この破壊の龍帝に祝福を!   作:超人類DX

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まるで某鏡の蛇ライダーみたいな感じで生前世界で暴れ尽くした男が、よもやこうなるとは……的な話


龍帝とボッチちゃん

 結論から言うと、ベルデアは巨人の一太刀により『消息不明』になった。

 見ていた者達によれば、あれは多分粉々になってしまったのだろうとの事だが、真相はその巨人……森羅万象を破壊する修羅を操るイッセーにしかわからない。

 

 とにかくどうであれ魔王軍の幹部を蹴散らしたという事実に変わりは無いし、晴れてよりイッセーにはベルデアに掛けられていた懸賞金である五億エリスが与えられる――

 

 

「え、懸賞金が出ない?」

 

 

 予定が、出ないというオチへと変わってしまっていた。

 

 

「何でよ!? アンタ達だって見たでしょうが! イッセーがあのデュラハンを討伐したのを!」

 

「そ、それは確かに我々も目にしてましたわ……目立ってましたし」

 

「なら何で……」

 

「その、まことに申しにくいのですが、イッセーさんは『すっぴん』の職業ですよね? すっぴんの性質上、討伐したモンスターがギルドカードにカウントされないので、あの時の状況……つまりデュラハンを討伐した『物的証拠』が存在しないため、懸賞金が出せないと……」

 

「アレっすか、生首でも持ってきてたら良かったと?」

 

「え、えぇ……申し訳ないのですが……」

 

 

 すっぴんという性質による弊害。

 すっぴんしか適正がなければ冒険者にならないほうが良いと言われた理由が此処にきて浮き彫りになってしまったが故の懸賞金無しというオチに、特に色々とがめついアクアは自分の事の様に怒り出すが、当の本人であるイッセーはといえば、別に特に残念がる様子もなかった。

 

 

「そっすか、なら良いっすわ」

「い、イッセー!? アンタ何を……むが!?」

 

「良いから黙ってろ。おら、行くぞ」

「もがもがー!!!」

 

 

 別に金が欲しくてやったという訳でも無く、言ってしまえば最近自分の中にある理解できない感情に苛々していたそのストレスの解消目的でやっていただけだったので、別に金が出ないなら出ないでどうでも良かった。

 一応生活に困らない程度の貯蓄もあったので。

 

 

「ぷは!? 駄目よイッセー五億エリスよ五億エリス!! それだけあれば遊んで暮らせるのにそんな簡単に――」

 

「しょうがないだろ、すっぴんなんだから。そういうのも覚悟で俺は一応登録したんだ。今更文句言ってもしょうがねーだろ、なぁカズマ?」

 

「ま、まぁな。でも五億エリスって聞くとかなり後ろ髪を引かれる思いはするぜ……」

 

「確かにそれは否定できないな。五億もありゃニートできるし」

 

「なら今からでもお上に抗議を……」

 

「だが別に貧乏って訳じゃねーだろ?」

 

「そりゃイッセーがお宝を拾いまくってるからなー……俺たちゃそれに寄生してる形だから文句なんて言えないぜ」

 

「う……」

 

 

 まだ何かを言おうとするアクアに対して意味深な視線を向けながら言ったカズマの言葉に、アクアは言葉を詰まらせてしまう。

 いくら自堕落となっても、流石にイッセーの稼いだ金でわりと悠々自適な生活が出来てるんだという自覚はあったらしい。

 

 

「わ、わかったわよ。元々デュラハンを蹴散らしたのはイッセーだし、今までイッセーのお金で生活出来てたし、もう言わないわ」

 

 

 漸く矛先を納めたアクアは、多少納得できないもののイッセーの判断に了承するのだった。

 

「何だお前、寄生してる自覚はあったんだな」

 

「るっさいわね! アンタも一緒でしょーが!」

 

 

 以上、懸賞金おじゃんの小話。

 

 

 

 そんなこんなでドリームジャンボ・五億エリスは夢へと消えてしまったカズマ御一行は、明くる日から別の意味での苦労をしていた。

 

 

「頼む、あのすっぴん君を是非ウチのパーティーに……!!」

 

「金ならいくらでも出そう! だからすっぴん君を――」

 

「ええぃ、駄目よ駄目よ駄目よ!! 彼はウチのパーティーの要なの! この私の手となり足となり働く為のね!」

 

「……。本人が聞いてたらぶっ飛ばされるぞ」

 

 

 そう、冒険者の適正無しのすっぴんにも関わらず登録した変な奴という意味でもちょっとは有名イッセーの名前が完全にアクセルの街どころか近隣まで響いてしまったらしく、連日この様にイッセーを引き抜こうとする冒険者達が後を立たなくなっていた。

 勿論、流れでそのまんまパーティーに加えてるという事にしていたアクア達はそんな連中に対して突っぱねてる訳だが、アクアが断る理由がまた酷いものだった。

 

 

「大体懸賞金は出なかったけど、デュラハンを蹴散らしたのは事実なのよ。だったらこんなはした金じゃなくて100億エリスは持ってきなさい!」

 

 

 がめつさがこれでもかと表に出まくるアクアの提示に聞いていたカズマは『地獄に落ちるぞこの駄女神』と軽蔑した眼差しを送る。

 一応この台詞のお陰で引き抜こうと目の色が変わってる冒険者達は散ってはいくにしても、もっとこう他の言い方くらいあんじゃないのかと思ってしまう程、アクアは金金とうるさかった。

 

 

「今日も本人が居ないところで人気者だね」

 

「例の魔王軍との件で一気にイッセーの名前が浸透したからな……凶悪すっぴん男って」

 

「広まるのも無理はないだろう。何せ魔王軍の幹部を倒したのだしな」

 

「でもそういえばお師匠様は何処に? ゆんゆんは何か知らない?」

 

「いや私も……ギルド場まで一緒だったのに急に居なくなっちゃったから……」

 

 

 絶妙なタイミングと精神バランスのおかげで、体の良い小間使い化してるイッセーを手離すのが惜しいという欲が丸見えのアクアを見て苦笑いするクリス達の言うとおり、只今イッセーはカズマ達にも黙ってフラフラと何処かへと消えてしまっている。

 

 人間種族でな無いゆんゆんがめぐみん達の目を盗んでイッセーと街で買い物をしたりするので、めぐみんが何か言いたげな顔で聞くが、ゆんゆんは知らないと答える。

 すると――

 

 

「……………」

 

 

 噂をすればなんとやら、そのイッセーが以前に増して周囲から視線を向けられながらという形で登場、何やら険しい顔つきでカズマ達の元へと寄ってくると、無言で近くにあった席に座り出す。

 

 

「どうしたんだよイッセー?」

 

「………。ウェイトレスさん、水貰えます?」

 

 

 すっごい不機嫌そうな顔をしながら、偶々近くを通ってたウェイトレスに水を貰うイッセーが、カズマ達の質問に答える事無くガブガブとやけ酒の様に飲み干し、コップをテーブルに勢い良く置いた。

 

 

「…………………………ちきしょう」

 

「は? 何がちきしょうなのよ?」

 

「ちきしょう……」

 

「お師匠様? ですから何をそんなに悔しがられて……」

 

「ちきしょう……! ちきしょう……!!」

 

 

 まるでどこかの『ぶるぁ!』と吠える人造人間がマジギレした野菜人と地球人のハーフであるショタに覚醒されてボッコボコにされた時を思わせる怒りを孕んだ区やし声を唸る様に何度も何度も呟く姿に、アクアやカズマ達が首を捻ってると……。

 

 

「ちきしょぉぉぉぉう!!!! おんにゃのこをお誘いしてみたけど何時も通りに断られたぁぁぁっ!!!!!」

 

 

 その理由をテーブルに突っ伏したのと同時に叫んだ。

 どうやらナンパに行って大失敗したらしい。

 

 

「クソが! 変に顔が割れてて、ポジティブな印象持たれてたからそれを利用しただけなのに、何時もと変わりゃしねぇ! クソォォォッ!!」

 

「イッセーさん……」

 

「何だ、何時もの事じゃない」

 

「言ってやるなよ……」

 

 

 心底絶望した様に咆哮するイッセーに心配して損したと呆れるアクア達。

 この男は、戦闘力は破壊的だが、異性に対するストライクゾーンが広い様で狭い……というか我が儘なせいで圧倒的にモテない。

 アクセル常住の人間の女性全てに当たっては砕けてる程度に。

 

 

「ちきしょう、何が駄目なんだ……受付のお姉さんにも拒否られたしよぉ……」

 

 

 機嫌が悪いと勘違いされたのか、勧誘しようとしていた他の冒険者が離れていく中、悔し涙まで流し始めてるイッセーがグチグチと愚痴を垂れ流す。

 

 

「断られる理由とか聞いてるだろ?」

 

「一応聞いては居るけど、それが納得できねぇっつーか、否定してるのに信じて貰えない」

 

 

 気づけば凹んでるイッセーを取り囲んで愚痴を聞くカズマ達にイッセーが言う。

 

 

「誰の事か知らんけど、何故か俺は複数の女の子取っ替え引っ替えに侍らせてるイメージがあるんだってよ。

何の事だか全然わかんねーよ」

 

「……。あー」

 

「複数の女の子……」

 

「ですか……」

 

 

 俺そんな事してねーのに……と、災害とまで揶揄されていた破壊男がボロボロと泣きながら話す『拒否の理由』にカズマは察した様にチラッとその誤解される原因となる三人に視線を移す。

 

 最近の殆どが文字通りの意味でイッセーにおんぶに抱っこ化してるアクア。

 了承もされてないのに師匠とひっついてるめぐみん。

 こっそりイッセーと街に行っては楽しく遊ぶゆんゆん。

 

 確かに最近のイッセーは『女の子を取っ替え引っ替えに侍らせてる』と思われても仕方ない位置に居る。

 

 しかも最新ではこのクリスにおちょくられてはキレて街中に逃げるのを追い掛け回してるというのも加われば『取っ替え引っ替え』とも言えなくもないし、思われても仕方ないのかもしれない。本人がそんな意思が無いにせよだ。

 

 

「アンタが女の子を見る目が嫌らしいのよ。私はもう慣れちゃったけど、露骨というか」

 

「あ? 誰が何時お前みたいな雌にそんな目向けたよ? 悪いがな、俺は普通の人間のおんにゃのこしか――」

 

「あーはいはい! とにかくイッセーはちょっとがっつき過ぎなんだよ。

ダクネスだってそう思うだろ?」

 

 

 人間の女の子以外の雌なんぞに興味の欠片もねぇ。

 と、言い出しそうな所に無理矢理口を挟んだカズマが逸らそうと割りとイッセーからの好感度が普通に高いダクネスに振る。

 イッセーと友達になれて心底嬉しそうにしてるゆんゆんを知ってるので、もし此処で聞いたら凹むどころか精神的に再起不能になりかねないという、自分以上に濃いメンツの中に揉まれて然り気無く精神的に成長したカズマなりの気遣いだった。

 

 

「毎日毎日街に繰り出ては同じ事を繰り返していればそう思われても仕方ないのかもしれんな」

 

「う、ダクネスに言われると凹むわぁ……」

 

 

 見た目から何から全てがドストライクゾーンのダクネスからの一言に割りと本気で肩をがっくり落とすイッセー

 悲しいかな、ダクネスはイッセーの鬼畜さにアレ的な思考は持つものの、そういった感情はゼロそのままだった。

 つくづく自分の好みとは正反対の人種に寄られる男である。

 

 

「でもダクネスの言うとおり、これからは少し控えてみたら――」

 

「シャラップ、ぺてん師」

 

 

 クリスに対してはやはり相変わらずの態度。

 女神エリスの仮初めの姿とこの中で唯一知ってるからこその態度なのだが、それを知らないカズマ達にしてみれば人間である筈なのにクリスにだけは厳しいと不思議に思ってしまう。

 

 

「もう慣れたけどさ、何でイッセーってクリスにはそんな対応なんだ? 人間なのに」

 

「見た目が気に食わねぇ。その内まな板にコンプレックスでも抱いて胸にパッド詰めて盛って盗賊から詐欺師に転向しそうだし」

 

「わーお、改めて全否定されちゃったよ――――って、ちょっと待ってくださいイッセーさん、な、何でそれを知ってるんですか!?」

 

「何故急に敬語?」

 

 

 ある種、秘密を共有してる同士なのにイッセーは心底クリス――いや、エリスが嫌いだった。

 

 

 

 ナンパをしているとイッセーさんはフラフラ一人で何処かに行ってしまう事が多いのは知ってるけど、実際私はイッセーさんがナンパしてる所を見たことがない。

 それは、私がイッセーさんに対してお友達同士が普段する様な事をして貰ってる時でも見たことがない。

 

 

「今日は何するよ? 良いぜ、何時もの様に行きたい所を言ってみな」

 

「えーっと……」

 

 

 思うにイッセーさんは律儀だと思う。

 純粋な人間種族以外は嫌悪を抱いてる……というのは流石に私だって見ていて解るのに、紅魔族である私にそれを一切向けないし、何処かに行きたいと言えば嫌な顔もしないで付き合ってくれる。

 だから少しだけ今日は我が儘を言ってみようと、勇気を出してみる。

 

 

「あ、あの……イッセーさんに決めて欲しい、です」

 

「え、俺?」

 

「はい、い、いえその……嫌なら良いんですけど、その、イッセーさんに連れてって貰いたいなって……」

 

 

 所謂リードされたいという意味でイッセーさんにお願いしてみる。

 もしこれで下手こいてしまい、イッセーさんが怒って帰ってしまうと思うと怖いけど……。

 

 

「良いけど、俺に付いてきてもつまんねーと思うぞ?」

 

 

 イッセーさんは応じてくれた。

 その瞬間、私の胸の中はよくわからない満ち足りた気持ちになってしまい、思わず頬が弛んでしまう。

 

 ありがとうカズマさん、邪魔しようとするめぐみんを抑えるばかりか、この提案までしてくれて……。

 

 

「んじゃ行くか、街の外だけど大丈夫だよな?」

 

「はい、今日はイッセーさんに付いていきます……!」

 

 

 わくわく? いや、それとは少し違い……暖かい気持ちに心地よさを感じながら、私はイッセーさんの隣を歩く…。

 

 

 

『ほう、この小娘の頼みは聞くんだな。まあ、あの女神に対してもほぼほぼそうだが』

 

(よくわからんけど、この子ちょっと変わってるんだよ。何故か断ったら変な罪悪感が……)

 

 

 紅魔族のゆんゆんという少女と偶然的に知り合ってからというものの、これまで一度もエリス的な態度をしてなかったりするイッセーは、ドライグに半ば茶化されるものの、それに対して不機嫌になる事もなく、横を心底嬉しそうに微笑みながら歩く少女に視線を向けながら、何故か突っぱねられないと返す。

 

 

「本当につまんねーぞ? それこそ適当に街の外出てフラフラしてるだけっていう無計画な感じだし」

 

「全然良いです。イッセーさんとなら何でも楽しいですから」

「あ……そう」

 

『驚く程に懐いたな……』

 

(普段の俺を見てどうとも思わないのは只の天然なのか?)

 

 

 毒気すら引っこ抜かれる笑顔をするゆんゆんに、イッセーはむず痒い気持ちになりながら、感心するドライグとゆんゆんについての評価を下す。

 

 引っ込み思案、基本ネガティブ、友達居なさすぎて自分みたいな奴でも喜ぶ変な子。

 それがイッセーがゆんゆんに対する印象だった。

 

 

(まあ、カズマやアクアも居るし、あのガキ―――もう良いや、めぐみんとも知り合いだったみてーだから、これから親睦でも深めたらその内俺が頭のおかしな奴と敬遠するだろうから、それまでは付き合ってやるさ)

 

『どうかな、世界が違うからというのもあるが、まずこの世界の住人共はどうにも抜けてる所がある。

この前例のよくわからん雑魚に対してオーバーキルを噛ました時だって、誰も恐怖は抱かなかっただろう?』

 

(……)

 

 

 外へと続く門を目指して、様々な人種が往来する街中を、ある程度顔が割れてるともあって振り返られる事も多々ありつつ歩き、自然とゆんゆんを見ながらドライグと会話するイッセーは、その一言に少し黙り込んでしまう。

 

 

 化け物が! 気持ち悪いんだよ!

 

 ひっ!? 来ないで!

 

 死ね! 貴様の様な化け物は人ではない!!

 

 キミなんか存在すら許されないんだよ、だから排除する。

 

 俺の踏み台になった分際でゴキブリみたいにしぶといなぁ? 本気で死ねよお前。

 

 誰もお前に味方なんて居ない。人も神も悪魔も……誰もがお前を嫌悪してる…そうさ、お前はこの世界に必要ない。

 

 

 生前の世界にて向けられた様々な負の感情と言葉。

 その言葉を子守唄に生きてきたからこそ、イッセーは人外が嫌いだった。

 

 

『人間を襲う輩から守っても、その人間から恐怖され続けたお前にしてみれば新鮮だろう?』

 

(……。否定はしないさ)

 

『だがそれでもお前は人間が好きだと言った時は頭がおかしいと思ったものだ。守ってやった人間達からすら嫌悪されていたというのに……』

 

(…………)

 

 

 だけどそれでもイッセーは人間が好きだった。

 どんなに恐怖されても、どんなに嫌われても、どんなに化け物と罵られても。

 それでもイッセーは進化しても変わらない自分という人間であるが為に、快楽や利用する人外達から人間を密かに守りつつ、復讐を果たした。

 

 

『皮肉なもんだな、転生者を嫌悪していた俺たちがその転生者になってしまうなんて。

だからあのカズマの小僧を気遣うのか?』

 

(そんなじゃない。カズマは俺と違って普通だったのに今この世界で自分なりに頑張ってる。

アクアから本来貰う特典とやらも貰えずにな……あのゴミ野郎とは違う)

 

『それは確かにだな』

 

 

 自分の欲だけで、時には他人の恋人や女房すらとも寝た様な転生者とカズマを比べるのは失礼だと言うイッセーにドライグも同意する。

 そしてカズマという別の転生者を見たからこそ、転生者にも十人十色あるという事を知ったイッセーは以前ほど転生者に対しての嫌悪感は薄れていた。

 

 まあ、イッセーがかつて殺した転生者みたいな輩ならもれなくぶち殺し確定なのは全然変わってないのだが。

 

 

「イッセーさん?」

 

「ん?」

 

「あの、何かありました? さっきからずっと黙ってるので……やっぱり私となんて嫌でした?」

 

「あぁ、違う違う……ちょっと考え事してただけ。

そんなネガティブになるなよ、ほら行こう」

 

 

 カズマという同期。アクアという女神らしさゼロの女神。自分の力を見ても逆にはしゃぐめぐみん。友達になりたがるゆんゆん。変な騎士ダクネス。

 

 殺伐通り越して普通なら自殺ものである生前世界を生きて来たイッセーのこの出会いは、果たしてイッセーをこれからどんな道へ――どんな進化をもたらすのか。

 

 

『だがあのエリスという女神には辛口なのは変わらんのか?』

 

(わかんね、先入観ありすぎてどうもな……)

 

 

 それはまだ今の『自分』に気付けていないイッセーにすらわからない。

 

 

 

「さてと、取り敢えず飛ぶか」

 

「え、飛ぶってまさかマンティコアとグリフォンの捕獲クエストをした時みたいな……」

 

「違う違う、普通にゆっくり飛ぶだけだけど……あ、そうか、ゆんゆんは飛べないんだっけ?」

 

「え、えぇまぁ……」

 

 

 さて話は戻り、街の外へ出たイッセーが飛ぶと言い出した時、ゆんゆんは実に不安そうな眼差しを送る。

 というのも、出会って最初に早速行った捕獲クエストの時みたいな飛ばれ方をされると、ちょっと怖いのだ。

 

 だがイッセーはそんなゆんゆんの心配に対して、戦闘じゃないし普通にゆっくり飛ぶだけだと言うと、飛べないゆんゆんに確認する意味で聞く。

 

 

「おんぶされることに抵抗は?」

 

「え、いや……ありません、けど」

 

 

 おんぶという言葉にゆんゆんは即座に理解する。

 要するに普段のアクアにしている感じで自分をおんぶして飛ぼうというのだ。

 しかしおんぶとなると、それはアクアの二番煎じじゃないか? と、自分でも良くわからないアクアに対する対抗心が芽生えたゆんゆんは、『なら背中に乗りな』と背を向けようとしたイッセーに、かなりの勇気を振り絞って言った。

 

 

「あ、あの、おんぶじゃなくて他の抱え方って出来たりしませんか……?」

 

「んぁ?」

 

 

 背を向けかけたイッセーが、帽子を被ってなかったりする、俯き加減のゆんゆんに振り返る。

 

 

「他のって何?」

 

「えっと、ほ、ほらグリフォンとマンティコアのクエストの時みたいな……!」

 

 

 良くわからないけど嘗て無い程に緊張し、心臓バクバクで例のクエストの時の事を引き合いに出すゆんゆんにイッセーは『あの時?』と一瞬思い出す様に思案する。

 

 

「ええっと確か~…………そうだそうだ、こんな感じだっけ?」

 

「ふあ!?」

 

 

 そして思い出しでもしたのか、ポンと手を叩いたイッセーは緊張して俯いていたゆんゆんをひょいと横抱き……つまりお姫様的な抱え方をした。

 

 

「あ……あぅ……」

 

「そういや時間惜しんでこんな事したなぁ。考えてみたらこれ、まだ見ぬ恋人さんにする予定だったのに」

 

「こ、恋人……あ、あのごめんなさい。私なんかが……」

 

「あー良いさ良いさ。アクアに比べたらキミのお願いは楽なもんだし、へっ、そもそも本当に恋人さんが出来るのかも自信無いし……」

 

 

 後半、若干凹み気味に言ったその言葉にゆんゆんの胸の中にズキリとした痛みが走る。

 だけどその正体はわからないし、考えれば考える程寂しい気持ちになるので、ゆんゆんは無理矢理考えるのを止め、クエストの時とは違って本当にゆっくりと静かに飛翔し始めるイッセーの腕の中へと身を委ねた。

 

 

「飛ぶって言ってもドライグ無しじゃ大気を足場にして走ってるみたいなもんなんだけどね」

 

「あ……すごい、こんなに高く……」

 

 

 衝撃も空気の抵抗も感じず、本当に飛んでいるのかと暫くイッセーの『傷』がチラリと見える胸元を見ていたゆんゆんは、首を傾けた時に飛び込んできた光景に壮大な気持ちを受けた。

 

 

「街も山も湖もこんなに小さく……」

 

 

 未体験というのもあり、少しだけ空に居る怖さもあったけど、それよりも飛び込む景色にゆんゆんは感激してしまう。

 

 

「その内飽きるぜこれ? まあでもキミが楽しいならそれで良いけどね」

 

「あ、ありがとうござ――」

 

 

 ヘラヘラ笑うイッセーの声に反応し、抱えられた体勢で見上げる様にイッセーの顔を見たゆんゆんの声がピタリと止まる。

 

 

「んあ、どうしたん?」

 

「ぁ……い、いえ……な、なんでも……ありません……」

 

 

 不思議に思って聞くイッセーから思わず目を逸らしたゆんゆん。

 

 

(そ、そっか……今私、イッセーさんと密着してたんだ。こ、こんな近くにイッセーさんが……)

 

「? まあ、なんでも無いなら良いけど……お、行商の馬車じゃんアレ」

 

 

 トクン……トクン……と心臓が規則的ながらも大きく鼓動し、全身が熱くなる。

 人外嫌いと知った後、友達にはなれないと絶望した自分に何も言わずに街を一緒に歩くのに付き合ってくれ、今はこうして抱き抱えられながら空を飛んでる。

 よーく考えたらこのシチュエーションって普通に友達という距離感を越えちゃってる………と、今更ながらに気付いたゆんゆんは緊張とは別に恥ずかしくなってイッセーが直視できなくなってしまったのだ。

 

 

「しっかしこうして見ると前時代的というか―――あの、大丈夫? もしかして高所恐怖症だった?」

 

「だ、だ、だだ、大丈夫です。な、何でもないですから……!」

 

「? あ、そう……変な子だなキミも」

 

「へ、変ですか? 私……めぐみんみたいに?」

 

「あれは只のアホだろ。俺の事を師匠とか言うなんてアホ以外の何物でも無いしな。

が、俺も最近自分がわからなくなってるから、おあいこかもしれねぇ。前ならキミとも関わろうとはしなかったのにさ」

 

 

 変な子呼ばわりされた若干ショックを受けつつめぐみんを引き合いに出すゆんゆんに、めぐみんはアホの子と返しながら自分もおかしくなってると話すイッセー

 

 

「俺の態度でわかると思うけど、俺は人間という種族以外が本気で大嫌いだった。

まあ、その理由も向こうから嫌われてたってのもあるけど」

 

「そ、そんなの、私はイッセーさんの事嫌いじゃ――」

 

「そう、それ。キミといい、あのめぐみんというアホといい……初見で俺を嫌わなかったのは初めてだったんだよね。普通なら俺を見た瞬間人間なのに人間にそぐわない力を持ってると嫌悪して殺しに掛かるっつーのに、キミもあのガキもそれをしなかった」

 

「………」

 

「なぁ、何で俺に嫌悪感を抱かないんだ? 気持ち悪くないのか? 魔法やスキルとは違う力を持ってる俺に拒否反応は起こらないのか? 俺はわからないんだよ……」

 

 

 じっと、真っ直ぐ……無垢な子供が大人に質問する様な顔となって問くイッセーに、ゆんゆんは気付く。

 他人からの好意を心の底で信じられないという、イッセーが受けたその人生の一部を。

 

 

「わ、私にもわかりません……。イッセーさんがどうして人間の方以外を嫌ってたのも今分かったどんくささですから」

 

「ま、そりゃそう――」

 

「でも! でも……! 私は、人間とは違う種族の私なのに友達みたいに接してくれたイッセーさんが嫌いになんてなれません! こ、これまでも……これからも!」

 

「……!」

 

『…………。ほう?』

 

 

 恥ずかしさも忘れ、ぶつかるように放ったゆんゆんの言葉にイッセーは思わず目を見開き言葉を失う。

 

 

「それは、違うだろ……。

俺はもしかしたらキミに仕方なく付き合ってただけかもしれないんだぞ? いや、実際そうだ……何か妙に断り辛かったから――」

 

「そ、それでも良いです……! 私はそれでも嬉しいんです……!」

 

「なっ……! か、変わってるぞキミもやっぱり」

 

「今、自覚しました」

 

 

 風に撫でられながら空に立つイッセーに抱えられながらゆんゆんは、自分でもよく分からない感情赴くままに放たれた言葉はイッセーを生前に捨てた筈の感情の一つを揺り動す。

 

 それが何かはまだわからない。

 けど……。

 

「ホントにキミ相手だと調子が狂うぜ……けど、くく、げげげ……何だこの新しい気分は。

思わず叫びたいぜ―――新しいィィィィ!!!! ってな」

 

「ご、ごめんなさい、偉そうに言って。

う、うぅ……顔が熱い……」

 

「いや良いさ。

そっか、友達かー……俺も今まで親友と言えるのはドライグだけだったからな。

そっかそっか、それでも友達になりたいってか……はははは! 変な子だよやっぱり!」

 

「わ、笑わないでくださいよ。段々恥ずかしくなってるんですからぁ……」

 

 

 イッセーは今、久々に『新しさ』を感じていた。

 

 

「そろそろ降りよう。んでだ、礼に何か好きなもん買ってやるよ」

 

「え、わ、私別にそんなつもりで言ったんじゃ――」

 

「わーってるわーってる! 何か知らんけど礼ってのがしたいんだよキミに。

只の自己満足だから気にするな。ほら何が良いんだ? アイテムか? 武器か?」

 

 

 生前で失った、新たな進化の可能性が小さく芽生えたかは別にしても。

 

 

 そして――

 

 

「何ですかゆんゆんそのネックレスは?」

 

「えーっと、イッセーさんにプレゼントして貰った」

 

「……………はぁ!? ど、どどどどういう事ですかお師匠様!? 何でゆんゆんに!?」

 

「気分が乗ったからだよ。何か文句あんのか? 良いだろ別に俺の金で買ったんだから」

 

「そ、それが嫌なんですー! な、納得できないんですよー!!」

 

「知るかよ、俺が誰に何かしようがお前に何の関係があるんだよ?」

 

「そ、それはそうですけど……うー……何時もながらゆんゆんだけアクアさん並みにずるい……」

 

 

 

「何かあったのかゆんゆんと?」

 

「まーな、あの子が変だって気付いただけさ」

 

「の、割りには少し憑き物が落ちてスッキリした顔だけど……まさかアンタ、女にモテないのを拗らせてあの子にスケベな事を――」

 

「するかバカ。お前は俺を何だと思ってんだ……」

 

 

 行きと帰りでびっくり変化を遂げたイッセーに騒ぐのはデフォルトだった。

 

 

「あぁ、ちなみにそのネックレスって魔力を多少溜められるみたいだから、それ応用してドライグの力を譲渡してある。

空になったら補充しなきゃならんけど、紅魔族のゆんゆんならガキ――あ、いや、めぐみんと同じく親和性の高さで使いこなせるだろう」

 

「え!? そ、そんな大盤振る舞いまで………って、お、お師匠様? い、今私のことガキじゃなくて名前で――」

 

「あん? 嫌なのか? なら戻すが――」

 

「あ、あは……な、名前で呼んでくれた……あはあはははは」

 

「…………変な奴」

 

 

「いやイッセー? お前マジで何があった? に、偽物じゃねーよな?」

 

 

 ただ、露骨に変わってるので偽者と疑われたりした。

 というか――

 

 

「おい偽乳」

 

「ぎ、偽乳って……。何か?」

 

「…………………。お前とサシで話したい。今晩ちょっと付き合え」

 

「はいはい、どーせアタシは―――――――――――はぇ!?」

 

「ちょ、お前どうした!? もしかしてドッペルゲンガーか!?」

 

「頭でも打ったの!? おかしいわよアンタ!」

 

 

 偽者を疑われても多分仕方ないのかもしれない。

 しかし断っとくが人外嫌いは変わってないし、単にゆんゆんの話でほんの少しだけ此方から歩み寄って見ようという実験的な意味があったというだけの話だった。

 

 

「それとガキ……あ、悪いめぐみん。お前とも明日サシで話したいから時間を空けて欲しい」

 

「ふぇ?」

 

「おーい! ポーションはどこだ!? 万能薬はどこだぁ!!」

 

「そ、それってもしかしてゆんゆんみたいに……とか?」

 

「どっちでも良いが、お前的には魔法の特訓に付き合う方が良いんじゃないのか?」

 

「そ、それは是非もう! や、やったぁ!!!」

 

 

 だがもしイッセーが近しい人外にアクアの様に多少の心を許したとするなら……アクアが量産される懸念はあるのかもしれない。

 元々イッセーは本来『認めた相手に献身的になる』という欠陥なのかよく分からない特性が浮上してるので。

 

 

終わり








補足

なんてこった、イッセーがロリコンになっちまう……! なんて事はわかりませんが、少なくとも『仲間』となった人外に対して軟化するフラグ手前まで引き抜いた彼女はマジで凄い筈。

やっぱりタイミングって重要よね。

その2

が、それでも人外嫌いは別に変わってない。
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