辞めたい提督と辞めさせない白露型   作:キ鈴

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提督(候補生)
昔は提督になるのをそこまで拒絶していなかった。というか提督業をあまり理解していなかった。

涼風
依存症なやべーやつ。

不知火
あとがきの人。

夏鮫ちゃん
昔は超ワルだった。どのくらいワルだったかというと破壊王子くらい。

※今回訳あって地の文多めです。許してにゃしぃ。




提督と依存体質な涼風さん①

 

 鎮守府の廊下を全力で走り抜錨地点へ向かう。とある艦娘を捕まえる為に。

 

 『白露型十番艦 涼風』

 

 我が鎮守府最凶の艦娘である春雨ちゃんに勝るとも劣らないヤバさを持つ駆逐艦だ。彼女は春雨ちゃんの様に特別強い訳でも嫉妬心が強い訳でもない。では何がヤバイのか?

 

 バンっと扉を勢いよく開け放つ。

 

「離せぇ!!あたいはまだまだ資材を集めに行かなきゃなんないんだぁ!!」

 

「もう十分だってば!これ以上持ってこられても保管場所がないから!」

 

「涼風が頑張って資材を集めないと!集めないと提督はここに居てくれない!だから休んでる暇なんてないんだ!!」

 

 扉を開けた先には涼風と彼女を押さえつける5人の姉妹の姿と抜錨地点を埋め尽くさんとする大量の資材。燃料、鋼材、ボーキサイトが所狭しと置かれている。

 

「あっ提督!はやく涼風を止めて!僕達の言うことなんてちっとも聞かないんだ!」

 

「提督!?」

 

 俺に気づいた涼風が姉妹を振り切ってこちらに走ってくる。

 

「おっ提督!あたいこんなに沢山資材を集めたよ!」

 

「ああすごいな、助かるよ。でもお前もうずっと休んでないだろ?とりあえず睡眠を取れ。凄い隈だぞ」

 

「大丈夫大丈夫!今からまた遠征行って資材探してくるからさ、楽しみにしててよ!」

 

「涼風、話を聞け。資材はもういらない、だから休め」

 

「え……?資材……いらない?」

 

 休む様に促すと涼風はどんどん表情を曇らせる。

 

「て……てやんでぇ……。資材はいくらあってもいいんだから!いくらでも取ってくるっての!」

 

「だからもう資材保管上限に達してんだよ!これ以上持ってこられても処理に困るわ!」

 

 そう、この涼風はとんでもない社畜根性の持ち主なのだ。一度遠征に行けば最低でも1週間は帰ってこない、帰投したと思えば集めた資材を降ろして直ぐにまた遠征に行くという事を繰り返している。自発的に休むという事をしないので俺達で無理矢理休息を取らせる必要がある程だ。こうなってしまった原因は俺にあるのだが・・・・。

 

「……ほんとにもういらないのかい?」

 

「ああ、いらんいらん」

 

 シッシと手を降って自室に戻るように促す。

 

「いやだ……」

 

「あ?」

 

「嫌だ!あたいが頑張っていないと提督はまた涼風を置いてどこかにいっちゃう!そんなの嫌だ!!」

 

「!、時雨取り押さえろ!」

 

「分かってる!」

 

 俺の制止を振りきって遠征に行こうとする涼風を時雨に取り押さえさせる。

 

「離せよ姉貴!あたいは資材を集めないといけないんだ!」

 

「だからもういらないって提督も言ってるだろ!?それよりも君の身体が心配だよ!最後に休んだのはいつだい!?」

 

 俺達の言葉が全く伝わっていない。恐らく睡眠不足と疲労で言葉の意味を理解できていないのだろう。仕方がない、さっき取ってきた物を使おう。

 

「時雨、そのまま抑えておけよ」

 

「わかってるからはやく!!」

 

 俺はポケットから薬液を染み込ませたハンカチを取り出し涼風の口元に押し付ける。

 

「んんん!?んんーー!……」

 

 数秒後、暴れていた涼風は大人しくなり時雨の腕の中でスヤスヤと眠り始めた。

 

「ふう、毎度の事ながら涼風を取り押さえるのは大変だね」

 

「時雨、涼風を医務室のベッドに寝かせて見張っておいてくれ」

 

「りょーかい。よっと」

 

 時雨に涼風を連れて行くよう指示する。少し寝かせて落ち着かせれば話もできるようになるだろ。

 

ぐっ

 

「あ?」

 

 腰の辺りを何かに引っ張られた。見てみると俺の服を涼風の手が掴んでいる。

 

「くそっ、こいつどんな力で握ってんだ。全く外せねぇ」

 

 涼風の手を外そうと四苦八苦するが万力に挟まれた様に全く離す気配はない。

 

「仕方ないから添い寝くらいしてあげたら?涼風は君の為に頑張ってるんだし」

 

「しゃーねぇな……」

 

    ・

    ・

    ・

 

 涼風をベッドに寝かせて俺もその横に腰掛ける。これ涼風が起きるまで・・・下手したら8時間くらい離してもらえないのでは・・・。

 

「涼風について質問いいかな?」

 

 医務室の暖房の電源を入れ椅子に座った時雨がじとーとした目線を向けながら話しかけて来た。

 

「……んだよ」

 

「どうして涼風は君の為にあそこまで尽くしてるのさ。君、傍から見ると完全にヒモ男だよ」

 

「昔いろいろあったんだよ」

 

「そのいろいろを聞いているんだけど」

 

 じー、と俺から視線を外さない時雨。はあーどうせ涼風が起きるまで動けそうにないしな、話してもいいか。

 

「最初に涼風に会ったのは俺も涼風も候補生の時でな」

 

 少し思い出話でもするか。

 

 

 

 ◇ ◆ ◇

 

 

 

 カッカッカッと俺の腕を掴んだまま歩く艦娘のヒールの音が廊下で反響する。

 

「鹿島さん、もう離してもらえません?」

 

「ダメです」

 

 俺はどこにあるかも分からない無人島に建てられた訓練校に連れてこられていた。

 

 提督、又は艦娘としての適性が認められるとまず候補生として座学校にぶち込まれる。座学校で様々な教育を施され知識・人格共に問題無いと判断されるとそのまま訓練校に移動となる。訓練校では主に実技だ。座学校で学んだ事を実践で活用できるかを試されるらしい。

 

「座学校卒業祝いに3日間自由行動できるように取り計らってくれたの鹿島さんじゃないすか!俺怒られる様な事してないっすよ!」

 

「自由行動を許したのは2日です。それに私との連絡は常に取れる様にと言う条件も付けたはずです」

 

「そうですっけ?」

 

「……あとで指導ですね」

 

 しまった、ここは余計な反論はせずただ平謝りする場面だったか。火に油を注いじまったよ・・・。

 

「それで俺はどこに連れて行かれてるんです?」

 

「今日から提督候補生として3人の艦娘候補生を訓練してもらいます。これからその3人との顔合わせです」

 

「そんな!俺聞いてないっすよ!!」

 

「貴方が逃げ回るから説明する時間が取れなかったんです!」

 

「すんません……」

 

 別に意味もなく逃げた訳じゃない。白髪の・・・確か海風とかいうのとちょっとボーイミーツガールやってたら期日を過ぎていただけだ。

 

「着きましたよ」

 

 一つの教室の前で鹿島が立ち止まり俺に中に入るよう促す。

 

「中に3人の艦娘候補がいるので互いに挨拶をしてもらいます。……威厳のある態度でお願いしますよ?」

 

「了解です」

 

ガラガラ

 

 教室はだいたい7m×9mくらいの平均的な広さだが中にあるのは3つの机に教卓、ホワイトボードくらいのものだった。俺が中に入ると座っていた3人の候補生が起立し、鹿島が俺の紹介を始めた。

 

「おはようございます。先日お話をしましたがこちらの方が今後、貴方方3人の指揮をとる提督候補生になります。では自己紹介を」

 

「吹雪型駆逐艦1番艦の吹雪です!はい、頑張ります!」

 

「陽炎型駆逐艦2番艦の不知火です。ご指導ご鞭撻よろしくです」

 

「……涼風だよ。あまり頼りにはしないで」

 

 あれだな。自己紹介でもう大体のキャラが分かるな。

 

 吹雪は優等生タイプ。たぶん誰にでも優しくとっつきやすい奴だろう。

 

 不知火とかいうやたら目つき悪いのは仕事人タイプ。多分プライベートで話しかけたら無視されるな。

 

 涼風は・・・何か昔見た時とキャラ変わってねぇか?海風とかカラフル姉妹と遊んでる時はもっとキラキラしてた印象だったが。てか他の姉妹はいないんだな。

 

「本日より貴艦らを指揮することとなった。まだ若輩の身だが必ず貴艦らを訓練校から卒業させよう。宜しく頼む」

 

 挨拶を簡単に済ませると俺達4人に鹿島から紙を渡された。なんだこれ?予定表?

 

「今配った紙には貴方達に学んでもらうカリキュラムが書いてありますのでまず一読ください。その後私の方から説明を行います」

 

 紙には訓練の内容とルールが書かれていた。要約するとこうだ

 

・3人の実施する訓練の内容は全て提督が指示する。

・2ヶ月の訓練期間内に3度実技試験を実施する。不合格なら留年。

・初期資源は支給するが以降自分たちで調達する事。

 

「監視役として私、鹿島が同伴しますが基本的に訓練には関与しませんのであしからず」

 

「うるさい小言を聞かずに済んで助かる」

 

「……貴方個人への指導は行います」

 

「!?」

 

「では訓練開始です。提督、艦娘としてのそれぞれ技能を高めてください」

 

 そう言って鹿島は教室の角の方に移動していく。監視役だもんな。

 

 しかしどうするか……いきなり訓練開始とか言われても何をすればいいか分からん。取り敢えずコミュ二ケーション?一緒に飯でも食べる?

 

ぐいぐい

 

「?」

 

 何をすればいいのかと悩んでいるとやたら目つきの悪いのに服の裾を引っ張れた。確か不知火だったな。

 

「司令、意見具申いいですか」

 

「ああ」

 

「艤装を使ってみたいです。早く扱いになれるのは重要な事かと」

 

 そうキラキラした目で俺に意見する不知火。そういや訓練校に入学するまでは艤装を使うのは禁止されてるんだったな。早く使ってみたいって事か。

 

「お前らは?」

 

 吹雪は不知火と同じ表情で何度も顔を縦に振っている。涼風は……苦笑いしながら一度だけ頷いた。

 

「分かった、今日は艤装を使って海上を走る訓練をしよう」

 

 

 □ ■ □

 

 

 夜、ドキ☆ドキ☆初めての艤装展開訓練!を終えた俺達は一先ず解散し自由時間をとることになった。俺は風呂に入った後リビングのソファーに座りコーヒー牛乳を飲みながら今日の訓練を振り返っていた。

 

 初めて海上を走る吹雪と不知火は何度も何度も転倒していたが訓練終了間際に吹雪は何とか海上に立てる様になっていた。不知火は3秒と持たない。

 

 意外だったのは涼風だ。挨拶の時からやたら俯いていたので運動神経に自信がないのかと思いきやスイスイと海上を走っていた。涼風、よく分かんねぇやつだな。

 

 取り敢えずあと数日は今日と同じ訓練でいいか。涼風は早めに砲撃訓練に移らせてもいいな。

 

「こんばんは候補生さん」

 

 コーヒー牛乳を飲み終わったタイミングで鹿島が現れた。

 

「どーも」

 

「隣いいですか?」

 

「……はい」

 

 やべぇ……これ指導か?指導タイム入っちゃうやつですか?クソっさっさと自室に篭っておくべきだった。己の危機管理の甘さが恨めしい。

 

「3人、どうでした?」

 

 俺の隣に座った鹿島が始めたのは指導ではなく艦娘達の話だった。助かった。

 

「艦娘の訓練何てするのは初めてなんで分かんないですけどまぁ普通の奴らだと思いますよ。最初は上手くいかなくて当然ですし」

 

「そうですね。そう考えているなら良かったです」

 

「てかこの訓練意味あります?提督候補がいない時は鹿島さんが艦娘の訓練やってるんでしょ?提督になる俺が訓練の方法を覚える必要も余りない気がしますし」

 

 提督適性がある者は滅多に現れない。過去の例をみるとだいたい3~4年に一人見つかるかどうからしい。艦娘適性者も珍しいとはいえそれよりは多く見つかるので基本的には鹿島と香取が訓練しているようだ。

 

「訓練の意図はもちろんあります。貴方達提督に艤装がどういった物なのかをきちんと理解してもらう為です。熟練の艦娘が艤装を使っている所だけを見て【便利な兵器】なんて認識をされると困りますから」

 

「ほー、なら今回の艦娘的には運が悪かったって感じですかね。俺なんかより鹿島さんに訓練された方が余程いい」

 

「……そうとも限りませんよ」

 

「?」

 

「私は涼風さんを2度も留年させてしまいましたから」

 

 ……なるほど。涼風だけやたら艤装の扱いが上手かったのはそう言うことか。初めてじゃなかったと。試験は1年に2度実施されるから涼風はもう1年も訓練生のままなのか。

 

「今日見た感じどこも問題なさそうでしたけど」

 

「海を走る事はできます。ですが砲撃など戦闘面は・・・」

 

「あーそういう事っすか」

 

 昔カラフル姉妹達がサッカーをしているのを見た時は別段運動神経が悪い様には見えなかったけどな。

 

「候補生さん、涼風さんのことお願いしますね」

 

「……うっす」

 

 この空気ならもう指導が入る事はないだろう。だがついさっき己の危機管理の甘さを悔やんだばかりだ、この辺で自室に撤退しておこう。

 

「では俺はこの辺りで休ませて貰います。貴重なお話あざした」

 

「はい、おやすみなさい」

 

 ソファーを立ちリビングから撤退しようとした所でまた鹿島に呼び止められる。

 

「あっ、言い忘れていました。卒業後は3人の内1人を初期艦に指名して様々な鎮守府に研修に行ってもらうことになります。今から誰を初期艦にするか考えておいてくださいね」

 

 

 □ ■ □

 

 

 次の日の朝9時、昨日と同じく海上歩行の訓練を実施していた。

 

ばっしゃーーーん!

 

 相変わらず不知火は派手にすっ転んでいる。吹雪は多少慣れてきたようで転倒する頻度はかなり減ったがまだ海上を滑るというより走っているような感じでスケート初心者のようだ。

 

「不知火、ちゃんと涼風を参考にしろ。お前筋肉で無理矢理艤装をコントロールしようとしてるだろ。そんなフィジカルだよりじゃ直ぐバテるぞ」

 

「……涼風さんのやり方は不知火に合いません」

 

「馬鹿、最初は違和感があるかもしれんがちゃんと手本通りにやれ。変な癖ついて困るのお前だぞ」

 

「はい……」

 

「涼風、悪いが今日一日二人に指導してやってくれ。明日からお前は別メニューにするから」

 

「ガッテンダー……」

 

 日が暮れる頃には不知火は海上を走れる様になっていた。

 

 

 □ ■ □

 

 

 2日目の訓練終了後4人で食事を取り各自休息を取ることとなった。食事中、海上を走れる様になり興奮していた不知火が若干うざかった。

 

コンコン

 

 自室で明日からの訓練どうすっかなーと考えていると誰かが訪ねてきた。

 

「誰だ?」

 

 扉を開けた先に立っていたのは目つきの悪いやつだった。

 

「不知火です」

 

「おお、何かようか?」

 

「今日はご指導ご鞭撻ありがとうございました。お礼にこれを」

 

 渡されたのはぬいぐるみ。どこかで見たような目つきの悪さだ。

 

「……これは?」

 

「不知火のぬいぐるみ、通称ヌイぐるみです」

 

「そ、そうか」

 

 通称ができるほど巷で話題となっているでござりますか……。

 

「お礼なら涼風に渡してやってくれ」

 

「大丈夫です。もう一つ予備がありますのでこれから涼風さんに渡してきます」

 

 なんでそんなもん複数個持ち込んでんだよ……。

 

「それでは不知火はこれで失礼します。良い夜を」

 

 そう言って不知火は涼風の部屋に向かって行った。

 

「これどうすりゃいいんだよ」

 

 ヌイぐるみをどう扱えばいいか分からないが取り敢えずひっくり返してスカートの中を確認してみた。

 

「スパッツかよ」

 


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