水銀の槍が月人を貫く。
シンシャは硬度2と言うやわらかい鉱物の中にあってなお、戦闘能力が突出している。
いつ見てもこの水銀は凄い。シンシャは環境を汚すから嫌悪していたけれど、使い方を習熟すれば最強だと思う。
変幻自在で無尽蔵。
水銀は1リットル当たり13kgと言う水の13倍もの密度を誇る。これを高速で展開させる事で、絶大な破壊力を持つ槍にも鉄壁の防御力を持つ膜にもなる事が出来る。
体が脆いからやらないけど、いざとなればシンシャ自身を持ちあげて高速移動にだって使う事が出来るだろう。
しかも有毒。触れるだけで損害が出る。
相対する敵の身からしてみれば絶望しかないんじゃないだろうか。
ボクら28人の中で先生を除いて最強と言われてるボルツだって、VSシンシャとなれば攻めあぐねる筈だ。
「――お見事」
霧散して行く月人を確認して、ボクは称賛の声をかけた。
……この水銀運用、月霊髄液の特性とかを元にアイデアを出したらかなり凶悪になってしまった背景がある。
戦う度に色んなものを汚してしまう事を嘆いたシンシャへのアドバイスのつもりだったんだけどね。
ポイントは「水銀を新しく出すのではなく、常に一定量を用意してこれを運用する」「水銀が持つ密度を圧力として利用する」と言う考え方だったんだけど、シンシャにとってはこれが天啓だったみたいだ。
月人を貫いていた水銀がシュルシュルとシンシャに戻って行く。
そのまま八つに分かれ、銀色に輝く玉となってシンシャの周りに滞空した。
「また、汚してしまった……」
悲しそうな声でシンシャが呟く。
制御しきれなかった水銀が幾らか、海や草原に散っていた。
……いやでもシンシャさん。戦闘の度に大質量の水銀を大量にぶっ掛ける方法をとっていた当初と比べたら、すっごい成果だと思うんだけどねこれ。
「ありがとうシンシャ、助かった」
――あ、やべ。表情が怒りに変わった。
「フォス!!こんな時間に何で一人で出歩いてるんだ!!弱い上に脆いんだから瞬く間に攫われるだろ!!」
「あ、いや、その……ずっとシンシャを探しててさ……」
「俺を……?でもそれは一人でいる理由にはならないぞ!!」
「ご、ごめんなさい。おっしゃる通りですぅ……」
最初はすぐ見つかるだろうと思ってたから、色々ガバガバでした。
途中モルガにも同じこと言われたな。
いやでも、見張り班ひっ捕まえてシンシャ探すために連れ回すのもさ……
「え、えーと……いつか約束したでしょ?シンシャにしか出来ない仕事を、ボクが見つけて見せるって。――その仕事の話を持って来たんだ」
「え……?」
お、意表を付かれて怒りが和らいだ。
よっしゃ、畳みかけるように情報を突っ込むのだ!
「結構規模が大きい話だから、計画書を作って先生に申請してたんだ。今日、やっと許可を貰えたからさ。いの一番にシンシャに伝えたかったんだよ」
だから許して、ね?と両手を合わせてみる。
シンシャの顔が赤くなっているのは、果たして西日のせいか違う理由か。
「た……楽しい、仕事なのか?」
怪訝そうにシンシャが眉を歪ませる。
――夜の見回りよりずっと楽しくて、君しかできない仕事を、ボクが必ず見つけて見せるから。
大丈夫。ボクはちゃんと覚えてるよ。
「楽しいよきっと。かなり困難もあるだろうけど。これ、計画書のコピーね。」
原始的なガリ版印刷されたそれを受け取って、シンシャがポツリと計画名をなぞる。
「……アマルガム計画」
「うん」
「ルチルの字じゃないのか?これ」
「そうだよ。ルチルも絡んでる。……その、ボクの字では解読が大変だからって清書してくれたんだ」
「賢明だ。――ルチル、ペリドット、スフェン、ユークレース……俺たちを入れたら主要メンバーだけでも6人?それにこのメンツ、あまり関連なさそうに見えるが……」
「レッドとボルツも噛みたがってるって聞いたから、多分さらに増える。よく考えてみたらボルツはともかくレッドは絶対必要だったから、改めてボクからお願いするつもり」
「はぁ?」
計画名とメンツだけだと訳が分からない。
きっとそう考えているシンシャの目が、目的、概要と文字の上をするする滑って行く。
――そして、みるみる内に表情が険しくなって来た。
「こ、こんな……できる訳がない!!ふざけてるのか!?」
「出来るよ。ボクは本気だ」
「相当な危険が伴うぞ!?」
「それを軽減する為の技術の開発も計画に含んでる。数十年単位のビッグプロジェクトさ」
「だがこれは、失敗したら――」
「『だから』シンシャが要る」
ボクはまっすぐシンシャの目を見て行った。
「君はとても慎重で賢く、視野が広い。ボクは結構思いつきの猪突猛進タイプだからさ……君みたいな人が傍で見ててくれないと、こんな危ない計画はとても実行できないよ。
確かにこれは君の為の計画だけど、ボクの為の計画でもある。もし君の毒液が無かったとしても、ボクは絶対君を誘ってた。
――ボクにはシンシャが必要なんだ」
まるで告白みたいなセリフだな、と内心苦笑しながらそう言った。シンシャも同感だったらしく、「う……あ……」と顔を真っ赤に染めて狼狽している。
視線があちこちをさまよっていた。
「……た、楽しい……かな?」
「きっと楽しいよ」
「……」
しばらく落ち着かなさそうに視線をきょろきょろさせて、そっぽを向いたままおずおずと口を開く。
「わ……かっ、た。協力する……」
「うっしゃあああ!!」
落ちた!!
「お、落ちたって言うな!!」
あ、声に出てた。
「えーと……そんなワケだから、近い内にメンバー揃えて説明会やります。一番最初にシンシャに伝えたかったから、他のメンバーへの連絡と説得はまだなんだ。
日程が決まったら朝礼で連絡するから、なるべく朝礼には参加してってね」
「……わかった。なるべく参加するようにする。――他メンバーの説得って事は、メンバーが揃わなければボツも有りうるのか」
「揃うまで凍結、って事になる。ルチルとペリドットは計画段階から巻き込んでたから否はないよ。スフェンとユークレースは説得出来ると思う。
……問題はレッドなんだよなぁー」
「……レッドに何をさせる?服飾担当が関係するとは思えないが」
「防護服」
「……あー……なるほど。……なるほど。かわいくない服なんて服じゃない!とか言いそうだ」
「それなんだよねー。……ま、何とか説得してみるよ。期待してて!」
良く考えたら、真っ先に負担が行きそうなトコなんだよね。機能性重視だから絶対レッドでないとイケナイ訳じゃ無いけれど。
説得の方向性としては……どうしようかなぁ?
「――フォス」
「ん?」
「俺は――期待してなかった。どこかで期待してたけど、期待してなかったんだ。
出来る訳が無いって思ってた。出来る訳が無いって……っ。
……けど。
けど……俺は、期待してみても、良いのかな?」
水銀が、目尻から滲み出てる。
顔をクシャクシャにして、シンシャがすがるようにそう言った。
――夜から抜け出したい。
シンシャがどれだけそう願っていたかが良く分かる。
「もちろん。――その為のアマルガム計画だからね」
ボクはサムズアップしてそう答えた。
@ @ @
「――ってな事があったんじゃよ」
説得2戦目。ペリドットとスフェン戦です。
たまたま二人一緒にいた所をとっ捕まえました。
「あー、ここで計画凍結となったらシンシャすっごい落ち込んじゃうんだろぉーなぁー。唯一の希望の光が見えなくなっちゃうんだもんなぁー。この世の終わりぐらい落ち込んでしまうんだろぉーなぁー」
「……いやフォス、そんな罪悪感煽らなくても普通に参加するから」
ペリドット。
硬度6半、緑色のショートカットが光る製紙担当。
白くて美しい紙を作る為に魂を燃やす工芸組の一人。
とは言っても紙に魂を燃やしているが他の工芸も出来なくはない。
彼の作る紙にはいつもお世話になってます。正直白さはどうでも良かったりするんだけど、ペンの滑りがとても良いんだよね。
アマルガム計画立案当時から相談しているぐらいにはボクがいつも話をする一人だ。
実はアマルガム計画を進めるために、彼だけ一人で独自にフライングしてたりする。
まあ、ペリドットが協力してくれる事は最初から分かってたからね。
今度は視線をスフェンに向けた。
「あー、ここで計画凍結となったらシンシャすっごい落ち込んじゃうんだろぉーなぁー。唯一の希望の光が見えなくなっちゃうんだもんなぁー。この世の終わりぐらい落ち込んでしまうんだろぉーなぁー」
「計画の内容は前々からペリドットに聞いてたし、俺も参加するよ。するけどさぁ……それ皆にやるの?」
スフェン。
硬度は5、一部緑がかったオレンジのおさげさん。
意匠工芸担当で、ペリドットと違い家具や道具など幅広く手掛けているけど、敢えて得意を挙げるなら木工だろうか。
ボクら28人の中では年長組さんだ。
ペリドットと二人で工芸お兄さんコンビである。この二人は計画から絶対外せない。
「ふはは、シンシャに先に了解を取った事は他の皆を脅は……説得する為の武器にもなる事に気付いてしまったのです。流石ボク、やはり天才か……」
「めっちゃ性格悪いな!?」
「っていうか今、脅迫って言いかけた?」
そこに気付くとは……やはり天才か。
――とりあえず工芸お兄さんコンビクリア。
@ @ @
3戦目、ルチル。
硬度6の医務担当。
ルチルの和名は金紅石って言うらしいよ。本当にこんな色の宝石があったかどうかは知らないけど、確かにルチルの髪の毛は金と紅のツートンカラーだ。
金の方はちょっと針っぽい。あの髪って実はセットしてたりすんのかな。
ボクが脆くてよく割れるからと言うのもあるけど、もしかしたらペリドットよりもよく話しているかもしれない。
「……は?当たり前でしょう。――って言うか、内容的に私を除いて進められるんですか?」
そして難なくクリアです。
まあ、ルチルも協力してくれる事は分かってたしね。
「ただの確認だよ。先生が計画実行の条件として、主要メンバー全員の意思確認しとけって」
「ああ、なるほど……確かに、危険が伴いますからね」
ほとんど勝手知ったるなんとやらだ。
「……実は怖かったりしない?」
「ありませんね。計画立案に絡んでいたので我ながら――と言う形になるのかもしれませんが、危険管理もよく練られた計画だと思いますよ。技術目標としても申し分ない」
――でも。
「――パパラチアを助ける技術が得られるかどうかは、わからないよ?」
この計画はシンシャの為だ。
ルチルの目標である、眠り続けるパパラチアを起こす技術は視野に入っていない。
「……いつか、漏らしてしまった件ですか。『パパラチアを助けられない医術に意味なんてない』」
医務室の片隅に安置されている、パパラチアが眠り続けている木箱。
そちらに視線を向けながら、ルチルは小さく肩をすくめた。
「――では私も、あなたがいつか言ってくれたセリフを出しましょう。『目的を持つ事は良い事だけど、最短距離を求めたら別の道を進んでしまってた、なんて良くある事じゃないか。LESSON5――遠回りこそが一番の近道、だよ』」
……確かに、いつか言った気がする。
シチュエーションは良く覚えていないけれども。
「……ありがとう。とは言えこの計画だけが全てじゃないから、パパラチアの件も手伝うよ……ボクに何か出来るかは怪しいけどね」
「ありがとうございます。――大丈夫です。ここ数十年は久しぶりに『進んでいる』と言う感覚を感じていますから……あなたのおかげでね」
「そう言ってくれると、ボクもうれしいよ」
医術なんて解らないから、感じた事、覚えている事、疑問に思った事を口に出しているだけなんだけどね。
「――時にフォス。あの時はあなたのセリフに感銘を受けて流してしまってたんですが、LESSON5って何の事です?」
「忘れてくださいお願いします」
JOJOネタを説明しろとかハードル高すぎですからね。
JOJOは人生の地図だから思わず使っちゃっていたけども(真顔)
ああー……荒木飛呂彦先生がD4Cとか使ってこの世界に舞い降りてきてくんねーかな……
……あの人ならガチで出来るんじゃね?(真顔)
@ @ @
4戦目、青と白のツートンカラー、ユークレースです。
硬度7半の書記担当。日々の見張りの計画作成はユークが練ってる。
書記能力もさる事ながら、計算とか予測とか得意なのでこの計画を縁の下からしっかり支えてくれるに違い無し。
ユークの説得は簡単だ。ユーク優しいからね。伝家の宝刀が光りまくる訳ですよ。
ではさん、はい。
「あー、ここで計画凍結となったらシンシャすっごい落ち込んじゃうんだろぉーなぁー。唯一の希望の光が見えなくなっちゃうんだもんなぁー。この世の終わりぐらい落ち込んでしまうんだろぉーなぁー」
「……あの、フォス?顔を出すなり一体何のお話?」
くそ、予測が得意なクセに読み取ってくれねーよこの宝石。
伝家の宝刀が出だしから挫かれるとは想定外。この状況は読めなかった……このフォスの目を持ってしても!
ちなみに、ユークとペアを組んでいるジェードが可哀そうなものを見るような目でボクの事を見てたりする。
「たまに言動が宇宙に吹っ飛んでいくからな、フォスは。――で、今度は何をしでかしたんだ?」
「遺憾でござる。何かしでかしたこと確定なんスかジェード議長」
「お前は頼りになる時とならない時のギャップが激し過ぎる。今は後者だ」
「欠点もチャームポイントだと思って愛しなさいよ」
硬度7、ルチルに曰く「堅牢のジェード」
靭性8と言う脅威の堅牢さで壊れ難さなら先生を除いてNo.2を誇る。
翠色の髪を後ろでちょうちょ結びにしてるマジメさんだ。
「お納めくださいユーク様。シンシャを夜から引きずり出すぜ計画の計画書コピーでございます。そして参加するのだ」
「……アマルガム計画?」
手渡された計画書を眺めて目をぱちくりさせるユーク。
シンシャと同じくユークは前情報無かったからね。仕方ないね。
「アマルガム計画……噂になっていたアレの事か?」
「知っているのか雷電」
「誰だよ。――先生から概要は聞いている。フォスが主導で進めている、シンシャの毒液を活用する為の計画だろう?先生が許可を出したのも聞いたよ」
へぇ~、と間延びした相槌を打ちながら、ピラピラと計画書のページを捲っているユークの視線は結構真剣な色を帯びている。
「――面白いね、コレ。リスクも高そうだけど、リターンは更に高い。……幾つか質問しても?」
「あ、それは近いうちに説明会開くんで、その席でお願いします」
「なるほど、当然かぁ……計画書は貰って良いんだよね?」
「モチ。さっきも言ったけどそれはコピーだから、書き込むなりなんなり好きなようにしちゃって」
「例のガリ版印刷かぁ……便利だよね。お陰で紙の需要が爆上げされたってペリドットが嬉しい悲鳴上げてたよ」
「ボクとペリドットの自慢の共作です。ボクはほとんど口出しただけだけどね!」
「ふふ……フォスの場合、その口出しが怖いんだからなぁ……」
この短い間に目を通し終わったのだろうユークは、パシッと計画書を小気味良く叩いた。
「良いよ。……ううん、参加させて。僕、ちょっとワクワクして来たよ」
「そうこなくっちゃ!!」
――ユークレース、クリア!
「……その説明会、私も参加していいか?」
ユークレースの後ろで計画書を眺めていたジェードが声を上げた。
「あれ、ジェードも興味あるんだ?参加する?」
「目的は聞いてるから、できる限り協力はしたいと思ってる。……ただ、危険を伴うモノとも聞いているから、まずは全体像を把握しておきたい。――ゆくゆくはシフトの組み直しも考慮する必要があるかもしれないし、参加以前に私の立場からして聞いておかなきゃいけない案件だろう?」
「なるほど、それもそうだ。――説明会の日程は、決まった時に朝礼で連絡するつもりでいるんだ。その時は声かけるね」
「ああ、頼むよ」
――ついでにジェードも確保(仮)完了!
5戦目……は、もう深い時間だし明日にしよう。
残る標的はレッドとボルツだ。
@ @ @
「――あれ?シンシャがいる!」
朝礼の場で声を発したのは誰だったか。
振り返ると、凄く気まずそうな顔をしながら、誰かを汚染しないように8つの水銀球を極力上方に浮かべたシンシャが隅っこの方に立っていた。
「――シンシャ!来てくれたんだ!!」
「ちょっ、よ、寄るな!!危ないだろう!!」
明らかに水銀球が当たる角度ではないのに、シンシャは過剰に距離をとるので少しばかり傷ついたりする。
何だよぅー、フォス菌が移るぞとか言い始めたら泣くぞボクは。
「シンシャ……良く朝礼に出てきてくれた」
先生だった。
今まで顔すら合わせようとしなかったシンシャだ。朝礼に出てきてくれた事に感極まっている。
ボクは視界の端でルチルと目が合って、自慢げにピースサインをしてみた。
「あ――よ、寄らないで、ください。俺は……ここで、朝礼に参加しますから」
「む……そう、か……」
残念そうに先生が肩を落とす。
流石に、みんなの中に参列するのは無理なようだ。
「――足元にも出入り口にも毒液が落ちていない。制御力を格段に上げたのだな、シンシャ。素晴らしい成果だ」
「あ……ありがとう、ございます」
「ふむ。その上に浮かんでいる、8つの毒液の球体がその秘訣か?」
「はい。……フォスが、キッカケをくれました」
「フォスが。そうか……」
先生の視線にダブルでサムズアップしてみたり。
わはは、もっと褒めてくれても良いのよ?
シンシャが照れたように呟く。
「――フォスには、感謝しています。まだ完全ではありませんが……昨日の月人戦も、以前ほど土を汚さずに霧散させる事が出来ました」
そうそう、昨日の月人戦も――
「………………あ゛」
ピシリと、ボクの中で空気が固まった。
「……フォス?」
先生の声のトーンが低くなった。
……ええ、はい。
主要メンバーの説得にかまけて……
――月人戦の報告忘れちゃってたああああぁぁぁ!!
「あは……あははは、はは……」
チラリ、と逃走経路を確認。
「――さらばぁっ!!」
「え?あ、おいフォスっ!?」
シンシャの声なんぞ知らぬ!
走れ、風のごとく!!
足が砕ける?……砕けるまで逃げるんだよォォォ―――ッッッ!!
@ @ @
「――報告忘れていた事に今気づいたな、アイツ……昨日の内に俺から報告入れてたのに……」
「うむ。経緯は解っていたのでちゃんと謝れば不問としたのだが……即刻逃げるとは少々灸を据える必要があるか。――ルチル、あの様子では廊下辺りでバラバラになっているだろう。後で治さずに私の所に連れて来なさい」
「はい、わかりました。……フォスはホントに、残念な時は残念ですねぇ……」
「――よろしい。それでは朝礼を始める」
……もちろん、ボクはこんな会話がされていた事なんて知る筈も無く。
この後無茶苦茶お説教されました。
フォスの博物誌
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その2「水銀」
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銀色の光沢を放つ、常温、常圧で液体をとる唯一の金属。
原子記号はHg。主に辰砂を加熱し、その蒸気を蒸留する事で得る事が出来る。
比重が高く、同質量の水と比べて13倍の重さを持つ。
さらに表面張力も非常に高いため、平面に滴下すると丸い玉のような形状をとる。
生物に対して非常に強い毒性を示す。
特に肉を持つ動物に対しては顕著であり、気化した水銀を吸引する、もしくは水銀を飲む事は量によっては致命的になる。
更に宝石生物に対しては、体表面に付着するとその付着面を薄く溶解させてしまい、光を体内まで通さなくしてしまうが、シンシャと言う例外がある為、構成される体質によって影響が増減する可能性がある。
なお、月人に対して唯一効果が認められている毒でもある。