――ボクは激怒した。
必ずや、邪智暴虐の下手人を除かねばならぬと決意した。
ボクにはブラックジョークが解らぬ。
ボクは光輝くアイドルである。
薄荷色の体を持ち、脆くも美しさと可愛らしさを両立させたキラキラを、常に振りまいて生きてきた。
けれども、邪悪に対しては人一倍に敏感であった。
教室に踏み込む。
「――アルっちに『オッサン』呼び仕込んだヤツはどこのどいつだぁっ!!?」
フォスさんの神仏のような広大な心も一瞬でフットーする悪逆非道。
許しがたし。まことに許しがたし。
下手人は素直に手をあげろやオラァッ!!怒らないから!!先生怒らないから!!
「開口一番に何言ってやがるオッサン」
「あだ名がつくとか信頼の証じゃないかオッサン」
「ヤメロォッ!?アフォスならまだ可愛くて許容出来るけどオッサンはヤメロォッ!!ヤメロォッッ!!」
教室の中から向けられた視線が、何かスゴい淡白。
「ああー……『フォスさん』が『フォっさん』になって、最終的に『オッサン』になったとか?」
「それボクの呼び方がどう足掻いてもオッサンに行き着くルートじゃないですかヤダァッ!!ヤァァダアアアアァッッ!!」
「いや、あの、フォス……コレから講義なんですけど」
「聞いてよかあちゃんヒドいんだ!きっとコイツら、シレっとオッサン呼びを定着させようとしてるのに決まってるんだ!
チクショウ!お前らが受ける試験の評価役が誰かと言う事を思い知らせてやる!!全員合格ラインからギリギリアウトにしてやる!!」
「僕はかあちゃんじゃないですし、それは職権乱用です」
ジルコンかあちゃんの無慈悲な塩対応がボクを襲う。
ブッダ!あんたはまだ眠ってんのか!?
「はいはい、オッサン劇場はここまでにしましょう。今日はちょっとお知らせがあります」
「ジルコンッッ!?」
ジルコンまでオッサン呼びするのやめて!?
「戦術隊長技能資格、意思決定最終日ですが滑り込みがありました。これから最大3年間、一緒に講習に参加する事になります。
――入って下さい」
ジルコンに促され、彼女が元気良く「ハイッ!」と応えた。
「――アルビカンスなのです!3年間お世話になるのです!!」
教壇の隣。ほら貝のような貝殻を背負い、大きめの水筒をぶら下げて、シュタッと手をあげるアドミラビリス。
思わぬ人物の登場に教室から驚嘆の声が上がる。
「え!?アルっちが!?マジで!!?」
「マジなのです!!」
齢12歳。
アドミラビリスの王、ウェントリコススの第一子にして次の女王、アルビカンスその人……じゃなくて、その貝だった。
その肌は王サマよりも白みを帯びて、ヒラヒラとしたヒダがドレスのように揺れている。
アルビカンス、と言うのは『白みを帯びた』と言う意味なんだとか。
赤子の頃から馴染みが深く、もはや金剛国のマスコット的な存在になってたりする。
正直言って、才女だ。
王サマがアルっちのことを語る時、デレ顔を通り越してドヤ顔になって、口にする事が全てクソウザくなるぐらい才女だ。
若干12才でリーダー資格とか、破られる事のない最年少記録なんじゃねえのとか思う。
……受かるならだけどね。
「ってことは、もしかして将来的にはアルっちがウチ(戦闘班)の指揮やることもあるのか?」
「いや、現状でそれは想定してない。あくまでスキル獲得の為の受験になる。
気張れよォー?コレで落ちたらお前ら12歳児以下だぜ?フォーッスフォスフォス!」
「オッサンくそウゼェ」
「このへんさすがオッサンだよな」
「ヤメロォッ!?」
あまりにも自然にボクの事ことオッサンと呼ぶんじゃねえよ定着しちゃうだろ!
世界の法則を掻き乱すがごとき暴挙だと自覚してくれませんかね?
武術指南の中でちゃんと教えたんだから、Lesson4でもっと敬意を払いなさいよ!
「っつーか、なんでオッサン?ゴーシェが言ったように『フォッさん』から変化したのか?」
「ふっふっふ……禁則事項なのです!」
「問い詰めてもコレで逃げやがるんだよォーッ!クソッ、誰だよみくる教えたヤツはァッ!?」
「……ミクルは知らねーけどお前だと思うわ」
モルガの敬意が足りないんですが!?
「はいはい、キリ無くなるから黙ってください。
――ええと、アルビカンスについては海水の携帯や基本スペックその他でどうしてもハンデが掛かるので、実技研修に参加はしますが対月人実地試験は免除になります。あくまでテストケースなのでその辺りよろしく」
「「「はーい」」」
「あと、オッサン呼びかましたヤツは容赦なく減点すっからな覚悟しろや」
「だからあなたは黙って下さい」
「……なぜコレが教導隊の副長なのか不思議でならないな……」
「今度はぜってー受かってやる……!」
ええと……今年はモルガ、ゴーシェ、ベニト、ネプちー、そしてアルっちの5人か。
さあて、何人受かるかな?
@ @ @
――戦術隊長技能資格試験。通称リーダー資格。
実験部隊解散後に立ち上げられた、金剛国初めての資格試験だ。
5人チームでの月人迎撃マニュアルが整った昨今、戦術や分析と言う特殊技能者を増やすためにボクが立ち上げた。
4年に1度実施され、コレに受かった石がリーダーやマークスマンを勤められると言う、ついにここまで来たか金剛国って感じの国家資格である。
強い(確信)。
学習のために3年間の講習期間をもうけ、その間は見張りシフトも調整されると言うガチプログラムだ。
隊の運用方法や投石紐の訓練、2進言語(シンシャの光言語通信表のこと。正式にこの名前がついた)の運用といった分野を網羅する。
コレにはもちろん実地も入る。
今や月人は新型含めて教材になりつつある金剛国です。
資格受領者は現時点でジルコン、ユーク、ボルツ、イエロー、先生、そしてボクだ。
ただしスペック上の関係からボクの実地試験は免除されている項目があるため、ボクの資格は凖級扱いになってたりする。
器用値最低過ぎて投石試したら自爆したしね。ちかたないね。
この資格が出来てから、ユークの戦略計画室は解体されることになった。
正確に言えば、資格取得者で教導隊が組まれて再編されたと言うべきか。
ボクの凖級取得は言うまでもなくこの教導隊に巻き込むための口実だったりする。
立案はユーク。
ンもう、本気出したおにーさまマジ手段選ばねぇわ。
ちなみにジルコンかあちゃんは教導隊隊長。副長がボクで顧問と言う名のボスがユーク。
お陰で毎日忙しい。
ちなみにアレキも凖級取得させられないか動いてるんだけど、本人はあまり乗り気じゃないらしい。
いわく、「教導隊に巻き込みたいだけが目的なら、んな事せんでもフツーにこっちから顔出すわよ」だそうだ。
結局、講習受けてないのに講習内容に超詳しいヤベー奴が完成した。
まあ、資格取得イコール教導隊参加義務って訳じゃないしね。
ボルツなんかその筆頭。
アイツ、オツムが必要な項目もあっさりクリアしやがったくせに、教導隊参加は頑なに固辞しやがった。
教導隊の業務内容には、みんなに講習したり月人研究したりが入ってくるからね。
現場しかやりたくないのだアイツは。
そして出来るならダイヤとチームを組みたいのだ。
だから密かにダイヤの資格取得を心待ちにしていたりする。
そのダイヤと言えば、立派にレンズ作成の第一人者だ。
顕微鏡の作成に見事成功してみせたからね。
その大快挙のお陰でしばらく女神ダイヤ呼びが流行ったモンだ。
(流行らせたとも言う)
なお、リーダー資格への興味は今の所ない模様。
まだ倍率は小さくて、インクルージョンの観察は難しいけれど、それでもインクルージョンの形成するロール・コロニーの観察に成功できたんだから十分希望だよ。
現在、それを使ってルチルがパパラチアパーツのアルファ版を作成してる最中だ。
4轍しても眠気に倒れるどころか、元気ハツラツとしてパズルしやがるからアイツ頭おかしいわ。
先生に強制就寝令を出されて器具の前に見張りを立たされるレベルだもの。
医療出来んの、今んとこ君だけだしね。ちかたないね。
なお、見張り役は良くゴーストが起用される。
一度ルチルが見張り役に対してバックスタッブを掛けたからだ。
「バレなければ命令違反ではないのですよ」とドス黒い笑みを浮かべておられたあの瞬間は忘れない。
割りとアッサリ暗黒面に堕ちやがったからな。ボクは日頃お世話になり過ぎてるのでチクるにチクれませんでした。
背後から音もなく忍び寄り、見張り役の意識中枢を正確に破壊した後、夜中にパズルを行い朝になって見張り役を治療。
そして何食わぬ顔で「おや、寝てしまっていたんですね。もう朝ですよ」と声をかけ、自分はこれから朝の業務だと称して再びパズルに没頭する。
恐ろしい手際である。
誰かが『千の解体具を持つ狂気』と称してたらしいけど、なんら間違ってなかったんだなって。
そこでゴーストである。
アイツ、ステルス能力が振り切ってるからバックスタッブを狙っても見つからない。
やっほう今日は見張りいないぜラッピー!と嬉々としてパズルに取り組んでると、そのうちトントンと肩を叩かれ振り向いたら誰も居ないので、おかしいなと作業に戻ると再びトントンと肩を叩かれ、もうなんなんだよと振り返ったらそこにはガチギレしてる先生が立っている恐怖。
ルチルが割れたのを見たのはこの時がはじめてでした。
ルチル以外の手による修復はたいそう手間が掛かった模様。
――そしてほとぼりが覚めると、懲りずにゴーストとステルス合戦に突入してたりするのだ。
いやあ出し抜かれるとは不覚だった、僕の中に彼がいなければ任務達成が危ぶまれてたよとはゴーストの言。
……いや、寝ろしルチル。なんで見張りとステルス合戦してんのよ。意味ねーだろ見張りの。
っつーかゴースト君、僕の中の彼ってどう言う事?
二重人格なの?もう一人の僕とAIBOでデュエルなの??
やめて!
ゴーストの特殊能力でサイレントキリングを仕掛けられたら、オーダーで繋がってる先生が出張ってきてルチルの体が『破ァッ!』されちゃう!
お願い、死なないでルチル!あんたがここで倒れたら、パパラチアのパズルはどうなっちゃうの?ピースはまだ残ってる!ここを耐えれば、パパラチアの復活に近づくんだから!!
――次壊、「ルチル 死す」。デュエルスタンバイ!
……実際、ルチルが割れること多くなったと思うわ、うん。
でもね、ルチル。散り際に「たとえ私が砕けようとも第二第三のルチルが必ずや……!」とか言い残して矛先をボクに向けるのは違うと思うんです。
何故にこの流れでボクまでお説教されなければならないのか。流石に理不尽過ぎねぇ?
そんなこんなで当事者でもあるゴーストが割れたルチルを修復してあげるシーンが多くなり、そして最近はわりと医務室に入り浸ってるゴーストと顔を合わせる頻度が増えた。
ルチルの後継フラグが立つ音が聞こえた気がしたわ。
良いのかキッカケがこんなんで。
おい、ボクが最近割れてないからそのシワ寄せがきてるとか、それはちょっと酷いと思うんですが?
――そう、割れなくなったのです。
週8で割れてたペースが週3ぐらいにまで減ったんですよ褒めて。
え?それでも割れ過ぎ?……そう。
ノルマ減少の原因は簡単。ボルツがやっとこさ巣立ってくれました。
毎日のように素晴らしい笑顔でボクに稽古を強要する日常がやっとフェードアウトしてくれたのよね。
……つまり、ボクの引き出しも吐き出し切ったって訳だ。
前までは「技量はフォスフォフィライトが最強」なんて頭がおかしい評価が散見していたけども、今や技量も力量も間違いなくボルツが金剛国最強だ。
……え?先生とシンシャ?いや……あのあたり出すのはほら、ちょっとアレがアレですしおすし。
幸いなのは、別にボルツはドS的な弱い者いじめ大好き宝石じゃなかったって所か。ボクが一本も取れなくなってきた辺りでちゃんと開放してくれました。
今じゃ独自に術理を研究し、宮本武蔵だって押しのけられる程の二刀流を振るう、難攻不落のコマンドだ。
ま、それでもたまーに稽古に誘われる時もあるけどね。でもちゃんと割らずに済ませてくれます。
いつだったか、アクレアツスに「一番弟子」って吹いた事をひねってお礼を言われた事があったよ。
「――感謝してるよ、師匠」だってさ。
そのままそっぽ向いて何処ぞに行っちゃったけど……ボクの方は再起動にかなりの時間を要したね。
思わずほっぺたつねろうとしてムニムニできる筈も無く指が割れ、ルチルにとてもかわいそうなモノを見る目で呆れられたのは良い思い出だ。
やっぱ精神的に思う所があった、って事なのかも知れないね。
アクレアツスとの交流が良い刺激になってるもの。
――ふっふっふ。ボルツ自身も、アクレアツスに似ている部分がある事を自覚していたみたいだしね。
王サマの為に努力を続け、子供が生まれた事でどんどん成長して行ってるアクレアツスの隣にいたら、そりゃあ思う所だって二つ三つと出てくるわな。
家族のために環境を整え、ご飯を探し、外敵から護り抜く――王国と言ってもしょせん一家族。やることはパパさんと変わりはない。
だからこそパパさんは、アクレアツスは頑張っている。
護るものが出来れば人は成長するのだ。
はたらくパパさんはつおいのです。
とにもかくにも必要なのは衣、食、住。……いや、アドミラビリスは服が標準装備なトコがあるから衣は要らんかもな。
食と住は将来を見据えていろいろ動いてる模様。
アドミラビリスはどうも雑食なようで肉も草も食べるみたいだから、海草を植えたり魚の住みかを作ってあげたりと生産系にも手を出している。
住居も思いきって移したようだ。まあ、あそこまで根こそぎ月人に持ってかれたらそういう選択肢も出るよね。
今彼らは、かつて海に行ったときに通った大きな坂の下……王サマが初めて『真の姿』を見せてくれたあの近くに居を構えている。
人型を保てる場所が大前提、その上で金剛国に近い場所を選んだそうだ。
将来的には、そこから故郷の方に向かって発展していく事になるだろうと。
……それはきっと王サマの代では叶わないだろうけど、きっとアルっちの子供が、そのまた子供が、少しずつ引き継いでいくのだろう。
将来のアドミラビリスを見るのが、今から楽しみで仕方がない。
どんな関係を築いているかな?アルっちが遊びに来ているように、留学も増えたりするのかも。
金剛国からも誰か留学させたりしてね。……そんな世界が来るならとても素敵だ。
レッドとか、嬉々として参加しそうな気がするなぁ。
だってアドミラビリスって生まれながらのオシャンティーなワケだし?あのヒラヒラドレスはレッドのイマジネーションを物凄い勢いで掻き立てるそうだ。
特に最近は実用的な服の需要が増えてるから、思う存分趣味に走ってみたいとぼやいていたりする。
……毎年冬眠で着るあのド派手な服では満足できないと申すか。
対水銀防護服やギリースーツの研究で布を使う事が多くなったしね。
古い服を解体、洗浄して織り直し、新しい布として再生させる技術を独自開発してみせた時は超ビビった。
金剛国にノーベル賞があるならアレをノミネートさせたい。
防護服の布研究の過程で偶然産み出した技術らしいけど、アレのお陰で布のやりくりが楽になったと喜んでいた。
触発されてペリドットも再生紙の研究してるしね。
紙の方が難易度低そうだし、きっと形になるまでそう時間は掛からないだろう。
もう一人の工芸お兄さん、スフェンと言えば。
手慰みの木工が変な方向にシフトして、なんと楽器を作り出した。
どうもホイッスルにインスピレーションを得ていた模様。
と言ってもホイッスルのような吹くタイプの楽器ではなく、中を空洞にした箱の上に長さの違う糸を張って指で弾く、変則的なギターのような弦楽器だ。
それもぶら下げて弾くんじゃなく、琴みたいに置いて弾く感じのやつだ。イメージ的にはカンテレが近い。
本人的にはおもちゃみたいな感覚らしく、たまに弾いて遊んでる。
そのうちスフェンが楽士にシフトする日が来たりするのだろうか。
楽器の形状もあるから、ボクとしては是非ともサッキヤルヴェン・ポルッカを弾いて頂きたい。……頂きたいんだけど、どうやって教えてどうやって誘導するかメッチャ悩む。
スフェンの前でこれ見よがしにハミングするとか?
まずは曲を好きになって貰わないといけないワケで、ハミングだとちっとハードルが高い気も……ぐぬぬ。
何にせよ、みんなで楽器を演奏してお祭り騒ぎ、なんて光景は随分後になりそうだ。
頼むぜスフェン。是非ともそのジャンルを流行らせてくれ。
今ならシンシャもそのお祭りの中に引っ張り出す事だって出来そうなんだからさ。
――シンシャ。
ボクは彼に約束した。
夜の見回りなんかよりも、ずっとずっと楽しくてシンシャにしか出来ない仕事を見つけて見せるって約束した。
シンシャを夜から引っ張り出そう――アマルガム計画のコンセプトはそれだ。
そしてその成果が実り、今シンシャは少しずつ昼にも姿を表すようになってきた。
と言っても、アマルガム計画が完結した訳じゃあない。
まだまだ初歩の初歩段階だ。技術的な問題で停滞している所が多数ある。
――でも、実用に耐えうる対水銀防護服の開発には成功したのだ。
樹脂コーティングした糸で丁寧に織った布地をベースに、特殊な縫製で仕上げられた防護服。
手間暇かかる上に動きやすさが少々オミットされている代物だけど、それでもしっかり水銀をガードしてくれる防護服だ。
それをシンシャが着れば多少の暴走が起こっても最悪を防いでくれるワケで。
――上達していた水銀制御スキルも合わさり、戸惑いつつも皆の輪に寄り添おうと考えはじめてくれた。
凄まじい進歩だ。
最終的にアマルガム計画が完遂したら――もはや気兼ねなく皆に混ざれるシンシャを見る事が出来るんだろうか。
……シンシャが心から笑ってる顔が見たい。
一歩引いておっかなびっくり触れ合おうとして、でも諦めて控えめに口角を上げる――そんな表情じゃ満足出来ない。
たとえばイタズラに混ざったりバカやったりハシャいだりして、お腹抱えて笑うシンシャが見たい。
水銀なんて何も気にせずに追いかけっこしたりして、盛大にスッ転んで爆笑したりするシンシャが見たい。
そんな希望が待ってるって言うなら、ボクはきっとこの先何百年だろうと突っ走っていけるんだ。
――ボクの名前はフォスフォフィライト。
脆くて、不器用で、一人じゃ何も出来ない石だ。
だからこそ皆と生きていく。
ボクの大好きな皆と、一緒に。
たとえ生まれる前の記憶があったとしても。
みんなと過ごして来た日々は、みんなと積み上げてきた日々は、紛れもないボクの、フォスフォフィライトのものだ。
「――フォス、ここに居たのか。先生が呼んでるぞ」
「はぁーい!」
脆くて不器用なボクの事を愛してくれる皆がいる。
何も出来ないボクであっても必要としてくれる皆がいる。
それはとても幸せなことなんだって心から思う。
「ああ――来たか、フォスフォフィライト」
自信をもって言える事がある。
ボクは今、きっとこの世界の誰よりも。
――とびっきりに、キラキラしてるんだ。
フォスの博物誌
--------------------
その16「金剛国」
--------------------
総面積2k㎡にも満たない小さな島を領土とした小規模国家。執筆時現在の人口(石口)は28名。
所在は北半球と考えられるが、地軸移動や土地の水没により位置情報は失われ、正確な場所は定かではない。
国号の由来は当国の代表である『金剛』の名前から名付けられた。
中型哺乳類は全土に渡って存在が確認されておらず、物的資源は極端に少ない。
主に住むのは資源を全く必要としないキラキラ族のみである。
その他クラゲ、貝と言った海由来の動植や渡り鳥と言った小型動物は少ないながらも確認されている。
友好国にアドミラビリス王国があり、科学的見地はともかくとして、『肉の者』であるアドミラビリスと『骨の者』であるキラキラ族は、元々同じ『人間』種であると言う伝説が存在しており、国交以上に関係性が深い仲とも取れる。
気候は穏やかであり、ハリケーンやダウンバーストと言った暴風を伴る天候災害が発生した記録は無い。
しかし冬場の様相は実に厳しく、積雪量5mに届く大雪やマイナス30℃近い外気温、大量に訪れる流氷など、天候は極点に近い様相を見せる。
キラキラ族は不老不死の為、その歴史は通常の生物から見れば恐ろしく古く、齢3000年を数える石もいるが、正確な記録は長い年月の中で風化し消滅してしまう為定かではない。
代表の金剛が最も長命ではあるが、正確な年月は記憶していないようだ。
月より多数飛来する『月人』と敵対関係にあり、過去数多の石達が彼らに連れ去られ、未だ戻らないままとなっている。
@ @ @
一端区切り。
でも、もうちょっとだけ続くんじゃ。
たぶん。