ALO コラボイベント開催!《ナザリック地下大墳墓を攻略せよ!》   作:黒雲あるる

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第13話

10月14日22時58分 ナザリック地下大墳墓第九階層 タブラ・スマラグディナの私室

 

「お父様、お聞きしたい事が御座います」

 

 部屋の中には2人の異形。この部屋の主であるタブラ・スマラグディナ本人、そして彼が創造したアルベドの姿だ。

 

「…どうした?」

 

 ここ数日で何人かの階層守護者の様子がおかしいという話を聞いていたタブラ・スマラグディナ、その内の1人が今彼の目の前にいるアルベドだ。

 

「お父様達はどこか妖精(ハエ)共に倒されたいという願望があるのではないでしょうか?つい先日、ガルガンチュアの応援に行こうとした私達を引き止めた事も何か関係があるのでしょう?」

 

「………」

 

 アルベド達の基礎となっているのはトップダウン型AIと呼ばれるものを限界まで進化させたものだ。このAIは人間に何かを聞かれれば最適な回答を探し出し答える事が出来る他、質問等を可能にする程の性能を持っている、しかしその内容を理解しているのかと言われれば答えはNOだ、あくまで行動原理に基づいて会話を行うだけの存在である。

 

──しかし今のアルベドはどうだ?

 

 最適な回答を答えるどころか創造主達の行動に疑問を露にし自身の考えに基づいて行動を起こしている。更に納得行かない事に対して創造主に反発し命令に背いているのだ、幾らなんでも異常だとしか言えない現象である。

 

(一体何が起こっている…?命令に従わなかった上に私達に疑いの目を向けるとは…最早AIの範疇を超えているぞ…)

 

「…結果的に応援が間に合わずガルガンチュアは敗れました。お父様達は悲しくはないのでしょうか?ガルガンチュアはっ!あの子は!」

 

「アルベド」

 

「─っ!…はい」

 

 アルベドの言葉を遮りそれ以上の言葉を紡がせないようにするタブラ・スマラグディナ。この時点で彼はアルベド達に何が起きているのか薄々感付き始めていた。

 

──しかし辿り着いた結論が正しいのかは分からない、それは誰にも証明する事が出来ないからだ。

 

「お前の言うとおりだ、私達は最終的に妖精達に倒されなければならない」

 

「な、何故なのですか!?それでは…私達は一体何の為に創り出されたのですか!?お父様達を御守りする事こそ私達の存在理由ではないのですか!?」

 

「それは…」

 

 言い淀むタブラ・スマラグディナ。今のアルベドは自我を…いやこの場合は進化と言った方が良いのかもしれない、より一層人間の思考に近付いているのは間違いないだろう。そして今のアルベド達に今の我々の現状を教えてよいものかどうか、タブラ・スマラグディナは苦悩する。

 

 先程アルベドが述べた通り彼女達の存在理由は至高の41人の守護にある、その使命の為ならば命すら平気で投げ出す程に彼女達の中では唯一無二の使命なのだ。

 

 そして普通の状態ではない今のアルベドに妖精達に倒されなければならない理由を話せば何が起こるかは想像に難しくない。存在理由を見出せずに命を絶つか、もしくは行動原理の大元となっている至高の41人を守る事を遂行する為に侵入してきた妖精達を徹底的に殲滅するかのどちらかだろう。しかし自ら命を絶つのは不可能、ならば後者しかありえない。そうなってしまうと彼等の最終目的を達成する事は非常に難しくなる。

 

──ゲームでのラスボスの役割とは最終的に主人公に倒される事にある、倒せないラスボスが存在するゲームなどそれは最早クソゲーに他ならないのだ。

 

 彼等アインズ・ウール・ゴウンはこの役割をこのコラボイベントで忠実に再現しようとしているのだが……動き出したNPC達にテンションが上がったり悪のロールプレイに没頭するあまり、自身でも歯止めが効かないぐらいに暴れ回ってしまったのだ。…結果、妖精達に多大な(精神的)ダメージを負わせてしまったのだが…これでも彼等にとってはかなり抑えているらしい、バランス調整で禁止されてしまったスキルや魔法が使えればもっと悲惨な事になるのだと彼等は言う。

 

──具体的な例を挙げるならば最も弱体化の煽りを受けたモモンガを例にすれば分かりやすい。

 

 まず時間停止(タイムストップ)で妖精達の動きを止め次に課金アイテムで詠唱時間を無しにした範囲即死魔法をお見舞いし更にリメインライト状態の妖精達にスキルでアンデッドとして復活させ同士討ちさせるだろう。挙句の果てには第一階層入口で《絶望のオーラ》を垂れ流しにすれば決して侵入することの出来ないダンジョンの出来上がりだ。

 

──鬼畜過ぎて笑えない。

 

「…答えては頂けないのですか?」

 

──アルベドの金色の瞳から涙が零れ落ちる。

 

「………すまない、今の私ではお前の問いに答える事は出来ない」

 

──無理もない、一体誰がこのような事態を想像出来ただろうか?まさかNPC達に自我が芽生える等誰も想像出来る筈がないのだ。

 

「……──失礼致しますっ!!」

 

 涙を流しながらアルベドが退室していく、その後ろ姿を見届けながらタブラ・スマラグディナは後悔に苛まれた。

 

「…娘の疑問にも答えられないとは…何が大錬金術師だ」

 

 アルベドの気持ちは痛いほどに理解出来る、確かにタブラ・スマラグディナ達にとってはここはゲームであるのは事実、だがそれでも仲間達と共に創り上げたこのナザリック地下大墳墓は第二の故郷とも呼べるほどに心の拠り所となっているのだ。

 

 そして彼女達NPCにとってもそれは同じ、いやこのナザリック地下大墳墓こそ彼女達の世界そのものなのだ、ここを失えば彼女達は必然的に消滅する事になってしまう、しかも否応なくその刻は迫っている。残酷にもこのナザリック地下大墳墓はあと17日で終わりの刻を迎えるのだ。

 

──そしてそれは新たな命を得たといっても過言ではない彼女達の命の灯火も僅か17日で潰えてしまうという事を意味する。

 

「……モモンガさんに伝えなくては」

 

 こんな時、ギルドマスターであるモモンガならどうするだろうか、タブラ・スマラグディナは開け放たれた扉を抜け信頼の置けるモモンガのいる円卓の間へ歩みを進める。

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

10月14日23時08分 浮遊城アインクラッド第22層南西エリア南岸のログハウス

 

「今ここでこのアイテムを起動したらどうなるんだろうな…?」

 

 キリトの目の前のテーブルの上に置かれた黒と赤のグラデーションが美しいオブジェクト。そのアイテムの名称は……《ガルガンチュア起動キー》。

 

「お、押すなよ!絶対に押すなよ!フリじゃないからな!?キリの字!?」

 

「…お、押していいか?」

 

「ダ、ダメだよキリト君!」

 

 クラインとアスナが冷や汗を流しながら目が据わっているキリトに制止の声を向ける。そのアイテムの説明文を見ればクライン達が慌てるのも理解出来るだろう、説明文にはこう書いてある。

 

──『1度だけガルガンチュアを召喚する事が出来る』

 

 つい先日の事だ、波動砲によって成す術なく全滅した攻略部隊だがそれでも諦める事なく増援に駆け付けたNPC達の激しい抵抗に遭いながらも何とか波動砲のリキャストタイムを掴む事に成功する、しかしNPC達の抵抗が今まで以上に熾烈なものとなりこれ以上の攻略は現状の戦力では不可能だと判断され、戦力の整う夜に改めて仕切り直そうと撤退を余儀無くされたようだ。

 

 ふぁ★しるの齎した情報通りならばナザリック地下大墳墓は第十階層まである、コラボイベントの開催期間も折り返し地点が迫ってきておりこれ以上第四階層で足止めを受けていては第十階層まで到達する事は不可能に近くなる。一刻も早く第四階層を突破しなければならないのだ。

 

 そして13日の夜、波動砲のリキャストタイムも計算に入れ再度部隊を編成しなおし攻略を開始する妖精達。NPCや支配者達が妨害に現れない事を不審に思いながらも作戦通りにガルガンチュアに接近したキリト達主力部隊が怒涛の攻撃を仕掛けついに妖精達はガルガンチュアを打ち倒す事に成功するのであった。そしてガルガンチュアは待機部屋へと転送されていく。

 

──ガルガンチュア攻略作戦が開始されてから実に1週間もの間、ガルガンチュアは強固な門番として妖精達を幾度となく跳ね返していく、時には1人で、時には頼もしい仲間達と、そして偉大なる支配者をその頭頂部に乗せながら共に戦えた事に誇りを抱きつつ後の事を仲間達に託して彼はついに力尽きたのである。

 

「わ、分かってるよ…冗談だって…」

 

 そしてドロップしたこのアイテム、今までドロップした伝説級武器(レジェンダリーウェポン)とは違い使用は一度きりで使えばガルガンチュアを召喚出来るのだという。今後の攻略で必要になる時が必ず来るだろうということで領主達に最も信頼されているキリトに預けられる事となったのだ。

 

 超ド級の重要アイテムをストレージに収納し変わりにキリトが取り出したのは2つのアイテム。恐怖公の乗り物兼盾役(タンク)だったシルバーゴーレム・コックローチからドロップしたアイテムである。

 

──伝説の鉱石《ヒヒイロカネ》と希少貴金属《スターシルバー》の2つだ。

 

「この2つもどうするか決めないとな…」

 

 と、言ってもこの2つのアイテムを加工するには工匠妖精族(レプラコーン)のリズが必要なのだが現在彼女はログアウトしておりここにはいない。そして同様に姿の見えないエギルはダイシーカフェで客の相手をしているようだ。

 

「誰か、新しく武器が欲しいって人いないか?」

 

 キリト自身は聖剣エクスキャリバーを所持しており更にリズベット武具店のエンブレムである純白の飛竜が箔押しされているユナイティウォークスも所持している為特に必要では無いらしい。

 

「私は特に必要って訳じゃないけど…シリカは?」

 

 シノンがシリカに問い掛ける。

 

「わ、私は…えっとその…」

 

「私はシリカちゃんの武器に使うのが良いと思うな?」

 

「さんせーっ!」

 

「アスナさん!?リーファちゃんまで!」

 

 アスナが笑顔で発言する、自分にあまり自信を持てない性格のシリカではあるが時に勇ましい姿を見せる事もある、…のだが内気な性格が災いしてか自分から積極的に行動する事は少ない。しかしもっと皆の役に立ちたい、いつも助けられてばかりなのをどうにかしたいとシリカから相談を受けていたアスナは彼女にそっと助け舟を出す。

 

(…また、だ。また私は大切な人(アスナさん)に助けられて──っ、何時までもこのままでいる訳にはいかないって決めたのに…頑張ろうって決めたのに)

 

 過去キリトやアスナ、そしてこの場にいる皆に何度その背中を押され勇気付けられただろう、何度迷惑を掛けただろう。その度に一歩ずつではあるが前に進む事が出来ていたシリカ、そして今回もきっとシリカはいや、綾野 珪子は前に進むだろう。それが分かっているからこそアスナはそっと背を押すだけに留めたのだ、其処から一歩を踏み出すには自身の意思で進まねばならないのだから。

 

(頑張って…シリカちゃん)

 

 アスナの温かい視線を感じ取ったシリカが勇気を振り絞る、背中を後押ししてくれたアスナに感謝の念を抱きつつ目一杯深呼吸し、口を開くシリカ。

 

「…キリトさん!そのアイテムを私の新しい武器に使ってもいいですか!?」

 

「ああ、勿論だ。じゃあ後日リズに頼んでシリカの新しい武器を作ってもらおう」

 

「─はいっ!!」

 

──そして成り行きを黙って見ていたクラインが何かを思い出したかのようにおもむろに口を開いた。

 

「…そういやァそのアイテム、あのゴキブリからドロップしたんだよな…ッてぇー事は…」

 

「………クラインさんサイテー」

 

「…………クライン、あんたね…」

 

「や、やっぱり辞退して良いですか…」

 

「クライン…今のは流石に酷いと思うぞ…」

 

 敢えて全員が触れないようにしていた事実を蒸し返すクラインに全員が蔑みの視線を送る。

 

「な、なんだよぉ!?…俺だって──ひぃ!」

 

 底知れぬ笑顔で見下ろすアスナがクラインの肩をがっちりと掴む。

 

「クラインさーん…」

 

「も、申し訳ありませんでしたァッ!!」

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

10月14日23時37分 ナザリック地下大墳墓第五階層 氷河

 

「くっそぉ!皆何処に行っちまったんだ!?」

 

 一寸先も見えないほどの猛吹雪が妖精達の視界を防ぐ。更に冷気ダメージがじわじわと妖精達の体力を奪っていき思考する余裕さえも与えない。

 

「うわあああああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

「──!?」

 

 第五階層に侵入した直後にいた大量の妖精達の姿は既に消え失せてしまっており、この猛吹雪のせいなのか方向感覚がまともに機能せず散り散りとなってしまっていた。

 そして先程から絶え間なく響き渡るこの悲鳴、明らかに何かがこの猛吹雪を隠れ蓑にして妖精達を狩っている。

 

「──はっ!?」

 

 何者かが自分の周囲を動き回っている気配を感じ取った猫妖精族(ケットシー)の男。徐々にその気配が自分に近付いて来ている事を耳が敏感に察知する。

 

「こ、こんなとこにいられるか!俺は逃げるぞぉ!!」

 

 しかし既に自分が何処から来たのかも分からなくなっていた男はただ自分の勘に任せて一直線に進むという選択肢しか取る道は無かった、それでもこの場に留まるより遥かにマシだとして全速力で逃げようとするその男に凶刃が迫る。

 

「逃げる奴はただの妖精だ」

 

「だ、誰だ!?」

 

「逃げない奴はよく訓練された妖精だ!」

 

「姿を見せろっ卑怯者が!!」

 

 姿を見せない何者かに精一杯の罵声を浴びせる猫妖精族(ケットシー)の男。そしてついにその男が姿を現す。

 

「俺の名は弐式炎雷!貴様に引導を渡す者だ!」

 

──その言葉を最後に猫妖精族(ケットシー)の男は自分に何が起こったのかも分からないまま第一階層へと送り返される。

 

 この猛吹雪の中で妖精達を狩り続けていたのは、姿を現した弐式炎雷と彼に指揮された15体の八肢刀の暗殺蟲(エイトエッジ・アサシン)達だ。

 

 暗殺と隠密に長けた彼等の攻撃力は凄まじいものがあり認識されていない状態で攻撃すればその一撃はナザリック一の威力を持つと言われている、そしてこの猛吹雪も彼等の能力を最大限に発揮させる抜群の効果を齎していた。

 

──人間が得る大部分の情報は視覚によって齎されている。その視覚をこの猛吹雪により封じられてしまった妖精達、姿の見えない暗殺者達との戦いが今始まろうとしていた。

 

 

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