薄荷色の抱く記憶   作:のーばでぃ

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※ 今回は議事録と言う名の会話形式になります。苦手な方は非読推奨。説明多いわりに実はあまりストーリーの中に食い込みません。
※ 特殊形式につき、今回の博物誌はお休みです
 


第09話「議事録」

○○○○年○○月○○日

 

◆参加者

・金剛

・ジェード

・ボルツ

・ルチル

・ペリドット

・アレキサンドライト(略:アレキ)

・フォスフォフィライト(略:フォス)

・シンシャ

記:ユークレース(略:ユーク)

 

◆議題

・遠征時の学校の状況について

・遠征の結果について

・アドミラビリスとの国交について

・月人について

・その他報告など

 

 

◆遠征時の学校の状況について

 

金剛「今回、フォス提案ユーク監修の特殊シフトだったな。全員無事なのは事前に確認できたが、改めて発生した要項の報告を頼む」

 

ボルツ「はい。まず、月人3器の襲来がありました。新型1器、旧型2器の編成で、方角としては中の平原と白の浜から挟み込むような形で同時襲来しました」

 

ジェード「っ、3器同時だと!?……と言うことは、戦術もか?」

 

※注:3器同時襲来は過去にもあり、その際月人は1器霧散されると速やかに退避する戦術を取っていた。それを敗走と見て深追いした宝石は、ことごとく帰ってきていない。

 

ボルツ「戦術が同じかまでは判断できなかった。シンシャが月人の攻撃が始まる前に、遠距離から3器を同時撃墜する事で終わらせたからだ。戦闘はほぼ数秒で終わった。1器新型と判断したのは、サファイアで作られた複数の牙のような武器が残されたからによる」

 

フォス「わぁお、さすがシンシャ」

 

ジェード「……え。あれ、今3器同時撃墜って言ったか?新型も含めて?」

 

ボルツ「ああ、僕のする事はほぼ無かったよ。精々、新型が落としたサファイアの回収ぐらいだ」

 

金剛「――素晴らしい。フォスが今のシンシャに任せれば問題ないと強く推していたからあまり心配はしていなかったが……良くやってくれたな、シンシャ」

 

シンシャ「い、いえ……それでも、多少の汚染を出してしまいました」

 

金剛「――はて?私達は緒の浜から中の平原を通って戻ってきたが、毒液に満たされた様子は見受けられなかったと思うが」

 

ボルツ「シンシャの言う汚染とは、合わせて500ml程の毒液の飛沫を指します。この程度であれば、被害無しと判断してよろしいかと」

 

ジェード「想像を大きく上回る制御力だな。……シンシャ、昼の見回り出来るんじゃないか?」

 

シンシャ「だ、ダメだっ!!……最近は月人の動きも活発だ。まだ汚染を出してしまう俺が見回りについたとして……何か起こってからじゃ、遅いだろ」

 

金剛「……ふむ。私もジェードと同じ意見だったが……シンシャがそう言うのなら、尊重しよう。しかし、気が代わったらいつでも言って欲しい。この戦果はそう判断するに足る物だ」

 

シンシャ「……ありがとう、ございます」

 

フォス「シンシャ、ちなみにオーバードライブは使った?新型が混じってたらしいけど」

 

シンシャ「その名称を流布させようとするなよ……使ってない。普通に撃破できた」

 

ボルツ「何か奥の手があるのか?」

 

シンシャ「理論上の話だ、まだ使ったことがない。俺の攻撃は基本的に全ての毒液を制御内に置く事を前提としているが、それを手放せば遥かに高い威力と射程を持った攻撃が可能な筈なんだ。撃った毒液球が目標を貫き、遥か彼方に飛んでいく」

 

ジェード「……もうシンシャ一人で良いんじゃないか?」

 

ユーク「だよねぇー。遠距離攻撃があれば防衛計画にもスゴい幅が出てくるんだけどな」

 

シンシャ「……ダメだ。そう言ってくれるのは、嬉しいけど」

 

ユーク「うーん、残念」

 

フォス「時にユーク、その月人襲来があったのって何時ぐらいかわかる?もしかして夕方近かった?」

 

ユーク「え?……うん、そのぐらいよ。何かあったの?」

 

フォス「ちょうどボクらがエンカウントしてた時かな。これ分析も合わせて後の議題に回すわ」

 

ユーク「はーい」

 

 

◆遠征の結果について

 

ジェード「では遠征について報告する。

結果として、肉の者――アドミラビリスとの国交を結ぶのに成功し、月人とコンタクトする事にも成功した。分析に足る情報もかなり抜き出している」

 

アレキ「――月人と、コンタクトできたの!?」

 

フォス「うん。普通にボクらの言葉喋ってたよ。この件も後の月人の議題に回すわ。横に逸れやすいから」

 

アレキ「……普通に喋るとか嘗めてるわね……了解」

 

ユーク「時に、ちょっと良いかな?さっきのジェードの言い方だと、アドミラビリスが肉の者って聞こえるんだけれど」

 

ジェード「ああ、間違ってない。アドミラビリスの住んでいる海域に近づくと、私達と同じ様な形に変態したんだ。ポヨポヨした柔らかい体で、ヒラヒラした服のような膜を纏っていた。腰から下は、いくつかの触手で出来てたな。あと胸の位置にふたつ水袋がついてた」

 

ペリドット「ヒラヒラした服……レッドが騒ぎそうだなぁ」

 

ユーク「あれ?ならなんでここで国交結ばなかったの?国を視察させたかったから?」

 

フォス「うん、その辺りの経緯はボクから説明するよ。

――王サマね。弟にアクレアツスって人がいるんだけど、その人と引き換えにボクたちを誰か海に連れてこいって月人に強要されていたんだ」

 

シンシャ「……やっぱり罠だったんだな」

 

フォス「案の定でございました」

 

ジェード「え……ちょっと待て、シンシャ気付いてたのか!?」

 

シンシャ「事前にフォスに相談受けてたんだ。月人が故意に送り込んだやつの言葉にしたがって未知の場所に行くって、もう罠にしか取れないなと……どうした?」

 

フォス「ああ、うん。直前まで罠だった事に気付けなかったのがダメージになってるみたいなんだ。そっとしといてあげて。

――話戻すけど、あらかじめ罠を踏み潰す前提でメンバーを組んでたからね、特に被害は無かったよ。

向こうもまさか先生が来るとは考えて無かったみたいだしね。アクレアツスを人質にボクとジェードを寄越せって脅してきた。

で、それを逆手に取って色々情報ぶっこ抜いて来ました。アフォスさんでも手玉に取れるガバっぷりには流石のボクも苦笑い。思った以上にチョロかったわ」

 

ジェード「……真に受けるなよ。私がやってたら絶対連れ去られたと思う場面が幾つもあった。なんであんな鮮やかな切り返しが出来るんだ……」

 

ユーク「えー?気になるなぁ。具体的にはどんな会話だったの?」

 

ルチル「あ、私も気になります。差支えなければ、是非」

 

ジェード「議題からブレるので、後でやり取りを書き出してみる。と言うか、私はアレを直で聞いて衝撃を受けたので、どっちにしろ記録するつもりだったんだ」

 

フォス「どんだけぇー……切り口から考えれば、王サマの反感買う内容だったのになぁ。

――まあ、いいや。話を戻すね。

情報ぶっこ抜いた後あたりで月人が自爆してね。アクレアツスが目を覚ます切っ掛けを作ってしまい、最終的にアクレアツスになぎ倒されて全滅と相成りました。このアクレアツス、ボルツみたいな戦闘特化の人だったのね。

喩えるなら、ボルツの手足を麻紐で縛って眠らせた状態だった所に、自分で光を当てた感じ」

 

ボルツ「……麻紐なんて、起きてさえいれば髪で切れるぞ」

 

フォス「そうよねぇー?……今回は月人のガバっぷりにかなり助けられましたわマジで。

後はまあ、アドミラビリスと国交を結んで、今後の事を少し話して帰って来たわけね」

 

ルチル「――戻ってきたとき、フォスがバラバラだった事については?」

 

フォス「アクレアツス大暴れの折に。月人の雲から海に落ちてああなりました。砕けてたのはボクだけだった所とか泣ける」

 

ルチル「……騙されて、体をバラバラにされて……その原因の一端を担ったアドミラビリス相手に国交って、あなた思う所は無いのですか?食べられてすらいるのですよ?」

 

フォス「無いよ。ぜんぜん。まったく」

 

金剛「――今回、一番被害の大きかったフォスが真っ先に許した。だからこそ、私もその件は考えない事にしたのだ。

……曰く、『いいさ。ボクと王サマの仲じゃない』だそうだ。――こんなにあっさり言われてしまえば、な」

 

シンシャ「……ずいぶん、仲良くなったんだな」

 

フォス「うん?……おやぁ?」

 

ルチル「おやおやぁ?」

 

ユーク「おやおやおやぁ?」

 

シンシャ「な、なんだよ!?べべ、別に普通の事言っただけだろ!?なんだよその反応っ!

って言うかユーク、なんでこんな所記録してるんだよ!?やめろ!!」

 

ユーク「きまりですのでー」

 

 

―追記―

 

ユーク:この議事録は教科書書き換えレベルの経緯、情報が記録されている為、機密レベルを最低に下げ、全員が容易に閲覧できるように設定する事を申請。

 

金剛:――承認。

 

 

◆アドミラビリスとの国交について

 

フォス「現状、アドミラビリスは王サマとアクレアツスの二人だけだから、ここから頑張って繁栄させて行く事になる。

月人を揺さぶれた事から、今後月人と交渉出来る機会があればアドミラビリス奪還を考えてみようかって聞いてみたけど明確に拒否されたよ。それで得られるものはボク達の利益とするべきで、これ以上甘える訳にはいかないってさ」

 

ペリドット「って言うか、私達と一緒に暮らせば良いのにな」

 

フォス「問題が二つあるんだ。まず、ボク達の国の砂には栄養があまりない為、食べられる物が少ないんだよ」

 

ボルツ「……そうか。動物は食べなければ動くことが出来なくなるんだったな。……面倒な」

 

フォス「二つ目。海域から出るとそのうちウミウシの状態に戻っちゃうのよ。人型の時は普通に会話出来るんだけど、ウミウシだとボクしか声が聞こえなくなっちゃうんだ」

 

ルチル「医師から補足です。フォスのみ会話できる現象ですが、仮説としてアドミラビリスにもある程度のインクルージョンが棲息しており、フォス補食の際にそのインクルージョンが一部フォスに取り込まれた事による物と考えられます。

実際、フォスの身体検査をした折に数グラムの体重増加が見られました。……と言ってもインクルージョンだけの数値としては少々多いので、整形の際に王の貝殻の組成がコンマ数パーセント混じったものと思われます。

この仮説が正しければ、アドミラビリスに一度取り込まれて再整形するか、もしくは王の貝殻を粉末にして飲むなどの方法で取り込むかすれば、フォスと同じ能力を得られる可能性は否定出来ません。

――ただし、医師としてはこれらは絶対に推奨出来ない行為です。前者は特に」

 

金剛「ああ。この件については、例え申請が来ても承認するつもりはない事を明言しておく」

 

フォス「ルチル、先生、補足ありがとうございます。

――そんな訳で、ウチとしてはまず二つの事をやろうと思うの。

ひとつ、アドミラビリスの大使館を用意する。

……と言っても何か建てるとかじゃなくて、アドミラビリス用の客室や食料を用意するって程度だけどね。

ふたつ、これが重要なんだけど……アドミラビリスとホットラインを繋ごうかと」

 

ペリドット「ほっとらいん?」

 

ジェード「2国間で直接対話する為の通信ラインの事を言うそうだ。それがあれば離れていても会話ができる。本来高度な技術を用いて準備するが、今回は光を使って原始的な方法で行うのだとか」

 

フォス「おふこぉーす!詳しい手法については一度技術面とかを含めて練ってから王サマと相談だけど、具体的には光を点けたり消したりの組み合わせで会話するのさ。モールス信号って言うんだけどね。

アドミラビリスの海域は緒の浜から見える距離にあるから、このやり方が使える」

 

ペリドット「光をつけたり消したり……」

 

フォス「そう。例えば木箱を用意して、クラゲに被せたり出したりとかね。……でもこれは極端な方法だから、できれば専用の道具を作りたいのよ」

 

ペリドット「……なるほど。なら、技師組の出番と言う訳だな。」

 

フォス「そう言う事。詳しい仕組みについては別途相談させてね。――んで、このホットラインの肝になるのはシンシャなのです」

 

シンシャ「……え?」

 

金剛「うむ、この構想を聞いた時点で許可した。……シンシャ、お前には通信使の仕事を新しく頼みたい」

 

シンシャ「……つうしん、し」

 

金剛「そうだ。この通信は光を使って行うため、視認性を上げる意図で夜に行われる。ならば夜でも行動が可能な者が適任だ。さらに点灯信号を解読、構築できる賢さも必要になる。夜の見張りと協合する事ができ、さらにシンシャは普段緒の浜近くの崖の洞窟にいると聞いている。

――これ以上の人選はない」

 

フォス「アマルガム計画は時間が掛かり過ぎるしね。夜から出る事は出来ないけれど、君しかできない、意義のある仕事だと思う。……きっと、楽しいと思うんだ」

 

シンシャ「フォス……俺の、為に……?」

 

金剛「モールス信号の対応表が無い為、仕事の内容には信号表の作成も含んでいる。……シンシャ、頼まれてくれるか?」

 

フォス「もちろん、ボクも手伝うよ」

 

シンシャ「……。

 

――はい、わかりました。尽力いたします」

 

金剛「よろしく頼むぞ」

 

 

◆月人について

 

アレキ「うっし本題ね。待ちわびたわ」

 

ボルツ「一口に月人についてと言っても、今回考える事が少し多いな。細分化するべきだと思うが」

 

フォス「そうだね。まずは月人の目的から行こうか」

 

 

①月人の目的について

 

フォス「これまで月人は装飾品や道具に攫った宝石の一部を使ってたことから、装飾品その他に加工する為にボクらの体を狙ってると思われてました。

しかし、希少性が高い筈の宝石の取り扱いは杜撰の一言。ボクらの誘拐と言う低成功率のミッションにわざわざ装飾品つけてきたり、なんか矢の鏃だの今回は牙だっけ?だの見せびらかす度に取り返されています。これもうワザと返してるんじゃないの?と分析していましたが、その理由が分かりませんでした。

しかし今回、月人のあっぱっぱーからそのヒントになるかもしれないセリフを頂きました。はいドン!」

 

<そこの壊れかけた機械が王子の言う事を最初から聞いていれば、このような悠久に等しい時を無為に過ごすことも無かったのだ!!>

 

フォス「金剛先生への罵倒にすら情報を噛ませてくる驚異のあっぱっぱーセンス、なんかもう色々草生えるわ。シリアスシーンなのにあんまり収穫デカ過ぎるもんだからフォスさん笑いを噛み殺すのに必死でしたよガチで。

 

これ聞く限りだと、3つの事が分かります。

1. 月人はボクらが知らない先生の出生を知っており、おそらくその情報ソースは先生以外である。

2. 月人は先生にしか出来ない何かを実行させようとしているが、現在それが停滞し続けている。

3. 月人は『王子』と呼ばれる命令系統を上に置いて活動している

 

で、ワザと返してきてる理由だけど……2をさせる為に先生煽ってんじゃねぇの?と言うのがボクの意見。ボクらの誘拐も含めてね」

 

アレキ「待って待って、ちょっと聞き慣れない単語出てるからまずはそれの確認させて。まず『キカイ』って何なの?先生が『キカイ』ってどう言う意味?悪口?」

 

フォス「あ、そっか。ええっとね……人間が作った、目的を達成するための動く道具、と言えるかな。例えばペリドットと一緒にガリ版印刷作ったけど、あのコピーの過程を全自動でやってくれる物があったりする」

 

ペリドット「へぇ、便利」

 

アレキ「フォスが昔言ってた『記憶』ってヤツか……人間って実在したのね。先生がその人間に作られたって言うのは何と言うか……少し、複雑だわ」

 

ボルツ「ふむ。……先生。先生が人間に作られた道具と言うのは、本当ですか?」

 

金剛「……本当だ」

 

フォス「……。……そこは、答えちゃうんですね」

 

ユーク「ルチルの推理、大当たりだったねぇ」

 

金剛「……え?」

 

ルチル「元はフォスの推理ですけどね」

 

金剛「……え?」

 

ペリドット「なんだよお前達、気づいていたのか?」

 

フォス「まあうすうすは。確定したのは、この間先生の組成がロンズデーライトだって解った時だよ。純粋なロンズデーライトは合成する事でしか得られないと考えられてるからさ」

 

ボルツ「聞いた事のない名前だ」

 

フォス「六方晶系のダイヤモンドの事だよ。ボルツのお仲間だけどモース硬度は10を上回ると言われてる」

 

ボルツ「ほう……10が最硬度ではなかったのか」

 

金剛「……あの」

 

フォス「うん?――ああ、すみません。議題からズレてましたね。ええとなんだっけ……そう、単語の話だった」

 

金剛「いや、そう言う事ではなく……」

 

フォス「え?」

 

金剛「……。すまない、何でもない。続けなさい」

 

フォス「はい。で、アレキ。次は『王子』で良いのかな?」

 

アレキ「そうそう」

 

フォス「簡単に言うと、王サマの子供の事だね。ウェントリコスス王にオスの子供が出来たらそれが王子。メスだったら王女になる。国の代表者のオスの子供、が定義としては適切かな。だからもしかしたら、月の王がいるかもしれないね」

 

アレキ「なるほど……この国で言うなら、先生が子供作ったカンジ?」

 

フォス「そうそう、先生が誰か孕ませたカンジ」

 

金剛「……悪意のかおる言い回しはやめて欲しいのだが」

 

フォス「時に、月人が先生に何をさせようとしているか、お話しいただく事は出来ますか?」

 

金剛「……すまないが、答える事は出来ない」

 

フォス「言葉を確認します。『答えたくない』『知らない』ではなく、『答える事は出来ない』なんですね?」

 

金剛「その通りだ」

 

フォス「了解です。――ではもう一つ。月人の要求に応えないのは、『応えたくない』『応える事が出来ない』のどちらか教えて頂く事は出来ますか?『回答できない』『回答したくない』でも結構です」

 

金剛「……。……すまない」

 

フォス「――それは『回答したくない』で受け取って良いですか?」

 

金剛「……」

 

ジェード「……フォス」

 

フォス「うん、ごめんなさい。ボクも無理に聞き出そうとは思って無いです。とりあえず、月人の目的を単語化するなら『先生に何かをさせる事』と言う所で止めておきましょう」

 

ジェード「教科書書き換えは据え置きだな。この会話の記録も――」

 

金剛「いや。記録は残しておきなさい。閲覧権限を高める事も不要だ」

 

ジェード「……先生」

 

金剛「――すまない」

 

フォス「じゃ、次に行きましょう」

 

 

②月人の行動と対策について

 

フォス「ユーク、今回の月人襲来だけどさ。間の原方面から来た奴が新型だったりする?」

 

ユーク「え?……ゴメン、それは把握してなかった。シンシャ?」

 

シンシャ「それで合っていたと思う。……王の貝殻の件か?」

 

フォス「さっすがシンシャ!――多分、今回月人は3段構えの作戦だったと思うんです。

1段目は王サマを送り込む為に学校に襲来した月人。可能であればそのままボクらを誘拐する。

2段目は王サマの罠。海に誘い出してそのまま捕獲。

そして3段目は……学校に襲来して、王サマの貝殻を回収。王サマが1段目の折に誰か食べていたら、この段階で誘拐が成立する。先生を煽る目的なら、ついでにここで王サマを殺害できればベストだね。

貝殻の回収は確実性を上げたいから、向かわせるなら新型かなと思ったんだ」

 

ジェード「ッ、そうか!あの時の月人は間の原の方面から来ていた!!」

 

フォス「最初の出現位置が切の湿原で、そこからすいーっと移動したってのは月人の限界を感じさせるね。黒点を出せる場所は決まってんのかもしれない」

 

金剛「切の平原から間の原を通って学校に、とかなりの距離を移動しているからな。最初から学校上空に出ていれば足りる話だ」

 

ボルツ「あるいは王を乗せていた事、先行して1器出現していた事も何かを限定する要素に絡んでいる可能性はありますね」

 

ユーク「……怖いね。シンシャがフォスに気付かなかったら、2段目と3段目は成功していたかもしれないよ」

 

フォス「2段目成立は会話が前提条件だからそうはならないんじゃ――いや、もしかしたら王サマなら何らかの方法でやり遂げちゃうかもしれないな。

ちなみに、3段目を行うには複数器同時襲来が効果的だ。もしかしたら最近の頻繁な月人襲来は、この同時襲来を疑問に思わせない為の布石だったのかな?」

 

シンシャ「――もしくは先生が出張る機会を増やし、『瞑想』させる確率を上げる為……とも取れるな」

 

アレキ「ちょっと、それ……かなりガチで捕りに来てるわね。今回はフォスが全部読み切ったから良かった物の、今後もこのレベルの読み合いしないといけないワケ?」

 

ユーク「そ、そんな!?僕の立てる作戦計画はほとんど統計を根拠にしているのに、こんな搦手を連発されたら……フォ、フォス助けて!」

 

フォス「ボクかて毎回読み切る事を期待されるのは困るんですが……まあ、最大限協力はするけどさ。

しかしこのやり口――王サマがぼやいてたけど確かに『人間』のやり口その物だと思うわ。それも、目標達成の為なら外道行為もコラテラルダメージの一言で済ますタイプの!

使った手駒があっぱっぱーだったのが救いだわ。

……さっきまで、もしかしたら今後は月人の行動は交渉にシフトするかもって思ってたんだけど、搦手で押し込まれる事も考えた方が良いかも」

 

ユーク「ううぅ……そう言えばフォス。話ズレるかもしれないけど、月人襲来の時間気にしていた件は?」

 

フォス「そう、それ。忘れるとこだった。

ボクらが月人とエンカウントしたのが、どうも学校の月人襲来と同じ時間くさいんだ。月人は待ち伏せ策を取ってたから、その時間はボクらの速度にどうしても依存する。

――ってー事はだよ?月人は離れた場所と会話できる技術を持ってる可能性がある」

 

金剛「……私が参加していた為に大急ぎで3段目を実行したか」

 

フォス「そんな感じです。……対抗する為には、こちらも離れた状態で通信できる手段が欲しいな。無線通信は無理として……例えば狼煙?」

 

金剛「個人による火の使用は簡単には許可できない。火の取り扱いについては細心の注意が必要だ」

 

シンシャ「俺が担当する光信号を汎用化するのは?……いや、間に障害物が入る状況が考えられるか」

 

フォス「あちこちに通信拠点としての塔を建てて、それぞれに通信使置ければまた話は別なんだろうけどね」

 

ペリドット「フォスが持ってるホイッスルを皆に回すのはどうだ?音色が違う奴を何種類か作って、状況によって吹き分けるとか」

 

フォス「いやあれ、同じような音色を作るの大変だって言ってたじゃない。――あ!そう言えばホイッスル王サマに溶かされてそのまんまだ、あっぶね!」

 

ペリドット「ああ、後で作ってあげるよ。音色の件も……本気で取り掛かった訳じゃないからさ。研究期間くれれば、意地でも何か考えて見せるさ」

 

シンシャ「――議題からズレてる。遠距離通信方法を模索する事、で結論は止め置いた方が良いんじゃないか?俺も、光信号の研究を進める上で何か思いつくかもしれない」

 

ジェード「そうだな。掘り下げると技術面の話が大きくなる筈だ。ひとまずはその結論で良いだろう」

 

 

◆その他報告など

 

ジェード「重要案件は大体出揃ったな。濃い話題の後になったが、細かい報告などはあるか?」

 

ユーク「あ、はい。来月以降の見張り計画、池に落としてしまったのでお時間頂いていましたが……今回の内容も含めて、一度練り直させて頂けないでしょうか」

 

金剛「もちろん構わない。しかしあまりムリはするな。方針が不透明な中で計画を立てる事は難しい。事ここに至っては、ユーク一人に任せる気はない」

 

ユーク「ありがとうございます」

 

フォス「あ、ならまだアイデア段階ですが、ダイヤを技術補佐として兼任頂く事は出来るでしょうか?ダイヤの器用さは目を見張る物があります。要領も良いので、仕事に適応するのも早いんじゃないかと」

 

金剛「ふむ。ペリドットとスフェンでは足りないか?」

 

フォス「望遠鏡を開発出来ないかと思ってるんです。ガラスレンズは火を使う為難しいですが、屈折率と透明度が高いダイヤモンドをレンズに使用する事が出来れば、ガラスよりも効果の高いレンズが作成できるんじゃないかと。

通信系で手が足りなそうと言うのもあるんですが、ダイヤの加工を扱うのであればダイヤの方が適性が高いと思うんです」

 

金剛「――ッ!成功すれば見張り計画に幅を持たせる事が出来るかもしれないな。許可しよう。ただしダイヤの意思は尊重しなさい」

 

ボルツ「ぼうえんきょう、と言うのは?」

 

フォス「遠くを見る為の道具だよ。より遠くを見る事が出来れば、月人の早期発見や見張りの負担軽減に繋がるかもしれない。

……あと、同様の技術を使えば顕微鏡が作れる。コッチは近くの、とても小さなものを見る為の道具だ。インクルージョンの観察が可能になれば、医療技術の研究も進むと思う」

 

ルチル「!?それはとても素晴らしいですね!材料の確保ぐらいは私にもできると思いますし、ぜひ協力させてください!」

 

ペリドット「ダイヤが無理そうでも、私たちで頑張ってみるよ。それはとても役に立ちそうだ」

 

フォス「みんなで頑張ろうっ!」

 

ジェード「うん、希望が見えて来たな。……他にないなら、最後に私から。議題の中にあったフォスの交渉記録だが、この後書き起こそうと思う。興味のあるものとフォスはこの後会議室に残って欲しい」

 

フォス「え……あれ?ボクも?なんで?」

 

ジェード「意図が分からない所を解説して欲しいんだ」

 

フォス「そんな大層なもんじゃないと思うんだけどなぁ……とりあえず、りょーかい」

 

ユーク「結局全員残ったりして。……残る人、お手上げー?」

 

フォス「ちょっ、マジで全員っスか!?ナンデ!?ボルツと先生もナンデ!?」

 

ボルツ「月人が喋った内容も出てくるだろう。心理戦のたたき台に使える」

 

金剛「今回は私としても学ぶ所が多かったからな」

 

ユーク「じゃあ、このまま交渉記録に突入だね。――では、この会議としての記録はこれで切りますね」

 

ジェード「ああ。お疲れさまでした」

 

一同「お疲れさまでした」

 


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