薄荷色の抱く記憶   作:のーばでぃ

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IF-02話「決意」

 

僕の小さな欠片が寄り集まって行く。

カチリカチリと乾いた音を立てながら、僕の体が組みあがって行く。

気付けば僕は、大きな多数の泡で作られた何かの上で目覚めるのだ。

 

「……。久々に見たな、この夢……」

 

なんて言うんだっけ。

ええと……そう、明晰夢。

夢の中に居て、夢だと解る奴だ。

ラピスの頭つけて起きたばかりの時に良く見ていたんだよね。

 

「この短期間でまたずいぶん散らかったよね」

「――ラピス」

 

僕の頭の元になった宝石。

青い長い髪を右手で掻き上げながら、ラピスが周りを見渡している。

この多数の泡は記憶の塊だ。

この散らかりようが彼女には我慢ならないらしい。

 

「んもー、夢の中でぐらい休ませてくれたって良いのにさ」

 

……うん?夢?

でも僕はさっきまで夢を見ていた訳で……

――ふむ。夢の中で夢を見てるのか。新しいな。

 

「見事なまでの思考放棄だねぇ……まあ、気持ちはわかるよ。僕も同じ状況になったら色々放り出したくなってくるかもしれない。

……何だかんだ言って、自業自得の点は多々あれど、君は実質300年の若さで他の石たちには無いハードな生き方をしてきたんだものね」

「わかってるならー……すこぉーしそっとして置いてくれても良くないかなぁ?……なぁーんて」

 

……。

そりゃあ、僕だって色々ヘンだとは思ってるさ。

でもそれを整理するのさえ、疲れてしまった。

 

ラピスの頭があれば、うまく行くと思ったんだ。

実際、色んな情報が頭に飛び込んでくる。整理も早い。今の僕なら――なんて、思ってしまっても良いだろ?

 

でも、ダメだ。何もかもが想定と違った。

月人の目的も。先生の事でさえも。

昔っからこうだ。何をやってもうまく行かない。現実はボクの想像を嘲笑うかのように、容易く飛び越えて行くんだ。

 

……先生を裏切って、みんなを月に連れて行く。

その決断でさえ、こうして優しい夢に揺られたら足元から崩れそうになる。

 

――きっと目が覚めたら、僕はもっと苦しい思いをしなきゃいけなくなるに決まってる。

何処が正しい道かも分からないままガムシャラに走って、また失敗するんだ。

 

だったら……この夢の中でくらい、何も考えずに居させてくれたって良いじゃないか。

 

「君のその考えはもっともだ。そして僕は、先生を裏切ると言う決断も含めて君を責める気は全くないよ。

ただ、勿体ない事をして終わりそうだからアドバイスしようと思ってね」

「……アドバイス?」

「そう、アドバイス」

 

ラピスが屈んで僕に視線を合わせる。

 

「あれが本当に夢であるかは僕にも解らないよ。夢であっても無くても不可解な事が多すぎる。例えば、もしこの状況が何十年と続くんだったら、僕のアドバイスは不要だと思う。

――でもさ。夢は醒めるものなんだ。いつまで居心地のいい場所に居れるかなんて分からない。

なら、醒めるまでの時間を思考停止して過ごすんじゃなくて……情報を集める時間、考える時間に費やすのはどうだろう?

 

もしかしたら……僕らが決断した道の外に、何か別の道が見つかるかもしれないよ?」

 

 

@ @ @

 

 

「……ごもっとも、ではあるか……ラピスは厳しいなぁ」

 

いつ醒めるか分からない、か。

彼のおかげか、とても居心地よく過ごす事が出来た。だから、もう少し……と思ってしまう僕は悪い子かしら。

 

「歩むスピードは人それぞれ、休むタイミングも人それぞれ。――でも、その考えを元にしたら堕落するばかりなんだよなぁ。ムズかしいもんだわ」

 

隣からそんな声がする。

 

「――おはよ。良く寝れた?」

 

昨日と同じ、昔の僕の顔をした彼が微笑みかけてくれていた。

窓から薄っすら差した冬の光とクラゲの光を頼りに、バインダーに挟んだ紙に向かって何か書き物をしていたようだ。

 

「うん、おはよう。……僕、何か言ってた?」

 

彼の言葉があまりにピンポイントだったから聞いてみる。

モルガとゴーシェが僕に引っ付くようになった時も、結構寝言酷いとか言われたっけ。

 

「んー……疲れてんだから休ませれー、的な?――夢の中で、ラピスに怒られちゃった?」

「うーん……怒られては、無いかなぁ。ただ……いつ醒めるか分からない夢なんだから、勿体ない事するなってさ」

「あらら」

 

いつ醒めるか分からない……か。

確かにそうだ。

10数えた後に目を開ければ、セミの顔がドアップで映ってましたとかありうる話だとは思う。

 

「――夢の住人としては、そこんトコどうなのよ?」

「うーん……夢の住人にも、そのあたり良く分かんないなぁ。ずっと醒めないならそれはそれで大歓迎なんだけどね。

……醒めるにしても、せめて予兆と時間は欲しい所だよ」

 

いきなりお別れはイヤだ、と我儘みたいな事を言う。

でも、その言葉には共感できた。

 

「ラピスかぁ……どんな石だったの?ボク、実はラピスとあまり絡んだ事ないんだ。勉強してた頃に連れて行かれちゃったから……。凄く理知的な天才だった、って事は聞いてるんだけどね」

「うん――ひと言で言うなら、それはラピスをとても良く表してると思う。

実際、僕も覚えてないんだ。ラピスとは……夢の中でしか話してない」

 

自分の頭をコンコンつついてみる。

 

「どうもラピスは、インクルージョンに自我をある程度残していたみたいでさ。夢の中でラピスと話す事があるんだ。明るく気さくで、理知的な感じがしたけど……ルチルのマッドな所を好奇心に置き換えたような感じもしたかな」

「好奇心で突っ走るタイプな訳ね……そう言えば、戦闘中に考え込んでしまった所を射られたって聞いたかな」

「ラピスの頭つけてから、それがどう言う状態だったか良く分かるんだ。月人を相手にしたときも情報収集と分析が勝手に進んじゃってさ……疲れる上に気を取られる」

「なんと。まさかの思考能力引継ぎっスか。あるんだねぇそんな事……いや、実例は既にあるか」

「何それ?」

 

聞けば、ウェントリコススに食べられた後で復活してから、アドミラビリスの言葉が分かるようになった事が、まさに能力の引継ぎに当たるそうで。

 

「アドミラビリスにインクルージョンが?」

「そう考えてる。でないと、いきなりボクだけアドミラビリスの言葉が分かるようになった説明がつかないし」

 

なるほど、言われてみればそうなのかもしれない。

流氷にもインクルージョンは宿っていて、僕はその言葉を聞く事が出来た。ウァリエガツスの言葉も僕だけが理解できたし。

海の物にもインクルージョンが宿っていて、そのインクルージョンによって言葉を共有できるという説は普通にあり得そうだ。

 

「……そう言えば、冬なんだよね」

「?うん。そだよ?」

「流氷割り、やる訳じゃない?」

「……」

 

あらかさまに目を逸らされてしまいました。

流氷も喋るんだよねー、と話を繋げようと思った矢先のこれです。

……あれ?僕も一応流氷割り付き合ってた筈なんだけどな。

 

「……ハブられました」

「……え?」

 

口を尖らせて彼がぼそりと呟く。

 

「いやね?踵でカツカツ穴開けるトコまではうまく行ってたんよ、ホント。自分でもウマく行ってたと思う。スゴく思う。マジで」

「あー、ほんのり覚えあるなぁそれ。

穴開けた後、剣を穴に叩きつけて流氷を割るんだけど、最初はパワーが無くてヒビしか入らなくってさ」

「そうそう、そうなのよ。しかも代償に腕が砕け散っちゃったりしてね」

「――ちょっと待とうか」

 

おいなんだそれ。僕はそこまでひどい事になんなかったぞ。

せいぜい体を伝わった衝撃が顔にヒビ入れたぐらいだぞ。

 

「腕大丈夫だった……ん、だよね。腕ちゃんとついてるし。……実は他の素材だったり?」

「大丈夫です。フォスさんは殊更砕けやすいので、外出の際は糊を常備しております。

アンタークにその場で治して貰ったんだけど、その後流氷割り禁止令が発令されました。くすん」

 

インパクトひっどかったんだろうな。

僕の両腕がなくなった時のアンタークの狼狽えっぷりと落ち込みっぷり凄かったからな。

 

「ちょっとー気ぃつけてよぉ?僕は流氷割ってるときに両腕なくしちゃったんだからさぁ」

「え、マジで?」

「マジマジ」

 

そう――流氷で、両腕をなくして。

学校のストックには僕に合う素材が無かったから……だから、緒の浜に探しに行ったんだ。僕の腕に合う素材。

 

「そして……僕の腕がきっかけで、アンタークが連れてかれたんだ」

 

――あの日は、分厚い雲が出ていた。

大丈夫だった筈なんだ。

 

「……王サマと、出会った年?」

「うん」

「……冬眠入って何日目か、分かる?」

「忘れない。22日目の昼だった。分厚い雲がかかっていたのに……いきなり、晴れたんだ」

「……今、12日目だ」

 

――12日目。

ああ……何とか流氷割りがモノになってきた時期だ。

結局、アンタークみたいに割る事は出来なかったから、のこぎり剣でギコギコ流氷を切って行く方法にシフトしたんだっけ。

 

「――新型?」

「そう。ピンクフローライトの断片を乗せた新型器だった。アンタークが霧散させたんだけど……直後、小さい初めて見る型が一器来て、アンタークを射貫いた」

 

手が、どろどろと溶けて行く。

あの時――僕がこの手をモノに出来ていたら、アンタークを助けられたんだ。

……いや、判断を間違えてさえいなければ。

遠ざかって行く月人に対して、剣を投げるのではなく手を伸ばしてさえいれば……!

 

「――大丈夫。これで、アンタークは助かる」

 

どろどろと崩れた手を取って、彼がそう言う。

顔を上げた。

 

「……たすかる?」

「助かるよ。相手が何やってくるか解っている。出現のタイミングも解っている。シンシャも、そして――君もいる」

 

やり直せる?

……アンタークが、連れて行かれないように……?

 

「手伝ってくれる?」

「手伝わせて」

 

気付けば、彼に縋り付いていた。

 

「僕が……怪しいのは解ってるんだ。でも、お願いっ……アンタークを、助けさせて」

 

先生並みに怪しい筈なんだ。

しかも月から来たなんて言ってる。

月人の仲間だって僕ですら思う。

 

……でもっ……!

 

「――大丈夫だよ。確かに君は、君の言う通り怪しいのかもしれない。

でも、君の言葉と君の気持ちが、嘘だとは、偽りだとは思わない。絶対に思わない。

ボクも……そして、みんなもだ」

 

――状況を、詳しく教えて欲しい。

昨日とは違う、凛とした声だ。

 

僕は縋り付きながら頷いた。

 

――ラピスは情報収集と考察に使えと言った。

もう一つある。僕にしか出来ない、もう一つの使い方がある。

 

……あの悪夢を、止めるんだ。

 

 

@ @ @

 

 

「――22日目、緒の浜。曇っていた空が突然晴れ、直後月人襲来。

最初は新型一器。ピンクフローライトで作成された武器を使う。球体に針と糸をつけたそれは、器に乗り込んできた石を糸で捉えた後に――爆散させると言う物だった。

これを霧散させると、次いで小さな二器目が来た。

それまでなかった型であり新型と思われるが、石を内包していたかどうかは不明。旧型と同じく、弓矢による攻撃しか見ていない」

 

地図の上に月人の駒を置きながら説明する。

 

「僕は……物理的に動く事が出来なかった。金と白金の合金を失くした腕の代わりに仮止めしたら、急速に融合して重みで動く事が出来なくなった。

迎撃はアンタークが行った。一器目を撃退するも、二器目の攻撃を受けて……連れて、行かれた」

 

恐る恐る顔を上げて、アンタークの反応を見た。

人差し指を口元に当てて考え込んでいた。

信じるのか?と言う類の発言は誰の口からも出てこない。

 

もう一人のフォスが言う。

 

「注目すべきは……一器目の持つ武器の特性とそれに続く戦法、かな。弓矢や鉾と違い、爆破はリスクが高い。

高空から目下のターゲットに対して絨毯爆撃するならともかく、この一器目の武器は中距離爆破に特化してる。

月人戦において中距離と言うのはイコール……器の上だ」

「爆破させたら自分も巻き添えになる……か」

「後続を見る限り、それを前提とした策に思えるね。一器目が自爆覚悟で特攻して確実な出血を狙い、二器目がトドメと回収を行う。二器目が小さいのは、奇襲を狙いやすくする為……かな?」

 

驚いたことがある。

この会議を引っ張っているのは、なんと昔の僕だ。

昔の僕ってこんな真似が出来るほど頭の造りがよろしかったけ?と思ってしまう。

……これはやっぱり、あれかしら。

夢だから、なんと言うかカッコいい方向に修正されているのかしら。

 

「雲がかかっていたのにも関わらず、晴れた瞬間に即行動した……って事は、この布陣は突発的な物ではなく事前に計画されており、実行する瞬間まで待機状態にあったと取れる。緒の浜は学校からかなり遠いから絶好の好機だ。

そして――大部分の仲間たちが冬眠に入るこの時期に確度の高い誘拐作戦を行うならば、それに別の意味を持たせた、さらなる襲来の計画もしていたんじゃないかと予想する」

「……いや、特にそれらしき事象はなかったように思うよ?」

 

あの時、アンタークを取り戻そうと月人の襲来を待ち望んでいたから間違いない。

襲来頻度、と言う点では特に変化はなかったように思う。

 

「――それは君に戦闘能力が付加されて、アンタークの代わりを務める事が出来るようになったからじゃないかな」

 

考え込んでいたシンシャが口を開いた。

 

「……フォスに戦闘能力がないなら……実質、月人が相手をすべきは先生一人になるな」

「そうなる。今まではアンタークがいたから出来なかった策が使えるようになる訳だ。先生がいくら強いと言っても、体は一つだからね」

 

……あ。

 

「……先生が出てしまったら……冬眠している皆が無防備になる……っ!?」

 

その恐ろしい状況に、たった今言われて気づいた。

 

当時の僕は戦力外だったんだ。

当時の月人からしてみれば、アンタークさえ除外できればもう守りは先生しかいないから、1器を囮にしてもう1器学校に強襲させれば高確率で冬眠中の皆を狙えたんだ。

 

もちろん、先生は「冬眠中の戦闘員を起こす」と言う方法を取る事が出来る為、確実とは言えないけれど……

心状的な問題で、それを取るまでに期間が空く可能性は十分にある。

そこを波状攻撃されたら?――さらに何名か連れ去られたんじゃないのか?

 

……?

――いや、待って。

 

「……とても効果的だと思う。だけどそれ、出来なかった可能性の方が高いかもしれない」

「うん?」

「あの時……最終的に、緒の浜まで先生が来てたんだ。アンタークが連れ去られた後の空を、僕と先生で見ていたんだ。

――つまり、学校が空になった状態が作られてしまってた。それでも、冬眠中の皆への襲撃は無かった」

「……うっわ」

 

100年以上前の事に今更ながら戦慄した。

ダメじゃん、あれ。

あの局面で先生出てきたらダメじゃん。近場ならともかく、距離のある緒の浜だぞ。

下手したら皆そのまま誘拐されてた訳で……

 

「月人のあっぱっぱー再びか。月人って遠距離でも連絡する方法あるみたいだから、そのままもう1器要請されてたら詰んでたね。……リソース不足かな?」

「その可能性もあるけど……もしかしたら、月人は緒の浜まで来た先生の姿を見てなかったのかもしれない」

 

あの時、先生が緒の浜に辿り着いた頃には月人の姿がだいぶ小さくなっていた。

……逆に、早く辿り着いていたらその方が危なかったのか。

 

「今まで月人の同時襲来の実績は3器――その3器襲来も滅多に発生しない所を見ると、リソース不足と言うのは普通にあるかもしれないね」

「月人のリソースは我々が想像しているほど無いのではないか、と言う点は前々から指摘されていたしな」

 

それでも戦力全て外に出す、と言うのは怖すぎるけどね。

 

「――さて、話を戻して本件への対策だけども」

 

彼がピッと人差し指を立てた。

 

「方針としては結構限定されると思う。

22日目を籠って過ごしても次の晴れの日に事が起こるだけだから、あんまり意味がない。晴れの日に緒の浜に行かなければ良いのかもしれないけれど、それだと新型を温存されそうで気味が悪い。

かと言って戦力を緒の浜に集中させると今度はここが危ない。そしてこの件だけにしか対応できない布陣を組むと想定外の事態に反応できない。

 

――っつーワケで、月人が襲いやすくかつ新型二連戦を捻り潰せるメンバーを外回りに当てるべきかなと思うわけです」

 

なるほど、趣旨は解る。

 

「つまり、強いけど弱そうなやつは外回りしろ、と」

「身も蓋もない言い方したらそんな感じ」

「強いけど弱そうって……そう言えばお前は戦力に数えて良いのか?」

「僕は強いよー、スゴく強いよー」

 

自分で言うのもなんですが。

モルガとゴーシェにもツッコミ入れられたなぁ。

 

「でも、元はアフォスだろ……?」

 

シンシャがスゴい怪訝そうな目線を向けてくる。

アフォスってそれ、こっちの僕も言われてたのか……

 

「へいそこ、さらっとボクまでディスるのやめようぜ。イジメカッコワルイ」

「――もしフォスの脆さが解消されているのなら、かなり強いのは私が保証しよう。

なにせ死角からのボルツの不意討ちに完全対応して見せたからな」

 

ちょっ、ええええええええええっっっっっ!!?

え、ちょっ、なんだそれ!!?

 

シンシャとアンタークも同じ反応らしく、変な声を出しながら一斉に彼に視線を集めた。

当の本人は目の横でピースサイン作ってる。口で『キラッ☆』とか言ってる。

――なんだろう。僕ってここまでうっざい性格してたかしら。

 

「――まあそんな訳で。ボクが提案する布陣は、そっちのボクとアンタークが外回り、学校にはボクとシンシャが待機、んで先生が遊撃ってのはどーかなと」

 

本当は僕とシンシャを組にしたいらしいけど、シンシャは一度実力を見せてしまっているので囮には不向きなんだそうだ。

3器同時撃墜を一人でこなしたって……え?なにそれ??

と言うか、この時点で3器同時があったの!?もっと先じゃなかったっけ!?

 

ともかく、布陣としてはあの時の焼き増しだ。

――そして僕は、あの時とは違う。

 

「……思い切ったな」

「アンタークを守りきり、被害なしでこの冬を乗り切る。……その点に関しての意気込みは、彼が一番だとボクは信じてる」

 

彼が、僕の気持ちを汲んでくれているのが分かる。

 

――アンタークの「思い切ったな」の意味は、ちゃんと分かってた。

僕の実力が言うほど無かったり、精神的な面で隙を見せてしまったらと思うと相当なリスクを抱える事になってしまう。

まして、僕は正体不明だ。

例えば僕が月人に寝返ってしまったら……僕が彼ならきっと、こんな布陣を敷く事は出来ない。

 

……。

月人に、寝返る……か。

 

つい2日前まで、僕はその事を考えていた筈なのに……ね。

皮肉なものだと思う。

 

「安定さ――と言う点で」

 

アンタークが僕を見て言った。

 

「私は、お前をかなり低く見積もっている」

「……」

 

正しいと思う。

僕自身も、そう思ってる。

 

「……だから、見極めさせてもらう。Xデーまで10日あるからな。

――もっとも、こんな日付なんてあって無いようなものだろうが……ついて来ると良い」

 

……ああ、アンターク。

やっぱり君は強くて、厳しくて……どこまでも、優しくて。

 

「――うん。ついてくよ。だから……アンタークに、僕を見ていて欲しい」

 

この決意は変わらない。

 

――そうだ、彼の言う通りだ。

アンタークを守りきり、被害なしでこの冬を乗り切る……その気持ちは、誰にだって負けてたまるものか。

 

「……異論は、無い様だな」

 

先生が僕達を見回した。

 

「――ならばこのシフトを許可する。頼んだぞアンターク、そして――フォスフォフィライト」

「「はい」」

 

やり直してみせる。

――必ず。




 
※ 作者注
本作では原作フォスの認識について、以下のように解釈する事にしました。

1. 原作フォスは、アドミラビリスと月人の会話中、その内容は聞こえていたが足の喪失と共にその事を忘れてしまっている。
2. 原作フォスは、アンターク誘拐当時、月人による先生の足止めがあった事を知らなかった。

なお、アンターク誘拐時の学校突入が無かったのは、リソース不足ではなく月人があっぱっぱーだったからと個人的に解釈しています。
月人にリソースが無いと言う事自体は確かにあるんでしょうが、それを差し引いてもあの時の先生足止めリソースを学校の監視&突入に振っていればかなりのリターンが見込めたんじゃないかと思っています。
あるいは作戦組み立て当初は本当にアンタークのみにターゲットを絞っていた為、融通が利かなかっただけと言う可能性もありますが……

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