少し前にがーっと投稿しといてこの間。続きを期待してくれた方、いきなり時間が空きましてすみません。
次へ次へと進めてテンプレは済ませたいものですが…9話でようやくミスタ・チュートリアル、もといギーシュさんが終わりそうです…。
二次やアニメのギーシュのあの引っ込みがつかない時や、いざ自分自身が渦中の人となると、冷静にしっかりとした対応が出来な点が、
非常に青春世代らしくていいなと思う反面、それで暴力や権力で人に当たったらダメだろうと思えるのがなんともかんとも。
…地球基準だと高校生ではなく大学生になっている可能性があるので、いささか幼い気もしなくもありませんが。
ギーシュさんにシエスタが香水を拾うパターンのテンプレの便利さがすごい。
本当はここまで器が小さいわけじゃないのに小さくしてごめんねギーシュ。
でも本命がマジ泣きしたらこうなると思ったし、モンモランシーも一年近く付き合ってたのならこうなると思うから…こうしちゃった。
ルイズが普段以上に気合の入った魔法を放ったせいか、爆心地に居たシュヴルーズが頭上に鳥や星を飛ばしたまま返って来そうにない為、授業は中止となった。
シュヴルーズ本人からは気絶していたので何もなかったが、ルイズは教員たちから罰として破損した教室の後片付けと、新しい教壇の搬入を言い渡されてしまう。
もちろん、そんなことを小さなルイズ一人でやるにはいささか大変、というより教壇を持つこと自体に無理があるので、シャマルが手伝いを名乗り出てくれた。
はやては何もできない…というわけではないが、流石に教壇の移動を手伝うのは無理なのでシャマルに任せている。
しかし…はやてはそのまま見ているような子でもない。普通の人のように動くことは出来ないが、ほうきを持ち、床に散らばった木片を自身に出来る範囲で集めようと頑張っていた。
「ほいほいー、さっさっさっと…うーん、流石に掃除機が全く使えないというのはきついなぁ。」
とはいえ、はやてにとって掃除機という文明の利器は、車椅子で扱うにはいささか不便なもので、コードが絡みかけたりと面倒な面もある。
コードレスなものだと、今度は取っ手より先が小学生の彼女の手には重い。その為、地球に居た頃も部屋を全て掃除機で掃除していたわけでもなかった。一人の頃はある程度ほうきやモップみたいなタイプのものを使った掃除もしていたのである。
ルン〇゛とかクイック〇ワイパーがあっても、ここは石の床やからやりにくいしなぁ…と、ハルケギニア人にはなじみの薄い単語をぶつぶつと言いながらも、原因のルイズには文句を言うどころか、まったく触れずに作業を進めるはやて。
そんな扱いと彼女の姿勢にいたたまれなくなったのか、ルイズからはやてに声をかけてきた。
「ごめんなさいね、頼りの無い主人で…。」
「え? なんのこと?」
まったく気にしてなかった感じなはやてのきょとんとした顔が、かえってルイズに悲しみの感情を湧き立たせていく。
「こうやって、いつも魔法を爆発させて…失敗しかしてないことよ……。」
「もうキュルケ達に聞いてるかもしれないけど、これが『ゼロのルイズ』って私が呼ばれている理由なの。」
だんだんと声色がくぐもったものへと変わっていく。少しして、すんすんと鼻を鳴らしてルイズは語り始めた。
「生まれてしばらくして、魔法を習うようになってからずっとこうなのよ…! なんで? どうしてよ!? どうして私はいつも…いつも爆発ばかりで……。」
聞いてほしいのではなく、そう叫ばないと心が耐えられないかのような彼女の姿。それは普段誰にも見せないひとりの小さな少女、そんなルイズとしての姿で、酷く儚く見える。
「何が「貴族として恥ずかしくないの?」 よ! よくも言えたものだわホント…魔法を使えない私だって――」
「あいつらと…おんなじよ! 私は…ぐすっ、私はぁ……っ!!」
矢継ぎ早に叫んでいるルイズは、自身の中にたまった感情があふれ出て止まらないようだ。
やがて自虐へと変わっていった自身の言葉によって、頬から涙がこぼれ落ちていく。
「そないなこと、ない。」
その言葉でルイズが泣いていた目を開けると、いつの間にかはやてがルイズを見上げるようにして、目の前に居る。
「さっきの意地悪な人たちと、ルイズお姉ちゃんが同じだなんてこと…絶対ない。」
たとえそれが貴族を定義づけるものだとしても、根幹としては絶対に違うとはやては感じていた。
「それに…きっとルイズお姉ちゃんは私と同じなだけや。」
「ハヤテと…おんなじ? 良く、ぐす…解らないわ。」
はやての言葉の意味が解らなくて、ルイズの感情が悲しみから疑問へと逸れていく。そんなルイズの頬を伝う涙を、はやては手を伸ばしてハンカチで拭いてあげてから、優しく彼女の両手を握った。
「私は、足が動かへん。人としてはポンコツさんや。ルイズお姉ちゃんも、魔法が使えへん……似てるやろ?」
それを聞いて、暗にポンコツと言われたことで怒りへと変わろうとするルイズの顔と心を、はやてが握る手の力を強めて止める。
「せやけど…似てるからこそ、それにはきっと理由がある。」
「…理由?」
そうやって目と目を合わせたはやての瞳には、お互い大変だというような憐れみでも、そんな自分たちへの諦観でもなかった。彼女の瞳は希望を見据えているかのようで、とても頼もしい。
ルイズは思わず息をのんだ。はやてのこの顔も、おおらかな彼女が見せるとは思えない力強い表情と姿だったから。平民らしからぬその顔は、昨日の夜の時ともまた違う、強い心を持つ彼女の一面だった。
「そう。私も足が動かん理由は…最初は何もわからんかった。神経が麻痺してるからてお医者さんたちは言うんやけど、そうなる理由が解らんかったんや。脳に異常があるんでもない、体にあるんでもない。なのに…まったくうごかせへん。普通の人の神経の麻痺なら、外からの接触やらで痙攣やなんらかの反応があるはず。なのにどんな治療や検査をしても、それすらあらへん。」
自分の足の過去を振り返って、ルイズに教えていくはやての声は、その青い瞳に比べて少しだけどこか弱く聞こえる。
「神経が私の足に無いんならそれもわかるけど、そんなわけでもない。正直諦めとったよ…自分の足は『普通の不自由』じゃない。どんなことしてもきっと直らんって、そう思っとったんよ。」
語るはやての顔が、声と共にどこか昏くなっていく。しかしそんな感情を吹き飛ばして、すぐにまた先ほどの力強いものへと変わっていった。今度の顔には少し余裕があるのか、口許には笑みも携えている。
「でも原因はあったんや。ここに来てからみんなが教えてくれた。私の足は…闇の書のせいで動けなくなっとったんやって。」
そういえばまだみんなが隠してたこと、どたばた騒ぎ続きで怒っとらんかったなぁ…。と、雰囲気を少し和ませるように顔全体で笑ったはやて。
「ルイズお姉ちゃん、私が起きてから色々話してくれた時に言うとったやん? 使い魔は召喚した主にふさわしい者が呼ばれるって。…自惚れかもなんやけど、せやったら私はきっとふさわしい使い魔なんやって、今日のこの話を聞いて思えたんや。」
これが確信だと思っているはやての声が、力強かったモノから優しいモノへと変わっていく。
「似た境遇の私が呼び出されたのは、ルイズお姉ちゃんも違うんよって、そう言ってあげられるのが…同じような理不尽に悩まされてた私がここに居る理由なんやないかなぁ。」
そんな理由でと、普通の貴族なら思うだろう。しかし、ルイズにとってその言葉はとても大切で、一番欲しているものだ。失敗の原因は自分にあると言われ続け、自身でもそう思い続けて、八方塞がりとなっても未だもがき続けているルイズ。そんな彼女にどんな形でも新しい考えを示してくれたはやては、まさに彼女にふさわしい使い魔なのだろう。
「私には魔法のことはようわからへん。でもきっと、その不自由にも何か原因がある。お姉ちゃんにふさわしい使い魔の私がそうなのに、ご主人様がそうじゃないワケないやん。…どやろ? ちょっと無理やりな考え方かもしれんけど、そう考えたら心が楽にならへんか?」
そう言ってルイズの体をぐいっとひいて、彼女の顔を胸に抱き寄せるはやて。はやての薄い入院服の奥にある胸の暖かさが、ルイズの心を静めて、温める。
「ふふ…もしかしたらやけど、私みたいに全く関係ない所に理由があるかもしれへんよ? それにな…ルイズお姉ちゃん。」
頭をぽんぽんと軽く叩きながら撫でる、そんなはやての手が今のルイズには心地いい。
「私なら少しだけ気持ちを分かってあげられる。ふたりでならこうやって出来ることもある。これからは一人やない、私が一緒に悩めるし考えてあげられる。きっと私の騎士達も力になって、いつかは理由を見つけてくれる…。理由が解れば直し方も解ると思うし、いつか解決できると私は信じてる。」
はやての言葉は確かにちょっと結果ありきな気がしなくもない。それでも、それでもルイズが縋るには十分に値する理由だった。
「だから…元気出してな?」
そんな最後の言葉を聞いたルイズの涙が、冷たいものから温かいものへと変わっていった。
「あれは…ただの爆破じゃないんじゃないかしら。」
ルイズが落ち着いて片づけを再開してからしばらくすると、シャマルが疑問をあげてきた。
「どういうこと?」
「私も目で見ていたわけでもないし、まだ一回しか経験してないので推測でしかないのですけど……。」
そう少し苦笑いをして、シャマルはあの爆発の時に体感した魔法について語り始める。
「ルイズ様の爆発魔法、なんだか不思議なカンジなんですよね。私にもなんて言ったら良いか解んないんですけど、結界破壊のような魔力を感じたといいますか…うーん、うまく説明できないわ。」
その言ってあごに人差し指をあてて、軽く上を向いて考え込んでしまうシャマル。
少しして、伝えられることをとりあえずの範囲でまとめていき、ルイズの方を向いて、持論を再び投げ掛けるのだった。
「とにかく、ただの魔力――、こっちだと精神力かしら。それが暴走しているってわけではなさそうで、指向性があるって言ったら良いのでしょうか? もしくは強制力のような…。ええと、ええと……。」
しかし、そんな持論もいまいちあやふやで要領を得ない。そんなシャマルへ、ルイズは話の内容を絞り込んでいく為に、まずは自分の知らないことを聞きこんでいく。
「結界破壊って何のこと?」
「あ、そうでした。この世界には結界魔法はないんだったわ。ええと、こっちだと該当するものは…そうですね、固定化でしょうか? あれもある意味対象を内側に入れる結界魔法、私達のは封鎖領域というのですが、それに近いものと思われます。」
固定化は、物質の老朽化や破損を防止するためのハルケギニアの魔法である。力の強いメイジがかけたり、複数人でかけるほどより堅牢で、隙間やムラのないものとなっていく。
封鎖領域は、ヴォルケンリッターが行使するベルカ式の魔法の一つ。目的とした対象をその結果内に残し、他の干渉を排除する。ある程度力のある魔導師ならば入ってくることは難しくはないが、結界を破壊して脱出することは非常に難しい。
「以前結界破壊の魔法が出来る子を見たことがあるのですが、結界破壊にはかなりの力と複雑な術式が必要なんです。先ほど言いましたように、まだ実際に試したわけではないので確証はありませんが…ルイズ様の爆発の失敗は、ひょっとしたらですけどすごい力か能力を秘めている可能性があります。」
その桃色の結界破壊の魔法を放った子は、以前魔法のトレーニング中に全く別の理由で改良を試みていただけなので、ある意味直感でそれを完成させたのだが…それはこの話と関係ない為置いておく。
「なんだか…複雑だわ。特別かもしれないって言われて嬉しいのは本当だけど、どっちにしろ私が普通に魔法を使えないのと、周りからは失敗扱いなのは変わらないんだし。」
でも、とりあえずもう少し何かわかったら、両親の手紙に書いて送ってみよう。解決のヒントにつながるかも……。そう思ったルイズだった。
「ふう…どっちにしても今は考えてもしょうがないわね。」
「ん~…あとは教壇だけね。シャマル、手伝ってちょうだい。」
シャマルは学生の机のまわりを、はやてが黒板周りの広場を。ルイズが通路をほうきで掃いて木片は集め終わり、部屋の外に置いておいた教壇を入れてあとは終わりだ。
「よいしょっと……。」
「ちょ、ちょっと! もうちょっと低くして…うぐぐ。」
二人のアンバランスな身長では多少共同作業に難があったようだが、無事罰掃除を遂行し、一同は疲れを分かち合うかのように一斉に息を吐いた。
「はー、これで完璧ね。ああ…やだもう! お昼の時間どころか昼食後のお茶の時間も過ぎてるじゃない!! ごめんなさいね、ハヤテもシャマルもこんなに遅くまで。それに…ありがとう。」
照れながら礼を言うルイズは、どこか可愛らしさと元気を取り戻しており、先程の儚さはもうなかった。
むしろ元気も取り戻していたようで、恥ずかしい姿を見せていた内に自分の好物を食べ損ねていたことを、少し残念がる余裕すらあった。
ちなみに、別に食い意地を張ったわけではなく、はやてにもあの味を知って欲しかったのである。
「あはは、ええよええよ。でも、一仕事した後やしお腹すいたなぁ。」
「そうね。不本意だけど、授業中にお腹でも鳴ろうものなら大恥だし…文字通り背に腹は代えられないわ。」
賄いか何かならまだあると思うし、それをもらいに行きましょうと言って、食堂へ向かいにルイズがはやての車椅子を押して部屋から出ようとする。
「それは確かに女の子としては恥ずかしいなぁ。ほな行こか? シャマルも…シャマル?」
そんな中、シャマルが固まっていた。
彼女は教室から動こうとせず、青い顔と言うよりはなんだか複雑そうな、紫色の顔をしているように見える。
「どうしたんやシャマル…大丈夫なん?」
「え、あっはい! 大丈夫です!! シャマル先生のここは今日も元気ですよ!?」
なにが元気なのよ、シャマル先生ってなんやろかと、ふたりがシャマルの意味不明な返事に困惑していると、大丈夫だから先に行っていてほしいと言われて、怪訝な顔をしつつも教壇側の入り口から外へと二人は出て行った。
「はあ…まったく、ヴィータちゃんったらもう……。」
そう言うとシャマルは厨房とは逆の方、教室の生徒側の扉から出て行く。
「治せるからって何しても良いって訳じゃあ無いのよまったくもう…。後遺症とかでるようなことはしちゃだめよって釘は刺して置いたけど……。」
ぶつぶつと物騒な言葉を吐いて廊下を歩くシャマル。
「なんかものすごく怒ってたし、大丈夫かしら?」
不安に駆られる彼女は、念話で言われた場所のヴェストリの広場へと向かうのだった。
時はお昼後、お茶の時間の食堂にまで遡る。
「上等だよテメー…あたしと戦いやがれ!」
「な、何だってぇ!?」
…もう少し時を巻き戻そう。
昼食後に食堂の外にて、貴族たちが青空と春の暖かい風を楽しみながら会話を弾ませて、お茶をしていたところに事件は起こった。
一人の貴族の青年、ギーシュ・ド・グラモン。彼が男性同士で恋話(というにはいささかむさい面子だが)をしていた時、ポケットから落とした紫色の香水の瓶をシエスタが拾い上げて渡そうとしたが、彼はこれを無視。
何人かの会話をしていた男性たちが、なおも渡そうとし続けていたシエスタの持つ香水の瓶を見て、それがモンモランシーという女性のものであり、彼女の性格からして特別な思いのある相手にしか送らないモノだろうと騒ぎ立ててしまう。
すると、そこに女性がひとり割って入ってきた。その女性は騒がれて恥ずかしくなったモンモランシー…ではなくケティという、今年入ったばかりの一年生だ。
ギーシュはどうやら二股をかけていたようで、話を聞いていたケティを泣かせてしまった。泣き濡れてへたりこむ彼女にモンモランシーとは何もないんだとか、この場にモンモランシーが居ないのを良いことにそれさえ利用して、必死の弁解を図るギーシュ。しかし、ケティはもはや聞く耳を持たずという感じでその場を走り去ってしまう。
去っていくケティにやってしまったという顔のギーシュだが、これで物語は終わらない。
今度はその騒ぎに少し遅れてやってきたモンモランシーが、憤怒の形相をしてギーシュに詰め寄った。ケティとのやりとりが彼女には全て聞こえていて、彼女の瞳も同じく涙に濡れている。
その大粒の涙が流れていたのは、何も二股についてだけてはない。
彼女は自身に対しても泣いていたのだ。いざという時に、しっかりと付き合っている自分すら切り捨てて自己の弁護を図ったギーシュ。そんなことをした彼を好いた自分と、そんなことをした彼を信じたくなくて、嘘だと思いたくて泣いていた。
外野が茶化すのをやめるほどの、真剣な怒りと悲しさを持ったモンモランシーの平手がギーシュを襲った。
そのままモンモランシーも居なくなると、今度は行き場のないやるせなさをギーシュが何故かメイドにぶつけ始める。
その理由は「ボクは知らないフリをしたのだから、あの場ではメイドの君はその香水を持って立ち去るべきだった。君のお陰で二つのバラのような乙女が悲しみにくれてしまったではないか!」という、とんでもなく理不尽で我儘なものだから始末におえない。
だがこの世界で貴族が平民をスケープゴートにするというのは、非常に悲しい話だがよくある光景であり、それを知っていたシエスタは涙を流して地に頭を擦り付けて謝ってしまう。
もっとも、これはシエスタの先入観からくる勘違いもある。そんな責任転嫁は良くあるものの、それはあくまで腐った貴族の腐った話の時であり、今回の…ましてや学院の子供たちの間では然う然う起きない。ギーシュ自身も女性を満遍なく、そしてこよなく愛するという点以外では、本来礼節を重んじる青年なのだ。
しかしこの時の彼はまだ若く、自分を省みたり、悔しさを散らす術をもっていなかったのも事実だった。初めての経験に感情の行き場や抑制が利かないのである。
彼はこんなシエスタを見ても、まだとっさの癇癪から起きた溜飲が下がらないのか、掲げた杖を止められないでいる。
あわやシエスタは一生モノの傷か、それとも手打ちかと緊迫した場に、どこからか鉄球が飛んできて、スコーンと音をたててギーシュの頭に当たり、軽いこぶを作った。
「な…誰だいったい!!」
「…そこまでにしとけよ。」
憤慨するギーシュへえらく低く遠い位置から幼い声が聞こえてきて、全員がそちらを向くと、その視線の先でヴィータが小屋の壁に背を預けて座っている。6~7歳ほどの体格の彼女にはサイズが合うメイド服がなかったのか、私服にカチューシャだけをつけて、マルトーの件の罰仕事をしていたようだ。片方の手には今ギーシュに投げたものと同じであろう鉄球を持って振り向いた人たちを見つめ返している。
そして仕事のご褒美なのか。彼女の口にはルイズが先ほどはやてに食べさせたかった好物、クックベリーパイの食べかすが付いていた。それを手で拭うと、相棒である鎚を担いで立ち上がり、シエスタとギーシュのもとに近づいて来る。
ふたりの間に入ってギーシュを見上げるヴィータに、誰もが呆気にとられている様で、音が消えた世界が拡がっていた。
「少しは頭冷えたか?」
「な、なんだねキミは! 貴族に対して無礼な…。」
そ返事に、はあー…と外見に似合わないため息をついてヴィータはギーシュを見る。
「んなこと、どーでもいいんだよ。あたしは頭が冷えたかって聞いてんだ。さっきから見てればだせえことしやがって。もともとお前が二股なんてことをしなけりゃさっきの女二人も、シエスタのねーちゃんも、誰も不幸にならなかったことだってのに…何でねーちゃんにその責任を押し付けてるんだよ、お前。」
これまた幼い子の会話とは思えない言葉を、つらつらと並べていくヴィータ。
「さっき授業でルイズが言ってたんだろ。このことを家に言えるのか?」
そして至極まっとうなことを言われて、周りの人間からどっと笑いが起きた。暗く固唾をのむような雰囲気が消えていく。
「確かにそいつの言うとおりだな! ギーシュ!!」
「子供の給仕に諭されてたら世話ないぞ!!」
「よく言ったちまっこいの!」
「手紙出すならおれが書いてやろうか!」
周りのギャラリーがギーシュを笑い、ヴィータを称える。その空気のおかげで、自身のしでかした事がようやく恥ずべきことだと自覚して、頭が冷えてきたギーシュだった。
しかし、このまま年端もいかない子供に諭されたまま、おめおめと引き下がるような真似を、今度は貴族と家の誇りにかけて出来なくなってしまう。
ギーシュにとってはこんなことこそ、手紙にして送ることなど出来ないだろう。
「ぐむむ…確かに、君の言うとおりだ。ボクが平民にそんな機転を利かせるようなことを要求するのも、無茶な話だったであろうね。」
あくまで自分が根本的に悪いとは認めないような言い方のギーシュだが、その顔には反省の色が見て取れる。だがその後の顔に、どうにかして自身の名誉を守ろうとする感情がありありと出て来ていた。
「しかし! それはそれとして、だ。キミ…いかに幼いとはいえ貴族に対してその口調はいただけないな。見かけない顔だが…朝のルイズの件を知っているということは、キミはルイズの使い魔の世話をしていた従者の女性と同じ…つまりはヴァリエール家の従者かな? いけないよ、そんなことでは。ヴァリエール家の家名に傷がついてしまうよ。」
そうして、ヴィータに諭すようにして、話の焦点を挿げ替えようとしていくギーシュ。せめてこちらも相手を諭して痛み分けだとしたいのだろうし、彼の言い分も正しい。使い魔同様に、従者の品格は主である者の教育の結果であり、責任なのだ。
「ルイズの家の名誉なんて知るかよ。シャマルは知らねーけど、あたしは別にまだルイズを主の主って認めているわけでもねー。あたしはあくまでも、はやての騎士だ。」
正直に言えば半分は嘘である。シャマルから念話でニュース! ニュースよみんな! と言った感じで喧しく飛んできたルイズの活躍は、ヴィータにとってのルイズの評価をかなり押し上げており、このまましっかりとはやてのことを思ってくれるのならば、彼女は主の主に値すると見直し始めていたのだから。
「主の主? ハヤテ…?」
ギーシュはその意味をしばらく考えていた。ルイズが主の主で、この子が主と認めている者の名前がはやて。シャマルというのが、先ほど自分が言った従者と思われる女性の名前だろう。そしてルイズが主の主ということはつまり…彼女の言うルイズに仕えている主とは……。
「もしかしてだけど、ハヤテとはあの使い魔の名前かい? それじゃあキミたちは平民に仕える従者だとでもいうのか!?」
「…だったらどうだっていうんだよ。」
平民、そのハヤテに対する言い方がヴィータの怒りの琴線に指をさしかける。
「は、ははははは! いやすまない。まさか平民に仕える従者などというものがいるなんて、そうか…これはボクが悪かったな、うん。」
突然笑ったギーシュに、ヴィータには何がおかしいのか解らなかった。
しかし、馬鹿にされているとは感じ取れたので睨む力と、心のイライラに拍車がかかった。
そして、そのことに気づけなかったまま告げられたギーシュの言葉が、ヴィータの感情の一線を越えてしまう。
「あんなかたわの幼い平民が主では、自身のことでいっぱいいっぱいだろう。君たちにまともな教育なんて出来る訳もないな。 はっはっ―――」
ばきゃ
「は?」
ギーシュの手にあった香水の瓶が、ヴィータの投げた鉄球で叩き割られていた。
「てめえ…。」
「き、キミ…貴族の持ち物に対してなんということを――「うるせえよ。」」
怒りにより瞳孔が委縮して、青い虹彩が大きくなったヴィータの瞳がギーシュをよりきつく睨みつける。その負の感情の強さは、やはりルイズの時同様に幼い子供が持てるモノではない。
「よくもはやてをバカにしやがったな。」
「上等だよテメー…あたしと戦いやがれ!」
一瞬の間。何を言われたかわからないギーシュがしばらくして素っ頓狂な声を上げた。
「…な、何だってぇ!?」
「はやてをバカにする奴はあたしが絶対に許さねぇ! ぶっ潰してやる!!」
もはや今にも跳びかかりそうな怒りを携えているヴィータと、生まれてこの方、またも一度も経験したことのない出来事に目が点になっているギーシュ。
「てめえがあたしの主…はやてをバカにしたことをかけて! あたしと決闘しろ!!」
ヴィータがギーシュに鎚の先端を突き付けた次の瞬間に、ギーシュ以外の貴族からざわめきと、驚きの声が響いた。無茶だ、勝てるわけがないと騒ぎ立てた声がどんどん拡がっていく。
平民の幼子が貴族に決闘を仕掛けるという前代未聞の出来事に動揺する生徒たち。これは非常に困ったと、ギーシュは頭を抱えた。
「まさか、テメーらの言う「ちまっこい」「平民の従者」なんて奴からの挑戦…逃げる訳ねーですよね?」
ヴィータはここぞとばかりに下手くそな敬語を交えて挑発してきた。ギーシュとしても勿論そんなつもりは毛頭ないが、いくら無礼な平民であろうとこんな幼子の、しかも女の子を相手にまじまじと決闘を行い、挙句に魔法で甚振るようなことがあっては、今度はそれで自身のイメージを悪くしてしまう。
もしそんなことがあれば、我を忘れてメイドに杖を振るおうとしていた時と何も変わらないではないか。しかも、それがどういう理由か自分を諭してくれた女の子のせいでこうなっている。どうしてこうなったのか…ギーシュは必死に事態を穏便に解決する方法を探し求めて脳内を彷徨った。
どうすれば…ボクの魔法で彼女を殴るようなことをしたら、それこそなんてむごい…最悪の絵面じゃないか。いや、まてよ…? そうだ! ボクの能力なら闘わなくても済ませられるぞ!! ギーシュの中で一筋の光明が差していく。
「いいだろう、その決闘…受けようじゃないか。場所は火の塔と風の塔の間にあるヴェストリの広場だ。悪いが先に行っていてくれたまえ。」
そう言われてもヴィータは何処かわからず、恋話の時にギーシュを取り巻いていた何人かの貴族によって、案内されていった。
残ったギーシュはというと、シエスタに向き直り彼女を許すことを改めて伝えようとしているようだ。本当に大好きなモンモランシーとの縁を取り戻す為だろうか、自身のイメージ回復のために彼の必死さが伝わってくる。
しかし、声をかけられたシエスタは、どういうわけかがちがちと震えて反応が鈍い。
ギーシュはやり過ぎたかと改めて自身を省みて、花に問いかけるような穏やかな声でシエスタへと言葉を紡いだ。
「どうしたんだい、メイドのキミ…? どうか怯えないでくれたまえ。安心してくれて良い…先ほどのようなことをキミにするつもりは、ボクにはもうないんだからね。」
「ちちち…違うんです、貴族様。」
シエスタが怯えている理由は、ギーシュでも、ギーシュに挑んだヴィータが酷い目にあわされてしまうものでも無かった。
「あなた、殺されちゃいます。」
シエスタが震えていた理由。それは、「ギーシュ」が「ヴィータ」に殺されかねないという不安だった。もはや自身への理不尽な怒りがどうのこうのという、シエスタ本人の話ではないのだ。
「な、何を言っているんだい…? そんなバカなことがあるわけないじゃないか。」
それでもシエスタはギーシュの腕を取って、やめましょうと必死に縋ってくる。ちょっと予想外の柔らかい感触にギーシュが反応しなかったのは、驚愕の連続ゆえか。
「お願いです貴族様。今ならまだ間に合います…謝りましょう? 私もついていきますので!!」
「やれやれ…確かにあの子をかばいたい気持ちはわかるが、キミは随分と嘘が下手だね。メイジであるボクが、あんな小さい子に負けるなんてウソでは誰も騙せないよ。」
そう勘違いして、さあ、離し給えと掴まれていた手を優しくほどいたギーシュは、何も知らずにヴェストリの広場へと歩いて行く。
しかし、シエスタは見ていた。朝、洗い場にてシグナムとヴィータが喧嘩していた時の光景を。
持っていた炎の魔剣のようなマジックアイテムこそ使わなかったが、彼女たちは杖を振るわずに魔法を使い、炎と鉄球を操り、人が吹っ飛ばされそうな勢いで拳や蹴りを高速で放って喧嘩をしていたのだ。嘆願して止めてもらえなければ、本当に洗い場が吹っ飛んでいたかもしれない。
学院に務めて数年。年期はまだまだ浅い彼女だが、ここで見てきた生徒たちの中に、あの動きについていける者がいるなんてとても思えなかったのである。
しかもそんなヴィータが鎚のような武器を今度は持って闘うと言っている。もしあれがシグナムの持っていた魔剣の様な物だったのならば…そこまで考えて、ヴィータに凄惨に打ちのめされたギーシュを想像でもしたのだろう。彼女ははふぅと気絶した。
しばらくして、周りの生徒たちが決闘を見るためにヴェストリの広場へと向かい、他の人間も散り散りになった頃、倒れていたシエスタを抱きかかえる人間が現れた。はやての騎士であり、シエスタに悪夢を見せたもう一人の女性、シグナムである。
「やれやれ…無茶苦茶なことをする。あまり目立ちすぎることはしたくないのだがな。」
シグナムは若干朝の自身の行動を棚に上げて、もうここには居ないヴィータへと小言を愚痴る。
「…尤も、私としてもあの場に居たら黙っていることなどできなかっただろうな。だから、ここはまだこの子に朝の借りを返していないお前に頼むとしよう。」
ヴィータ達が歩いて行った方をシグナムがみていると、少し日が陰ったのか、騒動の前とは違った冷たい風が彼女とシエスタの頬を撫でた。
「風が出てきたな。風…そうだな、念のためにシャマルに連絡を入れておくか。あいつも流石に加減はするだろうが、いつでもすぐに治療できなくては後々禍根を残したりするかもしれんからな。」
この世界の魔導師たちがどの程度歯ごたえがあるかわからん以上、最悪殺しかねなんしな。そう呟いた後に、シエスタを介抱するためにシグナムは去っていった。
「あらあら、なんだかすごいことになってきたわねぇ。あの小さな子がハヤテの従者ってことは…本から出てきた子なのかしら? ねぇどう思う、タバサ?」
木陰で遠くから見ていたキュルケが、親友に問いかけてみる。
「それは解らない……。でも、あのメイドの言うことは…多分本当。」
「えっ!? ど、どういうこと…? いくらドットの、メイジとしては一番弱いランクのギーシュだからってそんなことあるわけないわよ。」
不可思議なタバサの答えにキュルケが反論したが、タバサの考えは変わっていないようだ。広場に残った鉄球に近づくと、いつになく鋭い瞳でそれを観察してからキュルケへと手渡す。
「見て。」
「これは…あの子が持っていた鉄球? わ、すごい臭い…モンモランシーの作る香水は嫌いじゃあないけれど、流石に直接嗅ぐのは無理があるわね。」
なんでこの子は平然とした顔をしていられるのかしら? そんな疑問を抱きつつも、渡された鉄球を観察するキュルケはだんだんと表情に驚きが生まれていった。
「これ…鋼鉄なのかしら? 形もほとんど真球みたいだしすごい出来栄えね。ゲルマニアでもここまでのものを作れるか怪しいわ。」
「そう、すごい出来栄え…。キュルケ、これをあなたは溶かせる?」
投げかけられたタバサの問いの真意がわからないキュルケだったが、そう言われて挑まないのでは自身のふたつ名、『微熱』の名が廃る。そう思った彼女は、自身の魔法を全力で鉄球へと叩き込んでみる。
草が焼け散り、地面の土が溶けてもその場にその鉄球は残っていた。一部赤熱しているようだが、それでも溶解には至っていない。
「…信じられないわ。なんなのよコレ。」
「この鉄の球は…あの子が鎚みたいな杖をどこからか出して、『錬金』したモノ……。」
悔しくて、しかめっ面で歯噛みしていたキュルケの目がおもいっきり見開かれる。常に美貌を気にする彼女らしからぬその顔は、タバサにとってもすごく珍しいものだったようで、鉄球ではなくキュルケのせいで、タバサも少し目が開いていた。
「あの子は、2つの鉄球を空中に『錬金』して、ひとつを魔法で飛ばした。」
「ええっ…それ本当!? じゃあ…彼女はメイジだったの?」
恐らくと頷くタバサ。彼女にしては珍しく饒舌な会話が続けられていく。
「今朝…ルイズが気絶させたシュヴルーズ先生は、赤土を錬金して、授業中に喧しい生徒の口へ飛ばして貼り付けることがあるって聞いたことがある。それと同じことを鋼鉄であの子はやってのけている。それはつまり―――」
「彼女は…スクウェアクラスの土のメイジってこと?」
声にこそ出さないが、また信じられないと驚かされたキュルケだった。彼女は昨日ルイズが体験した様に、驚きの連続に襲われている。
無理もない。自分たちが杖を持った頃のような歳の子が、4乗のメイジであるスクウェアクラスだなどと、未だ3乗のトライアングルとはいえ、学園で最高クラスのメイジのひとりと自負していたキュルケにヴィータの存在は、夢や幻を通り越してもはやデマのような域の存在だ。
「別の属性ならまだ戦略でなんとかなるかもしれない。でも…青銅しか作れないギーシュに、鋼鉄を瞬時に生成する者の相手は多分できない。」
タバサの敗北の予言が、誰も居なくなった広場にぽそりと囁かれると、彼女の後ろから足音と車輪の音がひとつずつ聞こえてきた。
「…あんたたち、誰も居ないのに魔法なんて使って何してたの?」
シャマルの誘導によって、決闘の広場から離されたルイズとはやてが、かわいくお腹をならしてそこには立っていた。
シエスタ、逆、逆ぅ!
A'sのシャマルハンドはなかったことにしてはならない(戒め
なので思い出に混ぜました。
時間が取れ次第次の話へと行きたいのですが何分力不足で1話作るにもかなり時間が…
挿絵描くのの3倍以上にはお話に時間がかかってまする…。
桃色の結界破壊魔法...スターライトブレイカー+
無印~A's間のコミックにて誕生 威力とチャージ時間を延ばすことでなぜか結界破壊の効果がついてきた。
TV版で結界を吹っ飛ばしたSLBはこれ。
UA5000と総合評価100Ptオーバー、ありがてえ…ありがてえ……っ!!