

「オーケー」

 

 AIへ返事を返しながら、男は疎ましげに燃料タンクルームに立ち並んでいる、引火性の燃料が入った円筒タンクの列を見つめている。

 

「引火したら、依頼も俺の命もお仕舞いだな……」

 

 幸い、中央にある程度の広大な空間がある。敵機とはそこで戦うしかないようだ。

 

「敵機機数、約三機」

「曖昧だな」

「あえてインヴィジブルのレーダー出力を下げています」

「何かあったのか?」

「ジャミング波、および対レーダー波追尾機器の反応が検出されました」

「警備のセンスが良い……」

 

 そのインヴィジブルの目の前に一機の重武装型MTが姿を現す。

 

「最初の作業用に毛を生やした程度の警備MTはわざとかな?」

「敵機接近中」

「おそらくは無いと思うが、別の退却経路を探しといてくれ」

「了解」

 

 AIの声を聞き取る前に、男は目の前のMTへ急速に接近をする。

 

 ボフォ!!

 

 敵MTが突きだした拳を男は一般に「突っつき」と呼ばれている刺突武器で粉砕する。同時にレーザー光で形成されたブレードを敵機のセンサーがあると思わしき頭部へ突き立てる。

 

「タフだな、このMTは……」

 

 頭部を破壊されてもMTは動作を止めない。残った片方の拳を再びインヴィジブルへ突きつける。

 

「っと……!!」

 

 相当なスピードで突きだされた拳が命中する寸前に男は機体をスライドさせてその攻撃をかわす。敵機の拳の風圧がインヴィジブルの表面装甲をなぶる。

 

「あれに当たるのはまずいな」

「敵機の同型機が接近中」

「オーケー」

 

 頷くやいなや、男は「突っつき」とブレードを同時に敵機の胴体へ突き立てた。MTの表面装甲に穴が空き、敵MTの内部構造がコクピットのモニターへ映し出される。男は破損した衝撃で後退するようによろけているその接近戦用機をさらにブレードと「突っつき」で追撃をしかけた。

 

「敵機機能低下」

「インサイド、封印解除を頼む」

「了解」

 

 男はAIにそう伝えると同時に「突っつき」を最大出力でその半壊した敵MTへ突き立てる。

 

「敵機沈黙」

「突っつきはこいつらで使い果たしてしまうな……」

 

 両方の燃料保管ルームから足音を響かせながら接近をしてくる重MTを見やりながら、男はコクピット内で苦笑をした。

 

 トン……

 

 男の機体の肩から射出された数個の固形物がふわりと床へ降り立つ。そのままインヴィジブルはタンクルームの入り口の辺りまで後退する。

 

 ボウ……!!

 

 後退したインヴィジブルを追ってきたMTの足元で吸着地雷が爆発を起こした。指向性爆薬がMTの脚部を貫く。脚部を失ったMTはそのまま床へ倒れ伏す。

 

「やはり、あの装甲ではトップヘビーの機体であったな」

 

 頭部を自機の方へ向けているMTへインヴィジブルは「突っつき」を叩きつけるように押し出した。無傷のもう一体のMTがその拳を構える。

 

 ガァン!!

 

 男は行動不能になったMTの後ろに回り込み、敵機の攻撃に対する盾とする。強固なMTの装甲がその一撃で粉砕された。

 

「終わりだよ、ヘビー級ボクサー」

 

 男はインヴィジブルのブースターを軽く噴かしてMTの頭部の真上へ来る。そのまま姿勢を曲芸のように回転させ敵機の頭上から「突っつき」の刺突ブレードを腕から切り離して射出する。

 

 ギァフォ!!

 

 射出された鋭利な杭がMTの頭部から脚部までを串刺しにする。機能を停止した重MTは静かに床へ前のめりに倒れ伏した。

 

 

――――――

 

 

 

「タンクナンバー、一致」

「一応、タンクの内部の確認を」

「了解」

 

 目標の品物が隠されているらしいタンクの前で男はそうAIに指示をだす。使い果たした右腕の「突っつき」の基部はとうに放り捨てられ、元の速射式のライフルがその手に握られている。火器は先程の地雷も含めて全て封印されている。

 

「タンク内、金属反応確認、その他の物質は無し」

「では……」

 

 インヴィジブルのレーザーブレードの出力を最小に設定し、空と思われるタンクの容器を徐々にレーザーを使い円形にくりぬいてゆく。

 

「これだな」

 

 空のタンクの内部にはやや大型のAC用レーザーライフルが鎮座されている。近くにはセキュリティと思われる小型の電子機器からのコードがライフルに接続されていた。

 

「解除パスコードを精密動作用マニュピレーターで直接入力する」

「了解」

 

 インヴィジブルの脚部の先端から細長いアームが電子機器へ這う。アームに内蔵されているカメラから見える機器のコンソールに男は目をやる。

 

「パスコード確認」

 

 事前に依頼主から聞いていたパスをセキュリティに入力し、そのライフルの防護を解除する。セキュリティからの承認を表す音声をその耳で聞くと、男はレーザーブレードの刃を収めた自機の左手にそのライフルを握らせた。

 

「この武器パーツの簡易解析は出来るか?」

「比較解析であれば」

「やってみてくれ」

 

 データの羅列がサブモニターへ流れる。その間に男はレーダーを手動で調整をする。インヴィジブルが侵入した倉庫の入口に微かな反応が見てとれる。

 

「一機のみか、俺と同じACかもな」

 

 ジャミングによりレーダーが乱れる。先程よりもジャミングの強度が増してきたようだ。

 

「ジャミングやら俺のレーダーの探知とやらはこいつの仕業か?」

 

 男がそうコクピットで呟いている内に、ライフルの性能分析の結果がモニターへ表示される。その分析結果を見て男は自分の目を疑う。

 

「おい、間違いじゃないのか?」

「再検査致しますか?」

「ん、いや……」

 

 市販のレーザーライフルの数十倍のカタログスペックの数値をモニターへ表示させてくれた左手のカラサワ・レーザーライフルを眺めながら、男は機体の右手に握られている自前の速射ライフル銃を心持ち強く握りしめる。

 

「今使えるか? このカラサワ・ライフル?」

 

「分析不能な要素が約七十パーセントはあります、使用自体は可能であると思われます」

「インヴィジブルに適応化は出来るか?」

「約一分間、時間を下さい」

「無理ならばいい」

「上手く適応できれば、インヴィジブルの戦闘力は約五倍に上昇すると試算できます」

 

「気を付けろよ……」

「了解」

 

 ACの事ならば人間よりも賢いとされる自機に搭載されている最新型の戦闘AI、そのAIの妙な強引さに苦笑しながらも、男は倉庫の出口で待ち受けていると思われる敵機の事にその思考を向けた。

 

「もちろん、奴の任務はこのカラサワとやらの奪取の阻止だろうな」

 

 呟きながら男は倉庫のエリアマップをモニターへ表示させる。

 

「他に出口は無い、と」

 

 そのままエリアマップを閉じ、男は自機のコンディションを確認し始めた。

 

「このカラサワが取引の腹芸には使えるだろうか?」

「適応化、完了」

「案配は?」

「安全策で、出力を三十パーセントに抑えてあります」

「それでも威力は並みのレーザーライフルの五倍か」

「理論上、全ての現行のACの装甲を貫通できます」

「大金をはたいて、レイヴンを雇い奪取する価値は十二分にありそうなシロモノだ」

「適応化は出来ませんでしたが、モード可変機能も備わっている模様です」

「至り尽くせりだな……」

 

 男は自分の唇を軽く指で撫でながら、燃料タンクルームを後にしようとする。

 

「まあ、もっとも」

 

 コクピット内で男は呟きつつライフルなどの火器の封印を解除する。予備兵装として取っておいた肩部の小型ミサイルの様子を確かめながら、囁くような低い声で再度呟く。

 

「こんな物をぶっつけ本番で使う羽目にならなければいいがね……」

 

 左手のカラサワを軽く振りながら、男はコクピット内で軽く口を歪めた。

 

 

――――――

 

 

 

「ジャミング波、増大」

「逃がさない、という意思が感じられるな」

 

 太陽の光が見え始める。男は慎重にこの倉庫の入口付近、金属製品なとが保管されている空間へインヴィジブルを押し出す。つい先程に作業用MTと戦った空間、そこに一機のACの姿が日の光を浴びて浮かび上がった。

 

「ナインボール……!!」

 

 その深紅の塗装が施されたACの姿、そしてその肩に貼りつけられた「9」の文字が描かれているエンブレムを見つめながら、男が低く唸る。

 

「敵機解析中」

 

 そのAIの合成音声は男の耳へ入らない。

 

 ナインボール、レイヴンの中でもトップクラスの人物である。外部へはそのパーソナルデータは全くと言って良いほど流出をしていないが、作戦達成率がほぼ百パーセントという数字だけが世界中のレイヴン、そして彼らと彼女らを雇う側の人間に知られている。

 

「そのカラサワを渡せ」

 

 冷たい印象を受ける女の声がナインボールから響いた。

 

「その武器は一人のレイヴンの手に余る」

「俺の物ではない、依頼主に渡す物だよ」

「彼はすでにこの世にいない」

「……」

 

 その言葉がハッタリかどうかの判断までは出来ない。だからと言って簡単に渡せる物でもない。

 

「渡せば、命までは取らない」

「その言葉を真に受けて、何人のレイヴンが死んでいった事か……」

 

 緊急手動操作用の操縦桿を握りしめる男の手の内側に汗が滲む。何処からか発せられるジャミングが強すぎて、追跡ロックオン機能が麻痺を起こしている。男は手動で照準を合わせようとする。

 

「イレギュラーと成りかけているレイヴンよ、排除する」

 

 ナインボールがその右手に握られている得物を静かに持ち上げた。

 

「戦闘システム、完全手動モードに移行」

「ジャミングの発生源は解るか?」

「ナインボール、そのものです」

「オーケイ……」

 

 AIへ言葉を返しながらも、男は操縦桿を大きく傾ける。ナインボールの手に握られている大型のライフルから涼やかな音と共に砲弾が放出された。男はペダルを強く踏みしめる。

 

 ボウァ!!

 

 連射されるリニア射出式の砲弾を機敏な動きでかわしつづけるインヴィジブル。機体の横をすり抜けたリニア砲弾が倉庫の壁に打ちつけ、小規模な爆発を起こす。

 

「似ているな、そのリニアライフル」

 

 男は自機の左手に握らせているカラサワとナインボールのリニアライフルの形状を見比べながら小さく呟く。

 

「ジャミングが敵機へも影響している模様」

「やけに狙いが甘いからな」

 

 戦況分析力に優れたAIに返事をするように呟きながら、男は右手の愛用の速射ライフルをナインボールに撃ち放った。

 

 ギュ…… ギュア……

 

 ナインボールはライフル弾の連射を回避しようとするが、どうも動きがぎこちない。パイロットの操縦に機体がついていかないようだ。

 

「ジャミングが自分の機体を蝕んでいるのか……?」

「敵機、動作不良を引き起こしている模様」

「そこまでして、何故ジャミングを……」

 

 呟く男の脳裏にふとにあることが思い浮かんだ。カラサワの銃口をナインボールへ向ける。

 

 ブォフ……

 

 低い音と共にナインボールの機体の各部から対エネルギー兵器用の防護装置がその機体を覆う。レーザーブレード発信器をシールドモードへと移行もしているようだ。

 

「奴はカラサワを恐れている……?」

 

 呟くと同時に男はカラサワから目測でレーザーを放射する。文字通り光速で迫る細いレーザーをナインボールは瞬間移動と見間違うような動きで回避する。

 

 ジュォ……

 

 空を切ったレーザーはそのまま倉庫の天井を貫き、太陽の光が降り注ぐ空へと向かって光の矢として飛んでいく。

 

「汚染物質対策をされている倉庫の分厚い外壁を簡単にくり貫くだと……!!」

 

 穿った穴から射し込む太陽の細い光、その事に驚愕をする男の隙を突くかのように、ナインボールがリニアライフルを放ちながら急速にインヴィジブルへ接近を試みる。

 

「おっと……」

 

 リニアライフルの照準は甘い、回避するまでもなく砲弾がインヴィジブルの脇をすり抜ける。ナインボールの青く輝くレーザーブレードがシールド化された円形からフェンシングの刀身を思わせる形状へ変化をする。

 

 ブォホ!!

 

 カラサワを大降りに振り回しながら、インヴィジブルは軽くステップを切り後ろへ後退する。カラサワの姿を見た瞬間、ナインボールの体勢が崩れて無様に床へ片膝をつく。青いブレードが無意味にコンクリートの床を溶解する。

 

「ナンバーワン、レイヴンが聞いて呆れる……」

「機体制御能力、二十パーセントに低下。任務遂行困難……」

 

 インヴィジブルの中から嘲笑う男の声にナインボールのパイロットから悔し紛れとも言えるような台詞が放たれた。

 

「カラサワとやらを恐れてジャミングを強化しても、それで手前の機体がオシャカになれば世話は無い……」

 

 インヴィジブルが片膝をついたままのナインボールへ向けてカラサワを突きつける。突きつけながらも男はコクピット内の緊急離脱用のペダルから自分の足を離さない。

 

「とは言え、俺は油断をするような事は無いよ、ナインボール」

 

 カラサワの銃口を見上げるようにナインボールはその頭部を動かす。光と埃が舞う倉庫内に沈黙が訪れた。

 

 ジジッ……

 

 ナインボールのブレードが再度発光し始める。インヴィジブルは眉ひとつ動かさずにカラサワをナインボールの頭部へ撃ち放つ。

 

 ジュバァ……!!

 

 ナインボールの頭部、そして背中の一部が消し飛んだ。ナインボールのブレードがインヴィジブルへ振り回される。

 

「油断などはしないと言った」

 

 男は軽くステップを踏んで機体を後ろに引かせる。空を切ったブレードの陰からリニアライフルの銃口がインヴィジブルを狙う。

 

「頭部を失なってもここまで動けるか……!?」

 

 驚いている男の機体へリニアライフルの砲弾が撃ち放たれる。間一髪で胴体への直撃こそ防いだが、速射ライフルを持つ右腕がリニア砲弾によって半壊する。

 

「フン!!」

 

 男は思いっきりペダルを踏みしめ、ナインボールの機体を乗り越えるかのようにブースターを噴かす。左腕のカラサワの銃身がナインボールの機体の肩をかすめる。

 

 ギッ!! ギィィ!!

 

 ナインボールが反射的にそのカラサワの銃身から身を守るかのようにスラスターを噴出させ、自機を退かせた。

 

「今だ!!」

 

 インヴィジブルが上半身を限界まで捻る。機体、そしてパイロットの男がその無理な機体制御で悲鳴を上げながらもナインボールへカラサワを放つ。レーザー光が空を切って赤い機体の右腕を貫いた。リニアライフルが力なく垂れ下がる。

 

「大きすぎる」

 

 掠れた女の声でそう呟きつつ、ナインボールは複雑な回避機動でインヴィジブルから距離を取ろうとする。頭部を破壊された影響はほとんど見られない。インヴィジブルから機体を離らかして柱に隠れる途中でリニアライフルを牽制として放つナインボール。腕部の損傷により、ライフルの照準が全く定まらない。

 

「自機の勝率、八十七パーセント」

「このカラサワを使わなければ?」

「勝率、三十六パーセント」

「ナインボールに余力があると?」

「勝率の算出には、敵機の自己のジャミングによる機能低下の影響が極めて大」

「依頼のブツに助けられているな……」

 

 機体から遠く離れた場所で爆発を起こす砲弾を横目に見ながら、男はコクピットの中で唇を強く噛んだ。

 

「修正が必要だ」

 

 宣言するようにナインボールがインヴィジブルへ向けてそう言い放った。入口近くの柱の陰からブースターを最大出力で噴かせるナインボールの紅い機体が倉庫から大空へと飛翔していく。

 

「敵機、急速に戦域から離脱していきます」

「やれやれだ……」

 

 そう呟きながら、男はゆっくりと機体を倉庫の入り口へ向かわせる。

 

「ジャミング障害、回復中」

「機体ステータス、確認をしてくれ」

「了解」

 

 ナインボールが立ち去って行った倉庫の外の青空を見上ながら、男はタバコを口にくわえる。

 

「外部の環境は大丈夫かな?」

「短時間であれば、コクピットを開いても人体に影響は無いと思われます」

 

 そのAIの言葉を聞くないなや、男はコクピットを大きく開け放った。乾燥した外の外気がコクピット内に入り込む。

 

「良い風だ」

「汚染物質、僅かに検出されています」

「その汚染物質を俺は吸い込むさ……」

 

 そう言いながら男は自分の腰のポケットからタバコを取り出す。倉庫の外で数匹の大きな鴉が、死んで間もない大型動物の死肉を漁っている。

 

「依頼人は死んだってのは本当かな……」

 

 鴉達をじっと見つめながら、男はタバコの煙をくゆらせる。AIが自機であるインヴィジブルの状態を伝えてくれる。

 

「インヴィジブル、機体稼働率約七十パーセント」

「機体に荷物を括りつけられる余裕はあるかな?」

「戦闘行動時に除外することを前提とすれば、かなりは」

「俺も少し漁っていくかな、御同業?」

 

 そう言いながら、男は死肉を漁る鴉たちに自嘲げな色を浮かせた笑みを浮かべる、機能不全に陥った機体の右腕を気にしながら、男は再び倉庫の中に入っていった。

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