死んでも、死んでも、死んでも。
どういうわけか一向に日付は進まない。それどころか毎回必ず、あのコタツが置かれた部屋で死ぬ。コタツに置かれた12月19日のカレンダーが恨めしい。
――――――ゴルドルフは、死なないための道を探し続けた。
冷蔵庫を、開けない――――。
「うわっ、なんかガタガタいってませんかあの冷蔵庫!」
「仕方ないのー、おい見てこいよそこの金髪ー」
「い、嫌だ! 私は絶対に見に行かんぞ!」
「――――――うおおおおおっ! 圧政! 圧政! 我が愛は爆発するぅううう!」
―――――――冷蔵庫から出してあげないのは、圧政。
―――――――――――――――――――――――――
「GUAAAAAA」
「ぬおおおおおっ死んでたまるかぁあああ!? ほ、ほーう! なんだ、避けられるではないか! やれい、コヤンスカヤ君!」
「……うーん。すみませんが閣下、手遅れかと?」
その魔狼、推定最高時速200km―――――新宿において、人類最後のマスターとサーヴァント達を追い詰めたその足、その力、その暴威に、ただの魔術師はあまりにも無力――――!
「GABUUUU」
「ぎゃあああああっ!?」
―――――――――――――――――――――――――――――
「―――――そうか!」
その時、ゴルドルフに天啓走る。
毎回、毎回、毎回必ず12月19日のコタツで死に続けたゴルドルフは気づいた。
ならば――――その前提を崩してみれば?
そう気づいた瞬間、ゴルドルフは今にも飛び立とうとしてたヘリコプターの中にいた。
「おい、戻れ! 中止だ!」
「は、ハァ? で、ですが今日の雪でしたらなんとか……」
「いいから戻れと言ってるんだ!」
ヘリコプターのパイロットが仕方なく出発を止める。
コヤンスカヤ君にも文句を言われてしまったが、これで、これで未来は変わる――――。
『正面ゲート 開放。 ようこそ、ゴルドルフ・ムジーク様。』
『並びに国連査問会の皆様。 当カルデアは 皆様の入館を 歓迎します』
「ようこそ、カルデアへ。早速ではありますが―――――手指の消毒をお願いします」
それは、女の声だった。何故かガスマスクをしていたが。
それは透き通った刃のような、有無を言わせぬ宣告だった。
「死んでたまるか――――おい、排除しろ!」
「え? はーい了解でーす」
こんなこともあろうかと対神秘武装を装備して40人の兵士の銃撃がその看護師に襲いかかる。―――――が、しかし。
ただの一般職員や、魔術師の職員であれば歯牙にもかけないその射撃は。
スキル発動――――人体理解、A。鋼の看護、A。
「――――なるほど、外患ですか。ですがここは病人たちを救う最後の砦――――邪魔をするのならば! 誰であろうと! 排除します! 緊急治療!」
「ぐぎゃああああっ!?」
――――――サーヴァントには勝てなかった…。
その後、なんやかんやで無くしてはいけないモノを切除される恐怖に負け、気がつくとまた出発前のヘリコプターにいたゴルドルフはもう1日カルデア来訪を延期した。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ま、待て、何をするつもりだ!? 私を早く所長代理に会わせろ!」
「ふっふっふ。そんな寂しい事を言うでない――――そしてあえて言わせてもらうぞ、否である! 早速ではあるが時間が押しているのでな―――――歓迎するぞ、盛大にな! 我が才を見よ!」
「私たちのラストライブ――――ちょっとだけ、本当にちょっとだけ寂しいけど、派手に決めるわよ!」
「――――万雷の喝采を聞け!」
逃げた。ゴルドルフは走った。
全力で逃げようとした。だが、だが、だが――――。
「サーヴァント界最強のデュエットソングを、聞かせてあげる!」
「しかして讃えよ―――――黄金の劇場を!」
「――――来なさい、スペシャルチェイテアンプ!
「――――
それは、黄金に輝く劇場だった。
この世の財と楽を集めんとした皇帝の、偉大なる建造物。建造者の情熱と執念が築き上げたその劇場の素晴らしさは、金持ちであるゴルドルフには正しく伝わった。だがそれどころではなく、昨日のうちに作っておいた魔術礼装、耳栓を耳に入れた。
「う、うおおおおおっ!」
「行くぞ、エリザベートよ!」
「ええ、派手に決めるわよ!」
二人が大きく息を吸い込み――――。
『『ぼえええ~~~~~~~~ぇえええッ!』』
それは、まさに芸術の無駄遣い。
皇帝陛下が自分のために作った劇場は、その自ら望む状態(ルール)を相手に押し付ける効果もあってその殺人的なエリザベートの声量と、宝具なアンプのパワーを高め、普段は音量そのものはそこまででもない皇帝陛下の声量すらも殺人的に昇華させる。
「おおごごごごごごごごご!?」
超音痴攻撃―――――片方だけでもアフリカゾウ一万頭を再起不能にするともまで言われる激しい音の大瀑布が劇場に反響し、あっけなく耳栓の魔術礼装を粉砕する。宝具を即席の魔術礼装で防ぐのは無理があった。しかし宝具の効果で鼓膜が破れることも気絶することもない。
「くっ、マスターに頼み込んで残した魔力も残り少ない…! エリザベートよ!」
「フィナーレね!」
「「Laaaaaaaaaaaaaaa!!」」
絶妙に音程を外した高音域と無駄に大きすぎる音量と反響させる劇場が、よく通る本来なら良い声を殺人的なデスボイスに変える。
「ありがとーう! ありがとーう! 最高のライブであった!」
「これでもう悔いは無いわ………ありがとー! 子イヌー! ブタどもー!」
光の粒子となって、二人のサーヴァントが消えていく。
それを見て、ゴルドルフはどれほど安堵しただろう。鼓膜が破れてほしいなどということを一瞬でも考えてしまったのはこの時限りだろう。
「ぐ、ぐ………に、逃げねば……っ」
這いずって劇場の外周を探したゴルドルフだが、どういうわけか出入り口は一個も見当たらない。
『む。むむむ? むむむむぅ? 声が聞こえぬぞ……?』
『困ったわね。アンコールができないじゃない』
「………(ぜ、絶対に言うものかぁああっ)」
『……なあ、エリザベートよ。やはり我らの歌声は奏者にこそ聞かせるべきなのでは?』
『それもそうね。あのブタ、なんかずっと逃げようとしてるし』
そうして、黄金劇場は消えていき―――――。
残ったのは、広大な砂漠と軍勢だった。
「―――――――――遠征は終わらぬ! 彼方への野心ある限り!」
「「「「然り! 然り! 然り!」」」」
叫ぶのは、一際大きな黒馬に乗って剣を掲げる王。
そして何故か、馬に乗って槍を持った状態でゴルドルフの軍勢の只中にいた。
「此度の遠征においてこの演習が、我ら最後の戦いとなるであろう! 相手は賢王とそのサーヴァント! 相手にとって不足はない―――――蹂躙せよぉオオオオッ!」
「うおおぉぉぉっ!? ば、馬鹿! 止まらんか!」
そして馬は走り出す――――。
しかし無理にでも止めようとすれば後方集団に激突して落馬。そのまま踏みつけられて命を落とすだろう。……実際に一度あった。
「し、死んでたまるかぁぁぁぁっ!」
「矢を構えよ、俺が赦す! 至高の財を以って、ウルクの守りを見せるがいい! 大地を濡らすは我が決意!
ウルク城塞からの砲撃が直撃する―――――まさにその瞬間。
故意に馬から転げ落ちたゴルドルフは、肉体を強化すると共に重力を軽減――――爆風に吹き飛ばされることでなんとか軍勢の密集地帯を抜けると、そのまま固有結界を抜け。
爆風を背に、全身が焼け焦げ、それでもなおゴルドルフは前に進む。
「死んで……たまるかぁ!」
そしてまた、そこに至る。
静かな森。静かな、誰も、何も、名を持たない平等な森。
「あら。アナタがお客さんかしら! いらっしゃい、アリスのお茶会へ!」
誰かが用意したのだろう。
お茶にケーキ、お菓子が沢山盛られたテーブルには、お茶会を楽しむ少女たち。とはいえ、誰が作ったのかなどどうでもいいのだろうが。
いや、待て。これはダメだ。これは、死んでしまう――――。
「アナタもワタシも、ここでは皆が平等なの。だから、何も気にしなくていいわ。―――――そう、ワタシたちのティーパーティーを、終わらせようとさえしなければ」
そうか。別に名前も何もないのだから。誰が死んでも関係ない―――?
いや、ダメだ! 私は、私は絶対に死なない―――――死んでたまるか!
でも、ああ―――――私の名前は、一体何だっただろうか。
―――――――――――――――――――――――――
「ダメだ、ダメだダメだダメだ! 出発は延期だ!」
何度やっても、カルデアを掌握することができない。
けれど日程を延期すると、その内容が変わっていく。
しかし、初日は狼と筋肉から逃げられない。二日目は切除されてはいけないものが切除される。三日目は、どうやってもあの最後の森から逃げられない。
だが次は、きっと次こそは上手くやる―――――。
終わらない死の連鎖も、必ずいつかは終わるはず。
そして、四日目は訪れる。
逆行はしてないんですが、逆行っぽく見える時って逆行タグ付けた方がいいんでしょうか…。詳しい方いらっしゃったら教えて頂けるとありがたいです。