薄荷色の抱く記憶   作:のーばでぃ

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※注
・第11話「冬」からIF分岐したお話になります。
・原作救済(は無理だけどマシな方向にしたい)をテーマにした、現象の説明とか全く考えていない見切り発車です。


IF分岐 ―夢の瞳―
IF-01話「しんじゅ」


 

――何もかも想定とは違う。

一番ショックだったのは、連れて行かれた皆が粉にされてしまった事。

次にショックだったのは、先生が月人の為の道具だった事だ。

 

考え続けろと自分に言い聞かせた。

失い、奪われ、足搔けば足掻くほどに僕の両手から零れ落ちて行く。

それでも考え続けるんだ。考え続けなきゃいけない。

立ち止まって、正気になんて戻ったりしたら……きっと、崩れてしまうから。

 

例え粉になっても元に戻れるとルチルは言った。

だけど、砂粒よりも小さな粉にされて、みんな混ざって置き均されてしまったら、どうやって戻せば良いって言うんだ……?

アンタークは戻らない。

ゴーストも戻らない。

こんな状態で、元に戻れる筈がない。

 

――狂ってしまいそうになる自分を、必死になって押さえつける。

みんなを連れて行かせない。それだけ考えれば良い。

きっと、そうすればうまく行くはずだ。

 

月人が目的を達成できれば、みんなを連れて行く理由はなくなるとアイツは言った。

その為に……先生を動かし、月人を無に戻させるんだ。

 

「――恐らく……先生がまだ体験したことの無い事……」

 

今まで、月人は何度も何度も先生にアプローチし続けた。

永劫と言っていい時間をその為に使い続けた。

その全ての刺激は否定され、ボクは今ここにいる。

 

残った『未知』はどこにある……?

 

「それは――僕らの裏切りだ」

 

ああ、ボクはきっと、根っ子の一番大事な部分を失ってしまったんだな――思考のどこかでそんな事を考えている自分がいた。

 

今まで一緒に暮らしてきた仲間たちを言葉巧みに誘導し、この月に誘導する。

……ただ、先生を揺さぶる為だけに。

 

この行為が月人のやっている事と全く同じだと言う事には、必死に気付かないフリをした。

 

 

「――わかった。試す価値ありとしよう。だが、君が向こうに渡るなら――監視はつけさせてもらう」

 

 

――そして、僕の体はまた欠ける。

代わりに、合成真珠の左目と言う枷がつけられた。

まるで僕の選択を責めるように、胸のあたりからドロドロしたものが這い上がってくる。

 

立てないほどの揺れる視界に囚われて――僕の意識は、暗転した。

 

 

@ @ @

 

 

瞑った眼の奥がぐにゃぐにゃに揺れている。

 

「……王サマん所の氷河っぷりを見に来たら、なんかスゲえもんを発見してしまった件」

 

――意識の奥底で、そんな気の抜けた声が聞こえた気がした。

 

 

@ @ @

 

 

「……う、あ……?」

 

頭の中をかき回されたような気分の悪さが続いている。

それでも、意識は手繰り寄せられたようだ。

 

……なんだ、ここ……医務室……?

 

やけに学校の医務室に似ている気がする。

月人が真似して作ったのか?

いや、そもそもなんでこんな所にいるんだ?

 

「そうだ……確かエクメアに目を取られて、倒れたのか」

 

額を抑えながら記憶を反芻してみる。

僕の体は色んなものが合わさっていた上に、そこに元々多構造のラピスの頭まで取り付けてしまったものだから、髪を少し切るのすら何が起こるか分からなくて怖いってルチルが言ってたっけ。

そんな状況で目を付け替えても僕を維持できるなんて、つくづく僕のインクルージョンは図太いものだ。

 

「なあ、セミ……」

「みーんみんみんみんみーん?」

「――は?」

 

よくわからない反応をされて、思わず後ろを振り向いた。

 

「……へ?」

「やっはろー」

 

――知ってる顔がある。

 

明るく透き通った薄荷色の輝き。その髪が肩まで延びている。

ニコニコした無邪気な顔。その表情には影が見当たらない。

――遥か昔に、失った顔。

合金じゃない腕。

アゲートじゃない足。

戦争に出たいと先生にねだって居た頃の、無責任でポンコツだった頃の――

 

「昔の……僕?」

「おや、そうなの?苦労したんだねぇ」

 

なんか、スゴいのんきな声が返って来た。

 

「え……月人が合成したのか?昔の僕の頭にそれを取り付けて……?」

「失敬な。ボクは純100%、緒の浜産まれの歌って踊れたい皆のアイドル、フォスフォフィライト300歳だぜ?」

 

え……?

あれ……え……?

 

「……フォス、フォフィライト?」

「そだよー」

「僕の後に、産まれたって事……?え、300歳!?てことは僕は300年寝てたってこと!?――いや違う、それ以前にここは月じゃないのか!?」

「おちつけー、おちつけー」

 

宥めるように背中をさすられた。

その手付きがまるで先生みたいで、なんだか泣きそうになる。

 

「混乱しているんならさ。ゆっくり出来事を追って行けば良いんだよ。ええと……君の名前は?」

「……フォス、フォフィライト」

「……。こりゃ凄い。僕と同じだねぇ」

 

何も考えてなさそうにふにゃりと笑う。

……なんか、力が抜けるなコイツ。僕ってこんなにノーテンキだったか?

 

「じゃあフォス。君の目覚める前の、最後の記憶は?落ち着いてゆっくり整理しよう?――ボヤいてたの聞いたけど、月に居たんだって?」

「あ、ああ……。それで……目を、入れ替えさせられて……そのまま、意識が遠くなって」

「そこから目が覚めたらココに?」

「ああ……」

 

そうだ。

ゆっくり思い出して整理しても、さっきと同じだ。訳が分からない。

 

「――ねえ、フォス。良く聞いて」

 

昔の僕の顔をした彼が、僕に視線を合わせてやわらかく言った。

 

「ここは、月じゃないんだ。地球の、学校の医務室。緒の浜で生まれたように出てきた君を、ボクが見つけた」

「……学校……?そんな馬鹿な……っ!」

 

窓から入ってくる薄い光。

そこから見える外の景色は一面真っ白で訳が分からない。冬の仕事の時に見た、雪が見せる白だ。

……辺り一面の白は、月にもあった光景ではあるけれど。

 

……もしかして、『もう始まっている』って事なのか?

いつまでも起きない僕をエクメアが緒の浜に放り出したのか?

とりあえず皆を懐柔しろと?

 

――いや待て。それ以前……冬は当分先だった筈じゃあ??

 

「な……なにがなんだかわからない……」

 

頭がどうにかなりそうだ。

短い期間に色んな事が起こりすぎだよ……

 

「……うーん。もう少し状況を説明しようか?」

「……お願いします……」

「うん。――ここはね、鉱石で出来た体をした生物が住んでいる国でね……」

「あ、その辺りは大丈夫。……っていうか、僕ってどう見られてるんだろ?一応、この国で暮らしてた訳なんですが」

「そお?じゃあそうだな……今は見ての通り、冬の時期で仲間の大部分が冬眠してる。だけど、今年は月人の襲来がかなり変だったので、担当する人員を増やして交代で運用してる。

今起きてるのは、ボクと、先生と、シンシャと、アンタークの4人だけ」

「アンタークだってっ!!?」

 

忘れない。

色んな記憶を落として来てしまった僕だけど、それだけは絶対に忘れない……!

ボクの身代わりになって連れ去られてしまったアンターク。

月人に砕かれて、手を伸ばしても遠のいて行くアンタークのあの姿だけは、絶対に忘れない……!

 

「それに……シンシャも?シンシャも冬の担当を?」

 

忘れない。

自身から滲み出てくる毒液の為に、夜に閉じこもり心に蓋をしたシンシャ。

最初は……そう。

最初は……シンシャが夜から出れるような仕事を、探してあげたいって……そこから始まっていた、気がする。

 

彼が言う。

 

「今年の特別運用でね。先生とアンタークは据えたまま、最初はボクとシンシャが担当する。月人への対抗がてら、アンタークの冬の仕事も手伝ってるんだ」

「……え」

 

それって……このフォスフォフィライトが、戦争に出ているって事?

彼の体を上から下まで眺めてみる。

 

僕は、アゲートの足がつくまでまともに走る事が出来なかった。

僕は、合金の腕がつくまでまともに戦う事が出来なかった。

だけど彼の体には、そのどちらもついていない。

 

「……戦争に、出ているの?」

「へ?……ああ、ごめんごめん。別に戦争に出てる訳じゃないよ。ボクは体が脆いからまともに戦えなくってさぁ。

冬の担当は、戦闘員と非戦闘員から一人ずつ参加してるんだ。ボクは非戦闘員枠で、シンシャが戦闘員枠」

「待って、待って、色々待って」

 

あんまりサラッと話す物だから、ツッコミが全然間に合わない。

合金の手で両目を覆う。さっきまで月で大ショックを受けていたのに、こっちはこっちで大ショックだ。

 

そのまま数秒の間、何も整理できずに混乱したままで過ごした。

過去の僕の顔をした彼は、ニコニコしたままこっちを見ている。

――何も考えていないのだろうか。ああ、何も考えていないんだろうなどうせ。この顔の僕は結構そう言うフシあったわ。

 

「その……幾つか質問させて」

「もちろん、どうぞ?」

 

とりあえず……そう。確認だ。現状の確認。

僕の知っている事のすり合わせだ。

 

「アンタークは……連れて行かれた筈だよね?僕の身代わりになって、月人に」

「連れて行かれていないよ。まだ健在。ボクの知る限り、過去にアンタークが連れて行かれた事件はないね」

「シンシャは……夜に引き籠ってる筈でしょ?なんで冬の仕事に出られるんだよ」

「無理くり引っ張り出したんだよ、ボクが。シンシャは、毒液をある程度制御できるようになったから、しぶしぶ参加してくれた。彼は既に4器ほど月人を撃破してるけど、汚染と言えるような汚染は出してないよ。流氷割りも毒液を応用してソツなくこなしてる」

 

なんだよそれ……僕がシンシャにしか出来ない仕事を探していたのに、毒液制御出来たから普通に仕事出て来ましたってそれアリか?

 

「ゴースト……ゴーストは?この流れだと……もしかして連れて行かれてないのか?」

「普通にいるよ?図書館管理兼、長期療養所担当の非戦闘員だから、あまり連れて行かれる要素ない筈なんだけどなぁ」

「じゃあ……カンゴームは?カンゴームはどうしてる?」

「あー……ゴメン、誰だか分らない。新しく生まれた子かな?」

「いや……ゴーストの中にいるもう一人に、先生が、名前を付けて……」

 

――段々と。

まさか、そんな馬鹿なと言うような思考が首をもたげてくる。

……仮説を立てた。だけど、それでも辻褄が合わない。

 

「……ウェントリコスス、と言う単語に聞き覚えは?」

「あるよ。アドミラビリスの王サマの事だね。ボクの友達」

 

……。

……友達?

 

「ええと――ああ、ごめん。僕はそのあたりの記憶が曖昧で……なんか、海に行って足を失って、その代わりに貝殻に入ったアゲートと一緒に戻ってきたらしいんだけど、似たような事あった?」

「おー、ちょうど今年の事だよそれ。あったあった。結果はすこぶる違うけど」

 

嬉々として昔の僕が話し始める。

 

最初は月人がウェントリコススを学校に落とす所から始まり、そのまま食べられ、貝殻から復活し……ウェントリコススの言葉に乗って海を目指したんだとか。

ところがそれは実は罠で、目的地には月人が待っていた――と、僕の記憶の琴線にも引っかかる事を返してくれた。

 

――そうだ。

なんとなく、思い出した。

僕はそこで月人に足を砕かれて、連れて行かれそうになって……確か、ナントカとか言うアドミラビリスが大暴れしたおかげで助かったんだ。

 

だけど、彼は違うらしい。

最初から罠を想定して、海に行くメンバーに先生とジェードを入れていたんだそうだ。

海への遠征の目的は国交だったから、代表者とそれに近い者が行くのは殊更都合が良いだろうと。

……結果、月人の罠はことごとく先生が撥ね返し、大団円で帰還……と。

 

「――ああ、そうか。やっと解った。飲み込めたわ」

 

天井を見上げて嘆息した。

 

「お?解決?」

「解決解決。……つまりだね。僕は100年前の夢を見てるんだよ。夢だから都合の悪かった事は全部良い事に置き換わってるんだ」

 

やることなす事すべて失敗して来たからね。

少しは、うまく行っている夢ぐらい見たって良いじゃないか。

きっと僕のインクルージョンは、そんな気を利かせているに違いない。そう決めた。

 

「――夢かぁ、なるほど。じゃあさ、一つだけ教えてよ。

……君が見ているこの夢は、良い夢?それとも悪い夢?」

 

彼が僕にそう問いかける。

 

「アンタークがいるなら……シンシャが夜から出ているなら……良い夢に決まってる。それも、飛び切り良い夢だ」

「……そっか。それは良いね!

――じゃあ、もっと良い夢にしよう。説明だけじゃ実感ないでしょ?二人に会いに行こうよ」

 

そう言って、彼は僕の手をそっと取った。

 

 

@ @ @

 

 

昔の僕の顔をした彼は、どうやらこの夢の中では案内人的な役をしているらしい。

非常に都合がいい役のようで、僕の事をあんまり聞いてこないのだ。

なんでこんな色々ツギハギだらけの体になったんだとか、この合金の腕はどこまで伸びるのとか。

……特に、ラピスの頭がついている事とか、真っ先に気になる所なのにね。

いやいや、月に居たと知った時点で僕だったら質問攻めにしている自信がある。

……そうだ。彼は僕の事を聞かないでくれている。

ただ手を取って、ニコニコ笑いながら、近況や学校の中を案内してくれる。

あり得ない彼の存在も、僕がここを夢と判断している要素のひとつだ。

 

学校の中を回りながら、解らない事とかを色々教えてくれる。

100年前の学校は、あまり僕の知っている様相と変わっていないけれど、いくつか僕の知らない道具とかがあったりする。

筆頭としてホイッスルって言うのを見せて貰った。息を吹き込めば高い音が出る。

主に助けを呼ぶ時に使っているそうだ。用途が泣ける。

 

歩んできた事柄も随分違うらしい。

特にシンシャだ。

冬の仕事の他に、彼はなんと二つもシンシャの仕事を見つけていたと言う。

さすが夢の中の僕だ。

――後でその辺りを詳しく教えて貰おう。丸パクリしたい。

 

廊下を通りつつ、ついでだったのでウェントリコススの貝殻を見させて貰った。

大きなヒビの入った貝殻だ。と言うか、ヒビ以前にゴッソリ欠けている。

彼が取り出された貝殻なんだそうだ。

ウェントリコススに食べられちゃう所はそのままなんだな、この夢。どうせ改変するならそのあたりのカッコ悪い所も改変しなさいよ。僕が華麗にウェントリコススを返り討ちにした、とかさ。……ああ、戦えないんだっけ。

そういやこの殻、マジマジ見るのは初めてじゃないか?

結局、僕が取り出された後の貝殻がどうなったのか知らないままだな。誰かがどうにかしたんだろうけれど。

……起きて地球に戻ったら、なんとなく聞いてみようか。

 

「――先生!」

 

次に連れてこられたのは先生がいつもいる部屋だ。

格子の入った大きな窓を見上げていた先生が、その声に気付いて振り返った。

 

「ふむ――目を、覚ましたようだな」

 

……先生。

人間に作られた道具なのだと、月人は言った。

僕らが攫われているのは、月人が先生を道具として動かしたいから。

攫われた仲間たちは皆、粉にされてしまった。

ならば……みんなが粉になってしまったのは……先生のせいか……?

 

――僕は、先生から皆を奪って、月に連れて行くとエクメアに言った。

 

僕は今、どういう顔をしているのだろう。

僕は今、先生にどう言う感情を抱いているのだろう。

 

「緒の浜に倒れていた君を、フォスが見つけ、私が連れてきた。――体調はどうだ?」

 

体調……体調、か。

 

「あまり……良くはありませんね」

「……うーん……良い夢なのに?」

「――夢?」

 

先生の反応に対して、隣の彼が唇に指をあてて制してる。

それがなんか、浅ましい僕自身に庇われているようで、少し変な笑いが出た。

 

「……罪の意識とか罪悪感をハンマーの形に固めて、全身をボコボコにぶん殴られている気分だ。

――僕は決めた筈なのに。自分で踏み込んでおいて……今更後ずさりしたくなるんだ」

 

彼の指が、僕の目元を優しくなぞる。

その指についた金色を見て、その行為が僕の流した合金を拭いとる為の物だと気づいた。

 

「……大丈夫だよ」

 

優しい声が、少しだけ――辛い。

 

「時間はたくさんある。少しずつ、ゆっくり……時には立ち止まっても良い。後ずさりしたって構わない。

――少しずつ、整理をつけて行こうよ。ボクも、手伝うからさ」

 

まるで全部許してあげるとでも言うように、彼の手が背中を撫でてくれる。

 

「……ありがとう。さすが、僕の夢だ……なんて僕に、都合のいい……っ、」

「――夢の住人にも願いがあるよ」

 

彼が、言うのだ。

 

「ボクはハッピーエンドが好きだ。……だから、この夢を良い夢にしたい。そう思ってる。

……だから君も、手伝ってね?」

 

――ああ……聞いていたな。

良い夢なのか、悪い夢なのかって。

 

良い夢……良い夢にして、良いのかな……

散々バカやって境界線を踏み越えた僕が、良い夢を見て良いのかな……?

 

「いい夢見たって、良いじゃない。だって夢だもの。……誰にも迷惑、掛けないだろ?」

「……ありがとう」

 

夢だから――誰にも迷惑かけない、か。

ああ、それは……少しだけ、楽になれる言葉だ。

 

「……先生。報告はボクから、後程」

「構わない。……ただ、一つだけ教えて欲しい」

 

先生の手が、僕の頭にそっと触れた。

 

「――君の名前は?」

 

金色に滲む視界の中で先生を見上げる。

 

「……僕の名前は……フォスフォフィライト、です」

 

先生は少し驚いたように沈黙して、そのあと優しく言ってくれた。

 

 

「そうか――フォスフォフィライト。我々は君を、歓迎しよう」

 

 

@ @ @

 

 

「おー、いたいた」

 

学校の入り口に回ると、シンシャとアンタークがこっちに向かって歩いてきている所だった。

 

「……アン、ターク……」

 

――フラッシュバックする。

『先生が寂しくないように、冬を頼む』――そう言って砕け散ったアンタークの姿。

 

「あらかた雪下ろしは終わった。2日ほどは持つだろう。……そっちも、目覚めたようだな……?」

「アンターク……」

 

連れて行かれた。

 

僕のせいだ。僕の身代わりになって連れて行かれた。

何度も何度も後悔した。

あそこで剣を投げなければ。腕を伸ばしていれば。もっと早く腕を使いこなせていれば。もっと勇気があれば。

 

アンタークは――

 

「アンターク……アンタークっ……!!」

「……え?……お、おい……ちょっ、なんだこの腕……っ!?」

「アンターク――」

 

謝りたかった。

謝りたかったんだ。

ずっと君を探してた。

月で君が粉になっていると知った時、体の力が全部抜けて、目の前が真っ暗になるのを感じた。

 

――ここにいる。

アンタークは、ここにいるんだ……っ!

 

「――落ち着いて、『フォスフォフィライト』」

「……は?」

 

シンシャが声を上げている。

 

「アンタークは連れてかれてない。ここにいるんだよ。――だから、やりなおせるって事だ」

「……やり、なおせる……?」

「その通り。……ほら、腕離してあげなよ。君、頭まで変わっちゃってるんだからさ。

アンタークからしてみれば、名前の知らない奴がなぜか自分の名前を連呼しながら腕をにょろにょろ伸ばして迫って来てるって図だよこれ。怖くね?」

 

……。

 

……少し、正気に戻る。

意識してない内に僕は、合金の腕を伸ばしてアンタークを絡めとっていたのに気付いた。

 

「……それは……なんか、凄く怖いね」

「そーでしょうとも。ほれ、まずは居住まい直して自己紹介!」

「あ、はい」

 

急いで腕をもとに戻す。

ドン引きして固まっているシンシャとアンタークに対して、深々とペコリ。

 

「え、えーっと――フォ、フォスフォフィライトです。よろしくお願いしマス……」

 

……。

 

……。

 

「「――はああぁぁぁっっっ!!?」」

 

――とても変な声を上げられた。

 

……そうだよね。

例え夢の中であっても、こっちの方が普通だよねぇ……?

 

ドン引きさせてしまった……どうやって謝ろう。

色んな感情がごちゃ混ぜになった頭の中で、なんかそんな事を考えてる僕がいた。

これも一種の、現実逃避なんだろうか。

 

 

 

 

--------------------

 

 

 

 

 

金剛「――彼は?」

 

フォス「寝付きましたよ。いっそそのまま冬眠に、とも思いましたけど。しばらくボクの生活リズムに付き合って貰うつもりです」

 

金剛「うむ、それが良いだろうな」

 

アンターク「……で、結局何なんだ?あいつ」

 

フォス「フォスフォフィライト、だよ。多分間違いないと思う。足はアゲート、腕は金と……白金かな?で、頭はラピスを取り付けて、左目は……なんか良く分からんかったけど」

 

金剛「あれはおそらく、真珠だろう」

 

フォス「――っスか。あの目だけくせ者ですよ。なんかぼうっと光ってたし」

 

シンシャ「……とりあえず、アイツについて、分かった事を聞かせてくれ」

 

フォス「あいあい。彼の言動を信じるなら、彼は月に連れて行かれたフォスフォフィライトだ。目を入れ替えられて気絶したら、なぜか緒の浜にいたらしい」

 

アンターク「この時点でツッコミどころ満載だな」

 

シンシャ「……そして、やっぱり、月人か」

 

フォス「月人によって目を入れ替えられたくさいから、あの真珠の目は何らかの監視、記録機能を持ってると疑った方が良いかもしれないね。

――ただ、警戒するべきかと言われるとチョッと迷いつつある」

 

シンシャ「……アイツの言ってた経歴だな」

 

フォス「そう。彼にとって、今は彼の感覚から100年前の冬に当たるらしい。ただしそこに至るまでの経歴は、実際のボクらの経歴と符合しない。

どうやら彼は、王サマ騒動の時に一人で海に入ってそのまま罠に掛かり足を失ったようだね。どうもアドミラビリスと疎遠みたいだから、国交も無かったようだ。

……罠が成功してしまったのなら、王サマが罪悪感に潰されて関りを絶ったんだと考えられる」

 

金剛「あの時の、もう一つの結末か……」

 

シンシャ「いや、って言うかそれを信じるんですか?」

 

フォス「少なくとも本人は嘘をついていないとボクは思ってる。

シンシャは夜に閉じられ希望が無いまま過ごし、アンタークとゴーストは連れて行かれたそうだ。

……反応からしておそらく、彼とコンビを組んでいた可能性が高い」

 

アンターク「……コンビを?私が?フォスとか??」

 

フォス「いつ変わったのか知らないけれど、パーツの入れ替えによって戦闘能力がつき、戦争に参加していた可能性があるね。あの合金の腕は便利そうだったし、ともすればシンシャと同じような戦い方も出来るのかもしれない」

 

シンシャ「……汚染の心配なさそうで羨ましいな」

 

フォス「僻まないの。……相当ハードな生き方してたみたいだよ。合金の制御が出来ずに、体にヒビを入れるぐらいだ。精神がボロボロで不安定になってる」

 

金剛「……あの目を、あの顔を、私は何度も見てきた。私の力が及ばず月人の誘拐を許してしまった時の……絶望と後悔にまみれた時の顔だ。

最も酷かったのはイエローだ。……あの時のイエローと、同じ顔をしていた」

 

フォス「体を失い、仲間を失い、その度にツギハギして生きて来たんだと思う。

……もしくは、そんな記憶を月人に埋め込まれた、か」

 

アンターク「記憶を埋め込むって……可能なのかそんなこと!?」

 

フォス「ナノマシン説が正しければ理論上可能だよ。ただ、月人にそんな技術があればボクらは既に終わってると思う。だから、その説は個人的には信じがたいね。

 

――荒唐無稽をそのまままとめてみよう。

彼はボクらと違う歴史を歩み、100年後に至るまで体と仲間を失いそれでも足掻き続け、ついに月人に捕まり左目を入れ替えさせられて、その後何故かボクらの時間軸に飛び込んで来たフォスフォフィライトだ。

そして今、都合のいい夢を見ているんだと信じている」

 

シンシャ「……」

 

アンターク「……酷いな。そのまとめを信じるかどうかは置いて……酷い」

 

フォス「……先生、お願いがあります。解くべき謎は山ほどあります。もしかしたら仇となるかもしれません。だけど……彼を受け入れて貰えませんか。

もし彼が月人側であっても、王サマの時みたいにきっと抑えて見せます」

 

シンシャ「フォス……お前がそこまで言う理由は何だよ?」

 

フォス「……なんとなく、思ったんだ。きっと本当の意味で、彼はもう一人のボクなんだろうなって。『記憶』を持たなかったボクなんだろうなって。

ボクに記憶が無かったら……こんな性格だからさ。彼の言う通りの道を、歩んだような気がしてくるんだ」

 

シンシャ「……」

 

フォス「それに、先生はイエローを例にあげたけど、ボクはちょっと前のモルガを思い出した。

――ボクはさ。ああ言うの、イヤなんだ。キライなんだ。ああ言うの……」

 

金剛「――許可しよう。もとより、受け入れるつもりだった。彼を助けてあげなさい」

 

フォス「先生……ありがとうございます」

 

シンシャ「……解ったよ。もとより、お前ひとりだけに押し付けて放っとく気はない。俺も、何が出来るか分からないけど……協力する」

 

アンターク「私が連れて行かれたと言っていたな……私も、気にかけてみる」

 

フォス「シンシャ、アンターク……ありがとう」

 

金剛「――ふむ、しかし差し当たって問題が出てくるな」

 

フォス「ふえ?」

 

金剛「名前だ。フォスが二人ではややこしいだろう」

 

フォス「ああ、それなら大丈夫ですよ!」

 

金剛「うん?」

 

フォス「ボクがフォス=ワンで彼がフォスツーと――」

 

金剛「明日彼を呼んで相談してみよう」

 

アンターク「そうですね」

 

フォス「いけずぅ」

 

シンシャ「……。お前がアフォスで十分なんじゃないか……?」

 

フォス「……いけずぅ」

 

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