ゼロの使い魔導書   作:すぴんど

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これって、壊れてる。
現実、つまり実際では使い物にならないといわれるパイルバンカーの形を、ナハトヴァールが取るのはなんたる皮肉。
(三次元面にてんで興味を持たないもので、もしも制作スタッフのインタビューとかで似たようなことが書いてあったらごめんなさい。)

そしてやぱいです。闇の書の管制人格の実体化もページ全蒐集が条件でした。
てっきり意志の疎通やら精神リンク同様400Pとばかり。2ndA'sでえらく普通にみんなと話していたのも相まって、暴走前から出て来られると思ってしまっていたようです。

この闇の書はその勘違いしていた設定の400Pで実体化、もしくは完成前のどこかである程度集まると実体化ができる…ということでどうかお願いします。


第5話 現実として今ここにある問題

「なあシグナム。」

 

「断る。」

 

まさに一刀両断。シグナムと、そう呼ばれた赤紫の髪の蛇腹剣使いは、理由も聞かずにヴィータへ拒否を突き付けた。

 

 

 

時は戻って朝。昨晩壁ごと吹っ飛んだおかげで新しくできた大きな窓。そこから届く眩しい日光でルイズは普段より早く目が覚めた。

 

「………。」

 

最後の光景をルイズは思い出して現状を理解した。そう。たしか赤い小さな女の子が、私の部屋の壁を鎚で叩き壊したんだった。

 

ありえない、夢であってほしかったルイズだった。

 

辺りを見回すと、自分の隣にはハヤテがすやすやとかわいい寝息をたてて、未だ夢の中に居る。

 

主より寝ている使い魔なんて…と、不満を抱きかけて、昨日の闇の書がいっていたことを思い返した。ここ数日は死にかけて苦しんでいたのだから、きっと心休めて寝ていられる日々ではなく、ようやく今そうしていられるのだろうと。

 

今日だけなのよ? そう呟いてハヤテの髪を軽く撫でて、視界をベッドの周りにやる。

 

不思議なポーズでひれ伏したはやての使い魔(?)達がそこには居た。なんだか昨日の服とは違う格好をしているように見えるが、思い返せばあれは戦闘服のようにも見える。深く聞くことはやめて話を進めようとしたルイズだった。

 

後にハヤテに聞くと、なんでもあれはハヤテの居た国の中ではかなり上位の、誠意ある謝罪の姿勢。ドゲザというものらしい。

 

「すまねー…何にも知らずにとんでもねーことをしちまった、です。」

 

そう謝罪したのは、昨日部屋で現れたハヤテてより小さい女の子だ。昨晩薄れゆく意識の中で聞こえた名前は、確かヴィータだっただろうか? あらためてよく見る。こんな小さな子が壁を鎚で吹っ飛ばしたというのか。信じられない。昨日さんざん口にした言葉を、心で今度は言ったルイズ。

 

しかしそれはそれとして、他の3人と闇の書はともかく、まだ二桁の歳にも届かないだろう子をいつまでもこんな姿のままにしておくなんて、貴族のすることではないだろう。

 

昨日の恐ろしい気迫も今は感じられない。きっと、私がハヤテの味方であるうちは大丈夫よね? そう信じてルイズは声をかけようとしたが、このとき頭に閃きが走った。

 

昨日までパンクしていたルイズの全ては、休息と睡眠による情報整理を経て正常に戻っている。勉学面では優等生の彼女の頭脳が冴えわたる。

 

この子達ははやてを慕っている。

 

はやては私の使い魔。

 

使い魔だけど使い魔の仕事をとてもではないが任せられそうにない。

 

ルイズの頭上に、自分の精神力ではまだ点けることのできないマジックランプが光った気がした。

 

「いいわよ。そこの紫のアナタもまとめて赦してあげる。顔をあげなさい。」

 

5人の顔がいっせいにルイズを見る。一人亜人が混ざっていたのは驚いたが、大きな問題はないだろう。みんなきっとハヤテが大切で大切でしょうがないのだろうから。

 

「ただし…条件があるわ。」

 

ルイズはようやく本来の調子を取り戻していく。理想の貴族を目指してはいるものの、伝説だの、破滅だの、世界だのとは無縁だった本来の彼女へと返っていく。

 

「あんた達、ハヤテの代わりに私の使い魔としての仕事をこなしなさい。」

 

そう、自分の手足となる使い魔としては頼りないハヤテの代わりを、ヴォルケンリッターと闇の書にやらせようというのだ。

 

「それと、もう闇の書が教えてくれてるとは思うけど例の調査もね。こっちは私も協力するから。」

 

「…わーったよ。」

 

少し不満のありそうな顔でヴィータが言う。さきほどのヴィータを見たとはいえ、正直抵抗されらどうしようという不安もゼロではなかったので、ルイズは一安心と言ったところだ。

 

「でもな、勘違いするなよルイズ。あたしはまだお前を仕えるべき主なんて認めてねーんだからな。」

 

そして早速と仕事を命じようとして、ヴィータに言葉を遮られた。

 

「あたしらに仕事を命じるのはいい。今までだってはやてを助けてきたりしてたんだ。全然構わねーよ、やってやる。」

 

「でも…もしお前がはやてを無碍に扱うっていうのなら、あたしはお前を許さねえ。はやてを助けて貰ったことには感謝しているけど…これだけは絶対だ。」

 

敬語を止めて立ち上がり、ベッドに腰かけているルイズの前に立ったヴィータの視線が彼女を射抜いた。その目は殺気こそ抱いていないが、はやてを大切に思うことからくる強い迫力がある。

 

ヴィータ達ははやてと出会う前まで、ちょうどこのハルケギニアのような魔法のある戦乱の世界で生きていた。それ故の反動と警戒だったのだ。

 

「両手両足ぶっ潰して、とりあえず保護しとくだけでもいいんだからな。忘れんなよ。」

 

ヴィータの態度に少し湧いてきたイライラもどこへやら。威厳も何もかも忘れてルイズはカタカタと震えだす。そんなつもりは毛頭なかったが、ここまでのことを言われて脅されるとは思ってなかった。だるまにされてとりあえず生かされているだけ…考えたくもない。

 

すると突然、にゅっと何処からか伸びて来た手がヴィータの鼻をつまんだ。

 

「ふがっ!?」

 

視線の先にはルイズしか捉えていなかったせいで、突然のことに間抜けな声を上げるヴィータ。

 

「こらヴィータ! なんてこと言うんやまったく…。」

 

いつの間にか起きたはやてが、ルイズの近くまで這って来てヴィータの鼻をつまんでいる。

 

「んぐぅ、ふえぇ…はひゃへぇ。」

 

間抜けな声が、ルイズの怯えをほぐして、温めていく。

 

「そんなこと言わんでも…ルイズお姉ちゃんは私や皆にひどい事なんて、きっとせえへんよ。」

 

自分を立てると同時に助け舟を出してくれたハヤテに感謝しつつ、ルイズは気を取り戻した。

 

「わ、解ってるわよ! 私だって鬼じゃないもの。アンタ達がちゃんとしてくれてるのなら何もしないわよ。」

 

人質とったような言い方やんそれ、と昨日のルイズ=泥棒、もしくは人さらいでピンクに髪を染めた人説を思い出し、笑いそうになるのをこらえてあははと苦笑するはやて。

 

「ほんなら、私もルイズお姉ちゃんにひとつだけお願いをしてもええやろか?」

 

「…言ってみなさい。」

 

テンションが戻ったりびくっとしたりと忙しいルイズ。

 

「あのな? ここは私達の居た世界とは違うから、ちょお無理なお願いなのかもしれんけど―――」

 

前置きを置いて今までの中で一番真面目な顔をして、はやてはルイズにお願いをするのだった。

 

「できれば、みんなを人殺しにせんといてほしいんよ。難しいことやってのは解るけれど…。」

 

それは闇の書の主として覚醒して、大切な家族の未来をこれ以上血で染めたくなかった子の願い。もう二度と、守護騎士たちから聞いた昔のような想いをさせたくない願いだった。

 

「………。」

 

ルイズは困った。確かにこの国トリステインは他と比べれば小国で、資源的なものや人材的なものでは目を付けられにくい。戦争の危機は他国よりは少なめと言えるだろう。とはいえ、戦争がない世界のままという訳にはきっといかない。

 

そしてメイジとその使い魔は戦争が始まると、普段は奉仕してくれていた平民を守るため、あるいは自身の家系と誇りを守るため、杖を取って戦場へと向かわねばならない。果たしてそうなった時、そんなことが出来るのだろうか。なによりも、戦力を持っているのにそのまま国でのうのうといる様なことをするなど、果たして自分にできるだろうか。ルイズは答えが出せそうになかった。

 

「その点に関しましては大丈夫です。とは言えませんが、なんとかしてみせます。主はやて。」

 

シグナムが間へと割って入った。

 

「昨日は挨拶が遅れて申し訳ありません。主の主ヴァリエールよ。私の名前はシグナム。そこの闇の書を除く4人、ヴォルケンリッターの烈火の将で、剣の騎士を務めています。」

 

一切の隠し事なく、自身を司る名前と身分を出してルイズとはやてのふたりの前まで来ると、片膝をついて座るシグナム。その姿はまさに騎士。体ははっきりと女性であるはずなのに、どこか凛々しくて頼もしい。

 

「差支えなければ…私から説明させていただきたいのですが、構いませんか。」

 

このシグナムの発言に無言でうなずいて、許可をルイズが出す。

 

するとシグナムは自身の首飾りにある剣のアクセサリーを手に握り、二人の前へ出すとそれを剣へと変化させた。それは彼女の武器、レヴァンティン。その形は昨日見た鞭のような状態ではなく、まっすぐな剣が鞘へとおさめられている。

 

「これは私たちの世界の魔法の武器で、デバイスというものです。」

 

「この武器を駆使して、私たちは闇の書のページを集めていました。しかし…相手を死なせてしまってはページを集めることはできないのです。ページの蒐集完了後にささいな抵抗をされることもありましたが、軽くいなす程度には留めておきました。」

 

つまりそれは、今まで殺さずに戦っていたということである。そして彼女達が、戦いにおいてそういった加減のできる力量の持ち主であることの証明だ。ルイズはその実力に舌を巻き、はやてはシグナム達が自分との約束を破っていても、それでも最後の所だけは踏みとどまっていたくれたことを喜んだ。相手からページとなる魔力を集め終えた後も殺したりはしていない。その心遣いがとても嬉しかった。

 

「また、昨日の夜の内に闇の書…管制人格から教えてもらったことなのですが、闇の書の蒐集した魔法の中に非殺傷設定なるものがありました。これは簡単に言えば相手の気力や意志のみに攻撃を与えるもので、体は無傷、悪くても打撲程度のダメージで気絶を狙えるものです。術式…魔法の使い方が違うものですので多少の工夫はいると思われますが、習得は問題ないと思われます。直接魔法を当てて相手を薙ぎ払うといった、ひとりで多数の相手にする時はこちらでどうにかすれば大丈夫でしょう。」

 

「我らのデバイスは見ての通り物騒な物なので、直接の打撃にはそういったものをしっかりと完全に込めることはできません。そこは先ほど言った手でどうにかしてみせましょう。この魔法も合わせれば、斬撃でも刺突でもしない限りは、峰打ちのような打撃程度にまでは抑えられるはずです。」

 

淡々と語るシグナム。

 

「主はやて、主の主ヴァリエール。これではいけませんか? もっともこの世界は杖を持って、直接的な魔法の攻撃の形を最上としている世界の様ですから、武器を持って戦う私たちをそこまで困難で酷な任務に充てるとも思えません。ですが、たとえ殺されてでも殺さないことをここに誓いましょう。」

 

説明をし終えてはやてとルイズを見るシグナム。ルイズとしてはもう十二分に満足のいく形で、自身の不安を消してくれたのでもう何も言いたいことはなさそうだ。しかし、どうやらはやての方はそうでもないようだった。

 

「シグナム…ひとつだけ約束してほしい。」

 

「はい。」

 

いつかの夜、シグナムに抱かれて星空を見上げ、一緒に笑いながら言った時とは違う。真剣な目つきではやては彼女へと迫る。

 

「殺されるくらいにどうしようもなくなる前に、逃げてな?」

 

「…解りました。」

 

それはある意味窮地において騎士の誇りを捨てるということ。既に闇の書事件を引き起こしている身であり、そんなものなどもうないと思っていたシグナムだが、主であるはやてに直接そういわれるのはどこか心苦しいものがあった。

 

「絶対に絶対やで! ええか? 今度約束破ったら…本気で私はもうみんなを許さへんからな!?」

 

「誓います。私という存在にかけて。」

 

少し蚊帳の外だったルイズだが、そんなふたりのやりとりをみてほっと息をついた。

 

「はやて、話はそれでいいかしら?」

 

「うん…これなら満足や。ルイズお姉ちゃん、わがまま聞いてくれてありがとな。」

 

はにかむ笑顔で礼を言うはやてに少し照れるルイズ。

 

「私達をどうかよろしくお願いします。」

 

三つ指ついて、先ほどの5人に似た姿勢をするはやての姿がどうしようもなく可愛くて、ぎゅっとルイズが抱きしめた。驚いた顔が1人。照れ隠しをしようとしている顔が1人。笑顔が4人。ちょっと嫉妬が混じってそうな顔が1人。少し複雑な感情が渦巻いているが、そこは概ね平和で、優しい空間になっていた。

 

そんな部屋に、大きな窓…もとい壊れた壁から風が吹き抜ける。

 

「あ。」

 

一斉に全員が現実へと戻されて、荒れ果てた部屋に頭を抱えた。

 

「この部屋、どうしましょう。物質の修復は…私にはちょっと……。」

 

「ああ…本当にすまない。私が何も考えず、お前たちを呼ぶように我が主に言ってしまったばかりに。」

 

謝罪を述べたり、解決策の模索をするヴォルケンリッターと闇の書たち。今更咎めるつもりはなかったが、ルイズは本気でどうしたらいいのか解らず悩んでしまった。

 

とりあえず着替えようにも、こうまで外から丸見えでは流石にそれもできない。

 

仕方がないので、ルイズは昨日パンクする前に学んだことをすることにした。後で考えよう、と。

 

「今は良いわ。すぐどうにか出来るものでもなければ、学園が管理しているものでもあるし。後でちゃんと話しましょう。そうね…事情を知っているオールド・オスマンか、ミスタ・コルベールあたりに説明して、そこから指示を仰ぎましょう。ところでその前に聞きたいのだけど…ヴォルケンリッターってのは、はやての使い魔なの?」

 

一度に多くの経験をして、ひとまわり逞しくなっていたルイズだった。彼女はもうこのくらいでは驚いたりパニックにならず、自分が知らなかった部分を彼女たちに冷静に聞いた。正直気になって仕方がなかったのもある。なにせ始祖ブリミルは4人の使い魔を従えていたという。はやてが呼び出したのも4人、ブリミル教徒にとっては気になるなと言う方が無理だろう。

 

闇の書が簡単に説明を開始する。あくまでも本来は闇の書に紐づいているシステムであり、使い魔や人間とは違うものであると説明。この使い魔と言う呼称に、青い服を着た犬耳の男の亜人が反応していたように見えるが、基本普段は無表情にみえる顔なのでルイズには気付けなかった。またも未知の魔法で、人間のようなものを作り出すなんてと思いこそすれど、もうルイズは驚かない。むしろそれは他の人には言わない方が良いと、説明とアドバイスをしたほどである。

 

「アンタ達、それ絶対他の人に言うんじゃないわよ。はやてへの立ち位置、肩書や名目はそのままでもいいけれど、普通の人間と亜人ということにしておきなさいね。」

 

聞けば聞くほど異端の魔法である。この世界でこんなことを言いまわれば、あっという間に異教徒の異質な魔法と扱われることは間違いないだろう。ブリミル教の聖堂騎士たちが迫ってくるレベルかもしれない。なにより世界を救うために様々なことを調べねばならないのに、世界を敵に回している暇もないだろうし。

 

「心得た。して、我が主はやてと主の主ヴァリエールよ。」

 

亜人の青い服を着ている、このなかの唯一の男性、ザフィーラが口を開いた。

 

「ん? ザフィーラどうかしたん?」

 

はやての応答に亜人の名前を覚えるルイズ。

 

「人手自体は十分どころか、むしろこの部屋には有り余っているように思われます。問題がないようでしたらば私は、普段の主はやてと過ごしていた形態をとらせて頂こうかと思いますが…構いませんでしょうか。」

 

よくわからないルイズと、色々な意味で居づらいだろうと納得したはやて。

 

「せやなぁ…その方がザフィーラ自身にもきっとええやろうしなぁ。お願いするわ。」

 

「…? よくわかんないけれど、はやてが良いって言うのならその方が良さそうなのかしら…見てから考えるわ。」

 

そう言われたザフィーラが光に包まれる。しばらくして光が収まると、そこには一人の亜人ではなく大きな青い狼が、額に綺麗な宝石を携えて座していた。

 

「………そうね、そっちの方がよさそうね。うん、それでいいわ。」

 

ルイズは驚かない。半ば意地になっているような気もしなくもないが。

 

「あと、私のことはルイズって名前の方で読んでもらえるかしら? 家族にいずれ紹介したりした時に混乱を呼びそうだし。シグナムも…ええと、そこのアナタもいいかしら。」

 

この中で一番優しそうな、薄い色をした金髪の女性へとルイズは顔を向ける。

 

「はい、かしこまりました。ああ、私のことはシャマルとお呼びくださいね。ルイズ様。」

 

「シャマルね、解ったわ。さて、と―――」

 

パンパンと手を叩いて、全員の目を自身へと向けたルイズは、ひとまず今できる仕事を使い魔の僕達に命令するのだった。

 

「シャマルと闇の書は私とはやての付き添いね。これからオールド・オスマンに説明する為に会いに行くわ。ヴィータとシグナムは、昨日のあれを見る限り力はありそうよね…洗濯を頼んでもいいかしら。ザフィーラは今はとくにいいわ。ここで待って、吹きさらしなこの部屋から物が盗まれないよう守っててちょうだい。大きな狼がいれば泥棒をしようなんて人はいないでしょうし、ね。」

 

全員に指示をまくし立てていくルイズ。

 

「それと、その前にみんなちょっと壁になってもらってもいいかしら? 昨日そのまま寝ちゃったから…着替えたいのよ。」

 

そういわれて全員でルイズから背を向ける形で円陣を組むヴォルケンリッター。その光景は昨日のはやてを彷彿させるが、彼らの中心で行われているのは魔法の行使ではなく着替えである。ルイズに指示された闇の書が、箪笥から服と下着を持って円陣の中へと入っていった。

 

なんか小学校の着替えみたいやな。自身は体験したことないが、こんな感じではないだろうかと思ったはやて。彼女はいまだベッドの上で寝転んで、楽しそうにみんなを見つめている。

 

しばらくして「もういいわ、ありがとう。」と、声が聞こえて円陣が解かれる。入浴こそできなかったものの、ある程度リフレッシュできたルイズは気を取り直し、しなければならないことへと向かっていった。

 

シグナム達も各々に与えられた役目をする為に、それぞれ動くのだった。

 

しばらくして、洗うように指示されていた洗濯籠を持った二人――シグナムとヴィータは問題に気付いた。

 

「ルイズは洗い場でって言ってたけど…どこだよそれ。」

 

「しまったな。詳しい場所を聞くのを忘れていた。」

 

せめて方角でもわかればなと、しばし悩んでいた二人。少しして、自分たちと同じような籠を抱えている人を見つけた。その人間は籠をたくさん持っていて、顔は見えない。しかし、体型や格好からしておそらくは女性だろう。

 

「そこの御方、すまないが――」

 

「え? わっ…きゃあ!!」

 

話しかけようとしたその籠人間はたいそう驚いたようで、後ずさるも近くの草に足を取られてしまいこけてしまった。

 

「おいおい、大丈夫か?」

 

かけよるシグナムとヴィータ。籠人間はどうやらメイドの様だ。ルイズと比べると肌は黄色く、髪がはやての主治医に似た黒い色をしている。

 

「あー…やっちゃったー。はやくしないと、こんなところを見られたら、貴族様に怒られちゃうわ。」

 

二人に気付いていないのか、せっせと籠の中に入っていたと思われる散らばった貴族たちの服を集めて、洗濯籠へと戻していく黒髪のメイド。

 

原因の一端であるシグナム達はいたたまれない気持ちになって、彼女を手伝い始めた。

 

「あら…? あなたたちは……?」

 

「驚かせてもうしわけなかった、手伝おう。私はシグナムという者で、昨日に貴族のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールに召喚された使い魔の、はやて・八神という人間の従者だ。」

 

あんなワケわかんねーなげー名前を、いちいち良くちゃんと覚えたなぁシグナムのやつ。またこの真面目バカはいちいちさー…と、ろくにルイズの名前を覚えていないヴィータは内心あきれているのか、それとも感心しているのか解らない感想をシグナムへつけた。

 

「ミス・ヴァリエールの…あれ? 苗字? でもミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、確か平民の女の子って聞いたような……あれれ?」

 

「確かにはやては平民だけどさ、それでもあたしらにとっては仕えるに値する主なんだよ。あ、あたしはヴィータ。よろしくな…えっと、メイドのねーちゃん。」

 

こんな子も従者なの? そんな疑問を抱いていたメイドだったが、ふたりが服を集めて籠に戻してくれているのを見て、自分も手を動かし直す。

 

「シエスタと私は言います。このトリステイン魔法学院にて、貴族様のお世話をするメイドをさせていただいております。」

 

「シエスタ? なんだそりゃ、昼寝か? すげー名前だな。」

 

ケタケタと突然笑い始めたヴィータ。なんのことかわからずシエスタが首をかしげていると、ごつんとシグナムがヴィータに拳骨一閃。頭を抱えて120センチあるかどうかの少女はうずくまった。

 

「すまない。私達の居たところでその言葉は…食後の昼寝を意味していてな。気を悪くさせてしまっただろうか。」

 

シエスタが納得すると、特に気にしてないという顔でほほえみを返した。

 

「いえ、大丈夫です。そっかお昼寝かぁ…。あはは、なんだか不思議な感じ。」

 

話しながら全てのばら撒いてしまった服を洗濯籠へ戻し終わると、シエスタはお礼を言って立ち去ろうとする。シグナム達は慌ててそれを呼び止めて、自分たちの用件を伝えるのだった。

 

シエスタの案内を受けて洗い場へたどり着くと、彼女から洗濯板と洗剤を渡される。ふたりは目を丸くした。文明からして洗濯機はないだろうと考えていたが、まさか洗濯板とは。ふたりは勝手がわからず手が止まってしまった。

 

「あはは、春とはいえやっぱりまだ寒いですものね? 頼まれたとはいえ水場の仕事はやりたくない気持ち、わかります。」

 

どうやらシエスタには勘違いされているようだ。

 

しかし、この言葉を聞いてとあることを思い出したヴィータ。にやっと笑ってシグナムに話しかける。

 

「なあシグナム。」

 

「断る。」

 

なにを言いたかったか察したシグナムは、ものすごくバツの悪そうな顔をして問答無用で拒否した。

 

「んだよ、まだなにもいってねーだろ。」

 

「言わなくても解っている。レヴァンティンのことだろう。」

 

ヴィータの顔は笑顔のままだ。

 

「へへ、せいかーい。でもよ、今回は私達の為だけじゃねーぞ?」

 

「…どういう意味だ。」

 

どうやら覚えのあるやり取りらしいと、ふたりをみていながらも洗濯を続けるシエスタ。もっとも、なにをしようとしているかは全く分かっていないようだ。

 

「さっきからあたしら、シエスタのねーちゃんに世話になりっぱなしだろ? ぶつかって洗濯物も一度ばらけさせちまったし。」

 

ピクリ、シグナムの決意が揺らぐ。

 

「で、そんなことをしても怒らないでいてくれて、ここまで案内もしてくれたねーちゃんが寒いって困ってんだ。ここはひとつ恩返しを…ってのが騎士としての筋じゃねーのって、あたしは今思ってんだよ。」

 

ついにはヴィータは歯を出して、にししと笑い始める。少し他の人よりするどそうな犬歯がかわいらしい。しかし、そんな天使のようにも見える笑顔を向けられているシグナムは、どんどん不機嫌に…いや、どちらかというと葛藤している表情の色が強くなっていく。

 

しばらくして、シグナムが珍しく折れた。

 

「すまない、レヴァンティン…。」

 

『お気になさらず。』

 

どこからか聞いたことのない声が聞こえてたじろぐシエスタの前で、シグナムはレヴァンティンを取り出す。先ほどルイズへ見せたとき同様、首かざりのペンダントトップになっていた待機形態を剣の形態に、シュベルトフォルムの形へと変化させる。

 

驚いたシエスタ。流石に洗濯の手は止まってしまったようだ。

 

「今の声はこの剣から…? もしかして、インテリジェンスソードですか!? しかも変形するなんて。シグナムさん…珍しいものをお持ちなのですね。」

 

「…すまない、少しそこから離れていてもらえるだろうか。」

 

シエスタの感想も聞いていないようにふらふらと、ものすごく嫌そうな顔で剣を携えて近寄ってくるシグナムに、シエスタはこわいという3文字の感想だけを抱き、さささっと道をあける。

 

ぎゅっと強くレヴァンティンをシグナムが握ると、剣から炎が噴き出してきた。シエスタはその炎に恐怖を覚え、さらに数歩後ろへ下がる。

 

「…カートリッジは使わんぞ。」

 

「へーへー。」

 

当たり前のことを確認したつもりのシグナムに、適当な相づちを打つヴィータ。そして逆手に持った剣が振り下ろされた。

 

…洗濯物をこれから入れるための、もしくは入れていたであろう水を張った3つのタライに、交互に。

 

どじゅうと、音を立てて火が消え、熱せられた刀身で冷たかった水はお湯へと変わっていく。

 

実はこの水をお湯にする為にレヴァンティンを…という、騎士の命である剣をとんでもないことに使うアイディア。以前にはやての家のお風呂が壊れた時にヴィータが提案し、シグナムにものすごい剣幕で却下されたことなのだ。だが、今回はシグナムの良心を利用してうまくこぎつけたようだ。

 

3つのタライの水が全てお湯に変わると、シグナムはレヴァンティンを即座に待機形態へ戻した。後には哀愁漂う彼女の背中だけがある。

 

シエスタは、そんなシグナムを励まして礼を言うと、ルイズの分も洗濯をしてくれた。ヴィータがこれをだしに今度は蛇腹剣の形態、シュランゲフォルムの紐部分に洗濯物をいれて、刃には熱を持たせて振り回して干したらいいんじゃないかと言ったが、応答の代わりにシグナムの拳が飛んできた。




サウンドステージの風呂ネタはどうしても入れたかったので、ふたりで洗濯へと行ってもらいました。
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