一方その頃あの人は   作:ヤサカミノマガタマー

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大洗女子学園
一方その頃お兄は:1


 

 

 

 

 

 

「麻子ー。もぉー、まだ起きてないのかなぁ」

 

現在時刻、朝の8時。武部沙織は今日が寄港日ということもあり、たまには幼馴染である冷泉麻子と二人で出かけようと思い立ち、低血圧で朝起きることが苦手な麻子を起こしに冷泉宅に訪れた。

 

ピンポーン、とインターホンを鳴らすも返事はない。いつも通りだ。

 

「入るからねー」

 

そう言って合鍵をバックから取り出すとドアの鍵を開けて中へと入る。

 

慣れたもので、麻子の寝室まで迷わず進む。

 

スパーンッ、と襖を開けて部屋の中に入ると。

 

「へ!?布団が」

 

沙織の目の前には、3つ折りで畳まれた布団があり、端にまとめられた大量の目覚まし時計だけがあった。その部屋に麻子は既にいなかったのだ。

 

「あげられてるー!?」

 

十数年間生きてきて、3番目くらいに入る大きさで叫んだ。

 

「え!?なんでぇ!」

 

本当に居ないわよね、と家中探してみるが人っ子一人見当たらないし、気配もしない。

 

もしかして、昨日別の場所に泊まったとか?そんなことを考えていたその時、ふとリビングの壁に貼り付けてあるカレンダーが目に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

久しぶりに大洗に帰ってきた。

 

そんなことを考えながら、学園艦のタラップから少し離れたところに立つ男、冷泉真広(まひろ)は現在鮟鱇大学工学部に通う大学3年生だ。工学部の中でも、学園艦の構造などを取り扱う研究室に配属されたため、3年生になってからは、本拠地である大洗を離れ色々な場所へと行ったり来たりしていた。

 

そんな真広が何故こんな所にいるのか。

 

それは、今日たまたま、レポートを纏めるのと同時に中間報告をするために一旦、鮟鱇大学に帰ってきたからだ。授業もないということで、研究に必要な物資を買い出しに出かけることになった。それに大洗女子学園の学園艦の寄港日が丁度重なったというのもあり、その事を妹の麻子に伝えると一緒に買い物をしたい、との返事を貰ったため迎えに来たからだ。

 

ぼんやりと海と学園艦を見つめていると、タラップから少しずつ、大洗女子学園の制服に身を包んだ少女達や、業者の人、その他色々な人がおりてきた。

 

そろそろかな、と腕時計に目を落とすと

 

「お(にい)!!」

 

懐かしい声が聞こえた。

 

声の方を見てみると、たった一人の家族。冷泉麻子が嬉しそうな表情を浮かべながらこちらに向かって走ってきた。しかし、真広はその嬉しそうな表情に少し違和感を感じた。

 

 

 

勢いをそのままに、思いっきり抱きつかれる。身長差があるということもあり、みぞおち当たりに顔をうずくめられた。

いきなりの事で驚くが、ほうと一息つき、頭を撫でてやる。

 

「久しぶりだね、麻子」

 

「お兄こそ」

 

「朝、弱いんじゃなかったのか?」

 

「目覚まし時計21個使った」

 

「そうか」

 

そう返事をすると、ぎゅうと麻子の抱きしめる力が強くなる。

 

「頑張ったな」

 

ビクっと震える麻子の肩。

 

あぁ、やっぱりか。

 

慣れた手つきで麻子の頭を撫でる。

 

「サンダース大付属の試合は見に行けなかったけど、アンツィオの試合は見に行ったよ。あのIV号戦車の操縦士、麻子がやってたんだって?」

 

麻子は何も言わない。

それでも撫でるのをやめない。

 

「サンダース大付属の時に、いやおばぁが倒れた時、そばに居てやれなくてごめん」

 

麻子の腕の力がさらに強くなる。

 

「北海道にいてさ。一番辛い時に一緒にいてやれなくてごめんな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

麻子と真広には両親がいない。いや、いた。

その知らせを聞いた時、真広は突然のことに理解が追いつかず、呆然とし、麻子は小学生に似合わないほど賢かったが故に、すべてを理解し大泣きした。

 

本当に失ったのだ、ということを改めて理解すると、麻子は更に泣いた。なぜなら、両親が死ぬ前日、麻子は母親と喧嘩をしてしまったからだ。もしかしたら今までで1番規模が大きかったかもしれない。馬鹿だのなんだの、今まででの麻子には考えられないほど荒れた。次の日になって、落ち着いて考えてみると、自分が悪かったと気づいた。あやまろう。しかし、どうしたらいいのか分からない。兄である真広に相談に行くと、「思いっきりごめんなさい!って言えばきっと伝わるさ」「なにか手土産でも用意したら驚くかもよ」と笑いながら相談に乗ってくれた。そうだな、母の好物でもあるケーキを買おう。兄と一緒に近くのケーキ屋で、お小遣いを奮発して少し豪華なケーキを買った。どんな顔するかな、と話しながら帰ってきた時に聞かされたのだ。

 

母さんと父さんがしんだ。

 

と。

 

二人は祖母である冷泉久子の家に預けられた。おばぁは何も言わなかった。

 

それからしばらくの時がたった。麻子が落ち着くと、真広は決断した。

 

麻子は俺が支える。

 

そこから真広の行動は速かった。

なにかするにしても、まず金がかかる。収入が多く、大学生でも研究期間中に給料も出ることがあるという学園艦の関係職に就くと決意する。中学と高校を首席で卒業。大学入学にあたり、かかる費用が全て免除される僅か一つという鮟鱇大学の特待生の座を獲得すると、迷わず工学部に進学。狙った通り、学園艦の研究室に配属され、学園艦スタッフ見習いとなった。少しずつ振り込まれる給料を自分の生活費以外をすべて仕送りとしておばぁの口座に振り込んだ。

 

そして、麻子を一人にしてしまったと気づいた。つい最近のことだ。

 

しかし、麻子は大洗女子学園に入学し、学園艦の上。真広は色々な場所を転々とするようになり、物理的に二人は会うことが厳しくなっていた。

 

そして、今日。やっと会うことが出来たのだ。

 

「本当にごめん」

 

「 の か」

 

モゴモゴと麻子が言う。

 

「何?」

 

「お兄の、ばか」

 

「ハハハ、本当にごめんな」

 

ゲシ、と麻子が真広の足を蹴る。

 

「何でアンツィオの試合があった日、会いに来てくれなかったんだ」

 

「何でって、仕事でね。ちょうどその時アンツィオの学園艦で仕事しててね。抜け出してきたんだけど、上司にバレちゃってね」

 

「そうか」

 

「麻子、お知らせが一つあるんだけど」

 

「うん?」

 

顔をうずくめたままで返事をする。

 

「さっき、鮟鱇大によった時にな。次の研修先を言い渡されたよ。大洗女子学園の学園艦だってさ」

 

「本当か!?」

 

ガバッ、と麻子は顔を上げてこちらを見上げる。

 

「本当。日帰りか3泊位で時々他の学園艦に行くことはあっても、基本大洗の学園艦で過ごせって」

 

「そうか」

 

少し興奮気味に返事をする妹に真広は苦笑いしながらこういった。

 

「そろそろ離れた方がいいと思うな。麻子、お前の友達なんじゃないか?」

 

「ん?」

 

振り返ってみるとそこには、笑顔を浮かべて手を振るあんこうチームのみんなが立っていた。

 

ということは、兄に抱きついているところを見られた。そう気づくと煙を吐き出しそうなくらいに顔を真っ赤にすると、素早い動きで真広の後ろに隠れてしまった。

 

 

 

 

 

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