提督相手だと喧嘩腰になってしまうのを気にしている。
春雨ちゃん
提督大好きっ子。
提督が粗相をするとドラム缶に仕舞う。
夏鮫ちゃん
ご主人様は麻婆春雨しか食べさせてくれない。
「報告以上です!」
「ご苦労、下がりたまえ」
1500晴れ、戦果報告を済ませた榛名を下がらせる。本日の出撃は先ほどの榛名率いる第一艦隊の帰投を持ってすべて終了した。つまりは艦娘が本日、俺に会うためにこの執務室を訪れることはない。
脱走チャンスだ。
あとは俺の横で黙々と書類に目を通している時雨さえなんとかすればいい。
「時雨、君も休憩に入るといい、残りは私が片しておこう」
「ありがとう提督。でも秘書艦として提督の傍らに居ないとだからね。提督がまだ執務を続けると言うなら僕も残るよ」
「そう窮屈な考えをするものじゃない。ほら、この間宮のアイス券をあげるから仲間と一緒に食べてきなさい」
「真面目なのも僕の個性だからね。でもこの券はもらうよ。後で食べにいくね」
「……」
「……」
「時雨てめえ、下がれって言ってんだろなに居座ってんだ?あ?」
「君を一人にしたら確実に脱走するだろ?というかあからさますぎるんだよ。もう少し頭使いなよ」
「こんな真昼間から脱走なんてしねえよ。やるなら夜だ。あと出てかないなら間宮券返せ」
「先週泳いで鎮守府から脱走しようとしたじゃないか、見つからないように100メーター潜水するとか馬鹿じゃないかい?券は返さないよ」
「あ?やんのかこら?」 「いいよ、相手になってあげる」
「……」「……」
「ケッ、トイレ行く」
「お供するよ。逃げようとしたら春雨呼ぶからね」
春雨ちゃんは勘弁してくれ……。
◇ ◆ ◇
便座に腰掛け作戦を考える。時雨がトイレの前で待ち構えている以上余り時間もかけられない。
脱走計画が失敗続きなのがここに来て響いてきた。やるなら初回で確実に。失敗を繰り返すから時雨に完全に警戒されてしまった。
時雨に信用させる為にしばらく脱走を企てるのは辞めるか?いや、今日この鎮守府にいる白露型は時雨1人、他の奴らは全員遠征や演習に出ている。このチャンスを逃す手はない。
ぶっつけだが今日の作戦はあれでいくか……。
「どこに行くんだい?」
トイレから出た俺に時雨が声をかける。いちいち煩わしいことこの上ない。
「食堂。駆逐艦達にお菓子でも作ってやろうと思ってな」
駆逐艦、というよりうーちゃんが美味しそうにお菓子を頬張る姿を見ると癒されるのだ。うーちゃんほんまラブリー♡時雨も見習え。
「ふーん。いい事だとは思うけどもう少し駆逐艦以外にも構ってあげた方がいいよ?駆逐艦とそれ以外で対応が違うって悲しんでる娘結構いるよ?」
「善処はする」
◇ ◆ ◇
「提督ってわりと器用なんだね」
「わりとは余計だ」
完成したクッキー、マカロン、ドーナツetc.をラッピングしていると時雨がそんなことを言い出した。
「あの鉄底海峡を解放した英雄、さらに家庭的なところもある。提督って普通にしてればモテそうだよね」
「お前達以外からは慕われてるっつーの…」
「そう言えばそうだったね。まっ僕達も君を慕って無いわけじゃないんだけどね、脱走さえしなければ文句はないよ」
「あーはいはい、もうしませんよー」
「嘘くさ…次逃げたら春雨に怒ってもらうからね」
春雨ちゃんなぁ…なんであんな風になったんだろうな。
「完成っと」
時雨と無駄話している間も手を動かしていたおかげでようやく全てのラッピングが終わった。
「こっちも終了だよ」
時雨の方をみると綺麗にラッピングされたお菓子が並んでいる。こういうなんでも卒なくこなすところがちょっとムカつく。
「ごくろう。ほらよっ」
余ったクッキーの乗っているトレーを滑らせ時雨の方にやる。
「食っていいぞ」
「…なんか変なもの入れたりしてないよね」
「失礼な奴だな。嫌なら食わなくていいぞ」
「ウソウソ、ありがとうね」
時雨はえへへ、提督の手作り、えへへ、なんて言いながらクッキーを食べる。気に入ったのか10枚はあったクッキーをペロリと平らげてしまった。
「うっ!!」
突然時雨がその場に蹲る。どうやらようやく効果が現れたらしい。本来なら10枚も食べられる様なモノではないのだよ。
「身体が…動かない、テイトク…」
時雨は助けを求める様に俺をみる。馬鹿め、まだ騙されたと理解していないのか。俺は時雨を見下ろしながらニヤリと笑う。
「まさかっ、さっきのクッキーに」
「ガハハハハ!そうだ!さっきのクッキーに一時的に艦娘の動きを止める薬液をかけておいたんだよ!」
「くっ、どこからそんなものを…」
ちょっと
「じゃあな時雨。お前と過ごした時間悪くなかったぜ」
「…どうせ捕まるんだからやめておけばいいのに」
時雨の負け惜しみを背にしながら俺は食堂を後にする。馬鹿が、この鎮守府からさえ脱走してしまえばこっちのものなんだよ。たぶん。
◇ ◆ ◇
「ぴいいいいいいい」
俺は抜錨ポイントにて指笛を吹いた。すると1尾の鮫が近づいてくる。
このサメは春雨ちゃんが使役しているサメで名を夏鮫と言う。ちなみに他にも冬鮫と秋鮫がいる。
夏鮫ちゃんは春雨ちゃんの従順な下僕であり、春雨ちゃんが敬愛する俺にも従順なのだ。
「んじゃ!頼むぜ夏鮫ちゃん!」
夏鮫ちゃんの背に鞍をつけその上にまたがる。乗馬ならぬ乗鮫だ。ジョーズだけに、なんてね。
「れっつご!」
合図と共に夏鮫ちゃんがものすごいスピードで泳ぎだす。風を切り水を弾き進んで行く、恐らく時速50kmは出ているだろう。
このまま本土まで逃げきれると思ったそのとき。
バンっっっ
1発の砲撃の音。それを聞いた途端、夏鮫ちゃんは震えだし迷いなくUターンをする。
「おっおい!夏鮫ちゃん!?本土まで連れてってくれるって約束したじゃん!なんで!?」
俺の制止を聞くことなく先程以上のスピードで引き返す夏鮫ちゃん。その先で待ち構えていたのは。
「おかえりなさい、司令官」
春雨ちゃんだった。
「嫌な予感がしたので3分で演習を終わらせて戻って来ました」
口調こそ丁寧だがとてつもなく怒っている。いつもは綺麗なピンク色の髪が色素を失い真っ白になっているのが証拠だ。
「よいしょ」
春雨ちゃんが手を空に掲げると一本のドラム缶が落下してきた。
「入ってください」
「はい」
俺は大人しく指示に従いドラム缶の中に入る。これ以上春雨ちゃんを怒らせると取り返しのつかないことになると知っているから。
「ちゃんと反省してくださいね」
ドラム缶の蓋が閉められ暗闇が俺を襲う。この中は寒く、暗く、寂しい。だけど幾度となくこのドラム監禁を受けたせいか、ここが俺にとって少しだけ特別な場所になっている、そんな気がした。
提督とちょっと変な白露型の物語。はじまりはじまり。