カラサワの運び手   作:早起き三文

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第4話「破壊活動阻止」

  

「これが全ての警備状況」

 

 ピゥ……

 

 警備部隊の隊長のMTから、インヴィジブルへデータが転送される。

 

「何か質問は?」

「無いな」

 

 自機のコクピット内でデータを眺めながらに、バウンティは隊長のMTへ無愛想な返事を返す。

 

「では、よろしく警備を頼む、レイヴン」

 

 インヴィジブルの目の前にいるMTに乗った男。超巨大企業である「クローム社」の傘下となったこの街の警備部隊の隊長は現実的な判断を下せる人間のようだ。先日、この街に対して手酷い破壊活動を行ったバウンティを前にしても冷静な対応をしている。

 

「この前の君の働きと同じくらいにはな」

 

 とはいえ、さすがに何もバウンティに対して思っていないという事はないらしい。最後にバウンティへかけたその言葉。その時の低い声に含まれた深い憎悪がバウンティの耳を打つ。

 

「クロームの下請け傭兵は辛いよな……」

 

 立ち去っていく隊長機をぼんやりと眺めながら、バウンティがその口を微かに歪めた。

 

「テロまがいをしたレイヴンに、そのターゲットとなった街の警備依頼を持ってくるなんてな」

「威嚇もあるのだろうな」

 

 その、コクピットで自嘲気に呟いた彼「バウンティ」が乗る、漆黒色にと塗装をされたインヴィジブルの近くに純白のACが近寄ってくる。

 

「生殺与奪を我々クロームが握っている、というな」

「なるほどね……」

 

 別に以前の依頼で敵対したレイヴン、それが今度は僚機となった所でバウンティは大して驚きもしない。

 

「カラサワはどうした?」

「動作不良を起こして、整備中だ」

「ならば」

 

 少しばかり兵装が換わった風に見える彼女の機体、アーマード・コア・システムで構成された戦闘兵器と同じような「節操」のなさと等しく。

 

「その整備士の所を襲えば、カラサワが手に入るという寸法だな」

「それについては大丈夫だ、ロスヴァイゼとやら」

「ホウ……」

 

 傭兵、レイヴンという者達の辞書には、少なくともバウンティのそれに書かれた節操という文字は小さく、利害という文字は大きい。

 

「カラサワを奪う為にその場所が襲われても、彼女はしたたかに逃げのびるさ」

「なるほど……」

「彼女とも、所詮は利害の一致だ」

「カラサワに執着はしないか」

「カラサワは役に立つ、優秀な武器だ」

 

 そう、彼の目的の為にはカラサワは役には、立つ。

 

「それ以上でもそれ以下でもない」

「クレバーな奴だ」

「誉め言葉として、受け取って……」

 

 その時、このシティの警備隊長から通信が入り、それと共に。

 

「未確認機が多数、戦闘エリア内に侵入」

「おいでなすったか……」

 

 コクピット内にと放たれた機体制御AIの声と共に、インヴィジブルのレーダーへいくつもの光点が光る。

 

「ここから北のエリアにも、一機の

機影が見える」

「本当か、ロスヴァイゼ?」

 

 その彼女の、機械合成音を彷彿とさせる様な声にバウンティは一つ舌打ちをし。

 

「厄介だな……」

 

 その顔を一気に引き締める。

 

「一機だけということは、おそらくACだろうな」

「さて、どうするかなバウンティ……?」

「まあ、いい……」

 

 レーダーだけでは敵性機の種類までは判別してくれない。少なくとも今のインヴィジブルのレーダー性能では。

 

「独立行動をしているACには俺が単独であたる」

「良い根性をしているじゃないか、バウンティ?」

「お前のレーダーの根性ほどではないがな……」

 

 バウンティの愛機は中量型のACだ。ヴァルキュリアの様な軽量型では対応が難しい相手でも、インヴィジブルで相手をすれば極端な不利に見舞われる可能性は少ない。

 

「それに、MT部隊と共同戦線を組むと、この前の依頼で俺を恨みに思っている奴から撃たれかねない」

「解った、いいだろう」

 

 そう言いながら、ヴァルキュリアはその肩のスラッグ・キャノン、イレギュラーパーツである「ヴォータン」を鈍く輝かせながら、その機体をひるがえす。

 

「私は遊軍として動くとしようか」

「それがいいだろうな、ロスヴァイゼ」

「行くとしよう……」

「ああ」

 

 未だに損害が残る街並み、その中央幹線道路の坂道をブースターを噴かして駆け上がりながら、バウンティは機内のレーダーへとその目を向け続ける。

 

「AC照合完了、ネスト登録レイヴンであるフリーバードです」

「聞かない名、だな」

 

 機体のAIへ向けて、返事を返しながらも、彼はレーダーへ映し出される光点からはその視線を離さない。

 

「しかし、速い……」

「高機動型の軽量ACであると推測」

「レーダーのスキャンの間に、まるで瞬間移動をしているようにも見えるよ」

 

 そのACの光点に近付くにつれ、あちこちに破壊された街並みが、バウンティの視界へと入ってくる。

 

「ド派手に、まあ……」

 

 しかし、彼はそれ以上の感想をあえて舌には乗せない。先日の自分も同じ事をした、それの後味の悪さがそうさせているのか。

 

「敵機接近」

「了解」

 

 AIの状況把握に律儀に答えながら、バウンティは自機のバースト・ライフル、速射型のライフル銃を構え、敵の接近にと備える。

 

「三、二、一……」

 

 レーダーの光点、カウントを取りながらそれを見つめていた目を、目の前のメインモニターにと揺らすバウンティ。しかし彼は。

 

「なに!?」

 

 その時、信じられない物を見た。

 

「飛行型のACだと!?」

 

 轟音を撒き散らしながら、そのフリーバードとかいうACは、シティの天井スレスレを飛行し。

 

 ドゥ……!!

 

 そのインサイド、肩部内蔵型兵器のハードポイントから爆薬を撒き散らしている。

 

「戦闘機以上だ!!」

「敵機の飛行性能はACの構造上の限界を超えています」

「ならば、答えは一つかもしれない……」

 

 イレギュラー・パーツ、恐らくはそれの「持ち主」なのであろう。

 

「はあ!!」

 

 レーダーはあまり当てにならない、インヴィジブルの高性能火器管制能力と己の腕でライフルを撃ち放つバウンティではあるが。

 

「くぅ!!」

 

 そのライフルの弾が追いつかない、そのくらい敵機の動きは速い。

 

「よく、天井にぶつからない物だな!!」

「なれているからなぁ、俺は!!」

 

 まだ若い男の声、何か嬉しくて堪らないといった感がある耳障りな声がバウンティの耳を打った。

 

「機体の制御にか、破壊活動にか!?」

「その両方だよ!!」

「なるほどな!!」

 

 義憤、それをバウンティが感じるのは偽善ではあるが、それでも彼の心に何か火が点る。

 

 バゥ!!

 

「ミサイルも追い付かんか!!」

 

 そのインヴィジブルから放たれた小型連装ミサイルのお返しとばかりに、フリーバードからもマシンガンによる射撃が飛んでくる、しかし。

 

「火力は大した事はないが……」

 

 その連射は、インヴィジブルの装甲を軽く叩いたのみ。

 

「敵機の目的は街の破壊にあると思われます」

「警備のAC、俺達は必ずしも破壊をする必要がないか」

「街の被害、拡大中」

「先日の俺と同じだな……」

 

 その時、以前のこの市街地襲撃の時に聴いた「死神」の叫び声が。

 

 ドゥ、ルゥ!!

 

 バウンティの耳を打ち、その持ち主であるロスヴァイゼの舌打ちもまた、彼の耳へと聴こえる。

 

「ヴォータンが追い付かぬか……!!」

 

 恐らくは敵別動隊は排除したのであろう。バウンティの援助にと駆けつけたヴァルキュリアの後方には、数機のガードMTの姿。

 

「良い獲物だなあ!!」

 

 ACに比べれば動きが鈍いそのMTにと狙いを定めたのか、フリーバードはその警備部隊の上方へと飛来し、爆雷を撒き散らす。

 

「っと……!!」

 

 その爆雷、接触式爆弾をライフルで撃ち落とせるバウンティの腕は並みではない、一、二個だけ撃ち漏らしたが。

 

「ふん……」

 

 インヴィジブル、愛機をその狙われたMTの盾とし、爆雷を防いでやる。

 

「大丈夫か、MT?」

「触るな!!」

「オイ……」

「姉さんを盾にした奴のくせに!!」

「姉さん……?」

「あの白いACの奴の拡散砲弾で、姉さんは身体も残っていなかった……!!」

「なるほど」

 

 そのガード、彼女の言葉でまたしてもバウンティは先日の襲撃の事を思い出してしまう。

 

「前に俺が盾にしたMTの肉親か……」

 

 その間にも、フリーバードによる市街地破壊の手は止まらない。しかし相手の余りの高速度によって、打つ手が見つからないのだ

 

「前に……?」

 

 以前の依頼、戦場で追憶に浸っている暇などはないのだが、バウンティの脳裏に。

 

「ロスヴァイセ」

「どうした?」

「警備MTの隊長と通信は取れるか?」

 

 何かが、閃いた。

 

 

 

――――――

 

 

 

「街の損害、極めて大」

「この街を灰にする気か?」

「街全体の壊滅が目的である可能性があります」

「俺のやった脅しではなくてか……」

 

 だとしたら、このフリーバードとかいうレイヴンを雇った雇用主はテロリストである可能性が高い。しかし。

 

「どうでも良い話だ、それより……」

「カウントダウン、開始」

 

 先程、シティガードの隊長にと伝えた通信、その時に話した作戦が上手くいくかどうかのみである。バウンティが「レイヴン」として考える事は。

 

「十」

 

 フリーバードの爆雷は無制限なのか、ACから見て微細な人影にすら爆発物を投げ落とし「悲鳴の霧を作り上げて」いる。

 

「五」

「上手くいってくれよ……」

 

 しかし、その光景をみてもただ、バウンティはAIのカウントに耳を澄ますのみだ。

 

「三、二、一……」

「ライフルで、十分かな……?」

「ゼロ」

 

 ジァ、ア……!!

 

 そのカウントダウン終了と共に、シティの降雨装置、それが大量の雨水を街全体にと撒き散らす。

 

「何だぁ!?」

 

 高スピードでの飛行が仇となったのか、そのフリーバードは突然の降雨に機体コントロールを失った様子だ。そのまま高度を下げ、自らが破壊したビルへと機体を突っ込ませた。

 

「ちくしょう!!」

「運が悪かったな、悪党」

 

 まさしくそのバウンティの言う通り、レーダーを使わなくても目視で確認出来る場所、そこで機体を頓挫させているフリーバードに対して。

 

「あばよ」

「助けて……!!」

 

 その、命乞いの言葉を無視し、バウンティは速射ライフルをフリーバードの装甲が一番薄い部分、次に薄い部分、そして最後に。

 

「終わりだな……」

 

 コクピットにと撃ち込み、相手を沈黙させた。

 

「ん……?」

 

 その時、何か凄まじいECM、電波妨害の現象と共に。

 

「何だ!?」

 

 スモーク、黒っぽい色をした煙が、破壊されたフリーバードとその至近にといるインヴィジブルを包み込む。そして、その「陰」の中に。

 

「ナインボール……!!」

 

 一瞬だけ、バウンティは以前にカラサワを手に入れた時に出会ったAC「ナインボール」の姿を見る。

 

「どういう事だ……?」

 

 だが、その正体不明機は微かな機体駆動音を鳴らしたきり、漆黒の煙の中からその姿を消す。

 

「気のせいか……?」

 

 そう、自分の気が立っているのかと思ったバウンティであるが。

 

「いや、気のせいではない」

 

 フリーバード、その敵機が搭載していたと思われる飛行ユニット、すなわち「イレギュラー・パーツ」が何処にも見当たらない事に気がつき、彼はコクピット内で静かにその首を振る。

 

「任務終了だ、バウンティ」

「ああ」

「どうした?」

「いや……」

 

 ロスヴァイゼの声かけに、バウンティはひとまずナインボールの事は忘れるようにした。

 

「……」

 

 その彼が見渡すは、焦土と化した市街地の姿、先日のバウンティが作り上げた地獄の光景だ。

 

「なあ、ロスヴァイゼ」

「なんだ?」

「俺が罪の意識を抱く事自体が、罪かな……?」

 

 バウンティ、彼がコクピットから見下ろす公園では、両親であったらしき「物」の前で立ち竦む少年の姿。

 

「答えてくれ、ロスヴァイゼ」

「罪だな」

「そうか……」

「それに必要もない」

「そうだな……」

 

 怨嗟の声が、街中から聴こえてくる。コクピット内にいるバウンティには聞き取れる筈のない声がだ。

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