久々ですね。
需要もねーのに何をやっとるんだか……
会うのを躊躇ってると指摘されてしまえば否定が難しい。
だからこそお互いに探そうとはしていない。
きっと元の状態に戻ってしまえば全てを壊してしまうから。
陰と陽が混ざり合えば全ては終わってしまう。
「…………。わざとだな」
イッセーが復帰してからというもの、私は何時向こう側のイッセーが来てしまうのかとハラハラしていたのだけど、待てど暮らせど向こう側のイッセーが店にやって来る事は無かった。
「大体わかる。わざと探そうともしてないぜ」
イッセー曰く、その理由はわざと探そうともせず避けてるとの事だけど、私にしてみたらそうであって欲しいと思う訳で。
「それならそれで良いじゃない……?」
店のカウンターに座りながら指を叩いてるイッセーに私は無理に会う事は無いのではと然り気無く言ってみる。
「いや、それはそれで何か気持ち悪い。
普通に考えてもみなよ? 同じ顔した奴が目の前に現れたと思ったら逃げたんだぜ? 探るなりなんなりするだろってか俺ならそうする。
けどここ数日わざとらしく素顔で表を出歩いてても接触も無いし、知らん人妻の旦那にめっちゃ睨まれるだけ。
ハッキリ言って俺の半身なのかとすら疑うぜ」
まるで自分の事の様に――いえ、実際の所話を聞く限りその通りなのだけど、自分と同じ考えを持ってない事に違和感を感じてる様子で話しながら、手持ち無沙汰なのか先日修理した魔道具を解体し始めるイッセー
とある理由で純粋な人間以外の全ての種族に嫌悪感を抱いているイッセー。
それはきっとイッセーという人格と力の大半を担う向こう側のイッセーの方がより強く嫌悪感を持ってる筈で、現に私は危うくあのアークプリーストと共に消されかけた。
あの時イッセーが死にかける怪我をしてまで私を逃がしてくらなければ、ベルディアを文字通り消滅させる程の力を持つ向こう側イッセーによりこの世から消えていた筈。
それを思えば私の知るこちら側のイッセーは自分でも言ってた通り、まだ人以外の生物に対してマシな対応をしていると思えるし、実際問題優しかった……。
しかしそれと同時に私は思っている、向こう側のイッセーが果たして本当に人以外の生物に対して本気で嫌悪してるのかと。
何故ならあの時彼の仲間には純粋な人間では無い種族の者も確かに居たのだから。
「向こう側のアナタももしかしたらそこまで嫌悪をしてないのかも……?」
「それはそうかもしれないけど、だからといって自分そっくりの人間が何の突拍子もなく現れたんだぜ? 気になってマジ探しすると思うんだけどな……」
「それは多分、アナタと同じで元の一人に戻るのを何処かで躊躇っているとか?」
「えぇ……? 無神臓とドライグを持つ方の俺がそんな殊勝な考えを持つかなぁ。
今の俺ですら軽く嫌だと思うのに」
「私は嫌なんだ……」
「あ、はい……ウィズさん以外はね」
「ふふ……!」
「やりにくい……」
こちらのイッセーが私やバニルと話せる様に、きっと向こう側のイッセーも……そう思えば不思議でも何でもない。
別に理由があるからとかでは無く、ただただ自然とそう思う様になったといった方が正しいのか、ちょっと変で怖くてスケベな少年との唐突に始まった生活はウィズにとってとても大切なものへと昇華していた。
「うちは魔道具専門であって武器屋じゃあ無いんですよね」
「っ!? き、キミはこの前の!? な、なななっ、何故ここに!?」
「は?」
とどのつまり、陰側のイッセーに陽側との一体化はして欲しくないというのがウィズの持つ数少ない欲というものであり、叶うならずっとこんな調子で細々と店を続けて生活していきたいと思っている。
「……失礼ですがお客様? 誰かと勘違いされているのでは?」
「か、勘違い!? そんな訳無いだろ! 僕の魔剣を折ったばかりか、あんな意味不明の技まで掛けて来て……!」
「はい?」
「あ、あれから武器を失った僕はクエストにすら恐怖を抱く様になってしまったんだ! だ、だからこうして使えそうな道具や武器を一から集め直して……うぅ……!」
「はぁ……」
店にやって来て武器の有無を問う見知らぬ青年が自分の顔を見るなり怯え、そして泣き言を吐かれて微妙に理由を悟り始めたマイナス・イッセーは、どう説明したものかと隣でオロオロしてるウィズを一瞥しながらも取り敢えず商売を優先する。
「武器はともかく扱ってる道具は一部店主の意味不明なものを除けば色々と取り揃えてはいますので、取り敢えず何か買いませんか?」
「だ、だったら僕のこのへし折れてしまった魔剣を――いやキミがへし折った剣をなんとかする魔道具を!」
「ありません」
そういえばこの顔、どこかで見たかもしれないと思ったら、向こう側の自分にアルティメット阿修羅バスターを掛けられてた名も知らぬ青年だったと思い出したイッセーは、多分その流れで折られただろう剣をカウンターに出す青年に対して無理と返す。
「た、頼む! もうキミの気に触れる真似はしないからどうか!」
「いえですから私はお客様とは初対面なんですよ。
誰かと勘違いなされてますってば。そもそもその折った方とやらは冒険者ではありませんか?」
「………はっ! そ、そういえば魔道具屋を営んでるのはおかしい……」
「でしょう?」
「だ、だがどこからどうみても同じ顔だし……」
「それは恐らく他人の空似というものですよ。
世の中にはそっくりな顔をした者が少なくとも三人は居るというでしょう?」
「き、聞いたことはあるが……だがあまりにも……」
「噂には私も聞いてますよ。
曰く魔王軍の幹部を消し炭にしたとか、街中の女子にナンパ仕掛けたりとか。
余程似てるお陰げで私は謂れの無いナンパ師扱いされた事もありましたよ」
「そ、そう……なのか? す、すまなかった……僕の早とちりなようで……」
「いえいえ、誤解が解けて私も何よりです。
で、お客様? 何をご所望で?」
「あ、じゃあえっと……このスキルポーションと―――これは?」
「ほう、お客様もお目が高い。
そのグローブは世に滅多に出回らないレア物の魔道具でしてね、なんと魔法やスキルを二回まで記憶させ、任意で扱える代物なんですよ」
「なっ!? なん……だと? ち、ちなみに値段は?」
「会員様なら――――いくらで売っても良いかな?」
「え? えーっと……2000エリスくらい?」
「安っ!? ち、ちなみに非会員の場合は?」
「んー……5000エリスくらいで良いかなウィズさん?」
「多分それが妥当かな……?」
「買った!!!」
適当に拾って幻実逃否で新品にねじ曲げた魔道具をチャッカリ売りつつ、ヘイトを受け流す。
別に向けられた所でどうという事も無いが、向こう側の自分のやった恨みをこっちに向けられても面倒なだけなので、適当に気を良くさせてさっさと帰って貰うほうが色々と無駄にはならないのだ。
「ちなみにセットでこの敵の寝癖があるか分かる望遠鏡と、真水をキャベツ風味に変える薬もございます。
お値段なんと持ってけ泥棒破格の300エリス」
「買ったぁ!!」
この際だからウィズのセンスで仕入れた用途不明の魔道具も売ってしまえと、どこぞの通販番組の様に売り付ける。
先に赤字確定の値段のレア物で釣り、それ以上に無意味な商品で利益を出す。
この青年に恨みは無いが、さっきから自分を見て妙に怯える仲間と思われる美少女二人を連れてる時点で妬みも入ってた為、罪悪感は全く無かった。
「ふっふっふっ、見ろウィズさん。
何だかんだ原価にしたらしめて5000エリスにも満たないガラクタを6万エリスにして買わせてやったぜ」
「も、物凄く悪い気が……」
「商売とはそういうものさ。
第一こっちだってうん十万エリスはするレア物を数千単位で提供してやったんだ、高々6万くらいせしめてもバチは当たらないぜ」
意気揚々と店を後にした青年と最後までこっちを見て怯えていた美少女が居なくなった後、途端にニヤニヤと悪い顔をしながら金を数え始めるイッセーにウィズはその人の良さのせいで罪悪感を抱いた顔をしているが、これでイッセーが向こう側の自分の事を少しでも忘れてくれるならとそれ以上は言わない事にした。
「にしてもあの彼、可愛い子達を連れてたなぁ……良いよなぁ……」
「…………」
忘れすぎてこういう所に走るのは嫌だが。
先程の客の連れの女の子二人についたデレデレした顔をするイッセーにウィズは怒るでも無くジーっと見つめ続ける。
「えっと……なに?」
「…………っ」
「ヘァッ!? な、何で泣く!? か、軽いジョークですって!」
「うぅ……」
「ご、ごめんなさい」
あーだこーだ言いながら優しくしてくれた異界からやって来た少年にほだされる程チョロくなかったつもりなのに、ギョッとして慌てるイッセーにポロポロと涙を流しながらウィズは何かを訴えるかの様にただただ見つめ続けるのだった。
補足
ぼったくられた彼の明日は果たして……。