カラサワの運び手   作:早起き三文

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第6話「命(後編)」

  

「……」

 

 ガォウ、ガ……!!

 

 コクピット内で無表情にテロリスト達の駆るMTを、カラサワで薙ぎ倒していくバウンティ。

 

――娘の命は、あと三ヶ月――

 

 本来ならば娘、彼女に会うべき事ではあるのだが、バウンティは彼女には会わない。ただひたすら。

 

 ゴゥ!!

 

 いつもの汚れ仕事、レイヴンとしての稼業に精をだしている。

 

「……サニー、スマイルレディ……」

 

 まるで、現実逃避でもするかのように。

 

「俺を描いてくれた絵、無くしちまったな……」

 

 インヴィジブルのコクピット内へと張り付かせていた娘の絵、それを無くしてしまったことが、彼バウンティには悔しい。

 

「未確認ACを確認」

「種類を判別しろ」

「認識不能、データにありません」

 

 その言葉にも無表情でうなずくバウンティは、しかし本能とも言うべき勘で未確認ACを表すレーダー光点にと、その目をやる。

 

「こっちに、一直線に突っ込んでくるな……」

「未確認機は中量タイプと推定」

「了解」

 

 廃ビル、あちらこちらに人が活動していた名残が見えるその廃墟の真ん中で、バウンティはその「未確認機」の接近を実と待つ。

 

「見つけたぞ、バウンティ!!」

「何……?」

 

 その、憎悪に満ちた声と共にインヴィジブル、漆黒のACの目前にと、逆関節タイプのACがその姿を現す。

 

「姉さんと、姉さんの娘の仇!!」

「俺の知った顔か……?」

「シティでは、よくも!!」

 

 その女の声、どこかで聞いたような気がしたバウンティは、その逆関節機から放たれたビームを身軽に回避しながら、コクピット内で冷静に考える。それが出来るほどには、敵機の女の腕は大した事はない。

 

「もしかして、お前は……」

 

 シティ、恐らくは以前の「汚れ仕事」で盾にしたMTの肉親、たしかその次に受けた依頼であるその街の警護でも、彼女はバウンティにと怒りを露にしていた。

 

「あの、シティでのMT乗りか……」

「姉さんには、娘がいた!!」

「娘……」

「余命が半年の、可愛い娘が!!」

「……!!」

 

 出鱈目な武器腕ビーム砲、バウンティにとってはそれをかわすのは「わけ」はないが、その言葉が彼を激しく揺さぶる。

 

「もう少しで、姉さんはその子の病気を治すだけのお金が貯まったのに!!」

「……」

「それを、お前は!!」

「フン……」

 

 コクピット内でその彼女の言葉に鼻で笑いつつ。

 

「所詮、死んだ人間は敗者だ」

「貴様ぁ!!」

 

 バウンティはその彼女の言葉に、乾いた笑みを浮かべて見せる。

 

「敵AC、行動パターンは極めて稚拙だと思われます」

「少し、黙っていてくれ」

 

 その自機のAIにと向けた言葉が、なぜ所詮は機械であるその機能に通じたのかは解らないが。

 

「おい、貴様」

「なんだ!?」

「もし、俺を倒せたならば」

 

 インヴィジブルの高性能AIは、そのバウンティとガードMTを駆っていた彼女との会話に割り込まない。

 

「俺の、胸ポケットを漁りな……」

「戯れ言を!!」

「クレジットのナンバーは、一三八七……」

 

 ビゥア!!

 

 その、バウンティの言葉を挑発と受け取ったのかその彼女、素人同然のAC使いは闇雲にビーム砲を放つのみ。その光景を他人事のように見つめていたバウンティは、右手にと装備させている「カラサワ」を排除し。

 

「これも、ハンデだよ」

「どこまでも、貴様は!!」

 

 続いて、肩部ミサイルをも取り外し、予備のレーザーブレードのみの軽装となる。

 

「人の命を、なんだと!!」

「知らないな、素人……」

 

 バウンティが見た限り、その相手の動きにはAC乗りの素質らしき物が窺える。彼の歴戦レイヴンとしての経験だ。

 

「どうした、かかってこい……」

 

 生き延びれば、良いAC乗りになるはずだ、そして金があれば。

 

「ならば、こちらから行こうか……」

「なめるな!!」

 

 その、姉の子供とやらの命も救えるだろう。

 

 ビュウア!!

 

 高出力ビームがバウンティの「隙」を突き、彼の愛機「インヴィジブル」の左脚を吹き飛ばした。

 

「姉さん、仇をとるわ!!」

「フフ……」

 

 続いて襲いかかる、敵ACのロケット弾、それもバウンティの「隙」を突いて、今度は頭部が大きく破損する。

 

「あばよ、AI……」

 

 どうやらそのショックで相棒、よく出来たインヴィジブルのAIが「死んだ」ようだ、機体制御も極めて不安定になったインヴィジブルの目前には。

 

「姉さん、見てて!!」

「おや……」

 

 モニターにと写る、コクピットにと突き付けられた武器腕からの集束光と共に。

 

「ここに、あったのか……」

 

 一人娘、彼女が描いたバウンティの似顔絵が天から静かに舞い落ちる。

 

「サニー、スマイル、ガール……」

 

 その敵機が放つ光を見つめながら、バウンティは。

 

「レイニー、ガール……」

 

 その手を。

 

「シャイン、ガール……」

 

 相手から放たれる光の中、その舞い降りた羽、宝物にと大きく。

 

「マイ、ガール……」

 

 大きく彼はその手を、伸ばした……

 

 

 

――――――

 

 

 

「任務、達成」

 

 インヴィジブルをビーム砲で破壊したACを超遠距離射撃で仕止めたヴァルキュリアは、その傍らにと立つ。

 

「これより、カラサワの回収に入る」

「N10ユニット、了解」

 

 深紅の塗装に、肩にと「9」のエンブレムが凛然と輝くAC、その機体へと声をかける。

 

「人の憎しみとやら、使い道があるようだな」

「我等には、失って久しい物」

「お前はそうではあるまい、ロスヴァイゼ?」

 

 二人の女の声、その内機械音声と思わしき深紅の機械からの声に、ヴァルキュリアにと乗るロスヴァイゼは沈黙したままだ。

 

「イレギュラー、バウンティを手懐けることにより、カラサワの分析が進んだ」

「言うなよ、ナインボール……」

「……」

 

 何か、何かを確認するかのようなナインボールと呼ばれた機体のその顔が微かにヴァルキュリアにと向いた後。

 

 ジュア……!!

 

 ナインボール、深紅のACはカラサワを手にしたままブースターを噴かし、その場を立ち去る。

 

「……」

 

 残されたヴァルキュリアは、残骸となったインヴィジブルと、その相手であり、沈黙したACをしばしの間見つめた後。

 

「サニー、スマイル、ガール……」

 

 静かにそう呟いた後、音もなくその場を立ち去る。無人となった廃ビル、そして同じく無人の機体となったインヴィジブルに。

 

 ファサ……

 

 稚拙な顔が描かれた、一枚の絵が舞い降りた。

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