それは、妙に巨大な人影だった。
丸くて、横幅があり、ずんぐりとして――――まるでそれは。オレンジ髪のキグルミ。茫洋とした眼が狂気を感じさせるそれは、カルデアの制服を着ていた。
「―――――これは、オルガなんとか所長の分だーーー!」
「うおおおぉぉぉっ!?」
ブゥオン、ととてもキグルミのパンチとは思えないほどの重い音のそれを回避したゴルドルフに、キグルミが吐き捨てるように叫ぶ。
「運営め! 抵抗するのか!? 侘び石を出せ! 宝具スキップさせろぉおおお!」
「やれ、コヤンスカヤ君! 撃て、撃ちまくれ!」
「な、なんだかヘンなのに絡まれちゃいましたが……まあ、やっちゃって下さい!」
激しい銃撃音が、静寂に響く。
銃弾を無数に受けた影響で、幾度も揺れる不気味なキグルミは、がっくりと肩を落とすとそのまま地面に倒れた。
―――――大量の、虹色に輝く石をばら撒いて。
「―――――――……リ」
「くっ、化け物め、まだ生きて――――な、なんだ…?」
それは、かすかな声だった。
死に損ないのはずの、キグルミが吐き出したかすかな――――呪いのような、声だ。
「――――――チャリ…………ガチャ……リ………ガチャリ・リ………ガチャリ・リ!」
不気味に、どう見ても死んでいるかのようにしか見えないのに呟くそのキグルミにから、思わず一步下がったその瞬間。
―――――フオォオオオン。
音を立てて、地面に魔法陣が描かれる。
そしてその瞬間、勢い良く頭を上げたキグルミは流暢に喋りだす。
「――――――素に金と血。礎に石と消費者契約。天井なきガチャに石を、退路の門は閉じ、銀枠しか出ず、星五に至る三叉路は循環する――――」
「
「と、止めろ! こいつを止めろ!」
「撃ちまくりなさい!」
一層激しく降り注ぐ銃弾に、しかし何が駆り立てるのかキグルミは止まらない。
「―――――――
「告げる―――――汝の身は我が下に、我が命運は汝が剣に。ガチャの寄る辺に従い、この意、この理に従うのならば応えよ」
「誓いを此処に。
我はこのガチャ全てのピックアップを獲る者。
我はこのこのガチャ全ての宝具を、五にする者!」
「汝五つ星を纏う七天、抑止の輪より来たれ――――天秤の守り手よ!」
魔法陣が輝く―――――黄金に!
「―――――円卓の騎士、ガウェイン。今後ともよろしくお願いします」
「…………………チッ、四か。やれぇ、ガウェイン!」
「ご命令とあらば――――太陽の聖剣を以って、全ての外敵を打ち払いましょう!」
「いや、金を毟り取れ」
一瞬、カルデアのメインゲート付近に静寂が訪れる。
そんな中、ガウェインは真面目な顔で言った。
「成程……幾らほどでしょうか?」
「―――――全てだ。運営が私から奪った全てのサーヴァント分だ!」
「だ、だから運営とは何だというのだ!?」
ふむ、とガウェインはやや吟味するように瞑目し―――そして数秒も待たずに言った。
「騎士とは、王に従うもの。貴方が何者かは存じませんが―――――」
「だから、私はここの新しい所長だ!」
「だ、そうですが」
「新所長……つまりは運営からの刺客! なら貴様がオルガマリー所長を! やれガウェイン! びた一文残すな!」
「はっ、ご命令とあらば――――集金など、年上女性との結婚に比べれば容易いでしょう」
「ええい、なんだというんだこの騎士は!? わかった! いくら払えばいいんだ!?」
仕方なく財布を取り出したゴルドルフに、予想外だったのかガウェインの動きが止まり。キグルミはわずかに考えて言った。
「――――46億」
「は?」
「46億、貴様が運営なら払えるはずだ! やれ、ガウェイン!」
「承知―――この剣は太陽の写し身、かつ負債を回収するもの!
「なぜだああああああっ!?」
わけも分からず焼き払われたゴルドルフは、また1日延期した。
――――――――――――――――――――――――――
「いやはや、これは困った。妙な根性が付いてきてしまったね」
どこかの場所であり、どこでもない場所。強いて言うのなら楽園の塔。
そこにいる白いローブの魔術師は、その千里眼で悪夢にうなされるゴルドルフを見ながら呟く。既に、カルデアの通信には割り込んである。
「そっちはどうだい、天草くん」
『マスターはまだ冥界下りの最中のようです。冥界の砂集めは順調のようですが、クリスマスまでは掛かりそうですね。……帰還していない、無事なサーヴァントもシュメル熱でほぼ壊滅です。かくいう僕も、近くでジャンヌ・ダルクが旗を振り続けているお陰でなんとかなっていますが、そろそろ彼女の限界も近いかと』
『――――――……っ、主よ、我が同胞を守り給え――――!』
冥界下り――カルデアを襲った未曾有の熱病被害は深刻で、このタイミングでカルデアを乗っ取りに新所長が現れるなど最悪と言っていい。なのに、新所長は予定よりも早く吹雪の影響から脱し、もうカルデアに到着しようとしていた。
そしてだからこそ、彼らが暗躍していた。
「うわぁ、そこまでの過労死は私も御免被るね。状態異常回復だったかな? 持っていなくて良かったよ」
『全くですね』
『――――談笑している暇があるなら――――何か考えて下さい!』
『賢王が無事ならば良かったのですが、残念ながら彼女が駆けつけた時には手遅れでした。現在のカルデアで再召喚する余裕はありません』
「私のへそくりも、まだ貯めている最中だしね。英雄王はとっくに帰ってしまったし」
『マスターが我々の少々細工をした令呪を使えば、アビゲイルさんも駆けつけてくれるとは思いますがシュメル熱への耐性は未知数です。アルテラ・サン[タ]を見る限りは期待できそうではありますけれども』
「私が最後の砦かい? できれば、もう少し楽な役回りがいいんだけども……」
『すみませんが、可能であればゴルドルフ氏が自主的に「吹雪が止むのを待つ」としてもらいたいのです。向こうにも妙な連中がいます』
まだ雪が降っている幻術に、今日カルデアに到着すれば死ぬと思い込ませるゴルドルフの夢の中の幻術。それは、もし気づかれれば熱病でダウンしたカルデアは完全に制圧され。職員たちは本当にゴルドルフたちの目論見通りに抵抗できず、重罪人扱いにされてしまうだろう水際の防衛戦だった。幸いにも、ゴルドルフが臆病だと思っている査問団たちはまだ気づいていないようだが……。
『いやはや全く、熱に浮かされながら悪戯を考えるのがこんなに辛いなんてネ!』
『――――推理もバリツも身体が資本ということだね』
ホームズ、モリアーティも熱病の影響は大きい。
しかしそれでも、マスターの帰還までカルデアを守り抜こうという彼らの意志は硬かった。
「さあ、残りは二日だ! 頑張っていこうじゃないか!」
『マーリン、貴方もこっちに来ては如何ですか?」
「嫌だよ。確かにそちらに行けば君を回復させることもできるだろうけど、私まで熱病に罹ってしまうし―――なにより、面倒だからね」
『この人でなしぃ!』
「はっはっは。知っているとも!」