注意! 今回強い差別発言、蔑称が出ます。
…こういうのも残酷な描写なのだろうか。
そもそも肉体の残酷な描写ってなんだろう。首が吹っ飛んだは悩むとしても、指や手が吹っ飛んだ程度はそれって事故や戦闘の致し方ないグロテスクな描写じゃないの? という疑問が。
その傷口に更に刃を突き付けた、とか傷口や落とされた部分を踏みつぶしたとかはもちろん残酷な描写でしょうけれども。
貴族専用の食堂、アルヴィーズ。
はやての食事の用意をとりつけて、彼女の座る車椅子を押してルイズが食堂へと入っていくと、一部の人間から嫌な感情が彼女たちへと向けられた。
それはくすくすと笑う嘲笑だったり、蔑視の視線だったりとさまざまなものであるが、なんとなくはやては自分が原因なんやろなと察したようだ。
「ごめんなさい。ハヤテ、私に向けられるこの視線はいつもの事よ。気にしないで。」
「いやあ…ルイズお姉ちゃん。どちらかというと、きっと私に向けられたものやと思うさかい、かんにんな。」
今日に限ってはそうなのだろう。察している賢いはやてに少し複雑な気持ちになるルイズだった。
「よ…ととと! あかん。この椅子、ちょお高いなぁ。」
はやてをルイズが抱きかかえてあげられるだけの力がない為、彼女は自分で車椅子から食堂の椅子へと移ろうとしている。しかし悲しいことに身長が足りず、もたもたと苦戦している。
小さなルイズですら150センチ――この世界では150サント はある。そんなルイズがちょっとだけ不便に感じる程度の高さの椅子だ。ただでさえ少し低い車椅子からその高い椅子へと移るには、身長が130サント前後しかないはやてが手だけで移るのは難しいことだった。
悪戦苦闘しているはやてを見て、更に周りが笑った様に見える。シグナム達と一緒の方がよかったかしら…? 侯爵家の娘である自分の使い魔であり、彼女たちの主であるはやてにくらいは、美味しいものを食べさせてあげたい。そう思って、貴族しか食べることのできないものがあるこの場所に連れてきたのだが、いささか…いや、かなり軽率だったことをルイズは激しく後悔した。
「およ?」
不意にはやての体が浮いて、食堂の椅子へと上手く移動させられる。そのままふわりと優しく着席させられる。
周りをみると、大きな杖を持った青い髪の、ルイズより小さくはやてよりは大きい少女が杖を掲げて魔法を唱えていた。『浮遊』の魔法――レビテーションをうまくコントロールして助けてくれたようだ。
「あ、えっと…おおきに、ありがとうございます。」
青髪の少女は、はやての礼を受けると、コクリと頷いた後にルイズのすぐ近くの席へと座った。
「えっと…ありがとう。確か、えっとえっと……。」
続けてルイズが礼を言うが、どうやら彼女の名前が思い出せていないようだ。学院内の今いる生徒では最高のトライアングルクラス。その中でもかなり強く、普段寡黙な本ばかり読んでいる同級生。そういう子だということは知っているのだが…。
「タバサ。」
しどろもどろとルイズがしている内に、青髪の少女のタバサは自分から名乗った。
「…ありがとう、タバサ。」
「ほんまに助かりました、タバサさん。」
名前が解ったところで改めてお礼を述べたふたり。そうしていると、タバサの横にキュルケが座る。
「あら? タバサ、あなたが他の人の助けをするなんて…珍しいわね。」
私を除いて…と、最後にキュルケは付け足すが若干失礼な言い方の気がする。タバサ自身は全く気にも留めていないあたり、この程度の会話は茶飯事なのかもしれない。それは、ふたりがそれだけ気にせずに話し合えるほど打ち明けている証でもある。
「彼女…ルイズの使い魔のハヤテが気になるの?」
「ハヤテ…あの子の名前?」
名前すら知らなかった平民を助けたのかと、本当に珍しいものを見たという顔をするキュルケ。逆に言えばそれだけの関心があの子にはあるということか。
「私が興味があるのは…ハヤテの本。」
「ああ…確かに。人間が出てきた本なんて聞いたことないものね。本が大好きなアナタなら当然かしら。」
ハヤテの本。銀髪の少女が出てきたどころか、更に何人か出てきたらしい本。確かにキュルケにとっても興味の尽きないマジックアイテムだ。タバサにそのことを伝えると彼女の目が少し開いた。彼女の親友であるキュルケでさえ、普段は仮面なんじゃないかと思えるほど表情の変化に乏しいタバサの顔。彼女がここまで表情を出すことは、十分に驚きに値することだった。
キュルケは、今日はびっくりすることばかりねと思いつつ、自分の席にあるタバサの好物のハシバミ草のサラダを渡した。すると彼女は普段の表情へと戻り、考えるのをひとまずやめたのか。もぐもぐ、むしゃむしゃと一心にそれを食べ始めたのだった。とっくに朝の祈りの時間を過ぎて食事の時間は始まっていたようだ。
はやてが少し不慣れな手つきで、ナイフとフォークを使って食べ物を口に運ぶ。塩の効いた鶏肉の味と、香草のいい香りが口の中で静かに広って、思わず感嘆の声を上げる。
「はぁ~…なかなかの御点前で。うーん、これはピンクペッパーかなぁ? 隠し味は…杏子、いやリンゴやろか? 私ならもう少し……むぅ。」
と、料理を分析し始めるはやてを見てルイズ達の手と声が止まった。10歳にも満たない平民が、恐らく初めて食べたであろう貴族の料理を冷静に、真剣な表情で分析している。
信じられない光景に、くすくすと嘲笑っていた人たちさえ声が出ない。それどころかはしたなくフォークやナイフを落としている者までいる始末だ。
静かになった食堂の中には、もうはやてを笑う者はいなかった。奇異の目は変わりはしないし、全ての人間がたったそれだけで、一人の平民の少女を完全に認めることなど、この世界ではありえないのだが。
その食堂の厨房からもうひとり、驚愕の表情で顔を染めている人間がいた。鼻息が荒い。
「おお…本当にすげぇなお前らんとこの主様は! 俺の料理の隠し味に気づいて意見できた奴なんて、この厨房にも貴族の奴らにも…いや、過去に今まで一人としていなかったぜ!!」
この料理の調理をした本人。厨房のコック長、マルトーである。
「だから言ったろ? マルトーのおっちゃん。はやては料理の知識と腕、すげーんだよ。おっちゃんにも負けねーって。」
「へっ! 俺だってまだ全てを見せたわけじゃあないんだぜおチビ。とはいえ…今度一度あの子と料理の話をしてみてえもんだぜ。あの若さであの舌、ここの厨房に立てそうにないのが本当に勿体ねえ――」
この厨房は大きく、完全に大人用である。食堂の椅子もそうだがこの世界にバリアフリーなどという言葉はない。はやてがもしこの厨房で料理をしようというものならば、誰かに抱きかかえてもらうか、先ほどのように『浮遊』の魔法をかけてもらわなければ無理だろう。
それはそうと、マルトーは最後まで言葉を言い終えることができなかった。ヴィータの拳が彼の顎に斜めからクリーンヒットしていたからである。脳を揺さぶられて、彼の意識は深い闇へと落ちて行った。
ヴィータにチビは禁句なのだ。もちろんヴィータもここまでするつもりはなかったのだが、いい角度に入りすぎた。
厨房の料理人達は、この子も主同様ただ者じゃないなと思ったのだった。
「ハヤテ、あなた…料理が得意なの?」
食事を終えてシャマルが戻り、はやての車椅子を押している。今いるのはオスマンのもとへと向かった時のメンバーから、闇の書を除いた3人だ。ヴィータはマルトーを気絶させたことで罰として、シエスタたちの手伝い。シグナムは連帯責任で昼食の料理の為の薪割り。ザフィーラは相変わらず部屋の番をしていて、闇の書はそれのつきそいだ。正座で。
「うん。向こうに居たときは私がみんなの料理、毎日三食作ってあげてたんよ。でも私は立つことが出来んから、ここの厨房は私が使えるよう改造されたりしてるわけでもないやろうし。う~ん、ちょっとばかし借りて何か作るってのはできんかもなあ。」
ルイズお姉ちゃんにもいつか食べてみて欲しいんやけど…。なんて、ぽりぽりと頬をかいて照れながら笑うはやて。嬉しいことを言ってくれるなと思うルイズの顔がほころぶ。
「大丈夫よ。いつかなんとかしてみせるわ。」
ぽんとはやての肩に手を置いてしゃがみ、自身の視線の高さをはやての顔に合わせるルイズ。
「その時は美味しいお菓子でもよろしくお願いするわね。」
優しく微笑みかけてはやての顔を見るルイズに、ぱあっと笑顔になるはやて。やはりかわいい。一時期欲しかった妹のようにどんどん思えてくるこの子は、ある意味では私にふさわしい使い魔なのかもしれない。そんなことを思いながらルイズは授業のある教室への扉を開いた。
ルイズとはやてにシャマル、三人が教室へ入ると何人かの生徒がこちらをみて笑った。またか…。自分にはもう慣れたものだがはやては大丈夫だろうか? ルイズが後ろを振り返ると、シャマルが車椅子から降ろして机に座らせている。はやては表情を見る限りは特に気にもしていないようで少し安心した。
はやては特に魔法の知識はもってなかったが、これから起きることと周りに興味津々のようだ。なにせ休学で行けなくなっていた学校の授業が受けられるのである。どんな内容であるか以前に、こうした雰囲気にわくわくが止まらないのであろう。
使い魔たちは生徒から少し離れた教室の後ろの方でまとめて静かに待機している。ハルケギニアの人々にとってはよく見る生物ばかりだが、地球出身のはやてにとっては、未知の生物同然で見逃せない対象ばかりだ。彼女の料理とは別の趣味である読書。その趣味が高じて、図書館や本屋で読んだ様々な物語でしか知らない生き物たちが、今現実に彼女の目の前に居たのだからそれはとても心の弾む体験だろう。
空飛ぶ目玉のバグベアーの様な、奇怪な生き物を見たときはさすがに少し体がこわばっていたようにも見えたが、そんなびっくりよりも好奇心の方が強いようだ。
そして、顔には出さないが少し申し訳ない気持ちになっていた。こういった生き物が本来の使い魔であるとするのならば、私はかなり珍しくて、何より弱い使い魔なのだろうと。シグナム達はとても強いと思うけれど、呼び出されたのはあくまで自分なのだと、はやての心に少し影が差した。
はやてが表面上は目をきらきらさせて色々と見ていると、教室の前方の扉が開き、ふくよかな優しい雰囲気をした中年の女性が入ってきた。さつまいも色のローブと、いかにも魔女ですといった感じのつばの広い帽子を被っている。おそらく、今から始まるであろう授業の先生だとはやては思った。
教師と思われる女性は、教壇にまで来ると生徒たちを眺める。そして最後に使い魔たちの居た場所を一瞥して、多くの教え子たちが無事進級できたのを確認すると満足したのか、うんうんと頷いた後に口を開いた。
「はじめまして、おはようございます皆さん。ふふふ…春の使い魔召喚の儀式はどうやら大成功のようですね。わたくし、このシュヴルーズはこうして春の新学期、この最初の授業で使い魔たちを見るのがとても楽しみなのですよ。」
先生の名前はどうやらシュヴルーズさんというらしい。そうはやてが先生を見ていると、こちらを彼女も見ている。目があった気がして、ついお辞儀を返した。
「話には聞いておりましたが、ほんとうに不思議な使い魔を召喚したものですねミス・ヴァリエール。使い魔さんも、先ほどの食堂での料理の感想はお見事でした。」
コック長が舌を巻いておりましたよと言って、シュヴルーズが笑う。そんなことを言われてルイズとはやてが照れながら喜んでいると、どこからか声が飛んできた。
「ゼロのルイズ! 召喚できないからって、その辺にいる平民を連れてくるなよ!」
「しかもかたわの女の子! 従者までわざわざ連れてきて世話させやがって! ちょっと料理に造詣があるからってそんな子が何になるってんだ!!」
彼らは、はやての隣に座るシャマルをヴァリエール家の従者と勘違いした挙句、先生に褒められた平民が気に入らないようだ。恐らくはやてだけでなく、その主であるルイズが褒められることも気に食わない生徒たちなのだろう。彼女を利用し、そのままルイズをも貶したいような感情が見て取れる。
ルイズはギッと相手を睨もうとしたが、先にはやてが視界に入って時が止まった。
「…大丈夫やで? ルイズお姉ちゃん……。向こうでも子供とかにそんなこと、言われたりしてたから…な?」
そういうはやての姿は周りの嘲笑に怯え、肩をぎゅっと抱いている。何が大丈夫なものだろうか。
「はは…かたわなんて言葉、こっちの世界にも…あ、あるんやなぁ。」
心なしかはやての青い瞳がうるんでいるようにも見えた。
「やーね、ほんと。自慢ならともかく人を見下す方向でしか自身を高められないのかしら。」
「…あなたもたまにルイズに。」
後ろの席から声が聞こえてくる。キュルケとタバサだ。先ほどのキュルケの失礼な発言に対するあてつけだろうか、今度はタバサが何気にひどいことを言っている。いや、事実な面も今朝のルイズとキュルケのやり取りから察するにあるのだろう。
しかし、今のルイズにはそんなことは気にしている余裕はなかった。ふつふつと怒りがわいてくる。
ルイズにははっきりと感じ取れていた。彼らは、はやてを利用して自身を貶そうとしている。そして情けなかった。自分のために利用されたはやてを助けられないことが。…本当にそうなのだろうか。
「………。」
シャマルの両手に指輪が現れる。その顔はオールド・オスマンの時のような笑顔ではない。はっきりとわかる明確な怒りが彼女の瞳には宿っていた。
「クラール――」
シャマルがなにかをしようとしたところをルイズが制する。そして…
ダァンッ
怪我を顧みないすさまじい勢いでルイズは机に拳を叩きつけた。実際にその手からは血が流れている。強く握りすぎた手のひらを、叩きつけた拍子に爪で傷つけているようだ。
あまりの光景に全員が息を呑んだ。はやてとシャマルも、キュルケとタバサも、諌めようとしていたシュヴルーズも…下卑たことを言う生徒たちも。
「アンタ達…恥ずかしくないのかしら?」
「なんだと…ゼロの癖に偉そうに!」
ぽたぽたと手から流れる血も拭わずにルイズは反撃に出る。大切な使い魔を自身のせいで貶されてたまるものか。
「私を貶すために、こんな幼くて体も不自由なのに一生懸命に生きている子を傷つけて…それが貴族の正しい姿だと胸を張って言えるの?」
「…っ!」
瞳に怒気を強く…強く。シャマルの瞳に宿ったものにも負けない程の目で、貶した生徒たちを見るルイズ。
そんなルイズの必死の形相に、自身の方が魔法で優れているのに、どうしてあいつらが褒められているんだ。そんな自尊心と嫉妬心からちょっかいを出した生徒たちはたじろいだ。
「もう一度言うわ。そう思えるのならば…アンタたちは今日の出来事を手紙に書いて親に言ってみなさい。素晴らしいことをしたって、アンタたちの家に誇ってみなさいよ!!」
ルイズは認めたくなかった。こんな奴らが貴族だなんて、そんな貴族の風上にも置けないやつらに自分が屈服するなんて。そんなことがあっていいわけがない。
「確かに私は貴方たちに負けてる点はあるわよ! …でもね?」
「あんたたちの気持ちの満足の為だけに! 私の使い魔であるハヤテを利用することは…主人であるこの私が絶っっっっ対に許さないわっ!!」
怒りが爆発する。もはやルイズに対して何かを言える者は教室に居なかった。
自身の家と誇り。それをかけてみろと言われて、なお今の発言を正しいと言える者も、続けられる者も居ない。貶した者たちでさえ最低限の矜持と人としてのモラルはあったようだ。
静寂の中、そっと…。ルイズの手を誰かが取った。
「ありがとうな…ルイズお姉ちゃん。」
その手を頬へと寄せるはやて。
「ほんまに…ほんまにな……。」
彼女の目からこぼれた涙が、ルイズの手に触れて時が戻る。
「…おほん。ミス・ヴァリエール、あなたの言う通りです。」
「貴族同士のお友達を、クラスメイトを貶すなど貴族にあるまじき行為です。それが正しいと言えるのであれば、彼女の言うようにお家(いえ)に私がお伝えしましょう。授業の後に申し出なさい。」
シュヴルーズが説教を生徒たちにし終えたところで、授業は開始された。
ルイズの世界の魔法の講義が始まる。この世界の魔法は四つの属性、火、水、風、地と、今はもう失われた虚無。その合計5つの属性で成り立っているらしい。
授業の内容としては前学年の復習のようだが、はやてやシャマル達には都合がよかった。
しばらくして、血の匂いがいまだにするルイズの手をシャマルが見つめていた。
「ルイズ様、こんなにもはやてちゃんのことを…ありがとうございます。」
「別に…主人として当然のことをしたまでよ。」
授業の途中、シャマルが重ねてルイズに礼を告げた。
「ううん、そないなことない。格好良かったで? ルイズお姉ちゃん。」
「はやてまで…もういいから……。あ痛っ!」
気にしない振りをして授業の内容を筆記し続けていたルイズだったが、興奮が収まり傷の痛みを強く感じ始めた。
改めてみるとかなり痛々しい。傷の幅こそ大きくはないが、怒り猛っていた間ずっと拳を握りしめていたせいだろうか。かなり傷は深そうだ。
よくみると、羊皮紙のところどころにも血が付いている。しかし、それでもルイズは構わなかった。ある意味これは自分の身を護り、使い魔とその従者に彼女の威厳も見せられた勲章だ。
「あらら…あかん。シャマル、お願い。」
「はい、はやてちゃん。ルイズ様…手をはやてちゃんの膝に。」
はやてを挟んで座っているために届かないのか、シャマルが手を伸ばすように促す。
軟膏でも塗ってくれるのだろうかと、きょとんとした顔のままにはやての膝へ手を置く。するとシャマルがその手を握り、はやてが背を軽く丸めた。
「こんくらいでええか?」
「ええ、これなら周りから見えないでしょう…風よ、癒しの恵みを運んで。」
シャマルがそう言い終えると、クラールヴィントから淡い光が一瞬だけ漏れて、ルイズの手のひらにはらはらと降り注いだ。そしてみるみるうちに傷が塞がり、痛みが引いていく。
「わ!! なななな…何!?」
少ししてはやてが背を戻すと、彼女の膝の上に置いていたルイズの手のひらの傷が、一つ残らず綺麗さっぱりと消えていた。ルイズは手を閉じたり開いたりすると、痛みも何も残ってはいない。
「あんた…。」
「湖の騎士シャマルと…風のリング、クラールヴィント。癒しと補助が本領です♪」
ルイズは半日ぶり程にはやて達の魔法に驚いた。なぜなら、はやてを慕っている面々の魔法は昨晩のも、学院長室のも、失礼な言い方だが今まで物騒なのしか見たことがなかったから。治癒魔法なんてあるとは思っていなかったようだ。
ましてやルイズの頭にある中の風の属性とは、自身の母親を象徴するモノであり、司っているイメージは攻撃。それもすべてをなぎ倒し吹き飛ばす程の魔法であり、癒しを司る魔法は水の属性なのだ。
「ヴォルケンリッターってこんなことも出来るのね。全員合わせたらまるでそれだけでひとつの軍隊みたい。なんにせよありがとう、助かったわ。」
「いえいえ、私達を守ってくれた主の主様にささやかですがお返しです。さ、前を見ましょう? あまり騒がれていますと――」
怒られますよ? そう言おうとしたが既に遅かったようだ。渋い顔をしてシュヴルーズがこちらを見ている。
「ミス・ヴァリエール、先ほどの貴女はとても凛としていて素晴らしかったというのに…授業中にお喋りとは。」
ルイズは申し訳ない顔をした。これではさっきの自分に顔向けができない。
「今一度戒めなさい。そうですね、『錬金』の実演を貴女にやっていただきましょうか。」
たらり。ルイズから汗がこぼれる。どうしよう…せっかく使い魔たちへの信頼と、貴族としての姿勢を見せられたというのに…まずい。このままでは再びイメージを地に落としかねない。
そんなルイズを見て、さっきの立ち振る舞いに免じて助け舟を出そうとしたキュルケ。
「先生、ええと…ヴァリエールを教えるのは今日が初めてでしたわよね? 危険ですわ。」
「なにをおっしゃるのです。『錬金』の呪文に危険などあるわけがないでしょう。」
常識で語るシュヴルーズは知らない。ルイズはその常識の外の存在だということを。
そしてキュルケは知らない。彼女にこんなことを言われたせいで、ルイズは逆にやる気が沸いてきていることを。
「ミス・ヴァリエールは実技以外は非常に優れた生徒と聞いております。そして先ほどの貴族らしき素晴らしき姿勢。彼女に出来ぬはずがありません。」
それゆえの戒めの儀式にすぎないと、シュヴルーズまでもが煽り立てた。こうなってしまっては…貴族としてプライドの高いルイズがどう動くかなど、もはや自明の理である。
「私、やります!」
ルイズは立ち上がる。そうだ、ハヤテを召喚することだってできたじゃないの! 今の私はもう『ゼロのルイズ』なんかじゃないんだから出来るわよ! そう思って教壇へと向かっていく。そこには小石が3つ置いてあった。
「やめてルイズ!」
慌てたキュルケはここにきてようやく理解した。しまった、焚き付けたか…! と。
そしてもうこうなってしまっては、ルイズはテコでも動かない。仕方がないのでせめて、彼女の使い魔には被害が出ないようにしようと避難を促した。
「あなたたち、隠れた方がいいわよ…吹っ飛ぶから。」
吹っ飛ぶ、いったい何がだろうと顔を見合わせるはやてとシャマル。しかし、よく見ると周りの生徒全てが机の下に避難を始めている。まるで避難訓練ってやつみたいやなあと思いつつも、ルイズを自分より良く知る人間たちがああしているのだ。それに倣った方が良いだろうと結論づけて、シャマルに抱えられて机の下へと避難した。
しばらくして、ルイズが意を決して錬金の魔法を唱えると―――
どっかーーーん
とても錬金とは思えない結果である爆発が巻き起こった。
「わわわ…なんやのこれ!?」
ひょこっと顔を出したはやてはあまりの惨状に驚いた。教壇は文字通り木端微塵にはじけ飛び、シュヴルーズは煤だらけで気絶している。大切な主のルイズは…煤を被っているが特に命に問題はなさそうだ。代わりに心にダメージを受けたのか、がっくりとうなだれている。
「ルイズはね、魔法が出来ないのよ。系統魔法どころかどんなコモンマジック、今朝のあなたが受けた『浮遊』とかですら失敗して爆発させてしまうのよ。」
「だから…『ゼロのルイズ』。」
キュルケとタバサがはやてへと解説を入れた。魔法成功率ゼロのルイズ――それが私のご主人様。
「ルイズお姉ちゃんも、私と同じなんやなあ。」
そうはやては思った。
はやては足が動かすことが出来ない。それはつまり、人間が普通なら出来ることが出来ないということだ。
ルイズは魔法を正しく使うことが出来ない。それはつまり、貴族が普通なら出来ることが出来ないということだ。
ふたりはとても似ている。
そして更に一歩先に、はやては考えを巡らせるのだった。
身内に言いつけるぞ! 一見すると凄く子供っぽいことですが、背負うものが生まれた人間には老若男女問わずとても効果のある魔法の言葉です。良くも悪くも。
シリアスな話はここまでにして、
*中学生です とか *高校生です みたいに現在言われてる子の体格より大きく見えているけど、
アニメスタッフの作画資料っぽい画像見ると、StSになってもはやてちゃんが恐らく作中のルイズの身長追い越していないという事実。
はやての料理の腕をどの領域にするか悩みますね。現代の知識と器具あってこそという部分もゼロではないでしょうし、その知識を授けられたマルトーさんはさらなる高みに行くことでしょうし…。
しかしうちのルイズはツンがどこにもないなぁ…。あとシュヴールズ先生はルイズだけ初めてというより2年担当ってことだよね? と、ずっと疑問を…。