リインフォースを当時調べて最初に建築関係が出てきて「えぇ?」ってなったのは私だけではないはず。
「揉め事は困るというとるじゃろうが…」
ルイズたち一行がオスマンの部屋に着いてから、開口一番に言われた言葉がこれだった。
どうやらかなり気をもんでいたようだ。ひょっとすると、コルベールが焦っていたのも同じ理由なのかもしれない。
「すんませんでした。でもよ、あたしらの気持ちだって解ってくれよ…。この国の王をバカにされたらじーちゃんだって嫌だろ?」
「せやからヴィータ…私はな――」
謝りはしたが、どうしても譲れないヴィータをと、なんとか嗜めようとするけどはやて。
そんな少女たちのやりとりを手を軽くあげてオスマンが止める。
「あー、もうよいよい。こちらに全く非がないわけでもないからのう。しかし、この国…いや、世界で見ても平民に仕えるメイジの従者というのはまず無いことなんでの。今日の噂を聞けばもうあんなことになるとは思わんが、また軽はずみにちょっかいをかけてくるやつもおらんとは限らん。ヴィータとやら、その時はどうかもう少し穏便に頼む…。」
そういってオスマンがヴィータを見つめると、その案なら…と納得したのかヴィータが頷いた。
「わーったよ、はやてを助けてくれるオスマンじーちゃんの頼みだもんな。グラーフアイゼンだけで戦ってやるし、怪我も骨の一本くらいにしといてやる。」
「「ヴィータ!!」」
解ってるのか解ってないのか、ルイズとはやてが再び叱ろうとしたが、オスマンは構わないという顔で話を続けた。
「ほっほ、それで構わんよ。むしろそのくらいが丁度いい塩梅かもしれん。」
そういうオスマンの顔にええ!? と、驚きの顔が隠せず、今度はこちらが素直にそれをよしと出来ないルイズとはやて。
「生徒たちが血気盛んなのは別に良いことなんじゃが、どうも勇気と無謀をはき違えておる奴が多くていかん。自身の徳や格についても、見下すことでしか示そうとしない子も多い。」
決闘のはらはらのせいか、長々と話して喉が乾いたのか、オスマンはいつものパイプではなく、水の入った吸い飲みで喉を潤した。
「情けない話じゃが、教員も魔法ばかり教えてその辺がどうもなっとらん。こっちはワシが何とかするつもりじゃが、それでもすぐにはいかんじゃろう。だから、いい薬としてそのくらいはむしろやってくれて構わんよ。なぁに、死なないでその機会を学べるのじゃ。むしろ幸せなことじゃろうて。」
「じーちゃん、話がわかるじゃん!」
そういって笑うヴィータと孫をみるような目のオスマンだったが、戦いという世界に遠いはやてだけは最後までこの件で苦笑いより先になることはなかった。理解はできるが平和な日本で、尚且つ武道やスポーツの世界からも遠かった彼女には、いまいち納得ができないのだ。
「それと…君たちの扱いについてなんじゃがの? このまま単なる平民と奴隷や従者と思われていては、生徒共はともかく何かと変な軋轢を生みかねん。よって、それらを解消するなんらかの身分を持てる策を講じたいのじゃが…何か案はないかの?」
「闇の書無しで、かつ異世界じゃないもので、ということか? ならば…未知の地域の魔法、もしくは一族というのはどうだろう。」
いまだすこしぷるぷると、正座をしていた反動で足がしびれている中腰と起立の中間のような闇の書が、内容を絞り込んで案を出していく。
「一族というのは駄目だろうな。私という異例がいるし、なにより先ほどの決闘でヴィータが言ったことを考えると、主はやてにつき従うという理由も当たり前ということになってしまう。」
ザフィーラがそれに異を唱えて絞り込んでいく。
「だったら、未開の地と言う方を使いましょう。正直貴族の私としては…身分を
探究心の塊のような姉さまなんかが特に…と最後にぼそりとつぶやくルイズ。
「ふむふむ…そうねぇ、でしたら東の地というのはどうかしらルイズ様? 貴女に聞いたお話だと、東方の地域は始祖が現れて少ししてからはずっと交流がなくって、今では資料も残っていないのよね?」
「そういったところでしたら、われらの魔法も汎用性を削ぐ代わりに一点に特化させることで強力にした、東方の風習の魔法として、ランクとは関係のないものにできるでしょう。あとの問題は杖がなくて魔法が打てるという点か……。」
シャマルが残った案の具体例を挙げて、シグナムが付け足した。
「せやったら、みんなデバイスを持って魔法を使ったらええんちゃう? ベルカの騎士は幸い近接に特化した傾向が強いし、それに合わせて武器を杖に見立てる技術が発達したっつーことでどや? ザフィーラはこっちの世界にも亜人とかいう種類の人や、先住魔法っちゅうのが使える動物もいるみたいやし、気にせんでもいいと思うよ。」
はやてが家族の解消できない問題を、歳とは不相応に回る頭で解決していく。しかし、ここでルイズが問題点を指摘してきた。
「でも、闇の書はどうやっても言い逃れができないから仕方ないけれど、アンタたちがここに来たことの説明はどうするのよ? 昨日の今日で東方、ロバ・アル・カリイエの人間が来ましたなんて説明できないわよ?」
「うーん、そこはじゃあ闇の書が人間やないって知られてるんを逆手にとって、それこそ彼女の力と言うことにするのはどうやろか? 逆…そのロバなんとかに行きたい~、なんて言われても困るから行くことはできない、あくまで呼び出し専用っちゅうことで!」
改正案が出来上がり大体の方針が決まったところで、はやてが闇の書をまじまじと見ていると、彼女は首をかしげた。
「我が主…何かご用でしょうか? なにやら真剣な顔をして私のほうを見つめておられますが。」
「んー…あのな? 昨日からずっと思おとったんよ。」
仰々しく考えるポーズをしてはやては闇の書に尋ねた。
「闇の書って…名前とかないんか? なんか物を呼んでるみたいで私、嫌や。」
そういわれて目をぱちくりとする闇の書。体型は同じくらいなのに、シャマルやシグナムと比べてどうもしぐさに幼さが目立つ。
「名前、ですか…そうですね。私は人の形をとっていますが、シグナム達とは違いあくまで管制人格であり本体は闇の書ですので……壊れる前も後も、なかったと思います。」
「なんや悲しいなあ…。せやったら、私とルイズお姉ちゃんでつけたろうか? なーんて、流石におこがましすぎやんな。」
そういわれてわたわたとあわててそれを否定する闇の書。しぐさ以前に、どうもやはり人としてのコミュニケーション経験が不足しているようだ。
「と、とんでもない我が主! 身に余る幸せです…よければ、ぜひ!」
そんなわけで、今度は闇の書の名前付けが始まった。
「闇の書ねぇ。私が名前を付けるのは、なんだか昨日の今日だから悪い気がするわ。ヒントというかアドバイスならしてあげられると思うからはやて、あんたがつけなさい。」
「そっか? そんなら遠慮なく。ありがとなあお姉ちゃん。」
いつの間にか はやて と正しく発音できるようになったルイズに、お姉ちゃんとだけストレートに呼ぶことがちらほら混じり始めたはやてが相談していく形で闇の書の名前が決まっていく。
「シグナム達のベルカ式魔法を聞いてるとドイツ語っぽいけど、私ドイツ語解らへん。かといって日本語ってのも見た目考えたらへんやろうし…英語かなあやっぱ。」
「人じゃないとはいえ闇の書も女の子よね? だったら闇だのなんだの物騒なものは取り払って考えるべきじゃないかしら。」
ぶつぶつと話し込む二人に、闇の書がひとつだけ、とお願いをする。
「主の主と我が主、もし許されるのであれば…人の名前でなくても構いませんので、私の存在や機能を含む名前を頂けないでしょうか…私自身、その名前を名乗ることに誇りを持てるようになりたいのです。」
「へえ、アナタ…なかなか良いこと言うわね。そうね…貴方の能力だとやっぱり一番すごそうなのは融合かしら? 今は暴走しちゃうみたいだけど。」
「融合、融合かあ…どっちかっちゅうと、私がおんぶだっこされとる気がするんやけどなぁ。あ! それやったら支えてくれるって点からこんなんどうやろ?」
ちょっと物っぽい名前なんやけどな…とはやては付け加えて名前を発表する。
「リインフォースってどや? 支えるとか強化するって意味があるんやけどな? 今はちょお名前負けかもしれんけれど、いつの日か…私とちゃんと融合できるようになった日にはぴったりな名前になると思うんよ。」
「それ、いいわね…どう、アンタとしては…不満?」
不満どころかむしろ感極まっている様で、ぽろぽろと涙を流しているリインフォース。
「ありがたく…頂戴いたします。」
そんな脱線からのちょっぴり良い話をもって、思った以上に学院長室での秘密の話し合いは終わった。
「…はぁ」
所変わってここは風呂。とはいえ、貴族たちが入浴できる風呂場ではない。
夕食後にマルトーたちから不要になった大きめの鍋をたくさん頂戴して加工し、無事二人に謝り終えたことを報告をと、はやてとヴィータを探していたギーシュに頼んで『錬金』で接合と整形してもらって作った巨大な五右衛門風呂である。
この時点でヴィータがどうして錬金しないのかとギーシュに聞かれたが、早速先ほどオスマンと取り決めた嘘が活きた。彼はこの話を聞いて、乙女が身を美しく保ちたいのは当然だと快く応じてくれたのだ。
そんなこんなで完成した風呂の中で、お風呂好きな赤紫の剣士がうなだれていた。
「私の剣は…我が剣は、こんなことに使うものでは……!」
そう。鍋の切断や、体の洗い場、五右衛門風呂の床となる木材の加工、全てシグナムのレヴァンティンでやったものである。一度転げてしまえばなんとやら、大好きなお風呂と大切な主の為と言い聞かせて、彼女はまた剣以外の道具としてレヴァンティンを振ったのだ。
最後にシャマルがどこからか覗き防止用にと、天幕に使うような大きな布を借りてきて、ザフィーラが警護に当たり学院の端に八神家のお風呂場が完成した。オスマンの許可は取っているが、もちろん彼は覗きにはこれない。
先ほどの話し合いの後に、「どうしても気になることが起きた時は、遠くから見てないでこっちに来てくれ。」と、シグナム達に遠見の鏡さえ見破られてしまい、もはや打つ術がなく彼は悔しさで今はいっぱいだった様だが、普段女子風呂の方も覗いているようなので大きな問題にはなっていないようだ。…いや、乙女たちから見れば大問題だし、モラルや人間的にもどうかと思うが、こちらはばれていないので問題ない。
むしろオスマンにとっては、ある意味ルイズたち貴族と、八神家が一緒のお風呂に入ることにならなかったのは幸せなことだっただろう。下手すれば女生徒全員に気付かれるか、いつシグナム達が入ってるかわからず二度と見ることが出来なくなっていたかもしれない。
助平爺の話はここまでにしよう。
「あはは、ごめんなーシグナム。でも…いつかのスーパー銭湯みたいにみんなでお風呂に入れて、私は幸せやで~。」
ぷひぇ~となんだか間抜けで気の抜ける息を吐いて、シャマルの膝の上で彼女の胸をまくらにしているはやてだった。
「申し訳ありません主はやて。正直…複雑です。」
そんな言葉を頂いても喜びに天秤を傾けられないあたりに、シグナムの心の在り方が見て取れる。
「頑固だよなー…お前は本当に。あたしを見習えよ、アイゼンでじーちゃんばーちゃん達とゲートボールしたりしてたじゃねぇか。そーいやオスマンのじーちゃんも教えたらあたしとやるかな?」
「いや…それもどうなんだ、紅の鉄騎よ。」
思わず突っ込みを入れたリインフォースに、ヴィータはジロリと彼女を見た。
「なーリイン、ホース…フォースか? その言い方止めろよな。」
「…え?」
古の時代よりずっと今までこの呼び方だったのに何が気に食わないのか、ヴィータはじとーっと、半開きの視線で彼女を見続けている。
「なんだか、他人みてーじゃねーか…一緒にはやてを護るようになったってのにさ。」
気まずそうな顔をして、目をそらしたヴィータの口から小さな声が漏れる。
「そりゃあ、あたしが一方的に嫌っていたのは悪かったけどさ…シグナムたち三人ともあたしは仲良くなれたんだ。」
ヴィータがぶくぶくと沈みながら呟いていく。
「お前とも、ちゃんと仲間になりてーんだよ。」
「………。」
そういわれて、リインフォースは優しげな笑みを浮かべて、彼女の頭を撫でた。
「ごぼ…がぼぼ!」
「あ。」
…相も変わらずコミュニケーションのタイミングが悪い。
「てめー! なにしやがんだリインフォース!! 今までの仕返しかこのやろー!!」
手で前も隠さずヴィータがざばりと立ち上がって、鼻に水が入ったのか半べそでわなわなと震えている。
「いや…その、なんだ。すまないヴィータ。」
「…ふん! 大体あたしの頭ははやて以外は撫でるの禁止だ。……よろしくな。」
裸の付き合いが、腹を割って話すきっかけになって長年のわだかまりを消していく。
「はー…しかしこんな使い方が鍋にあるなんて、知らなかったわ。それになんだか結構熱いけど、この湯加減がまた何とも…ふぅ。」
少しまだ八神家の面々には馴染みの薄い声が響いた。そう、ルイズである。彼女は現在貴族の風呂に行かず、なぜかこの五右衛門風呂に居る。
「なんでルイズまでここに居んだよ。」
「い、良いでしょ、どうしてだって! 大体、誰のおかげで石鹸とかここにあると思ってるのよ全く!!」
そういう彼女の顔はずいぶんふにゃふにゃだ。どうやら思ったより江戸っ子で、すっかり日本の色が強い熱いお風呂が気に入ったようである。ここにいる理由は、単純に自分以外の人間…はやてたちが自分を置いて和気藹々とお風呂に行くのが寂しかったようだ。
しかし、自分より下々な者たちにお願いなどプライドの高いルイズにできる訳もなく、「ししし仕方ないわね!」とかお決まりの様なツンデレセリフを言いながら、石鹸やヘアシャンプーを持って行き、届けるついでという理由で一緒にお風呂に入っている。
「あはは…感謝してるでールイズお姉ちゃん。 お姉ちゃんも気持ちよさそうやなぁ。」
「ええ…私も次からはこっちがいいわぁ。」
取り繕った理由は何処へやら。こちらでもある意味腹を割って話している使い魔と主だった。
「ふふふ…えいっ!」
「ひゃ!? は、はやて!? なななな何すんのよ!!」
浮力のせいか、すすすーっと、お湯の中を手で動いて近づいたはやてが、ルイズの胸を揉んだ。
「おー…ないわけでもなく、というより…なんか抑圧されとる? もしかしてルイズお姉ちゃん…ここも何か原因があって、それを取り除いたら大きくなるんやなかろうか。」
「なっななななな…何言って……!! だっだだだだ大体ああアンタにどうしてそんなことが…わか、わか……っ!!」
いくらあっという間に親しくなったとはいえ、流石にルイズにもこれは予想外のことで、顔が髪の毛よりもピンク、というより真っ赤に染まっていく。
「くふふ…私は意外と胸に対しての知識は深いんよ? そんな私が言うんやから間違いあらへん、ルイズお姉ちゃんは育つ! だから希望をなくさず、頑張ってや!!」
「ききき、貴族様の胸を揉んで何意見してーーひゃっ!? あっ…ちょっ……ん、何を。」
そう言い終えるとはやての指がもにもに、もにもにと動き始めた。彼女なりのバストアップ貢献のつもりである。
「ふふ、日本のお風呂は無礼講やで、お・ね・え・ちゃ・ん❤ 裸のお付き合いに身分なんかあらへんよー。そ・れ・に、胸をこうしてやるんは…結構成長につながるんやで~♪」
「そ、それ…ほん、うっ…! で、でも…でもっ! や…やっぱりだめーーーっ!!」
そういってルイズは手を掲げたが、そこにもちろん杖はなかった。
「あ、杖…はれ?」
杖がなくて魔法が唱えられないままに、立ち上がったルイズの意識が薄れていく。 彼女には馴染みの薄い熱いお湯で体を温めすぎたルイズは、はやてのマッサージ辺りで既にのぼせており、頭も体も血管が太く開いていた。そんな状態で急に立ち上がってしまったものだから、下半身にどっとまとめて血が下がって脳の血圧は一気に低下。あっという間に酸欠を起こしたのだ。
ただでさえ朝に弱い、低血圧がちなルイズである。こうなるのは当たり前だったかもしれない。
ばしゃーんと音を立てて、かわいいお尻を半分浮かべながら、ルイズはお湯のベッドに俯せにダイブした。
「わわわ、やりすぎてもうた!? ルイズお姉ちゃん、大丈夫か!?」
この日はやては、初めてルイズに本気で怒られた。流石に乗馬用の鞭で叩かれるようなことは無かったが、拳骨をおもいっきりくらった。しかし――
「人に本気で怒られるのなんて何年振りやろ。あははは。」
などとはやてが泣いて笑うものだから、ルイズはそれ以上何もできずに結局そのまま一緒に眠った。新しい部屋のベッドと前の部屋のベッドをくっつけて、はやて、ヴィータ、ルイズ、リインフォース、シグナム、シャマルで州の字で気持ちよくみんな夢の世界へと溶けて行った。
ひとり残される形となったザフィーラは人の姿になって、全員の後に烏の行水に近い程度に風呂へと入り、風呂桶を洗うと狼の姿へと戻ってから前の部屋の番へと向かい、そこで眠るのだった。
ちなみに彼はルイズが目を覚ました後に、もとから喋るのならアンタは韻竜みたいなモノなのかしら? だとしたら…韻獣ってことにする? と、言われてなぜかその語感が非常に嫌だったので、これまで通り東方の習慣とし、守護獣、青き狼としてほしいと頼んでいた。
この世界に来てから初めての休日、虚無の曜日が訪れる。
1月16日9;45追記
ルイズの胸は単に私がカトレア好きなだけなので、あまり深く気にしないでください
虚無の曜日までたどり着けない!
学院の人間はマジでもう少し人間性の授業を説こうよ…貴族同士ですらあれなんだもの。
なんかお気に入りもU.Aも総合評価も増えてる!?
感謝、感謝…!! 感謝に挿絵!! でも、R-15とかになっても嫌なのでギャグ寄り(・ω・`)ゴメンネ
なのポだとヴィータ呼びだけど、StSのドラマCDでは半々。
というわけでそのへん使わせていただきました。