ゼロの使い魔導書   作:すぴんど

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これは残酷な描写なのかしら?

私の実力では序盤はサイトのように一人か、つっかかっていかないと、主人公…もしくはヒロインであるはずのルイズの空気化が激しくて申し訳ない。

なんとかせねば…。


第9話 騎士たちの怒りと安らぎ

「諸君、決闘だ!!」

 

ギーシュが高らかに声を上げるが、周りの反応は薄い。いざ興味本位でついてきたものの、ほぼ全員がギーシュの勝ちは確信しているし、彼の魔法を良く知っている人は、そもそも勝負にすらならないだろうと考えているようだ。

 

既に噛みついたヴィータには興味もなく、どちらかというと、ギーシュがどういった行動をするのかというものに興味がある感じの生徒たちだった。

 

待ちくたびれていたヴィータだったが、どこからか飛んできた念話に少し顔を青くしている。

 

念話の内容は二つ。ひとつはシャマルに延々と言われ続けているお小言。そしてもう一つはシグナムからで、はやてとルイズがもうすぐこちらに来そうだということ。

 

シャマルの言うことはごもっともだったし、はやてに自分が闘うところを見せたくないのもあるし、何より間違いなくはやてに怒られることを確信したヴィータの顔は、まさにげんなりという言葉がふさわしい。

 

それでも譲れないものがヴィータにもあるからこそ、もちろんやめるつもりもなかったのだが。

 

そんなヴィータを見たギーシュは、彼女が戦う前から自身の無謀を省みはじめたと考え、この作戦が成功するという確信に変わっていく。そうと決まればあとは行動あるのみだと決闘を始めようとするのだった。

 

「さて、では始めようか。ルールはこうだよ。なに、難しいことはない。参ったと言うか、杖を落としたら負けだ。キミは杖を持っていないようだからね…その鎚を取られたら負けということで構わないかね?」

 

「ああ、十分だ。時間がねぇ…さっさと始めようぜ。」

 

おや? なんかおかしいぞ。と、思いつつもギーシュは杖を構えるのだった

 

 

 

場所が変って学院長室。

 

オールド・オスマンが先ほどシャマルにぶつけられなかったスケベな欲望を、秘書のミス・ロングビルに向けていつものように折檻されていたところに、意識を取り戻したシュヴルーズがノックもせずに入ってきた。

 

「大変です。オールド・オスマン学院長!」

 

「なんじゃ騒々しい。ノックもせんで全く……。」

 

目を逆三角にして怒っているロングビルに尻を足蹴にされたままの姿勢だが、慣れたものだといわんばかりにオスマンはそのままに応答している。情けない姿だがある意味すごい光景だ。

 

「決闘です! 生徒たちの間でヴェストリの広場で決闘が始まろうとしています!!」

 

「ふぅ~…やれやれ。城下町から遠いから娯楽が少ないというのは否定せんがのぉ、若さゆえか血気盛んすぎるぞい。どいつもこいつもまったく……。」

 

ふたりは真面目な話と認識したのか、ロングビルはオスマンを踏みつけるのを止め、オスマンは立ち上がると仕事机の椅子へと戻り、パイプをふかせながら話の再開をシュヴルーズに促した。

 

「それで? 決闘を起こしているのはどこの貴族たちじゃ?」

 

「そ…それがですね……。」

 

過去になかった事例ゆえにシュヴルーズ自身も言うのも口に出すのが難しいようだ。

 

「あー、落ち着きなさい。深呼吸でもしての、ほれ。」

 

すーはー、すーはー、樽の様な体型の体が膨らんで縮んでを何度か繰り返すと、シュヴルーズは落ち着いたのか、すらすらとした口調で問題の件を話し始める。

 

「決闘となった一人目の名前はギーシュ・ド・グラモンです。」

 

「グラモン家の末っ子か…やれやれ、何を言われてそんな決闘を申し込んだんじゃか。」

 

そういうオールド・オスマンにバツの悪い顔をしてシュヴルーズは報告を続けた。

 

「それが…違うのです。ミスタ・グラモンは決闘を受けた側なのです。」

 

「なんと!? ドットでしかない彼が決闘を受けたというのか。」

 

今度は見上げた心意気もあったものだとオールド・オスマンが感心し始めるが、それすらも首を振ってシュヴルーズが否定していく。

 

「いいえ、挑んだ子が一番の問題でして…その、驚かないでください。決闘を申し込んだのは平民なのです。」

 

「平民じゃと!?」

 

それが本当ならば私刑ですらない。平民からメイジである貴族に挑むなどという暴挙。それが戦場などではなく学院で起きるという珍事では、驚くなというのはいかに普通の人間以上に長年の時を生きてきたオスマンといえど、珍しい話であり無理なことだった。

 

「誰なのかね? そんな無茶な試みをする馬鹿者は…コック長のような者たちでもそんなことはせんじゃろうに。」

 

「それが……7歳くらいの小さな女の子なのです。」

 

ロングビルと、オスマンの目が飛び出したような気がした。

 

なんの冗談だこれは、わしはとうとうボケたのかとか、お伽噺の世界か夢でも見てるんじゃないかと、現実のシュヴルーズの発言が受け入れられないオスマンとロングビルのふたり。

 

「あ~…なんだ、そのな? すまんミス・シュヴルーズ、もう一度、出来れば詳しく言ってくれるかね。」

 

「え? ええ…女の子ですわ。7歳くらいの。赤い鎚を持った不思議な格好をしている子です。」

 

鎚という言葉にオスマンがピクリと反応した。

 

「鎚? 杖ではなく鎚と言ったのかね? ひょっとするともしかして…その子はミス・ヴァリエールが呼び出した平民の使い魔の知り合いではないか?」

 

「ええと、報告に来た生徒の話だとそういえばそんな話をしていたような…? ハヤテのことをバカにするヤツは私が許さねぇとかなんとか……。」

 

それを聞いて、なーんだ…ミス・ヴァリエールの使い魔関係の子か。わしもボケてなかったようじゃ、なら納得納得……。などとボケをかましていたオスマンだったが、その意味を理解して滝のように汗が流れていく。まずい、このままでは寮塔の壁のようにギーシュがひしゃげかねない。最悪の光景を予想してどう止めたものかとオスマンが様々なシミュレーションをしていく。

 

そんなオスマンの表情を見て、やはりそんな決闘は容認できないのだろうと感じたのか、シュヴルーズは事態の解決を図るために提案した言葉が、オスマンを現実へと戻した。

 

「そういうわけなので、近くの教員が宝物庫の『眠りの鐘』の使用許可を求めてい「それじゃあ!」」

 

「そうじゃ、それがあった! 許可する。書類なぞ良い!! 今すぐ、今すぐに伝えに行きたまえ!! ミス・ロングビル、これが鍵じゃ。君も行ってきたまえ!!」

 

まさに大慌てと言わんばかりにまくしたてるオスマンの剣幕に驚きつつ、ふたりの女性は学院長室を後にした。

 

パイプを深く吸うと、ふいーっと長く煙を吐き出したオスマンは、今日再び天を仰ぐのだった。

 

場所は戻ってヴェストリの広場、ついにヴィータとギーシュの決闘が始まる。

 

「では始めよう。僕は土のメイジ、『青銅』のギーシュ。よって僕の魔法で作り出したゴーレム、ワルキューレ「達」がキミの相手をする…っ!」

 

ギーシュは杖を振るうと、ワルキューレを地面から作り出した。その数7体。現在彼が作り出しうる限界にして、最高戦力である。

 

「おいおい、いきなり全力かよギーシュのやつ!!」

 

「大人げないぞ!」

 

「あいつ…まさか本当に決闘するつもりなのか!?」

 

もちろんギーシュにはそんつもりなどない。これはいわば威嚇だった。

 

ギーシュの狙いはこうだ。まずは持てる力全てを持ってあの小さな従者と名乗る少女を威圧。そして恐怖に竦んだ彼女から優しく鎚を取り上げて、貴族に対する態度や、無謀な行為はいけないと優しく諭してあげる…というのが彼の考えた作戦だった。

 

こうすることで自身のイメージは器の大きい人間にも見えるだろうし、食堂での時のような酷なことはもうしない立派な貴族だというイメージ回復にも繋がるはず。そう思ってこの決闘を彼は行ったのである。

 

少女を怖がらせるのは気が引けたが、これも作戦だと割り切って杖を掲げ、ヴィータにじりじりと7体のワルキューレを詰め寄らせていく。

 

しかし、いつまでたってもヴィータの顔が恐怖に変わることはなかった。それどころかむしろ青い顔がどんどん消えて、先ほどの強い怒りが宿っていく。

 

「てめえ…こんな程度ではやてをバカにしやがったのか……っ!」

 

「へ? なんて言ったんだい?」

 

小さく呟いたヴィータの声を聞き取れなかったギーシュを無視して、ヴィータはぎりりと鎚を握ると、鎚を持った手とは逆の手を天に掲げた。

 

「覚悟しやがれって言ったんだよ! この女たらしがっ…行くぞ、グラーフアイゼン!!」

 

Jawohl(ヤヴォール)Schwalbefliegen(シュワルベフリーゲン)Claymore(クレイモア)

 

な!? とギーシュが反応する間もなく、掲げたヴィータの手の平に鉄球が作り出されると、言葉を発した鎚でそれを地面へと叩きつけた。

 

鉄球が地面に沈み、その穴から光が迸って…大地が弾ける。

 

着弾と同時に凄まじい爆発を起こすヴィータの魔法の一つ。シュワベルベフリーゲン・クレイモア。鉄球ひとつで硬くがっちりと固められた日本ビルの一角さえ容易に吹き飛ばすその威力に、土の大地や青銅で作られたゴーレムが耐えられるはずもなかった。

 

その爆発による熱と風で7体のワルキューレはバラバラになって吹き飛び、音と砂煙、そして残骸や土砂が広場を駆け抜けていく。

 

視界を遮られ、何が起きたかわからない、というよりは信じられないままのギーシュの斜め前方から、土煙を破ってヴィータが飛び出して来た。

 

「まっ―――」

 

「テートリヒ・シュラーク!!」

 

参ったなどと言わせる気が微塵もないヴィータは、しっかり既に間合いまで踏み込んでおり、声よりも早く鎚――グラーフアイゼンを振りぬいてギーシュの胴体へと叩き込んだ。

 

めきめきと嫌な音をたて、体はくの字へと曲がり、ギーシュの口に鉄の味が広がっていく。

 

「うおりゃああああぁっ!!」

 

裂帛の気合いと共にヴィータが鎚を振り抜くと、ギーシュは土煙から突き抜け一直線に中央塔の壁めがけて吹っ飛んでいった。

 

それを見た生徒たちの驚きと、悲鳴が木霊する。

 

このまま壁に激突して死ぬのか、いや、壁がなくともこの体ではもう…ギーシュの中を走馬灯が駆け巡っていくが、彼に最後の時は訪れなかった。

 

柔らかな光の糸が集まって、飛んでいった先に集まってクッションとなり彼を受け止めたのだ。

 

「もう、やり過ぎよ! まったく、ヴィータちゃんたらもう!!」

 

ぷりぷりと可愛く怒っている(本人はいたって真面目に怒っている)のは、ギーシュが今朝教室で見たルイズの従者、ではなく使い魔はやての従者の女性だった。たしかシャマルとあの子に言われていたであろう女性だと、ギーシュは彼女をみる。その顔や体は学生にはない美しさが備わっており、ギーシュは思わず見惚れていた。今際の際かもしれないというのに、彼もある意味大した男である。

 

あぁ…平民とはいえこんな美女に抱かれて死ねるのかと、痛みと呼吸困難で良く解らない考えになったギーシュが感慨に耽っていると、シャマルがこちらを向いた。そこには憐れみや死に逝く者への表情がなかったどころか、酷く面倒くさそうな顔をしている。そんな彼女の表情のせいでギーシュが悲しみに飲まれて意識を失いかけたところで、体が翠の光に包まれた。

 

「―――ガハッ、けほけほっ…こ、これは!?」

 

ギーシュの体から痛みが消えて、呼吸が整っていく。

 

「これは、治癒魔法!? あ、貴女は、いや! 貴女たちは一体……?」

 

何者なんだ? と尋ねようとしたが、目の前にぬっとあらわれたグラーフアイゼンを見てギーシュは竦んでしまった。

 

「ひいっ!?」

 

「そこまでよヴィータちゃん。これ以上しても、もう私は治してあげないわよ。はやてちゃんに嫌われたって知らないんだから。」

 

後ずさったギーシュを別に庇うわけではなかったが、シャマルはヴィータを止めた。正直彼女自身もヴィータにかなり怒っているのである。せっかく今朝の授業ではやてと魔法を隠して使ったりしていたのに、すべてが水の泡になってしまったのだから、それも当然か。

 

「…(ワリ)かったよシャマル。」

 

ヴィータはギーシュを一瞥すると、広場の中心へと戻っていき、どすんとグラーフアイゼンを剣のようにして、体の前の地に立てると周りの人間を見てから喋りはじめた。

 

「今みたいに気に入らねえ奴をあたしはぶっ飛ばす人間だ。そんなあたしが騎士として、はやてに仕えてんだ。この意味…解るか?」

 

生徒たち全員が息をのんでヴィータの声を聴いている。

 

「確かにはやてはこの国じゃ平民って存在だよ…足だって動かせねえ。でもな、あたしらはそんなはやてを主と認めて慕ってんだ。身分のせいでもなければ、力でなんかでもねぇし、金で仕えているわけでもねぇ。1年前までは出会ってもいなかったんだ。」

 

自慢の主の話をしているヴィータの顔に、すごく薄くだが笑みが広がっていく。目は依然鋭いままのせいか、それは挑発しているようにも見えた。

 

「そんなはやてみたいなこと…権力も、力も金も使わないで自分より強い人間を従えるなんてこと、この中に出来るやつが一人でも居んのか?」

 

そのヴィータの問いに、出来ると答えられたものは、誰一人としていなかった。

 

「…それが出来ねーのに、はやてをバカにするやつはこの鉄槌の騎士が許さねぇ、覚えとけ。」

 

そういって広場を後にしようとしていくヴィータと、続いていくシャマルをつんざくような大声が呼び止めた。

 

「こぉらぁ、ヴィータぁっ!!!! なんてことしてるんやほんまにもう!!!!」

 

あの小さい体のどこからこんな声が出ているのか、そんなびっくりするほどの大声で彼女たちを止めたのは、主と言われたルイズの使い魔、八神はやてその人である。キュルケとタバサから事情と場所を聞いた後、走るルイズより速い速度で車椅子を動かしてここまで駆けてきたのだ。

 

そしてものすごい速度でまた車輪を走らせて彼女たちに近づくと、ヴィータの鼻を思いっきりつまみ上げた。

 

「なんの為にルイズお姉ちゃんに私が今朝、お願いを聞いてもろたと思うてんの!? こないなことさせなくていい為でもあるんやで!! なのにもう、なんで自分から争いごとつくってるんや!!」

 

「うえぇえ、はやへ、いひゃい…いひゃいぃ~。 らっれぇ…らっれえぇ~。」

 

一通りはやてが怒り終えて鼻を離すと、ヴィータとシャマルの弁明が始まった。いつの間にかシグナムまでも来ている。

 

「だって…あたしにははやてがバカにされるのはやっぱ我慢ならねーもん。」

 

「私としてもちょっと…。今朝の時はルイズ様が止めてくれましたけど、あのままだったら私もどうなっていたか。」

 

「ヴィータにすべて任せましたが、私も同じ意見です。主はやてが理不尽な扱いをされていて、黙っていることは出来そうにありません。」

 

どうやらそこを譲ることだけはできないようだ。はやてはため息をはくと、3人をちょいちょいと手招きして近くに寄せて、まとめてぎゅうっと抱きしめた。

 

「まったく、こまったちゃんやみんな。……でも、ありがとう。」

 

目を閉じてそんな3人に頬を寄せているはやての香りが、3人の心にしみわたっていく。

 

「せやけど、こんなカタチはやめてな? いじめみたいにしたり、甚振る姿のみんななんて私は見とうない、お願いや。言い方はちょい悪いけれどあしらう程度でこれからはお願いな。」

 

「…うん、わかった。」

 

そうヴィータが答え、シグナムとシャマルが頷くと満足したのか、はやては彼女たちから離れて、今度はギーシュのもとへと車椅子を進めていく。

 

「貴族のお兄さんも、私の家の子が迷惑をかけました。幸いケガの痕も残ってないみたいやさかい、どうか許してください…お願いします。」

 

ギーシュはびっくりしていた。彼女の礼節や振る舞いにではない。勝者である者の主人が、敗者である自分に頭を下げてきたことにである。

 

基本的にこの世界の決闘とは、そういったことをしなくて良い為のモノだ。自身の考えや主張、名誉を守る戦いであり、ヴィータはそれに勝ち、はやての名誉を守ったのだ。

 

なのに、その主人のはやてが自身の名誉をある意味捨てて、今敗者である自分にこうして頭を下げている。なんだか気が抜けていくギーシュだったが、はやては更に彼をびっくりさせてくるのだった。

 

「私の名誉なんて、どうでもええんです。ただ…余計なことかもしれませんが、私の為に頑張って手にしてくれたヴィータの勝利で、どうかこのお願い聞いてもらえないでしょうか。」

 

そう言ってはやてはギーシュの杖を拾って彼に渡し、改めて頭を下げた。

 

「キュルケさんやタバサさんに聞いたんやけど、二股はやっぱよくないと思います。せやから、メイドさんのせいとかにしないで…後で泣かせてしまった二人に謝ってはもらえませんやろか? 私も女の子ですんで、そんなことをされたふたりが今とても辛くて…悲しい気持ちになっているのが解るから。」

 

ギーシュとモンモランシーにケティ、自分とふたりの為に無関係な自身の名誉すら投げ出すはやてが、ギーシュにはとてもまぶしく見えた。彼女の心は例えるのなら、まるで慈愛の結晶のようだとその姿に感動さえ覚えている。

 

そして、そんな女性の名誉をこれ以上受け取ることなんて、貴族として出来なかった。

 

「申し訳ないけれど、キミの名誉を代わりにしてそんなことを受けるなんてこと、恥ずかしすぎてボクには出来ないよ。キミの、ミス・ハヤテの名誉はそのままに、そのお願いを寧ろボクから誓わせてほしい。」

 

そう言ってギーシュは、立ち上がってはやてに握手を求めて右手を差し出してくる。はやてもそれに応え、握り返して軽くぶんぶんと振って、今言ったことの約束の証である二人の手が強く、しっかりと繋がっていることを確かめ合った。

 

「この勝負、言うまでもなくボクの負けだ。でも、大切な何かを今教えて貰えた気がするから、むしろ負けたのに得たものがあってすごく不思議な気分だよ。ははは…殺されかけて、命を救われてから気づいてるようでは、僕もまだまだ理想の貴族には遠いな。」

 

「あはは、でも、今のお兄さんは十分格好いいと思います。素直に謝るいうんはとても大変なことかもしれませんけど、頑張ってくださいね。」

 

そんな二人のやり取りを最後に、決闘は完全に終わった。

 

「すごいわねルイズ、あなたの使い魔。従者の事もそうだけど…とても平民には思えないわ。」

 

男の子だったら絶対ほっとかないのに…などと非常に残念がっているキュルケ。

 

「そうね。正直、私はあの子の上に立たなきゃいけないのが、ちょっと不安になるくらいよ。」

 

自身の使い魔を褒められたというのに、ルイズは少し複雑そうな顔をしていた。彼女が珍しく弱音をこぼすほどに、はやてとヴィータ達の関係は主従として理想的で、羨ましいものだったのだ。

 

「………。」

 

そして、何か宝物を見つけたような顔でシャマルを見つめ続けているタバサが居た。

 

 

 

「なるほどなぁ、発酵か…そういう発想もあるんだな。」

 

「ええ、私の国では結構使われているものなんです。あ、せやかてなんでもかんでもしたら駄目ですよ? 大抵のものは腐ってしまうだけですから。」

 

闘い終わって厨房、あらためて昼食の代わりにと何か賄いを貰いに来たルイズたちとはやてたち一行。

 

そんな中、マルトーとはやてが料理談議に花を咲かせていた。基本それぞれの家庭の味として出る点…目分量の色が強い料理をするはやては、マルトーの隠し味の分量や、加減の厳密さから出来る味の深さを学ぶ事で、全てをそうするつもりはないが、自身の料理に混ぜ込もうとしていた。かたやマルトーは、はやてから様々な食材や調理法の知識と、新しい料理として日本の料理を学んでいた。

 

「それにしてもトーフってのはすげぇなぁ。作る過程でオカラってのが出来て無駄がねえし…途中のトーニューってのもあわせて、食い方も随分と色々あるみてえじゃねえか。」

 

「ふふ、おまけに健康やお肌にもええから、女の子なんかには大人気ですよ。」

 

ふたりの会話は豆腐のつくり方などという料理どころか、食材から作るという大分マニアックな領域に突入しようとし始めたところで、ルイズが止めに入った。

 

「はいはい…話に熱が入るのは解るけれどハヤテ、私たちはこのあと待ってくれているオールド・オスマンの所へ行かなければいけないんだから、早く食べなさい。」

 

「あわわ、せやった…ごめんなルイズお姉ちゃん。」

 

そう言ってマルトーとの会話を一度謝って区切り、まくまくとハヤテはスープとパンを食べ始めた。

 

二人はオスマンから遣わされたコルベールによって呼び出しを受けていたのである。

 

しかし、呼び出しに来たコルベールの話を聞いていたはやてとルイズ、ふたりのお腹がなってしまった。もじもじとしながらふたりは事情を説明して、なにかを口に入れてからでお願いしたいと頼み込んだのだ。

 

空腹を理由に学院長からの呼び出しを伸ばしてもらうという、かなりの無茶を頼んだルイズとしてはなるべくはやくここを離れて、学院長室へと向かいたかったのである。

 

「で、なんでアンタ達までまだここに居るのよ。」

 

そういって、目立つ髪をしたふたりのキュルケとタバサをルイズは見た。

 

「いいじゃないの、別に何かしようってわけでもないんだし。」

 

「気になることがあるから。」

 

そう言って、ヴィータたちの方を見るタバサ。

 

「ん、あたしたちになんか用か? です。」

 

コクリと頷いて、タバサはシャマルの前に立った。

 

「あなたの魔法が…一番気になる。」

 

「えっ…わ、私ですか? ええーとタバサちゃん、だったかしら? 私はあまりふたりに比べて強くなんてないのよ?」

 

そう言われてふるふると首を振るタバサに、ヴィータが追い打ちをかけた。

 

「いやー、そうでもねーだろ…確かに真っ向勝負じゃ負けるとは思ってねーけど、シャマルを怒らせたら直接―――」

 

(ヴィータちゃん? 私たちの魔法はあまり公にしてはいけないって、ルイズ様に言われたでしょって…何回言えば分るのかしら?)

 

シャマルの念話がヴィータの口を縫い付けた。タバサは、黙ってしまったヴィータのことは気になったようだが、本来言いたいことの方が先にあったので置いておくことにする。

 

「私が気になっているのは、貴女がギーシュを癒した魔法のこと。気のせいでなければ…ルイズの手も治していたのは、同じ?」

 

タバサが聞きたかったのはシャマルの強さではなく、どうやら癒しの風の様だ。

 

(鋭い子だな…シャマル、気を付けろ。このタバサという子は、どうやら他の貴族の子供たちとは違う。彼女の目は…何か深い決意が宿った戦士の目の様に私には見える。)

 

(そうね…困ったわ。癒しの風について何を聞かれるのか解らないし、応えられることや出来ることなら助けてあげたいけれど……。)

 

念話をシグナムと交わしてタバサを警戒してから、シャマルは相手に探りを試みた。

 

「もう鋭い子なんだから。それで、タバサちゃんは私に何を聞きたいのかしら?」

 

「あの治癒魔法は…何を直せる?」

 

タバサも少しあいまいな質問をすることで、引き出せる情報を多くしようとしていた。彼女も本日初対面の人間を信用してもらえるとは思っていない。それゆえ、多少強引でも話術で聞き出すしかないのである。

 

きっと強引に連れて行くのは…無理。そんな考えもタバサにはあり、戦っても勝てないというのが話術で挑んだ理由にあった。しかし、だからといって引き下がれるような話でもなかったのだ。ヴィータ達がはやてを護りたいのと同じように、タバサにも護りたいものがあるのだから。

 

しかし、それはタバサを警戒しているシャマル同様に、このことは親友となったキュルケにもまだ話せないことだった。

 

「あ、シャマル。私もそれ気になっていたのよ。良ければ教えてくれないかしら。」

 

すわ手の内や心の探り合いかとなる所で、話にルイズが入ってきた。

 

これは困った…他人ならともかく主の主にまで隠し事はさすがにまずい。たらりと嫌な汗がシャマルのうなじ辺りを垂れていく。

 

もういっそ全部簡単に話してしまうよりも、直接何がしたいのか聞いた方がいいと結論付けて、シャマルは癒しの風の効果の説明を始めた。

 

「うーん…難しい質問ね。体力、ある程度の精神力、傷とかは治せるけれどー…ここまでふたりとも気にしてるってことは、知りたいのはそういうことじゃないわよね?」

 

コクコクとふたりして可愛く首を振る学院二年生最少組。

 

「じゃあ、こっちから聞いちゃうけれど、二人は私に何を直させたいのかしら。」

 

「私は…」

 

タバサが口を開こうとしたところで、バン! と、厨房の扉が乱暴に開いた。

 

「ミス・ヴァリエール!! まだですか! そろそろ来ていただきませんと今度は夕食の時間が過ぎてしまいますぞ。」

 

ずかずかと入ってきたコルベールはルイズの前まで来てまくしたてた。

 

そんなコルベールを見たヴィータが、今ここに居ないザフィーラと闇の書以外の八神家の面々と、主の主であるルイズに念話で「せっかちだなぁ。そんなに時間経ってねーだろうにさあ…こんなんだからこのおっさん、何でもかんでも気を揉みすぎて、頭が薄くなっちゃったんじゃねーの?」などと言おうものだから、さあ大変。

 

思わず吹き出しそうになる念話を受け取った全員。コルベールはそんな彼女たちを訝しみ、マルトー達はむせたのかと水を用意しようとしたが、ルイズがそれを止めた。

 

「く、くくっ…す、すいません、ミスタ・コルベール。今向かいます。ええとタバサ、申し訳ないけれど後で…そうね、全員の紹介もちゃんとしたいし、虚無の曜日あたりにじっくりってことで、どうかしら?」

 

「構わない。」

 

ルイズは必死に笑いをこらえながらタバサへと約束をとりつけた。

 

仮に望みどおりの結果が得られても、タバサにはその後をどうにかする術がなかった為に素直にうなずいた。目の前まで来たチャンスを逃したかもしれなかったが、焦ることでもないのだ。

 

こうして彼女たちは食事を終えて出て行き、キュルケとタバサは授業へ。ルイズとヴォルケンリッター達、そして闇の書は全員そろってオスマンのもとへと向かって行った。




ギーシュさんお疲れ様でした。
おかしい。プロットの半分しか進んでいない。
さてこれからどう進めようかな。
10話でちょっと脱線も考えていますが、とりあえず虚無の曜日に行きたいです。

書いてるうちにUAが6000超えてた! ありがとー!!
次は明日…とはできません。ごめんなさい。
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