ALO コラボイベント開催!《ナザリック地下大墳墓を攻略せよ!》 作:黒雲あるる
9月19日 都内某所
複数の男達がそれぞれのデスクに置かれているPCと向き合い熱心に仕事をしている。時刻は二十一時を回った所であり、彼等以外にこのオフィスビルに残っているのは警備員のみだ。
「佐藤さーん!データの移行終わりました、後は精査するだけです」
「あぁ御苦労様、じゃあ今日はもう帰ろうか」
佐藤と呼ばれた男が解散を宣言した。しかし佐藤の発言を受けた周囲の部下達はどこか不安な様子だ。
「大丈夫なんすか?結構なデータ量ですけど…」
「問題ないよ、移行さえ終わればデータの精査と最終調整はカーディナルがやってくれるからね、僕達がやる事は不具合が出ないか確認するか…ナザリック地下大墳墓をブラッシュアップするかぐらいだけど…彼等の作り込みが半端じゃないから特に手を加える箇所ないんだよねぇ、いや~ホント凄いよあの人達」
「ナザリックのデータだけでゲーム一本余裕で作れますもんねぇ…」
佐藤達が話しているのは来月に行われるコラボイベントの舞台となる《ナザリック地下大墳墓》の事である。と言うのもモモンガから頂戴した《ナザリック地下大墳墓》のダンジョンデータが予想以上に膨大な量だったのだ。データ移行だけで半月程掛かってしまったと言えばどれ程の容量か理解出来るだろう。
そしてこれ程時間が掛かった理由は他にもあった。
それは規格の違いである。
VRMMORPGの先駆けとして発売された《ユグドラシル》。
勿論プレイする為には専用のフルダイブ用マシンが必要となってくる訳だが、問題はそのフルダイブ用マシンが"ALO"や"GGO"等に使用されているアミュスフィアとは規格が違うと言う点だ。
とある天才が発明したナーヴギアと、その後継機アミュスフィアとは別の独自の技術を駆使して生み出された《ユグドラシル》専用フルダイブマシン。
その性能はお世辞にも良好とは言えない性能で、キャラクターの表情は完全に固定されており予め用意された感情表現モーションを使うぐらいしか感情を表現する方法は無い。
それに加えNPCにプレイヤーと会話させるだけの高度なAIを組み込む事も出来ず、また当時の電脳法により味覚・嗅覚は完全に遮断され、そして触覚もある程度の制限を受けていたのだ。
開発会社も後継機を作るつもりが無かった為、完全に一世代だけのマシンとなってしまったのだ。
しかし現在はVRへの理解が広まった事で法整備と改正が積極的に行われ、味覚・嗅覚は勿論として、触覚などの制限は全て撤廃されておりそのリアルさに更に磨きが掛かっている。
「しかし発売から10年近く経とうとしてるゲームによくこれほど熱中出来ますよね~他のVRには手は出されてないんでしょうか?」
帰り支度を行いながら《アインズ・ウール・ゴウン》の四十一人の話に入る佐藤達。
「何人かはやってるみたいだよ、でもやっぱり《ユグドラシル》が一番落ち着くらしいね。それと心血注いで創り上げたNPC達がどうしようもなく可愛いみたいでね、彼等がこのコラボをやる事に乗り気なのはそのNPC達が理由みたいだよ」
「はぁ…自分の子供、みたいな感じですかね?」
「それもあるが…何よりも一番の理由は彼等の創り上げたNPC達がALOで自由に動き回れるって事さ。…まぁその思い入れが深すぎるお陰で僕等が残業に次ぐ残業で死にそうなんだけど」
◇◆◇
9月30日23時09分 ユグドラシル ナザリック地下大墳墓 円卓の間
「まもなくイベント開始ですね、あぁ待ち遠しい…」
モモンガが遠足前の子供のような事を口にするが、ここに集まっている者達全員がモモンガと同意見らしい。腕を組んでウンウンとモモンガが漏らした呟きに反応している。
「ついに…ついに…俺のシャルティアが自分の意思で動き回れる日が…!!!!」
「黙れ、弟…と言いたいところだけど私もアウラとマーレと早くお喋りしてみた「早くprprしたい」…やっぱり黙れ、弟」
ペロロンチーノとぶくぶく茶釜が珍しく喧嘩していない、と思った矢先にペロロンチーノの口走った最期の言葉に反応するぶくぶく茶釜。いつも通りである。
しかしこの姉弟も心血注いで創り上げたNPCとの邂逅を待ち望んでいるようだ。
「あぁ不安だ…佐藤さんは私の送った三姉妹の設定をちゃんとAIに組み込んでくれているだろうか…不安だ」
「「「………」」」
タブラ・スマラグディナの言葉に一同が沈黙する。
自他共に認めるナザリック一の設定魔であるタブラ・スマラグディナ、彼が創り上げた三姉妹には膨大な量の設定──つまりは生い立ちや性格、趣味等──がびっしりと書き込まれている。
NPCがその設定どおりに動くようにAIを組み込む必要があるのだが、その作業を想像するだけで社会人経験豊富なこのギルドの面々は恐れ戦いてしまうのだった。
(((佐藤さん…ご愁傷様です)))
タブラ・スマラグディナを除く全員が心の中で合掌する。
先程からの会話の内容からある程度の推測は可能だろう、ALO用に複製されたNPC達だが中身はまだ空っぽな状態なのだ。そんなNPC達に命を吹き込む為に必要なのがバックボーン、つまり行動理念と言う名のAIである。
《ユグドラシル》が発売されてからと言うもの、この数年で様々な分野の技術が飛躍的な進化を遂げている。AI技術も例外ではなくプレイヤー達と会話が出来る程に劇的に進化しているのだ。
ならばその技術を《ユグドラシル》にも導入すれば良いのでは?と思うかもしれない、しかし金本達《ユグドラシル》を運営する人間達はそれをしなかった──否、出来なかったのだ。
高度なAIを導入するには受け入れる為のリソースを確保する必要がある、しかし既に膨大な九つのフィールドやダンジョン、大量のデータ群に大部分のリソースが割り振られていた為に確保する余裕が無かったのだ。ここでも《ユグドラシル》専用フルダイブマシンの性能の低さがネックとなっていた。
NPCを創り上げた、ならば次は自分の息子娘同然の存在であるNPC達と会話したい、彼等がそう思うようになるのは至極当然の事である、勿論過去にそれを試みた者もいた。
《ユグドラシル》で不可能なら他のVRMMOではどうなのか?そう思った者が他のVRMMOでNPCを作成するも予め用意されている各パーツを組み合わせるだけと言う《ユグドラシル》に比べて圧倒的に不自由なキャラメイクしか出来なかった為に出来上がったNPCはオリジナルのNPCに比べると似ても似つかない出来にしかならなかったようで結局諦めて古巣に戻るという結果になっただけで徒労に終わったのだ。
そんなアインズ・ウール・ゴウンの元へ舞い込んだのが今回のコラボイベントの企画だ。
自分達の長年の夢であった愛するNPCとの会話を実現させてくれるこの企画にNOを突きつけるギルドメンバーがいる筈が無い、この企画を受け入れるか否かの多数決を実施した時も当然の如く満場一致でこの企画に参加する事を決定したのだった。
「ALOのプレイヤー達、イベント開始と同時に攻めてくるかな?」
「土日やからな、当然攻め込んでくるやろ」
「まぁボク達も休みだし万全の体制で迎え撃てるから問題は無いと思うよ、問題は平日だよね」
「休みの奴が交代で守るしかないだろうなぁ」
「例のギミックは何処に配置されるんだっけ?」
「あぁそれは各NPCの住居に置いてるよ。正直あの部屋に入らないといけないなんて…妖精達に同情するね」
イベントが始まってからの事を話し始める面々、このコラボイベントを開始するにあたって二つの陣営に目標と言うものが設定される。
妖精側、ALOのプレイヤー達の目標はナザリック地下大墳墓第十階層円卓の間に安置されているギルド武器の破壊もしくは支配者である41人の全ての撃破にある。
対してアインズ・ウール・ゴウンの目標は当然そのギルド武器の破壊の阻止と自分達が如何に撃破されないか、ということに集約される。
「モモンガさん、トラップやギミックの発動にかかる費用は全て無料なんだよね?」
「はい、それと一度使用してもリキャストタイムが終われば自動で再補充されるので気にする必要はないですよ」
「それは僥倖…ふふふ、慌てふためく妖精共の姿が想像出来ますね」
「あぁ、実に愉しみだ…」
「「「ふっふっふっふっ……」」」
41人が不敵に嗤う、その様は悪の秘密結社と呼ぶに相応しい様相を齎している。
「おっ、佐藤さんからメール来ました。もうログインしても良いそうです」
「「「「キタ━━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━━!!」」」」
「では、行きましょうか…新たな伝説を創りに!!」
◇◆◇
9月30日17時47分 新生アルヴヘイムオンライン 浮遊城アインクラッド第22層南西エリア南岸のログハウス
一つの部屋に9人のプレイヤーが集まって和気藹々と雑談に花を咲かせている。
「いよいよ今夜からか…」
その中の一人、全体的に黒味がかった服装の
「もう少しでメンテ始まるね、キリト君」
キリトの呟きに反応したのは隣に座っていた水色の髪が特長的な
「パパ!ママ!改めて今回のイベントのボスであるアインズ・ウール・ゴウンの情報を表示しますね!」
「ありがとうユイちゃん!」
「ありがとうユイ」
キリトとアスナの感謝の言葉に嬉しそうに二人の周囲を飛び回る小さな妖精、二人をパパとママと呼び慕うこの少女の正体、それはカーディナルシステムのプログラムの内の一つ、プレイヤーの精神的ケアを司るカウンセリング用人工知能《
ユイが空中に透明なディスプレイをいくつも表示させアインズ・ウール・ゴウンの様々な情報がそのディスプレイに表示されていく。
「さっすがユイちゃん!誰かさんと違って優秀よねぇ~?」
雀斑が特徴的な
「何だよ!脳筋だって言いてぇのか!?良いか?侍たるものっ「あー何度も聞いたわそれ」おい!!」
リズベットとクラインのいつものやり取りにキリトとアスナ、ユイと
「それでユイちゃん、そのコラボイベントのボスってどんな人達なの?私達と同じプレイヤーよね?」
シノンがユイに疑問に思った事を聞いていく。
「その通りですシノンさん!今回のコラボイベントのボスを務める41人のプレイヤー達を拡大します!」
「ひゃっ!や、やっぱり何度見ても怖いですぅ…うぅう」
9人の中で一番小柄で年下であるシリカが表示された異形のプレイヤー達を見て小さな悲鳴をあげる。無理も無い、精神的にもまだまだ幼いシリカにはかなり刺激が強いのだ。特にぶくぶく茶釜の姿は見せてはいけない部類筆頭だろう、勿論ALOではその凶悪すぎる外見は修正されているので安心して欲しい。
「えっと、この骸骨の魔術師さんが41人を纏めている人みたいです。プレイヤーネームはモモンガさんです!」
特に大きく拡大されたこのキャラがギルドマスターであるモモンガだ。
「ラスボスに相応しい外見だなオイ…」
9人の中でも一際身長の高い且つ強面のエギルが呟く。
「《ユグドラシル》の掲示板を色々覗いてみたんだけどよ、この集団DQNギルドって言われてるらしーぜ」
「何か恨まれるような事でもしたんですかこの人達?」
クラインの情報に隣に座っているリーファが質問する。
「あぁ、何でもこの…ナ、ナザリックだったか?そこに1500人の人数で攻め込んだ事件があったんだってよ、んで全員返り討ちにあったらしいぜ」
「「1500人!?しかも返り討ち!?」」
シリカとリーファがクラインの口から発せられた情報に驚く。1500人のプレイヤーがたった41人のプレイヤーに負けたのだから当然と言えば当然かもしれない。
この事件は当時かなりの話題となったのだがほぼ同時に発売された《オーグマー》の話題に塗りつぶされるように瞬く間にネットの海の片隅へと追い遣られてしまったのだ。故にこの事件を知っている者はそれ程多くは無い。
「その撃退した方法がチート染みた手段だったようで運営に苦情が殺到したらしいな」
「えぇ…お兄ちゃんそれ私達勝てるの?」
「うーん、あの映像どおりならちょっと無理だな…運営もあのままで実装は流石にしないと思う」
「そ、そうだよね……うん」
キリトの言葉にほっと一安心するリーファだったがそれでもリーファの胸中には不安が残っているようである。
「あっ、メンテ5分前だよ」
「今日はここまで、だな。皆明日の朝10時にここに集合しよう」
アスナとキリトの解散宣言にそれぞれがお休みの挨拶をして次々とログアウトし最後にキリトとアスナもログアウトしていき無人となったログハウスの灯りが自動で消灯される。
彼等全員が寝静まり各々が様々な夢にログインしている頃、日付が切り替わりついにコラボイベントは開始された。日曜という事もありまだまだ眠気の訪れない待ちきれなかった大量のプレイヤー達がコラボイベント開始の為のメンテナンスを終えたALOに次々とログインし即座に《ナザリック地下大墳墓》の場所を探す為に普段は敵対関係にあった種族達が協力して情報交換を行いつつあちこちを飛び回る。
──そして暫くして目的のダンジョンがついに発見される。
即座に《ナザリック地下大墳墓》の座標データが全てのプレイヤーに飛ばされていき、瞬く間に集結する妖精達。9つの種族が集まるその光景は新生アルヴヘイムオンラインがサービス開始してから唯の一度として実現した事はない、それが敵対ではなく共通の目的の為なら尚更の事だ。
──その数は実に数万人に及ぶ。正に圧巻の一言だ。
この場に集ったプレイヤー達がこれだけ集まれば楽勝だろう、満を持して始まったイベントは数時間で終わりを迎えるだろうと思ってしまうのも無理はない。
──しかし彼等はこの直後に思い知る事になる、今回のイベントが生半可なイベントでは無いという事に。
少し考えれば分かる事ではある、イベント期間としては異例と言う他無い1ヵ月という長期開催、ボスがNPCでは無く自分達と同じプレイヤーという事実に。
──油断と慢心、そして一つの大きな思い違いが突入した彼等を襲う。
──そして第一階層で彼等は出会う。
──最奥にて待ち構えている筈であろう者達に。
──そんな者達がポカンとしている妖精達にこう言い放つ。
「いつから、ラスボスとは最奥で待ち構えているものと思い込んでいた?」
──蹂躙が始まった。