あの衝撃的な光景を目の当たりにしてからというもの、イッセーの様子は少し変わった。
何かを考えるかの様にボーッとしたり、この前なんかボーッとし過ぎてモンスターに頭から食われたりもした。
まあ、お察しの通り腹を引き裂いて何事も無く出てきたけど。
「本当に何も知らないんだな?」
「しつこいわね、本当に知らないわよ。そもそもアイツが元の世界で失った力が人の形になって歩いてるだなんていくら私でも想定外よ。しかもこの世界で妙な女と一緒に行動してるなんて」
「そりゃまぁ確かに」
ボーッとする原因は分かってる。
少し前に墓地で見掛けたイッセーと姿形が全く一緒の男。
リッチーなる種族の女を文字通り自分の身を挺して庇い、得体の知れない雰囲気を醸し出していた謎の男。
それが誰なのかは当然俺達が知るわけが無い。
しかしイッセーとドライグは自分そっくりのその男が放った
つまりあのイッセーそっくりの男は紛れもなくイッセー自身であり、言うなればイッセーから分離した半身ともいえる存在。
「あれから暫く経つが、イッセー自身に向こう側のイッセーを追う気配は無いが……」
「本人にその意思が無いのなら私達がどうこう言う事じゃあ無いわね。
何時も通り私の手足となって働くイッセーでいい」
「お前、ホント何時か痛い目見るぞ……」
確かにこの駄女神の言うとおり、分離したという事は元のひとりに戻れる可能性もある。
もしそうなったら俺達の知るイッセーでは無くなり、前にチョロッと聞いた人格と完全な力の取り戻しになる。
いくらバカな俺でももしそうなったらどうなるか分からない。
只でさえこの緩い世界の影響で微妙に緩和されてる感は否めないものの、元々イッセーは人間以外の種族に対して警戒心が異様に強い。
その状態で元の一人の人格に戻ったらきっと…………………いや、考えるのはよそう。
確かに出会い方から何から唐突だったけど、アイツは一人として認めた相手には誰だろうが献身的になる面もちゃんとあるのは俺達がよく知ってる。
あのマイナス側とやらのイッセーがどんな性格をしてるのか知らないが、リッチーを庇ったのだ……根は一緒だと俺は思いたい。
だったら俺達は何時も通り俺達の知るイッセーと接してやればいい。結果それがどうなってしまおうが、仲間である俺達が止められたら――――いいな。
「バカでしょアンタ。
私が転生させたせいで生前より相当弱体化してるとはいえ、その気になれば地図を書き換えなければならないくらいの攻撃力を持ったイッセーをアンタが止められる訳無いじゃない」
「正論だがお前に言われると死ぬほどムカつく」
ちくしょう、人が折角それっぽい覚悟決めようとしたのにこの駄女神め……。
アクアにバカにされては居るものの、イッセーから教えられた戦闘技術をそれっぽく習得しようと、生前ニートが信じられないくらい心のあり方を変化させたカズマは今日もダクネスと共にクエストを回り、モンスターを相手にレベルアップを図っていた。
「オリャア!!!」
今日のクエストは前イッセーの件でやり損ねた大量発生したゾンビ退治であり、人型だったり犬型だったりその他だったりと、まるで昔やったゲームの主人公な気分で次々と仕留めていくカズマの姿は、転生当初とは比べ物にならないくらい逞しくなっていた。
「ファントム!」
背後から襲い掛かるゾンビを裏拳で叩き、足元から喉元へと飛びかかる犬ゾンビを蹴り飛ばし、残った数体目掛けて湖の浄化クエストの際イッセーに見せられた黒神ファントムで沈める。
「ふぅ……」
空砲の様な音と共に数体のゾンビを一斉に吹き飛ばし、土へと還るのを背に構えを解いたカズマは小さく息を整えながら反動で震える自分の手を見つめながらグッと拳を握る。
「反動がまだキツイな。この分じゃまだ二回使えるのが精一杯だ」
「だがここまで見事に再現出来た。やったなカズマ」
「あぁ、お前が練習相手になってくれたお陰だぜダクネス」
「なぁに、こんな凄まじい攻撃をカズマが習得できるのなら寧ろ喜んで付き合うさ! うへへへ……!」
礼を言うカズマに対して微笑みながら返すダクネス。
それだけなら美談だが、うへらうへらと未完成の黒神ファントムの練習台に受けた痛みを思い出して口の端から涎が出ててるせいで台無しだ。
「…………。これで片付けた筈だし、そろそろ降りるか。
結局あのリッチーと向こう側のイッセーの姿も無かったし」
「無視か? ここにきて無視とは酷い! ナチュラルにこの私のツボを抑える辺りカズマも成長したなぁ!」
わざわざ受注し直したのは、ひょっとしたらという考えがあっての事だったが、以前見たリッチーもマイナス側のイッセーも結局見つからず、後ろで無駄にクネクネしてるマゾ騎士の首根っこを掴みながら墓地を後にする。
「こ、こんな犬みたいに私を……あはぁん♡」
「…………」
何でこう、気は良いのに変な連中しか縁が無いのか。
ゆんゆんはまだマシだが、彼女も彼女で変にネガティブ過ぎる所があってイッセーじゃないがやりづらいし……。
「おい、街着いたから歩け」
「こ、今度は命令か……う、うむわかったぞ……ふふふ♪」
「………」
首根っこを掴まれて一人トリップしてるダクネスを一瞥してため息をはきながら街へと戻ったカズマは取り敢えず彼女を普通に歩かせ、ギルドに完了報告をしようと露店エリアを通っていたその時だった。
「!」
「ぶっ!?」
露店エリアをを抜ける少し手前の通りを歩いていたカズマの足がピタリと止まり、後ろを歩いていたダクネスが思いきり顔面がカズマの背とぶつかってしまう。
「ど、どうしたカズマ? は、鼻を打ってしまったが、これもカズマ流なのか?」
「………」
「? カズマ?」
多くの人が行き交う中、突然止まって何かを凝視しているカズマの様子が変だと鼻を抑えながらダクネスはその視線を追い、そして目を見開く。
「ねぇ、悪いことは言わないからやめとこうぜウィズさん? 飯なら厄介になった時から俺が作ってんだからさ……」
「た、たまには私が……!」
「いや、アンタがそうやって張り切る時って高確率でポカやらかしちゃうだろ?」
「だ、大丈夫だから!」
その姿は朝も見た仲間のイッセーにとてもよく似た――いや最早そのものとも言って良い青年の姿。
これだけなら単にイッセーがこの場所に来て買い物でもしてるのかと思うのが普通だが、生憎ついこの前カズマ達はイッセーに似すぎな青年と出会しているし、何より彼が仲の深さを感じられる口調で何やら真剣な眼差しで食材選びをしてる見知らぬ女性が、彼を仲間のイッセーでは無いことを結論付かせる証拠になった。
「ちょ、ちょっとちょっと! そんなグロい色したカエルなんか買って何しようってのさ!?」
「ビフテキ風の料理でもと……」
「素材にヤドクカエルみたいな色したカエルを使う意味がわからないんだけど!?」
「……………。こんな近くに潜んでたのか」
「あの二人はあの時の二人組で間違いないよな?」
「あぁ、イッセーが探すつもりも無かったから敢えて俺達も探しやしなかったが、何処に住んでるんだ?」
「少し追ってみるか?」
「おう……住んでる場所くらい知っといて損は無いだろうしな」
発見してしまった以上、気になって仕方ないカズマはダクネスの提案に頷き、リッチーの女性と共に人混みの中へと溶け込んでいくマイナス側のイッセーを悟られないように注意しながらこっそりと後を付けていく。
そして付いていった先は小さな店だった。
「み、店か?」
「店だな」
「この街に居るばかりか店だと? リッチーってどっちかというと敵的存在だろ? 良いのかよ?」
「事情は解らんが、どうやら魔道具を扱ってる様だ。ほら見ろ看板がある」
軒先に吊るされた看板を指差すダクネスの言うとおり、どうやら魔道具を扱う店らしく、あのリッチーとマイナス側のイッセーが働いてる店である事に驚きつつもさてどうしたものかと暫く立ち尽くしていると………。
「あ! キミは!!」
後ろから聞こえる大きな声にカズマとダクネスは振り向くと、そこに居たのはいつぞやイッセーにプロレス技を食らって泣きながら逃げていった―――
「「すまん、誰だっけ?」」
名前は全く覚えてない青年だった。
「御剣響夜だ!!」
あんまりにも二人にとって印象に残らなすぎた結果から来る反応に本人は憤慨しながら名を名乗るが、果たして二人が覚えるかどうか……は置いておいて、名乗ったミツルギに対して二人揃って生返事みたいな反応を返す。
「そのミツルギが何でこんな所に居るんだよ?」
「決まってるだろ、この店に用があるからさ」
「何?」
マイナス側のイッセーとリッチーの女性が入っていった店を指差して答えるミツルギにカズマの顔が訝しげなものへと変わる。
「お前この店はよく使うのか?」
「これで三回目だがそれが何だい? そんな事よりキミ達こそ――――あ、あの男は居ないだろうな?」
「いや、イッセーなら今別行動だが……」
「そ、そうか……」
イッセーが居ない事を知ってホッとするミツルギにますますカズマとダクネスは解せない。
店をこれまで二回利用し、今もまた入ろうとしている。
それこそ今明らかに恐れていたイッセーとまんま同じ顔した男がこの店で働いてると知らなければこの恐れ方からして利用する訳が無い筈なのに。
「冒険者のキミにはわからないと思うが、この店の品質は初心者の街とは思えないくらい高いものを揃えているんだ」
「それはわかったが。お前この店で働いてる従業員の顔を見たこと無いのか?」
「? 店主の女性の事か? それとも――――ははぁん? もしかしてキミ達はこの店で働くもう一人の従業員の容姿がキミの仲間の彼に似てる事をどこかで知ったんだな?」
「! やはりこの店には――」
「あぁ、だが残念ながら俺はすでにこの彼とこの店で働く彼が別人な事をちゃんと知ってるし、彼は中々親切なんだ。
だから顔が似てるからって俺は恐れたりはしないぞ?」
「「………」」
妙にドヤ顔で怖くないと言うミツルギを無視してカズマとダクネスは互いに顔を見合わせる。
間違いない、もう一人のイッセーはこの店を根城にしている。
「……どうする?」
「……素知らぬ顔して入ってみるか? 少し気にはなるし」
「? 何をコソコソと話しているんだ? おっと、そろそろ失礼するよ。
モタモタしていたら新しい商品を取り逃がしてしまう」
入ってみるべきか、それともこのまま見なかった事にして帰るかで迷う二人に首を傾げながらも、コピーグローブを手に入れて以降、新商品のチェックをしに来るリピーターと化していたミツルギは古い喫茶店みたいな扉を開けて店の中へと入ってしまう。
それを見たカズマは考えるよりも先に無意識に身体が動いてミツルギに続いて店内へと入ってしまい、ダクネスもつられて入ってしまう。
「マコトくん! 新しい品は入ったかい?」
「あぁ、ミツルギさんですか。
折角いらして頂いたのに申し訳ありませんが、あなたのお眼鏡に叶いそうな品は特に入荷してませんね」
店の中は小さいながらも割りと小綺麗で、そこら辺の店では見ない様な魔道具が所狭しと並べられてあって思わずダクネスと二人でキョロキョロとしていると、妙に馴れ馴れしい口調でミツルギがカウンターで茶を飲んでいたイッセーに似すぎな青年と話していた。
「今日は違うお連れ様を?」
「? あ、いやこの二人はなんと言うか偶然店の前で鉢合わせした――ほら、例のキミにそっくりな男とパーティーを組んでる……」
「…………………。あぁ、なるほど」
「「…………」」
ミツルギの説明にマイナス側のイッセーの視線がカズマとダクネスに向けられ、意味深な笑みを浮かべる。
その視線に二人は少し居心地が悪そうに身体を揺する中、あれこれと――どう見ても使う用途が狭すぎるガラクタみたいな魔道具をミツルギに売り付け始め、何の疑いもなくそれを買って店を出て行ったのを確認するや否や……。
「やっと来たね。まぁ本人は居ないみたいだけど」
「イッセー? お客さんはまだ――――あ……」
自分達の知るイッセーと似てるけどどこか底冷えする様な笑みを浮かべ、二人の来店を歓迎し始める。
その際、リッチーの女性が店の奥から顔を出し、二人を見るや否や表情が固まる。
「俺個人に対してのお客だよウィズさん。
お茶、出して貰えるかな?」
「で、でも……」
「大丈夫だ、向こうの俺本人が来てないって事は偶々俺達の姿を発見したんだろう。………でしょう二人とも?」
「あ、あぁ……」
「私達の知る方のイッセーとは別行動中でね」
「………へぇ、ある程度俺達の事情も知ってるか。随分とお喋りなんだな、向こうの俺は?」
物凄く警戒し始めるリッチーの女性を宥めながら、話が早いとばかりに椅子を用意してその場に座らせたマイナス側のイッセー。
こうして向かい合って話す事自体イッセーですらまだでカズマとダクネスが初となる訳だが、なんというか……やはり雰囲気が違えどイッセーそのものだった。
「取り敢えずさ―――キミなんて名前なの!? もう最高に可愛いね!」
「え!? え、ええっと……」
「あ、コイツ間違いなくイッセーだわ」
特にダクネスに突撃噛ます辺りが自分達の知るイッセーとまんま同じ行動で、カズマはここで完全に確信した。
「いやぁもうこんな所にこんなかわいい子来ちゃって俺実はさっきからテンション上がりっぱでさぁ? ほら、向こうの俺っていうか、キミ達とつるんでる方の俺がこよ街でナンパしまくったせいで俺自身顔が同じだから警戒されちゃってよぉ? 言っといてくんね? お前のお陰で俺のナンパが全くうまくいかないって」
「お前もかよ!! 変に緊張して損したわっ!!」
ヘラヘラ笑いながらカズマ側のイッセーに自分の為にナンパを控えろと言えと宣うマイナス側のイッセーに一気に緊張が消え失せたカズマはあまりにも思考回路が同じ過ぎてつい突っ込んでしまいながら、ふとニヤニヤしながらこれも全く同じくらいド下手なナンパを戸惑うダクネスに対してし始めるイッセーの背後の存在に気付き、あ……と声が漏れた。
「な、なぁ……もう一人のイッセー?」
「向こうの俺と違ってもっとソフトなデートをキミに申し込みたい――――――ってなぁに?」
このイッセーは気付いてないらしく、軽く引いてるダクネスにグイグイ行きまくりながら声を掛けてきたカズマに顔を向けるので、取り敢えず目配せする様に背後を指してあげる。
「ん、後ろ?」
その視線に気づいてマイナス側のイッセーが振り返ると……。
「………………」
そこにはダクネスに突撃噛ましてる現場を見せられて既に涙目になってるリッチー――つまりウィズが二人に汲んできたお茶を乗せたお盆を持ちながら立っていた。
「う……うぅぅ……」
「あ、いや……これは掴みを円滑に進めるための軽いジョークだから……」
「そ、そのわりにはデレデレしてた……あぅ……」
「いやだって金髪だけども他全部がドストライク―――あー嘘嘘嘘!! 流石にこればかりは冗談ですから!!」
いっそ激怒して蹴り飛ばしてくれるか氷付けにでもしてくれた方が楽なのだが、最近のウィズはマイナス側のイッセーが他のイッセーにデレデレすると怒らずに本気で泣き出す事が多くなっており、今も持っていたお盆を落としそうになりながら涙を流しており、慌てたイッセーはお盆をカウンターに置かせながらアタフタしていた。
「ごめんなさい……こんな私で……」
「知った上だから大丈夫だって……」
取り敢えず泣き止ませようとウィズを抱き寄せて頭をポンポン撫でるマイナス側のイッセー。
本人はこの上無く真剣にただ泣き止ませようとしてるだけなのだが、目の前でそんな光景を見せ付けられてる気がしてならないカズマとダクネスは……。
「何で目の前でイチャイチャしてる姿見せられなきゃならねーんだよ」
「不真面目はよくないと思う」
微妙に居たたまれなかったとか。
補足
何気に戦闘力がニートじゃ無くなってるという。
でもメンバー中じゃこれでも最弱だからどんだけおかしなバランスのパーティなんだか……。
その2
性癖から好み全部が一緒で、思わずダクネスさんに突撃取材をかましたけど、ウィズさんの涙には勝てなかったらしい。