ここは店員がさまざまな属性で接客をする喫茶店スティーレ。俺、篠宮春樹はここでアルバイトとして働いている。今日も何の変哲もない日になると思っていたのだが……。
「秋月さん、あれは何ですか?」
俺は店の窓の前で頬を引っ張ったりしてる子を指差して言うと、同じバイトの秋月さんに日向もやってきた。
「あれって……せめてあの子って言いなよ」
「まあ、何やってるかはさっぱりだな」
「萌えです……」
「え……?」
すると後ろからこの店の店長であるディーノさんが窓の前にいる子に向かって走り出した。そしてその子の前に立って鼻血を出しながら求愛を叫んだ。案の定、辺りに悲鳴が響いた。
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結局、少女を店内に入れて店長の告白は続いたが、何故か少女がここで働くということになった。どうやら、バイトの面接に落ちたらしく店の窓で自分の目つきの悪さを恨んでいたらしい。店長はそこに興奮を覚えたらしいが。そして今は少女が制服に着替えに行ってる最中だ。
「お待たせしました」
少し恥ずかしそうにしながらピンク色の制服に着替えて少女が戻ってきた。中々可愛い。他の3人も高評価なのがわかるような感嘆の声を漏らしている。
「そういえば、まだ自己紹介してなかったよね」
確かに、てか名前も知らない子にあれだけ好き好き言う店長は流石イタリア人。
「私は日向夏帆。ホール担当、よろしくね」
「秋月紅葉。キッチン担当、よろしく」
「篠宮春樹。同じくキッチン担当、よろしく」
3人簡潔にそう言うと、店長が……うざいので省略。まあ、とりあえずテンション高くアピールしていた。
「えっと、桜ノ宮苺香と言います。よろしくお願いします」
最後に店長のテンションに気圧されながらペコペコお辞儀をしながらそう言った。
しかし、面接も何もなしに採用してその日のうちにバイトスタートとは随分急なものだ。
その後店長が桜ノ宮(高1らしいのでさん付けはいらないとのこと。ちなみに俺は高校2年生)と鼻血を流しながら写真を撮って秋月さんに蹴られたりとあったが、遂に店のドアが開いて客が来た。桜ノ宮の初仕事となった。それと桜ノ宮はドS担当らしい。しかし、初仕事だからか桜ノ宮はプルプルと震えている。
「大丈夫ですかね……」
「さあ、やってみんことにはな……」
俺と秋月さんがカウンターから様子を見ていると、少しして桜ノ宮が口を開いた。
「何で来たんですか……」
「……大丈夫そうだな」
「……そう、ですね」
どうやら店長は逸材の入手に成功したようだ。あの声のトーンで演技はないだろう。それからもケチャップを客にぶちまけたりしてドSキャラ全開だった。
そして客がいなくなって閉店となり、桜ノ宮のバイト初日は終了した。
「私、お客様にたくさんご迷惑をおかけしてしまいました」
どうやら、あのドSキャラは無意識によるもののようで、桜ノ宮は客にケチャップをかけたり、酷い言葉を吐いたのを悔やんでいるようだった。
「何言ってるの苺香ちゃん。とっても良いドSっぷりだったよ!」
「ああ、客も満足そうにしていたからな」
落ち込んでいる桜ノ宮に秋月さんと日向の2人がサムズアップしながら称賛の言葉を口にする。
「初日としては十分すぎるほどだったと思うぞ。それに店長もほら……」
俺も2人に同意するように言って床の方を指差すと3人の視線がそこに向かう。すると3人はそれを見て驚き後ずさる。そこには大量の鼻血と倒れこんだ店長、そして鼻血によるイタリア語の称賛の言葉がまるでダイイングメッセージのように記されていた。
「店長……あんたのことは1か月くらいは忘れないぜ、多分」
「自分の運命の人と豪語する人によって出血死したんです。悔いはないでしょう」
「鼻血で出血死ってあんまり聞かないよね」
「ええっ、店長さん、死んじゃったんですか!?」
俺たちが南無と合掌すると店長が勢いよく起き上がった。
「勝手に私を殺さないでくだサイ!」
「あ、生きかえった」
「残念です」
「春樹君、どうしてワタシが生きかえると残念なのデスか!」
正直店長仕事しないで寝てるだけだし、いてもいなくても変わらない、というのは言わないで上げよう。いつも秋月さんが言ってるし。
店長は立ち上がって鼻にティッシュを詰めて鼻血を止めた。
「と、まあこういった喫茶店なのデスが……苺香さんが嫌なら無理にとは言いません」
店長は頬を掻きながら申し訳なさそうにそう言った。あんな誘い方をして今更そんな態度だが、もし断られたらどうするつもりだろう。何ヵ月へこむのだろうか。
桜ノ宮は少し逡巡するように俯くと決心したような表情で顔を上げた。
「あの、私うまくできるかわかりませんが、精いっぱい頑張れるよう努力しますので、どうかよろしくお願いします」
どうやら桜ノ宮はこの喫茶店を気に入った?ようだ。
店長はその言葉を聞いて桜ノ宮の手を取った。
「絶対に幸せにします!」
「受け答えおかしいだろ」
店長の妄言に秋月さんがツッコんだ。
「でも、良かった良かった」
「何が良かったの?」
店長と桜ノ宮が盛り上がってる横で俺が満足したように何度も頷くと日向が俺に聞いてくる。
「だってもし桜ノ宮が断ってたら、ただでさえ使えない店長がより使えなくなるだろ?」
「あー、そうだねぇ……。私は女の子が増えてくれて嬉しいけどね」
「ようやく男女比が同じになったな。この調子で女子がもっと増えてほしい」
「相変わらず百合が好きなんですね……」
「願わくば、女性客がもっと来ることを望む!」
そう高々と告げる秋月さんをまたか、といった風な目で見た。そして再度店長と桜ノ宮に視線を向けると2人は中々に良い感じのようだった。どうやら桜ノ宮がバイトを探していた理由は海外留学がしたいようで、その費用を貯めるためとのことだ。
「まあ、なんにせよ、これからよろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
こうして桜ノ宮は喫茶店スティーレで働くことになった。
ちなみに店長は桜ノ宮の海外が好きという言葉を自分が好きと勝手に解釈して愉悦に浸ったまま固まってしまった。
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