薄荷色の抱く記憶   作:のーばでぃ

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第20話「用兵」

 

ユークとダイヤのコンビ。

意外に、化学反応かもしれない。

レンズ技術の開発を開始してから、まさか一年経たずに望遠鏡の原型が出来るとは全く思っていなかった。

 

「ユークが仕組みを見切ってくれた上に、材料はそれなりにあったもの。……テスト用の大きいレンズだから実用には不向きだけど、これで技術的な道筋は見えた気がするの。

工芸って、けっこう楽しいね」

「ふふふ……見る距離によって同じレンズでも逆さまに見えたり小さく見えたり、レンズって奥が深いわ。法則を考えるの、すごく楽しかったよ」

 

両方とも性格がおっとり系なので仲良しキャピキャピオーラが眩しい。

二人して「ねー?」とかやってる。

尊い。

 

「でも素材が素材だから、あまり量産はしたくない分野ね。

フォスは屈折率の高いダイヤモンドを使えば高性能なレンズが出来るって言ってたけれど、ある程度の性能は厚さでカバー出来ることが分かったし、そちらの方が作りやすいの。

望遠鏡の小型化の必要性はそれほど高くないし、素材は比較的産出量の多く需要の少ないクリアクォーツをベースに考えた方が良さそうよ」

「ダイヤ系はイエロー、ダイヤ、ボルツと三名も居るからなぁ……有事の際に素材が切れてた、は危ないよね」

 

ケイ素系の石は今の所ゴーストクォーツ位だし、そのゴーストも担当は非戦闘系だしな。

ベースにクリアクォーツを使うのは納得の出来る理由だ。

 

ちなみに、ジルコンもダイヤモンドに匹敵するぐらい屈折率が高い事が確認出来ている。硬度7で劈開も無い為、ダイヤよりも加工がしやすい。

……けど、クォーツ系ほど産出量は多くない上にウチのジルコンは戦闘員なので、やはりメインには使えないだろう。

 

「でもまあこれで要領も解った事だし、ひとつぐらいはダイヤレンズで作ってみるわ」

「顕微鏡の方は、焦点と倍率の関係で、ダイヤレンズが一番適切そうだものね。ダイヤレンズの経験はどちらにしろ必要だわ」

 

また二人で「ねー?」とかやってる。

ほんと尊い。

仲が良さそうで何よりです。

 

ふと、入り口の方に視線を投げる。

……ボルツ君、姿は見えないけど影は見えてますよ?

ジェラってるの?

ダイヤとユークが仲良しでジェラジェラなの?

 

「――そうだフォス、新体制の前身部隊として戦争に出るって聞いたよ?直接戦う訳じゃ無いみたいだけど、大丈夫?」

 

ダイヤがそんなことを口にする。

 

「大丈夫だよ。先生とボルツが付いてるからね。……不安があるとすれば、この二人の戦闘力が高過ぎて実験部隊として動かない可能性があるかもって所かな。

――会敵して速攻で二人が沈めてしまいそうで怖い。一応、先生には『破ァッ!』禁止令出したけど」

 

アレ使われたら即座に終了しちゃうかんね。

実験部隊の意味がない。

もちろん想定外での状況では先生の判断で解禁して貰う事になってるケドも。

 

「え?じゃあ先生はどうやって戦うの?素手で突撃?」

 

まさかの選択肢だった。

……先生、格好はお坊さんだしな。

実は法典流皆伝の腕前でしたとか言われたらどうしよう。

 

「……えーと、先生のポジションはマークスマンと言いまして。遠距離攻撃を行う役割を持ってるんだ。

ので、素手による突撃は想定してない。……出来そうではあるけど」

「?それじゃあどうやって……

……ああ!もしかして!」

「そ!投石紐で攻撃して貰う予定だよ」

 

既に何回か試して貰ってます。

あのロンズデーライト、普通にしっかり的に当てて見せるんだけど、体積の小さい石ころで緒の浜の岩壁に穴穿ちやがったんだよな。

弾にした石ころが着弾の衝撃で塵になったぞ。どういう速度で投げればああなるの?音速なんてぶっちぎってるよね??

本チャンではその密度が水銀よりも重い金の礫を投げて貰う算段だったけど、むしろ『破ァッ!』より高威力叩き出されそうだったので、もうその辺の石ころで良いよね。

 

ご感想はこんな感じ。

 

「遠心力をつける分、隙は大きいが高威力が出るな。少ない力でも中々の威力だ。これならば他の石が使っても容易に月人を割るだろう」

 

ねえから。

 

つーか、振り回してる時点で『ドワオッ!』って感じの風が吹き荒れる投石紐(スリング)なんて、絶対頭おかしいから。

それ、スリングじゃなくてスリリングだから。

マークスマンのスペックが過剰戦力過ぎてちゅらい。

 

「ふふふ……実践投入されていないけど、今の所ウチで投石紐の経験があるのはペリドットとダイヤだけだものね。5人小隊運用の暁には、もしかしたらダイヤもマークスマンかリーダーに配置されるかもよ?」

 

マークスマンは副リーダー的な位置でもあるしねぇ。

 

「え、ええええええ!?無理だよおそんなの!?僕はボルツみたいに、判断力とか凄くないもの……!」

 

――あ、ボルツの影が跳ねたぞ。

嬉しいの?

なんかダイヤに褒められたような流れだから、ボルツさん嬉しかったの?

 

「……まあボルツは、接近戦にあって戦況を把握出来るとか言う異常スペック持ってるしな。確かにリーダーの能力はあると思うよ。作戦を立てられる頭もある」

 

本人は判断ミスと言って憚らないしろ戦の2次待機策。

 

アレが裏目に出てしまった原因は、ボルツの判断ミスではないと思ってる。

真の原因はボクのヘイトが思った以上に高かったのと、そもそもボクがエンカウントしてしまった事にある。

 

あの時、ボクは護身のために武器を確保しに行った訳だけど、アレキとボクの部屋は武器工房からはそれなりに離れた場所にあり、ボクらが武器の確保を考えなければ問題なくしろを先生の所まで引っ張れた可能性が高かった。

ボルツはちゃんとルートを選んでいたのだ。

 

かと言って、冬の時のように複数の敵が校内に入り込んだ可能性もあったあの局面。武器を確保しに行ったと言うボクらの判断の方が間違っていたともちょっと思えない。

アレは結局、運が悪かっただけだと思う。

 

あの時のボルツの失点を無理やり挙げるとするならば、ダイヤが砕かれた時に叫んで戦局不利を招いてしまった事ぐらいだと思う。

しかし、アレは反射的かつ正常な反応だと思う。責められる筈がない。

 

――話が逸れたな。

 

「リーダーやマークスマンはその役割上、前に出る事は許されない。……いくら能力があるとは言え、ボルツが接近戦から離れなきゃいけないポジションをやりたがるかねぇ……?」

 

ここだよね。話の主眼は。

 

あのバーサーカーから接近戦取ったらどうなっちゃうのっつー話だ。

それ以前、アイツにダイヤクラスの器用さがあるとも思えない。

アイツが腰を据えられるのは、絶対コマンドかストライカーのどっちかだ。

 

「確かに、想像はちょっと、出来ないかなぁ……?」

「そしてダイヤの指示を受けて動き回るボルツが完成する訳ね」

 

――ボルツの影がうねってるぞ?

想像してるの?

ダイヤの指示で戦う絵を想像して悶えちゃってるの?

最近いちいち反応が可愛いなお前。キャラ崩れてねぇ?

 

「――この試作望遠鏡、今日の見回りに持ってってみる?」

「うーん、そうだなぁ……」

 

試作レンズは手の平程に大きく、分厚い。

それで試作的に作った望遠鏡なので、使ってないトイレットペーパー位の太さがある。

虫眼鏡のレンズで望遠鏡作ったようなものだ。

それでも持ち運べない大きさでは無いけれども。

 

……かさ張りそうだけど、皆のオモチャぐらいにはなるかもしれんね。

 

「――うん、持って行ってみる事にするよ。借りて良いかな?」

「そお?じゃあ、はい。後で感想聞かせてね。……かさ張って取り回しが悪い、以外で」

「あはははは、りょーかい!」

 

まあ、あくまで試作レンズで作った理論確認の為の有り合わせ品だから、多少はね?

 

 

@ @ @

 

 

「しっかし分かんないものだなぁー。まさかフォスと戦争に出る日が来るとは」

「そうだよねぇー。未だにパキポキ割れてる身なのにねぇー?」

「自分で言うかこの末っ子は……趣旨は解るが、大丈夫か?」

「大丈夫にするための布陣だよ、おにーさま?――虎穴に入らずんば、虎児は得られないモンさ」

「それでもおにーさまは心配だよ……」

 

最初の組はイエローダイヤモンドとジルコンコンビだ。

 

原則、戦闘班は相性の問題から、同族ないしは同系の石でコンビを組む。

その中にあって、唯一同族でも同系でもないのがこのコンビだ。

新体制の試金石として最適だったので指名させて頂きました。

 

「こ、光栄ですっ!よろしくお願いしますっ!!」

 

ジルコンが斜め45度をやっていた。

先生とボルツと言う超ビックネームとチームを組むと言う事態にそりゃあもう緊張している模様。

 

「カッチカチやなジルコンさん……」

「だだ、だだだってまさかそんなせせ、先生とボルツとチームを組む事にななななるなんてアアああア!

どど、どうしよう!?なななななにかミスしてしまったらどうしよおおおお!?」

 

緊張を通り越してパニックになってませんかこれ。

 

「どんだけぇー?……確かに戦闘力が頭おかしい域にある石だけどさぁ、所詮先生とボルツだぜ?」

「所詮!?いま所詮と言ったのか君はっ!?先生とボルツに向かってそんな態度が出来るのは君だけだっ!!」

「……ああ、そこは全くもって同意だな」

「こいつ、図太さと硬度が逆転して生まれていれば丁度良かったのにな」

「ヘイ、末っ子イジメるのやめようぜ炭素コンビ」

 

ボクは一発小突かれたら死ぬんだぜ?

 

「新体制の構想については聞いたけど、見回りに先生が参加するなんてどれくらいぶりだろうなぁ……3000年以上は前じゃないか?」

 

流石我が国最年長。

すごい数字がさらっと出てくるねイエローにーさま。

 

「先生、昔は見回り参加してたんですか?」

「ああ。しかし非戦闘員を残して留守にしてしまった所を突かれ、校内を直接攻撃された事があってな……

以来、現在の形に落ち着いた経緯がある」

「今は戦闘も出来る石が多く残ってくれてるから、そう言った心配は少なくなったよ」

「戦闘員からの転向組か。工芸お兄様二名もそうなんだよね」

「さらに今回はダイヤもいるし、いざとなればシンシャも動ける。――新体制を組むには丁度よいタイミングなのかもしれないな」

 

振り返る。

無愛想ボルツはともかくとして、ジルコンは未だにカチコチだ。

いくら宝石の体だって言ってもそこまで固くならなくて良いのにと思う。

 

間の原はずいぶん平和だった。

カラッと晴れた良い天気だ。つまり、絶好の月人日和な訳だけど、今の所アイツらの気配は見当たらない。

脇に抱える望遠鏡を覗いてみた。

 

「おお、ちゃんと使えるじゃんコレ。ここから緒の浜がクッキリだ」

「ほう。ダイヤを推薦したのは正解だったな」

「ジルコン、覗いてみる?」

「え?……ええっ?」

 

返答を待たずにホイッと渡した。

 

「ほら、こっから覗くだけだよ」

 

こう言うアイテムは皆の好奇心を惹くものだ。

ジルコンがおそるおそる望遠鏡を覗き込む。

 

「――すごい……本当に遠くが近く見える」

 

どう言う仕組みなんだろう、と呟くその声色からは、さっきのような緊張は見られなかった。

ふっふっふ、そのままこどもチャレンジの付属キットで遊ぶノリで肩の力を抜くが良い……!

 

「……見張りの役には、立ちそうか?」

 

ボルツが心なしそわそわしながらそう聞いた。

 

ダイヤ謹製につき自分も覗いてみたいけれど、お兄ちゃんなのでガマンする図である。

ボクの意図も見抜いている様だ。

うんうん、ちゃんとガマン出来てエライぞ!

 

生真面目にジルコンが答える。

 

「うーん……面白くはありますが、視野が狭いのが気に掛かりますね。コレだけで対応するのは少々怖くはあります。

……そうだ、シンシャが進めていると言う光通信言語。アレならとても相性が良いのではないでしょうか。光の明滅を注視する分には都合が良さそうです」

 

そしてこの感想である。

ウチの国、有能なヤツ多くねえ?

……まあ、みんな普通に数百年生きているからってのもあるのだろうけど。

どうぞ、とボルツにバトンタッチ。

この石、空気が読め過ぎる。

 

あ、ああとあっさり手元に渡ってきた望遠鏡を気まずそうに受け取り、自らも中を覗いてみる。

周りを一通り眺めて感嘆した。

ボルツの表情が変わる。

 

「……ほう、なるほど。的を射ているな。これは確かに面白い。面白い、が……この視野の狭さは気に掛かるものだな。フォス、これは改善できるものなのか?」

「難しいね。魚眼レンズにして視野角を広げる方法はあるけど、それをやるとせっかく拡大した像が縮小してしまう筈だ」

 

変形もしちゃうしね。

そもそも魚眼レンズの作り方なんて解んねぇし。

ダイヤが自力開発するのを待つしかないと思う。

ユークだったら多分理論を見つけ出しちゃうぞアレ。

 

「ふーむ……難しいものなのだな。かさばらない程度に小型であれば、遠くを注視したい時に気軽に使えそうだが。

このサイズでは懐に入れておくのは難しいしな」

「あ、サイズについては将来的にだいぶ小型化する筈だよ。そこは大丈夫だと思う」

「ほう……」

 

最終的にイエローの手まで望遠鏡が回り、皆でキャイキャイやってた辺りで状況が変化した。

 

――南の空に、黒い兆候。

皆の空気が入れ替わった。

 

「フォス」

「うん」

 

望遠鏡を回収。

何も言わずとも皆が位置に付く。

イエローとジルコンが前へ、ボクが後方に下がり、先生がボクの側に来る。ボルツは左前方へ広がった。

変則的な魚鱗の陣だ。

 

ホイッスルを思いっきり吹きならす。

長音と単音で短い単語を作った。

 

『――間の原、会敵』

 

学校の方から小さく返信が聞こえる。

 

『――了解、一種配置』

 

そして程なく、第一種戦闘配置の警鐘が響き渡った。

 

「!?……素晴らしい伝達速度だ」

「初回運用と言うことで、皆意識してましたしね。今回は通信士(シンシャ)を配置していると言うのもあります」

「しかし……アレは……」

 

ジルコンが、抜いた剣を下げつつ呟いた。

南の空に浮き出た黒点は、まるで煙のように拡散しながら空の青に溶けて行く。

 

「――虚黒点(からこくてん)、か?」

 

拍子抜けしたような声色だった。

 

「虚黒点……アレが……」

 

希に出る、月人の出てこない黒点。

話には聞いていたけれど、実際見るのは初めてだ。

 

「――チッ、ハズレか」

 

ボルツが不機嫌そうに舌打ちする。

 

「はは……多分そうなのだろうけど、まだ油断しないでね?」

「うん?」

「だってそうでしょ?――虚黒点とは言え、あんな現象を起こせるのは月人しか居ないんだから、さ」

「っ、……まさか、何処かに『居る』って事か?」

 

望遠鏡で虚黒点を睨み付ける。

虚しく散って行く様は、見れば見るほど煙の様だ。

 

……そもそも黒点って何なんだ?

月人の出る兆候とされているけれど、その実態は誰もわかっていない。

月人が空間を渡って来る時の次元の穴なのだと見る石もいる。

――フィクションならそれも良いだろう。しかし現実的に考えるなら、その説はどうも呑み込み難い。

そもそも本当に空間に穴を開けているなら、あんな鋭角な影は出来ない。技術的にクリア出来てもする意味がない。

 

……そう言えば、しろは二重の黒点から出てきたと聞いたな。

その折、空に開いた孔に引っ掛かって、出て来るのに時間が掛かっていたとも。

六つの腕で強引に孔を広げていたとも聞いた。

 

……空間の孔に体が引っ掛かかって、あまつさえそれを腕力で広げるだって?

齧った程度であったとしても、多少なりとも空間に対する知識があるのであれば、そんな現象が発生し得るなど到底信じられない。

 

合わせて、ユークの示した月人の意図と照らすのであれば、黒点の実態とは……

 

……。

 

……。

 

黒点の近く、周りの地面に視界を移した。

 

「――総員、まだ警戒体制を解かないで。

……先生、虚黒点と青の森付近を結ぶ岩の近く。薄いですが、黒い影が映っているの見えませんか?」

「うん……?」

 

望遠鏡を手渡した。

ボクの指の先を望遠鏡で注視する先生は、程なくしてそれを見つけたようだ。

 

「――妙な影が、動いているな……」

「え?ど、どう言う事ですか?」

「ちなみに太陽の位置はアソコです」

「……見えないが、何かがいると言うことか」

「本当だ……なんか、うっすら……」

 

どうも、ダイヤ組は裸眼でアレが見えてるくさいね。

ジルコンも目を細めつつ注視しているから、こいつも見えてるくさい。

見回り組ならではの視力ってヤツか。

 

「惜しむらくは、射程外なんですよね」

 

仕掛けるにしても遠過ぎる。

動きもボクらから遠ざかって行くものだ。

虚黒点からの戦闘記録がないなら、きっと今回もそうなのだろう。

別に深追いしてまで、とは思うが……

 

「――いや。『こっち』であれば、ギリギリ届くかもしれない」

 

そう言って先生が右手を握りこんだ。

 

「――マジすか?……なら、ダメ元で藪をつついて見ましょうか。この面子なら、もし蛇が出ても踏み潰せます」

「うむ。高度を変えつつ3発行くぞ」

「総員傾注、戦闘準備」

 

合図と共に、何かの輝く粒子が先生の手から迸った。

光の筋は間を開けずに三つ、彼方の空に吸い込まれて行く。

 

――その内の一発が、見えない何かを切り裂いた。

 

思わず変な声が出た。

 

「うっそだろスゲエ!?この距離で見えないターゲットに当てやがった!?」

「――フッ。ダメ元などと言われてはな」

 

なんか意地を通されたらしい。

 

「なんだアレ……空が、破れた……っ!?」

「空間に孔を開けてたなんて嘘っぱちって事さ。光学迷彩の膜に身を隠してたんだ!

黒点は恐らく、光学迷彩の境を見られないようにする為の目眩まし兼演出って訳だ――種が割れたぜ三流マジシャンめ!!」

「……コーガクメーサイ?」

「ギリースーツの上位版みたいなモンだよ。

――さて、突撃するぞ!奴等は想定外の事態で混乱している!ボルツ、先行してさらに攪乱してこい!イエローとジルコンが辿り着いたら挟撃しろ!」

「鹵獲は?」

「任せる!」

「なら、終わらせても構わないな?」

「いやいや、そこは自重しようぜ?」

「――ふん。まあ、聞いてやるさ」

 

ボルツが笑みを残して大地を蹴った。

青の森に回る、身を隠すルートだ。ちゃんと自分のポジションを解っている。

 

「なるほどなー。突撃するにしても、タイミングをズラして挟撃すれば選択肢も増える訳か。

――よし、俺らも走るぞジルコン!」

「は、はいっ!!」

 

イエローとジルコンも走り出す。

イエローの俊足にいままで食らいついて来たジルコンだ。あの二人も、ボルツの速度に決して劣っていない。

先生も、ちゃんとスリングに持ち変えていた。

 

「ボクらも行きましょう。護衛よろしくお願いします」

「うむ。……ところで、私もここから狙ってみるのはやはり不味いだろうか……?」

 

コレ、もしかしたら行けるんじゃないかと先生が彼方を見つめている。

スリングを弄ぶ手がコワい。

 

「いや……確かに運用方法としては合ってますけども。せめて他の石でも当てられそうな距離でお願いしますよ」

「……無理かな?」

「無理ッス」

「……まあ、仕方ないか」

 

妙に残念そうな先生と一緒に、少々遅れつつ現場へ向かう。

 

理由は知らないが既にケツまくっていた所に不意打ちを食らってさらに挟撃と言う、いじめにも似た猛攻を食らい総崩れになった月人が何か出来る筈も無かった。

鹵獲・捕獲は普通に考えていなかったようで、ボルツはいつもより念入りに雜を切り刻んでいた。

イエロー達が合流してからは冷静に攻撃の邪魔をしつつ立ち回り、ボクらが到着する頃には状況は全て終了していた。

 

 

@ @ @

 

 

実験部隊としてのデータ取りと言う点では正直芳しくはなかったけれど、それでも蓋を開ければ負傷者なし、月人の新情報入手で撃退成功と十分な結果で終わったと思う。

今しばらくはこの布陣で運用だな。

反省会で改善点と方針、ついでに望遠鏡の感想も纏めて、ボクとしては結構満足な結果に終わった。

シンシャも2週間は光通信言語の研究として昼の通信を手伝ってくれると言ってくれたし、順調順調。

 

しかし、考える事が多すぎてちと疲れちゃいました。

何せ出撃1回目にして情報取れちまったしな。確かにゆくゆくは月人の捕獲とか視野に入れていたのだけれど、ここまで展開が早いとなんと言うか、困る。

まだなんも方針決めてねぇし、心の準備も体制も出来てねえっつーの。

 

廊下のベンチにだらしなく体を持たれかけて大きく一息付く。

 

「しっかし、光学迷彩と来たかぁ……」

 

技術の差は、空飛ぶ雲を出してきた時点で相当な開きがある事は理解していた。

大気圏内で揚力を得ている様子も無しにホバリングできる雲。そして光学迷彩。

これらの材料があれば容易に奇襲をかける事が出来る。

しかし、月人がそれをやって来た記録は今まで無い。

 

……あ、いや、あったか。

去年の冬にアンタークとシンシャがステルスからの奇襲を受けたんだっけ。

しかし、それが可能な技術は何世紀どころじゃ無いほど昔からあった筈なのよね。

 

「……やっぱり、ユークの考えは当たっているんだろうな」

 

――本気の時と、本気じゃない時がある。

ユーク説から考えるなら、もしかして月人のヤツらはこちらに合わせて戦術レベルを変えて来てるのか……?

 

……なら、もしかしてボクのやっている事は……

 

逆効果……か?

 

「ユークの考え、ってなんのことですか?」

「ぴぎゃああいっっ!!?」

 

――パキィッ!!

 

「……あふん(泣)」

「そ、そんなに驚かなくても良いじゃないですか」

 

思考の海に浸りすぎて、ジルコンに全然気づいて無かったよう……

ずっこけてベンチに肘を強打しちまった。

今日は戦闘もうまく行ったしボルツとの恒例模擬戦でも珍しく割れずに済んだから、久し振りに割れない日が過ごせると思ったのに!

美人薄命の運命(さだめ)からは逃れられないとでも言うのか……!?

 

「運命って……今のは普通に君の自爆だったと主張しますよ僕は。と言うか、昔から君は自爆で割れまくってるじゃ無いですか」

 

ぐうの音もでない正論やめろくださいます?

世の中、正論だけで円滑に回ってると思ったら大間違いなんやで。

具体的に言うとフォスさんがイジけます。

 

「……ホント、普段は只のアホなのに……」

 

おうおう、そんなにフォスさんのイジけ姿が見たいってのかいニイチャンよう。

美人薄命のこの体よりもさらに脆くて美しい心を持つこのフォスさんをイジめたいたぁ、なかなかふてぇヤロウだぜ。

望みは何だ?ボクの体か?

今こそボクは言うべきだって言うのかい?

 

――やめて!ボクに乱暴する気でしょう!エロドウジンみたいに!エロドウジンみたいにっ!

 

「思えば、君は昔からそうでしたよね。根拠もない自信を振り撒きながら盛大に自爆する毎日の中で、ふとした瞬間にとても聡明な顔を見せる。

……最近、やっと気づきました。アフォスと呼ばれるそれは、君が皆を気遣って演じている偽りの顔だったのだと」

 

……。

 

……あ、あれ?

 

「君の事は、僕と一番年が近い弟だと思っていました。頼りになるけど、アホな時もある。可愛い子供なのだと。

――それが、甘さに繋がっていたのでしょうか。いつのまにか君は、僕のずっと先に居たのですね」

 

いや、あの……ジルコンさーん?

 

「僕は何をしていたのでしょう……今までイエローに甘えてばかりで、僕自身はなにも成長出来ていなかった……っ!」

「……え、えーと……」

 

なんなんですのこの展開。

やっすい勘違いモノみたいになってんぞ?

 

「どしたんスかジルコンさん。――え、今日の戦闘でそんなガッツリ落ち込むよーな場面あったっけ?」

 

結果的にオヤジ狩りの光景を幻視するぐらい一方的な勝利だったと思うんだけどな。

導入が特殊過ぎたから、戦法を試すような場面を作れなかった事が反省点だ。

 

「それですよ。……僕は今日のを含めて3回ほど、虚黒点を見た事がありました。なのに只の稀な現象とだけ受け止めて、その先を考える事すらしなかったのです。

……黒点は月人によって作られるもの。その認識は、僕にもあったと言うのに……!」

 

……何だいコイツ。

アレキ含めて、只の現象と言う共通認識だった虚黒点だぞ?

ぐぬぬ盲点だった、で終わっときゃ良いのにここまでヘコむか。

 

「マジメさんだなぁ……」

「やはりそう思いますかっ!?」

 

なぜにそんな泣きそうな顔で食いつくのん?

ジルコンが切羽詰まった表情で頭を抱えた。

 

「――考えが固いのではと、常々自分で思っていました。イエローは柔軟で、ボルツも視野が広い。僕より年下の君に至っては、もはやこの国の根幹を担えるほどの発想力を持っている。

僕はきっと、皆に置いてかれてしまってるんです……!」

「いやそれ、ただの過大評価と被害妄想なだけだと思うんですが」

 

イエローは楽観的なだけ、ボルツは戦闘狂なだけだろうに。

そりゃあ、そこに落ち着くまでの道のりってヤツには敬意を持つべきだとは思うけどさぁ。

 

「だからいっそ……そう、いっそ……

 

――僕もフォスのようにあっぱっぱーになってしまえば、もしかしたら!」

「ヘイ」

 

いきなりケンカ売って来るんじゃあねえぞコラ。

アフォスにも五分の魂があることを知らんのか!

 

「……怖いんです」

 

俯いたジルコンが絞り出すように口にする。

 

「今日、僕は、流されるままに動く事しかできませんでした。それを改善する道筋も、欠片も見つける事が出来ませんでした。

……回りはどんどん変わっていきます。イエローも、ボルツも……ダイヤだって。

いつか……取り残された僕が、それ故に取り返しのつかない失敗をしてしまったらと思うと……っ」

「……」

 

予想以上に深刻だったジルコンの言葉に、ボクはベンチにもたれ掛かっていた居住まいを直した。

 

変化出来ない事への恐怖。

対応出来ない未来への不安。

 

――ジルコンの苦悩は、間違いなくボクのせいだ。

『この国に変化を促す事』……月人への反撃として立ち上げたアプローチはまさにそれなのだから。

無変化、停滞、保守に舵取りを行う月人に対抗するには、それしかないと思ったから。

 

やめるつもりはない。

自重するつもりもない。

 

だから――ボクは、全力でジルコンをサポートするのだ。

 

「――ジルコン」

「だからフォス、お願いがあるんです」

 

ボクのセリフに被せて、ジルコンは顔を上げる。

決意の宿った強い目だ。

 

ジルコンは、現状を打開する方法が欠片も浮かばないと言っていた。

 

――ウソだ。

だって、ジルコンはちゃんと解っているじゃないか。

一人では出来ない事も、一人では見えない道も、二人ならきっと見つけられる。三人なら、きっと手すら届くだろう。

助けを求める事は何も悪い事じゃない。

誰かに助けを求めるからこそ、誰かを助ける事だってできるんだ。

 

「――うん。何でも助けるよ、ジルコン」

 

ボクの生き方だ。

これで、この国と一緒に歩んで行くんだ。

 

「ありがとうございます、フォス。

ならば、僕に……僕に……っ、

 

 

あっぱっぱーになる方法を教えてくださいっっ!!」

「なんでそこでオチをつけやがったぁっ!?」

 

――涙が出る事に、ジルコンはどこまでも本気だった。

 

 

@ @ @

 

 

「――ほう、ポジション交代か」

「ッス。ジルコンにはマークスマンの位置について、ボクと同じ景色を見て貰おうと思っています」

「よよ、よよよっ、よろしくお願いしますっ!!」

 

またカチカチになりながら斜め45度を行うジルコンさん。

やる気はちゃんと汲み取ってくれた模様。

先生はウムと頷いている。

 

「――投石紐の訓練期間を見積もる意味でも、有効な配置と言えるな」

 

しかし、ボルツは眉を寄せていた。

 

「意味が大きいのは解りますが、少し時期が早過ぎはしませんか?まだこのフォーメーションのデータが取れたとは言えません」

「ボルツの指摘も最もだと思う。でも、安全ラインを保ちつつ実験すると言う意味では、この配置でも結構有効だと思うんだ」

「俺はいいと思うよ。だってボルツと先生が強過ぎるしな。正直先日の印象が強くて、フォーメーションの意味が薄く感じたのも確かだ。

それに――ジルコンが、自分から『変わりたい』って言ったんだろ?

なら、俺はそれを応援したいんだ」

 

暖かいお兄様の言葉に、感極まったジルコンが顔を上げる。

 

「イエロー……あ、ありがとうございます……っ!」

「おうっ!一緒にガンバろうなっ!」

「はいっ!」

 

うーん、やり取りがとってもアオハルしてますな。

それも爽やかスポーツ系なやつ。

 

「僕は見た事がありませんが……先生は、接近戦も出来るのでしょうか?」

「ふむ……?」

 

ボルツの疑問に応えるように、数歩ボクらから距離を取る先生。

いつかの海の中のように袈裟をはだけ、上半身を半分さらけ出すと、ゆっくりと足を固め構えを取った。

 

――刹那。

 

 

ッパアァンッッッッ!!

 

 

空気が破裂するような音と共に、響く様な軽い衝撃。

気付けば、拳を繰り出した状態で先生が佇んでいた。

 

目を剥く一同に対して何でも無いように袈裟を戻しながら先生が言った。

 

「――っと、こんな感じだな。スペック的には問題は無い筈だ」

 

ドン引きした。

 

「おい……このハゲ、シレっと音の壁突破しやがったぞ……」

「設計段階からそうだったので、髪の毛の事を言うのはやめなさい」

 

微妙に気にしていたらしかった。

 

「り……理屈の上では、知っていましたけども……可能なんですか、こんな真似……!?」

「現実にやって見せたのだから、出来るんだろうな……」

「あんなん喰らったら一撃で終わるなぁ」

 

皆もドン引きしていた。

先生としては、この反応は非常に不服だったらしい。

 

「む……確かに私はスペックゴリ押しではあるが、音速を超える正拳突きと言うのは人間の放つ技として確立していたと聞くぞ?」

「いやいやいやいやいやいやいやいや!?」

「フォスが物凄い勢いで否定していますけど」

「うん?……いや、ちゃんとあっただろう?流派名を聞いた事は無かったが、突きの名前はちゃんと覚えているぞ?きっとフォスが知らないだけだ」

 

そんな人間辞めた流派あってたまるかハゲ!

よしんば人間が音速超えの突きに成功したとして、その水分とショックコーンの影響で撃ったパンチが砕け散るっつうの!

 

「有名な技だと聞いたのだがなぁ……」

 

首を捻りながら先生が言った。

 

「なんて言う技なんです?」

「うむ――

 

 

ぺがさすりゅうせいけん、と言うそうだ」

「アンタもオチをつけるかあっ!!?」

 

 

あり得ない事に、先生は本気で口にしていたらしかった。

 

 

@ @ @

 

 

知らない所で先生に植え付けられていた知識に戦慄しつつも、フォーメーションは新しく組み直される事になった。

 

ボクのリーダーは据え置きにしたまま、イエローがアタッカー、ボルツがスポッター、先生がコマンド。

そしてジルコンがマークスマンを務める。

ボクの隣で、ボクと同じ景色を見ながら考え方を伝えて行くのだ。

 

実験部隊の中では何度か出撃する中で、武術指南とは別に稽古を行うシーンもあった。もちろん見張り中につき、割れ防止のため寸止めルールでの稽古だけど、ボルツは一応満足してくれていたようだ。

 

ジルコンにも手解きをする機会が多くなる。

特に、ポジションの関係で兵法や戦闘における考え方をより多く教えるようになった。

そんな状況を見て、ジルコンには誰が言い出したのか『ボクの一番弟子』とか言う良く分からない冠詞が付きまとうようになる。

あり得ない事に、ジルコンはまんざらでもなさそうだった。

 

……あの、あなた確かにボクと年近いけど、一応僕の年上じゃありませんでした?

良いの?こんな認識されちゃって??

 

――え?よりボクに近づけたように感じて嬉しい?

……ルチルー、ちょっと急患見てくんねえ?

 

っつーか、皆の中でボクと言う石は一体どこに向かおうとしちゃってるの??

 

あんまりみんながボクの事を持ち上げるように言うもんだから、ボク自身ボクの事が解らなくなり始めた今日この頃です。

皆のおかげでボクのアイデンティティがマッハでヤバイ。

 

 

その後、何度か実験の意味でフォーメーションを変えながら運用を続け、月人を両手で足りなくなるほど相手をしてデータや改善案が良い感じに溜まって来た頃……

 

月人の、次の一手が襲来した。

 

 

――それは、しろの時と同じく2重の黒点から現れた。

 




フォスの博物誌
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その14「ジルコン」
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正方晶系の鉱物で、モース硬度は7半。劈開は存在しない。
透明度の高い結晶はその内包する元素によってさまざまな色に変化するが、比較的に橙、緑、茶色と言った色が多く産出する。

金剛光沢を有し、屈折率も高いため、理想的なカットを施せばその外見はダイヤモンドに酷似する。
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