ドライグと念入りに話し合い、事情を知りそうな女神に確認した結果、鏡を前にしたかの如く俺と同じ姿形をした男は間違いなく俺自身である事を確信した。
それもただの同じでは無く、アクアによって引きずり込まれる直前まで――生きる理由を無くした結果無意識に手離したマイナスを持つ――――謂わば分離した人格の俺自身である事を。
何故マイナスが独りでに形を作ってこの世界に居るのかは、残念ながらエリスにすら分からないらしいので不明だけど、それでも確信できる事は、もう一度顔を合わせ、そして再び一人の人間として元に戻れば全ての力が取り戻せるという事、そして軸がブレた俺の価値観全てがあの時の頃に戻るという事。
――この世界を壊すという意味で……。
誰もが気になる。しかし誰もがその話題に触れることは無かった。
触れたら何もかもが壊れてしまうかもしれないから。
「チッ、一々付いてくんなよ」
「独りでにフラフラしたあげく、永遠にお別れになるかもしれないので虫の様に付かせて貰います!」
ある意味イッセーを抜かした仲間達の中で建てられた暗黙の了解。
あの日リッチー種族の女性を助ける様にして現れたイッセーにそっくり過ぎる青年については触れず、敢えて普段通りに接する。
アクアは相変わらずのおんぶに抱っこだし、カズマはそんなアクアみたいにはならないと自分を鍛え、そして弟子を公言するめぐみんは、フラフラと何処かへと行くイッセーの後を懐いた子犬の如くついていく。
「今日はどこへ?」
「何処だって良いだろ、早く帰れよ」
「此処まで付いてきて帰るのは嫌ですよー」
「このガキ……」
変わらないし変えない。
あれから自ら自分そっくりな男を探す気配が無い以上、イッセーなりに何か思う所があるのかもしれない。
ならば自分達も触れずに普段通りイッセーに接すれば良いじゃないか……という、妙に真面目ぶったカズマに言われて全員が同意した通りに、今日も邪険にしてくるイッセーの後をひょこひょことついていくめぐみん。
「言っとくが、ドライグの力を貸すつもりはねぇ」
「嫌だなぁお師匠様~! 私は別にそんなつもりでお師匠様についてきた訳じゃないですって~ ゆんゆんにだけ妙に優しいから腹立ててる訳でもありませんしー」
『ある意味でタフだなこの小娘は』
「バカらしい」
ある意味で自分の目指す爆裂魔法道の理想の究極系に位置するイッセーの力を上手いことモノにしたい。
そうすれば爆裂魔法コンビとして世界に名を轟かせる事だって夢なんかでは無くなる。
ついでに
何か知らないけどいつの間にか知り合ったばかりか、妙に優しくされてる気がしないでも無いし、こういう所で点数稼ぎをしないと、只でさえこんな見た目のせいで邪魔な子供扱いされてるので、なんとしてでも一番弟子の位置だけは死守だ。
と、めぐみんは舌打ちしまくりなイッセーの後を犬の様に平原を歩くその背をついていく。
「はぁーぁ、カズマは良いよなぁ、ダクネスみたいな子と楽しく修行でよぉ。
こっちは何度ナンパをしても上手くいかないばかりか砂利ばかり……」
『日頃の行いだな。諦めろ』
「ドライグも冷たいし……はぁ……」
「私はカズマもお師匠も皆大好きですよ?」
「うっせー、慰めなんか要らねぇよ……王都辺りにでも行こうかなマジで」
てくてくてくてくと、本当なら飛んで簡単にめぐみんを引き離せるのだが、遂に街でブラックリストに載ったせいかナンパが一切通用しなくなってしまった現状に憂いて王都やら別の町に繰り出そうかと愚痴るイッセーに、ナンパが死ぬほど下手くそな事を知ってるめぐみんは内心、別の地に行っても成功しないだろうし瞬く間にブラックリスト入りだろうな……と、自分とは真逆の体型の女性にデレデレと下心満載な顔でナンパしているのを思い出して若干ムッとなる。
黙っていればカズマもそうだがそこそこな容姿なのに、どうしてこうもがっつくというか……まあ、それがある意味でイッセーらしいのかもしれないが。
「ビッグバン・ドラゴン波……は、どうよ?」
『往年の兆分の一での威力ならギリギリだな。やはりそれをカバーするだけの身体能力が著しく低下しているぞ』
「そうか」
「びっぐばんどらごんはとは?」
「あ? 別に――」
『お遊び無しで戦う際に使うイッセーの……まぁ、お前の使う爆裂魔法的なものだ』
「! ほほう? それはかなり気になりますね!」
「チッ、余計な事を……」
開けた平原にたどり着き、赤龍帝の籠手を纏ったイッセー。
どうやらナンパに繰り出すために別の町に行こうした訳では無く、一人でこっそり修行をするつもりだったらしい。
「修羅龍――つーか本当はアスラらしいが、あの首無しを殺った時、全身が悲鳴をあげた。
つまり今の俺が使うとその内全身の細胞が破壊されるリスクがある訳で……」
『あぁ、技術をわざわざ俺達に教えたあの女曰く、プラスとマイナスを持って初めてリスクを克服できる力だからな。
今後は使わないほうが良い』
「と、なれば本来の戦い方に戻すべきで……」
全身から赤いオーラを放ちながら、何やらリスクがどうとかめぐみんにはよくわからない事をドライグと話し合っているせいで会話に混ざれないと、若干寂しそうに地面に落ちていた小石を蹴っている。
「ビッグバン! ドー……ラー……ゴー……ンー……」
だがその寂しさは、赤いオーラをバーナーの様に激しく放ち始めたイッセーが空に向けて両手を前に出し、巨大なエネルギーをタメ始めた姿を見て吹き飛ぶ。
「波ァァァッ!!!!」
「きゃ!?」
溜めたエネルギーが空へと向かって打ち出される。
その力は雲を切り裂き、地上に向けられれば地を破壊するだろう極大な力。
打ち出された余波で吹っ飛んでしまっためぐみんはゴロゴロと転がりながらも確かに見た。
「う……ぐぇぇぇ! 一発撃っただけでめっちゃ身体が怠い……!」
爆裂魔法の更なる理想を。
『おい、小娘が吹っ飛んだぞ?』
「え? ……だから付いて来るなって言ったのに」
「いたたた、頭をぶつけて星が目の前にぃぃ……」
地面を転がり、岩に激突して目を回すめぐみんに舌打ちするイッセー。
力の低下を深刻に思い、本来の戦い方に戻そうとリハビリをするのが今回の目的だったのだが、どうやらめぐみんを無駄に喜ばせるだけに終わりそうなのと、想定以上に自分自身の力が弱まっているのを知ってしまい、肩で息をしながら千鳥足になって転びそうになっているめぐみんの腕を掴んで立たせる。
「い、今のは何ですか? 以前の巨人さんとは違いますよね?」
「……………」
『俺の力を使って倍加させたエネルギーをそのまま撃ち出すだけの技術だ。
技名はイッセーがガキの頃に偶々見たアニメの主人公の必殺技を拝借した』
「あにめ?」
「……。何で一々教えちゃうんだよ……」
妙に口の軽いドライグに顔を顰めるイッセー
おかげでまためぐみんが妙に目をキラキラさせ始めるので、鬱陶しそうに掴んでいたその腕を離す。
『良いだろう別に、減るものでもあるまいし』
「割り増しで鬱陶しくなるのが嫌なんだよ。
どうせならムチムチの女の子に鬱陶しくされたいのに……」
半分諦めの感情はあるものの、それでも妙に絡んでくるめぐみんのせいでナンパが上手く行かないと思い込んでいるイッセーのため息交じりに愚痴る。
その件は絶対私のせいではないと思うけど……とイッセーのド下手過ぎるナンパ行為を決まって町娘だの、子供が居そうな住人に対して行う姿を見てきためぐみんは、口には出さずに心の中で呟くが、多分言ったら機嫌を損ねてしまうので敢えて何も言わなかった。
「黒髪で、普通の人間で、おしとやかで、でもちょっとエロい女の子と俺は果たして出会えるのか不安になって来たぜ。
少なくともアクセルには居ないし……つーかむっちゃ身体怠いし……」
『敵が敵なだけに今までまともに確かめやしなかったが、やはりアクアの小娘に肉体を再構築されたせいか弱体化が深刻らしいな。
いや、この場合身体が物凄く鈍っている感覚と一緒か?』
「それだな多分。鈍った経験は無いけど、この分じゃベッドの中でもすぐバテそうだぜ」
一回の全力で威力共々弱体化した事を改めて身に染みたイッセーが疲れた様に首を回しながら軽口を叩く。
「全部を戻すにはやっぱり幻実逃否が―――いや、何でもない」
『……』
「大丈夫ですかお師匠様? 何だか凄くお疲れの様に……」
全てを戻すには、あの日他種族ながらもものっそいムチムチしてそうな女を庇う様に現れて出会した幻実逃否を使う自分と同じ顔をした男―――いや、マイナスを持つ自分自身と再統合出来れば一番早いのだが、その場合確実に元の世界に居た時の人格まで復活してしまう為、イッセーは無意識にその方法は避ける。
もし元の人格になれば間違いなくこの世界を――さっきから自分に罵倒の言葉を向けられてる癖に心配してくる紅魔族のめぐみんやゆんゆん、自分をこの世界に送りつけたアクア等を殺して―――
「―――――別にお前に心配されるほど落ちぶれちゃいないぜ俺は。
ふん、だが怠いのは変わりないし、しょうがねーからオメーの魔法の修行に付き合ってやんよ?」
「え!? い、良いんですか!?」
「あぁ……怠くなった身体回復させるまでの間はな」
あってしまう未来を想像しそうになり、それを消そうと軽く頭を振り、誤魔化す様にぶっきらぼうな言い方で何を言っても弟子を公言しまくるタフなのかよくわからないめぐみんの修行に付き合うとイッセーが言う。
情なんか持ち合わせてるつもりは無いけど、本当の力を取り戻した場合、自分が何を仕出かすくらいは簡単に想像できるし、向こうの自分も何やら人間じゃない種族の女を庇うという行動に出てる以上、一定の何かを持ってるとみて良い。
ならば別に、何故分離した人格がこの世界に居るのかは云々な疑問を考える事も、わざわざ探し出してやる理由も無い。
それに折角持った人格を捨てるのも勿体無いのだ―――と、誰に対してなのかもわからない言い訳じみた事を考えてると、修行に付き合うと言われたのがそんなに嬉しいのか、慎ましい胸に手を置きながら妙に紅潮した顔をするめぐみん。
「や、やだ。たまにお師匠様って優しくしますけど、そんな急に優しくされると胸がキュンってなっちゃう……」
『DVの駄目男と別れられない駄目女の素質があるぞお前』
どうやら普段が普段なせいか、誤魔化しつもりの言葉とは知らないめぐみんにとっては、この程度で優しくされたと思ってるらしく、本当に嬉しそうにはにかんでいる。
それをイッセーの中から見ていたドライグが、どこで獲た知識なのか、ある意味真理を突いた例えをしながらめぐみんに呆れる。
なんというか、やはりこの世界の住人は三周くらい回っておかしい。
「赤龍帝からの贈り物……」
「ビッグバン・ドラゴン・エクスプロージョン!!」
『あ、小娘の魔法の威力が更に上がった。
うーむ、どうやらお前に褒められると異様に進化するらしい』
「えぇ……?」
修行つもりで譲渡した力を、渡した分の倍以上に昇華させるという赤と紅繋がりだか何だか分からない理由で、イッセーの様に全身から鮮血のごとき赤いオーラを纏っためぐみんの爆裂魔法の進化した威力にイッセーは解せないといった顔をしながら、倒れもせずさっきから連発しまくりなそのちっちゃい後ろ姿を眺める。
『おい、物試しになんでもいいから誉めるか応援してみろよ? 更に上がるんじゃないか?』
「はぁ? そんなアホな―――おい、チビ、ドライグをびっくりさせる威力出したら………えーっとどうすっかな、あ、街の露店で何か買ってやるぜ――」
「!? 100倍ビッグバン・ドラゴン・エクスプロージョン!!!」
「―――――――――――うっわ」
『この分だとその内星ごと破壊する威力になるだろこれ。軽く引いたぞ俺も』
更に威力を跳ね上げて見せためぐみんに逆に引いてしまうくらい親和性が高すぎる。
これが普通の人間でムチムチ女子なら泣いて喜んでたのに………と、イッセーは改めて軽く凹むのだった。
「ど、どうでした!? お師匠様から魔力? を貰ったおかげで倒れてません!」
「あ、あぁ……そだね」
「えへへ、安物でも良いからおお師匠様が選んだ物が欲しいです!」
「……………………。何故そこまで」
本当にドライグの言うとおり、普段は罵倒されるか軽く投げ飛ばされるばかりされててとっくに毛嫌いするか殺意すら向けてきてもおかしくないのに、それでも師匠だとひっつくは、軽く優しくすると相当喜ぶめぐみんはアクアとは別ベクトルに駄目な少女なのかもしれない。
街に戻るまでの間、安物だろうと与えられたら恐らく本気で喜んで大切にするだろうめぐみんに手を繋がれるイッセーはただただ訳が分からなかった。
補足
陰と陽のどちらも、元のひとりに戻ったら確実に他種族への殺戮衝動が極限化して、仲間に手を出してしまうのを無意識に恐れて避けてます。
その2
イッセーの中からドロドロの昼メロ愛憎劇を見ていたドライグは、今のイッセーとめぐみんに重なるものがあるとか。
特にたまにイッセーが優しくした際のめぐみんの反応がまんま過ぎるとか。
その3
何気に無神臓による引き上げがめぐみんに対して適応して始まってる気がしないでもない