ALO コラボイベント開催!《ナザリック地下大墳墓を攻略せよ!》 作:黒雲あるる
10月31日18時52分 ナザリック地下大墳墓第九階層 ロイヤルスイート
「ようこそ御出で下さいました妖精の皆様、至高の御方々より失礼の無い様に案内せよと仰せつかっております」
そう言ってキリト達を含む妖精一同を出迎えたのは覆面に正装の怪しげな男を付き従えているイワトビペンギンそのものの姿をしている謎の存在であった。
「………ペンギン…」
「ペンギンだな…」
「ど、どうしようお兄ちゃんっ!可愛いぃぃぃっ!!」
「モフモフしてみたいです!」
「ふっ…お嬢様方…どうです?今から私行きつけのバーで共に夜を明かすというのは?……おっと私とした事が申し遅れました、私の名はエクレア。エクレア・エクレール・エイクレアーと申します、以後お見知りおきを!」
エクレアと名乗ったイワトビペンギンがスグ達を口説きながら背後に控える部下らしき覆面の男から受け取った櫛を器用に使い頭部の左右に綺麗に生え揃った金髪をくるくると整えなおす。その様子を眺めながら武器を構え始める妖精達。
「おっとお待ち下さい!私達に戦闘能力はありませんし貴方達の目当ての物を私達は持ち合わせておりませんよ」
「なに?」
「え~確か〝ドロップアイテム〟なる物でしたか?この階層にいる私を含む全てのシモベ達の戦闘能力は皆無、私達の役目は至高の御方々の御部屋の掃除や御食事の準備ですからね」
「ではお前の主人達は今何処に居るんだ?」
ユージーンがエクレアへ質問する。
「至高の御方々は現在第十階層玉座の間にて皆様を出迎える準備を整えているところでございます、その間は皆様をこのロイヤルスイートで持て成せ、と仰せ付かっております」
「……なるほど」
「時間稼ぎ…じゃないか?イベント終了まであと五時間だ、このまま逃げ切るつもりじゃないのか?」
「…確かに怪しい事この上ないな、此処は無視して先に進むべ「…待ってくれ」」
一同が割り込んできた声の持ち主へ一斉に視線を投げ掛ける、その視線の先には何時に無く真剣な表情となっているキリトの姿があった。
「モモンガさん達は逃げも隠れもしない、必ず最期までラスボスとして相応しい行動を取る筈だ」
「………随分と信用しているんだな、キリト」
「ああ、少しリアルで会って話した事があるんだ、あの人達のゲームに対する直向な情熱は本物だよ。必ず俺達を待っている筈だ」
そうはっきりと言い切るキリトにこうも自分の意見を口にするとは珍しいなと心の中で率直な感想を抱くユージーン。
どちらかというとキリトという男はいつも一歩引いて周囲に合わせるタイプではある、しかしここぞという時では自ら矢面に立ち活路を見出し仲間達を導く強さを持っている。だからこそユージーンやサクヤ、ほかの領主達からの一定の信頼と敬意を勝ち得ているのだろう。
「………」
キリトとユージーンの視線が交差し周囲に緊張感を孕んだ空気が伝播する、最終的な決定権は指揮官であるユージーンにあるものの、キリトの発言力も無視する事は出来ない。
──腕を組み深く考え込むユージーン、暫くして答えが出たのか改めてキリトに向き直る。
「……良いだろう。キリト、お前のその言葉を信じるとしよう」
ユージーンの言葉にほっと胸を撫で下ろすキリト、そこへ二人のやりとりを空気を読んで黙って眺めていたエクレアが口を開いた。
「話は纏まりましたか?では、ナザリック地下大墳墓第九階層ロイヤルスイートをご案内いたしましょう!」
エクレアとその部下の後ろをぞろぞろと数万に及ぶ妖精達が着いていく、未だ嘗て誰も到達した事のない第九階層の全貌が今暴かれようとしているのだが、既にこの階層に足を踏み入れた人間がいる事を妖精達は知らない。
「こちらはラウンジとなっております、ビリヤードや卓球などを楽しむ事が出来る他マッサージチェアやリビングスペースも併設されています、至高の御方々もよくこちらにお集まりして雑談や戦略会議などを行っているのですよ」
妖精一行がまず案内されたのは大人100人が入っても尚余裕のありそうな程広いラウンジであった、ここから更に通路は奥に続いている。
「どうです?素晴らしいでしょう?埃一つない完璧なまでに行き届いた清掃!!!このナザリックに!私以上に丁寧に掃除出来る者はいません!!トイレ掃除をすれば!便器を舐められるほどですともっ!!」
「「「………」」」
「全ては…この私がナザリックを支配した時の為…」
(((…いや絶対無理だろ)))
「では先に進むとしましょうか、私を運べ!」
「イー!」
「「「喋れるのかこいつ!?」」」
エクレアが背後に控える覆面の正装した怪しげな男に命令を下すと、奇声を発してエクレアを抱きかかえる。今まで唯の一言も喋る事なくじっとしていた事もあって奇声を発した覆面の男に衝撃を受ける妖精達。
そんな妖精達を無視してずんずん通路の奥へ進むエクレア、慌てて着いて行こうとした矢先にエクレアを抱えている覆面の足が突如止まる。
「むむっ!!」
突然唸り声を上げるエクレア、着いてきていた妖精達は何事かと動揺を露にする。
「…こ、こっこここ…」
「「「「こ?」」」」
「こんなところに埃がっ!!!!」
エクレアの視線の先には、若干拭き忘れでもあったのだろう彫刻の像の上に少量の埃が僅かに残っている、しかしかなり注意深く観察しないと分からないレベルなのだがエクレアには許しがたい事実であるらしい。
「私としたことが…なんという失態!こうしちゃいられません!今すぐ掃除せねばっ!!」
部下と共に掃除道具でも取りに行ったのだろうか、あっという間にキリト達の前から姿を消してしまった、途方に暮れる取り残されてしまった妖精達、自分達の案内より優先しなければならない事なのかと心底呆れ返る一同。
「……どうする?」
「どうするも何も…進むしかないんじゃないか?」
「だな………ん?」
先へ進もうとしたキリト達の前に慌てた様子のメイドらしき人物が上品な小走りを披露しつつ駆け寄ってくる。
「申し訳御座いません皆様、執事助手であるエクレアが大変な失礼を致したようで…本人に代わり謝罪いたしますわ…あっわん」
「………ペンギンの次は犬?」
──まさか動物園にでも迷い込んでしまったのだろうか、軽くそんな錯覚に陥る妖精達。
そんなキリト達に丁寧な謝罪の言葉を口にするメイドらしき女性(?)、良く観察してみると体は人間の女性そのものではある、しかし頭部は犬の顔をそのまま乗っけたような状態になっていた、しかも中心には縫い後のような傷跡がありそれがなんともいえない不気味さを醸し出している。
「………でかいな」
「ああ、素晴らしい…」
「ハラショー…」
頭部よりやや下に視線を集中させる極一部の妖精達、そんな邪な視線に気付いていないのかまたは最初から無視しているのか落ち着いた様子でエクレアの代わりに案内を申し出る。
「あっ申し遅れました、私の名はペストーニャ・S・ワンコと申す者、ナザリック地下大墳墓のメイド長を務めております…わん」
自己紹介をしながら通路の奥へと妖精達を案内するペストーニャ、暫くして複数の人影が通路の左右に並んでいるところへ遭遇する。
「「「「「ようこそ妖精の皆様、歓迎いたします」」」」」
「彼女達は至高の御方にお仕えする専属のメイドでございます…わん」
「「「「「おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
「「「「「き、綺麗………」」」」」
出迎えたのはメイド服を着こなした41人の絶世の美女達であった。その美しさは男達だけでなく女達をも魅了し言葉を失わせる程だ、アインズ・ウール・ゴウンの奴等はこんな美女達を侍らしているのかと憤怒の怒りを覚える男性の妖精達。文句の一つも言ってやらないと気がすまないと憤る男共を見て呆れ返る女達の視線が鋭くなる。
「キーリートーくーん?何見惚れてるのかなぁ~?」
「パパ…浮気はダメです!」
「えっ!?い、いや見惚れてなんかないぞ!!ってユイ!?そんな言葉何処で覚えてきたんだ!?」
図星を突かれたかのように動揺するキリトをジト目で睨みつけるアスナとユイに便乗するようにスグやリズも悪乗りしていく、そんなやり取りを穏やかな笑顔で眺めるペストーニャが41人のメイド達を紹介させる為に先へ進む。
「彼女がインクリメント、その隣がシクスス、フォアイル、リュミエール、デクリメント、フォス、フィース…」
41人のメイド達を次々と紹介していくペストーニャ、紹介されたメイド達を妖精達(主に男)が次々とSSを撮影しネットに燃料を投下していく、この行為により掲示板はヒートアップしてしまいちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。
「では、先に進みます…あっわん」
──メイド達の紹介を終え更に先に進む一同。
「こちらはバーとなっております…あっわん」
「いらっしゃいませ」
「………キノコ?」
──バーを経営する副料理長がグラスを拭きながら挨拶しているのを眺めながら次へ進む。
「こちらは大浴場《スパリゾートナザリック》となっております…あっわん」
「青く光ってるがあれは一体…?」
「あぁ、あれはチェレンコフ湯で御座いますね」
「「「なんつーもん作ってんだ!?」」」
9種類と17個の浴槽を備え12のエリアに分かれた大浴場が妖精達の目の前に広がる、中には青く輝くチェレンコフ湯など常軌を逸した物もあり、思わず此処を製作した人物の常識を疑ってしまう妖精達。
「あちらはブティック、その先にはネイルアートショップが御座いますね、そしてこちらが円卓の間で御座います…あっわん」
ペストーニャが扉を開け放った先には円形の巨大なテーブルがある部屋であった、更に41個の椅子が置かれておりギルドメンバー全員を召集しての会議は此処で行われるとの事で自分達が攻め込んだ際もここでその映像を見ていたと説明を受ける。本来ならば一番奥の壁際にギルド武器が安置されているのだがモモンガが持ち出しているのか今此処にはないようだ。
「では先に進みますわん」
主だった施設の案内は終わったのか特に寄り道する事なく終着地点である第十階層へ続く階段の手前までやってくる一同、立ち止まったペストーニャが振り返り自分の案内はここまでだと妖精達に告げる。
「それでは皆様、私の案内は此処で終了で御座います、この先は第十階層玉座の間…至高の御方々がこの先でお待ちしております…あっわん」
そう言って通行の妨げにならないよう通路脇に移動するペストーニャ、数万の軍勢がペストーニャの横を通り過ぎ階段を駆け上っていく、その際に集団の中にキリト達の姿を発見したペストーニャがキリト達を呼び寄せる、どうやら何か用件があるようだ。
「キリト様、アスナ様、そして御仲間の皆様、私達を助けて頂いた事深く感謝しております。皆様のお陰で餡ころもっちもち様ともナザリックの外で御会いする事が出来ました…本当に感謝を…わん」
キリト達を呼び寄せた理由は感謝の言葉を贈る為であった、これからずっと餡ころもっちもちと共に生きる事が出来るという希望に満ち溢れた未来、そんな素敵な未来をプレゼントしてくれたキリト達に深く感謝するペストーニャ。
──そして、キリト達にこの先に最後の試練が待っていると告げる。
「この階段の先には玉座の間へ入る為の最後の試練が待ち受けております、…ですがきっとキリト様達であれば突破出来る事でしょう…御武運をお祈りしております…あっわん」
「ペストーニャさん、案内して下さって有難う御座いました!次はリアルで御会いしましょう!」
「ええ!是非とも!」
ペストーニャに別れを告げ最後の試練へと臨むキリト達、既に戦闘が始まっているのか階段の先からは絶え間ない爆発音と何者かの声が聞こえてくる。
「申し訳ありませんが、最初から全力でお相手させて頂きます!!」
「ユリ姉とナーちゃんの分まで頑張るっすよー!!」
「参りますわっ!」
「…排除開始」
「ここから先はぁ~通しません~」
◇◆◇
同日19時34分 ナザリック地下大墳墓第十階層 玉座の間
41の巨大な旗が左右にずらりと並ぶ玉座の間、そこには脱落する事なく最終日まで残っていた全てのギルドメンバー、そして足止めの為に玉座の間手前の広場にて今現在妖精達と激戦を繰り広げているセバスとプレアデスの姉妹を除いたNPC達が勢揃いしていた。
「ふむ、やはりモモンガさんには玉座に座ってもらっていた方がラスボス感100割増しになりますね」
「そ、そうですか?」
「ですね、我々は玉座の左右に並ぶとしましょうか」
「アルベドとシャルティアはどうする?左右に並べさせるか?」
「そうだなぁ…アルベドとシャルティアを手前の段差のところで並べさせてみようか」
「「「はっ!!」」」
妖精達がセバスとプレアデスの姉妹と戦いを繰り広げている頃、当のモモンガ達はというと…妖精達を出迎えるに当たってどのような配置にするかを決めている最中であった。
「こちらでよろしいでしょうか、お父様」
いつものドレスとは違い漆黒の鎧を着たアルベドが言われた通りの立ち位置まで歩き振り返って確認する。シャルティアもまた真紅の鎧とスポイトランスを装備して所定の位置まで移動する。
「ああ、ばっちりだアルベド。シャルティアもその位置で良いぞ」
「「はっ!」」
「モモンガさん、台詞はちゃんと覚えましたか?」
「ええ!ばっちりですよタブラさん、昨日めっちゃ練習してきました!」
「それは僥倖」
「……緊張してきた」
モモンガが玉座に腰掛けながらソワソワしている、これまでも悪役としてロールプレイをする機会は何度もあったもののここまで大規模且つ運営に公式に依頼されての悪役ロールプレイは無かったのだから当然かもしれない、そして間もなくコラボイベント最期の時が訪れようとしている、緊張感は否応に高まっていく。
「………騒ぎが収まりましたね、セバスには後で労いの言葉を掛けてやらないといけませんね」
「プレアデスの姉妹達にも、ね」
「来るで!」
──そして、ついに難攻不落のナザリック地下大墳墓の最奥である玉座の間に侵入者が雪崩れ込む。
突入してきたキリト達に出迎えの言葉を投げ掛けるのはモモンガ本人だ、そしてギルドメンバー達、シャルティアとアルベドも武器を構えたまま臨戦態勢に入る。
「ここまで到達する事が出来た侵入者はお前達が初めてだ、歓迎するぞ妖精達よ!そして此処がお前達の墓標となる!さあ最後の戦いだ!全力を持って我等を止めてみよっ!!」
──最後の戦いが幕を開ける。
──《生贄》クエスト進行度99%。
次回投稿予定日 1月24日か25日