ゼロの使い魔導書   作:すぴんど

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難産が続きます。
心理フェイズはただでさえ難しいのに次から次へと現れて終わりがない…。


第18話 繋いだ手、繋ぎ直す手

はやてのドレスを買い、彼女にあげたときの反応の楽しみと、そして勝手した無茶な作戦の危険や考えの過ちをどう解ってもらえるように叱ったものかと、転移魔法で魔法学院の近くまで戻り、そこから先はばれないように歩いていたルイズは思案していた。

 

「そういえば…肝心なことをまだ聞いてなかったわ。」

 

モットやら町中での騒ぎやら、驚きと焦りのあまりすっかり忘れていた事だが、これを聞いておかねば今後もはやてを守れないじゃないと、ルイズがはやてのドレスの包みを大切そうに持つヴィータに振り向いた。

 

「ねえ、ヴィータ? どうしてあの時、練金とファイアーボールだったのよ?」

 

「ん? ああー、そのことか。」

 

忘れてはいても、ゴーレム戦の時に使う魔法を指定されたことがルイズにとっては大きな疑問となっていた。爆発に頼るだけならば、それこそコモンスペルのアンロックでも、咄嗟な攻撃に便利でルーンが少なく、かつ成功すれば不可視の攻撃にも繋がる風の魔法とかでも良かったはずなのに、どうして錬金やら指定があるんだろうかと、彼女の疑問もある意味当然である。

 

「ファイアー・ボールはともかく、他の呪文では何故ダメなのよ? し、失敗魔法をあてにしてたってのは解るけど…じゃあ逆にどれでも良いんじゃないのかしら。」

 

誰かを守れたり、倒すことの力は示せた。とはいえ、彼女の中ではいまだ失敗魔法は、失敗魔法のまま。その抵抗感は言葉からありありと見てとれたが、ヴィータはそんな悩みは知らねーとばかりに話を進める。

 

「単にルイズの失敗魔法の中で、結果が解ってるのがそれしかなかったからな。」

 

「け、結果って…。」

 

「そーそー、失敗魔法がどんな風に失敗するか、それが大事だったんだよ。」

 

まさか、失敗の仕方が大切だなどと言われるなんて、それが理由だなんて! そんなことを思っていなかったルイズは思わず立ち眩んだ。

 

その発言がメイジにとってどういう事か、我々で例えるのならば、自転車に乗れない人が教官に助言を乞うと、転けるときに右にずっこけろとか左にずっこけろとか、すごくどうでも良いところを言われたようなものである。そんなことはどうでも良いから、もっと自転車に乗るための解決方を教えろと言いたくなるものである。

 

しかし、魔法が使えるようになった訳ではないルイズはそうもいかない。彼女の場合は自転車のハンドルの形すら解らないのだ。そんなルイズは仕方なく、心でぐっとこらえてその意味を伺った。

 

「怖い顔すんなって、錬金の授業思い出せよ。」

 

両手を前に出して、ドレスの入った布の袋をぽふっと当てて、迫りそうなルイズをどうどうと嗜めるヴィータ。

 

「お前がはやての前でやる気になって、錬金を小石に当てたら教室の机とか、全部木端微塵に吹っ飛ぶ失敗魔法が出たんだろ?」

 

ルイズは出会った次の日の、シャマルとはやてと一緒に受けた授業で小石に錬金をかけたときの事を思い出した。あたり一面、それはもう怪我人が出なかったのが奇跡の、背景だけなら大惨事の光景だった。

 

「確かに…そんなこともあったわね。」

 

「でも、練金は石に当たってたって話じゃねえか。だったら、それってスゲー強い失敗魔法じゃね?」

 

「そうかもしれないけど、ねえ…アンタほめてんのそれ?」

 

あたりめーだろと言いながら不思議な顔をするヴィータ。

彼女はルイズにとって、失敗魔法という言葉がNGワードということに、全く気づいていないのだ。聡い子は、深刻なことでない時は意外と抜けているようだ。

 

「んでんで、次はファイアー・ボールの失敗魔法の方な。あっちはそこまで壊れないけど、宝物庫という強い固定化を完全解除したじゃんか。」

 

「ちょっと、さっきから古傷えぐらないでよ…。」

 

失敗魔法が、もうそういう名前の魔法という感覚になってしまったヴィータは、さらにそれの結果を伝えなければ説明ができないため、ルイズの失敗談を思い返していく。もちろんそれはルイズに見えない何かを、どんどん…こうブスリブスリと刺していくのだが、やはりヴィータは話を止めない。仕方ないと言えば仕方のないことだが、何処かコメディチックにこの単語が出る度、体が少し震えるルイズをシャマルが苦笑しながら哀れんだ。

 

「あっちは狙いなんてつけられない。でも、なにか後から付け足した魔法を吹っ飛ばす力は一級品だ。だから、鉄に変わったゴーレムの手とか解除出来るんじゃねって思って使った。絶対当たるよう目一杯近づく必要があるのがキツイけどな。」

 

それでだと、今度は指をひとつ立てて、脇に荷物を抱えてポーズをとるヴィータ。

 

「だから、ルイズの失敗魔法は…何かをとにかくなげーこと唱えるほど狙いがずれるけど、魔法そのものにダメージを与える。逆に唱えるものが短いほど正確に狙えて、ある程度物質にダメージを与えるんじゃねえの?」

 

ルーンの無いコモンマジックってのまでどうなるかは、あたしはしらねーけどよと、言いながらヴィータの失敗魔法の区分けと考察が終わった。

 

その説明が、頬をひくつかせて憤っていたような顔から、目を開いた驚愕の顔へとルイズを変える。目を背け、結果をただそのまま受け取り、今まで忌避していたものの中に一番のヒントがあったとはなんということだろう。

 

何も解らなかったものが、ある日結界破壊魔法のようなものがあると言われ、さらにその力加減をする方法が今回で解ったことは、とても大きな進歩で、もしかしたら、そのことから自分の系統が割り出せないか…そして今後、そう調べていこうと指標を立てることの出来る喜びに、ルイズはうたれていた。

 

しかし、そんなことよりもーー

 

「お、おい…何で泣くんだよ!?」

 

ぽろぽろと、ルイズの瞳から涙がこぼれ落ちる。

 

「だって…だってぇ!」

 

がむしゃらで、ひたむきな気持ちだけではない。しっかりとした形ある力と使い方で、誰かや何かを守れる。そう確信できたことが彼女には何よりも嬉しかった。

 

ゴーレムの時のヴィータの言葉は、いわば励ましだった。魔法への考えを変えることは出来ても、ルイズの中では結局やってみなくちゃ解らない、諦めずに敵や問題に立ち向かって、成功するまで魔法で挑み続けるというスタンスが変わらなかった。心構えを認められて、胸の奥が熱を持つほど嬉しかったのは紛れもない事実だが、それ以上にはならず、彼女の現実に反映される何かが変わるわけではなかった。

 

しかしこの法則を知れたことが、それを一変させる。

 

自分は何をすれば、何が出来るかを知れたということ。それは、メイジがドットになってはじめて系統魔法を使えた時の喜びと同じではないだろうか?

 

それが、トライアングルメイジのゴーレムに打ち勝てる可能性を秘めたものなら、ひとしお大きな喜びだろう。

 

確かに、きれいな魔法かと言われればそんなことはない。トリステインでは尚更認められにくいだろう。

 

それでも彼女は今日、自分の理想たる形の貴族の雛となれたのだった。

 

「だー、もうなんつー顔になってんだよルイズ。」

 

破顔したルイズの顔をどうにかしてやろうと思ったヴィータだが、ハンカチなど彼女はもっていなかった。

 

「しゃあねえ、シャマルー癒しの風~。」

 

「えぇ…ダメよヴィータちゃん。」

 

「んなっ…!?」

 

さっきの財布に旅人の鏡のノリでシャマルに頼んだヴィータの提案は、彼女からあっけなく却下された。

 

ハンカチでルイズの顔の涙を拭いながら、シャマルは答える。

 

「そんなことに癒しの風は使うものじゃないもの。さ、ルイズ様。顔を洗ってはやてちゃんの所へ行きましょ?」

 

そういって、シャマルはヴィータを置いて、ルイズと井戸のある方へと向かっていってしまった。

 

「き、基準がわっかんねえ…つか、あたしを置いてくんじゃねえ!」

 

先に戻って、ドレスの包みをはやてにフライングして渡すわけにもいかず…結局ゴーレムの砂ぼこりやら、デバイスの一撃やらで少し煤けているヴィータも、顔を洗おうとふたりに続くのだった。

 

 

 

さて、どうしたものか…先程は自分への喜びで満たされていた。しかし、そのせいで考える余裕がなくなっていたとルイズは悩む。

 

そう、はやてへの説教をである。

 

他のイベントが次々と、矢継早どころか、この世界にはない機関銃レベルで、しかも自身の考えや生き方に関わるものばかり起きて、いささかないがしろになっていた。しかし、ルイズは決してこの事を軽視してはいない。

 

とはいえ、別に何か悪いことをしたから咎める…と言ったタイプのお説教ではないのだ。しかし、その事が余計にルイズを悩ませてしまう。

 

何よりはっきりと言ってしまえば、これから言うことは説教でもあるが、それにかこつけたルイズの我が儘も含まれている。

 

どうしたものかと考えて、結局それほど上手くまとめきれそうもなかったルイズは、出たとこ勝負へと移行する。

 

意を決し、自室の扉に手をかけた。

 

「ただいまはやて。」

 

「あ、お姉ちゃん! おかえり~。」

 

そんな気持ちの中の夕方、トリステインより帰りその扉を開くと、笑顔の使い魔が出迎える。無事に帰ってきたことか嬉しくてたまらないのか、前のめりになりすぎて急いだ車椅子から思わずこけてしまいそうな勢いだ。

 

「えいっ。」

 

主人の帰りを待った、子犬のように喜んでいるはやての出迎えに、まずは一手目としてルイズは手刀を見舞った。

 

「あたっ! る、ルイズお姉ちゃん…なして?」

 

「どうしてもこうしてもないわよ、はやて。どうしてモット伯の事、私に言ってくれなかったの?」

 

段階を踏んで、ゆっくりと話を進める。ルイズにとってはある意味、本日最大の難関かもしれなかった。

 

なにせ、顔は平静、心は少し鬼にしつつ、更に頭で説教の段取りを考え、納得できる言葉ではやての説得を試みなければならないのだ。まるで魔法詠唱時のマルチタスクの脳内の様である。

 

様々な面で不器用な彼女には、なかなかに難しい。それでもなんとか、この子にみっともないところを見せまいと奮い立つ。

 

「だって…お姉ちゃんは念話の会議聞こえても参加出来へんやないの。」

 

ルイズがそんな胸中の中、はやてから飛んできたのはその通りなことだが、着眼点が異なる答えが帰ってきていた。

 

そういうことじゃないのよと思いつつこめかみを押え、大切な使い魔兼義妹に、どうしても言っておかなければならないことがあるルイズは、釘を刺すことにする。

 

同時に、彼女は妹のごとき愛しさ故受け入れ過ぎてしまっていた、今も近くにあるはやての体と心を少し離さなければならないのが辛かった。

 

「それでもよ、一度私にちゃんと話をしなさい。大体、なんでそんなことをしたのよ?」

 

「…ルイズお姉ちゃんみたいに私もしただけやん。」

 

なにか、はやての態度はそっけない。誉められるより先に叱られていることが不服なのかもしれない。

 

「何でそんなことをするのよ。」

 

「だから、ルイズお姉ちゃんの使い魔の私が、お姉ちゃんみたいに悪い人を懲らしめただけやん。なのに何で叩くん?」

 

「ていっ。」

 

「おぶっ!?」

 

ルイズが両の手の平で、はやての柔らかい頬を挟んでむにむにと、上下に動かす。

 

「はやては、貴族じゃないでしょうがぁ…!」

 

むにむに、ぐにぐに。

 

「せ、せひゃかて…つかひまひゃもん!」

 

む、んむ、う、とほっぺをこねる度にはやてが面白い悲鳴をあげるが、その目はルイズを捉えたまま離さない。その瞳がルイズを尚更苦しめていた。

 

はやてが悪いことをしたのかと言われれば、身分を省みずに出しゃばったこと以外は別に無く、成し得た成果も素晴らしいものだ。

 

良くやった、さすが私の使い魔ね! と、本当はルイズも今すぐ言ってやりたい。

 

「はやて。」

 

しかし、今はそれはできない。ルイズはしてはいけない事だと思っていた。

 

「ねえはやて、私がああ言ってフーケの件で動いたからって、あなたは感化されなくて良いのよ?」

 

「えっ…感化?」

 

「今からちょっと、酷いことを聞くわ。」

 

そうするのが心苦しいような顔をしてから、はやての顔から離した手を自分の胸に当てて、瞳を閉じる。深呼吸をして目を見開いて、再びルイズははやての顔を見た。

 

「どうしてシエスタを助けたの?」

 

「えっ…!? だって、そんなの…。」

 

思いもよらない、まさかそれが本当に悪いことなのだろうかという質問に、はやては戸惑いが隠せない。

 

「どうしてあなたは自分でどうにかしようとしてしまったの?」

 

「それは…フーケを倒しに行くときのお姉ちゃんの姿勢に倣おて、使い魔としてらしくあろうと…。ううん、違う。私もそうせなあかんって思ったし…それに! 私だって理不尽な理由で泣いてる人を見過ごすなんて、出来んもん!! 私、何も悪うことなんてーー」

 

「そうね、はやて。貴女がは何も悪いことはしてないわ。」

 

「せやったら…。」

 

「でも、貴女がそれをしてはいけないわ。」

 

まだ夕方なのに、真夜中の空気のような、時が止まったような…そんな静けさがルイズの部屋を支配した。

 

「…どうしてそないなこと、言うん? ねえ、何で!?」

 

「解らないの? はやて。」

 

「解らへんよ! ルイズお姉ちゃんがそうあるように、朝のこと言われて、私なりにあれから考えて、私だって頑張って、そうなろうって思ったのに、どうしてや! せめて頭で何か役に立とうって…何でそれをダメ言うん? 私が子供だからなん? それとも、足が動かないから!?」

 

珍しく癇癪を起こしたように感情のままに叫ぶはやて。

 

そういうはやての頬にルイズの片手が触れた。また何かされるのかと、思わずビクリと肩が震える。

 

ルイズは頬を撫でただけだった。

 

「はやて、私はその思いを悪いとは言わないわ。むしろ、嬉しいくらい。」

 

「……?」

 

「でもね、助けたのは…貴女じゃなかったでしょう?」

 

「え…。」

 

「まだ解らない?」

 

コクリとはやてが頷く。少しの間を置いた後に、ルイズはまっすぐとはやての瞳の奥を覗いたままにーー

 

「貴女が自分で、はやてにとって家族で大切なあの子達を戦いに向かわせたことを、私は怒ってるのよ。」

 

ルイズは地球でとても優しかった少女が、ハルケギニアの気高い貴族に当てられて、いつのまにか忘れてしまった気持ちを思い出させた。

 

「貴女、言ってたじゃない。私に彼女たちを人殺しにさせてほしくないって。でも、本当はそれだけじゃないはずよ。」

 

そう、地球で自分と居る時みたいに、最初はこの世界でも本当は、戦って欲しくすらなかった。

 

でも、それはこの世界で許されない事だと解ってしまったから、彼女はお願いして、どうしてもして欲しくないことだけを何とか約束させた。

 

あの時、命の恩人だった目の前の人は、大切なはやての家族が戦ってくれることを望んでいたのに、なのに、今日のこの人は何を言っているのだろうか。先ほどからの、正しいことだけどしてはいけない。して欲しいけどさせなくて良い。相反する答えを言うルイズに、はやての頭は真っ白になってしまった。

 

「せやけど…せやけど! そんなこと無理やん!! 今朝のヴィータみたいに、お姉ちゃんは何かあれば皆を連れて戦いに行くやろ!?」

 

「そうね。私はそうするわ。それが私の義務で、はやての代わりをしている彼女たちに私が望んだ仕事だもの。」

 

「だったらーー」

 

「けれど、それは私がしなくてはいけないのよ…はやて。」

 

言い方の異なる何度目かの、"はやて"がしてはいけないという発言。繰り返し言われる内容に少しずつだが、はやてにも理解が及んできた。

 

「貴女が言えば、きっとみんなは気にしないで命令を実行してくれる。はやてからなら、それを嫌とも多分思わないわ。でも、だからこそダメなのよ。」

 

ルイズは苦しそうに笑う。

 

「ごめんなさいね、我が儘なお姉ちゃんで…出会ってから数日だけど、貴女が今朝の私で少し変わってしまったように、はやて達と出会ってからのここ数日で、大分私も変わってしまったのよ。」

 

本当に、信じられないほど変わってしまったわと、ルイズは内心驚いている。

 

彼女の貫きたい信念が何も変わったわけではないが、ルイズのそれに対する姿勢、視点、発想、何もかもがここ数日で塗り替えられた。というよりは、拡げられた気分だった。

 

それはひょっとするとお姉さんぶっているだけで、はやてを失えばまたもとに戻ってしまう。そんな程度の変化なのかもしれないが、それでもルイズは自身の変化を自覚していた。

 

そんな今の彼女だからこそ、数日前のその時とは違う気持ちで思えることもある。

 

「貴女が少し前の私みたいになってしまったら、ヴィータ達が可哀相じゃない。」

 

ルイズが言いたかったのは、たったそれだけ。

 

「貴女はね、はやて…彼女たちの安らぎであるべきじゃないかしら?」

 

それが彼女の我が儘。何も生活のスタイルは変わらない。変わるのは、はやてとルイズのヴィータ達ヴォルケンリッターへの気持ちの向け方だけだ。

 

「だから、まず私に言いなさいって言ったのよ。確かに、結果としては変わらないまま、どうしようもなく彼女たちの力を借りる事態になることも、きっとたくさんあるわよ。その時は私は迷い無くそうさせるし、そこは変わらないわ。」

 

しかし、その我が儘には…ヴィータがルイズにしてくれた事と同じモノが籠められていた。

 

「でも、貴女がまず私を通すことで…変えられることもあるのよ。ヴィータ達を無理に動かさなくても良い時だって、きっとね。」

 

絆がある人の為にできることは、何かしてあげたい。その気持ちが、はやてをあの日の朝の自分のように、ヴィータ達を使い、その強さに価値を見出だそうとする人間にさせたくないと、強く熱を持っている。

 

これははやての心の在り方のためだけではない。ヴィータ達のためを思って、ルイズがとった行動だったのだ。

 

「解って…貰えないかしら?」

 

はやての顔を覗きこもうとしたルイズを避け、俯いてしばらくしてから、はやては答えた。

 

 

 

「よし、それじゃあそんなはやてに御褒美よ。」

 

そういってルイズがヴィータに促し、ヴィータは持っていた包みをはやてに渡した。

 

「なんやの、これ?」

 

「ふふっ、それはね…ドレスよ。はやての。」

 

思わず言われたことが何か解らずぽかんとなるはやて。

 

「私のドレス…何のための?」

 

「決まってるじゃない、これからあるフリッグの舞踏会のための物よ!」

 

「え、ええっ!? 舞踏会のドレス…そ、それって!」

 

「そうよはやて、あんたも今日は舞踏会に出なさい。ヴァリエール家の使い魔として、色々と見て、体験して、らしくあれるように学ぶのよ。」

 

「そんな、どうして私が!? あ、あれやん…? 本日の主役っちゅうたらフーケの事だって私じゃなくてヴィータの分があるべきやない!?」

 

いきなり未体験の、しかも身分の異なる世界に突っ込まれかけたはやては、今日の功労者に視線を向ける。

 

「いやぁ、あたしはそうゆーのめんどいしパス。第一…昨日自分で稼いだ金でドレス買って出るなんて何かいかにもすぎてなー…半分近くか?」

 

功労者は今朝と同じ様に味方になってはくれなかった。はやてに対して珍しく、嫌ですとニヤニヤと笑いながら肩を竦めてアピールする、意地悪なヴィータがそこに立っている。

 

「てかさ…はやて。つまりこれはあたしの金も出して買った物なんだぜ~?」

 

意地悪な小悪魔は義理の姉と揃って似た顔をして、普段余りはやてには使わない口調を使いながら彼女を見る。本当に息ぴったりの主と使い魔の様な感じで、少しはやての胸がちりついた。

 

「なんやの二人とも…ずるいわあ。そなこと言われたら、断れへんやないの。」

 

渋々折れるはやてに、ルイズとヴィータがおもわず手と手をタッチした。片方の身長が足りないので、胸の辺りと顔の横辺りから手をつきだしながらだが。

 

「むう。」

 

何だか叱られたり、してやられっぱなしで面白くない。そんなはやては歳相応の膨れっ面になり、反撃を試みる。

 

「ヴィータも随分お姉ちゃんと仲良うなって、私助けんで…反抗期みたいでなんかちょお寂しいで?」

 

尤もそれは本心からの膨れっ面でもあった。今日は朝から何だかヴィータが自分よりルイズに懐いているようで、今の彼女にはそれが少し面白くないのだ。はやてを優先せずにやりたいことを見つけるのは自由だと、地球では散々みんなに言っていたはやてだが、自分より上の一番の人ができてしまうのは歯がゆいものがあるようだ。命の危機がない今では尚更だろう。

 

「ああ、それさ…はやて。」

 

さらっとヴィータが受け流す。あれ、狼狽えへんなあ? まさか本当に一番ではなくなってしもたんやろかと、思い描いた反応と目の前のヴィータの光景が違い、はやてが逆に狼狽えた。

 

「助けなかったってのはまあともかく、今はやてに意地悪したのはきっと、あたしとはやてに何か切り詰めたり、切羽詰まるものが無くなったからだよ。」

 

「……はい?」

 

意地悪した理由にしては、大分おかしい事を言ってのけるヴィータだった。

 

「だからさ、前のはやてって体悪いし死んじゃいそうで、実は本当に死にかけてて、とにかくそんなはやてに嫌な思い…はちょっと違うな。えっと、そう! からかったりとかは出来なかったから。」

 

「え、気ぃ使うてたん?」

 

あれで? と思わず思い至るところがある気もしなくもないが、言われてみるとからかわれた事は、どれもすぐ終わるおふざけ程度で、後は軽いわがままを言ったり食べ物をおねだりしてきた程度しか、確かにヴィータに困らされたことはなかった。

 

困る度合いならむしろ後から合流するために出ていった、ルイズたちの方にいる泉の騎士の、上達しない料理に対する努力の姿勢のフォローのが大変だったかもしれない程だ。

 

「まー…あたしなりには。でもさ、はやては元気になった訳じゃないけど、何も無ければルイズが死ぬまで生きられるほど今の時点でもう長生きじゃん。」

 

「まぁ、せやな。」

 

「で、あたし達も管理局に出頭したり、最悪そこで封印されるかもなんて思ってたけど、そんな必要は無くなって今ここに居る。」

 

「うん、うん…!? そないな目になるような犯罪をしてたんみんな!?」

 

はやてはもしこの世界が、ヴィータ達が言う、自身は未だ良く知らない監理局という人達に見つかる可能性を恐れた。

 

「そんなことはないわ、はやてちゃん。でも、闇の書の危険性を考えると…そうなる可能性は多分にあり得たことなの。」

 

シャマルが告げる、例え罪状だけなら殺人等は犯していなくとも、ヴィータ達はその存在、ロストロギアの第一級手配書として、そうなる可能性を否定しきれなかった故の話だった。

 

「話がそれちゃったな、えっとね…はやて。」

 

「う、うん。」

 

「だからさ…あの頃だとはやての為に必死で…はやてが死ぬなんて考えたこと無いけど、とにかくあたし達がはやてから居なくなっても良いようにさーー幸せな思い出をいっぱい、作ってあげておきたかったんだ。」

 

別の意味で、はやてにまた電気が走った。

 

それは、はやてが体調を崩しはじめてから誓ったこと。

 

ヴィータ達が幸せで満たされるまで、自分に出会う前のような、また次の酷な扱いをする主のもとへと転生したとしても、自分との思い出があれば生きていける力になると願って…そうなるまで死ぬ訳にはいかないと、彼女は生きると誓った。

 

そんなはやての気持ちと同じように、ヴィータ達もまたはやてのことを考えていた。ただ大切にする気持ちというだけではなく…例え自分達が離れることになってまた一人になったとしても、治ったその足で歩いていけるようにしたいと願っていたのだ。

 

「でも、今はそれだけじゃなくていい。」

 

だから、変な思い出とかも作っていこうとしてみたと、鉄槌の騎士ははにかんだ。

 

「…困ったなあ、ほんまに反抗期やん。」

 

自らの意思で敢えてそうしている、それは確かに反抗と言える行為だろう。しかし、本当に困ったことはそこではない。

 

だから、そういうのはずるいって言うとるのに…。

 

軽い気持ちでちょっとつつき返したら、思いもよらないことを言われてしまった。

 

はやての目頭が熱くなる。今日は何かと貰って打ちのめされてばかりで…それが嬉しくて、もどかしくて、はやてにはたまらなかった。




女泣かせヴィータちゃん(違
舞踏会がry!
みんなでごめんなさいしよ? を、する事になって無いはやてとしては、やっぱりこうあるべきではないかなと言う私のわがままを、姉気取りなルイズの過保護な欲にのせて。
あと一個だけ、あと一個アルビオン前、というよりは舞踏会前にしたかった事をして、舞踏会内で一波乱おこしたら一巻分が終わります!
まとめて次の話でできる…はず。

感想で言ってもらえた立ち絵やらはもう少しお時間を…少し前の所も付け足しますので。
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