土くれのフーケのあとに使い魔の品評会!?
時がおかしい! 時空監理局が来るぞ!(来ません)
「えっと、私の知っていることは…以上です。」
ヴィータ達が短時間なれど、壮絶な追いかけっこをしていた頃…シエスタはアンリエッタと枢機卿の前で尋問を受けて焦燥しきっていた。あまりに疲れはてて、死んだその目はせっかくの黒髪に白髪でも出来たらどうしようとか、明日のメニューは海草サラダにしましょうとかそんな現実逃避を始めそうな勢いだ。
気がついてからも再び腰を抜かして動けない彼女は、枢機卿もこの部屋に来ていたために仕方なくそのまま、ここで取り調べを受けることになったのだ。
地球の日本で例えるのならば、誘拐された私立高の清掃員や、学食のおばちゃんが突然皇室に連れていかれて、天皇陛下と総理大臣にことのあらましを訪ねられるようなものだろうか。心が疲れないわけがない。
国の象徴足る者の御前、一市民にすぎない彼女に嘘をつくことは許されない。されど、ヴィータとの約束を守らねば学院に戻ったあとどうなるか、少なくとも今も彼女たちに見られているかどうか、シエスタの視点からではわからないのだ。
そして、市民や一部の貴族を除いた者達に後に流れる話とは異なる、王宮のなかでの秘事がこれから始まる。
「緊急です!」
「今度はなんだなんだ騒々しい、王女の御前であるぞ。」
先刻の街での緊急を告げた兵士が、またもノックなしに扉を開けて訪れた。急いでいると、この兵士はマナーを頭の隅に吹き飛ばしてしまうタイプか、根本的におっちょこちょいな人間の可能性が出てきた。
「フーケが逮捕されました!」
「何だと!? 自首か?」
「いえ、町にいた魔法学院の生徒からの報せです。間違いありません!」
そのせいで大急ぎで、街へと向かった兵がひとり、東の門前にいた兵士を連れて戻ってきたのだという。
「何と…どういうことだそれは?」
フーケ捕縛のことを王宮が知ったのは、数日後ではなかったのだ。
これは何も、別にオスマンがミスをしたのではない。彼は今ごろ秘書のいなくなった学院長室で、シュヴァリエ申請のための王宮への打診する書類や、自身の手紙だという印や封蝋の為の璽を探したりと、まだ一文字もかけていなかったりしている。
ただ、舞踏会まで箝口令をしかなかったり、普段仕事を秘書任せにしたりしていた彼にも問題はあった。
フーケ捕縛は、フリッグの舞踏会でその討伐志願したメンバー達が主役に取り上げらる程の、偉業だ。そして、密命というわけではなかった以上、先に帰ってきた二人……タバサはともかく、キュルケがその話をルイズが戻ってくるまでや、舞踏会までしないでいられるだろうか。
そして、そんな目出度い事を聞き付けたり知ってしまった生徒達が、誰一人としておめかしの為に午後の授業をサボって、街に繰り出さないなどあり得るだろうか。
主役となる貴族の少女たち。その三人に取り入ろうとするような人間は、少しでも興味をもってもらえるようにと、より自分を装飾で輝かせて着飾ろうとしないか、足りないものを買い足しに街へと赴かないか、それを授業と天秤にかけて授業をとれるだろうか……答えはノーである。
そんなわけでルイズ達にとっては不運重なって…
「どういうことなのでしょうか?」
王女アンリエッタは困惑していた。ならば今起きている事件は何だというのだろうか。土くれのフーケが捕まったのを話す時間と、このメイド騒動の始まった時間はほぼ同じである。
「考えられるのはどちらかが嘘ということになりますな…。そのフーケをとらえた者達の名前は?」
「はっ、ヴァリエール家の三女、ルイズ・フランソワーズ。そしてゲルマニアの貴族のツェルプストー。最後はガリア貴族のタバサと名乗る者との事です。」
信じられない者の名前を聞いたアンリエッタが、思わず立ち上がって机から身を乗り出す。
「ルイズ!? まさかあの子がフーケを捕まえたというの!?」
「は、はい!」
思わぬアンリエッタの行動に本日、兵士はもう一度驚かされた。勿論そんな状況は真面目な枢機卿、マザリーニが咎めないはずがない。
「おほん、姫?」
「あ……し、失礼しました! ご報告ありがとうございます、もう下がっても良いですよ。」
「お待ちください。今この噂を流されては、せっかく収まった民の怒りにもう一度火がつきかねません。ひとまず兵達にはフーケ捕縛の話を民に流さぬよう、徹底させましょう。お主、各隊長にこの書類を。」
中央の噴水広場前と、端の門から起きているゆえまだ噂は飛びきらず、繋がってはいないが、このままでは更なる混乱へと発展しかねない。そう思ったマザリーニは自身のサインを、アンリエッタには印を押させて、兵達に余計な情報を流さぬよう書類を作り、扉を開けた兵に手渡し退出させた。
「さて……ヴァリエール家の名や他国の貴族の名を騙って訳の解らぬホラをふくとはとても思えませんな。」
「確かに……で、あればおかしいのはメイド達ということですか。」
二人の視線がシエスタに刺さる。その肌にのし掛かってくる圧が、彼女をげっそりとした顔のまま現実へと引き戻した。今の三人の会話を思い出していくほど、彼女からだらだらと、涙と汗が流れていく…。
「お前、何を隠している。」
「あ…う……。」
もはやシエスタは声もでない。喉から何かをしゃべろうとしても動いてくれないのだ。
「かは…。」
息までつまり口は乾くのに、その苦しさで、鼻からは水が出そうになる。そんなはしたない顔になりかけていく中で、またもアンリエッタが彼女を抱きしめて背中を叩いた。今度はシエスタも気絶はしなかった。
「落ち着いて? マザリーニも威圧するのはお止めなさい。これでは話もできません。」
「しかし、姫様。」
「先程私はこの子とお話をしましたが、悪人とは思えませんでした。きっと、何か話せなかった別の理由があるのでしょう。まずはその理由から教えていたたけませんか?」
これ以上隠し事をしたままに詰問されては、股からも何かを流しかねなかったシエスタは一にも二にもその言葉にすがり頷いた。
「ひっく、理由は……解りません。ですがその方達は決して、自分達がやったということを言うなと言われました。」
そう言って語り始めたシエスタの話は、にわかには信じがたいものだった。真相の方の人物達は訳のわからない魔法で、自分や証拠となる本をトリスタニアまで転送したり、巨大な鉄槌ひとつでモット伯の屋敷を砕いたというもので、ふたりは思わず人間よりはるかに強いと言われた種族の、エルフが犯人なのではないのかと疑ったほどだ。
「理解に苦しむな。その力量や魔法自体もだが、やり方に問題はあれどその勇気は称賛されるべきものとも、言えなくもない。だというのに……盗賊の手柄になどして何になるというのだ?」
「……隠す為ではないでしょうか。」
「何?」
恐る恐る震える唇でシエスタが枢機卿に意見を申し立てた。
「彼女達はいつも、なんだか平和な時間を楽しんでいるようでした。そんな安らぎを与えてくれる人を主にして、戦いたいとか、名誉とかそういうものは求めていなかったように思えます。」
「いつも? あなた……まさかその人達と知り合いなの?」
アンリエッタは素直な疑問を口にしただけだったが、これがシエスタの逃れられる最後の道を、自爆したシエスタと二人で叩き崩した。
「ひっ……。」
しまった。シエスタは自分の軽率さを呪う。殺される……そう思って思わず身を竦めたが、なにも起きることも、聞こえることもなかった。
「あ……あれ?」
「ど、どうしたの?」
しかし、待てどもその人生最期の時は来ない。冷静に考えてみれば鎚だのなんだのと、もう既にかなり込み入った話をしていたのに、途中何も止められることはなかった。
もしかするともう見られていないのではないか、その安堵がシエスタを包んで、少しだけ心の平静を取り戻させる。
「えっと、いえ……なんでもありません。」
「そう? それなら……教えてくださらないかしら、その勇敢なメイジ達の名前を。」
「ええと……それだけは……あの。」
それは流石にまずい。今見られてなくてもばれれば、その鎚で間違いなくぶん殴られる。、恐らくこの情報の出所はあの現場で唯一の他人だった自分しかおらず、間違いなく、死ぬ。はやてが絶対に止めるし、何よりデバイスの非殺傷設定はギガントシュラークですら、しっかりと機能していたので骨折はしても死ねないだろうが、それを知らないヴィータの怖さを知るシエスタには死だけが浮かんでいた。
「言えば、わたしが……殺されてしまいます。」
それだけはごめん被りたかった。非殺傷設定を知らない彼女からしてみれば、普通の鎚で叩かれたら内蔵破裂か胴体切断、でかい方で叩かれれば棺桶に入れられるものは髪の毛くらいしか形を残さないぺしゃんこの刑。そんな目に遭うのは下手に首を落とされるより辛い。
「なるほど。どうやら口止めをされているようですな? 言えばただでは済まさぬと。」
「安心して、私の名に懸けてあなたをそんな目に、遭わせたりはしませんわ。」
ぎゅっと両手を握られる。この国の姫であるアンリエッタにそんな言葉を言われれば、いち国民のシエスタはもう、話さないわけにはいかなかった。拒めば今度はここの近衛兵に拷問されそうで、八方塞がりながらなんとか一秒でも生きようとシエスタはもがく。家の稼ぎのために、彼女はまだ死ねないのだ。
「……ミス・ヴァリエールの使い魔の方々です。」
「ルイズ!? でもルイズはフーケを……。」
「詳しいことは私には解りません。ですが、モット伯の屋敷を壊したのと、連れていかれそうになっていた私や、お屋敷のメイドたちを証拠を見つけて助けてくれたのは……ミス・ヴァリエールの召喚された平民を主とする騎士達、です。その中のふたり…一桁の歳くらいの小さな女の子と二十歳くらいの女性が、私たちを救ってくれた本当の人たちです。」
ひとりは名をヴィータと言い、自分は以前も助けられたこと。ドットとはいえ学生の貴族を一撃で瀕死にしてしまったこと。鎚を魔法のようなもので巨大化させて、屋敷を瓦礫の山にしたのは彼女だということを話した。
もうひとりの名をシャマルと言い、その瀕死になった貴族を水の秘薬も無しに、さっと治してしまったことと、モット伯の館からトリスタニアまで、自分達を魔法で一瞬のうちに移動させてしまったことを話した。
「ルイズが…平民、いえ魔法を使う人間を呼び出して……その子が更に人間を四人も呼び出すなんて。」
「これは、一度詳しく調べる必要がおありのようですな。ですが……争いを嫌うというものたちだからこそ、我らのような国という存在が調べていると、悟られるわけにはいきませぬ。その鎚を王宮にいきなり来て振るわれでもしたのならば、大惨事になってしまいます。」
その頼もしさに魅力を感じながらも、下手にその者の安らぎ、眠りを妨げればたちまち牙を剥く獰猛な獣のような危険さを、マザリーニは感じ取っていた。
「そうですわね。であれば……この子もすぐに学院に戻すわけにはいきませんわ。」
アンリエッタもそこまで言われれば解っているようで、そんなものが居る巣である魔法学院へ、目の前の弱き人間を返すことを躊躇った。
「確かに。私も見ていて確信しましたが、ここまで嘘が苦手な素直な子では、すぐにこの事がばれてしまうでしょう。そうなれば……問題はこの子だけではすまなくなります。」
どうしたものかと悩む二人に、自分の命のために、シエスタがどうすれば良いかと無言ながら加わり、知恵を巡らせる。
しばらくして、アンリエッタがポンと手を叩いた。
「そうですわ! ではこうしたらいかがかしらマザリーニ。」
アンリエッタは、シエスタに任せておきなさいと言いたげな視線をちらりと送って、何やらマザリーニとひそひそと話を始める。そんなアンリエッタに、シエスタは首をかしげることしかできなかった。
しばらくして、ふたりは振り返った。片方は笑みを浮かべ、片方は何やら疲れた顔をしているようにシエスタには見える。恐らくなにか無茶か我儘を姫が言い、枢機卿は仕方なくそれを認めたのだろう。今までの姫の行動を考えると、蝶よ花よと育てられたというわりには、以外とお転婆なところがあるのかもしれないと、不敬ながらも彼女には思わずにはいられなかった。
「ねえ、シエスタ……だったかしら?」
「は、はいっ!」
急に名前を呼ばれて思わず座ったままだが姿勢をただした。まだ腰は抜けている。
「あなた…しばらく私のお着きのメイドにならないかしら?」
「もし受けるのならば、今日はもう遅いからな。早速姫の夕食を水のメイジに毒の有無を見てもらってからここへ――む?」
「あ、あらっ!?」
メイドは再び意識を手放した。ロイヤルメイドなど、まして今日から貴女の職場は
「使い魔の品評会?」
「ええ…すっかり忘れていたわ。」
それから、シエスタがなんとか姫のメイドに慣れてきた程度の月日が経過した日の夜。 魔法学院で新しい部屋に慣れてきたルイズが、突然そんなことを寝る前、ベッドの上で言い出したのである。
「何すりゃ良いんだ?」
そういって受け持つ気満々のヴィータを、ルイズは首をゆっくりとふりながら手で制した。
「基本的に自信の使い魔の優れたところをアピールするんだけど…ちょっと問題があるの。」
そういって向けるルイズの視線の先は、感覚こそ無い上オートマチックながら、最近は少しの間だけ立った世界を見ることができるようになった、彼女の妹兼使い魔。
「国で行われる正当な行事だから、これはちゃんとはやて本人が出なきゃいけないんだけれど…あくまで使い魔の力量を示すものなのよ。」
「悪い……もう少し分かりやすく頼む、ルイズ。」
はあとため息をはいてからルイズは一言。
「基本的に主以外は手助け禁止なのよ。」
「えっとごめんな? ルイズお姉ちゃんが何でそれを問題としているのか私にも解らへん。」
「えっとね、つまり会場で無礼をすることは許されないのよ、はやて。」
「そりゃまあ、そうやろなあ。」
指をたてて話すルイズにこくこくと頷くはやてを、リインフォースが申し訳無さそうに止めた。
「すみませんが我が主、まだ髪を乾かし終わっていないので動かれるのは…。」
「ルイズ様も、大切なことなのは解りますけれど抑えてくださいね。」
ルイズの方の髪を担当をして、櫛で髪を梳いていたシャマルも同じように促す。どうやら全員が湯上がりの時の話だったようで、そこかしこに花の香りやシャンプーの香りが漂っていた。
「しっかしシャマルは髪がなげールイズの方をやってて、もう髪をとかしてんのになー。リインフォースはまだタオルではやての髪の水気をとってる最中って…。」
自分のの髪を適当にワシャワシャとタオルで拭いた後にそのまま巻いたヴィータが意地悪な笑みを浮かべて、管制人格を笑う。
「お前、ほんとなーんもかんもダメダメなんだな。」
「うぐっ…。」
ぶすりと石化の槍がリインフォースを貫き、文字通り固まった。どこか抜けているリインフォースにとって、こういうこと全般をこなせないことが彼女の最近の悩みの種なのである。管制人格としての機能以外、彼女にはほとんどの機能が記憶に残っていなかったのだ。もしかしたら最初からないものも存在し、表情による感情表現が乏しいのも、ひょっとしたらこのせいなのかもしれない。
「あははは、しゃあないよヴィータ。リインはユニゾンデバイスだからか、あんま家事とかのプログラムされておらへんかったみたいやし。ゆっくり覚えていってくれればええよ~。」
「我が主…。」
そう言って続きを促すはやてに救われた管制人格はまた、しどろもどろながらも、丁寧な気持ちを込めて彼女の髪を拭き始めた。
「そうよヴィータちゃん。それにリインフォースは、今私と一緒に料理とかも頑張ってはやてちゃんから覚えているんだし、そんなこと言っちゃいけないわ。」
「いや、シャマル。お前は逆にそろそろリインフォース抜かれないように危機感を覚えた方が良いと思うぞ。」
「あ、ひっどーいシグナム! 私だってちょっとは、少しずつ…多分だけど! 良くなっていってるのに~!!」
話に入っていなかったシグナムが思わず突っ込む。というのも、ルイズは普通にはやてとお昼、ヴィータは最近オスマンとゲートボールをしてから食堂へと行くので、まかない変わりに作られるシャマルとリインフォースの料理の被害に会うのが彼女なのだ。ザフィーラは獣でいられることを良いことに、うまく逃げている。
「だぁ~もうっ……あんたたちは話をどこまでそらすのよ!」
女三人よれば姦しい。六人いればそれはもう、まともな話などできるはずがない。しかし、それでは困ると、ルイズがベッドの上で立ち上がった。
「 あぁ……せやったせやった。 ほいでルイズお姉ちゃん、 いったい何が問題なん?」
「はやて、あなた品評会と聞いてそこで何が出来るか、言ってみなさい。」
「読書。」
「それ特技ですらないわよ、趣味よ。」
「で、デル君振り回したりとか!」
「魔法吸収させてから舞台に上がる気? 最初の挨拶で抜き身の剣持ったままでいられるわけ、ないでしょ。」
「それなら、料理……。」
「そうね。それは私も考えているわ。」
でもねと、座り直してシャマルに髪をまた任せるルイズが、腕を君ではやてをにらむ。
「問題はどうやって私とあなた二人で、そこで料理を作るかなのよ!」
そう、はやて単体でしっかり出来るものはこれが一番だろうとは、ルイズも思い至ってはいた。何せその味は才能といわざるを得ない領域なのだ。
この前はやてが立てるようになったことで、散々ヴィータの自慢するはやてのギガウマ飯とやらを食べる機会に恵まれたのだが、厨房にてデルフ片手に作られた簡単なサンドイッチですら自分だけではなく、他国の貴族のタバサやキュルケの舌までが美味しいと言わせたほどの出来映えだ。より美味しくするには卵などを半熟にすることが大切なのだそうだが、この国の卵では食中毒になりかねないらしく、今は出来ないがいずれ何とかしたいとのことだった。
一人辺りにおける披露の時間や、調理の制限時間的にもあのサンドイッチが恐らく品評会では限界だが、彼女の料理は万人に受けやすい。審査員たちの舌をまとめてがっちりと虜にするだろう。
問題は過程と、舞台だ。
鍋やらの用意は最悪どうにでもなる。肝心なのは、それをはやてに使わせる方法だ。
「どうしたら、はやてを立たせられるかなのよ。」
「そんなものお前の錬金を、デルフにぶち当ててやれば良いんじゃねーの?」
錬金による戦いかたを教えたヴィータが、さも当然のようにルイズに言う。
「それがね、デルフは私の魔法だけ何だか吸いきれない時があるのよ。もしもそうやって本番で、料理の前に爆発なんてしたらどうするの? 煤まみれの料理なんて出せる訳がないし、爆発しただけで不評を買いかねないわ。」
じっとそのボロではなくなった輝く刀身……は、ボロい鞘で見えないデルフリンガーへとルイズか視線を飛ばす。
「痛いだの喚いて、叫ばないとも限らないし。」
「まあなぁ……俺っちも何でか解んねえけど、娘っこの爆発は痛くて叶わねぇんだ。おすすめは出来ないね。」
本人もとい本剣より返事を受け取りため息をついて、ルイズがまた全員へ視線を向けた。
そういうわけで、知恵を貸してちょうだいと。
「ふうむ……。」
腕を組んで考えていく八神家の面々とともに、呟きながらルイズも目を閉じて唸っている。
「今回だけは……今回だけは……。」
「ルイズお姉ちゃん……今回だけって、どうしてそんな気合い入れてるん?」
負けず嫌いなのはわかるけれど、どちらかと言えば必死さや、追い詰められているようにはやてはルイズが見えた。
そんな顔した唸りながらの呟きに、リインフォースがようやく髪を乾かし終えたお陰で、ベッドに来たはやてがルイズの横まで寝転び、彼女の顔をじっと見る。
はしたないと、はやてを軽くこづいてからルイズは彼女に向かって語りだす。
「……今回の審査員のひとりに、アンリエッタ王女が来るのよ。」
「お姫様?」
「ええ。幼少の頃おそれ多くもお友だちとして側に居させてもらったの。だから、姫様の前で情けないところは見せたくないのよ。」
「はは~、なるほどぉ……。」
「……。」
それは本心だったが、本当はもうひとつルイズには狙いがある。
はやてを認めさせたいのだ。
彼女を本心から認めてくれているのなんて、生徒たちの中ではギーシュ程度だろう。
彼とヴィータの決闘。あの騒動から随分と日が経ったせいか、土くれのフーケの件ではやての従者と主ばかりが活躍したせいか、またはやては軽んじられ始めている。
ヴォルケンリッターたちが恐ろしく誰も口にしては言わないが、そういう雰囲気は何となく、それでも解ってしまうものだ。渦中のはやてが気づいていないわけがない。
そんなはやてを、形や記録として残る物を以て認めさせたいと、ルイズは思っていた。それならばもう、こうなることもなくなるはずだからと。
ただ、それを恥ずかしい気がするルイズは言わない。なにより、アンリエッタの後でそれを言うのは何だか、はやてについでのように思われそうで、それも嫌だった。
「そっか~。ほなら私も、気合い籠めんと……な?」
自分の料理が王女に食べられるかと解ったからか、幼いながらも真剣に考えた少女は、やがて何かを思い付いたのか、恐る恐るルイズをみた。
「あ、あのなルイズお姉ちゃん……予算ってある?」
土くれのフーケの報酬はルイズの称号と勲章でひとまとめにされてしまった。そのため最近のお金の稼ぎ先と言えば、もっぱらヴィータのスリ捕縛であるが――
「最近むしろあたしのせいで、子供を狙った犯罪が減っちまって……悪い。」
今は羽振りがよくないと、先回りしてヴィータが割り込んできた。
ヴィータの言ってることがどこかおかしいので、寝ながらに苦笑するはやてが頬をかく。
「何かおかしいなあヴィータ……それ謝ることちゃうで? でも、えへへそっかぁ。そんなに捕まえてるんやなあ、えらいえらい。」
「にへへ……んふふふ。」
そう言って挙げたはやての手に、ヴィータが自分から頭を寄せてきた。タオルををゆっくりと取って撫でると、甘い声をヴィータがあげる。
「……何かに使うの? 今月のおこづかいはもう届いているしまあ、少し位なら大丈夫よ。ヴィータのそれと合わせれば大抵のことはできるんじゃないかしら。」
そんな目の前で行われる二人のやりとりに対抗して、安心させるようにルイズがはやてのおでこに手を置いて、落ち着かせるように軽く撫でる。
「うん?
「うん? 魔法吸収させねーのに、俺っちを使うのかい?」
「せや。包丁でも別にええんやけど、ちゃんと相棒さんにも出番をいれんと~て思うたら、そんな役になってしもたんよ。」
「俺っちを包丁に? うーん、確かにそりゃあワイルドだし……いろいろ汚れそうだな。」
「使う前も使うた後も、もちろん綺麗にしてあげるさかい、引き受けてほしいんやけど……。」
ヴィータの頭をなで終えて、ぐりんと首だけ少し曲げたはやてが、デルフリンガーを見る。
「良いわよ。」
「おい娘っ子、俺はまだうんとは――」
ベッドの近くに置くのは汚いから駄目と、鏡台のある机に立て掛けられたデルフリンガーが悩んでいたが、それを無視して相棒の主が話を進めてしまった。
それでも、だれも解決案が出てない以上、聞いてみる価値はあると思った全員が止めず、ルイズはその話に興味あります的な、くりくりした目で続きを求めてきた。
「話してみなさいはやて。」
「うん。えっとな……私が小さいから料理が出来ないんやから――」
寝転がるはやてを囲むように、五人の少女たちが集まってくる。
――――――
――――
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「それは……確かに成功すれば素敵な出し物になるかもしれませんね、主はやて。」
「使い捨てにならないところも素敵よ、はやてちゃん!」
内容を聞き終えて、シグナムとシャマルがはやてを誉める。
「流石です我が主!」
「お前いつもそればっかりだな、なんか改善案とかねーのかよ。」
「うぐ……そ、そうだな。むむむ……あっ。恐れながら申し上げます、我が主。その、車輪などあると……便利で良いのではないでしょうか。」
続いてリインフォースがテンプレを返し、ヴィータがつっこむと今回はそれで終わらず、返された彼女は更に話を発展させていった。
「おお? それはええなあリインフォース! 確かにそれがあれば……色んなとこで出きるさかい、ピクニックとかにでも持っていって、みんなにあつあつを食べてもらえそうや!」
「はやてのご飯が……ピクニックでも、ですって?」
そして、家族の案におおはしゃぎして喜ぶはやてと、そんなはやてのギガウマ飯にすっかり虜になった主がそこにいる。
「月始め早々にちょっときつい出費だけど……これは悪くない、悪くないわ!」
むしろはやてのご飯はその金に勝ると、ルイズがゴーサインを出して、品評会への準備始まった。
「やれやれ、俺っちの意思は無視かよ相棒……。」
ひとり、彼女たちと違い熱気に充てられていなかった手も足も出せない家族がごちるなか、6人の少女たちは、キャミソール姿のままに続けた長話のせいで肌寒さを感じ始め、二つくっつけた大型ベッドへともぐると、州の字で眠りにつく。
そして、更に月日は経ち、ルイズの十日ぶんのお小遣いを使い作られた"それ"を用いて、はやての品評会の幕が開ける……。
アルビオン編のプロット全然進まなくて……。
暗い話でならすぐに浮かんだのですが……ルイズ、アンリエッタ、はやてたちの関係をなるべくギスギスにしたくないんですよね。
なるべく明るくリリカルマジカルに、動かせればいいなと思っています。