ドライグと無神臓を失い、マイナスの側面がそのまま具現化している俺は、何というべきかその……運が頗る悪い。
か
運悪く岩は頭に落ちるし、運悪くスッ転んだらそこが坂でそのままゴロゴロ転がって生傷だらけになるし、挙げ句の果てには……。
「ご主人、今日は何を仕入れたんだね?」
「へぇ、お客様。
今日は王都から仕入れたブースト系のポーションを取り揃えております。お値段なんと王都の10分の1でさぁ……………ところでご主人とは?」
「? それは勿論、この店の店主さんの婿になったという意味でのご主人と――」
「ワッツ!?」
時が来たらとっととお別れするつもりでしかないドジな女の男と勝手に浸透しとるは。
力を失った原因が分離したと知ってからの俺はどうにもかうにも不運続きだぜバッキャロー。
「いやいやいや、お客さん?
ここの店主とは私そんな関係じゃ無いんですけど」
「またまた惚けなくてもよろしいでしょう? 街で噂になってますよ? ウィズさんが婿さん取ったって」
「ジーザス! 誰だよそれ広めたの!?」
そして思う。まさか俺の半身もこんな緩い空気のせいで変なこじつけでも受け、この前見たみたいに人外と組まざるを得なくなってるのか……と。
だとしたら俺は近い内に向かい合うだろう半身に対して言ってやりたい。
「てっきり不審者呼ばわりされてると思ってたのに、アンタの婿さんで通ってるんだってさ俺。笑えないと思わね?」
「で、でもその体なら色々と都合が良いというか、少しは動きやすくなるんじゃ……」
「冗談言わんでくれよウィズさんや。アンタは確かに元は人間で、クソみたいな理由で魔物になっちまったって俺は一応信じちゃいるし、何ならその現実全部を否定してやって良い。けどアンタそれ断ってあくまで魔物と人間を交互に取り混ぜて生きようと思ってんだろ? 俺の美学から外れとるわい」
「だ、だってそうじゃないとアナタ残して私だけ先に死んじゃうから……」
「確かに俺は自分の寿命と老いの概念を否定しておかしな方向に行ったからこの先このままの姿で固定されちゃいるけど、何でアンタとそんな長い時間居るって事になってんだよ? そんなより前に俺は半身と元に戻っとるわい」
『あぁ、だからか……』
って、肩でも軽く叩きながら同情してやりたいよ。ホント。
最初に感じたのは憎悪、嫌悪、それから――ドロドロとした真っ暗闇だった。
「淫魔の店?」
「へい、顔を隠していられるのですが、出で立ちからしてお若いと見る。どうです? サービスは保証しますぜ?」
負の塊というべきなのか、人間でありながら普通なら持ち得る筈もない絶大なマイナス精神を持つ……自らをマイナス側のヒョウドウ イッセーと名乗る彼とあのお墓で出会ってから月日は早いもので経っている。
最初こそリッチーとなっていて、魔王にスカウトされた上で籍を置いてる魔王軍の幹部という肩書きで露骨に嫌われていたけど、彼は……イッセーとも今じゃこれなりに楽しく生活してると思う……いや、思いたい。
「それって人間の女の子はいないんすか?」
「人間? 居ませんよ? 全部サキュバスですし――」
「あ、じゃあ良いっす、俺童貞だし初めては人間の女の子って決めてるんで……あでゆー」
人間だけが大好きで、人間相手だと優しくて、人間の女性しか興味無くて等々、ある意味中途半端になってる私よりも徹底してる彼のその思想の根底は、奪われた恨みと復讐で成り立っていて、基本的に世界が違えど人間以外の人達とは一定の距離を保って引いている。
曰くそれでも『一人の兵藤一誠の時なら問答無用で殺してた』と、ヘラヘラ笑っていってたけど、私にはとて
も半身同士で分離したイッセーを見ていてそうは思えない。
「ったく、サキュバスだぁ? あんなのによくまあ何かして貰おうとだなんて思えるね。
いくら俺が分離した影響でそんなに悪感情が無いとはいえ、それだけは理解できないぜ」
「………」
「って、ウィズさんじゃん。何時から居たの?」
「ちょうどアナタがお店の人に表で話し掛けられてた辺りに……」
「あ、そう。サキュバスの店ってかなり人気あるけどさ、ウィズさん入ったことある?」
「あ、あるわけないじゃない……!」
「でしょうね。
あるって言ったら逆に引くわ、はっはっはっ!」
思えない……いや、思いたくないといった方が正しいのかもしれない。
事情があって顔を変なお面で隠していても想像できる笑い方をしてるイッセーが本当に人以外の方々を殺し回る様になってしまうなんて。
「さてと、例の墓地に行くんだろ? とっとと行って霊魂でも何でも沈めようぜ」
「……うん」
やっぱり思いたくない。そして、何時も彼が言ってる元の一人に戻って欲しくない。
だから私はこれまで冒険者として活動してる方の彼の存在が発覚し、それも同じ街に居るとわかった時、然り気無く、分からないように努めながらイッセーが半身側の彼と接触するのを少しでも先伸ばしにしようとした。
その先延ばしの間にイッセーが自分の自我を殺してまで元の一人に戻るのを躊躇してくれたら良いな……なんて思いながら。
「あ、あの……イッセー? 今日はこのままお店に帰らない? 何か嫌な予感が……」
「は? アンタの金にならん日課なのに止めるってどうしたの?」
「今日行ったら嫌な事が起きそうで……」
「んな訳無いだろ。アンタ強いじゃん」
「そういう意味じゃなくて……」
「もう良いから行こうぜ。あの墓地変なの拾えるから俺的に行く意味はあったりするし」
元の一人に戻った時、自分という人格はマイナスとして組み込まれる形で消えるというのを知ってて見送るには、あまりにも私はイッセーと一緒に居すぎたから……。
嫌な予感がする。
そうしきりに主張して墓地に行きたがらないウィズを引っ張り、ゴミ回収という名のお宝採掘へとやってきたマイナス・イッセーは、しぶしぶと墓地をさ迷う地縛霊を黄泉へと送る作業をし始めるを見守りつつ、誰かが不法投棄したろうアイテムの残骸回収をしていた。
「お、コイツは復元してみる価値アリだな」
すっかりアイテム屋家業に染まっていたマイナス・イッセーは復元した売りさばいた後の金の山を想像してニヤニヤしながら、背負ってた篭にホイホイと他の者にしてみればガラクタになってるゴミを入れまくる。
幽霊が出るという理由で殆ど人も寄り付かない墓地なのに、何故かこうしたゴミだけは捨てられるのを拾ってるという理由からなのか、実の所ここの地縛霊に地味に懐かれてもいたりする訳だけど、本人にしてみればどうだって良い話だし、ふよふよと人魂っぽいのがマイナスイッセーの周りを楽しそうに旋回していれば、それを素手で付かんで儀式を行ってるウィズの目掛けて投げつける。
「おい、邪魔だゾンビ野郎」
「おうおう!」
「はい? 何時もご苦労様だって? 別にゾンビの為にやっちゃいねーわい」
「わふわふ!」
「なに? 俺に惚れた娘がいる? それって確実にゾンビ女なんだろうが、嫌だとでも言っとけこの野郎」
「ぐぇぐぇ!」
「は? ……………だから違うってんだよ! この世界はあれか! 男女一組で行動してるだけで夫婦扱いか! ったく、そもそもウィズさんがんな事思うわきゃないだろうにどいつもこいつも……! おら退け退けぃ!!」
「ウボァ!!」
「!? 冒険者がアンタ等の仲間を? あぁ、仕方ないだろ、アンタ等ゾンビだし――は? 追っ払え? ふざけんなこの野郎、俺に死ねってか」
異なる世界にたどり着いた事で気付いた二人のイッセーにとっての最大の皮肉である人外を引き付ける才能が、モンスターたるゾンビにすら適応されているせいか、ウィズに付き合ってこの地に訪れる度に、此処等近辺のゾンビモンスターに歓迎すらされるマイナスイッセーは、最初こそ何度か串刺しにしていたのだが、気付けば言語の壁を乗り越えて世間話までし始めていた。
これはマイナス側のイッセーが無神臓とドライグの力を持つ側のイッセーよりも嫌いとはいえまだ人外に対しての悪感情が少ないから故だったりするのだが、今日はどうやらそのゾンビから唸り声にしか聞こえない声で懇願されていた。
そう……自分達を討伐しに来たらしい冒険者の撃退を。
「確かに俺は立ち位置的に冒険者側じゃないけどよ、だからといってお前らの味方になるなんて言ってねーぞ。
つーかそもそも、俺はキミ達と敵対してる人間なんだぜ?」
「うぁぁぁ……」
「は? 『でも旦那は違う』だと? いやいや何も違わないし……ったく、めんどくさいなー」
当初こそ渋ってたというか完全にお断りしていたマイナスイッセーだが、多くのゾンビモンスター達に、ゾンビなのに土下座されまくったのと、無神臓&ドライグ――以下、陽側のイッセーと同じが故か、元の世界では目覚める事が無かった『変な面倒見のよさ』が発動し、ゾンビ達が拾った金目も物品で手を打つ事となったマイナス・イッセーは、墓地から大分離れた薄暗い森を引き返し、ついてきたゾンビ達を引き連れてる様な絵面となっていた。
本人は嫌がるだろうが、此処等辺りのアンデッド系のモンスターの間ではカリスマ化してるのだった。
「ったくもー」
普通なら迷うだろう森を慣れた様子で引き返したマイナス・イッセーはまだブー垂れてたのだが、墓地に戻るや否や念のために被り直していたフレンチクルーラーみたいな仮面越しに飛び込んできた状況に固まってしまった。
「オラオラ! 浄化しちまいなさい!!」
「うぅ……待機中の魂が……」
それはあの程度なら恐らく普通に反撃できる筈のウィズが防戦一方でゾンビ達の言ってただろう冒険者達……特にその中のアークプリーストの浄化魔法に成仏前だった魂を消されつつ、自分も消され掛かっているという状況。
そして――
「退け、消し飛ばした方が早い」
『Boost!』
今まさに物理的な意味で此処等ごと破壊しようと、自分にとっては失って久しい相棒を左腕に纏う自分そっくりな少年。
「何だろ、良いのかな? あのリッチーって言ってた人に悪意が感じられないんだけど……」
多分先んじて出てきていただろうアンデッド達を、何故か自分にとってもよく知ってるけど未完成な『音速移動技』で撃破してる少年とその仲間達。
「………………。チッ、ゾンビ共、死にたくなければとっとと逃げろ」
それを物陰から引き連れたゾンビと共に見ていたマイナス・イッセーは、第三者として見ることで今初めて『うわ、俺って相当嫌な奴だったんだな』と気づきつつ、本当なら言う必要もない撤退を促す。
「うがぁ?」
「……。おう、あの俺そっくりな人間は俺の半身だ。前に愚痴ったろ? 奴は俺以上に聞き分けが無いんだよ。だから早く仲間でも何でもつれて逃げろ。時間くらいなら俺が稼ぐ」
別にこのアンデッド共が半身の自分に消される事にどうとも思っちゃいない。
しかしさっきからアークプリーストの女に無抵抗になりつつ、ドライグを持つ半身側の自分にトドメを……それも破壊という形で刺されそうになってるウィズを見ていると、言い知れぬ不愉快さを覚えて仕方ない。
それが何なのかなんて知らないし、考える暇も無い。
だからマイナス・イッセーは、久々に沸き上がる『際限なきドロドロしたマイナスを剥き出し』にし、仮面を被りながらウィズにトドメを刺そうとしたその間に飛び込み。
「……ぐぶ……!!?」
「!?」
「な、なに!?」
身を呈してウィズの盾になった。
「…………。援軍って所かな? おっと、もう死にかけだけど」
「……っ」
声を聞かせてはならないと、ウィズの代わりに受けて片腕がもがれながれ、勢いよく墓石に全身を打ち付けたマイナス・イッセーは『自分という存在に気付いてない』様子の、初めて向かい合った陽のイッセーの『絶対殺すまん』な顔を見て仮面越しに苦笑いする。
(うっわ……俺なのに超嫌な顔……)
第三者視点となって初めてわかる己自身の殺意に対し、マイナス・イッセーはもがれた片腕から流れ出る自分の血を壊れた墓石に染み込ませながら、フラフラと立ち上がる。
(……。なるほど、なるほどね……)
「な、何か不気味な奴ね……」
「というか誰だ? モンスター……なのか?」
「変わったお面をつけてますね」
「……。あれ、でも身近に感じる気配がする?」
「片腕がもがれる程のパワーを受けて立てる……はぁはぁ、あれが私にと思うと――」
「発作起こすには早いぜダクネス……」
突然の乱入で消されかけていたウィズから自分へと意識を向けられたのには成功した。
しかし単純な戦闘力ならまず返り討ちなんて無理なマイナス・イッセーにどっかの主人公みたいに華麗に女の子をお助けする力などありはしない。
あるとするなら――
『くくっ、間抜け共め。その女は囮だボケ』
声をどこぞの『クレイジーでサイコでホモでゾンビ』な低くよく通る声に偽装し、挑発する事ぐらい。
「…………。何だテメー?」
それが成功したのか、ウィズからマイナス・イッセーへと標的を変えた陽のイッセーが殺意を込める。
どうやら『何かがあって今日の彼は実に不機嫌』らしい。
だがそんな事はマイナス・イッセーはしらないし、何より『自分が何者なのか』に気付いてない様子の陽側に、偽装してるとはいえ軽くガッカリしてしまう……。
『そこの女の……なんだろうな、ボディーガードであり、店員であり……その他諸々だ』
失血死を防ぐため、密かにもがれた箇所にマイナスを発動させて止血しながら、声を変えてるマイナスイッセーは頭に浮かんできた答えをそのままに返す。
『一応、この女は、どことは言わんが街で店開いててね。俺はその店員で、この墓地に居たのも……誰も浄化しない霊共を無償で黄泉に還してやってるだけだ……』
「え……じゃあ俺達無実の人を襲ってたのかよ……?」
「「……」」
「目を逸らすなイッセーとアクア」
「だ、だってリッチーだし! 普通倒すでしょ!?」
「サキュバス共が絡んできてイライラしてたから……」
『………』
こんな得たいの知れない存在化してる自分の主張をあっさり飲み込むのは確かに陽のイッセーも変わってるみたいだと改めて認識するマイナス・イッセー。
だがそれでも陽側のイッセーは人外嫌いではあるらしく……。
「だが邪魔だから消すのは間違ってないし、いっそ殺っちまった方が良いだろ?」
『………』
多少の良心の呵責を感じる程度には影響されてるのか、微妙な顔をしながら再び自分とウィズを始末してやろうと構えだした。
「そもそも人間じゃない生物で、ましてや縁も所縁も無い奴なんだ……! これ以上譲歩なんざできるかよぉ!!」
『………。フッ』
だが十分に時間は稼げたとマイナス・イッセーは生まれて初めて赤龍帝と向かい合う感覚を覚えながら小さくほくそ笑むと……。
「it's reality escape!!!!」
「なっ!?」
何処からともなく空から降ってきた数百の釘と杭を陽側のイッセー達に向けて放つと。
「俺はやっぱり間抜けだなオイ! ウィズ!!」
「イッセー……!!」
下半身が既に透けていたウィズへと走る。
「うわ!?」
「な、なんだこれ!?」
「くっ……!」
「私に任せろ!!」
用途不明の巨大な釘と杭の雨にカズ達が怯む中、刺さる事無く棒立ちしていた陽側のイッセーは、その声に……そして杭と釘に固まってしまう。
「ってぇ……ここに来て怪我ばっかりだ―――
恐らく二度とは使えない心理を利用した不意討ちの隙にアクアとイッセーによって傷ついていたウィズの負った全てを否定したマイナス・イッセーは、その拍子にフレンチクルーラの仮面を地面に落とす。
「なっ!? イッセーが二人!?」
「う、嘘だろ……」
「そ、そっくりですね……」
「姿を変えられるモンスター……じゃなさそう」
外れた瞬間露になったその容姿に驚愕するアクア達。しかしそのリアクションに答える暇なんて無かったマイナス・イッセーは。
「気づけよお前……俺のルーツだろうが……!!」
『!?』
持っていた閃光を発するアイテムを地面に叩き付け、ウィズ共々撤退を成功した。
「ごほ! げほ!!」
「い、イッセー……!」
「ち、ちきしょう……破壊のスタイルなんざ使いやがって、今すぐ否定もできやしない」
何とか逃げ仰せたイッセーは、途中ウィズを火事場の馬鹿力で抱えていた体力のタンクも切れ、森から出て暫くした湿地帯にて力尽きる様に倒れてしまった。
「い、今治療を……」
ウィズは慌てて倒れたマイナスイッセーを助け起こし、近くの大木に座らせながら傷の治療をしようとするが、マイナス・イッセーはそれを断る。
「無駄だよ。もろに破壊のスタイルでくらったんだ……今知った事実で俺自身だからか、多少の耐性があって二度と治らないって事は無いみたいだけど、多分三日はこのまんまだ」
「そ、そんな……」
半身同士だから何とかギリギリで治ると言ってヘラヘラ笑うマイナス・イッセーだが、ウィズから見てもこのままでは間違いなく死ぬ重症。
そんな力を自分が食らう筈だった事もあり、ウィズはマイナス・イッセーに対してひたすら謝る事しか出来ない。
「ごめんなさい……私のせいで……私が……!」
再び腕がもがれた箇所から流れる血が手に掛かりながら、ウィズは子供の様に謝る。
自分がさっさと逃げれば良かった。イッセーの存在をとっとと向こうのイッセーに教えてればもっと穏便に済んだのかもしれない。
だというのに、教えたら向こうのイッセーと元の一人に戻ってしまうと思い、曖昧な事しか言えず消され掛けた挙げ句、マイナス・イッセーが負うべきでは無い大ケガまでさせてしまった。
全て自分のわがままだとウィズは泣き始めた。
「あの聞き分けの無さなら、何言ったって無駄だよ。
ったく、我ながらああして他人目線で見ると、相当嫌な奴だったんだなぁ……俺って……あははは――っぐ!?」
しかしマイナス・イッセーはそんなウィズの肩を片方の手でポンポンと軽く叩きながら気にするなと言うと、自嘲したように、かつての自分が如何に頑固だったんだと理解した様に笑う。
散々人外を殺意と嫌悪で殺しまくっていたそのバチが今更になって降ってきただけ……と。
「そ、そんな事よりこりゃマズイな。暫く店の仕事ができない」
「そ、そんなのやらなくて良い! わ、私が出来る限りの看病をするから……!!」
流れる血が止められず、霞んだ目でそれでもヘラヘラしようとするマイナス・イッセーの逆の手を握りながら必死になるウィズ。
働かせる? こんな傷を負った人を働かせる訳無いのだ。
「で、でもどうしてあの時私を……?」
「さ、最初は……ゾンビ共が俺にアンタが襲われてるって言ってたのを聞いた。
で、行ってみたら……よりにもよって……俺の半身に殺されかけてるアンタを見た……んだ……」
呼吸が小さくなっていくマイナス・イッセーは、ウィズを庇った理由を絶え絶えに話す。
「あ、アンタが……殺られそうになってんの見たら……し、知らんけど勝手に身体が動いた。
ほ、ほら何時もドジばっかするのと一緒……だぜ……」
「うぅ……」
既に片目に光がなくなってるマイナスイッセーが強がる様に笑い、ウィズはまた泣きそうになる。
そしてマイナス・イッセーは言った。
「ひとつ、思い出した……昔、変な女に、技術を教えられた時に、言われた……マイナスって……惚れっぽいんだって………。たぶん、それ……が」
「い、イッセー……? イッセー……!!」
分離した事で純・過負荷となって出てしまった特性。
「アンタ、殺そうとした俺に……や、やさしくするから……だよ……ちきしょう、どうしてくれんだ……。
アンタ庇った時から……元に戻るのを躊躇……して……う……」
過負荷は惚れっぽい。ただ、それだけの理由でマイナス・イッセーは元に戻るチャンスを台無しにしてしまったと、『笑いながら』ウィズの頭をポンとひとつ叩き、そのまま眠る様に……。
「み、三日程有休くださいな……店主さ……ん……」
力尽きた。
「イッセー……」
眠る様に力尽きたイッセーが息はまだしていると確認したウィズはその身を抱え、立ち上がる。
その目は何かを決意した様に強く……。
「アナタは怒るかもしれないけど、元の一人に戻さない……」
陽側のイッセーへの敵意を滲ませていた。
補足
マイナスとしての自分の我を持ち始めたのと、その特性がここで出てしまった。
皆さんも過負荷にやさしくするときは気を付けましょう。
惚れられます。