ゼロの使い魔導書   作:すぴんど

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語彙力なんて、ないよ


第1話 ゼロが止める永遠

「先生! もう一度やらせてください!!」

 

こことは異なるどこかの世界、ハルケギニア大陸の水の王国――トリステインの魔法学院で、その学院の生徒であるメイジ、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは悲痛な叫びをあげていた。

 

だって、彼女は今起きている現実の光景が嫌で、なんとも受け入れがたかったから。

 

この世界にて魔法の力を行使する者、メイジという存在はある時期に自身のパートナーとなる「使い魔」を召喚して従えるしきたりがある。

 

本日魔法学院で行われている「春の使い魔召喚の儀式」。これもそのしきたりのひとつであり、ルイズは授業の一環としてこれに臨む学院の生徒の中のひとりだ。生徒たちは全員メイジであり、この世界では身分に特権階級を持つ貴族である。

 

自身のパートナーとなる使い魔を召喚する魔法、「サモン・サーヴァント」。これを用いて周りの人間が使い魔を召喚して続々と成功を収めていく中、彼女はただ一人失敗し続けている。悔しさと、悲しさに潰されそうになりながらも諦めずに召喚を試み続けるルイズは、授業の担当をしていた教師、ジャン・コルベールより「これが最後の一回」と通告を受けた召喚でようやく成功を収めた。

 

期待にルイズが胸を躍らせていると、そこに召喚されたのはなんと身長が自分より低い、栗色の髪をした平民の少女だった。周りには少女の持ち物と思われる一冊の本と、車輪のついた不思議な椅子が一つ。だが…彼女が再度召喚をさせてほしいと懇願する理由はそれだけではない。

 

――死にかけていた。目の前の少女は死にかけているのだ。

 

召喚されたことへの反応もなく、かすかな呼吸を小刻みにして、ルイズの声すら届かず、ただ胸の近くの服をぎゅっと掴んで苦しみ、目をつむったままうめき声をあげている少女。こんなものが自身の召喚した使い魔、などとは思いたくなかったのだ。だが、現実は非常である。

 

「それは駄目です。ミス・ヴァリエール、いいですか? 春の使い魔召喚の儀式はとても神聖なものなのです。例外はたとえどんな相手であろうと認められない。」

 

監修を務めるコルベールが再召喚を咎めたのである。

 

このコルベールという者、本来は人の命を尊び、人がむやみに死ぬことを嫌い、救える命は救いたい。そんな善人のような考えを持った人間である。しかし、彼は現在そんな性格など感じ取れないような非情ともいえる態度をルイズと少女にとっていた。中途な儀式はこの世界において許されない、という理由もあるのだが一番の理由は悲しくも至ってシンプルなものである。

 

――目の前の少女はもうどうみても助からない。

 

そういう状況であると、過去の経験より理解できてしまったからだ。ならばせめてこれも何かの縁、死に行くものへ手向けをと、彼はルイズへ儀式の続行を促したのである。

 

「ですが、今にも死にそうな彼女を使い魔にするなどと!」

 

「だとしても、彼女を君が呼び出したのは紛れもない事実。たとえすぐにまた別の使い魔を呼び出すことになろうとも、儀式の中止はありえません。」

 

「――くっ。わかり、ました。」

 

そう言われてしまってはルイズはもう押し黙るしかなかった。

 

使い魔はメイジ一人につき、一体しか呼び出せない。しかし、契約していた使い魔が死ねばメイジは新たに使い魔を呼ぶことはできるのだ。つまり、ルイズの願いは今すぐではなく、形が違えど聞き入れられたようなものである。目の前の少女が死ねば再召喚自体はしていいと言われたようなものだ。ルイズの一番の望みは届き、後に心の中に残ったもやもやは、自身の召喚したものの価値に対する悲しさと、使い魔と契約するための魔法、「コントラクト・サーヴァント」を死に行く同性へ行うことへの葛藤だけだった。

 

コントラクト・サーヴァントは、自身の唇から相手への唇を介して行う魔法である。つまりはじめてのコントラクト・サーヴァントを人間相手にするとは、ファーストキスを捧げるということだ。死に近いものへそんなことを気にするのは不謹慎では? と、我々の価値観で考えると思えてくるかもしれないがこの世界ではそうでもない。

 

この世界の平民とは基本的に魔法が使えない人間のことである。逆に貴族は魔法が使えて、その平民達に敬われ大切にされる者のことだ。その特権や恩恵を貴族は受ける代わりとして、彼らが使える魔法をもって平民を戦争時に守ったり、魔法で作ったもので生活や国の発展に貢献して支える、というのが、この世界の理想とするサイクルである。そんな貴族と平民の身分の差が、ルイズの中の少女の命の価値を下げていた。それくらい貴族という存在は絶対であり、平民は守るべきものとはいえ無暗矢鱈に慈悲を与えるものではないのだった。ルイズは侯爵家の娘であるため、猶更である。

 

「はやくしたまえ、ミス・ヴァリエール。今日の儀式で君にどれほど時間を割いたと思っているのだね。」

 

儀式の続行を促されるではなく今度は急かされた。

 

「…感謝しなさいよね? 貴族にこんなことされるなんて普通は一生無いわよ…。あなたの最後の思い出としては身に余る光栄なんだから。」

 

自身より小さく、軽い少女をルイズは抱き起して――

 

「我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ…」

 

優しく唇を重ねて――言葉通り祝福が起こり、ルイズの願いは消し飛んだ。

 

「あ…うぁ、あああああああっ!!」

 

瀕死だった少女の口から出たとは思えないほどの絶叫が辺りを包む。真っ白な光の陣が現れると共に彼女を中心に風が暴れ、渦を巻き、吹き荒ぶ。そして少女の左手に刻まれていく使い魔のルーンによって、少女の命と体は救われつつあった。

 

少女の体の中の命には武器と繋がっている部分があり、その武器の暴走に少女の命は蝕まれて死にかけていた。そんな今、体の中であらゆる「武器」を「使いこなす」といわれたルーンが、その「武器」を「使いこなして」だんだんと少女の制御下へと置いていっている。

全てのルーンが刻み終わったた時、少女の死にかけていた原因は完全に沈黙した。苦痛を訴えているようなものは少女の顔から全て消えて、すやすやと落ち着いた寝息が聞こえてくる。

 

「なにが、起きたの…?」

 

ルイズはわけがわからない。しかし、どうやら一つ言えることがある。

 

「今の事象は解りませんが…ミス・ヴァリエール、どういうわけかあなたのコントラクト・サーヴァントは、その平民の少女の命を救ったようですね。」

 

そう、前代未聞の出来事が起きていた。回復の水の魔法でもなく、契約のコントラクトサーヴァントで命を救う…そんなことが。

 

「誇りなさい、ミス・ヴァリエール。貴女は今日初めて魔法を成功させ、その魔法がひとりの命を救ったのですぞ。」

 

命を大切にするコルベールがルイズを称える。しかし、そんな奇跡を起こしたルイズは複雑な気持ちに襲われていた。命を救った…救ってしまった。ということはつまり、この平民は死なない。ならば、この平民はこれから私の使い魔となるということで…それはつまり、サモン・サーヴァントのやりなおしの願いが潰えたことを意味しているのだから。

 

これからどうしたら…私は使い魔さえ無力なゼロなの? そんな自身への蔑称を思い出してやってきた悲しみの方が、救命による喜びの感情より大きくなろうとしたその時。

 

少女の近くにあった本がひとりでに開き、そこから一つの光が現れた。

 

「え…? な、何?」

 

小さな光は少女とルイズの近くへ来ると、慌てふためくルイズを無視してどんどん大きくなって形を形成していく。その形はルイズには人のような不思議なシルエットにも見え、しばらくしてその光は砕け散り、中から本当に人間の女性が現れた。

黒いボディラインが強く見える衣装をまとった銀色の髪の女性がそこに立っている。

 

「…っ! ……!?!!」

 

突然の展開に口をパクパクさせて驚愕しているルイズと、いきなりの存在に生徒を守ろうと警戒を強めて杖を握りしめるコルベール。しばらくして女性の目が開くと、その赤い瞳には暖かさと喜びが込められ、涙が浮かんでいた。

 

「我が主を…我が主を私の呪いから救ってくれたことを感謝する。」

 

女性がルイズへ開口一番に発した言葉は、感謝だった。

 

「システムの暴走を私は見ていることしかできなかった。それを貴女は止めてくれた。ありがとう、本当にありがとう。どれだけ感謝しても言葉が足りない……。」

 

ルイズの頭はもうパンク寸前だ。瀕死の平民の召喚に始まり、コントラクト・サーヴァントという水と無関係な魔法により少女の蘇生に成功、そして突然本から女性が現れたかと思えば、その女性は(おそらく)平民の少女を我が主と言い感謝の謝辞を述べている。

 

頭を抱えそうになったところ、コルベールが助け舟を出してきた。

 

「失礼、ミス。何分我々は突然のことに状況が呑み込めておりません。宜しければお名前と、あなたの事情をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 

そういわれた女性は最初は呆けていたが、しばらくして我に返り、涙をぬぐうと少し困ったような顔をして話し始めた。

 

「わかった…そうだな、何から話せばいいものなのか。困ったな、かなりの情報量な上に、多なり小なり危険な話なので長い話になってしまいそうなのだが。」

 

「危険…ですと?」

 

コルベールがその言葉に警戒をさらに強める。

 

「ああ、その子のおかげで今は問題なくなっているのだが…あまり多くの人の周りで話せることでもないのだ。」

 

周りを見ると、少し遠くには召喚失敗時までは散々なヤジをルイズへ飛ばしていた生徒達が居る。コルベールは少女が彼らに聞かれることを良しとしないとしているのを理解した。

 

「わかりました。それではここの最高責任者のオールド・オスマンのもとで私とそこの生徒のミス・ヴァリエール、そして貴女で話すということでどうでしょうか?」

 

コルベールは、これなら何か未だに危険が残っていたとしても対処できる、そう踏んでの提案だった。

 

「ふむ…助かる。しかし、出来ればそこに我が主も連れて行きたいのだが良いだろうか? 眠られている今のままで構わない。」

 

「我が主、ってそこの子のこと? ねぇアンタ、あの子はメイジで、あなたはあの子の使い魔なの?」

 

有り余る疑問に口を押さえていられなくなったルイズが会話に横槍を入れてきた。女性は少し言いよどんでから言葉を続ける。

 

「我が主に関しては貴女の言う通りだ。彼女の名は八神はやて、私のマイスターだが…私は彼女の使い魔という訳ではないな。」

 

「ヤガミハヤテ? 変わった名前…それに使い魔じゃないのにマスター? 意味が解んないわ。」

 

帰ってきた答えに納得がいかなくて、頭の中で疑問を浮かべ考えを巡らせていたルイズだったが、銀髪の女性が頼み椅子を持ってくれたコルベールと共に、ヤガミハヤテを抱えて歩いて行ってしまったために思考はは打ち切られるはめになった。

 

「あ、ちょっと待ちなさいよ!まだ話は……「それも含めて、これから話そう。」」

 

そういわれて、少しふくれっ面になったルイズは、一人取り残されるのが嫌で彼女たちに追いつくために走ったのだった。

 

あたりには解散も何も言われずに生徒たちだけが取り残されていた。




できれば今日明日中にもう1話
段落のタイミングってどこざんしょ_(┐「ε:)_

色々と考えている面はあるのですがはたして文字に表現できるかどうか…。

あまり誌的なことは言えないのであくまでssみたいなものとして楽しんでもらえれば幸いです
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