インフィニット・ストラトス <The future lingering scent>   作:姫戸三角

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私は煩わせるなと言ったよなぁ?

 

 鼻先に打鉄の近接用ブレードの切り先が迫る。

 

 

 雲に覆われた空、寒さが身に染み粉雪が深々と降り積もる冬の日。目の前には黒髪の美しい女がいた。

 

「警告は一度だけだ。今すぐ両手を挙げて名前と所属国、目的を言え」

 

 目の前の女は、手にしたブレードを向け問いかけてきた。

 

「実は人を探しとってな。出来ればその物騒なものをおろして欲しいんやが」

 

今までの経験から得た直感が警報をガンガン鳴らし、今すぐこの場を離れろと彼の本能が訴える。この女は危険だと。

 

「ほう・・・・・・ここへ侵入できた腕と度胸だけは認めてやろう」

 

 女性は猛禽類を連想する笑みを浮かべたが、目がまったく笑っていない。下手に動くと間違いなくばっさりと斬られる確信があった。

・・・・・・彼の師匠がキレたときにそっくりだったのだ。

 

「抵抗はするなよ?私とて人を殺したくはないからな。おとなしくついて来い」

「り、了解や」

 

 これが、彼のこの世界で初めて他人と交わした会話である。

 

 

 

 

 

 現実逃避をして、昔を思い出していた。

 見渡す限りほぼ女性ばかりの入学式も終わり、春の日差しが柔らかく差し込む廊下を、監視者兼同僚と共に並んで歩く。

 

「まったくこの忙しい時期に、面倒事が重なると気がめいるものだ」

「せやな。誰かさんの弟さんのおかげで、何処もかしこもてんやわんややな」

 

 出席簿が顔面めがけて飛んできたが、危なげなくそれを避けると、何事もなかったかのように二人とも廊下を進む。

 

「――チッ。素直に当たっておいたらどうだ」

「まてまて。そんなん当たったら痛いじゃ済まへんからな?」

「どうだか。お前なら平然としてそうだがな」

 

 そんな息のあった(?)会話をしている内に、目的の教室に着いてしまった。

 

「いいか良く聞け。私は面倒事が嫌いだ。くれぐれも余計な真似はするなよ」

「あー。わかっとる」

「私の手を煩わせるような真似をした時は――」

 

 教室の扉に手をかけ、十分な間をおいて彼女は告げた。

 

「――ねじ切る」

「り、了解や」

 

 即答した彼を残して、彼女は教室の中に消えていった。

 

『――自己紹介くらいまともにできんのかお前は』

 

 出席簿によるありえない打撃音が聞こえてくる。

 

『げえっ、呂布!?』

『誰が三国志の最強か!』

 

 再び打撃音。

 

『私の仕事は諸君らにISの知識と技術を叩き込み、一年間で最低限の使い物に鍛え上げる事だ。命令は従わなくてもいいが、その時は覚悟しておくように。口答えは許さん』

 

 軍隊もびっくりな演説に対し、クラスは静まり返ったがここのお嬢様方は、

 

『きゃー! 本物よ、本物の千冬様よ!』

『私、千冬様に会うためだけに入学しました!』

『千冬様! もっと! もっときつくお願いします!』

「千冬様ー。せめてもうちょい自分の部屋ちゃんと片付けしよか?」

『生千冬様! 生きてて良かった! ありがとうお母さん!』

 

 想像の斜め上だった。恋する乙女達のエネルギーは凄まじく、廊下どころか隣の教室まで響き渡っているのではないかと思われるほどに。

 

『・・・・・・よくもまぁ、毎年これだけの馬鹿者が集まるものだな。今年はさらに面倒事の種もいて頭が痛いな』

「可愛い弟さんをあんまし虐めちゃあかんでー」

 

 バン!と勢いよく扉が開くと、次の瞬間彼は宙を浮いていた。もちろん、超能力に目覚めたわけでもない。

 

「聞こえているぞこの面倒事の種その二が!!」

 

 アイアンクローで彼の頭をつかみ、その細い腕だけで持ち上げながらミシミシとしてはいけない音が聞こえてくる。

 

「お前は! いつもいつも! 私を怒らせて! そんなに楽しいのか!!」

「ま、待ってや・・・・・・。たぶん言ったことは・・・・・・ま、間違ってあらへん」

「私は煩わせるなと言ったよなぁ? なぁ? あと私の部屋は関係ないよなぁ?」

 

 さすがにお嬢様方もドン引きである。

 

「ストーップ千冬姉! 死んじゃう! 死んじゃうからベル兄が! あと、部屋に関しては俺ももうちょっと片付けるべきだと思うから!」

「――チッ。次は無いと思えこの馬鹿者が。あと、織斑先生だ!」

 

 最近よくある生命の危機をのり越え、無事に地面に戻ってくることが出来たが、どう見ても生徒にしか見えないもう一人の童顔な副担任は、鬼の殺意の波動にあてられて涙目になっていた。

 

「助かったわ少年。それと、明日から弁当にニボシを入れたってや」

「あぁん?」

「どうどう千冬姉。深呼吸! 深呼吸しよう」

「フーッ、フーーッ・・・・・・織斑先生と呼べ」

 

 そこは突っ込むんだ。と、初めてクラスの全員の考えが一致した瞬間だった。

 

「おい馬鹿者。これ以上余計なことを言わずに自己紹介だけをしろ」

「了解やー。えー、突然出てきてわけがわからん人もいるやろうけど、クラベル・クロニクルや。一応情報だけ出まわっとる男性操縦者その二で、ここの副担任その二でもあり、面倒事の種その二や。教師暦数時間の新米やけど、よろしゅうな」

 

 

 

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