辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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提督
最終回を始めようか。

時雨
嫌だ嫌だ嫌だ。終わりたくない。

村雨
まだ1度も登場してないんですけど!ですけど!




提督と時雨と最後の戦い

「ああ、そうだ。お前に頼みがある」

 

『           』

 

「ごちゃごちゃいうな。以前の借りを返しやがれ」

 

『        』

 

「ああ?わーったよ。そのぐらいの配慮はしてやる」

 

『          』

 

「よし。詳細は追って連絡するからな。ばっくれるんじゃねえぞ」

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

  ◇ ◆ ◇

 

ざわざわ

 

 鎮守府に身を置く全ての艦娘がこの集会に呼び出された。

 

 今回の集会の内容は僕こと時雨も何も伝えられていない。一体何なのか?いつもなら執務関連は僕に話を通すはずだけど今回はそれがない。あの提督の事だ、また良からぬ事を考えているのかもしれない。

 

「まず、急な招集に応じてくれた君達に礼を言おう。ありがとう」

 

 ……様子がおかしい。纏っている雰囲気が違う。確かに、いつも私達白露型以外には頼れる提督としての姿を見せているが、そんな作り出された偽りのオーラではない。今の彼は本気で何かを成そうとしている様に見える。

 

「今回諸君らに集まってもらった理由……それは次の作戦が我々の最後の戦いになると言う事を伝えるためだ」

 

「「ざわざわ」」

 

 次が最後!?どう言うこと!?

 

「司令!次が最後とはどう言う意味でしょうか!」

 

「不知火、言葉通りの意味だ。……母なる深海棲艦が見つかった」

 

 母なる深海棲艦……深海棲艦を生み出す文字通り深海棲艦達の母。彼女を倒す事ができればもう新たな深海棲艦は生まれないと言われているが、今までその消息はつかめなかった。

 

「この母なる深海棲艦を我々の手で沈め、この戦争を終わらせる!」

 

「提督、我々とはどう言う事だ?他の鎮守府はこの作戦には参加しないのか?」

 

「本作戦は我が鎮守府のみで決行する。そもそも母なる深海棲艦発見の情報は大本営に報告していない」

 

「なっ!?馬鹿な!戦果に目が眩んだか提督!母なる深海棲艦の元に行くとなれば敵もこれまで以上に強力になる!他鎮守府との連合艦隊を結成し、最高戦力で望むべきだ!」

 

 提督は静かに首を横にふる。

 

「そうじゃないんだ長門。確かに戦争終結は俺達の悲願だ。だがな、そうじゃない奴もいる。戦争が続く事で私腹を肥やしている奴もいるんだ。」

 

 提督は悲しそうな表情で言葉を続ける。

 

「そんな奴らに母なる深海棲艦発見の情報が伝われば、作戦を妨害される恐れがある。そうなれば母なる深海棲艦を逃がしてしまう」

 

「故に!信頼するお前達にのみ話した!ここまで俺に着いてきてくれたお前達だからこそだ!」

 

 提督、僕は嫌だよ……。終わらせたくないよ。

 

「本作戦は今までとは比べ物にならない程の激戦が予測される。……沈んでしまう者も現れるかもしれない。5分待つ!それでも俺に着いて来てくれる者だけこの場に残ってくれ!」

 

 この戦争が終わったら君はどこかに行ってしまうじゃないか。僕達を置いて行ってしまうじゃないか。

 

「誰も去らないか……。ああ、分かっていたさ!それでは作戦概要を発表する!」

 

 君を失うぐらいなら戦争なんて終わらない方がいい。

 

 

 

 

 

 ……これじゃあ、戦争が続く事を望む者って僕のことだね。

 

 

 

 だけど、それでも僕は君の横に居たいんだ。

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 星を見ていた。僕の吐く息が途端に冷やされ白くなっている。年の終わり間近の冷たい空気が今は心地いい。

 

 決起集会が終わった後、僕は直ぐにこの波止場にきた。他の皆が最後の戦いに向けて戦意を高めている中、僕の今の顔を見られるのが怖かったから。……いや、違うか。こうして一人で居ればあの人と二人っきりで会えると分かっていたのかもしれない。

 

「何一人で黄昏てんだ。お年頃かよ」

 

「ほんと、もうちょっと違う声のかけ方はなかったのかな」

 

「俺がお前を気遣う方が気色悪いだろ」

 

「そうだけどさ」

 

 よっと、何て吞気な声を出しながら提督は僕から1m程間隔を開けて横に腰掛けた。僕は1m近づいた。

 

「んだよ、ちけえよ」

 

「ずっとここに居たから身体が冷えたんだよ。少し暖をとらせて」

 

 しゃーねぇなと言って提督は僕が横にいる事を許してくれた。しゃーねぇなでずっと提督を続けてくれないかな。ずっと横に居させてくれないかな。

 

「明日の戦いについて考えていたのか?」

 

 そうだけどそうじゃない。君の事を考えていた。

 

「提督はさ……やっぱりこの戦争が終わったら提督を辞めちゃうの?」

 

「……そうかもな」

 

「……どうして今嘘をついたんだい?」

 

「あ?嘘なんざついてねぇよ。ずっと言ってきただろ、提督を辞めたいってな」

 

「君は嘘をつくとき必ず最後に‘かもな’をつけるんだよ。気づいてなかったのかい?」

 

「……」

 

「ただ、今の嘘がどういう意味なのかは分からなかった。教えてよ」

 

「まあ、いいか」

 

「俺が提督を辞めるのは‘この戦争が終わったら’じゃない‘明日の戦いが終わったら’だ。つまり明日、俺はこの鎮守府を去る」

 

「……なにそれ。いつもの脱走かい?逃がすわけが」

 

 腹が立ってきた。僕がこんなにも君を恋しく思っているのに君は一日も早く僕の前から去ろうとしてるなんて。

 

「違うな」

 

「違わない!確かに母なる深海棲艦を倒せば新たな敵はもう生み出されない!だけど今いる深海棲艦が急に消え去るわけじゃないんだ!きちんと掃討を終えるまでは辞めさs

 

「聞け、時雨」

 

 提督は僕の肩を掴んで僕を黙らせる。その表情は真剣そのものだ。

 

「確かに母なる敵を倒してもその場で戦争が終結するわけじゃない。お前の言う通りだ」

 

「でもな、俺は必要なくなる。あとはもう敵を殲滅するだけだからな。むしろ俺は海軍にとって邪魔な存在となる」

 

「そんなわけない!君は英雄だ!それだけの戦果をあげた!」

 

 提督はゆっくりと首を横にふった。

 

「その戦果が問題だ。俺は手柄をたて過ぎたんだ。俺みたいな提督適性がたまたまあったから海軍に入れた様な男が、そんな栄誉を手に入れるのは色々と問題があるんだよ……まして俺は若すぎるしな」

 

「それに明日の作戦は俺の独断だ。上はそこを突いて俺を処分しようとするだろう。だから俺はさっさと姿を消さないといけないんだ」

 

 そんなの……そんなのってないよ。

 

 彼はずっと、嫌々ながらも戦ってきたのに。鉄底海峡を終わらせたのも、春雨を助けたのも、浜風という強大な戦力を生み出したのも、悪磨さんを改心させたのも全部提督なんだ。きっと僕がこの鎮守府に来る前にだって誰かを助けてる。

 

 なのにその栄誉を受け取ることもできずに去るなんて

 

「僕が……僕が君を守るからっ!」

 

上の好き勝手になんて絶対にさせない!

 

「時雨」

 

「そうだ!大将提督に連絡して助けてもらおう!」

 

「時雨」

 

「他にも色々手を考えるから!僕何でもやるから!」

 

「いいんだ時雨」

 

 提督はそっと僕の背に腕を回して言葉を遮ってきた。あったかい、あったかい。

 

「元々ガラじゃないんだよ。俺が英雄なんてさ。照れくさいばっかだ」

 

 そんな事ない、そんな事ない。

 

「俺はそんな栄誉欲しくない。だからお前が頑張る必要なんてないんだ」

 

 そういって僕を悟す。もう涙が堪えきれない、嗚咽がもれる。

 

「うっえ、うう、嫌だよ僕。お別れなんてしたくない。戦争を終わらせないでよ」

 

「ごめんな」

 

 僕のお願いを聞いて欲しい。もう二度と我が儘なんて言わないから。一生君に尽くすから。

 

「だったら僕を一緒に連れて行ってよ!」

 

「ごめんな」

 

 ちょっとくらい悩むふりしてよ。

 

「ならどうしたらいいの!?どうしたら君と一緒にいられるのか教えてよ!」

 

「ごめんな」

 

 謝って欲しいわけじゃない。ただ教えて欲しいんだ。

 

「僕は……僕は!君とずっと一緒にいだいよおおおおおおお」

 

 僕がずっと伝えたかった事。一番のお願い。

 

「ごめんな」

 

 ほんと……君は僕のお願いをちっとも聞いてくれないんだ。

 

 

 

  ◇ ◆ ◇

 

 

 決戦当日の朝。抜錨地点にて提督が僕達を激励してくれる。提督の軍服は昨日僕が泣きついたせいで少し皺になっていた。

 

 

「第一艦隊!時雨、浜風、武蔵、長門、加賀、大鳳」

 

「第二艦隊!春雨、夕立、海風、山風、村雨、江風」

 

「第三艦隊!白露、五月雨、金剛、榛名、大井、北上」

 

「以上三艦隊!貴殿らにこの戦いの運命を賭ける!必ず勝ってくれ!」

 

 

 「「「「「はいっ!」」」」」

 

 

 最後の戦いが始まった。

 

 

     ・

     ・

     ・

     ・

     ・

 

 

「時雨さん何かおかしいと思いませんか?」

 

「何がだい?僕はここまでとても順調だと思うけど」

 

「いえ、順調すぎると言いますか……ここまで敵との戦闘がほとんどありません。あっても駆逐級やはぐれの単独戦艦級ばかりです。もう母なる敵が居るとされている5-X地点は目前なのに……流石に違和感を感じます」

 

「きっと提督がくれた羅針盤のおかげだよ。この戦い用に改造したって言ってたよ」

 

「……先輩にそんな事が出来るとは思いませんけど」

 

『時雨姉さん聞こえますか』

 

 浜風と話をしていると春雨から通信が入ってきた。きっと準備ができたのだろう。

 

「聞こえるよ。状況は?」

 

『第二艦隊、敵12時の方向に待機完了です。ここまでの道中大きな損害も出ていません』

 

『白露だよ。私達第三艦隊も敵8時の方向にスタンバイOK。同じく損害なし』

 

「了解。第一艦隊も4時の方向にて準備完了してるよ。提督聞こえてた?」

 

『ああ。それでは今から5分後の2100より3方向同時突撃の後、夜戦を開始する。皆これが最後の戦いだ。ここまで私に付いて来てくれてありがとう。これが私から君達に出す最後の指令だ』

 

 第1艦隊の皆はもの音一つ立てずに提督の言葉を聞いている。きっと第2,3の皆もそうなのだろう。敬愛する提督の言葉だ、僕だって一言一句漏らさないように聞いていた。だけど何故か波の音や風の音ばかりに耳がいってしまう。……きっと最後の言葉を聞きたくないのだろうね。

 

「全艦突撃!必ず生きて帰れ!」

 

「「「「「はい!!」」」」」

 

 全員で突き進んだ。進めば大切な人を失うっていうのは分かってる。だけど進む事を大切な人が望んでいるんだから仕方ないよね。

 

 ほんと、惚れた弱みってのいうのはどうしようもないね。

 

 

      ・

      ・

      ・

      ・   

      ・     

 

「あれが母なる深海棲艦ですか」

 

 母なる深海棲艦は5-X地点に一人浮かんでいた。取巻きに多量の姫、鬼級を想定していた為驚かされる。いや……取巻きなどいらないという自信の現れか。

 

「あれは……一体艦種は何になるんでしょうか」

 

「僕にもわからない。戦艦、軽巡の主砲に魚雷、艦載機まで積んでるね」

 

 異形としか言えない。ありとあらゆる艦種の武装を無理矢理、それも効率性など全て無視してただ繋ぎ合わせたかの様な姿。

 

 

『!?アアアアアアアア!?』

 

 

 

「しまった気づかれた!皆聞こえてる!?これより全三艦隊による一斉雷撃を開始する!倒しきれなかったらそのまま撤退!深追いは禁止だよ!」

 

 

「すうううううう」

 

 深く深く息を吸い込む。第一艦隊旗艦として皆に迷いが生まれないよう、明確な指示を出すために。

 

 

「雷撃!開始!!」

 

 一斉に魚雷が放たれる。暗闇の為見えないがきっと第二、三艦隊も発射しただろう。あとはもう当たるのを祈るだけ。……当たらなければいい、とはもう思わない。

 

「アアアア」

 

「躱される!?」

 

 母なる深海棲艦は魚雷に気づいている。恐らく優秀なソナーを備えているんだろう。

 

 だけど、やたらめったら着けた艤装の重みでろくに移動も儘なならないようだ。魚雷に気づいていても避けられない。

 

 

 魚雷は

 

 

ずうううううううん

 

 

 当たった。

 

 

『アアアアアアアア』

 

 

 悲痛な声を上げながら母なる深海棲艦は沈んで行く。

 

良かった。これで良かったと思う。これで戦争は終わる。この時をずっと待っていたんだ。

 

 なのに・・・なのに。涙が止まらないよ。また出会ったあの時みたいに僕の雨をやませてよ、提督。

 

 

 

  □■□

 

 

 

 鎮守府の門の前で提督の見送りをする。春雨は付いて行く気みたいだけど提督はどう説得するのかな。

 

「あー、あれだ。まあ迷惑かけたな。達者でやれよ」

 「私も皆にはお世話になりました。」

 

「ほんとに行っちゃうんですね……」

 

 海風はうつむいて涙をこらえてる。夕立なんて唇を噛み切ってしまいそうだ。

 

「色々と事情があってな・・・しばらくは連絡も取れないと思う」

 「海風泣かないで。いつかきっとまた会えるから」

 

「あう……あう」

 

 山風も何か言いたいんだろう。だけど涙と鼻水でぐちゃぐちゃになってしまい上手く喋れないみたいだ。

 

 そんな山風の頭を無言で撫でる提督。それだけで山風は言いたい事が全部伝わったのだと理解して余計に泣いてしまった。

 

「別に私達も連れていけばいいじゃないですか……」

 

「白露・・・悪いな」

 「ごめんなさい」

 

 

「「「「「……」」」」」

 

 

「いや……ね?春雨ちゃん何かさっきから付いて来る気満々みたいだけど……ダメだよ?」

 

「はい?いえ、付いて行きますけど?」

 

「ダメなんだって。これにはきちんとした理由があるんだ。あとから時雨に聞いてくれ」

 

「でも!司令官と離れ離れなんて私は耐えられません……」

 

「いつか……きっと迎えに来るからさ。それまで俺を待っていてくれないかな。絶対に迎えに来るって約束するから」

 

 少しの間春雨は下を向いて黙っていた。だけど何かを決めたのだろう。

 

「司令官は平気で嘘をつきますからね……、でも私は待っています。それくらいの事をお兄さんはしてくれましたから」

 

「春雨ちゃん……」

 

「言っておきますがこれは相当譲歩した結果ですからね。もしも迎えに来なかった時は覚悟してくださいね」

 

「ああ、ありがとな」

 

そして提督は僕の方を向く

 

「時雨、お前には一番世話になったな」

 

「ほんとだよ。世話ばっか焼かせてさ」

 

 そんな世話くらいで僕の受けた恩はまだまだ返せていないよ。

 

「はっ、手厳しいな」

 

「けど、春雨だけじゃない。いつか僕達全員を迎えに来てくれるっていうなら今日のところは気持ちよく見送ってあげるよ」

 

 提督はぼくたち全員の顔を見たあと。

 

「もちろんだ」

 

 そう応えてくれた。ああ、その約束があれば僕は何時までも待つことができる。ずっとずっと。

 

「なら、俺はいくよ」

 

 もう提督でない彼は背を向けて歩いて行く。その背中を見ているとなんだか視界がぼやけてきた。きっと僕の目から雨が降っているんだ。しかもこの雨は君じゃないと止ませる事はできない。だから……ここでずっとずっと待ってるから、いつか君が迎えに来てくれるその日を

 

『クううううううううう魔ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

「やべっ」

 

「「「「「「は!?」」」」」」

 

 提督が向かっていた門のさらに向こうにある海から何かが現れた。

 

「クソ提督はどぉぉぉぉぉこぉぉぉぉぉク魔ぁぁぁ!」

 

「悪磨さん!?どうしたの!?それにその格好……」

 

 悪磨さんは体中に壊れた艤装をつけていた、それも様々な艦種の物を。まるで昨日の母なる深海棲艦の様に。

 

「どうしたもこうしたもないク魔!クソ提督が私に対深海棲艦の演習相手になってくれって言うから応じたらこの様ク魔!」

 

 対深海棲艦の……演習?

 

「演習時に着けてくれって渡された艤装も一度つけたら外せない、声も出せなくなるで最悪だったク魔!」

 

 んんんん?これはまさか……

 

「おまけにお前らは遠慮なしに夜戦雷撃してくるし!渡された女神がなかったら絶っっっっ体死んでたク魔!」

 

「……つまり昨日の母なる深海棲艦は悪磨さんが変装してたってこと?」

 

「ああ?今更何言ってるク魔!お前らの提督がそうしろって要求してきたんク魔!」

 

 

 ・・・・・・・・・・・・。

 

 

「提督、どこにいこうとしてるのかな」

 

「ヒッ!」

 

「流石に……流石に今回は僕も完全に怒ったよ」

 

「いや、お前いつも怒ってんじゃん……」

 

「いつもとは比較にならないってことだよ」

 

「やっ、その悪い。謝るかr

 

「春雨、連れていくよ」

 

「ですね。はい。ブチ切れました」

 

「一日二日で僕のこの怒りが収まると思うなよ」

 

「ほんとごめんなさい。悪かったですから」

 

「うるさい、とにかく来い」

 

 

 許す気はないけど、はあ……きっと許しちゃうんだろうな。

 

 

 だって怒りよりも喜びの気持ちの方が何倍も大きいから。

 

 

 もしかしたら僕は案外ちょろいのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







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