ゼロの使い魔導書   作:すぴんど

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まだリフレクション見る暇ない。悲しい。
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リイン「最近私の出番がないな。」

シグナム「もともとお前も我々も主はやてのおまけだからな、仕方が無かろう。」

はやて「戦闘では私が小さな事ならともかく、しっかりと活躍できるようなるんは正直だいぶ先になりそうやなぁ。」

シャマル「ふふ、日常面で私たちは頑張りましょうよはやてちゃん。」

ザフィーラ「だが…それでもお前が料理をするのはやめておけ。」


第15話 染め上った破壊の杖

「起きなさいよヴィータぁっ!! 本当に全力に寝てるんじゃないわよ全く!」

 

「あでっ!?」

 

暗闇から意識を覚醒させられたヴィータは目を開いても何も見えず、星がちかちかと飛んでいた。ルイズが目的地近くに到着したのにまだ起きないヴィータに、息を吐きかけてから振りかぶって全力で拳骨を叩きこんだからだ。少女の細腕からどうやってこれほどの威力が出たのかは乙女の秘密である。

 

「くぅ~っ…なんつー拳骨してやがんだお前! シグナムに殴られたくらい痛かったじゃねえか!」

 

「アンタが起きないのが悪いんでしょうがぁ! 大体…たまに私が朝起きないとアイゼンでスコンスコン叩いてるアンタが何を言ってんのよ!」

 

ふたりして現在の任務や作戦すら忘れて、ルイズとヴィータが馬車の荷台の上で押し問答をしてころころと転がる。

 

殴り合いやらにならないあたり、どちらも本気ではないはずなのだが…両者ともに心の不満は強いのか、激しく罵声が飛び交っていた。そんな二人の光景がよほど滑稽に見えたのか、それとも罵声の内容が幼すぎるのか、普段は本来こういった光景の担当者に近いと周りから思われているキュルケが、髪をかきあげて呆れ返る。

 

「あーもう、アンタ達何やってんのよ。ヴァリエール! さっきの言葉そのまま返すわ、貴族の誇りやらと任務に対する態度はどうしたのよ。ついでにヴィータにも返すわね、喧嘩は後にしなさい!」

 

「ぐぬっ…!」

 

二人して押し黙った。ヴィータもルイズも、先ほどの自分のことを棚に上げてまで、こんなことを続けていることはできないようだ。馬車の荷台から少し申し訳なさそうにして降りてくる。

 

「ここからは歩いていく。ミス・ロングビルの提案。」

 

タバサがそんな二人の前に立って軽く説明を始めた。このまま荷台の喧しい車輪の音を立てて近づけば、フーケに気付かれて逃げられるかもしけれない故の処置だということと、草木の中を歩いて小屋に近づくことで、視覚の方からも気づかれないようにするためだということだった。

 

「なるほどね。わかったわ…ちょっと草むらは蚊が出そうで嫌だけど仕方ないわね。」

 

「お前なぁ…まぁ、あたしは刺されねーから良いけど。」

 

厳密には人間ではないヴィータ。仮に森に蚊がいたとしてもまず彼女より先に、他の人間が狙われるだろう。

 

「な!? ずるいわよアンタ! っていうか、子供が一番よく刺されるって言うんだし狙われるのならアンタが一番最初のはずでしょ!?」

 

「へへっ、体質(・・)でアタシは蚊に刺されたりしねーからな、残念だったなルイズ。その理屈ならあたしも少し知ってるけど、多分一番最初に刺されるのはルイズだな。蚊ってのは熱くなったりして出る汗や、匂いとかに寄って来たはずだからなー…タバサのねーちゃんより少し大きくても、ルイズが先に刺されるぜきっと。」

 

ルイズの顔がひくつく。

 

「ねえヴィータ、どーいう意味かしらそれ…?」

 

先ほどのように怒鳴らないのは体温をあげて、蚊かせ寄ってこないようにするためだろうか。なんともな理由で必死に自身の怒りを発汗等と共に抑えているルイズをさらにヴィータはゲラゲラと笑った。

 

そんなすごく些細ながら、不思議で乙女としては羨ましい体質のヴィータを周りは気になっていたが、人でないことを知っているルイズだけは、単にずるいとだけ思いながら怒りを募らせていた。

 

なお、一応ヴィータの…と言うよりはヴォルケンリッター達の力の一つ、封鎖結界を使うことでどうにかなる。この結界は目標や条件に該当する者や物と自分たち、それ以外の生命にまずは分ける。そしてそのふたつを現実の空間と、それに似た現実に干渉しない空間、結界内部に隔絶することが出来るのだ。しかし、いくらなんでも蚊や虫の為にそれを発動するつもりはヴィータには無かった。

 

「嫌ならとっとと抜けて終わらせちまおう、早く帰ってはやてを安心させてやろうぜルイズ。」

 

ただし封鎖結界を発動することは、任務の遂行と言う点だけで見れば決して悪手ではなかった。フーケではなくここの誰全員と自分たちを対象にして発動。小屋の前まで封鎖結界の空間を歩き、そこで結界を解いて現実世界に戻ってから奇襲…という方法も取れたからである。

 

「あ。だから…誰のせいで遅れたと思ってるのよもう!」

 

フーケと出会ってから使う手もあった。こちらは結界内部からの破壊が非常に困難と来ているために、逃走防止に役に立つ。しかし、ヴォルケンリッターをある程度理解してくれているルイズはどうかは解らないが、タバサやキュルケはこの結界をただ便利とは思わないだろう。畏怖するかもしれない、少なくともヴィータたちの存在やデタラメ具合に、更に疑問を強く持ってしまうのは間違いなかった。

 

「両方。」

 

「ほんとにね。」

 

そしてヴィータは先日のシグナムとの念話で、必要以上の力を見せることを戒めている。この手法は "ある程度の距離を誰にも気づかれずに近づいて、奇襲を仕掛けられる" 魔法。もしくは "敵を一人に絞り、許可した人間たちでタコ殴りにする" ことが可能な魔法。そして相手は"術者を倒すか宝物庫にかかった固定化以上の力がないと出られない"というルールが叩きつけられる。 

 

こんなものをハルケギニアの人間が知った日には、間違いなく碌なことにならない。ヴォルケンリッターどころか、はやてのことを考えると、ちょっと思考が狭まるリインフォースでも気づけることだろう。

 

そんな感じの事をヴィータは大雑把に考えながら先頭を歩き、しばらくすると小屋が見える位置にまでたどり着いた。

 

「アレか?」

 

振り返ってみんなに確認を取るヴィータ。蚊には結局誰も刺されていない。

 

「はい。情報によると、フーケの隠れ家はあそこだとのことです。」

 

「ふーむ…どうすっかな。」

 

作戦なんて考えず、取りあえず叩き壊しちまおうかと思ったヴィータが、アイゼンでコメート・フリーゲンを打ち出そうとして3人に全力で止められた。

 

「バカヴィータ! 破壊の杖まで壊れたらどうするつもりよ!! アンタが言ったのよ、オールド・オスマンからの依頼の方が大事って!?」

 

「ぐぐぐ…だー! めんどくせぇ!! さっさとぶちのめして帰るぞコラ!」

 

顔を真っ赤にして叫ぶヴィータを見て、ルイズは移動中の会話をちゃんと覚えているか思わず不安になった。

 

聡い子とリインに言われるように、ヴィータは馬鹿ではない。更に言い足せば彼女は性格や口調、態度に反して本来戦闘狂でもないし、好戦的でもない。

 

しかし彼女の基準はちょっと常人離れしている。いくらはやてが地球で平和な世界を教えてくれていても、ここは平和でも魔法の世界ハルケギニア。彼女としては、かつて戦いの日々を過ごしていた古代ベルカの頃の感覚で考えてしまうことが強いのだ。

 

そんな彼女が宝物庫に納められるような大層な杖といわれて、思い浮かべたのはデバイスもしくはロストロギア辺りである。

 

そんなものならこの程度なら壊れないだろうとの考えだったが、もちろんその判断を他のみんなが良いと言うわけがない。

 

仮に固定化が入っていてもあんなものを当てれば、下手すれば壊れるというのがルイズ達側の判断だった。

 

「まずは中の偵察。火を噴いて加速できるアナタが最適。」

 

そう言って、すばしっこさやラケーテンフォルムによる突進力、離脱力から選ばれたヴィータを見つめ、偵察の指示をタバサがする。

 

「そうねヴィータ、お願いしていい?」

 

「構わねーけど…あたしもあんま得意ってわけじゃないぞ。」

 

ヴィータは別に隠密行動が得意という訳ではないことを告げながらも、ある程度型に入った動きで小屋へと向かった。

 

「ん…タバサのねーちゃんも来るのか?」

 

「そのための補助。」

 

先行して罠の確認、破壊や回避を担当するヴィータと、安全の確保後に素早く周りを調べるタバサの赤と青の小さなふたりは、体格から受け取るイメージ通りすばしっこく進んでいく。

 

ふたりが無事小屋のひとつしかない扉の前に辿り着くと、タバサが小屋にディテクト・マジックーー探査の魔法を軽く杖を振ってかけ、室内や魔法の反応を確かめたが反応は何もなかった。

 

「罠は無い、人もいない。」

 

「うし、じゃあ開けるか…。」

 

扉のノブをヴィータが握ると鍵もなくするりと開き、簡単に室内へ入ることに成功した。侵入後も特に罠は無く、中にはほこり被ったがらくたと思われる物ばかりがあるだけである。

 

特に問題はなしとみて、ルイズとキュルケ、ロングビルをふたりは呼んで部屋の調査を開始した。

 

小屋周りをルイズが、さらにその周辺の警戒をロングビルが、最後にキュルケが破壊の杖の外観を知ってるとのことなので、タバサ達の調査に加わった。

 

「うげ、なんだこりゃ…こんなとこに本当に人がいたのかよ?」

 

「けほっ! やあねもう、髪の毛やお肌が痛むじゃないの。」

 

そう言ってほこり臭さに愚痴りながら、ヴィータとキュルケはそれらしきものは何かないかと必死に探しているものの、破壊の杖らしきものは無かった。

 

もう出ようかと赤髪の大小ふたりでうなずいて振り返ると、タバサが破壊の杖と思われるものを箱から取り出して、斜めに抱くように持っていた。

 

「破壊の杖。」

 

「お、おう…どこにあったんだ?」

 

さんざん探して見つからなかったものをあっさり見つけるタバサに、ヴィータ尋ねずにはいられなかった。

 

「押しあけた扉の裏。箱が立てかけてあった。」

 

キュルケとヴィータはほこりまみれになりながら奥へと進み探していたというのに、あんまりな位置である。

 

「ねえヴィータ? アタシたち…フーケに馬鹿にされてるのかしら。」

 

「奇遇だなキュルケのねーちゃん、あたしもそうなんじゃねえかって思えてきたよ。」

 

まるでひっかけクイズにまんまと騙されたような苛立ちが二人を襲ったが、ヴィータは破壊の杖の全体像を見ていると、怒りがみるみる驚きに塗りつぶされていった。

 

「おい、それホントに破壊の杖なのか…?」

 

「そうね、アタシが前見た通りのものだし、間違いないはずよ。」

 

キュルケの肯定が、ヴィータの頭の中に今度は疑問を詰め込んでいく。

 

「何でこいつがここに。」

 

「…これを知って居るの?」

 

そう言われるのも気にせずに訝しげな表情のままタバサに近づき、確認のために破壊の杖を軽く握って魔力を通そうとしたヴィータは目を見開いた。

 

「いや、似てるけど違うか? なんだコレ……混ざったのか? それとも…まがいもんって奴か?」

 

破壊の杖が何であるかを知っているようなヴィータの態度を見て、最初は期待を感じていたタバサとキュルケだったが、だんだんと確信から外れて頭から煙を上げていきそうな、混乱したまま渋い顔に変わっていくヴィータを見ていると、彼女たちの心の高まりも下がっていった。

 

「うーん…もとのままなら使い方も一緒だとは思うんだけどな。はやてなら武器詳しいから解るかもしんねえ。」

 

トリスタニアでのガンダールヴの特性を誤魔化した時を思い出しながら、ヴィータが言う。

 

「そういえばそんなこと言ってたわね、まあなんにせよ見つかったのなら解決よ。ちょっと拍子抜けだけど早く帰りましょ。早く帰ってお風呂に入りたいわ!」

 

「考えるのは後。」

 

そういって三人が部屋を出ようとしたところで、外からルイズの悲鳴が聞こえてきた。

 

「っち、やっぱそううまくはいかねえか。」

 

ヴィータが外に出れると、ルイズの前に相対する大きなゴーレムが見える。ゆっくりと巨大な腕を振り下ろすゴーレムに、昨夜と違い見上げる形で対することになったからか、ルイズは動けないでいた。

 

ゴーレムが繰り出そうとしている攻撃は、昨夜のよりはいささか大きさが低いが、人を一撃で殺せる質量なのは間違いなかった。

 

「笑いながら言うことじゃないわよヴィータ! 危ないルイズ!!」

 

キュルケが慌ててゴーレムの腕に潰されそうなルイズの方へ駆け、その手をとって引くと同時に振り下ろされている手へ魔法を放つ。

 

「フレイム・ボール!」

 

彼女の杖から放たれた炎の火球がゴーレムの腕に当たると、包み込むように炎が拡がり、腕全体を焼いたが土塊は止まらない。

 

「ラナ・デル・ウィンデ…エア・ハンマー……!」

 

今度は後方から放たれた突風がゴーレムの腕に叩きつけられる。タバサの放ったエアハンマーだが、それでもゴーレムの腕の質量を吹き飛ばしきれない。

 

「くっ…、無理よこんなの! 逃げるわよルイズ!!」

 

「そうでもねえよ。行くぜルイズ!! さっき言ったことをあたしが教えてやる!」

 

否定するキュルケと未だ攻撃を促すヴィータ。なんだかんだで闘い方を教えてくれるというヴィータへの期待と、自身が強くなれるという言葉を思い返して、もとより貴族としてのプライドが強いルイズは、ヴィータの心に乗った。

 

怯えて動けなかった先刻の自分を叱り飛ばして激を入れ、叫んだ。

 

「ヴィータ! 私は何をすればいいの!?」

 

乗ってきたルイズに歯を出して笑うヴィータが鉄球を生成すると、ゴーレムの腕めがけてアイゼンで打ち出してめり込ませた。

 

「ルイズ、あの鉄球を錬金しろ!!」

 

「何で―――くっ!」

 

何で錬金なんだと言おうとしていたルイズ達の目の前まで、もう拳は迫ってきていた。問答をしている暇はなく、ルイズは信じるか、信じないか更に選択を迫られる。

 

「信じるわよヴィータ…錬金!」

 

拳の先端にある鉄球に強く精神を集中して唱え、素早く杖を向ける。

 

何かの金属を正しくイメージしていたわけでもない錬金の魔法が、正しい形に帰結するわけもなく、当然のように錬金の魔法は失敗して大爆発。ゴーレムの拳に位置する土塊を全て吹き飛ばした。

 

「げほっ…げほっ…。」

 

「けほ…成程…ヴァリエールのこれなら確かに威力だけはあるわね。」

 

気合いが入って居なくても教室を煤だらけ。はやてたちが来てからの時のように気合を入れたのなら、床に亀裂を入れたりと更に激しく吹き飛ばす威力の爆発である。ただの土塊程度なら木端微塵に吹き飛ばすことはわけなかった。

 

「っさいわね…ツェルプストー、私だってこんな使い方なんてーー」

 

「ぼさっとすんな、まだだルイズ!」

 

しかし、痛覚の無いゴーレムはこの程度で止まることは無い。

 

「えっ…。」

 

ヴィータの叫びに呼応するかのように、ゴーレムはもう一つの腕を空高く振り上げると、今度は全体を鉄へと錬金されてから振り下ろしてきた。鉄塊となった腕は流石に錬金の爆破程度ではどうにもならなそうだ。

 

成す術がないままのルイズ達だったが、その拳が彼女達に当たることは無かった。タバサがゴーレムが現れた時点で呼び寄せていた使い魔、風竜のシルフィードが彼女とキュルケを、そしてヴィータがルイズをそれぞれ抱えて空へと舞いあがったことで、迫りくる死の鉄塊を回避したからだ。

 

「…っ!」

 

しかし、咄嗟の回避で正しい形をとれるとは限らない。タバサは風竜につかまれて空へと引っ張られる力に耐えきれず、手から破壊の杖を落とした。

 

「破壊の杖が!」

 

「今はいいルイズ! 今度はあの鉄になった腕にファイアー・ボールを唱えろ!!」

 

次にヴィータに言われたのはファイヤアー・ボール、これも昨夜失敗した魔法の一つだ。当たらず見当違いの方へ飛んでいく不安がルイズを蝕む。ヴィータの狙いは解らないが、ルイズは彼女の指示通りにできる自信がなかった。

 

「無理よ…ちゃんと狙い通りのとこになんて当てられないわ!」

 

そう言って不安げなルイズの肩に、抱えるようにして飛んでいたヴィータの顔が乗る。頬が触れ合うような距離から、彼女の力強い言葉がルイズの耳に響いていく。

 

「心配すんな、打ち込むときにはあたしが近づいてやる。こんだけでかくて、視界いっぱいになるまで近づけばルイズでも当てられんだろ?」

 

「ヴィータ…。」

 

彼女の声がルイズに勇気を戻す。口角が上がり、思わず笑みがこぼれる。

 

「もう、どうせアンタが狙っているのは私の失敗魔法なんでしょ?」

 

「へへ…悪いな、その通りだ。でもファイアー・ボールじゃなきゃダメだ。」

 

未だ説明をしてくれないヴィータにむず痒さが残るルイズだったが、彼女の迷いと不安はもうなかった。

 

「良いわよ…やってるわよ!」

 

追撃を迫るゴーレムの腕はヴィータが回避してくれる。そんな背中の頼もしい小さな騎士を信じて、ルイズがルーンを唱えていく。ヴィータは昨日聞いたルーンの終わりの言葉に合わせて、ゴーレムの鉄腕の攻撃を避けながらまとわりつくようにして近づいた。

 

「ぶちかませ、ルイズ!」

 

「ファイアー・ボール!」

 

視界いっぱいの鉄塊に解き放たれるのは、当然爆発。しかし先ほどの錬金の様な威力は無い。爆発による煙が起きてる以上一切の効果がなかったという訳ではないが、腕を吹き飛ばすような期待はできなかった。ルイズは俯いて己の無力を嘆く。

 

「くうっ…! やっぱり駄目……攻撃魔法の失敗でも、あの腕を壊すなんて無理よ!!」

 

「いや、これでいいはずだルイズ。」

 

そういうヴィータの声を聞いて、顔をあげて煙が晴れた視界に広がっていたものが、ルイズは目で見えている現実とは信じられなかった。

 

「なっ…!?」

 

そこにあるのはやはり拳のように吹き飛ぶほどではなかったのか、多少欠けているだけのゴーレムの腕。

 

しかし、それは鉄塊ではなく土塊へと戻っていた。

 

「よっし、ちょっと不安だったけど…大成功!」

 

「どどどどういうことなの!? ってかヴィータ不安だったってどういうことよ!」

 

何がどうしてそうなったのか、まったく理解が出来ないルイズと無邪気に結果を見て喜ぶヴィータ。タバサとキュルケも手が止まったまま驚いている。

 

「いーじゃねえか、成功したんだし。ほら次いくぜルイズ。」

 

まだまだ攻撃の手を緩める気がないのか、そう言ってヴィータはルイズの前に鉄球をいくつか生成する。しかし、今度はヴィータは撃ち込まない。ルイズを抱えている以上、アイゼンを握りしめていても腕を動かすことが出来ないのだ。

 

「あたしは今お前を抱えてるから手が出せねぇ。」

 

鉄球がルイズの腕に集まり、抱えられる。

 

「お前が投げて、錬金で吹き飛ばすんだ、やってやれ!」

 

「……ええっ!」

 

そう言われてルイズは細い腕で振りかぶり、鉄球をゴーレムめがけて投げ、コツンと当たる瞬間に呪文を唱える。

 

「錬金!」

 

三度目の爆発、今度も威力は一発目と同様に凄まじく、残っていたゴーレムの腕が吹き飛んだ。

 

「えいっ…錬金! このっ…錬金!!」

 

肩、関節、足と投げられた鉄球が当たっては錬金で爆発していく。一見するとすごく可愛らしい、箱入り娘が雪合戦をしているような仕草だが、その行動から起こされる結果は恐ろしいものがある。

 

なにせ数十メイルあったゴーレムの手や足が吹き飛んで行き、あの夜のヴィータとザフィーラがしたようにダルマにしていくのだから。

 

しかも硬化、固定化、錬金で鉄や上位の高度の素材で防御しようにも、それを解除されてしまう。これでは回避以外の方法で彼女の爆発を防ぐことはできない。

 

「やった…やったわヴィータ!」

 

しばらくするどころか、あっという間に四肢のほとんどを吹き飛ばされてゴーレムは倒れた。

 

「おう、やるじゃんルイズ。」

 

「失敗で倒したってのは癪だけど…私の魔法にこんな使い方があったなんて思いもしなかったわ。」

 

失敗魔法で敵を討つなどと、貴族としてはいささか気恥ずかしいことのように思えるルイズだが、どんな形であれど彼女の力でゴーレムを倒し、ヴィータと同じようにはやてや平民たちを守る力があると実感できたことが、今の彼女には何よりも嬉しかった。

 

「物は使いようってな。失敗って言われるのも、ゼロって言われるのも恥ずかしいかもしれないけどよ、戦いの中気取って自己満足を抱えて死んでいく奴よりさーー」

 

すごく近くにあるヴィータの顔が、笑顔になってルイズの方へと向いた。

 

「そんな恥を晒してでも、守りたい人を守りきる奴の方がよっぽど格好いいってあたしは思うな。」

 

「ヴィータ…そう、そうよね。…貴族は魔法が使えるから貴族なんじゃないもの。」

 

そんなヴィータのルイズへの評価が、彼女のコンプレックスを少し溶かして心に余裕を作っていく。

 

静寂が戻った森の空、笑顔で笑いあう小さな二人とは反対の方向、シルフィードの背に乗り直して始終を見ていたキュルケとタバサは、目の前の光景からいまだ驚きを隠せなかった。

 

「まさかあのルイズがここまでするなんて…すごいわ。」

 

「過程はどんな形であれ、あの魔法は凄まじい。」

 

回避や行動をヴィータに任せているとはいえ、トライアングル二人でどうにもできなかったゴーレムを吹き飛ばしたのはまぎれもない彼女である。それも昨夜のヴィータたちと同じような結末、戦闘面においてはスクウェア相当かそれ以上の実力と思われているヴォルケンリッター達と、同じようなことが出来るという事実がひたすらに二人を驚かせていた。

 

「ふふふふ…それでこそアタシのライバルのヴァリエール家よ。まだまだ…負けてられないわ!」

 

「……。」

 

そう言って燃え上がるキュルケを見ながら、タバサはふたりが協力して戦ったことで生まれて結果を反芻していた。

 

私も一人ではなく、誰かと戦うことでより高みへと行けるのだろうか? そんな思いと、自分の力を求める気持ちや向ける相手に他者を巻き込むことは出来ないという思いが、彼女の中でせめぎあっていることに、誰も気づいていない。

 

勝利の感慨にひとしきり浸った後、ルイズとヴィータのふたりは破壊の杖を回収し地上へと降りる。

 

「よし、これで今度こそ任務完了だな。」

 

ヴィータはアイゼンを待機形態に戻して破壊の杖を抱えると、地面が震えた。

 

「んなっ!?」

 

「そんな・・!?」

 

なんと、ゴーレムが再生し始めたのだ。あっという間に腕と足を修復して、再びヴィータとルイズへと向かい、鋼鉄の蹴りがヴィータより少し離れているルイズに襲い掛かる。

 

まずいと、ヴィータは自身の甘さを呪った。殴られても自分自身だけならば、ヴォルケンリッターの中で一二を争う頑強さを持つ彼女はどうとでもなる。アイゼンを再びハンマーフォルムにして、コメートフリーゲンの鉄球を叩きこんでやれば吹き飛ばすことも出来るだろう。

 

しかし、ルイズがそれでは助からない。シールドも、プロテクションも障壁もヴィータは他者の前に向けられるほど器用ではないし、鉄塊になってる以上簡単な防御結界ではここまでの威力だと防げるか怪しい。盾の守護獣を名乗るザフィーラやベルカ式ではなくミッド式の防御魔法であれば、他者へもしっかりと防御力のある施しを出来たかもしれないが、ヴィータには適わなかった。

 

もうルイズを掴んで飛んで逃げようとしても、完全回避できるか怪しい。迫る鉄塊にかすればきっとルイズの四肢が千切れ飛んでしまう。内部まで詰められた鉄の塊は地球にあるトラックやバス以上に重たく、危険な物として迫ってきているのだから。

 

魔法兵器や光学兵器ではなく質量兵器である以上、ルイズの前に立って防いでも二人して吹き飛ばされてしまう。吹き飛ばされて後方の樹木に叩きつけられれば、やはりルイズは内臓を痛めて死にかねない。

 

(どうするばいい…どうすればっ!? クソっ、ちくしょう! ルイズに自分自身を守れるようにしようと特訓させてたのに、それで一生モノの怪我させましたなんてことになったら、あたしがあたしを許せねえぞっ!?)

 

腕に力が入り、破壊の杖に意識が向く。

 

『助けたい、守りたい!』

 

破壊の杖の持ち主だったと思われる、白いバリアジャケットを着たはやてと同じ歳の少女が、ヴィータの脳裏には浮かんでいた。

 

もしこれがアレならきっと…きっとルイズを助けることが出来るだろう。いや、咄嗟にできるのはもうこれしかない。

 

(だったらはやての命綱の、こいつを守って見せやがれ!)

 

大分理不尽な想いを破壊の杖にぶつけて、ヴィータの心が叫んだ。

 

「色が違ってもお前のはお前のだろう、高町なんと…かぁっ!?」

 

魔力を込めようとして、ヴィータは込められなかった。ベルカ式、ミッド式関係なく破損覚悟でなら魔力を込める程度だけなら出来るはずなのに、目の前の破壊の杖は魔法に一切の反応を示さない。

 

(なんだこれは…ミッド式のデバイスですらねぇ!? ホントにわけわかんねぇ、どうなってやがるんだこのデバイスは!?)

 

しかし、先ほどのルイズ同様もう相手は彼女の目の前。迷ってる暇はなかった。

 

「でぇぇぇい! もう知るか!! 喰らいやがれデカブツ!」

 

ヴィータは破壊の杖の先端をゴーレムの足と胴体が直線状になるよう、射線を結んで構えて、杖の中腹よりやや上で横から伸びているトリガーに指をかけた。

 

「ディバイン…バスタァーーーーっ!!」

 

黄色い稲妻を纏った閃光が、空を貫いた。

 

「ぐううううっ!」

 

「きゃああああっ!!」

 

ゴーレムの鉄塊と動体を吹き飛ばした衝撃がルイズとヴィータを襲うが、なんとかふたりして踏ん張ってこらえると、体を失ったことで再生できなくなったのか崩れゆくゴーレムと、雲を吹き飛ばされて拡がる青空が見えた。

 

「ははは…もう知らね、考えたくもねえ。」

 

なんとかなったことで気が抜けたのだろうか、ぺたんと腰を抜かしたように崩れて破壊の杖を落とし、ヴィータはうなだれる。しかし直後に彼女は再びその甘さを呪う羽目になった。

 

「きゃあああぁっ!?」

 

「ルイズ!?」

 

前方に居たルイズが、杖を叩き落とされて誰かに羽交い絞めされている。ルイズの首筋に杖で錬金したナイフを作り出して押し当てたことと、被っている黒いフードからフーケであることは間違いないだろう。

 

「てめえっ!」

 

だが、そのフードの奥に差し込んだ太陽の光が見せる顔は、良く見知った人の顔だった。ミス・ロングビルの顔がフードの奥から覗いている、彼女の正体こそ悪名高い盗族のフーケだった。

 

「ミスロングビル…アナタまさか!」

 

「…はめられた。」

 

遠目からでも解る緑色の、印象ある髪からタバサとキュルケも疑惑を確信へと変える。

 

「お前が、フーケだったのかよ…っ!」

 

見抜けなかった悔しさと、甘さにいら立ちを隠せないヴィータは、今にもルイズを助けようと飛びかからんばかりだ。

 

「そうさその通り。動くんじゃないよ! 動けばこのお嬢ちゃんが死ぬことになる。空で見てるアンタらもだよ!! さっさと降りてきて、杖を私の前に捨てな!!」

 

「ぐっ…。」

 

ルイズを殺されるわけにはいかない。彼女が今死ねば、暴走したナハトヴァールによって学院で帰りを待つはやてが死にかねない。何より、もうはやてとの約束を破ることをヴィータは許せなかった。

 

仕方なく言われるがままに、ヴィータはアイゼンと破壊の杖を、タバサとキュルケは自分の愛用の杖をフーケの前に置いた。

 

「…ルイズを解放しやがれ。」

 

「ふふん、いいさ。でも動くんじゃないよ? 破壊の杖はもうあんたたちをいつでも撃てるように捉えているんだからね。」

 

そう言ってルイズを解放すると同時に、フーケは破壊の杖を構えた。ヴィータたちのもとへと駆けるルイズの背中へと照準を合わせている。咄嗟にヴィータはそのルイズの前に庇うように出た。

 

「へえ、流石使い魔の使い魔。主の主にも見上げた忠誠心を見せてくれるじゃないか。」

 

「なんたってこんなことしやがる、目的はなんだ!」

 

くだらない挑発には乗らず、ヴィータは申し訳なさと不安げな瞳で見つめるルイズを背に庇ったまま、フーケの動機を探った。

 

既に杖を持ってないメイジなど恐るるに足らずと、そんな余裕があるからかペラペラとフーケは語り出した。

 

「なあに、簡単なことさ。盗んだはいいがこの破壊の杖、使い方が解らなくてね。撃鉄みたいなものがあるから銃みたいなものかと思って握ったんだけど、それでも出てくるのは大した威力の無い光の線しかでなかったのさ。」

 

でも…と、フーケは嫌な笑みを浮かべた顔で見下しながらヴィータを嗤った。

 

「アンタのおかげで使い方が解ったよ。必要なのは合言葉だったみたいだね。ははっ、私のゴーレムを一撃で消し飛ばすなんて…まさに破壊の杖に相応しい威力じゃないか!」

 

「………。」

 

沈黙したヴィータに策がうまくはまり、勝ちを確信したのか、フーケはとうとう、この自身が作り出した自作自演の茶番劇を締めくくるべく、破壊の杖を構えた。

 

「冥土の土産話にはなったかい? それじゃあ、さようなら!」

 

「ルイズ…! 危ねぇ、逃げろっ!!」

 

そう言ってヴィータはルイズをキュルケ達の方へ力強く、多少無茶をしてでも距離が開くように突き飛ばした。

 

とっさに宙に浮きそうなほど突き飛ばされたルイズをキュルケとタバサがキャッチするようにして支える。

 

「ヴィータ!!」

 

「ディバイン・バスター!」

 

ヴィータに黄色い光が襲いかかった。土砂が吹き飛び、土煙が舞い、雷の熱で大気が燃えたのか、ヴィータの居たところに炎が吹き上がる。

 

「嫌ああぁっ! ヴィータあぁっ!!」

 

「駄目よルイズ! ヴィータの行為を無駄にしたら!!」

 

自分たちの盾になり、逃走を促したヴィータの死が受け入れられないルイズの悲鳴が木霊する。そのまま拡がる火の中に飛び込みそうなルイズを、必死にキュルケが抑えていた。

 

「離して、離してよツェルプストー! ヴィータが…ヴィータがぁっ!!」

 

「駄目。今のうちに撤退する…。」

 

タバサとキュルケは自分たちも悔しさを噛みしめながら、ルイズを無理やり引きずり逃げる。

 

寄ってきたシルフィードは三人を乗せると、大急ぎで空へと舞い上がった。

 

しかし、空に昇る途中で土煙より覗いた杖にその体をこわばらせた。フーケが再び杖を構えて、死の光を当てようと狙いを定めているのだ。

 

「きゅいぃっ!?」

 

「はっ…逃がすと思うかい? アンタたちもすぐに…あのチビの所へ送ってやるよ。」

 

そう言って再びヴィータを撃った時のように、トリガーの指に力を籠めてフーケはほくそ笑んだ。

 

「ディバインーー」

 

合言葉と思われる言葉を言われ、トリガーを引かれてもはやこれまでかと思われたが、その最後の時がくることは無かった。

 

「バス…ぎゃあぁっ!!」

 

トリガーにあったフーケの人差し指をひしゃげるように、鉄球が叩き込まれていたからである。

 

「これは…どこから……ぐあぁっ!」

 

続けざまに飛んでくる鉄球が、フーケの二の腕やあばらに飛び込んでいく。たまらず破壊の杖を落とすフーケは、未だ燃え盛る炎の中に目を向けた。

 

「悪いな…あたしは魔法の発動に杖は必要ってわけじゃねえんだ。」

 

炎からゆらめいて見える影は、先ほど殺したはずの少女。

 

闘うために一部を加工したかの様な不思議な深紅の服に、同じく深紅の帽子を被って、涼しげといわんばかりに何事も無く、炎の中から歩いてくる鉄槌の騎士。

 

はやてがデザインしてくれた騎士甲冑を纏ったヴィータが、そこに居た。

 

「これで終わりだ!」

 

一つ大きめの、握りこぶしより大きい鉄球を生成したヴィータは手を振ると、その鉄球が目にもとまらぬ速さでフーケの顎めがけて叩きこまれた。

 

「あ…悪魔。」

 

顎に強烈な一撃を叩きつけられたフーケは、脳を揺らされて意識を静めていく中、得体のしれないヴィータをそう呼ぶことしかできなかった。

 

「誰が悪魔だ、誰が。あたしは騎士だ、はやてと…危ない時はルイズのな。」

 

今度こそ漸く、この事件に終止符が打たれた。




ヴィータちゃん、本来の歴史では同じような状況でセットアップされて、自分が言うことを言われるの図。バリアジャケットと違い多分騎士甲冑ってデバイス要らないよね?(多分バリアジャケットも補助させてるだけでしようと思えば単身でも出来るとは思われますが。)

前回一方的にズタボロのぼろ雑巾にされたまま再戦とはいかないので、フーケさんは原作仕様のゴーレムではなく、再生するアニメ仕様の力を取り入れました。

ちょっと無理やり登場した黒くなった悪魔と呼ばれたりしちゃった人の杖っぽいモノの詳細は次回にルイズの爆発に細かな指示を飛ばした理由と合わせて

最初は真っ白のままとか、轟熱滅砕な人の赤紫なのにしようと思いましたが、白い方はこの後の話でちょっとだけ、本当に大した理由ではありませんが足りないものがあったり、赤紫の方はディバイン打てないなと思ったりしまして、黒くなりました。
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