デビル型軽巡洋艦クマー
突如として現れた球磨さんであって球磨さんでない何か。
敵か味方か不明。
大将さん
時雨と春雨ちゃんの元提督。
深海妖精さん
鉄底提督だけが見える妖精さん。なお、ここまで一度も登場していない。
夏鮫ちゃん
十体の十刃の持つ数字が1から10だと誰か言ったか?
『行きなさい』
ちょっと待って。今準備の最終確認してるから。
『行きなさい』
えーと艤装おっけ、食料おっけ、水おっけ。
『行きなさい』
うん。準備バッチリ。
『行きなさい』
さあ、行こうか。
『行きなさい』
気に入らない物、全部ぶっ壊しに!
◇ ◆ ◇
ここ、佐世保は時雨や春雨が元々所属していた大将提督率いる鎮守府。そこで大将VS呉の提督の演習が行われていた。
「よろしくお願いします」
最強の戦艦と名高い大和が私、山城に頭をさげる。
「演習で大和型を出すなんて、呉の提督さんは加減がないわね」
「私は先日艤装をいただいたばかりで練度が低いんです。だから今日は経験を積ませていただきます」
それはそれで気に入らないわね。いくら大和でも艦娘になったばかりで扶桑姉さまや私たちと演習なんて。
互いに一列に整列する佐世保と呉。
大和、比叡、鳥海、龍驤、千歳、文月
VS
扶桑、山城、飛龍、五十鈴、睦月、高波
「艦娘になりたてでも手加減はしません」
「そうね山城。それに以前戦った鉄底さんの春雨の方がよほど怖かったわ」
「そうですね姉さま……あのドラム缶爆弾は思い出すだけで鳥肌が立ちます」
ドン。
「ガッ!?」
「姉様!?」
突然の発砲音。次の瞬間には姉様は大破していた。演習はまだ始まっていない。呉も佐世保も整列したままだ。
許さない。誰が姉様に不意打ちを!
発砲音のした方を振り返る。そこには
ケラケラと楽しそうに笑う黒い艦娘がいた。何あの艤装……なんか全体的に黒くて羽見たいなの生えてるし、持ってる武器は……フォーク?
「なにあいつ……艦娘なの?いや深海棲艦?どうやってこの場所に侵入したの?」
千歳が困惑している。当然だ、突然あんな得体の知れないものに攻撃されたのだから。
「睦月は扶桑さんをつれて帰投して。他は全員であれを撃退しましょう。即席連合艦隊です」
流石に五十鈴は立ち直りが早いわね。まあ私達大将の艦娘はあれによく似た相手と一度戦ってるものね。春雨はあそこまで邪悪な雰囲気はではなかったけれど。
「山城さん、あいつ……」
「そうね。鉄底さんのところの春雨ちゃんの雰囲気によく似てるわね」
「恐らくかなり強いわ。でもこの人数差なら勝てる」
大和にも協力を要請しないと……てあれ!?いない!?
「貴方は何者ですか?」
目を離した間に大和が対話を試みている。バカっ勝手なことするんじゃないわよ。
『デビル型軽巡洋艦の悪磨さんクマー。』
デビル型軽巡?馬鹿にされているの?
「悪魔さんが何のようかしら?扶桑姉様を傷つけたんですもの覚悟はできてるのよね」
『覚悟?んなもんねえク魔』
『ただ、お前ら全員気に食わねぇク魔。うぜぇク魔。お前らが動いてるのを見ると体がムカムカしてきて狂いそうになるク魔』
『だからここで沈んでク魔っ☆』
◇ ◆ ◇
「炬燵はよお……俺の聖域なんだわ」
「だからこの領域だけは侵してくれんなよ」
「はいはい別に炬燵で執務するな、なんて硬い事は言わないよ。ハイこれ今すぐ読んで」
年末、最近特に寒さが厳しくなってきていたので炬燵で執務をしていると時雨に数枚の紙を渡される。
「なんだこれ?」
「さっき大本営から緊急通達されたんだよ。ほらちょっとスペース開けて」
「いやだよ。他の場所が空いてるだろそっちに入れよ」
炬燵に入る俺を押しスペースを開けようとする時雨。
「秘書艦の僕もそれ読まないとだから。隣じゃないと読みづらいよ」
「ちっ、読み終わったらどけろよ」
「なになに、えー、緊急通達」
聞けや提督の話。
通達の内容を要約すると以下のような物だった。
【12/25佐世保と呉の演習中に乱入者あり。演習メンバーであった。大和、比叡、鳥海、龍驤、千歳、文月、扶桑、山城、飛龍、五十鈴、睦月、高波は襲われ全員大破。乱入者は逃亡。乱入者は自らを『デビル型軽巡洋艦悪魔さん』と呼称。他鎮守府は警戒されたし」
「大将さんと呉の12人が敵一人相手に全員大破?こんなことって……大和さんもいるのに」
「……」
添付されていた写真を見る。
「敵のつけている艤装……これ球磨のじゃないか?」
「ちょっと黒いけどそう見えるね。でも先代の球磨はアイアンボトムサウンドで沈んだ……。新しい球磨艤装の建造にはまだ成功してないはずだよ。……まさかこの球磨も春雨みたいに君が蘇らせたとか?」
「ちげえよ」
「そっか。というかどうやって春雨を生き返らせてくれたのかそろそろ教えてよ」
「だめだっつってんだろ。それに関しては譲る気ないからな」
偶然捕まえた駆逐棲姫の処分に困りはて、解体したら春雨ちゃんが出てきた!なんて言えるか。
艦娘は深海棲艦で深海棲艦は艦娘。オセロの駒のようなものなのだろう。こんな情報が艦娘に知れ渡ればろくに深海棲艦に攻撃出来なくなる艦娘も多く出る。そうなれば防戦一方になり人類の劣勢は免れない。これ以上戦争が長引くのはごめんだ。いや、終戦まで提督続ける気ないけれども。
「まっこの件に関しては鎮守府近海の警戒を強めて鎮守府に最高戦力の春雨ちゃんを常に待機させておけばいいだろ。そんなことより年末なんだ、まったりいこーぜ」
◇ ◆ ◇
「提督ゲーム?」
白露、時雨、夕立、春雨ちゃんと炬燵でぬくぬくしていると突然白露が提督ゲームなるものをしようと提案してきた。
「ルールは簡単!割り箸のくじを全員で引いて、当たりを引いた人が全員に命令できるの!」
「ただの王様ゲームじゃねえか」
春雨ちゃんが剥いたみかんを食べさせてもらいながら応える。筋が綺麗に取られてて美味しい。
「そうとも言うかもね」
ふむ、しかし何でも……か。
「いいじゃないか。やろうよ」
「あ?珍しいな時雨がこういうのに乗っかるなんて」
「年末だしね。僕もゆっくり遊びたいよ」
「やりたいっぽい」
「私もやりたいです。はい」
「おいこら、春雨ちゃんがやりたがってんぞ早く用意しろやダボ共」
「態度に差がありすぎる……」
「はい。僕が用意しておいたよ」
「はあ?」
ありえねえ。今の今まで4人で炬燵でぬくぬくしていたのに何故こいつは割り箸を持っているんだ。まるで白露が王様ゲームがしたいと言い出すのが分かっていたかのようだ。
まさか……こいつら謀りやがったな。しかしこういうのを逆に利用してこそ活路が開けるというもの。
「何でもいう事を聞かせられるのか?」
「もちろん可能な範囲でだよ」
「提督を辞めさせてくれ、なんてのは?」
「もちろんダメだよ」
「んだよならやるいm
「でも1時間だけ私達はここから動かない……なんてのならいいんじゃない?どうかな皆」
「僕はいいと思うよ」
「構いません。はい」
「ぽい」
「ほう……」
今この鎮守府にいる白露型はこいつらのみ。他は全員遠征に出ている。つまりこいつらさせ抑えることができれば……。
「その勝負のった」
□■□
「提督ゲ~~~ム!最初の提督だ~~~れだ!!」
コップに入れられた割り箸を全員で一斉に引き抜く。
このゲーム何らかのイカサマがあるのは間違いない。でなければこいつらがこんな条件提示するはずがない。
なんどか負けるのを覚悟で観察し、そのイカサマを暴く必要がある。でなければ勝機はない。
「あっあたしですね」
当たりは白露か。クソっ!何もトリックがわからなかった。一体どういう仕掛けなんだ。
「じゃあ~1番の人は王様に膝枕で耳かきをしてください!」
「チッ!!」
やはりピンポイントで俺の番号を当ててきた。イカサマは疑いようがない。
「おら、頭乗っけろ」
「へへ、では失礼しまーす」
かりかりかり。こいつの耳ぜんぜん汚れてねえな。
「へへっ、こうやって提督に頭を掴まれてるとなんか征服されてるみたいでゾクゾクします」
「キモいこと言うんじゃねえ……」
「おら、右側終わりだ。ひっくり返れ」
「あっあれやってください!最後に耳にフッて息吹きかけて汚れ吹き飛ばすやつ!」
「ええ……」
「早く!早く!」
「しゃーねえな。フッ!」
「ん~~~~~~」
アヘ顔晒すのやめろ……。
□■□
「次の提督だ~~~~れだ!」
「私ですね」
ざわっ ざわっ
春雨ちゃん……だと。
「では1番の人は私にキスをしてください」
「はい……」
キス程度で良かった。キスなんて散々やられてきたから今更だ。
春雨ちゃんにキスをする。すると
ガシっ
「!?」
春雨ちゃんは俺に飛びついてきた。脚で俺の腰を完全に固定し全体重を俺にのせてくる。
外せない!!そのまま俺の口に吸い付くようにキスする春雨ちゃん。
まって舌入れるのはちょっと!歯の裏舐めないで!あっ息が!
・ ・ ・
「すいません。司令官からキスをしてもらうのは初めてだったので興奮してしまいました」
「だい……じょうぶ。ただちょっと休ませて……くれ」
□■□
「次の提督だ~~~~れだ!!」
「ぽおおおおおおおい!」
くったれえ……駄犬かよ。
「提督は何番?」
あ?こいつイカサマで知ってるんじゃないのか?いや、余りに馬鹿だからトリックを教えて貰えなかったのか。こいつに教えたらバレそうだしな。
「教えるわけねえだろ」
「なら無理やり見るっぽい」
そう言うと割り箸を握る俺の右拳をつかみ無理やり開こうとする。
「やめろ!お前ほんとそう言うとこだぞ!?だから駄犬って言われんだよ!」
「駄犬なんて言うの提督だけ!」
結局艦娘の馬力には勝てず番号はバレてしまった。
「じゃあ~1番の人は今度夕立を買い物に連れてって!」
「あっずるい。あたしもそれにすれば良かった」
「……意外だな」
「なにが?」
「お前の事だから下着よこせとか言って来るのかと思った」
「それはいつもみたいに欲しい時に無理やり剥けばいいっぽい」
さいですか……。
「それに私もたまには甘やかしてもらいたいぽい・・・」
ぐっ、可愛いとこあるじゃねえか。
□■□
「次の提督だ~~~~れだ!!」
くそ!いい加減このクソゲーを終わらせねぇと身がもたねぇ!
「僕だね」
「出やがったなクソが」
「ひどっ!?もっと僕に優しくしてよ!」
正直こいつは温厚そうな顔して一番タチが悪いからな。何言われるか分かったもんじゃない。
「うーんそうだね……。少しでいいから1番の膝に座らせて欲しい……かな?」
「どうした大丈夫か?熱あんのか?」
何こいつまで甘えてきてんだ気色悪い。
「だから酷いって。ときどき山風にねだられてるでしょ?山風が凄く良い物だって言ってたからちょっと気になったんだよね」
あいつ他の奴にそんなこと言ってんのか。だが膝に座らせるくらいなら安いものか。俺は炬燵との間に少しだけスペースを作り時雨を呼ぶ。
「おら座りたいなら座れや」
「う、うんありがと」
何かもじもじとしながら俺の胡座の上に座る時雨。しかし山風といいこいつといいやたら軽いな。
「……」
「何で黙る……」
「いや何かこう・・・凄い安心するというか・・・これ良いね」
「満足したならようございました」
「えっと・・・注文なんだけど、こう僕の前に手を回して抱え込む様にしてもらえないかな?」
「ええ……いいけどさ。他の奴らの前で恥ずかしくない?春雨ちゃん何かやばいオーラでてるし」
「おねがい」
「しゃーねぇな」
俺は注文通り時雨の腹のあたりに手を回し抱きかかえるような体勢をとる。するとガシっと時雨に手をロックされた。
「おい、何手を掴んでんだ」
「……」
「無視!?この体勢で!?あっこら頬ずりすんな!」
「ごめん、ちょっと1時間くらいこのままでいさせて」
「馬鹿なこと言うなや……」
□■□
何か様子がおかしくなった時雨を春雨ちゃんに引き剥がしてもらって次のゲーム。
「次の提督だ~~~~れだ!!」
未だにイカサマの尻尾を掴むことができない。やつらに全く怪しい様子がないのだ。
やつらの一挙手一投足に注意を払いながらくじを引く。
「……お?」
割り箸の先端が赤く塗りつぶされてる。これあたりじゃねえか。
ほんとに?当たり?俺の勝ち?お前らイカサマしてなかったの?
「じゃあお前ら1時間経つまでここ動くなよ……?絶対だぞ?」
「「「「はーい」」」」
ようやくこの日がきた。何度心を折られてきたか。それでも諦めなかったからこそ今がある。
俺は自由だ。
さあ、あの扉の向こうに新しい世界が待っている。
ガチャり
「先輩、ここにいたんですか。20分後には他鎮守府との演習が始まります。はやく演習場に向かいますよ。
「えっいや俺ちょっと用事が……」
「演習が用事ですよ。ほら、はやく」
後ろの白露たちをみる。
「私達は、ここから動きませんよ。私達は」
「ふっざけんなあああああああ」
余談だが赤く塗られた当たり棒以外は全て1番の棒だったらしい。