モット伯のことはアニオリなの忘れてました。
今回ハルケギニアはおいてけぼりのシャマヴィー無双ですが、まぁ外伝ならこのくらいはありだよね?
「さぁて帰るか…と、言いたいところなんだが、悪いルイズ。あたしはまだ用事があるから先に行っといてくれ。」
フーケを縄で縛りながら言うヴィータの発言に、残りの三人が揃って待ったをかけた。
「ちょっと待ちなさいよ! 用事って何よ!?」
「ヴィータ、あなたのその服はなに!?」
「シルフィードが、精霊は力を貸してないといっている…なのに杖なしで魔法が使えるのはどうして?」
三人がそれぞれ待ったをかける理由は異なったが、その全員からのにじりよる凄まじい気迫にヴィータは怯んだ。
「お、落ち着けよ。説明するから…。」
「ならまずアタシからよ、その服は何よヴィータ…あなたさっきまでシャツに短パンだったのに…。」
そういって彼女は炎の中から出てきたヴィータの服、深紅の騎士甲冑に目をやる。
「この服はあたしの魔法で作った服だよ、ほら。」
そういって彼女は騎士甲冑を解除すると、そこから出てきたのは先程と変わらない、のろうさマークの白いワイシャツと短パン、縞ニーソックスにブーツスタイルのヴィータが現れた。
服の錬金とも思える魔法に、ハルケギニアのルイズ以外の二人が目を丸くする。
「簡単に言えば、この服は肌も含めて固定化した鎧みてーなもんだよ。この時のあたしなら、ある程度の攻撃は痛くも痒くもねえんだ。」
火の海から来たのに火傷ひとつ無いだろと、半袖シャツを脇までまくり露になった彼女の体と、帽子しかついてなかった顔は、きゅっきゅと滑る音が聞こえそうな幼子特有の卵肌。火傷どころか赤くなっている腫れのひとつもない。
「……。」
なんだそれはと、キュルケはヴィータの魔法の使い方を羨んだ。
乙女の肌はとっても大切なものなのだ。酷く俗物的な理由かもしれないが、本人にとっては非常に大真面目な話だった。
「…杖なしで魔法を使ったのは?」
「異端扱いされるから黙ってただけだよ。タネはこの前言ったあたしたちの魔法と体の仕組みの違い。」
「…?」
「あたしらの体には魔法用の肺みたいなところがあって、そこで周りの魔法の素みたいなものを取り入れては吐き出すことで魔法を使ってる。そっちほど融通は利かないけどな。」
「!」
なんだそれはと、タバサはヴィータの魔法の利便さを妬んだ。
彼女は騎士である。戦闘の機会の多いタバサからすれば、ヴィータの魔法の方がよほど便利だ。
彼女の持つ大きな節榑立つ杖は、タバサにとってとても大切なものではあると同時に、機動力を重視する彼女の戦いかたに合っているものかと言われれば、ムダが強いものでもあるのだ。かといって、もっとも彼女が魔法を…精神力を通しやすく使う上で良い結果が出たのも、またこの杖なので小型の取り回しのよいものにするわけにもいかない。
そんな彼女から見て手放しで魔法が打てるなど、実用性を重視する者からすればそれはたまらなく欲しいものだろう。
「ならあなたの杖?は、何のためにあるの。」
「アイゼンがないと射撃の魔法とか精密なコントロールとかはできねえからな。こういうところ含めてあたしらの魔法は、不便なんだよ。」
この言葉でタバサはヴィータの魔法の一部を彼女なりに理解した。ヴィータのアイゼンは杖であって杖ではない。どちらかといえばむしろヴィータ自身が杖であり、アイゼンは銃などの照準、そしてそのまま使うこともできる武器なのだと彼女は思った。
改めてヴィータの魔法や戦術をなんとかものに出来ないかと、タバサが思いを巡らせていると、ルイズが最後にノシノシとヴィータの前にまでやって来る。
「それで? 用事ってのは何よ…?」
ジロリと半目で睨むルイズ。
「勝手に前に出て、あんたが死んじゃったと思って散々心配したのに…今度はまた勝手にどこ行くつもりよ!?」
「え、え~っとそれはだな?」
相当気を揉んだルイズのうっすら浮かんだ涙を見て、うまく言葉にできず頬をかいてはぐらかそうとするヴィータ。
どう説明したものかと悩んでいたが、正直飛んできた"念話"の内容からして急いでここを離れたかったのでーー
「だ~っ! めんどくせぇ!! 後ではやてに聞いてくれよ!!」
彼女は考えることをやめた。
そうして大急ぎでアイゼンを持ち、騎士甲冑を展開して飛び立つその瞬間、大地から離れた足を何かが掴んだ。
「逃がさないわよ!」
「げっ!? 何やってんだルイズ!」
話しながらもどんどんヴィータは空高く、遠くへと飛んでいく。
しばらくして見えなくなるほど小さくなった頃、キュルケとタバサはため息をついて、シルフィードでフーケを運ぶのだった。
「受け渡しをサボられたわ。」
「…変わりに主であるはやてに責任をとってもらう。ご飯で。」
「ついでにあのお風呂、今度入れさせてもらいましょ。」
コクリと、タバサが頷いた。
そしてこちらは空をかけるヴィータと、その両足をいまだなんとか両手で掴んだままのルイズ。だがそろそろ限界が近いのか、ルイズの腕が震え始めていた。
「ふふ、残念だったわねヴィータ。さて…この手を離したら私死んじゃうわよ?」
座学が優秀な桃色髪のメイジは、なんとこの自身の危険を好機とみて状況を利用しはじめた。
「んなっ!?」
「ふふ、ゆっくり降ろそうとしても離すわよ? そうしたらはやても…どうなるかしら。」
自分の言葉が怖いのか、震えながらもニヤリと犬歯を出してルイズは笑う。
それはかわいい虚仮威し。されど当人たちには死活問題。
「お、お前なぁ……っ!」
余りの滅茶苦茶なルイズに、もうヴィータはどうすることもできなかった。
正確には、彼女の実力からすれば無理矢理どうにかできるだろう、しかしそれは体面だけだ。
なんともふざけた言動だが、逆に見ればルイズのヴィータへの心配は、それこそ"こんな馬鹿げたこと"をするほどだ、ということなのである。
そのことを蔑ろにすれば、はやてを介さずに縮まったお互いの心の距離はどうなるか解らない。
仕方なく折れたヴィータは、ルイズを背にのせて目的地へと向かって行った。
「ふん、初めから私もしっかり連れてけば良いのよ。」
「なあルイズ…帰るなら今のうちだぜ。」
「…あんた、一体何しにどこへ行くのよ。」
使い魔がなにか不良行動でもするのかと思ったが、はやてに隠れてそれはないだろうとすぐに間違いに気づく。
この世界に来る前に彼女たちははやてにとてつもない嘘をついて、もうしないと誓ったのだ。そんなことをするはずがないとルイズ考え、さっきの言葉を思い出した。
「そうよ! だいたいはやてに聞けって…あの子が知ってて何で私が知らないのよ!」
「なあ、ルイズ。」
声のトーンがひとつ落ちて、ヴィータの顔が真剣な物へと変わっていく。
ルイズからは見ることはできないが、雰囲気が真面目なものへとシフトしたことに彼女も気づいた。
「法律を守らない悪い貴族ってお前はどう思う?」
「そんなの、最低よ。許されるわけが無いじゃない!」
「じゃあ、その証拠が見つけられたらお前はどうすんだ?」
「王宮につき出すわよ! 首を跳ねられる前も後も言い訳なんか聞いてやらないんだから!!」
「首を跳ねられたらもう文句なんか言えねえよ。ふ~ん…ちなみに証拠は必ずそこに有ると解ってるのなら、押収してもいいと思うか?」
「えっ? そうね、国家や王家に対してやましいことを隠してること自体が罪なんだから、いいんじゃないかしら。」
何の話かとルイズが疑問に思っていると、さっき彼女がしたような悪い笑みをヴィータが浮かべていた。
「言質、とったからな!」
「えっ…な、きゃあぁっ!?」
ヴィータは飛行の速度をあげて目的地へと足をはやめた。
どうやら真面目な話の雰囲気はルイズを一蓮托生にする為の罠だったようだ。
「シャマル~聞いてたんだろ? これで何も問題無しだ。主の主のお墨付きだぜ。」
"はぁ、全くもう…ルイズ様まで巻き込んで……。"
聞こえてきた念話にルイズは思わず手を離してまっ逆さまに落ちかけてしまう。
まだ彼女は念話が飛んでくることになれていないのだ。返信もできないため、言いたいことや聞きたいことがあればおまけでイライラも積る。
「おいおい危ねえよ、ちゃんと掴まってろ。」
「ちょっと、シャマルまで関わってるの!? あんたたち本当にどこに……あれは!」
話してるうちに青い屋根と大きな門が見えてきた。
その主の属性の力強さを象徴するかのように、中庭には大きな噴水が見えている。
「まさかあれって…。」
「お、さすがルイズ。誰の家か解ってんじゃねえか。」
「モット伯の家…ちょっと待って! 彼は王宮勅使よ!? 確かに好色で悪い噂が多いけれどその証拠なんてなんにもーー」
「あるんだなこれが。お、いたいた。シャーマールー!」
そういってモット邸の近くの森に降り立つと、見知った金髪の女性、泉の騎士シャマルが立っていた。
彼女の後に降り立つと、なにやら不思議な鏡のようなものをクラールヴィントを展開して作り出している。
「何あれ。」
「旅の鏡って魔法だ、遠くを覗けてしかもそこにあるものを触ったり出来る。まあサモン・サーヴァントみたいなもんだな。」
「じゃあ、あそこに映ってるのがつまり…。」
「当たり。モットって奴の悪さの証拠。」
なんだそれはと、フーケがここにいたら今度は彼女が思っただろう。シャマルの前では、ハルケギニアの人は何も隠せないのだ。サイレントや固定化の倉庫などの物理的な干渉を遮断する力は、この世界の魔法にもある。しかし彼女の魔法は文字通り空間を越えてくる。探査の魔法で空間の座標や構造を把握されれば、このような密室や未踏の部屋すら丸裸だ。
そんな仮想のフーケと同じ気持ちになっていたルイズが呆けていると、シャマルが旅の鏡に手を入れて何かを取り出すと、それをルイズへと渡してきた。
「何これ? 日記……?」
何冊かあるモットのサインがついた日記帳のようなものをぱらぱらとめくり、ルイズは絶句した。
「……っ!」
そこにあったのは、言うなれば作戦帳。いかに理由をつけて容姿の良い平民の女性を、自分の屋敷のものとするか。あの手この手で王宮へと打診し、どんな狂言や進言をするか。そんなことが書かれていた。
わなわなと自国の勅使という重役貴族の腐敗に震えていたルイズだったが、しばらくするとヴィータとシャマルに向かって顔をあげ、悔しそうな態度で言い放った。
「これが証拠って訳ね。 確かに、女としてはこんなふざけた奴をいつまでも貴族で居させて良いはずないわ。でもヴィータ、シャマル。相手が平民である以上これだけじゃあモット伯を裁くことはできないわよ!」
本当に悔しそうな、そんな顔でルイズは叫んだ。彼女の誠実さにこの男の立場を利用した所業は、あまりに辛い自国の恥だったのである。
「ルイズ様、気持ちはわかるけれど、もう一度落ち着いて読んでみて?」
「……?」
シャマルがそんなルイズをなだめて、再度そのノートの文字に目を通す。
「……そっか。」
シャマルの言いたかったことを理解して納得したのか、ルイズの顔に気力が戻ってきていた。
「連れ去られたのは平民だけど…その口実で国の機関や官僚たち、王宮を謀ったことは事実というわけね。」
「正解よルイズ様。」
にっこり笑顔のシャマルがルイズの頭を撫でた。そんなシャマルの手を無礼ともルイズは思ったが、久しくなかった頭上の暖かみ……誰かに誉められて得られる喜びに免じて許し、話を続ける。
「でも、やっぱりこれだけじゃ足りないわよ。それに…。」
ルイズにはその先の言葉が出せなかった。言えばせっかく取り戻した気力をなくし、また俯いてしまいそうだったから。
いくらなんでも王宮もこの事を薄々は感づいている筈だ。なのに何も言われていない。つまりそれは悲しい話だが、暗に容認されている様なものなのだ。
悔しい、悔しい…悪事を前にして見逃さねばならないことが堪らなかったが、そんな気持ちを泉の騎士の運ぶ風が癒し、吹き飛ばす。
「ふふん、大丈夫よルイズ様。」
「…シャマル?」
撫でられた手が離れて見上げたルイズの先に居たのは、シグナムやヴィータとは違いどうやっても迫力が出そうにない女性。
「シャマル先生もそれくらいは解ってますから! そんなことはばっちり解決してみせます!」
そんな彼女が、年齢と見た目より幼い仕草で威張る子供のごとく、ふんぞり返るポーズをして居た。
今の雰囲気にひどく似つかわしくなく、滑稽とも思えるほどのその彼女の言動が、ルイズの不安を薄め、思わず吹き出す息がこぼれた。
「ちょっとシャマル…私は今すごく真面目な話をしてるのに……あんたねぇ!」
奇妙な笑顔がルイズに宿るのを見ると、効果はあったようだ。そう、間違いなくあったのだが…どうやらシャマル本人の意図したものとは違うようだ。
「先生って、先生って! あはっ…こんな時にふざけてんじゃないわよぉ!!」
「え、ええっ! ルイズ様ちょっと待ってーー」
怒りの言葉を言いながら笑うルイズに、シャマルがうろたえた。おかしい、自分は今頼れるお姉さんのはずなのに、何で、どうしてこうなったと彼女のマルチタスクが原因をひどく真面目に探している。
「シャマル…素かよ。」
ヴィータのため息が静寂の中で、こっそりルイズの笑い声にまじっていた。
「流石癒しと補助が本領の泉の騎士。ストレスのメンタルケアもお手のものか。」
「酷いわヴィータちゃん…わたしは大真面目だったのに!」
天然ボケで心をリフレッシュした一同は、日記帳を囲んで腰を草原に落として会議を再開した。
「はぁ、もう…やだわほんと。なら言いなさいよシャマル、主の主である私を安心させてちょうだい。あ、でもその前に…なんでこんなことしてるのか、まずは教えなさい。」
「簡単ですよルイズ様、黙認されてるのなら…できなくさせるまでです。シャマル先生の参謀講座~!」
伸びたクラールヴィントを教鞭がわりにしたシャマルの何かが始まった。
「いや、シャマルはそんな作戦とかはともかく参謀って感じのこと得意じゃねーじゃん。」
開き直ったのか、ヴィータの突っ込みを無視してシャマルはそのままほぼ勢いで、たとえふざけて見えていても構わず話し始める。
「ちょっと、私は先にあんたたちがここに来た理由を知りたいのに…。」
「さて、では問題ですルイズ様。なぜ王宮は黙認をしていることが出来るんでしょう?」
「え、無視なの? というか、モット伯ではなく王宮の方…?」
「はい、素敵な回答をお待ちしております。」
ぽむと両手を会わせて顔の頬に添えるシャマルを、ルイズはジト目で睨んだ。
「何よ…理由、教えてはくれないの?」
「ルイズ様なら解ってもらえると思っているので♪ 正解者には、私たちがここにいる理由をプレゼント。」
先程の証拠の本とは違い、答えろと言ったのに答えないどころか、はぐらかしてクイズを出すシャマル。突然言われた問い…今は半ばやけくそでも、もし本当にシャマルが真面目でもあるのだとすれば、これも立派な主になるための試しということなのだろうか。シグナムではなく彼女がそうしてくるとは正直思わなかった。
そうルイズは思い、思考を再び走らせた。
今日は頭を使ってばかりだとルイズは思う。
しかし同時に、考えることが楽しくもある。フーケのゴーレムを失敗魔法でどうにかする戦術、咄嗟に思い付いた、自分も連れていかせるためのヴィータへのブラフと駆け引き、そして今の目の前の悪事を解決するための作戦。全部座学でどれだけ学んでも教われなかっただろう問題であり、それがルイズの頭を刺激していた。
彼女は普段聞かない全く新しい問題に、何かヒントはないかと、他の今日の初体験な出来事を思い返す。
失敗魔法を失敗と考えない。自分の不利益すら何事もないように交渉にのせる。このように問題を逆に考えたり、他人事のように扱うことで見えてくるものはないかと考えた。
他人の視点で外から見る。黙認するということは、黙認を出来てしまうということ。
まだ狭い気がする。黙認されるのは、その王宮の省庁や官僚とだけのやり取りだから。
「あっ…まって、解っちゃったかも。」
さらに拡げよう。黙認している部分の周りには他に何がある?
国があった、その中には姫様、他の貴族そしてーー
「もうちょっと待ってねシャマル、答え言うのは無しよ!」
「誰も制限時間なんてつけてねえよ…。」
シャマルのノリにつられて、不謹慎と思いながらも楽しくなってきたルイズはここで逆に考えた。なら黙認できない状態とは? その中以外のやり取りならどうなる? やり取りじゃ無くても良い。中以外の人が知れば、きっと黙認はできないのでは?
ルイズは答えにたどり着いた。
「姫様や、多くの人、国民が知らないから?」
「はい正解。だからその辺をどうにかしてあげれば良いのよ、ルイズ様。」
「どうするって…どうやって?」
いざ答えに辿り着けても、ルイズにはどうすれば良いのか思い付かなかった。
「それをどうにかするために、あたしらが居るのさ。」
「そうそう、シエスタちゃんが酷い目にあわないようにね。」
突如不思議な名前が出てきて、ルイズは思わず眉を潜める。
「シエスタ? それってこの前ギーシュに苛められてたメイドじゃないの。何で彼女の名前が出てくるのよ。」
「あー…実はな? あの後ではやてたちがオスマンじーちゃんの部屋でさ、ナハトのことの進展がないかって、話をしてたら突然モットってやつが来たらしくて、手続きをしてシエスタを持っていっちまったらしいんだ。」
「ええっ…!? つまりそれって!」
ルイズは思わずさっきの本をめくり、文字が記されているページの最後を見た。
ある。確かにシエスタを学院から引き取る作戦がそこには記されている。
「あの子はこの前はやてと、あんたに助けられたばかりじゃない! それなのに…!」
「そう。そんでオスマンのじーちゃんがはやての前で、思わず今お前が言ったようなことをぼやいちまった。理不尽な話を聞いたはやては、思わずあたしらに何とか出来ないかって、シャマルを頼ったんだよ。」
つまりこの作戦は、平民のシエスタをはやてが助けたい為に起きたことということか。
相変わらず無茶をするとルイズは思い、何もなかったらどうやって取り返すつもりだったのか、後で少しお説教だと姉の対応をとることに決めた。
「あたしとしてはメイドがどうなろうと、そんなことよりもはやてが無事な方が、やっぱ大事だけどさ…そのはやてが悲しむんじゃ、なんとかしなくちゃなんだよ。」
そう言ってヴィータはアイゼンを構えて、モット伯の館へと歩き始めた。
「ちょっと、何する気よヴィータ!?」
「ん? 決まってんだろ。そろそろ時間もないし、モットの館を叩き潰すんだよ。」
「だ…ダメよ! あんたの正体がばれたらこの国が黙ってないわよ!? モット伯の罪がどうであれ、平民やその従者が勝手なことをしちゃったら、はやてだってどうなるか解らないじゃない!」
断罪を望んでいたはずのルイズから聞こえてきたのは制止。
ルイズの心配を驚きながらも、それをヴィータは笑顔で受け止めた。
「てっきりお前は悪者を裁けることに、荷台の上でのフーケの時のように倒すことに目が行って、やってしまいなさい! 何て言うかと思ったんだけどなぁ。」
「あんたが私の使い魔で、他にいるのが私だけなら確かにそうするかもしれないわ。だけど、これは私だけの問題じゃないもの。妹みたいなはやてのことを考えたら……だけど、でも……。」
貴族ならば、いかなる時も堂々真っ向と。硬い鉄のようなそれが、ルイズの信念で心の有り様でもある。後ろめたい宝物庫の壁を壊したことを自己申告したことからも、それが彼女の本心なのがはっきりと解る。
しかし咄嗟に出た言の葉は、飾ったものや信じてること以上に本音で漏れることもある。はやてのことを思って呼び止めたこともまた、今の彼女の本心だった。
良くも悪くも、身近に背負うものができたルイズにはその重さが、まっすぐな気持ちを押さえ込んでしまって葛藤させているのだ。
「心配すんなルイズ。」
そんなルイズの葛藤をどうにかしようと、鉄鎚の騎士は声をかける。
「お前に言われなくたって、あたしがはやてが危なくなるようなことするなんて、はやての頼みでもやるわけねーだろ。」
そう言って頭を帽子ごしにかいてから、ヴィータはルイズに申し訳ない顔をした。
「ただな…だから、この事でお前の名前を出すわけにもいかねえんだ。貴族としては辛いかもしれないけど、はやての姉貴分としてどうか解ってくれ、頼む。」
ルイズの葛藤を消させるために、ヴィータは貴族としてではなく、はやての姉として考えてほしいと提案したのだ。
そうして突然頭を下げるヴィータに今度はルイズか驚かされた。
だから、自分をここに連れて行きたくなかったのだと同時に理解する。
今から起こそうとしていることを誰がしたか知らなければ、ルイズはこれにはやてが関わっていたことに気づかなかっただろう。帰ったときにはやてが何か誤魔化していれば、ただ不正をした貴族が世間の風にその身を追われただけ、そんな事件としか後に知っても思わなかったはずだ。
しかし、こうして知ってしまうとそうもいかない。
どうしたものかと返答に困っていると思い出したのは、彼女の姉のことだった。
かつて貴族らしくない振る舞いをしたルイズが、彼女のもとへ逃げ込んだ時に二女の姉、カトレアは匿ってくれたのだ。
その行いは、貴族として正しいかと言われればそんなことはなかったが、それでも彼女は大好きな妹を助けたのである。
そして、そのことでルイズの心が救われたこともまた思い出していた。
ならば、そんな大好きな姉に倣ってみるのも良いだろう。
自分が少し迷惑を被ることで妹が救われるのなら悪くない。そう思ったルイズにもう迷いはなかった。
「…いいわよ。」
「おおっ! マジかルイズ、サンキュー!」
「でも、今回は特別なんだからね。いつもいつもわがまま聞いてあげたら、はやてのためにもならないもの。」
そう言うルイズの顔は、とてもカトレアに近い…普段の彼女とは違う優しい雰囲気の笑顔だった。
そうして、作戦決行の時は来た。
「許可はしたけど、絶対にばれたらダメなんだからね。やるからには徹底的に、ちゃんとしなさいよヴィータ。」
「解ってるよ、んじゃ始めようぜシャマル。」
モット伯邸から少し離れた草原で、ろくでなしな貴族への鉄槌が放たれた。
"ーーモット邸のメイドのみなさん。"
シャマルがシエスタ、そしてモット伯のメイド達に念話を飛ばした。
突然のことに思わずバケツを落としたり、悲鳴をあげたメイドも居たが、シャマルが次の言葉を言うとみながその動きを止めた。
"もとの生活に、帰りたくはないかしら?"
その願いはメイド達誰もが思っていることだ。ここにいるメイドは全て彼の悪事によって大切な仕事仲間や、家族から引き離されて連れてこられた者だったのだから。
"……みんなそう思ってるみたいね。それなら、馬車の中のあなた以外は中庭に集まって。安心して、今日でその忌々しい屋敷はおしまいよ。"
怪しくも、天のお告げのような何処か透き通った声に、ひとりのメイドがわずかな可能性でもあるならと信じて動くと、またひとり、ふたりとメイドが続き、最後には全てのメイドが集まった。
衛兵たちが何事かと周りから見ているが、彼女たちはそこから動かない。
すると、空から本が一冊降ってきた。さっきのモットの作戦張である。
"今からあなたたちを町に帰してあげる。町についたら、その本を文字が読める平民の人に渡しなさい。"
本を受け取ったメイド長と思われる子は、空に向かって頷いた。
「良し…いくわよ!」
シャマルがクラールヴィントを振るい、魔力を放つ。
対象となるのは旅人の鏡で庭から見えるメイドたち。
「長距離転送! 目標、トリスタニアの噴水広場!!」
「なっ…!?」
そんなこと出来るわけがないと、あまりの言葉に思わずルイズが絶句するが、次の瞬間、彼女は更なる現実を目の当たりにする。
「えぇーーーーいっ!」
メイド達の下に、緑の魔法陣が現れて光を放つ。旅人の鏡からメイド達を見れなくなるほど目映い緑の光が収まると、そこに映っているのはトリスタニアの噴水広場にいるメイドたちだった。
「はっ…はああぁっ!?」
顎が外れそうな勢いでルイズは叫んだ。本当に外れかけそうになって慌てて口を戻して、頬をつねり、更に手をつねってみたが何も変わることはなかった。
たった今起きたことは現実なのだと理解するも、ルイズには納得できそうにない、無理もない…彼女にとっては完全な未知の魔法なのだから。
「おいルイズ、最初で驚いてたらキリがないぜ?」
「そ、そんなこと言ったって…無理よ、こんなの…驚くなって方が絶対無理よお!!」
この気持ちをどこへどう向けたら良いのかわからず、ルイズは思わずパニックに陥ったが、時間はそんなルイズに優しくはなかった。
「後がつかえてんだ、驚くのは後。」
「は? つ、つつつ次はいったい何する気なのよ!?」
期待と、驚きの眼差しでルイズはシャマルに視線を戻すと、そこには黒髪のメイドーーシエスタが立っていた。
「ミス・ヴァリエール…? それにヴィータちゃんとシャマルさんまで、これはいったい……?」
シャマルが同じようにして、学院から帰るモット伯の馬車の中のシエスタを、ここまで転送したのだ。
「シエスタちゃん、学院にあなたも帰りたいわよね?」
そう言うシャマルに、まだ現状がのみこめていないシエスタだが頷いた。
「なら、これからここですることを、絶対に話しちゃダメよ。それができるのなら、また学院にいられるように帰してあげるから…ね?」
優しい言葉なのに、救いの言葉なのに、何処か冷え冷えとするシャマルの言葉にたじろぐも、再び頷くシエスタ。
しかし、どうも迫力の薄いシャマルでは足りないと感じたのか、今度はヴィータがシエスタの前に立ち、アイゼンを彼女の鼻先に向けた。
「重ねて言っとくけど、絶対だかんな! 誰かに話したらあたしがこいつでぶっ叩きに行く…いいな!?」
そして優しさも何もないヴィータの言葉に、彼女はさらに涙を浮かべて頷いた。
シグナムとの喧嘩と、この前殺されかけたギーシュを知る彼女には、それが冗談に聞こえなかったのである。
「宜しい♪ じゃあはい、これ持って行ってね。」
「これは、本ですか?」
「ええ、それを今から会う人に見せてあげて? そうね…フーケからって。」
突然出てきた名前にルイズとシエスタが目を点にする。
「ちょっと、何でフーケーー」
「長距離転送!」
シャマルがルイズを無視して術式を展開する。
「あのっ、私いったい誰にーー」
「目標、お姫さまの寝室♪」
「「はいぃ!?」」
シエスタの戸惑いも気にせずに魔法陣の光が彼女を包んだ。
「それっ転送!」
そうして残ったのは、最初のメンバーの三人たちだけだった。
「ちょっとシャマル、何考えてんのよ! 姫様のお部屋に平民を、しかも何でフーケからなのよ!」
「そうしないとまた揉み消されるからだよ。それと、フーケの方はな…あたしの代わりになってもらうのさ。」
「代わりって何よ!? これ以上まだ何かする気なのあんたたち!」
余りのやりたい放題の作戦に、ルイズは思わず許可をしたことを後悔した。こんなもの、愛しのカトレアですら笑って済ませるか怪しいと思い、同時に貴族に二言はないという言葉も思い出して思考停止、もはやうなだれるしかなかった。
「おいおい、まだ最後があるってのに大丈夫かよ。って、おいシャマル…どうしたんだよ。」
ルイズをからかった後にシャマルを見ると、何やら彼女は納得のいかないような、困った顔をしていた。
「え、あ、ううん…何でもないわよヴィータちゃん。」
何かを考えているような仕草をしていたが、すぐにそれを取り払い任務に集中し直す。
「それじゃ、最後はお願いね?」
「解ってる…でも、後でちゃんと話せよな。」
「…うん。本当に大したことじゃないけれど、それは皆で居るときにね?」
「おう。」
ヴィータがそう言うと、シャマルが茫然としていたルイズを抱えて、ヴィータと共に転移した。
転移先は、モット伯の館の目と鼻の先だ。
「この時間帯ならここは誰も見ていないはずよ…ヴィータちゃん、おもいっきりやっちゃって!」
「っとーーその前に、おいルイズ。」
「な、何よ…。」
意識をはっきりとしたルイズはまた期待半分、そして今度は何が来るのかという苦悩半分でヴィータを見た。
シャマルがあれほどのことをしでかしたのだ。この子だって、まだなにか隠してることがあるに違いないというルイズの疑いは、もはや確信へと変わっている。
「見てな、これがお前が呼び出した使い魔が従える鉄鎚の騎士のーー切り札のひとつだ。」
"Gigantform"
ヴィータの鉄槌、グラーフアイゼンが呟き、カートリッジ2本の魔力を連続で取り込むと、殴打部が人の胴回りよりも太く、大きく変わる。
「轟天…っ!」
ヴィータがアイゼンを振るう。その度にみるみる柄がどこまでも果てしなく、数十メイル先の草原まで延びていくのをルイズはただ見ていた。
「爆・砕・!!」
そして彼女は、その先がおかしいことに気づいた。
その先だけ地平線がない。延びた柄の先にあるのは、灰色の四角だ。
よく見ると、何やらその長四角の壁のはしにはそれぞれ金色の襷のような何かがかけられている。
ルイズは、その塊を先ほど見たような気がした。
そう、延びる前の…ヴィータの大槌が、確かそんな形をしていなかっただろうか?
「…ま、まさか!」
そう、ルイズの目の前に写ったのはその大槌だ。ただし、20メイルに届くかというほどに巨大化しているそれを鎚や槌と呼んで良いのかは、もはや疑問であるが。
そして、それはだんだんとこちらへと近づいてきた。否、ヴィータかそれを小さな体躯で振り回しているのである。
「ギガント、シュラァアーーーク!!」
横に薙ぎ風を切りながらルイズとシャマルを超え、ヴィータを軸に廻る巨大な塊は、モット伯の館の外壁を砕き、その先の館すら横から圧し潰し、反対の外壁まで吹き飛ばすと、ようやくその役目を終えて止まる。
「今だシャマル! 字は覚えてるな!?」
「大丈夫、任せて!」
吹き飛ばした瓦礫の土煙が晴れる前に、ヴィータの掛け声でシャマルが旅人の鏡を開き、そこに腕を入れて何かを施した。
「高町なんとかの時みたいに間違えんなよ!」
「ちょ、ま…間違えてないわよ。大丈夫、うん!」
「よしっ帰るぞルイズ!!」
がしりとルイズの腕をつかんでシャマルの近くへヴィータが飛ぶ。
「え? あ、うん。」
フーケのゴーレムが霞むような一撃に、思考停止どころか意識を手放しかけていたルイズは現実へと引き戻されると、それでもまだ頭が追い付かず、されるがままにシャマルたちと共に転移魔法でトリスタニアへと帰っていった。
後に残されたのは、ちり取りへ掃く前の集められたゴミのようになったモット伯の館の残骸。メイドとその消失につられて外に出てそれを眺めていた衛兵たち。正面は非殺傷設定の魔法で、背面の壁に当たる衝撃はシャマルのバックアップで、なんとか死なずに済んだものの、瓦礫に埋まる館の中に居たモットの部下のメイジたちだけだった。
そして、土煙が晴れた中庭の地面にはこう書かれていたのである。
"トリステインの勅使の恥とその証拠、確かに領収いたしました ~土くれのフーケ~"
と。
闇の書の闇がだいたい30~50メートルトラック位かなと思っていたり。
なのでギガントシュラーク時は20メートル位かなと。
屋敷は横は100メートルはあるのではと思い、流石にぺしゃんこに叩き潰すのでは無理そうなので横凪ぎで。
次回は飛ばされたメイド達のその後とフリッグの舞踏会まで終わらせたいですね。
やっと1巻分が終わりそう!
理屈っぽくなりすぎてちょっとよくない傾向ですね、もっとさらっと進めないと。
平時シャマル本当しぐさや性格の傾向がなかなかつかめない( ;´・ω・`)